二次創作小説(紙ほか)
- 102時間目 新学期スタート〜さらば我らの聖典よ〜 ( No.1 )
- 日時: 2015/07/17 21:37
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
教卓の前で腕を組み、静かに自分たちFクラス生徒一同を見ているのは担任の先生の西村先生。その西村先生が睨むように見ているのは、クラスでただ一人立ち上がっているクラス代表の坂本雄二くんこと、ゆーさん。
クラス一同が静まりかえる中、ゆーさんはただ一人西村先生に諭すように話し始めました。
「西村先生。知的好奇心を育むには、具体的な目標が必要だと思わないだろうか?」
まるで西村先生の心に語りかける様に語りかけるゆーさんは、黙ってそのゆーさんの演説を聞いている西村先生の態度に満足そうにニヤリとしながら続きを語ります。
「古今東西、科学技術の発展の裏側には、必ず戦争の影が存在した。鉄が生まれたのは工業の為ではなく剣や鎧を作るためであり、馬が飼育されたのは農業の為ではなく騎兵の生産の為だ。近代で挙げるとしたら、核技術の発端だって戦争だと言えるだろう」
「…………」
西村先生は無反応のようです。それにしてもホントゆーさんって、指導者や指揮官に向いてますよね。自分を含めクラスのほとんどの皆さんがゆーさんの一言で一喜一憂しますし、人の心を動かすのが上手い証拠でしょうか。
「科学技術の発展という明るい結果が生まれる背景には、人間同士の戦争という暗い過程が存在し続けてきた——とまで言うと、流石に言いすぎかもしれない。が、戦争という危険だが明確な目的を持つと、その度に科学技術は飛躍的な発展を遂げてきた。これは残念ながら紛れもない事実だ」
「…………」
傍から聞いているだけですが、ゆーさんってディベートとかディスカッションとか得意かも。興味を惹かれる話術は聞いているだけでも楽しいですものね。ただ———それでもやっぱり西村先生は無反応です。
「本来、科学技術の発展というのは知的好奇心を原動力として発生する。それは古代だろうが現代だろうが、どのような時代であっても変わらない」
「…………」
「だがその原動力によって効率的に結果に結びつくのは——過去の事例を見る限り、『戦争の勝利』という闘争本能に根ざした『具体的な目的』が存在する場合が多いと言える」
「…………」
「別にだからと言って戦争が必要だと言っている訳じゃない。戦争というのは多くの死者を出し、それは『同種族を殺す』という生物にとっての最大限のタブーを犯している続ける愚行そのものだ」
「…………」
「だが、それが愚行であっても、そこから学びとれるものは少なからず存在する。それは『知的好奇心は具体的な目標を持つことで、より良い結果へとつながりやすい』という事実だ。———ここまで言えばあとは先生には分かってもらえると思うが」
と、ゆーさんがそこまで言い終わったのち、西村先生が初めて動きを見せます。
「……坂本、お前の言わんとしている事は伝わってきた。確かにお前の言う通り知的好奇心は目的の有無でそのあり方は変わってくる。それはその通りだ……だが———」
一旦大きく息を吸い込みそして一気に吐き出して、固く組んでいた腕組みを解き自分たち全員に聞こえるようにハッキリと宣言します。
「————だが、没収したエロ本の返却は認めん」
「あはは。ですよねー」
『『『『ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』』
- 102時間目 新学期スタート〜さらば我らの聖典よ〜 ( No.2 )
- 日時: 2015/07/18 09:34
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
あの楽しい夏(海水浴に夏祭り。先生方が家に遊びに来たり大変でもありましたが)が終わり、いよいよ待ちに待った新学期。新しい学期に胸躍らせる自分たちを待ち構えていたのは———楽しい楽しい先生方の持ち物検査。
そう始業式の翌日、早々に持ち物検査があり大事な私物を失ったであろう級友たちはみな涙を流していました。それは演説していたゆーさんも、援護していたアキさん&こーさんも例外では無いようです。
「どうしてですか西村先生!さっきの雄二の演説を聞いたでしょう!?僕達が『保健体育』という科目の学習に対する知的好奇心を高めるためには、『エロ本の内容の理解』という本能に根ざした具体的な目標が必要なんです!」
「学習しなければ理解できんほどの高度なエロ本を読むな吉井。お前は何歳だ?」
「…………知識を求める心に、年齢は関係ないっ!」
「よく見ろ土屋。ここにR−18と書いてあるだろうが。そもそもその年齢に達している月野はそんなもの持ってきておらんぞ」
「あんまり興味無いですからねー……と言いますか、学園に持ってきちゃ色々と不味いですし。校則的にも、そして倫理的にも」
「まあ、こやつらじゃしの……宿題を持って来ずとも、エロ本だけは持ってくるその精神は別の方向に向けるべきじゃと思うのじゃが」
溜息を吐く西村先生と、苦笑いのヒデさん&自分。と言いますか、よくもまあこんなに多くの……その、成人指定の本を学園に持ってきましたね?……若さゆえの何とやらでしょうか?
『お願いします、西村先生!僕らにその本を返してください!』
『僕らには——僕らには、その本がどうしても必要なんです!』
『お願いです!僕たちに、保健体育の勉強をさせてください!』
『西村先生、お願いします!』
『『『『お願いします!』』』』
ゆーさんやアキさんこーさんの必死の抗議を援護すべく、自分とヒデさんを除く全Fクラス男子が一丸となり西村先生に向かって90度で頭を下げます。事情を知らない人が見ればちょっぴり昔のドラマを彷彿させるシーンを見せてくれる我ら愉快なFクラス。そしてそんな皆さんを呆れ返った目で見る苦労多きFクラス担任の西村先生。
「黙れ。一瞬スポ根ドラマと見紛うほど爽やかにエロ本の返却を懇願するな」
「懐かしいですねー、母や日高先生がよく見せてくれましたよ」
「ワシも演技の勉強の為にたまに見るぞい」
「あれくらい爽やかなクラスだと、俺も良かったんだがな。俺が目指した理想のクラスは所詮幻想だったようだ」
『『『『鬼っ!悪魔っ!!鉄人っ!!!』』』』
あはは……まあ、そもそもそんなちょっぴりアブナイ成人指定の本の返却は認められるとは思いませんでしたし、思えませんが……それでもやっぱり中身がどうあれ青春真っ只中の皆さんにとっては大切なものだったらしく、無慈悲な先生の一言に大いに涙します。
「くっ……それならこう考えてくみてれませんか?」
「だからなんだ吉井。これ以上は下らない演説に割く時間はないぞ」
そんな彼らの想いを胸に抱き、最後まで諦めない意思を持ち食い下がる自分の大事な友人の一人のアキさん。
「そうあれはエロ本じゃなくて———保健体育の不足分を補っている参考書だと」
「惚れ惚れするほど凄い理論ですね、アキさん」
「ある意味ここまで言いきった明久は賞賛してしまいそうじゃの」
「月野、木下。あのバカの言うことは参考にしないように。全員きちんと準備して授業に臨むことだ。これにて朝のHRを終わる」
ある意味素敵なビックリ理論をアキさんがぶつけるも先生は取りつく島もなく、さっさと職員室へ戻ろうとします。先生のその態度にどうやらカチンときたアキさんたちご一行はと言うと。
「ええい!こうなりゃ実力行使だ!僕らの大事な参考書(エロ本)を守るため、命をかけて戦うんだ!」
『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』』
アキさん、ゆーさん、こーさんを筆頭に鞄・椅子・机・モップ・上履きその他諸々手に取って、教室を後にしようとする先生を取り囲みます。さ、流石アキさんたち……やることなすこと予測の範囲を軽々と棒高跳びで超えていきますね……
「ちょっ!?皆さん落ち着いて————」
「やれやれだ……月野、それに木下、姫路、島田。お前たちはちょっと教室から出ているんだ」
そう言って、自分たち四人を安全面に考慮して教室から避難させる西村先生。そして———
『全員かかれ———っ!』
『『『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』
『良い度胸だキサマら、かかってこい……シメるついでに夏休みで緩んだ頭のネジをキッチリ締めなおしてやる』
———アキさん率いる(自分とヒデさんを除く)Fクラス男子VS西村先生の闘いが勃発する事態に。ほ、本当にいつも通りの(非)日常なわけですね……
〜しばらくそのままでお待ちください〜
- 102時間目 新学期スタート〜さらば我らの聖典よ〜 ( No.3 )
- 日時: 2015/07/17 21:45
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「あの野郎絶対人間じゃねえ……!」
「だよね……。どうして47人の男子高校生を相手にしてたった一人で戦えるんだろう……?」
「…………もはや人間兵器レベル」
10分後、アキさんやゆーさん、こーさんは物の見事に返り討ちにされたご様子。その他西村先生に立ち向かった男子生徒の呻き声も聞こえてきます。相変わらず先生はお強いですね〜♪しかも怪我を絶対させないように上手く対処しているからまた凄い。
「アキたちってこういう時は凄い結束力を発揮するわよね……」
「すごい結束力って、そんなに統制が取れてた?」
「統制って言うより……どうしてクラスの男子全員が、一人残らずその……ああいう本を持ってきてるのよ?」
そう言って呆れたような顔をしているのは島田さん。顔がちょっぴり赤いのは、多分アキさんたちが持ってきた成人本の表紙を見たからでしょうね。
…………あれ?それはともかく、島田さん?
「ちょっとストップです、島田さん。男子全員……?自分とヒデさんは持ってきていませんが?」
「そうじゃの。ワシらが男子としてカウントされておらぬように聞こえるのじゃがの?」
「へ?……いや、木下も月野も何言ってんのよ?アンタら女の子に興味があるの?それにそもそも月野はまだまだ早すぎるでしょうに」
「「…………」」
…………あの、これ何度目になるのか数えるのも辛いのですが。ヒデさんも自分も男子ですし、一応自分は年齢的には皆さんより年上で普通自動車の免許も夏休みの間に取得していて、尚且つアキさんたちが持ってきたであろう成人指定の本も一応は読めるのですがね?やっぱり日に日に誤解が深まっている気が。
「まあ、それはともかく色々と男子には男子の事情があるんだよ」
「あんな本を全員で持ってくる事情って一体……?」
「没収されたのは仕方ないと思います。その……明久君にはああいった本は……その……早いと思いますから」
と、こちらも赤い顔をしている姫路さん。確かに姫路さんの言う通りまだ早いですよね。ところで姫路さん?それに島田さん?こっそりと……
『それに明久君には私と美波ちゃんで……』
『ゆっくり教えてあげるからいいのに……』
……って聞こえた気がしたのは気のせいですよね?まあ、あんまり深くは考えないようにしておきましょう。これもはやツッコんだら負けな気がします。
「うぅ……そうは言っても納得いかない……」
「まあ、確かに持ち物検査なぞ、久しくやってなかったからの。油断するのも無理からぬ事じゃ」
「確かにそうよね……ウチも実は細々したものを没収させられたもの。DVDとか、雑誌とか、抱き枕とか……」
「美波ちゃんもでしたか。私も色々と……CDとか、小説とか、抱き枕とか……」
……抱き枕?何故にそのようなものを学園に……?最近この二人の思考が、どことなくサクヤさんや優姉さんに似てきたような気がするのは気のせいではなさそうですね。
「なんだ。島田も姫路も没収させられてたのか。んじゃ、秀吉や造もか?」
「いや、ワシはともかく造は無かろうて。校則違反なぞこやつはせんじゃろうしな。……ワシは演劇に使おうと思っておった小物の類をの。運の悪い事に携帯ゲーム機じゃったわい……」
あ、そう言えばヒデさんの今度の劇の演目は、確か現代ものでしたね。ゲーム機はその小道具みたいです。高価なものでしょうにヒデさんも災難でしたね。
「あ、ヒデさん。信頼してくれているのは嬉しいのですが、自分も例に洩れず没収されましたよ?」
「「「「「「ええっ!?造(月野)(月野君)が!?」」」」」」
何この反応……
「な、何でそこまで驚くのですか……?自分も人間ですし、やっちゃいけない事もやりますよ……?」
「「「「「「…………」」」」」」
皆さんどれだけ驚くのですか……てか、自分はどんな風に思われているのでしょうね?一応自分、これでも去年も今年も色々アウトなことやらかした観察処分者な問題児なんですがね……褒められることではないですが。
- 102時間目 新学期スタート〜さらば我らの聖典よ〜 ( No.4 )
- 日時: 2015/07/17 21:50
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「そ、それで!?何を没収されたのさ!?」
「慌てないでくださいよ。大したものでは無いんです。この前の旅行の時の写真と……向日葵の種と写真立てを、ね?」
「この前の写真はわかるが……向日葵の種に写真立て?何に使うんだ?んなもんを」
あはは……まあ、気にしないでくださいね?
「まあ、造のはそこまで問題にならないんじゃない?鉄人に交渉すればわかってくれるかもよ?」
「いやー……自分もあれは休みの日に持ってくれば良かったですから。しょうがないですよ」
それに流石に一人だけ返して貰うのも気が引けますもの。ここは我慢するしかないでしょうね。
「全く、造は真面目だね。ハァ……それにしても被害は甚大だよ……」
「その様子じゃ明久は写真集以外も没収されたようだな?」
と、酷く落ち込んでいるアキさんにゆーさんがそのように尋ねます。あら?もしかして何か他に没収されたものが?
「えーと……(保健体育の)本でしょ、CDでしょ、あと……(今日買った瑞希と美波の写っている)旅行の時の写真……かな?」
「ふむ……造の件といい明久の件といい、写真まで没収なぞ……教師陣も容赦ないのう?」
「うぅ……今日ムッツリ商会で買ったばかりのまだ見ていないものなのに……」
そう言って涙を浮かべがっくりと項垂れるアキさん。あらら……アキさんもかなり落ち込んでいますね。まあ、朝聞いた話しだと姫路さんと島田さんの写真が入っていたそうですし……お二人にホの字なアキさんはそりゃ落ち込むのも無理はないでしょうか。
「残念です……折角(特別仕様:秋子ちゃんの)抱き枕で眠るのすっごく楽しみでしたのに……写真も……」
「ウチも……今夜は良い夢を見れると思っていたのに……」
…………そして思考がアキさんよりちょっぴり上のこのお二方。えっと。聞かなかった事にしておきましょうね。ツッコむのもしんどいです、はい。
「てか、そう言う雄二は本以外に何没収されたのさ?」
「俺はまたMP3プレーヤーだ。一昨日に出た新譜を入れておいたのに、全部パアだ。クソッ!」
あはは……あんまり詳しくないんですが、それってヒデさんのゲーム機以上にお高いんですよね?ゆーさんも災難でしょうね。
「…………持ち物検査の警戒を完全に忘れていた……」
「って、待った!?む、ムッツリーニ……まさか、ムッツリーニも……?」
と、青い顔のアキさんが同じく青く沈んでいるこーさんに恐る恐る尋ねます。あれ?何故でしょう、今のこーさんの一言が更にアキさんのお顔を青くしたような……?
