二次創作小説(紙ほか)

Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.4 )
日時: 2015/07/05 10:44
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)

【番外編・ハルの皆の呼び方】


「ハルっちてさ。特殊な呼び方するわよね」
「あー、まあ。オブライエン氏とかレンフロ氏とか」
「なんでレオっちは呼び捨てなの?」
「それがですね。本当はウォッチ氏って呼ぼうと思ったんですが、みんながみんなレオって言ってるので……つい。あとチェインも呼び捨てですよ」
「あ、そう言えばそうねえ」
「姐さんはなんとなく姐さんですかね」
「クラっちもミスタクラウスって言ってるわよね」
「しっくり来るのがそれしかなくて」
「んー……1回皆のこと呼び捨てで呼んでみたらどうヨ?」

—後日—

「てなことがあって、ハルっちとりあえず今日は皆のこと呼び捨てで呼ぶことになったから!」
「へっ?」
「ハルっちね、皆のこと特殊な呼び方するでしょ?なんかね、ちょーっち堅苦しい呼び方もあるから1回呼び捨てで呼んでもらうことにしたのヨ」
「だからですか。ハルさんが妙に口が固いのは」
「思いっきり顔固くしてんなアイツ」
「僕は構わないけどね?面白そうじゃないか」
「アンタが口出しするのは許可してないわよスカーフェイス」
「酷いなあ」
「ま、そういう訳だから。ハルっち?」
「………ヘイ」


—レオの場合—

「レオはいつも呼び捨て」
「そうでしたねー」

—ツェッドの場合—

「えっと、その…あまり無理しなくてもいいですから」
「……」
「無理そうだったらいつもの呼び方でかまいませんから」
「………ド」
「はい?」
「ツェッド」
「………どうです?」
「やっぱりツェッド氏で」
「そっちですか」

—ザップの場合—

「ザップ。タバコの臭いがきつい」
「ナチュラルに呼んだな」
「言いやすいからいいかなと思って」
「まあいいや。下の名前で呼ばれっと変な感覚すっから呼び捨てで構わねえ」
「ザップ」
「……やっぱさんつけろ。仮にも先輩だからなァ」
「うわゲッスい!やっぱSS先輩だった!」
「拒否する」
「…………」
「ほらね?」

—チェインの場合—

「チェイン」
「まあいつもこう呼ばれてるからあまり違和感はないね」
「呼びやすい」

—番頭の場合—

「………スカーフェイス」
「誰から教わった?」
「姐さん」
「アンタはそれがお似合いよ」
「僕だけ酷くないかい?」
「何言ってんの?」
「じゃあ番頭」
「ザップか?」
「テキトーに思いつきました」
「……もうこの際だからいいか」

—姐さんの場合—

「姐さんは姐さんの方がしっくり来ますね」
「一回だけ呼んで?」
「………K・K?」
「きゃああああ!もう可愛い!!持ち帰りたい!!」
「!?」

—クラウスさんの場合—

「ミスタ………クラウス」
「………(わくわく)」
「ク………ラウス」
「………(わくわく)」
「クラウス……」
「(パアアア)」
「………やっぱりリーダーで」
「(ガンッ)」
「(クラウスさんの反応面白い……)」

—ギルベルトさんの場合—

「ギルベルト……さん?」
「お好きになさって構いませんよ」
「……ギルベルトさん」

—結論—

「苦行だった。とくに番頭」
「結局それか」
「なんとなくこっちにします」
「とりあえず呼び捨てで呼ばれてどうでした?皆さん」
「悪い気はしなかったね」
「(名前……)」
「クラウス……?」
「(ぱああああ)」
「とりあえず、これからは呼びやすい名前でいいわヨハルっち!」
「………はあ。そうさせていただきます」

結果
レオ&チェイン→そのまま
ザップ→呼び捨てタメ
ツェッド→呼び捨てタメ
K・K→姐さん
スティーブン→番頭
クラウス→リーダー(たまに呼び捨て)
ギルベルト→ギルベルトさん
ソニック→そのまま