「…………(コクリ)カメラは全て。データの入ったメモリも全部没収されたから当分再販も出来ない」
「「「ええっ!?」」」
先ほど以上に絶望しきった声のアキさんと姫路さん&島田さん。その声はまるで地獄を見たかのよう。
「どういう事さ、ムッツリーニ!いつもきちんとバックアップを取っているんじゃないの!?」
「そうですよ土屋君!どこかに予備データは残っていないんですか!?」
「本当は家のパソコンを探せば出てくるわよね!?」
「…………バックアップはある。しかしサルベージに時間がかかる」
「「「そ、そんな……っ!」」」
思わず床に手を付いてしまうほど、ショックを受ける三人。アキさんは姫路さんと島田さんの写真を、姫路さんと島田さんはアキさんの写真を大事に大事にこーさんから高額で買い取っているだけに相当ダメージを受けているご様子。……ホントこの三人ってお似合いですよね……
『おい、聞いたか?』
『ああ、再販が未定とは……!姫路や島田や木下や造ちゃんのレアな浴衣姿などがお預けなんて死にも等しい苦行だぜ……』
『それだけじゃない。霧島に工藤に木下姉にあの養護の日高先生。おまけに知らないお姉さんまで写っていたらしいぞ……!それを見られないなんて……!俺はっ!俺は……っ!』
アキさんたち並みに、こーさんの発言に衝撃を受けるのはFクラス男子クラスメイト。持ち物検査でお通夜ムードだった教室が、更に酷い状況へとシフトしました。おかしい……教室自体は改装され以前よりも設備を整えたはずの新しく綺麗な教室内が、黒く……そうドス黒い空気が充満してきた気がするのですがこれは一体……?
- 102時間目 新学期スタート〜さらば我らの聖典よ〜 ( No.5 )
- 日時: 2015/07/17 21:54
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「さて……こうなったら雄二。“やる”?」
「は?アキさん?何をするんですか?」
そんな空気を払うかのごとく、突然復帰したアキさんが目をギラギラさせてゆーさんに向かって立ち上がり話しかけます。ハテ?何をする気やら……?
「愚問だな……勿論やるに決まってんだろ」
「…………俺もやる。お前らだけに戦わせはしない」
そのアキさんの言葉に応じてゆーさんとこーさんも立ち上がります。いいえ、それどころか……
『待ちな、お前ら!』
『俺たちを忘れて貰っちゃ困るぜ!』
『へへっ……俺たちゃ仲間だろ?』
西村先生に倒されたクラスメイトの男子(自分とヒデさんは除く)が一斉に立ち上がります。彼らの目には、等しく決意に満ちた炎が見えるようです。
「えっと……皆さん燃え上がるのは良いのですが、どうする気でしょうか?」
「……造、恐らくじゃが————」
と、ヒデさんが白けた目でアキさんたちを眺めて、わかっていない自分に説明する前に……
「行くぞ、お前らっ!こんな横暴を許したら今後の学園生活に支障が出るっ!教師共———特に鉄人が出払った昼休みに職員室へと忍び込み、俺達の夢と希望を取り戻すんだ……っ!」
『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』』
「————こんな事じゃろうな」
「ちょ!?ゆーさん!?それに皆さんも!?」
…………夏休みボケでしょうか。久しぶりに、Fクラスの底力を目の当たりにして、呆れるやら、ある意味納得するやら。殺気立つ皆さんのテンションに押されながらも『落ち着いて』と、自分がなだめようとすると———
「あ、あのっ。皆さん落ち着いて下さいっ!」
……先に姫路さんに皆さんを止めて貰いました。おおっ!最近ちょっと壊れ気味でしたが、姫路さんも何だかんだでやっぱり常識人!率先してアキさんたちを止めに入ります。
「……ふぇ?瑞希、どったの?」
「明久君、坂本君、それに皆さんも……やっぱりそういうのは良くないと思うんです!」
「そう言うのって……職員室に忍び込もうとしている事?」
「……はい」
姫路さんのその一言に、皆さんちょっと頬を掻いて気まずそうにしています。
「でも、そうでもしないと没収品は戻ってこないよ?瑞希も没収された大事な物を取り返したいでしょ?」
「そ、それはその、返して貰えるなら返して欲しいですけど……でも学校のルールを破っちゃったのは私自身ですから……」
「まあ、瑞希の言う通りよね。元々ウチらが校則違反をやっちゃってるのが原因なわけだし。その罰に納得いかないからって、問題を起こすのは……」
「ですね。ここは一旦諦めるしかないですよ。どうしても納得いかないなら後日先生方に掛け合いましょう、ね?」
「そもそもお主らのは……学園に持ってきて良いものでも無ければ、まだ手にしてはならぬものじゃろうしの……」
ここまで言うと、皆さんとても気まずそうにしています。ふむ、これなら上手く説得できそうですね♪
「そうやって職員室に忍び込むのってダメだと思うんです……やっぱり、狡いと思います……」
姫路さんの最後の一言で、皆さんハッ!と気が付いたようです。ふふっ♪良かった良かった。姫路さん、お手柄ですね!
「……雄二どうしようか?そう言われてみると、忍び込むのはなんだかちょっと……」
「あ〜……どうするも何も……。姫路と島田。それに造と秀吉にまで言われたら、流石に考え直すしかないだろう」
うんうん。その通りです。忍び込むなんていけない事です(←以前教頭の部屋に忍び込み、奴の悪事の証拠を漁っていた問題児の発言)
「明久君、坂本君。それに皆さん……分かってくれたんですね?」
「ああ、姫路たちの言いたいことは良くわかった。つまりはこういうことだろう?」
と、先ほどの台詞を挽回するかのように、ゆーさんは高らかと……
「———こそこそ忍び込んだりせず、鉄人を殺って堂々と奪い取れ、と」
「「「「全然違いますからね(違うわよ)(違うぞい)!?」」」」
「ってことだ!皆!女子に無様な姿を見せていられないよっ!僕らの男のプライドに掛けて、正面から正々堂々奪い返そうっ!」
『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』』
…………その後、自分たち四人の説得を聞かずに職員室急襲を決行したアキさんたち。もうツッコミませんが……とりあえず皆さん、正々堂々の意味を辞書で調べましょうね?
- バカな自分は召喚獣? 〜一学期編〜リンク ( No.6 )
- 日時: 2015/07/17 22:28
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=24530
上記URLにて、序章〜4章の【バカな自分は召喚獣? 〜一学期編〜】に飛べるようになっています。こちらもよろしくお願いします。
- バカな自分は召喚獣? 〜夏休み編〜リンク ( No.7 )
- 日時: 2015/07/18 02:34
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode=view&no=10210
こちらの上記URLは5章〜5.5章【バカな自分は召喚獣? 〜夏休み編〜】に飛べるようになっています。読まれていない方も読んでいただいた方もよろしくお願いします。
- 103時間目 僕らとババァと召喚野球?〜大人ってズルイ〜 ( No.8 )
- 日時: 2015/07/20 15:37
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
「だから、どうしてお前らはそこまで単純なんだ……」
昼休みに正々堂々と没収品を取り返しに職員室を急襲したハズの僕らは、補習室の堅い床に椅子すら使わせて貰うことなく正座され、鉄人の監修の元補習用の問題集をやらされていた。
「クソ、汚ねえ……!俺達のお宝を奪ってボコった挙句、今度は職員室で召喚獣を用意しての待ち伏せとは……!教師の風上にもおけない連中だ……!」
「…………横暴すぎる!」
「全くだよ。男らしく正面から堂々と襲撃に来た僕達を卑劣にも待ち伏せで迎え撃つなんて……!そんなの大人のやる事じゃない……!」
そう。生徒が一丸となって正面から向かって行ったのに、卑怯にも教師たちはそんな僕らに対して召喚獣を使ってまで、待ち伏せをしていた。教師の癖になんて狡いんだろうか。
「まったくお前らは……吉井、坂本、土屋。無駄口をたたく余裕のあるお前等にプレゼントだ」
「「「げっ!?」」」
ドン、と目の前には問題集が追加される。いじめ!?これって教師によるいじめなの!?
「酷い!このチンパンジー、人間じゃないやい!」
「さてはこのチンパンジー、俺たちを家に帰さないつもりだな!?」
「…………チンパンジーは大人しく動物園に戻れ!」
「とりあえず次それ言ったら、更に問題集を追加するから覚悟しておくんだな」
そう言って僕らを睨み返しながら嘆息するチンパンジー。ええぃ遂には脅迫まで……!この脳筋チンパンジーめ、こっちが下手に出ればいい気になって……!
『坂本も吉井もムッツリーニも、皆揃ってバカだな。あんなチンパンジーに逆らうとは』
『全くだ。俺達みたいに大人しくチンパンジーに従っておけばいいものを』
『無駄な抵抗をしているからチンパンジーに目をつけられるんだ』
後そこ、君たち後で覚えておくように。
「そうそうお前ら。お前らは課題の提出がまだだったな。その分追加だ。ちなみにお前らは遅れている分利子をつけよう。一週間遅れるごとに更にもう一冊やってもらうから覚悟しておくんだな」
『『『何ぃ!?ちょっと待て、チンパンジー!何でそこの三バカトリオには無しで、俺らに利子がついているんだっ!?』』』
うん、とりあえず君たちはホント後で覚えておくように。僕はちょっとしか怒ってないけど、赤髪の不良とムッツリ忍者が君らを滅するかもよ☆
「お前ら……言っておくが、この三人でさえ課題はすでに提出しておるぞ?この分ではお前ら三バカ以下と言う事になるが?」
『『『!?なん……だと……!?』』』
その事実に驚愕し珍しい動物にでも会ったかのような反応をするクラスメイト達。はいはい悪かったね、僕らが課題をやっててさ。雄二たちがどうやったかは知らないけど、僕は瑞希や美波とちゃんとやっておいたし。……と言うか、瑞希があんなにスパルタだとは思わなかったよ……美波も苦笑してたし。そのお陰で課題は片付いたけどね?
「ったく……コイツらは全然変わらんな。課題をやってきた三人も、ちっとは変わると思っていたが———残念ながら全く変わっておらんし」
「失礼ですね!僕は日々ちゃんと成長してますよ!変わっていないのはこの二人です!」
「ハッ!夏の暑さでとうとう頭の中身も溶けたのかバカ久よ?お前はどうせ小学生の時から変わらないバカだろが」
「…………俺とコイツらを一緒にしないで欲しい」
「「お前が言うな!ムッツリスケベ!」」
「……もういい。お前らももう一冊追加だ」
「「「っ!?」」」
ドンッ!と更に恐ろしい音を立て僕らの前にさっきより分厚い問題集が置かれる。や、やっぱりこのチンパンジー鬼だ悪魔だクタバレ筋肉ダルマっ!
「おのれ鉄人!絶対に復讐しちゃる……!」
「あの野郎今に見てやがれ……!」
「…………この恨み、忘れない……!」
『月のない夜道には気を付けろってんだ……!』
『見てろ、そのうち靴の中に画鋲を仕込んでやる……!』
『それなら俺は鉄人同性愛者説を学校中に流してやる……!』
「更にもう一冊だな」
『『『『うぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!』』』』
なんという横暴な教師だろう。あ、そうそう。急襲に加わらなかった瑞希と美波、造と秀吉の女子四人はEクラスで一緒に授業を受けているそうだ。そして僕たちFクラス男子四七名全員は補習室で軟禁状態と言う拷問を受けている。唯でさえむさ苦しい集団なのに、女子全員が抜けて監修が鉄人(チンパンジー)ともなれば、僕らのイライラも頂点まで来ていることはもう言わなくても伝わると思う。
- 103時間目 僕らとババァと召喚野球?〜大人ってズルイ〜 ( No.9 )
- 日時: 2015/07/19 09:59
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「まったく……つくづくお前たちは……体力が有り余っているようだが、そういうものは運動で発散しろ。幸い近々体育祭がある事だしな」
と、鉄人(チンパンジー)は嘆息しながら言ってきた。そう、二学期始まってすぐにあるのが鉄人の言っていた『文月学園体育祭』。何でも“長い休みでたるんだ精神を鍛えなおすため”とか言っていたね。面倒だなぁ……まあ、体育祭はどうでもいいけど、それと同時にあるアレは……ふふふ!見てろよ、鉄人!
「さて。俺はお前たちが暴れた職員室の後始末をしてくる。全員サボらずに課題をやっておくこと。脱走したら……地獄を見せてやる」
そんな不穏当な発言を残して鉄人は出て行った。ご丁寧に鍵までかけてね。……何が〝脱走したら”だろうか。どう考えても監禁態勢が整っているじゃないか。
「まあ……確かに鉄人の言う通りなとこもあるよね、雄二?」
「ああ……もうすぐ体育祭、んでもってアレがある。鉄人の言う通り、“運動”で鬱憤を晴らせる……っ!」
「…………俺らの真の実力を発揮できる」
鉄人が去って行ったところを見計らって、僕も雄二もムッツリーニもそう呟き口元を歪ませる。周りも皆もどうやら僕らの言わんとしている事がわかっているようだ。
「思えばこの5カ月。いや、入学してから1年5カ月。俺たちはこの学校の教師陣に随分酷い目に遭わされてきた」
「…………思えば辛い出来事ばかりだった」
「二学期始まったばかりなのにここで正座させられたり、軟禁されたり、聖典《エロ本》を没収されたり……何だか物凄く最低の扱いだもんね」
この場にいる全員が「うんうん」と大きく頷く。ここにいる同士たちは皆それぞれ辛い経験を乗り越えてきた戦士達だ。舐めさせられてきた辛酸も大差ないだろう。
「だがもうすぐやってくる体育祭。俺達は——この学校の教師たちに復讐する事が出来るんだ!」
雄二がいつもの如く、皆を盛り上げるべく拳を振り上げ立ち上がった。皆も気分が乗ったのかそれに続き立ち上がる。
『応っ!やってやろうじゃねえか!』
『去年は勝手がわからなかったが、今回はそうはいかねえ!』
『あんの鬼教師どもめ!目に物を見せてやる!』
全員の心が一つになる。そう、多かれ少なかれ先生たちを恨む気持ちは皆同じだ。今日の一件もある。もう絶対容赦しない!あんな横暴な行動には、僕ら皆で報復攻撃を試みるしかないだろう。
「いいかお前ら!こんなチャンスはまたとない!今までの学校生活で、罵倒され、虐げられてきたこの鬱憤。この機に晴らさずしていつ晴らす!」
「…………暗殺は任せろ」
『そうだっ!恨みを晴らせ!』
『この機に乗じて仇を討て!』
『ドサクサに紛れてヤツらをを痛めつけろ!』
そうなのだ。こんなチャンスは滅多に来ない。仇敵:鉄人率いる先生たちを、交流試合と言う隠れ蓑を使いあらゆる手段を以って攻撃できる、復讐のチャンスは。
「全員今は牙を遂げ。地に伏し恥辱に耐え、チャンスの為に力を溜めろ。今この時は、真に仇を討つ時期じゃない。鬼教師どもに復讐するべき時は体育祭。親睦競技という名の下に、接触事故を装って復讐を果たす。いいか、俺達の狙いは——」
『『『生徒・教師交流野球だ!!!』』』
全員が声を揃えて拳を掲げる。見てろよ鉄人、ババア、その他恨み連なる教師共……!交流野球にかこつけて、必ず聖典の仇を取ってやるからな……!
『……何でしょう?何だかここにはいないはずの級友たちに向けて無性にツッコミたい気がするんですがヒデさん』
『……あまり気にせんほうが良い。ワシも先ほどからモヤモヤするが、ツッコもうがツッコまないがあやつらは止まらんじゃろうて。それに———どの道結果は変わらぬ気がするからの』
- 103時間目 僕らとババァと召喚野球?〜大人ってズルイ〜 ( No.10 )
- 日時: 2015/07/19 10:03
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
———次の日———
〜連絡事項〜
文月学園体育祭 親睦競技
生徒・教師交流野球
上記の種目に対し本年は実施要項を変更し、競技に“召喚獣を用いる”ものとする。
文月学園学園長 藤堂カヲル
———学園長室———
「「ババァあああああああああああああああああああああああああ!!」」
「!?わわっ!?……あ、アキさんにゆーさん……?お、おはようございます……?」
「なんだいクソジャリ共。朝から騒がしいねぇ」
「あ、造おはよー。そして……“騒がしいねぇ”じゃないですよババァ長!」
何で造がこの妖怪の部屋にいるかはさておき、耳を塞いで顔をしかめる学園長に僕らは掴みかからんばかりの勢いで詰め寄った。折角昨日、聖典を奪われた恨みを交流野球で一気に教師にぶつけようと意気込んでいたというのに……今日学校に来てみればこの仕打ちっ!僕らが怒るのは当然だろう。
「どうして今年から交流野球を召喚獣を使ったものに変えるんですか!?」
「ああ、アキさんたちも通知を見たんですね。凄いですよね〜♪召喚獣で野球なんて中々面白————」
「これだと先生達を痛めつけて復讐できないじゃないですか!」
「アキさん!?何言ってんですか!?何しようとしてたんですか!?」
「……アンタが今言った事がそのまま変更の理由になると思うんだけどねぇ?とりあえずアンタらは邪魔さね。とっとと出て行きな。アタシは忙しいんだよ。そうそう月野、アンタの場合野球仕様に変わるとだね———」
そんな僕の正当な抗議を完全に無視して造に話しかける学園長。邪魔とは失礼なっ!大体造に何を吹き込んでいるんだろうか?まさかまた造を妙な事に巻き込んでいるんじゃ……?
「この野球大会の為に、僕たちがどれだけ故意に見えないラフプレーを練習してきたのか、僕らがどれだけ努力してきたかを学園長は何も知らないから……だからそんな冷酷なことを言えるんですよ!」
「……き、昨日の放課後やけに皆さんが野球の練習を真剣にやっていると思ったら……理由はそれだったんですか……?」
「その努力を別の事に向けな、クソガキ」
そしてそんな僕らのかけがえのない努力を全否定。教育者としてあるまじき行為だ。
「けっ。この変更どうせまた例の如く、試験召喚システムのPRの為だろうが……その肝心のシステムの制御は出来てんのか?また暴走じゃねぇだろうな?」
「ハッ!肝試しや夏休み中ならともかく、今はもう完全に制御してあるさね」
「あはは……《文さん》もその辺はちゃんとわかっているようですからね」
苦笑いしながら可愛らしく呟く造。ん?フミ?はて、何のことだろうか?……それはともかく何でまたそんな面倒な事を……
「安心してくださいアキさん、ゆーさん。今回の召喚獣の野球はですね、完璧に学園長が組み上げたシステムなんですよ。システムをちょっぴり見せてもらいましたがこれがまた面白いものでして。その分現在の召喚システム以上に精巧且つ複雑なプログラムなんですがね」
「月野は良いこと言うねぇ。その通りさ。アンタらバカ二人がどう思っているか知らないけど、野球用に組み替えるってのは並みの労力じゃないんだよ。召喚フィールドの広さの拡張、バットやグローブの設定に、ボールっていう仮想体の構築もしなくちゃいけない。それこそ、完全に制御できなければ実行なんて出来ないさね」
「日本語でお願いします」
「……まあ、バカにはわからん話だろうね」
そう言って無駄に難解な言葉を使って何やらのたまいつつ可愛い生徒をバカにする学園長と言う名のババァ。やっぱりこのババァ、海に沈めようか。
- 103時間目 僕らとババァと召喚野球?〜大人ってズルイ〜 ( No.11 )
- 日時: 2015/07/20 15:34
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「え、えっと……そうですね。簡単に言えばいつもの武器を使うようなシステムよりも設定が難しいシステムをコントロールできるようになったってこと……でしょうかね」
「なるほどね!」
その点、造の話しはわかりやすくて助かる。なるほど……ふむ。要するに……
「上手く制御できるようになったから、皆に自慢したかったって事だね」
「……あれ?なんか違うような……?」
「——————」
あ、ババァが固まった。
「おいおい、明久。ちっとは気を遣いな。図星突かれてババァが凍りついたじゃねえか」
ほう?図星だったのか。この人ってかなりの歳なのに、子供っぽいとこあるよね。かなりの歳なのに!
「ち、違うさねっ!これはあくまでも一つの教育機関の長として、生徒たちと教師の間に心温まる交流をだね」
「あー、そうだなー。流石だなー」
「凄いですねー。尊敬しちゃいますねー」
「ホント腹立たしいガキどもさねっ!」
そう言うババァも子供っぽいじゃないか。
「なるほど……流石です、学園長!そう言う意味合いもあったんですねっ♪生徒と教師の交流の為に、わざわざ召喚システムを改良するなんて……♪」
そんな中、造唯一人が物凄く感動しているようだ。なんて綺麗な目をしているのだろう。こんな綺麗な目をしている造にこのババァの本音を聞かせるのは忍びないし、ここは造に免じてババァにこれ以上言うのは止めておこう。
「月野、アンタはやっぱりこの二人には関わらん方がいいさね。こんなクソ生意気なガキ共にはねっ!」
「やかましい。毎回思うがアンタこそ造を洗脳してねえだろうな?……それはともかく、そういう事なら野球のルールを白紙に戻す事は可能だよな。なんせ変更の理由がババァの自慢ってだけなんだからな」
「そうだよね。ルールを普通の野球に戻してください学園長」
「却下だね」
「「どうして!?」」
「そこまで人をバカにしておきながらどうして断られないと思えるんだい!?」
なんて酷いんだっ!可愛い生徒の心からの頼みを断るなんて……!
「あー……その、アキさんにゆーさん。お二人とも知っての通りすでに学内にこの事を発表してますし、先ほど言いましたが召喚システムのプログラムもすでに変更済みなんですよ」
「そう言う事さね。今更変更なんて出来ないよ。あと先に言っておくが体育祭実行委員を潰そうとしても無駄だからね」
ちぃ……思わず雄二と共に顔をしかめる。つまりもうすでに実行委員には手を回してあるってことか……
「確かに今から変更って訳にはいかないだろうが、このままじゃ生徒と教師の間にあまりにも差が出ないか?」
「差っていうのは召喚獣の強さの事かい? ハッ、何を言ってんだか」
「でも、雄二の言う通りですよ! 教師チームの点数は物凄く高いじゃないですか! そんなに差をつけられたら勝てる訳が——」
「バカ言ってるんじゃないよ。今回は戦闘じゃなくて野球じゃないか。召喚獣の力だけで勝てるって言うのなら、野球選手はみんなボディービルダーになってるよ」
「でも!」
「ふふふっ♪アキさん、ゆーさん。面白そうだと思いませんか?」
と、必死に抗議する僕らを制し造が僕らに話しかける。
「えっと……どう言うことかな、造?」
「ふふっ♪学園長の言う通り、今回は力だけでは勝てない競技です。これなら今まで手が出せなかった先生方にも勝てる可能性が十分にあるってことです。それこそ西村せんせとか高橋先生とかにも、ね。そういう意味では正々堂々教師と戦い勝てる場が与えられるってことですよ?ワクワクしませんか?」
……う、うーん……まあ、確かに造の言う通り正々堂々と教師どもを負かしたら最高に気分が良いだろうけど……提案してくれた造には悪いけど正直それだけじゃちょっぴりやる気が出ないなぁ。さてどうしたものか……
「ふむ……“正々堂々”か。なるほど…………おいババァ、なら俺達のやる気が出るように賞品を用意してくれないだろうか?」
「へ?雄二?」
と、そんな中突然雄二が妙な提案をしてきた。
- 104時間目 交渉・ルール・召喚野球〜リア充共に裁きを〜 ( No.12 )
- 日時: 2015/07/20 15:34
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
学園ちょ———ババァ長のとても大人げない陰謀で、『生徒・教師校流野球』が召喚獣仕様になってしまった。そのことでババァ長に正当に説得に来た僕と雄二(と、何故か学園長室にいた造)。もうプログラムの変更が出来ないとババァ長に駄々を捏ねられて、どうするべきか迷っていると……
「ふむ……“正々堂々”か。なるほど…………おいババァ、なら俺達のやる気が出るように賞品を用意してくれないだろうか?」
雄二が何かよくわからない事を提案してきた。賞品?一体雄二は何を考えているんだろう?
「これはまた、随分とくだらない提案をしてきたもんだね。そんなもの、急に言われても用意できるわけないだろう?」
「いや。用意も必要ないし、費用もかからない」
「???ゆーさん?」
これには造も意味が分からないようで可愛らしく首を傾げている。賞品なのに用意が要らなくて、且つ費用もかからないものって一体……?
「俺達が勝ったら———今回の持ち物検査で没収された品を返却してもらいたい。それが賞品ということでどうだ?」
「……なるほどね。名より実をとろうって訳かい」
「ババァも流石にあの問答無用な持ち物検査については、生徒に限らず教師陣にも色々言われたんだろう?」
「……フン。没収されるのが嫌なら、不要品なんか持ってくるんじゃないよ。学校を何だと思っているのやら」
「あ、でも確かその辺は学園長も“厳しすぎかもねぇ”って言ってましたよ———ムグゥ!?」
「余計なことは言わないことだね月野」
ん?何か造が言おうとしてたような気がしたけど気のせいかな?そうそう、ちなみに教師陣で不満を言ってきたのは意外にもAクラスの担任の高橋先生が中心だとか。……推測だけど、多分木下さんが持ってきた造の写真も没収せざるを得なくて、先生方も辛酸を呑んだんだろう。まあ、そうでなくても流石に写真すら没収品に含まれるのはあんまりだと思うし。
「まあ、その批判が出ているからこそのこの提案だ。これを呑んでくれたらルール変更に大人しく従うし、チャンスを与える事で生徒たちの不満も抑える事が出来る。“正々堂々”勝負といこうじゃねぇか。そっちとしても悪い話じゃないはずだが?」
「進むべき方向が分からないから不満が爆発するって事かい?『没収品を取り戻せる機会がある』と提示させ、その後結果として取り戻せないとしても、不満の矛先をアタシら“教師陣”から“チャンスを物に出来なかった自分たち”に向けようと」
…………何だかまた学園長と雄二で小難しい話しをしているね。わかるように喋ってくれないと困るなぁ……
「ねえ造。雄二とババァの言いたいことって、要するにどう言うことかな?どうにも没収品を戻して貰える事と、教師への不満がどうのこうのの説明がわかんないんだけど」
「え?……うーん、そうですね……」
そんな僕の質問に対して、うーん、と造はゆっくりと考えて説明してくれる。
「えっと、アキさんたちはこの召喚獣仕様に不満もあり、且つ昨日の持ち物検査にも不満がありますよね?」
「うん、勿論」
「召喚獣仕様の野球の事を生徒の皆さんがどう思っているかわかりませんが、少なくとも持ち物検査に関してはアキさんたちだけでなく他の皆さんも結構不満に思っていると思うんです。現に昨日のFクラスの皆さんの大半がそうでしたよね?」
まあ、そうだろうね。あんな強硬的な行為は絶対に許されない。Fクラスだけじゃなくて理不尽にも持っていかれた人は結構多いみたいだし。
「そこに……取り戻せるチャンスが来れば、皆さん必ずやる気を出して頑張るでしょう?“皆さんが不満だった召喚獣仕様の野球にも”否が応でも、ね」
「あ……なるほど。あれ?でも待って。それだけじゃ先生たちには大してメリットがなくない?折角没収したのにまた返すなんて事絶対にしたくないだろうし。そもそもババァが了承してくれるとは思えないけど……?」
「いいえ、このゆーさんの提案は先生方にも勿論メリットがありますよ。そうでなければゆーさんも学園長に交渉なんて持ちかけないでしょうし」
???教師にメリット?あるのかなそんなもの?
- 104時間目 交渉・ルール・召喚野球〜リア充共に裁きを〜 ( No.13 )
- 日時: 2015/07/21 21:20
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「ほら、例えば昨日アキさんたちが職員室を襲撃したでしょう?流石にあそこまで実力行使に移るほど不満を持っている生徒は多くはなくても、抗議に来る生徒は何人もいるハズです。先生方も何度もそう言う生徒一人一人を対応するのはとても手間……そこであえてその没収品を賞品として取り戻せるチャンスを生徒に与えると———これ、どうなると思いますか?」
「うーんと……あ、先生たちに向けていた不満よりも、目先の商品を取り返す事の方が大きくなる……かな?」
そうなったら多分、ちょっぴり過激な僕らですら教師云々より没収品回収に向けて手を打つだろうね。
「その通りです。自分たち生徒には“没収品を取り戻せるチャンスが与えられる”と言うメリットが。そして先生方には“生徒が抱えている召喚獣を用いる野球に関しての不満が消える”+“生徒たちへの面倒な説明や対応を、一度チャンスを与えるだけで省ける”と言うメリットが生まれます」
「つまり雄二の意見としては、“いきなりこんな召喚獣を使った野球にするなら、せめて自分たちの不満の一つくらいは解消して欲しい”ってことで……」
「そして学園長側の考えとしては、これでもしも取り戻せなくても、“一方的に持って行かれたと思うのではなく、自分たちの力が及ばなかったと生徒たちが思ってくれる”———ってことでしょうかね?」
おお……なるほど、大体わかったよ。造がいると理解しやすいな〜
「で?どうだババァ。俺の提案は?」
お、どうやら雄二がババァに早速交渉してきたみたいだ。よし、なら僕も……
「お願いします、ババァ」
雄二の横に並び、とりあえず頭を下げる。すると学園長は腕を組み、勿体ぶってから———
「そうさねぇ……正直これは取引というより、あんた達のお願いだからねぇ……そんな態度で来られても、快く首を縦に振れないさね」
「「(こんのババァ……!)」」
何だか難癖をつけてきた。このクソババァ……人が下手に出ればいい気になって。さてどうしてくれようか?雄二と二人、こっそりと拳を固めいっそのこと実力行使に出ようとした矢先。
「うーん……ねぇ学園長?体育祭は確か海外からの来賓もいらっしゃるんでしたよね」
「ん?ああ、そうさね。ま、体育祭よりも本命はこのシステムを見せる予定さ。これだけのシステムをこんなガキ共に見せても一銭の価値もないからねぇ」
と、自慢げにのたまうこのババァ。そんなババァにうーんと何か考えていたような造がポツリと尋ねる。
「あー……あの、非常に言いにくいのですが学園長。このままだと不味いのでは?」
「……は?」
「いえ、だってそうでしょう?持ち物検査の件や召喚獣の仕様の変更の件を上手く皆さんに説得しないと———」
「しないと、何さね?」
「———不満が爆発して、大事なシステムのお披露目会で暴動起きるかもですよ?」
「っ!?…………ぐっ……た、確かにねぇ……」
そしてババァ長に一言告げる造。しかもその造の一言で何だか学園長が揺らいだようだ。これはもしや……!