《黛巴瑠の》

「ねえ、知ってるー?」
「何何?」
「実はさ、最近真夜中に、この街を徘徊してる人間がいるんだって。全身真っ黒の」
「何それー!怖ーい!」

という会話を小耳にした今日の電車内。生還率は47%だそうだ。そんな中でそんな話を聞くと、まあ少しぞっとするようなしないような。だけど真夜中に真っ黒い人間を見るなんて相当目がいいんだな、なんて思ったりしてしまう。見た人は僕並に目が良かったりしてとも考えたりするが、流石にそれはないという結論に至りその考えを消す。それよりも今日は、ハルさんが何かこっちでは珍しいものを持ってくる、なんて言ってたけど———


「お、来たか少年」

本部に行くと、既にほぼ全員揃っていた。ただ少し違和感を感じる。ぐるりと見渡してみるとすぐにわかった。ハルさんの服装がいつもと違うからだ。いつもは落ち着いたカジュアルスタイルで三つ編み、それにスニーカーとかそんな感じの服装なのに、今日は見たこともないような綺麗な服——と言っていいのだろうか——を着ていた。日本のいう『キモノ』とはどこか違う感じで、何と言うか…『キモノ』であって『キモノ』じゃないというか。なんだか良く分からない。靴はそれに合うような一昔前の靴を履いていた。髪型は三つ編みじゃなくて後ろで綺麗に1つで括られている。そして頭の髪飾り。あれは花?僕がハルさんをじっと見ていると、それに気づいたのかハルさんは顔だけ僕に向き直る。

「気になる?」
「え?ああ、まあ。そりゃあ。キモノ着てたら」
「着物じゃないよ。これは袴」
「『ハカマ』?」

初めて耳にする言葉だ。ハカマって、キモノとどう違うんだろう。

「袴は動きやすいんだよ。着物と違って。まあ袴は元々動き回る人がよく来てたからね。それこそ弓道とかやってる人なんか。着物は今の日本じゃ、卒業式とか新年を迎えた時によく着られるかな。袴は剣道とかキ弓道とかやってる人がよく着る」
「それで、こっちじゃ珍しいものを見せるってそのハカマのことですか?」
「いや、これは仕掛けられたの」
「へ?」
「仕掛け?」

ほぼ同時にツェッドさんと僕が声に出す。仕掛けってなんだ、何を仕掛けられたんだ?

「昨日旧知の友人が|HL《ヘルサレムズロット》に来てさ、私の部屋に入り込むなり、『こっちにいる間は袴で暮らしてみたら?』って言ってきて。部屋にあった私の普段着全部持ってって代わりに袴を大量に置いてった。昔から突飛なことをする奴だったけど、まさかここまでなってるなんて思わなかったよ」
「それで三つ編みやめたの?」
「いや、これはやられた。その友人に」

友人さんすげえ。頑ななハルさんを袴にさせてなおかつ三つ編みじゃなくてストレートにさせるなんて。でもそれだけその友人さんはハルさんと仲がいいのだろう。というかそこまで仲がいい友人さんを見てみたい気がする。

「なるほど、だから今日|HL《ヘルサレムズロット》にいかにも日本人な女性がいるって噂が流れてたのは」
「噂に流れるまでになってましたか…」
「そりゃあその格好で彷徨いてるんだ。噂にならない方がおかしい」

ん?噂?そう言えば今朝のあの会話、まだ話題にのってないな。あの『真っ黒い人間』の話。こっちはまだ誰の耳にも入ってないのかな。ちょっと口に出してみる。

「そういえば今朝電車乗ってるときに小耳にした話があるんですけど。真夜中にHLを徘徊してる『真っ黒い人間』がいるらしいんですよ。どうにも服も帽子も真っ黒っていう」
「あーその話ね。アタシもちょっとだけ聞いたわ。あれ本当なのかしらねー」
「そもそも真夜中に真っ黒い人間見たっつーほうがおかしいっすよ。真っ暗闇の中真っ黒い人間見えるかっつー話になるわけなんだが」
「それ僕も考えました。一体どういうことなんでしょうね」
「見えていたら余程の猫目の御方なんでしょうな」

わいわいと討論が始まる。皆が口々に自分の意見を発表する中、一人だけ苦々しい顔でこの討論を聞いている人が居た。そう、ハルさんだ。ハルさんは若干冷や汗を垂らしながらその話を黙って聞いているだけだった。たまにぼそっと何かをつぶやくこと以外は、全く討論に交わらなかった。もしかして知ってる人なのかな?