「先ほど仰られた通り今回来賓の方々には体育祭だけでなく、召喚野球仕様の召喚獣も見せるつもりでしょう?そこで乱闘騒ぎでもあれば……色々不味くないでしょうか?特に評判的な意味で」
「…………そうかもしれないねぇ」
「くくくっ!流石造だ。んで?どうだババァ。アンタはこの事を聞いて何もしないのか?言っとくがどうにかしないなら俺らが率先して体育祭で大暴れするだろうな———アンタにとって最悪な形で」
雄二も造に乗ってきたみたいだ。おお、これなら行けそうだね。
- 104時間目 交渉・ルール・召喚野球〜リア充共に裁きを〜 ( No.14 )
- 日時: 2015/07/21 21:21
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「…………くっ、仕方ないね。その提案を呑もうじゃないか。正直めちゃくちゃ気にくわないがねぇ」
「そうか、それは助かる」
「ふふふっ♪ありがとうございます、学園長!」
今更ながら造って、こう言う時って強いと思う。いつの間にか造のペースを作るしさ。日高先生曰くその気になれば超一流の詐欺師になれるんじゃないかって言ってたのも頷けるね。可愛いし話し上手だし小っちゃいから油断してポンポンお金を騙し取られそうだってさ。まあ、そんなこと絶対造はしないけど。
「あとはルールの明文化だな。賞品がかかってるんだ。こんなルール聞いていない、とか文句を後で言われても困る」
「それはこっちの台詞だよクソガキ」
と、早速雄二と学園長がお互いを罵り合いながら、ルール設定を作り始めた。この辺は狡賢い雄二と図太い学園長に任せておこう。正直ルール設定なんて面倒だからね。
『この召喚野球大会に使う科目は一つだけにするのか?』
『アタシはそれでもいいんだけどねぇ。アンタらはそれだと困るだろ?』
『ああ。各イニングでそれぞれ使用科目を変えて貰いたい』
『ま、それくらいなら認めてやろうじゃないか。きちんと授業に関わりがあるものを使用科目にするならね』
『それは助かる。だとしたら“召喚獣を用いて、授業内容を云々”と書くよりは“必ず授業科目の中の一つを用いる事”と書いた方が分かりやすいんじゃないか?』
『ルールを曲げないなら、その辺りは好きにしたらいいさ』
二人の話し合いはドンドン勝手に進んでいく。何だか雄二の思惑通りみたいで、何よりではあるけどちょっと疑問も残るね……ま、その辺は本人に後で直接聞くかな?それにしても……
「造、助かったよ!ありがとね」
「え?何の事ですか?」
「ほら、学園長の説得の事だって!お陰で没収品取り戻せるかもしれないでしょ?」
「あ、ああ!ふふっ♪いえいえ、お礼なんて言わなくて大丈夫ですよ」
そう言って造は相変わらずニコニコしている。やっぱり造は優しいんだね♪……あれ?それにしてもどうして造は学園長を説得してくれたんだろ?
「……ねえ、造?そういえばどうしてわざわざ学園長を説得してくれたの?造にはあんまりメリットがなさそうな話なのに」
「いやいや、そんなの決まっていますよアキさん♪召喚獣で野球なんて面白そうでしょ?どうせやるなら、賞品でも何でもいいので皆さんのやる気を出して貰って戦ってみたかったってことと————」
そこで一呼吸入れて、造は舌をペロッっと出すと……
「————没収品を返して欲しかったのは、アキさんたちだけじゃ無かったってことです。仲間外れにしないでくださいね。絶対勝って取り戻しましょ、アキさん!」
……そうやって、満面の笑みで答えてくれた。あ、あはは!造らしいね♪
〜召喚野球大会規則〜
・各イニングでは、必ず授業科目の中から一つ用いて勝負すること
・各試合に於いて、同種の科目を別イニングで再び用いる事を認めない
・立ち会いは試合に参加していない教師が務めること。また、試合中に立ち会いの教師が移動してはならない
・召喚フィールド(召喚野球仕様)の有効圏外に打球が飛んだ場合、フェアの場合はホームラン、その他の場合はファールとする
・試合は5回の攻防までとし、同点である場合は7回まで延長。それでも決着がつかない場合は引き分けとする
・事前にメンバー表を提出すること。ここに記載されていない者の試合への介入は一切認めない。なお、これにはベンチ入り人員および立ち会いの教師も含む
・基本構成はポジション各1名ずつとベンチ入り2名の系11名とする
・進行においては体育祭本種目を優先させる。競技の時間に重なりそうな場合は事前にメンバー登録の変更を行うこと
・腕輪の使用は認める。ただし他人の召喚獣の点を故意に削る目的に使用した場合は、反則としてそのものを退場させる
・その他の基本ルールは公認野球規則に準ずる
- 104時間目 交渉・ルール・召喚野球〜リア充共に裁きを〜 ( No.15 )
- 日時: 2015/07/20 12:48
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
ゆーさんと学園長の召喚野球のルール交渉と簡単な野球仕様の召喚獣に関しての説明を受けて学園長室を三人で後にしました。と、Fクラスに戻る途中で……
「雄二。さっきの話なんだけど」
と、アキさんがゆーさんに切り出します。
「さっきの話と言うと……召喚野球の件か?」
「うん。アレってさ、一見合理的に見えたけど……それって、僕らが勝てる可能性があればって前提の交渉だったんだよね?」
「あ、確かにアキさんの言う通りですよね。取り戻せる方法が『勝てたら』って言うのが大前提ですし、何か策が無ければ先生方に勝つ可能性は極めて低いでしょうし」
それに先生方だけではなく、二、三年のA〜Bクラスも強敵でしょう。何せあの霧島さん率いる二年Aクラスに、自分らよりも経験値が高く点数もあり、且つ小暮さんやタカさん率いる三年生Aクラスなど敵になるクラスはどれもこれも厄介……うーん。これは悩ませられますね。
「まあ、お前らの言う通りだな。野球で勝てなきゃ意味がない。多分ババァもそれがわかってて乗ってきたんだろうな」
「でしょうね。一応野球仕様で先生方も最初は慣れないかもしれませんが、点数が半端じゃありません。西村せんせや高橋先生は……確か単教科で700〜800点レベルだったハズです。そもそも教師陣と戦う前に他のクラスとの勝負も控えてますし」
「もうとりあえず絶望的だよね……相手が相手だし、僕らが勝つには……」
「わかっているだろうが……普通のやり方じゃ、まず勝てねえな」
確かに……生半可な作戦や小手先だけの操作技術じゃ勝つなんて到底不可能でしょう。さてさて、この状況をゆーさんはどうやって対処するのでしょうね?
「それで雄二。今度はどんな作戦を考えたのさ?」
「あ、自分も気になります。今回はどんな感じなんですか?」
「ん?何の話だ?」
「とぼけないでよ。プログラムを見ながら何か考えてたでしょ?」
「ルール設定の時点で絶対何か仕掛けてますよね?どう利用するのかは自分もわかっていませんが」
ルール規定を妙な言い回しにしてあったり、野球大会の話をしているハズなのに体育祭を優先していたりと、ルール設定の時点で何かしらの罠を張っている気配がします。さて策士ゆーさんはどう動くのでしょうね。期待半分、何か危ないことをしないか不安半分って感じです。
「まあ、お前らの言う通り俺は勝つ見込みのない勝負はしない」
「じゃ、どう言う作戦なのさ?」
「まあその辺は当日になってお前らに教えるさ。今教えても明久じゃ理解出来んだろうし、造は絶対に反対するだろうからな」
……訂正しましょう。期待1割不安9割です。一体どんな作戦を立てているんですか……?
「失礼だなぁ……あれ?でもさ雄二。雄二がこれだけ頑張るってことは、もしかして没収品ってMP3プレイヤーだけじゃないんじゃない?他にも何か持っていかれたでしょ」
「へ?そうなんですか?」
「…………ああ、特級品の写真集を三冊ほど持っていかれた……」
「あー……そう言うことですか。と言いますか、やっぱりゆーさんもそう言う本持ってきてたんですね……」
「てか、三冊?よく雄二の環境下で隠し持っていられたね」
確かに……霧島さんやあのゆーさんの天然お母さんの雪乃さんの監視の目が光る中、そこまで持っていられるのは奇跡に近い気がします。この前もいともたやすくそういった本を発見されていたのを間近で見ましたよ自分。
「ああ。本棚の下や天井裏、完全防水にして熱帯魚の水槽の底に沈めたりと、色々工夫したからな」
「もうそれ見たい時に取り出せるレベルじゃないよね?」
「目的と手段が入れ替わってますね……」
「そこまでしなくちゃ守れないし、そこまでして守る価値のある逸品だったんだ」
こんなことにその素晴らしい奇策を生み出せる脳を使わなくてもと思ってしまう自分……ま、まあそれもそれでゆーさんらしいと言いましょうか。
「とりあえず残念でしたね、ゆーさん」
「ああ……だが、絶対に取り戻してやるぜ」
「まあそこまでのものなら僕も是非見てみたいなぁ」
「……私も」
そんな感じで4人でうんうんと頷き合う自分たち。…………ん?あれ、4人?
- 104時間目 交渉・ルール・召喚野球〜リア充共に裁きを〜 ( No.16 )
- 日時: 2015/07/20 11:15
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「てなわけで、後は雄二と霧島さんの二人で仲良く♪」
「……吉井。悪いけど造をお願い。娘には聞かせられない話を父親と母親でしなきゃいけない」
「うん。わかってるよ。んじゃ造。とりあえず教室に戻ろうね」
「待て明久。この状況で俺を置いていくな。せめて造だけでも置いていけ」
「誰が父親と母親ですか?……と言いますか、地味に痛いので離して下さいね?ゆーさん、アキさん」
いつの間にか話に加わっていた霧島さん。気配が全くしなかったんですが……?あ、そうそう。今自分はアキさんとゆーさんに掴まれて、どこぞの大岡裁きになっている状態です。腕を引っ張りあって、手を離した方が親ってやつですね。まあ、どっちも父親ではありませんがね?そして当然ですがどっちも父親ではないので手を離す気はなさそうです、いたい。
「……雄二を甘く見ていた。今度は水槽や植物鉢、雄二が入浴中の浴槽の中まで詳しく探す」
「おい待て。最後の一つは確実に目的が捜査じゃないだろ?」
「……私には、雄二の成長を観察する義務があるから」
そう高らかに宣言する霧島さん。あらあら♪霧島さんったら大胆ですね〜♪
「ねえ、聞いた造?君のお父さんとお母さんは、いつまでも仲が良いんだね〜」
「誰が誰の父と母かは知りませんが、ゆーさんも霧島さんも昔からすっごく仲が良いんですね。微笑ましいです」
「ちょっと待て!お前ら勘違いしているだろうが俺は別に……」
「……昔から雄二と一緒にお風呂も入ってた。中学くらいまでずっと」
「「へー♪」」
どんどん霧島さんに傷口を広げられるゆーさん。それだけ仲がよろしいってことなんですね。素敵ですよねー
「っ!?おい、翔子っ!?お前なんて事を……ち、違うぞお前らっ!別に俺とコイツは……」
「……この前は二人で裸Yシャツで寝た仲」
「違うわっ!アレはお前が着てただけだろがっ!」
ん?Yシャツって……あ、もしかして、
「ねえ霧島さん?Yシャツってもしかして夏休み、自分とヒデさんがゆーさんの家にお邪魔した時のことですか?」
「……うん。あの後雄二と一緒にその格好で寝た」
そう霧島さんが言うと、アキさんがゆーさんの肩をポンッ!と叩いて……
「雄二……君は一足先に、大人の階段を上ったんだね。おめでとうクタバレ」
と、満面の笑みで祝福します。あははっ♪流石にそこまでは行ってないでしょうが、ゆーさんと霧島さんがいつでも仲良くて何よりですね。
「やかましいっ!んなわけあるかっ!それより明久こそ、姫路と島田と三人で寝てただろうがっ!」
「っ!?ななな、何で雄二が夏休みの事知ってんの!?ち、違うっ!アレは瑞希が作った料理をうっかり食べて、瑞希と美波が僕を介抱してくれただけだって!何故かその後瑞希も美波も介抱疲れしたみたいで、結局三人で寝ているように見えただけというか……!?」
「「「…………」」」
と、ゆーさんの思わぬ反撃にたじろぐアキさん。慌てて何だかとんでもないことを暴露していますが……あの、アキさん?それは初耳ですけど?そんなことがあったんですか。あらら、これはアキさんと姫路さん&島田さんの関係もやっぱり進展しているんですね〜♪
「明久……お前」
「だ、だから違うって!?あの後姉さんが帰ってきて、ボッキリ絞られたから不純な行為は別に—————」
「いい忘れてたが俺がお前に“姫路と島田と三人で寝てただろうが”って言った意味はな、“強化合宿中に同じ布団で寝そうになっただろうが”って意味だったんだがな?」
「…………ゑ?」
あちゃー……これはアキさんの見事な墓穴掘りですね。本当にご馳走様ですね♪
「墓穴を掘ったなっ!お前こそ、随分アイツらとは進展しているじゃねえか!このモテモテハーレム男が!」
「だ、黙れっ!大体雄二と霧島さんなんかは、もう付き合う付き合わないじゃなくて完全に夫婦の関係じゃないかっ!中学まで一緒にお風呂に入って————」
「……ちなみに、私の胸が大きくなってからも数回ある」
「———今も一緒に入る仲なんて、最早夫婦生活を満喫しているじゃないかっ!こんのリア充がっ!」
「えっと、多分どっちもどっちだとは思うんですがね?」
と、まるで(?)ノロケ合うかのごとくアキさんたちが言い争いながら喧嘩を始めようとすると……あれ?何だか周囲が殺気に満ちて———?
『吉井……坂本……お前ら随分とモテるんだな?』
「「誰がっ!この異端者(バカ)と一緒に……する……なっ!?」」
『『『さて……お前ら、それが遺言だと受け取って構わんのだな?真の異端者共よ……?』』』
……!?いつの間にかFクラスの皆さんが色々と危なそうなものを持って、アキさんとゆーさんを囲みます。ちなみにアキさんとゆーさんに掴まれていた自分も例外なく囲まれている始末。こ、このパターンは……!?
『昨日までは共に聖典《エロ本》を取り戻す同士たちと思っていたが……どうやらお前らは俺たちの敵だったようだな?誰もが踏み入れる事を許されぬ聖域を汚す異端者共め……!その罪死を以て贖うべし。それが———』
『『『————我ら、異端審問会の掟!クタバレ吉井、坂本っ!!!』』』
グイッ ダッ!×2 ←造を連れて、一目散に逃げる明久&雄二
「って!?何で自分、また拉致されるんですか!?さては最悪囮にする気ですね二人とも!?」
「「ちぃ!相変わらずしつこいっ!」」
「…………あ……雄二……造」
『追えっ!あの異端者どもには、たっぷりとその罪を分からせるのだっ!』
『『『ハッ!承知しましたっ!』』』
承知しないでくださいっ!それと、とりあえずアキさんたちは自分を下ろして下さいっ!?そんなこんなで新学期早々に、追いかけっこの始まり始まり。巻き込まれ人生万歳ですね……どうでもいいですがFクラスに入ってから、走らない日が珍しい気がします……
「……さっき話してた『野球に勝てば没収品返還』って話……詳しく教えて欲しかったのに……」
- 文月学園レポート:特別仕様の腕輪について ( No.17 )
- 日時: 2015/07/23 21:44
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
文月学園レポート:特別仕様の腕輪について〜白金・黒金の腕輪とは〜
白金の腕輪(代理召喚型)所有者:月野 造
起動キー:『起動(アウェイクン)』 終了キー:『解除(キャンセル)』
原作では雄二が持っていた召喚フィールドを形成出来る腕輪。この作品では原作と違い欠陥はなく、実は召喚フィールドに入れば問答無用で召喚獣に成る造を不憫だと思い『なら月野自身が召喚獣に成る成らないを自分で選べるように』と造のために学園長が作ったとされる。
科目指定可能で原作のような起動のたびに点数を消費するのではなく、所有者(造)の取った点数に応じてフィールドの広さが変化する設定。
例を挙げれば、現代国語(500点相当)では、教師フィールドにも匹敵するほどのフィールドが張れるが、逆に英語(2〜3点相当)では、最早自分以外は召喚獣を呼び出せないほどにフィールドの範囲は狭いとのこと。
また、フィールドをその場に張るのではなく造自身に纏わせてそのまま召喚獣の状態を保持する事も可能。これはあのオカルト騒動の時、白金の腕輪のシステムを《文》が乗っ取った結果出来るようになったとのこと。
白金の腕輪(同時召喚型)所有者:吉井 明久
起動キー:『二重召喚(ダブル)』 終了キー:『解除(キャンセル)』
原作同様明久が所有者。今のところ大幅な変更点は無い。使用者(明久)の点数を二分してもう一体召喚獣を呼び出す機能を持つ。
強化合宿編の対久保戦で初使用された。原作と違うことと言えば、造の持っている腕輪と同じく終了キーが付いている事くらい。解除(キャンセル)の一声で元の一体に戻す事が出来る。
実はまだ隠された機能があるらしい。……が、まだまだ明久自身の点がそれを発動できるまで至っていないことに加え、学園長が『誰があんなバカに教えるかい』と拗ねているそうで所有者の明久自身知らないらしい。
黒金の腕輪(召喚制御型)所有者:坂本 雄二
設定キー:『設定(セット)』 起動キー:『再設定(リセット)』
オリジナルの腕輪。2年3年によるオカルト召喚獣版肝試し対決の時に雄二に贈られた賞品。『場の安定』の目的で作られた腕輪。
腕輪を使えばその召喚フィールドのあらゆる状態がリセットされる。最初に『設定(セット)』のキーワードを唱えておき腕輪にその場の状態を覚え込ませ、『再設定(リセット)』のキーワードを唱えると腕輪に覚え込ませた状況に戻る。……つまりそのフィールドで召喚された召喚獣の消費した点を元の状態に戻すことが可能という腕輪。
一見中々使えるようにも思えるが勿論欠点があり、その場で召喚した召喚獣は例え敵だろうと点が元に戻る上、あらかじめ設定キーの『設定(セット)』を発動しなければリセットは使えない。おまけに一度リセットした場は張りなおさない限り、改めて設定出来ないとのこと。また、戦死した召喚獣を回復させることは不可。
実は前記の能力はあくまで付属品。本来の用途はシステムを通常状態に戻すことや暴走した召喚獣を安定させる為のもの。召喚野球編で使用予定。
- バカテスト集その⑦ ( No.18 )
- 日時: 2015/07/23 21:26
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
バカテスト 世界史)
次の文章を読み、問に答えなさい。
19世紀の終わり、“ドイツの宰相”は世界最初の社会保険制度を創設し、貧困者たちの救済を図った。また、この救済と同時に、社会主義者鎮圧法を制定した為に、この政策は『( )とムチの政策』と呼ばれた。
問1“ ”内の当時のドイツ宰相の名前を答えなさい
問2( )に当てはまる単語を答えなさい
姫路瑞希・月野造の答え
『問1 ビスマルク
問2(アメ)とムチの政策』
教師のコメント
正解です。ビスマルクは政策として、社会保険制度をご褒美——つまり“アメ”として民衆に与え、一方で社会主義者鎮圧法という“ムチ”で人を叩いたというわけです。甘やかすだけでもなく、叩くだけでもない。政治のみならず、様々な場面で用いられる手法ですね。
木下秀吉の答え
『問2(愛)とムチの政策』
教師のコメント
“愛の鞭”とごちゃごちゃにしてますね。ちなみに“愛の鞭”とは、愛するがゆえに厳しく叱りつけること・その人のためを思ってする叱責という意味です。
土屋康太の答え
『問1 エリザベス』
教師のコメント
ムチ → 女王様 → エリザベス女王
最近君の考えが理解できるようになって、先生はとても複雑な気分です。
吉井明久の答え
『問2(ムチ)とムチの政策』
教師のコメント
叩きすぎです。
姫路瑞希&島田美波のコメント
明久君(アキ)って……Sなのでしょうか(なのかしら)、Mなのでしょうか(かしら)……“今後の生活”の為にも気になります(気になるわね)
吉井明久の返答
ノーマルだよ!?てか二人とも、今後の生活って何の話!?
異端審問会の皆さんの返答
今後の性活……だと……!?吉井、今すぐ羨ま死刑。
バカテスト 古典)
次の文章を読んで問に答えなさい。
項王軍壁垓下。兵少食尽。
漢軍及諸侯兵囲之数重。
夜聞漢軍四面皆楚歌、項王乃大驚曰、
「漢皆已得楚乎。是何楚人之多也。」
項王則夜起飲帳中
この時の項羽の境遇から生まれた四字熟語を答えなさい。
姫路瑞希・月野造の答え
『四面楚歌』
教師のコメント
正解です。本来ならば見方が歌うはずの“楚の歌”が四方を囲う敵兵の陣から聞こえててくる。それはつまり、味方の兵が敵陣に降ってしまったことを示します。このことなら“敵に囲まれて孤立すること”を【四面楚歌】と言うようになったのです。
島田美波の答え
『問題が暗号になってます』
教師のコメント
気持ちはわかります。
土屋康太の答え
『先手必勝』
教師のコメント
後手です。
吉井明久の答え
『先手必勝』
教師のコメント
しかも負けています。
バカテスト 数学)
次の等式を数学的帰納法を用いて証明しなさい。
1+3+5+……+(2n-1)=n2……①
(但し、nは自然数とする)
姫路瑞希・月野造の答え
[1] n=1の場合、①式は
(左辺)=1
(右辺)=1
より成立します
[2] n=k の場合成立すると仮定します
1+3+5+……+(2k-1)=k2……②
ここでn=k+1 の場合①式の左辺は1+3+5+……+(2k-1)+(2k+1)=(k+1)2となり、n=k+1 のときも①式は成立します
[1][2]より、①式は全ての自然数nにおいて成立すると言えます
船越先生のコメント
正解です。数学的帰納法とは、n=1の時に成り立ち、n=kの時に成り立つと仮定して、n=k+1のときにも成り立つと証明することで、命題が全ての自然数nにおいて成り立つと証明する手法です。意外とn=1で場合の証明を忘れてしまうことがあるので、解答の際は充分注意しましょう。造くんは正解のご褒美として、補習(コスプレ)をしましょうね♪
月野造の返答
……もうツッコミませんよ?
土屋康太の答え
『①式は正しいことをここに証明します
土屋康太』
船越先生のコメント
証明書の体裁を気取っても駄目です。数学的帰納法を用いて、と問題文にもあるので、n=kの場合成立するという仮定のもと、n=k+1の場合でも成立すると証明しましょう。
吉井明久の答え
『成立すると断定します』
船越先生のコメント
せめて仮定して下さい。
- バカテスト集その⑦ ( No.19 )
- 日時: 2015/07/23 21:29
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
バカテスト 化学)
①〜④の説明に当てはまる元素記号を次から選び、それぞれ正しい名称を書きなさい。
『Mn O S Na I Pb Ne』
①体心立方構造で、水と激しく反応する。炎色反応では黄色を呈する。
②沸点184.25℃、融点113.75℃。これの溶液にデンプンを加えると反応を起こし藍色を呈する。
③原子量54。過酸化水素の水と酸素への分解反応において、これの酸化物が触媒として用いられる。
④希ガス族・第二周期。空気を液化、分留して作られる。
姫路瑞希の答え
『①Na:ナトリウム ②I:ヨウ素 ③Mn:マンガン ④Ne:ネオン』
教師のコメント
正解です。それぞれの特徴を覚えておくと、化学反応の説明などにもつながります。基礎的な特徴はしっかりと覚えておきましょう。
月野造の答え
『①Na:ナトリウム ②I:ヨウ素 ③Mn:マンガン ④Ne:ネオン
※えっと……問題の順番を変えませんか、先生?』
教師のコメント
???一応正解なのですが、どう言う意味ですか?
島田美波の答え
『書きたくありません』
木下優子の答え
『書く気になれませんでした』
教師のコメント
どうしましたか。テストのボイコットとは感心しませんね。島田さんも木下さんも真面目で良い子だと思っていたのに、先生はがっかりです。わからないのであればまだしも“書きたくない”“書く気になれない”というのは理由にもなっていません。そういった姿勢は、学力以前に人としての考え方において問題があります。今後はそのような態度を改めていかないと、いずれ社会に出たときに苦労を———
土屋康太の答え
『①Na:ナ ②I:イ ③Mn:ム ④Ne:ネ
※貧乳もステータスの一つ。誇っていいハズ』
工藤愛子の答え
『①Na:ナトリウム ②I:ヨウ素 ③Mn:マンガン ④Ne:ネオン
⇒ナ イ ム ネ ※需要はあると思いますよ〜♪』
教師のコメント
————島田さんと木下さんに全力で謝ってきます。それにしても、土屋君と工藤さんの仲の良さに感心しました。
バカテスト 国語)
次の文章を読み、“複雑な表情”の理由として誤っているものを選びなさい。
若くして夫婦になったジムとデラは、貧しくも互いを愛して暮らしていました。
ジムの宝物は代々伝わる金の時計、デラの宝物はその美しい髪の毛でした。
クリスマスの前日、デラは愛する夫にプレゼントを買う為、自慢の美しい髪を切ってかつら屋に売ってしまいます。そしてそのお金で、ジムの金の時計につけるプラチナの鎖を買ったのでした。
ジムは家に帰ると、デラの姿を見て……怒りでも、驚きでも、不満でも、恐怖でもない“複雑な表情”をしました。
ジムがデラに用意したプレゼントは、デラがあこがれていた、美しいくしだったのです。
(ア)買ってきたプレゼントがデラにとって必要のないものになってしまったから
(イ)デラが自分を想っていてくれたことが嬉しいから
(ウ)美しいデラが髪を失ってみすぼらしい姿になり、がっかりしたから
(エ)デラからのプレゼントをつけるはずの時計を売ってしまっていたから
霧島翔子の答え
(ウ)
教師のコメント
正解です。これはクリスマスにまつわる有名な話の一つですね。お互いに買ってきた物は役に立たなくなってしまったけれども、相手を思う気持ちが伝わってくるという心温まるお話です。是非とも皆さんには将来そういった家庭を築いて欲しいと思います。
霧島翔子の返答
……もう、幸せ家庭を築いています♪
教師の返答
…………ゑ?
坂本雄二・月野造の返答
翔子(霧島さん)?なぜ俺ら(自分ら)を見て幸せ家族って言っているんだ(言っているんですか)……?
工藤愛子の答え
(ウ) ※ショートヘアだって可愛いですよ!
土屋康太の答え
(ウ) ※ショートが可愛くないと誰が決めた!
教師のコメント
えっと……お二人とも正解ですが、どこか求めている答えと違う気がします。ともあれ《誤っているものの選択》という問題に対しては(ウ)という回答なので、一応正解です。それにしても、本当にお二人は仲がよろしいですね?
須川亮の答え
(ク)リスマスはキリストの誕生を祝う日であり、男女が乳繰り合っとること自体が間違っとるんじゃぁあああああああああああっ!!
教師のコメント
選択肢に《ク》はありません。
異端審問会の皆さんの返答
須川会長に続けええええええええええええええっ!クリスマスは廃止じゃぁああああああああっ!!
———回答終了後———
造 「……霧島さんは相変わらずですね」
雄 「……もうツッコむな造」
明 「坂本家の皆さんは、ホント仲が良いよね」
造・雄「「…………(もう絶対にツッコまないっ!)」」
秀 「仲が良いと言えば、ムッツリーニと工藤もじゃの」
造 「あー……確かに息ぴったりな回答でしたね。微笑ましかったですよこーさん」
康 「…………ただの偶然」
造・雄・明・秀「「「「ふーん♪そーなんだー(棒)」」」」
康 「…………何だお前ら」
明 「いやいや、別にー?」
康 「…………それより明久、姫路と島田の言ってた今後の性活について詳しく」
明 「いや、だから僕はノーマルだからね!?皆もそう思うでしょ!?」
雄 「ああ、そうだな。頭に“アブ”のつくノーマルだな。明久はムチとムチって公然で言える立派なHENTAIだもんな」
明 「雄二、今すぐ表出ろ」
美 「…………ハァ」
優 「…………ハァ」
瑞 「え、えっと?どうして美波ちゃんも優子ちゃんも、私の胸を見て溜息を吐くんですか?」
美 「ナイムネ、ね(せめて瑞希の三分の一でもあればアキも喜んでくれるかしら……)」
優 「ナイムネ、ね(造くんの周りって、何故か妙に胸が大きい人達が多いのよね……)」
瑞 「ふ、二人ともやっぱり目が怖いですよ!?」
美・優「「…………ハァ」」
翔 「……愛子、土屋と仲良い。私と雄二みたい」
愛 「ちょっ!?ちょっと待って!?ボ、ボクは別に!?」
翔 「……照れなくていいのに」
愛 「い、いや……た、確かにこーたくんと一緒の答えなのは嬉しいけどさ……」
異端審問会『『『とりあえず、吉井と坂本とムッツリーニは————死刑』』』
宗 「“とりあえず”でそんなことを言っている暇があるなら、お前らはさっさと課題を提出せんか。遊ぶ余裕があるものと見なし、問題集を追加されたくないならな」
- 105時間目 初戦と野球とEクラス〜開幕!召喚野球大会〜 ( No.20 )
- 日時: 2015/07/24 21:15
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
そんなこんなでいつも通りFFF団に全力で追われたりする毎日の連続だったけど、気がつけば体育祭の当日となった。
『———時より、第二グラウンドにて召喚野球を行います。参加する生徒は———』
退屈な開会式も無事終えて、校庭に取り付けられたスピーカーからアナウンスが響き渡りいよいよ待ちに待った僕たちの聖典奪還の闘いの始まり始まり。そんなわけで僕らは野球大会の行われる会場へと向かっているところだ。
「雄二。最初の相手って何処だったっけ?」
「確か一回戦は同学年の隣のクラスが相手だって話だから、Eクラスのはずだ。ほら、コイツが対戦表だ」
と、雄二が対戦表を渡してくる。それにしてもEクラス、Eクラスか……。隣のクラスなのに、実はあんまり交流がなかったりする。試召戦争を起こしたって話も聞かないし。一体どんな人たちだろうか……?