「ハルさん?」
「っ、あ、ごめん。つい。ねえ、話戻してもらってもいいかな?その、珍しい物の話。たくさん持ってきたからさ」
「お、見る見る」
「どんなのがあるんです?」
「んー、これとかかな。『けん玉』」

皆がハルさんの所に群がってわいのわいの盛り上がる。ケンダマなるものをぶんぶん振り回すザップさんや、ニホンニンギョウなるものを愛でるK・Kさん、ハナフダなるもので遊びはじめるツェッドさんとか、見ていてこっちも楽しくなってくる。だけど僕は、ハルさんの口から漏れた言葉を聞き逃さなかった。日本語じゃなくて英語でつぶやいていたその言葉を。


「来やがったか……」

Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.5 )
日時: 2015/07/11 18:54
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)

「来やがったかって、誰がです?」
「誰かさ」

そう聞くと、ハルさんはそっけなく答えて後は何も答えてくれはしなかった。それほど嫌な人が来たのだろうか。良く見たら真顔を保っているように思えて若干口元が苦い物を食べたかのように、不自然なほど引き締まっている。手元は異常に力が入ってるし、目元は微かに不自然に動いている。時折歯の奥からギリギリする音も聞こえる。ここまで嫌そうな反応は見たことがない。ハルさんの嫌いな相手がその噂の主だったのか。まあ分からないんだけど。というか嫌いなのかどうかも分からないけど。

「」

口をパカッと開けると何も言葉を話さずに口を閉じる。何か言ったのかな。それとも単なる口パクだったのか。本当にこの人はたまに良く分からない。いやたまにじゃない。いっつもだ。何考えてるのかもわかんないし、行動の意図も読めないし。本当にわからない。
ふとハルさんは唐突にスマフォを取り出した。何かを弄ると、スマフォを耳に当てた。電話だろうか。

「」

どうやら繋がったようで、英語ではない言語で話始める。もしかして相手は日本人なのかな。たまに口調が荒っぽくなっていた。そして所々に恐らく罵詈雑言の類であろう言葉をも含まれていた。いや相手は一体誰なんだ?

「」

荒々しく電話を切ると、スマフォをしまい、椅子にもたれかかる。顔はずいぶんとねむそうで、まぶたがさっきから開いたり閉じたりしている。相当なにかで疲れてるんだろうな、と、僕は勝手に推測する。

「あ、番頭」

ふとハルさんはスティーブンさんの方に顔を向けて話しかけた。

「真っ黒い人間の噂話、私が引き受けます」
「いいのかい?僕はてっきり『他の人に任せる』なんていうと思ってたけど」
「どうにも、引っかかるんで」
「そうかい?ならとりあえず頼もうか。しかし噂話だからなあ。信じて調査に乗り出すのもと思っていたんだが」
「多分………噂の主は———」

といいかけたところで、ハルさんは眠りに落ちた。スティーブンさんが話を続けないハルさんに気付いて近づいた頃にはもう時すでに遅し、寝息を立てていた。腕は丸投げにして少し無理な体勢で寝てしまっていた。
すぐにギルベルトさんがブランケットを持ってきて掛けた。ちなみにそのハルさんの隣にソニックがこっそり寝ていたりする。気持ちよさそうに寝ていた。

「ここ最近疲れてたのかしら」
「そうですね、徹夜で街の見回りとかやってましたから」
「元々夜行性だったんですかね」
「そんな風には見えなかったけど…もしかしたらその夜行性なのかしらねー」

K・Kさんとツェッドさんとでそんな話をしている時に、チェインさんはハルさんの頬をぷにぷにつついていた。そしてそのあとで「ナニコレ柔らかい」と小声で呟いていた。

「そういえばあと小耳に入ってきた話がもう一つあるんですけど」
「何ですかレオ君」
「その真っ黒い人間は、刀のような武器を持ってたって」
「刀?どんな刀とか言ってたか?」
「そうですね、確か細身で長い刀、とは言ってましたけども」
「細身で長い刀ねえ…」

そんな刀で相手を切れるのかなとか思ってしまう。細身で長い刀と言ったら脆そうなイメージがあるけれども、そこらへんはどうなんだろう。

「恐らくその噂の主は、居合術の使い手だろう」
「イアイジュツ?それなんですかクラウスさん?」
「私も聞いただけなのだが……どうにも刀を完全に抜かずに相手を切る、とだけ。それが本当なのかは分からないが……聞いたことがあるのはそれぐらいしかない。後はせいぜい、それを使う刀はよく細身で長い刀としか」
「居合術…なあ」