「ねえ、Eクラスってどんなクラスなの?」
一応クラス代表として最低限の交流があるであろう雄二に聞いてみる事に。まあ無いとは思うけど、危ないクラスじゃない事を祈ろう。
「ん……そうだな。ま、安心しな。別に危険なクラスってわけでもない。さっき代表同士で挨拶をしたが、対応も可愛いものだったな」
ふーん?…………ん?ちょっと待った、コイツのこの口振り……まさか代表の癖に今まで交流をしていなかっただろうか?それって代表としてはどうなんだろう。雄二らしいっちゃ雄二らしいけど。まあそれはともかく、
「ちなみに可愛いってどんな感じだったの?」
「確か……『押忍!自分はEクラス代表の中林であります!本日は絶対に勝たせて頂くであります!』ってな感じで」
「ソイツ絶対に全身筋肉だよね!?絶対可愛くないよね!?」
思わず声を荒げてツッコむ僕。い、いや待て……もしかしたらそう言う感じの喋り方なだけの可愛い子かもしれない。最近はほら、秀吉みたいな独特の喋り方をする子だっているし、流石に言い過ぎたかな……?
「冗談だ。本当は『今日はヨロシクねっ。絶対負けないんだから☆』って感じで喋る代表だった」
「何だ……良かったよ……」
全く、雄二の冗談は質が悪いね。ほっと胸を撫で下ろす僕。
「言い忘れてたが、ソイツはラグビー部所属だな」
「…………」
今時のラグビー部はそう言う喋り方するのだろうか……?わからない、色んな意味でわからなくなってきた……
「こらこらゆーさん。嘘言っちゃダメですよ。Eクラス代表の中林さんに失礼ですし」
「そうじゃの。雄二よ、明久をからかうのも大概にするのじゃ。話をややこしくするでない」
と、何だか苦笑している二人の美少女が僕を見かねて話に加わってきた。おのれ雄二、またしても僕に嘘を教えてたんだな?このペテン師め。
「って、あれ?そもそも二人はEクラス代表のこと知ってるんだ」
「ええ、知ってますよ。ほら、アキさんたちがこの前職員室を襲撃したじゃないですか」
「その後お主ら指導室に監禁されておったじゃろ?その間、ワシらはEクラスで授業を受けておったからの。その時に良くして貰ったのじゃ」
……ああ、僕らが鉄人に問題集をやらされまくった時の事か。そう言えばこの二人と瑞希と美波はその間Eクラスと合同授業をしてたらしいもんね。この二人の言う事なら信頼出来る。雄二のバカは後でぶちのめすことにして二人の話を聞くことに。
「それで?そのEクラスとEクラス代表ってどんな感じの人かな?」
「んー……クラス代表の中林さんは女子テニス部のエースをやっていらっしゃると聞きました」
「ふむふむ、テニス部のエースね」
へぇー確かうちのテニス部って結構強いらしいし、そのエースってことは余程の実力者なのだろう。
「彼女自身の性格はサバサバしてて、とても活発そうな方ですね。自分とヒデさん、それに姫路さんに島田さんがEクラスで勉強する事になっても、問題なく受け入れてくれる懐の大きいとこもありましたし」
「なるほど、サバサバで大きいのか」
「ちなみにEクラスは……そうじゃの、言うなれば『体育会系クラス』と言った方が良いな」
???何それ、体育会系のクラス?
「ワシが言えたものではないが、部活を中心に学園生活を送っておる者たちが多いようじゃな。その分少々成績が振るわぬようじゃが、体力や運動神経は中々のものじゃぞ」
ああ、なるほど。だから試召戦争をやったとかの話を聞かなかったわけだね。確かに文月学園は進学校だけど、学業よりも部活動中心に頑張っている人たちも勿論いるわけだし。ここにいる秀吉とか良い例だよね。え、じゃあ部活にも入っていないのに何で僕が成績悪いのかって?……ノ、ノーコメントで。
- 105時間目 初戦と野球とEクラス〜開幕!召喚野球大会〜 ( No.21 )
- 日時: 2015/07/24 21:05
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「なるほどなるほど……って、あれ?それなら今回結構強敵になるんじゃないの?」
体育会系ともなれば当然野球にも詳しいだろうし、野球部員だっているかもしれない。実は初戦から結構強いクラスと当たるのかな。と、そんなことを考えながら何気に呟くと……
「良くわかっているじゃない!悪いけど勝たせて貰うわよ!」
「…………へ?」
突然ヘアバンドが特徴的な女の子が、まるで僕に突っかかる勢いで話しかけてきた。ど、どちらさまで……?
「確かにアンタたちFクラスは強いでしょうが、アタシたちの得意分野で負けるわけにはいかないのよ!絶対勝つわっ!」
「え、えっと……?だ、誰……?」
どうしよう……このヘアバンドをした人、僕の記憶が正しければ初対面なハズなんだけど?困ったな……
「明久、コイツがEクラス代表の中林ってやつだ」
頭にクエスチョンマークを浮かべていると、雄二が助け船を出してきた。あ、そっか。この人が————
「この人が、代表がエースをねらってサバサバの大きいを受け入れるって定評がある———」
「待ちなさい。アンタの中の私のイメージってどんなのよ……!?」
ゴメン。流石に造と秀吉からの情報を詰め込みすぎた。
「ま、まあいいわ……私たちEクラスはここでアンタたちを倒すわっ!特に吉井!」
「は、はいっ!?」
「アンタは……私のライバル……絶対負かして見せるわ……っ!そしてあの人を振り向かせて見せるっ!」
「えぇ!?な、何の話!?」
わからない……僕中林さんに何かしたっけ……?今日この場で会ったばかりの人にライバル宣言されても困るんだけど……
「(おい、秀吉。何であんなにEクラス代表は明久にライバル心を燃やしているんだ?お前何か知ってるか?)」
「(う、うむ……実はの。話を聞く限り中林は久保に憧れを抱いておるようなのじゃ)」
「(オーケーわかった、そう言うことか。大方久保の本性を知ったんだろうな)」
「(そのようじゃの。で、中林は明久を一方的に恋のライバルじゃと決めておるらしい)」
「(当の明久本人は何の事かさっぱりなわけか。随分一方的な三角関係だな、おい)」
「(正確には、姫路&島田⇔明久←久保←中林じゃの。明久たち以外は入る余地のない一方通行な恋模様じゃな……中林が不憫で堪らぬわ)」
「「(やれやれだな(じゃの)……)」」
それと何だろう?雄二と秀吉の僕と中林さんを見る目が妙に優しい気がする。と同時に、一瞬怖気が……?
「あ、中林さん。今日はよろしくお願いしますね。お互い全力を尽くしましょう」
ここで造が困惑している僕と燃え上がる中林さんの間に入りフォローしてきた。ありがと造、相変わらず空気読んでくれて助かるよ……
「はいっ!今日はよろしくお願いします月野先輩っ!」
「「…………」」
……造が挨拶すると僕の時とは打って変わってきちんと礼(ご丁寧に90度の礼)をして対応する中林さん。こ、今度は一体何だろうか?
「あ、あの……中林さん?自分は確かに一応歳は上ですが、あくまで今は中林さんたちと同学年ですし“先輩”はちょっと恥ずかしいのですが……」
「そんな!先輩は先輩でしょう!?去年引退した先輩達から“月野君には頭が上がらないねー”“あの子の応援ですっごい盛り上がってさー”って言っているのを聞いていましたしっ!」
なるほど。部活動をしっかりしているだけあって、上下関係はしっかりとしているんだね。その点は流石だ。それも造にとっては、すっごく恥ずかしいことみたいだけど。
「で、ですから、自分はそんな大した人間では……(ボソッ)そ、それにテニス部の先輩ってことは———(ごにょごにょ)お世話になったってそれ無理やり自分をチアとして参加させられた時のことですよね、きっと……」
「今日はよろしくお願いします、月野先輩っ!いい試合をしましょう!」
と、造が何かボソボソ呟いているのも聞かず、再び一礼してからEクラス側のベンチに去っていった中林さん。
- 105時間目 初戦と野球とEクラス〜開幕!召喚野球大会〜 ( No.22 )
- 日時: 2015/07/24 21:09
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「うぅ……聞いていませんね……」
「そだね。てか、中林さんは随分造のこと尊敬しているみたいだけど、何かしたの?」
「い、いいえ。この前会ったばかりですけど」
「「うーん……?」」
これには造も僕も頭にクエスチョンマークを浮かべて、首を傾げることしか出来ない。何だかよくわからない人だなぁ。
「(ん?おい、秀吉。中林のヤツは造には対抗意識は持たんのか?確か久保は造にも興味があったと記憶してたんだが?)」
「(……久保が『月野君は弟を見ているような気分なんだよ』と言うておったらしくての。それで中林は“造は問題ない”と判断したらしい。それどころか、Eクラスを持ち上げる発言をしておったこと、部活の応援に来てくれたこともあり“先輩”として好感が持てるそうじゃ……)」
「(そうか……にしても秀吉?お前なんか少し不機嫌じゃねえか?)」
「(…………気のせいじゃ)」
「(いや、気のせいってお前……)」
「(…………別に、造の義兄弟はワシと姉上だけじゃとは、思うておらんからの?)」
「(…………ひ、秀吉?)」
「(思うておらぬからの?別に、久保に負ける気はないなど思うて————)」
「(い、いやもういい……わかった、俺が悪かった)」
???何やらこそこそ話している雄二たちの方向から、何故か黒いオーラが見えたような?てか、秀吉がちょっぴり黒く見えるけど……気のせいかな?
造Side
一応中林さんやEクラスの方たちへの挨拶も終わり、一回戦の為に準備を始める事に。ゆーさんと中林さんの先攻後攻決めにより、自分たちは後攻攻めになりました。ちなみに最初の科目ですが、グラウンドに向井先生がいらっしゃると言う事は————
「———まず一回は古典勝負ってことだね」
「そですね。あ、先生がフィールドを張るみたいですよ」
『そろそろ始まりますね。それでは……起動(アウェイクン)っ!』
キィイイイイイイイイイイン ボンッ!
向井先生が手を空へと挙げ設定すると同時に召喚フィールドがグラウンドに張られ、お馴染の起動音と共に自分も召喚獣へと成り替わりました。
「あ、造も召喚獣になったね。んじゃ僕も召喚しようかな。試獣召喚(サモン)っ!」
「なら俺も召喚すっか。試獣召喚(サモン)っ!」
ボンッ!×2
自分が召喚獣と成ったことを確認すると、アキさんたちも試獣召喚(サモン)のキーワードを口にします。同時にアキさんたちの足元に幾何学模様が浮かび上がり、その中からアキさんたちをデフォルメした姿の召喚獣が現れます。
《ふむふむ。これが野球仕様の召喚獣の姿何ですね〜》
「今回は野球のユニフォームか。やれやれ、学園長も変なとこに労力を割いてるよね〜」
現れた召喚獣はバットとグローブを持ち、ユニフォームを着た本格的な野球仕様。あはは♪それだけ学園長もこだわりがあるってことですよ。
「操作の一部は自動的になっているらしいな。ま、そうじゃなきゃ野球なんて出来っこねえだろうしな」
《まあ、自分とアキさんは別系統のシステムで動くそうですがね》
「あ、そうなんだ。……それにしても造。今回はちゃんとバットとグローブが出たね」
「む、そのようじゃの。ワシも明久と同じくまた箒で野球をするとばかり……」
《さ、流石にそれは厳しいですよ……まあ一応、いつもの箒と特性は一緒で召喚されたバットとグローブに『点数を消費して風を起こす能力』は付属されていますがね》
……ん?ってことは、自分は腕輪で空を飛ぶなら————バットかグローブに跨らければならないのでしょうか?しゅ、シュールですね……?
「まあシステムについてはワシらが気にしても詮のない話じゃろうし、ワシらはワシらの目の前の試合に集中しようぞ」
「それもそうだね。経緯はどうあれ、没収品がかかっているワケだし……まだ雄二から、どうやって攻略するのかは全く聞いてないけどね」
確かに……さて、Fクラスの策士:ゆーさんはどう攻略するのやら?