珍しくザップさんが興味を示す。やっぱり刀のこととなると敏感なんだなあ。自分の武器が刀だけあって。

「ともかく、その噂の主は少女が見つけてくれるわけだ。俺らは他の仕事をとかすぞ」
「はい」

スティーブンさんがそういったことにより、僕たちはほかの仕事へと向かうことになった。仕事に行く前に、寝てたハルさんが寝言を言っていたような気がするけど、なんて言ってたのかは分からない。なんたって日本語で寝言を言ってたからね。


「帰ってくれ……師匠……お願いだからさあ」

Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.6 )
日時: 2015/07/11 18:57
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)

ひんやりとした夜。少し静かなこと以外はほとんど何も変わらないこの街。そんな街に、私は一人ふらふらと歩いていた。途中なにか絡まれたりもしたが、そこはとりあえず|頭脳流出《ドレインブレイン》でくぐり抜けた。まあ簡単に言うと、脳みそとっただけ。厄介なやつは殺すしかなかったけど。とにかく私はすこしひんやりとした空気の漂うこの真夜中のヘルサレムズロットを、一人で歩いていた。目的は、そう噂の主探し。どうにも引っかかる部分と、もしかしたら来てるかもしれないという怒りにも似た呆れを持って、私はこの話を引き受けた。番頭は少し意外そうな顔をしていたけど。

「にしても。随分と突然だなあ」

ほう、と息を漏らしながら誰に当てるでもなく呟く。突然というのは、その私があらかた予測をしている噂の主のこと。突然にやってきて突然に現れる。それがその噂の主の特徴だった。真っ黒い服に真っ黒い帽子、それに細身の長い刀といったら、私の身の回りで思いつく人間が一人いた。多分今回の噂の主はその人であろう。私はそう推測してこの街をさっきから練り歩いていた。けれど練り歩いて約2時間。ちょいと眠くなってきた。

「コーヒー持ってきててよかったなあ」

私は巾着に入れていたあっためておいたコーヒーの入った水筒を取り出す。こういう時便利よな、水筒って。とくに日本以外のほとんどの国は自販機にお金入れたら高確率でお釣り来ないし、水道の水は飲めないから、日本の技術力には頭が下がるばかりだ。私は水筒の口をあけ、一口飲む。少し酸味の強いコーヒーだったためか、少しばかり目が冴える。もう一口飲もうと思って水筒を口につけた時だった。

目の前にその噂の主、『真っ黒い人間』が現れた。

お店の光などでぼんやりとだがその姿を確認することができた。うん、確かに全身真っ黒だ。そのままじっと見ていると、向こうもこっちに気づいたのか、少し顔をあげてこちらを見てくる。すると、その真っ黒い人間は少し笑って、こう声をかけてきた。

「———やあ。何日ぶり?」

私はそこで確信した。この気だるい声、聞きあきた声。間違いない。コイツは。

「約10日と13時間ぶりだよ。『師匠』」

私をヘルサレムズロットの上空から落としやがった張本人で、私の師匠、『錦織 郁(カヲル=ニシキオリ)』だ。本当に来やがった。さっさと帰ってくれないかな。そんなことを思う私をよそに、師匠は帽子を外し、その素顔を久しぶりに見せた。
おかっぱ頭で黒髪。少しつり目の黒い瞳。そしてすかしたような顔。正直、見たくなかった顔だ。男の癖にやたら顔が女っぽいから。見ていてこちらがムカついて殴りたくなる。

「随分と慣れたんじゃないの?この『ヘルサレムズロット』にさ」
「まあね。でもまさか師匠がリーダーと面識があったなんてね」
「これでも顔は広いほうさ」

以前師匠は前にこのヘルサレムズロットにきたことがあるらしい。そこでちょうどなんかの事件に巻き込まれて、一人で戦ってたところにリーダー——ミスタクラウス——に出会って。そこから2人はいろいろと趣味を共用しあったり、時にはお茶会に招待されてちょくちょくこっちに来てたりしてたらしい。それで私が高校卒業時、進路をどうしようかと迷ってるときに、師匠がリーダーに連絡して見事に就職先が見つかった、という訳。まあいわゆるコネのようなもので私はライブラに入ったわけなんだけども。だからといってこっちに来るときに空から落とすのは勘弁願いたい。

「どうよ?ライブラは」
「居心地はいいよ」
「仲間とはよくやってる?」
「そりゃもちろんね」
「そうかー。なら僕もこっちに来た甲斐があったよ。実は明日ライブラに行くんだよね」
「は?」

師匠のいきなりの発言に私は思わず口をぽかんとさせた。明日師匠がライブラに来る?それはつまりどういうことで?