「ん?そういやそうだったな。んじゃそろそろ守備位置、打順、作戦を発表するぞ!お前らよく聞いておくんだ」
と、皆さんに話しかけるゆーさん。やっぱりゆーさんは凄いです。こう言う時の皆さんをまとめ上げる手腕やカリスマ性は、見事としか言いようがありません。皆さん文句も言わずに付いていっていますし。
「基本の守備位置と打順はこんな感じだ」
- 105時間目 初戦と野球とEクラス〜開幕!召喚野球大会〜 ( No.23 )
- 日時: 2015/07/24 21:12
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
———VS 2−Eクラス 守備位置・打順表———
1番 ファースト 木下秀吉
2番 ショート 土屋康太(ムッツリーニ)
3番 ピッチャー 吉井明久
4番 キャッチャー 坂本雄二
5番 ライト 姫路瑞希
6番 セカンド 島田美波
7番 センター 月野造
8番 サード 福村幸平
9番 レフト 須川亮
ベンチ 横溝浩二 近藤吉宗
———なるほど……流石ゆーさんです。ポジションを見ると、中々個人個人のバランスが取れているのではないでしょうか。
「って、あれ?ねえ雄二、僕がピッチャーでいいの?雄二とか瑞希とか造の方が確実でしょ?」
と、メンバー表を眺めていたアキさんがゆーさんに質問をします。
「できるならそうしたいが……俺らが投げて、取れる奴らがいるか?」
「あ……そっか。召喚獣はパワーが桁違いだし、雄二たちが投げて下手をすれば……」
「一瞬で昇天するだろな。細かな設定は知らんがババァの話によると、使用するボールの重さは————まあ実際の重さは無いんだが、持っていると仮定すると結構重めに設定してあるらしい。ただ捕球するだけでも点がごっそり削られるだろうな」
《あはは……点が高すぎるのも考えものってことですかね》
下手をして捕球し損なえば、味方側が戦死してしまうわけですね。それはあまりにリスクが高いでしょうし……
「ならば、造と雄二と姫路たちがローテーションを組むのはダメなんじゃろうか?」
と、ヒデさんが的確な意見を出してきました。あ、確かにそれなら結構いけますかね?と、自分もヒデさんに同意しようとすると……
「す、すいません。私、野球とか全然詳しくなくて……。実際にやったこともないですし……」
「だ、そうだ。今後はともかく、一回戦は姫路はルールを把握して貰う為にもライトに配置している。状況次第で動かすだろうからな。ちなみに俺はキャッチーとして動くつもりだ。全体に指示をしやすいからな」
おお……そこまで計算に入れているんですか。すでにゆーさんの中には勝利の方程式が出来上がっているのでしょうね。
「ん?でも待って。瑞希がライトで雄二がキャッチャーなのはわかったけど、造がどうしてセンターなの?召喚獣として動ける造がピッチャーの方が何かと便利じゃないの?」
《いやいや。召喚技術はアキさんの方がどう考えても上でしょ?だからアキさんがピッチャーなのでは?》
「まあ、一応明久の召喚獣の扱いを見越しているのはある。だが造をセンターに置いたのは……くくくっ、まあ試合が始まればわかるさ」
と、今日一番のゆーさんの物凄ーく悪い顔。この顔のゆーさんはまさか……ちょ、ちょっとこれからが不安なのですが?
《ね、ねえゆーさん?自分に何をさせる気ですか?》
「くくくっ、試合前に教えるさ。……期待してるぞ、造」
…………は、激しく不安ですね?大丈夫かな……Eクラスの皆さん
「以上だ。お前ら、他に何か質問は?」
《ですから自分は何をすればいいんですか?》
「造以外の質問はなさそうだな!」
《無視ですか!?》
自分を完全に無視して、ゆーさんが皆さんに問いかけます。……どうやら自分以外の皆さんは質問はなさそうですね。それと同時にゆーさんを中心にした円陣が自然に出来上がります。そしてゆーさんは全員を鼓舞するように大きな声を上げ———
「よし。それじゃ———いくぞテメェら、覚悟はいいか!」
「「「おうっ!」」」
「Eクラスなんざ、俺たちにとっちゃただの通過点だ!こっちの負けはありえねぇ!」
「「「おうっ!」」」
「目指すは決勝、仇敵教師チーム! ヤツらを蹴散らし、その首を散っていった戦友《エロ本》の墓前に捧げてやるのが目的だ!」
「「「おうっ!」」」
「やるぞテメェら! 俺の———俺たちの、かけがえのない仲間《エロ本》の弔い合戦だ!」
「「「おっしゃぁあああああああああああっ!!!」」」
皆さんの目に炎が灯ります。何だか正直怖いくらい燃えがってますよね……ですが、
「あ、あの美波ちゃん……こうしてみると、なんだか……」
「そうね……ウチらまでそういう本を没収されたみたいよね……」
「ワシも造も、別にエロ本など持ち込んでいないのじゃが……」
《あ、あはは……皆さん、すっごい気合いの入り様ですね……そう言う本の為と言うのは味方のこちらが非常に恥ずかしいですが……》
ま、若いってことなんでしょうかね?何であれ全員やる気十分、やるからには自分も全力でいかせて頂きます。さて召喚野球第一回戦:Eクラス戦スタートです!
《……それで?ゆーさん、結局自分に何をさせるつもりなんですか……?》
「ふっ……待たせたな。造、お前の今回の役回りはな————」
〜雄二作戦説明中〜
「————って感じだ。これはお前にしかできない役回りだからな。頼んだぜ!」
《…………あ、呆れました……だ、大丈夫なんですか?》
「当たり前だ。この為にルールを事前に取り決めたからな。安心して思いっきり頼むな!それじゃ試合が始まるし、ポジションに戻るぞ」
《って!?ま、待って下さいゆーさん、違いますルールが大丈夫かってことじゃなくてですね!…………行っちゃいましたね。本当に大丈夫なんでしょうか?……ルールがどうこうより、Eクラスの皆さんとの交友関係が危うくなりかねませんよコレ……》
- 106時間目 雄二と造と腕輪の力〜反則ギリギリごめんなさい〜 ( No.24 )
- 日時: 2015/07/25 21:43
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
『プレイボール!』
主審を務める寺本先生の声がグラウンドに響き渡り試合が始まる。実際に野球をするのは召喚獣だけど(まあ、造だけは本当に召喚獣になっているけどね)召喚獣を扱うのにはどうしても自身の召喚獣の側にいた方がいい為、必然的に召喚獣と同じポジションに僕らも立っている。不思議と野球をしているような気分になるね。
「しゃーっす!試獣召喚(サモン)っ!」
Eクラスのトップバッターがまさに体育会系の挨拶をしてくる。さて、戦力的にはどんなものやら?
≪Eクラス 園村俊哉 古典 117点≫
VS
≪Fクラス 吉井明久 古典 91点≫
ふむふむ……こんな感じか。以前の僕ならちょっと苦しかったかもしれないけど、瑞希や美波、造たちとの勉強会を行ってきた今の僕なら何とか対処出来そうだね。あ、そうそう。ちなみに今回の試合で使う教科は一回が古典・二回が化学・三回が英語で・四回数学・五回に保健体育と言う感じだ。
早速召喚獣にボールを持たせ、キャッチャーである雄二の指示を待つ。まあ、変化球が使えないので、実質コースと球の速さの指示くらいだろうけど。
と、何をしているのかそのキャッチャーの雄二は『設定(セット)』と呟いている。周りに聞こえないような小さな声だったけど、僕らはアイコンタクトや口の動きだけで会話する技術があるからすぐにわかる……それにしても何を言っているんだろう?
《雄二何してんのさ?てか、早くコースとかの指示をしてよ》
中々サインを出さないし、一先ずアイコンタクトをする事に。
《ああ、ワリィな。ちょいと、な。……コースはここだ》
と、雄二の召喚獣のミットが示す場所を見る。何々……
《って、ど真ん中?いきなり大丈夫なの?》
《ああ、大丈夫だ。向こうも慣れない召喚獣を使っての一球目だぞ?様子見するハズだ》
《あ、なるほどね!》
そう言う事なら真ん中に投げるって指示も納得かな。よしよし、ならちょっと力を抜いた緩い球を投げてみようかな。ストライクを貰えるなら、なるべく後々に力を温存しておきたいし。
《じゃあ行くよ雄二》
《おう。来い明久》
雄二の指示通りのコースにボールを投げる。せぇ……のっ!
キンッ
…………ゑ!?ちょっ!?
『ホームラ————《させませんっ!》……え?』
ゴォッ! パスッ
≪Fクラス 月野造 古典 384点 →Fクラス 月野造 古典 334点≫
『あ、アウトです!アウトッ!』
甲高い音をたて青空へと消えて行きそうだったボールは、造が自身の点を消費することで使用可能な風を起こす能力のグローブ(いつもなら箒だけど)で竜巻を起こし、その吸い込みで見事に捕ってくれた。た、助かった……
にしても…………
「ちゃんと指示しろ、ボケ雄二っ!」
「ちゃんと投げろや、バカ明久っ!」
この野郎、全然言った通りになってないじゃないかっ!何が“大丈夫だ”だよ!造がいなかったら危なかっただろうにっ!
《ハァ……ハァ……い、いきなりですか。ちょっとビックリしましたね》
「つ、造!?大丈夫かの!?」
《あはは……平気ですよ。心配してくれてありがとですヒデさん》
「う、うむ……それにしてもあやつら、いくらなんでも運動部の面子相手にど真ん中のスローボールを投げるなぞ何を考えておるじゃ……?」
- 106時間目 雄二と造と腕輪の力〜反則ギリギリごめんなさい〜 ( No.25 )
- 日時: 2015/07/25 21:23
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
初回からいきなりピンチになるところだった……ワンアウトで2番バッターが現れる。さて、と……
《雄二……キサマ次ミスったら脛バットを叩きこんでやるよ》
《てめぇこそだ明久……次ミスったら尻バットを喰らわしてやる》
サインを確認して、2番バッターに第一球を————
キンッ
————見事に打たれ、打球は大きく伸びて……
『ホームラ————《ま、まだまだああああああああああああっ!》……』
ゴォッ! パスッ
≪Fクラス 月野造 古典 334点 →Fクラス 月野造 古典 275点≫
『え、えっと……アウトです』
……またしても造に助けられた。と言うか、だ。
「「ベンチ!バット寄こせ————ッ!!」」
それぞれがベンチに向かってバットを要求する。またもやピンチなんて……このバカはどこまで使えないバカなのだろうか!
《ぜぇ……ぜぇ……》
「つ、造!?お主無茶しすぎじゃぞ!?休むのじゃ!」
《あ、あはは……平気、ですよ……?》
「造……全く、あやつらは……!」
造がいなきゃ初回から2点も捕られていた。本当にあのバカは造に迷惑をかけていると言う自覚は無いのだろうかっ!?
『ええい、バカ共が!もうお前らには任せておけねえ!』
『造ちゃんを無茶させ過ぎなんだよ!バカが!』
『いや、そもそも吉井と坂本に任せた俺達がバカだった!』
『だな!こうなりゃここから先は俺が投げる!ピッチャー交代だ吉井!』
『なら俺が捕ろう!キャッチャー交代だ坂本!』
キンッ
《ら、らすとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?》
ゴォッ! パスッ
≪Fクラス 月野造 古典 275点 →Fクラス 月野造 古典 201点≫
『スリーアウト!チェンジ!』
ふっ…………け、結果オーライかな……?
「……初回から、めちゃくちゃ危なかったよね?」
「……まあ、な」
造がいなきゃ、すでに3点は取られていたこの状況……あ、危なかった。いやマジで。ある意味大活躍の造はと言うと……
《…………ちょ、ちょっと疲れました……》
「造、ホレ!水じゃ。ゆっくり飲むのじゃぞ……」
《た、助かりますヒデさん……》
結構疲労困憊って感じで、秀吉に介抱されていた。ゴメンよ造……あと、秀吉?
「……次に造をこんな目に遭わせたら……お主ら、本気でどうなるかわかっておるの?」
…………その本気の威圧感(プレッシャー)は止めてください。怖いです。
一先ずベンチに皆で集まって作戦会議をする事に。と、そこにEクラス代表の中林さんが慌ててやってきた。
「ちょ、ちょっと!?何よさっきのは!?いくらなんでも反則何じゃないの!?」
ん?反則?……あ、もしかして造が風を起こしてボールを捕ったあの荒技のことかな?確かに野球とはかけ離れた行為だし、文句の一つもあるのは仕方ないかもね。とりあえず弁解しようとすると……
「おいおい。それは言いがかりだぞ?これは召喚獣を使った野球大会だ。腕輪の使用や、召喚獣の特性を利用した攻防は原則認められている」
「ぐ……で、でも!」
「これでも学園長や審判共には事前に確認済みだ。不満があるなら学園長に通しな。それとも何か?」
「な、何よ……?」
と、雄二が物凄く悪人面でこう言った。
「———アンタはあそこでへばっている造のやったことが、反則になるとでも?もしアンタがそう言うなら……造はとんだくたびれ儲けだな」
「っ!ひ、卑怯な……!」
造を尊敬しているであろう中林さんに向かって非常に効果的な煽り方をする卑怯で卑劣なこの男。うん、そうだね中林さん。味方の僕でさえそう思うよ。
「言っとくが、造のアレは点数消費型だ。てなわけでこっちだけメリットがあるわけじゃねえんだ。それはわかっておいて欲しい」
「うぅ…………で、でもそれは……」
それでも納得がいかないのか、中林さんが雄二に突っかかろうとすると……
- 106時間目 雄二と造と腕輪の力〜反則ギリギリごめんなさい〜 ( No.26 )
- 日時: 2015/07/25 21:26
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
《あ、あのぅ……中林さん。やっぱりコレちょっと反則気味ですし、納得いきませんよね……?》
「えっ!?せ、先輩!?」
ふらふらの状態で造が会話に参加してきた。体力的に大丈夫なのかな造……?
《ホントごめんなさい……自分もやっぱり普通にやった方がいいですよね?今度からちゃんと————》
「い、いいえ!大丈夫です!先輩はお気になさらないでください!」
それだけ言うと、またきちんと礼をして中林さんはEクラスのベンチに戻っていった。どうやら造のお陰でさっきのプレイは反則にならずに済みそうだね。これで一回の表は何とかなった。色々とホント助かったよ造。
《え、えっと……良いのでしょうか?》
「くくくっ、良いんだよ。向こうさんが大丈夫って言ってんだ。それに俺らは別にルール違反をしているわけでもないしな」
……そして心底思った。雄二は本当に根が外道なんだと。
造Side
皆さんの没収品を賭けた召喚野球大会。一回戦はEクラスとの戦いです。現在二回表ですが流石に運動部さんたちが集るクラスとの戦いだけあって、中々一筋縄ではいかない様子。
【Eクラス VS Fクラス
2 —— 2 】
一回の攻撃はアキさんとゆーさんが2点を入れてくれましたが、二回に入りEクラスの皆さんはホームランは自分の風で捕られてしまうとわかっているが故にEクラス持ち前の運動センスを魅せ、ヒットやバントで攻めてられてあっという間に同点の2点を入れられました。流石部活生の多いクラス、敵ながらとても上手いですね。
キンッ パスッ!