「ちょいと、見に行ってみたかったし」
「何言ってんだアンタは」
「弟子が普段どういう所で仕事してるのかーとか、どんな仲間がいるのかーとか気になるし」
「許可は?」
「取得済み!」

そう言って笑顔で、リーダーとの手紙のやりとりてあろう紙を私に見せつける。良く見ると確かに、「来ていいよ」的なことが書かれてあった。私はため息を盛大に吐き、頭を抱えることしか出来なかった。そんな私の目の前で師匠はニヤニヤしながら私を見てくる。うざい。ちよっといらっときた。ので。

「『Operation起動』」
『イエスマム』
「『|74絶対弾丸道《セブンフォー:アブソルートバレット》』」
「えっ?」

八つ当たりをすることにした。

「『|惨殺弾《カルネージ・ショット》』」
「ちょ、やめ」

次の瞬間、目の前には無様にありとあらゆる部位から血を流している真っ黒い人間がいたりするのであった。すっきりした。


—翌日—


「おはようございますあの野郎殺す」

いつもより物騒な挨拶でハルさんが出社してきた。今日の袴は白がメインで、袖の部分に控えめに花があしらわれていた。それだけでも上品な印象を与える。なんだけども挨拶でその印象が見事にぶち壊される。言葉ってすごいなあ。髪型はいつもの三つ編みに戻っていたけれども、頭に髪飾りをしていた。ボタンという花だった気がした。そんな花を髪飾りにしていた。

「おはようございます、何があったんです?」
「推測通りだったからだよ」
「へ?」
「推測通りというと、真夜中に現れる真っ黒い人間の正体かい?」

スティーブンさんがそう言うと、ええと頷きながら椅子に座った。持っていた巾着という袋からスマフォを取り出し、何かをいじる。そしてその画面を僕たちに見せる。その画面に僕とスティーブンさんが注目する。ちなみにこの場にいるのはスティーブンさんと僕、それにクラウスさんとギルベルトさんだけだったりする。

「…………この人は誰ですか?なんか、死んでそうな感じで倒れてますけど」
「師匠」
「え?」
「私の師匠だった。推測通りだったよ」
「本当かい?カヲル氏が来てたのかい?」
「現にいますよ。そこに」
「えっ」

後ろ指を指され、振り返ってみるとそこにはクラウスさんと楽しそうに会話をしている人物の姿があった。真っ黒い服に、真っ黒い帽子。そしてその服の下からはみ出ている刀が目立っていた。あれ、もしかして。

「あの人が、ハルさんの師匠さんですか?」
「そ。びっくりしたよ、リーダーと面識があるなんて」
「まさか……いや本当だ。カヲル=ニシキオリ氏だ。久しぶりに見たなあ」
「あったことがあるんですか?」
「ああ。クラウスと共にあった事がある。かなり前の話だけどね」

そういうなり、スティーブンさんはさっさと2人のもとへと駆け寄り、談笑に混じった。時折いろいろと突っ込みたい話も聞こえたが、そこはあえてスルーしておく。というか男だったのか……女だとてっきり。

「というか、なんであんな嫌そうな顔してたんです?」
「んあ?」
「ほら、昨日来やがったかって」
「………」

純粋に気になった質問をハルさんに投げつけると、ハルさんは少し考えたような態度をとって、しばらくしたあとに口を開いた。

「顔を見てると殴りたくなるから」

その後、師匠さん——カヲルさん——は、将棋でハルさんに挑み、無様に完敗することになった。
そのあとには、チェスでスティーブンさんとクラウスさんにフルボッコにされていた。ハルさんさんはそんなカヲルさんを見て、ざまあとつぶやいていた。どうやらカヲルさんはそういう類のもの——オセロは除く——に弱いようで、いつもハルさんに負けていたりするのだそう。そこまで弱いかなあと思いつつ、素人の僕がカヲルさんにチェスで挑んだところ、ものの1時間で僕がチェックした。


カヲルさんはこっそり泣いていたという。


《黛巴瑠の》・終