『スリーアウト!チェンジ!』
とりあえず少しでも高く上がったボールは、風を起こして何とか捕球します。うぅ……結構苦戦しますねこれ。
「ふぅ……中々手強いね、Eクラスは」
「ああ……正直最初は舐めてたぜ。こりゃ、ちょっと流れを変えて貰うかな。なぁ造よ」
ベンチに戻り攻撃の準備に取り掛かっていると、ゆーさんがこちらを見てニヤリとしています。こ、これって……この合図ってまさか———
《……ゆーさん?まさかとは思いますが……》
「おう!造……こっからがホントのサプライズだってことをEクラスにわからせてやりな!」
や、やっぱりですか……正直、コレはさっきの自分のプレイより更に反則ギリギリのプレイだと思うのですがね……
「ホレ!造がトップバッターだろ?アイツらに目に物見せてやんな!」
と、ゆーさんは自分の背中を押して送り出します。し、知りませんよ?どうなっても……とりあえずはバッターボックスに向かうことに。
『???ねえ雄二?造に言っていたサプライズって?』
『フッ……まあ見てな。Eクラスの連中を動揺させてやるから』
『動揺ねぇ?まあどうでもいいけど、造はさっきから風を起こしてボールを捕っていたせいで、今あんまり点がないよ。大丈夫なの?』
『あぅ……すみません明久君。私のフォローを月野君にしてもらったから……』
『あ、いや。瑞希のせいじゃないって。僕もガンガン打たれたし』
『お前ら安心しな。寧ろ造の点が削られているってとこが今回の作戦のミソだしな』
『『???』』
審判の先生に頭を下げて、バットを構えます。ピッチャーは……うぅ、中林さんですね。正直彼女には本当に申し訳ないのですが……
≪Eクラス 中林宏美 化学 115点≫
VS
≪Fクラス 月野造 化学 89点≫
……確か自分の化学の点は400点台だったのですが、大分さっきの守備で点が無くなっていますね。姫路さんの方へいったボールを無茶して捕ろうとしたりしたツケがきましたか。
- 106時間目 雄二と造と腕輪の力〜反則ギリギリごめんなさい〜 ( No.27 )
- 日時: 2015/07/25 21:55
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「点数が減っている今なら、確実に先輩に勝負できますっ!先輩には悪いですが、ここは抑えさせて貰いますよ!」
自分の点を見てここは勝負と考えたのでしょう、中林さんはそう言って召喚獣にボールを投げてさせます。
『ストライクッ!』
……ふむ、宣言通り勝負してきましたね。今の自分なら簡単にアウトが取れると判断なさったんでしょう。今の自分なら、ね?
続く二球目も真っすぐに投げてきました。……敬遠はなさそうですね。
『ストライク、ツー!』
チラリとゆーさんの方を見ると————すでに準備は良いようです。アイコンタクトで『次に仕掛ける。やっちまいな!』って合図を送ってきました。ほ、ホントに知りませんからね?
「それじゃ……これで終わらせてあげます先輩っ!」
そして中林さんが、三振の為にボールを投げてきます。……先に心の中で謝ります。中林さん、ゴメンなさいです。
『よっしゃっ!造、思いっきり行きな!再設定(リセット)っ!』
『『『…………え?』』』
キィイイイイイイイイイイイン! ポンッ!
≪Eクラス 中林宏美 化学 115点≫
VS
≪Fクラス 月野造 化学 89点 →Fクラス 月野造 化学 422点≫
「んなっ!?な、何で……点が戻って……!?ま、待って!待ってくださ———っ!?」
と、ゆーさんの一言で突如“消費していた点数が最初の点数に戻りました”。急な変化に動揺した中林さんの使役する召喚獣から放られたボールは……まさに絶好球。
キンッ
『ほ、ホームラ———ン!』
【Eクラス VS Fクラス
2 —— 3 】
……甲高い音と共に、打球は青空に消えて行きました。や、やり過ぎでしたかね?ホームへと還り、皆さんが唖然としているベンチへと戻ります。
「よしよし、良くやってくれたな造」
《正真正銘の騙し討ちですし、気が気でないですよ……》
「勝てば正義だ、気にすんな!」
ゆーさんが頭をガシガシと撫でます。全く……本当にゆーさんは奇想天外な作戦を考える人なんですから。
「て、点数が回復した!?雄二、造!何をやったのさ!?」
「そ、そうよ!何がどうなっているワケ!?」
と、そこで皆さんが我に返り、自分とゆーさんに詰め寄ります。うーん、自分が何かしたわけではないのですがね?
《あー……ゆーさん、説明お願いしますね》
「ん?ああ、そうだな……簡単なことだ。俺の腕輪を使ったのさ」
「え?坂本君の腕輪ですか?でも坂本君は化学は400点を超えていないので腕輪は……」
「いや姫路、そっちの腕輪じゃない。明久と造に“白銀の腕輪”があるように……俺には“黒金の腕輪”があるだろ?」
「「「あっ…………」」」
「思い出したか?肝試しの時の賞品の腕輪の事を。ま、能力はまだお前らに見せていなかったがな」
そう言って腕につけていた三年生との肝試し大会の際賞品として贈られた黒金の腕輪を皆さんに見せるゆーさん。中々使わなかった為、皆さん結構お忘れでしたでしょう。ゆーさん自身も使う機会がなかったそうなので仕方がないでしょうが。
「そ、それでその腕輪ってが出来るの?」
「そうだな……この黒金の腕輪の能力は、場の状態を覚え込ませればキーワード一つでその状態を再現させる能力。簡単に言えば場にいる召喚獣の点数の再設定、つまり点数をも回復出来る代物だ。どんなに点が減っていても、戦闘不能にさえならなきゃ元通りの能力ってことだな」
そう、この腕輪のお陰でさっき消費して100点未満に落ちていた点数も、最初の点数の400点台に元通り。お陰で楽にホームランが出来ました。
- 106時間目 雄二と造と腕輪の力〜反則ギリギリごめんなさい〜 ( No.28 )
- 日時: 2015/07/25 21:53
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「場の状態を覚え込ませて……元に戻す……?どういうこと?」
「わかりにくいか?身近な例でいうとゲームのセーブとリセットって思えばいい。ゲームをセーブしておけば、どんなに敵が強くてやられそうになってもリセットボタンを押すとセーブ地点に戻るだろ。アレと一緒だ」
ゆーさんがアキさんにわかりやすいようにゲームの話で例えます。その話で理解したアキさんは先ほど以上に驚いてゆーさんにこう尋ねます。
「ええ!?それって無敵じゃないの!?」
《あ、いいえ。それがどうやらデメリットも多いようなんです》
「その通りだ。何せ普通だったら場の全ての、つまり“相手側の召喚獣の点も”回復させちまう。あらかじめ『設定(セット)』のキーワードを使わなきゃ再設定は出来ないし、おまけに一度使えばフィールドを張りなおさない限りもう一度は使えない。結構原理がややこしい上に面倒な手間をとるものだな」
正直に言うとこの腕輪は中々使いどころが難しいもの。腕輪の所有者であるゆーさんですら諸刃の剣だと仰っていましたね。使うタイミングを誤ると、フィールドを別のところで張りなおさなきゃ使えない腕輪です。おまけに間違って相手の召喚獣も回復させたらとんでもない事になるでしょうし。
「ん?じゃあ何でここで使ったの?Eクラスの人たちも回復させたら危なくない?」
と、アキさんがゆーさんにそんな質問をします。まあ、確かにいつもの試召戦争ならそうでしょが……
「おいおい、明久。良く考えてみろよ?これは試召戦争のような“相手の点数を減らして倒す”ものじゃなく“召喚獣を使った唯の野球”だろ?」
「あ……」
「お前も気づいたな。そうだ、造の召喚獣のもともとの特性のような“自身の点を使用して風を起こす”能力でもない限り、そうそうに相手も自分も点数の消費は無い。ここでは造の消費した点数のみが回復出来るって寸法だ」
ついでに言うと、ゆーさんの持つ黒金の腕輪の欠点である”一度使えばフィールドを張りなおさない限りもう一度は使えない”と言う設定も、“各試合に於いて、同種の科目を別イニングで再び用いる事を認めない”というルールでカバーしてあります。
つまり、一回が終わると別の教科になるわけですし、フィールドも張りなおされ再び腕輪が使えると言う仕組みです。本当にゆーさんは先を見通しているんですね。まさかルール設定の中に、こんなことまで考えているなんて……
《だからゆーさんは先にこう言ってたんですよ。『守備で思いっきり点数使って守ってくれ。そうすりゃ相手も造が攻撃する時、造の点数が減っている事に油断して造と勝負するだろうからな』って》
「「「…………(ズルイ)」」」
「はははっ!上手く行って何よりだな!……おっと、また中林が抗議に来たな」
と、そこにやはりさっきの事で抗議に来た中林さんが。いや、本当にすみませんです……
「ちょ、ちょっと!?流石に今回のは無しでしょ!?折角減っていた点数が元に戻るなんて、召喚獣を使った野球であっても認められないわよ!?」
「ふっ……なーに言ってやがる。中林、お前はちゃんとルールを読んだか?」
「る、ルールを……?一応一通りは読んだけどそれが?」
「ならちゃんと書いてあるぜ?“腕輪の使用は認める。ただし他人の召喚獣の点を故意に削る目的に使用した場合は、反則としてそのものを退場させる”ってな!」
「んな!?あ、アンタ……そこまで考えて!?」
「今更変更は出来ねえはずだ!教師どももそれがわかっているからな!」
…………どうしてでしょうか?ゆーさんが物凄く悪い人に見えますよ……?
「これも作戦の内だ。悔しいならお前もとっとと何か策を考えな!」
「…………い、いいわよ!私たちは私たちで、全力でアンタたちを打ち破るから!」
そう言って中林さんは戻っていきました。うぅ……すみませんです。
「よしよし……造のお陰で流れはこっちにある!このままのペースで行くぞっ!野郎どもっ!目指すは俺らの戦友《エロ本》の奪還だっ!わかってんな!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
一点のアドバンテージを得た事により、再びFクラスが燃え上がります。それにしても本当に……
《何だかEクラスの方々に申し訳ない気がします……なんせそう言う本の為に、ゆーさんの全力で潰されようとしているんですし》
「確かにの……今度再び謝罪にでも行くしかあるまいの」
密かにヒデさんと共に溜息をつきます。本当にこのFクラスの皆さんは欲望に忠実なんですからね……
……その後科目数学の3回は島田さんがきっちり抑えました。それでも向こうには体育で負けられない意地があるのか4回表で執念の1点を取り返すも、最終回表はアキさんとゆーさんの見事なコンビネーションに抑えられて、最後の科目の保健体育でこーさんがきっちりと1点を入れてFクラスの勝利となりました。
「うぅ……なんか、納得いかないわ……こ、今度は絶対に負けないんだから吉井に坂本ッ!」
「いや……雄二はともかく何で僕、中林さんに目を付けられてるの!?」
一回戦終了後の中林さんの悔しそうな顔が忘れられません。本当にごめんなさい、中林さんにEクラスの皆さん。今度きちんと謝罪に行きますね……
「はっはっは!やっぱ野球は騙し騙されが付き物だな!」
……ゆーさん、どうもゆーさんの野球のイメージ変わっている気がするのですが……?とにもかくにも召喚野球大会一回戦:Eクラスとの戦いは、Fクラスの作戦(?)勝利で幕を下ろしました。
「吉井……坂本……アイツらほんっと覚えておきなさいよ……!」
…………何だかとんでもないクラス間の亀裂を残して。
- 107時間目 二人三脚・三人四脚〜ドキドキのくじ引きです〜 ( No.29 )
- 日時: 2015/07/26 21:09
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
「お。戻ってきたか。造、明久」
「ご苦労じゃったな、造に明久よ」
「…………お帰り」
「はい、ただいまです皆さん」
「あ、うん。ただいま」
偵察を無事終えて、中央グラウンドに自分とアキさんが戻ると皆さんが温かく出迎えてくれます。ん?自分がアキさんとどこに行ってたかですか?それはですね……
「それで3−Eと3−Fの試合はどうなってる?俺らの対戦相手は決まったのか?」
早速ゆーさんが自分らに偵察結果を尋ねます。そう、この時間体育祭のプログラム的な意味でも手の空いていた者同士、偵察部隊としてアキさんと自分で次に戦う予定の3年生の試合を見てきました。ちなみにその三年生同士の戦いは、グラウンドで体育祭があっているので場所の都合上体育館で行われています。
「それが……まだ試合中なんですよ」
「そうなんだよね。延長に入ってるし……もしかしたらドローかもよ。だったらラッキーだよね」
と、アキさんと二人で報告します。アキさんの言っているラッキーと言う意味は、時間の都合上今回の野球大会は7回までに決着がつかない場合に引き分け、つまりドローになるということ。まあ両者引き分けと言えば聞こえは良いのですが、その場合はトーナメント表で両者敗退扱いとなるわけでして。
「ふむ。それならば次の試合は不戦勝になりうると言うわけじゃな?」
「いや、それでも一応試合がある事を前提に考えておくぞ……確か、次の勝負は数学・物理・現国・政経・地理だったよな」
と、ゆーさんがプログラムを見ながら確認します。おお♪英語がない上に現国が!これは結構暴れられるかもですね!あ、でも逆にこーさんは……
「…………保健体育が無い」
「って事はムッツリーニは体育祭の競技の方に参加?」
「そうだな。2回戦はそうしてもらうか。まあ、多少の情報収集もついでに頼むなムッツリーニ」
「…………了解」
と、こーさんが抜けることとなりました。これってやっぱり得意教科・不得意教科で、誰をどこに入れるのか頭を悩ませますよね……そこはゆーさんの腕の見せ所ってところでしょうか。
「ふむ。とりあえず打順や守備位置をかなり弄る必要があるな……最初の科目が数学だし島田を1番のピッチャーに配置。2番に須川あたりか。アイツはバントが得意そうだからな」
「僕はどうなるの?数学は苦手なんだけど?」
「数学も、だろ?ま、お前には操作技術があるから、この際3番のままでバントでもして貰うぞ。上手くいけばここで1点だ」
「りょーかい。任せてよ」
気がつけばどんどん皆さんのチームの配置を考えつくゆーさん。こう言う時のゆーさんって活き活きしてますよね。根が指揮官や監督向きなんでしょうね。
「あ、自分の守備位置はどの辺が良いでしょうか?」
「造は今回もショートだ。お前の鬼門の英語もないし、フルで頑張ってもらうからな」
「了解ですよ、任せてください」
「ワシはどこへ行けばいいのじゃ雄二よ?」
「秀吉は結構小回りが利くからな。セカンドにでも行って貰う」
と、いつものメンバーで打順や守備位置を話合っていると……
「「あ、あのっ!アキ(明久君)っ!」」
……何やら妙に真剣な顔をした姫路さんと島田さんがアキさんに迫ってきました。ハテ?一体どうしたんでしょうか?
「ん?どうしたの、瑞希に美波?」
「えっと……大した用じゃじゃないんだけど、ね」
「その……明久君は、何番ですか?」
……何番?えっと、打順の事でしょうか?ひょっとして姫路さんたちも没収品を取り戻す事に必死なんでしょうかね?その割には先ほどのEクラス戦では今ほど真剣ではありませんでしたが……
「何番?……ああ、3番だよ。ナンバースリー」
「「はうぅっ!!」」
アキさんのその言葉に、がっくりと肩を落とすお二方。よくわかりませんが、アキさんの打順に不満があるってことなんでしょうか?そこまで落ち込む意味は全く分かりませんが。
- 107時間目 二人三脚・三人四脚〜ドキドキのくじ引きです〜 ( No.30 )
- 日時: 2015/07/26 21:12
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「うぅ……確かに瑞希とアキとウチの3人の三人四脚は流石に低い確率だと思ってたけど……」
「酷いです、あんまりです……せめてどっちかだけでもペアになれれば良かったのに……全員バラバラなんて」
「ウチらならいくら確率が低くても、絶対いけると思ったのに……」
「堂々と引っ付く事の出来るチャンスなんて滅多にないですのに……」
「「…………はい?」」
な、何の話でしょうか?よくわからずにアキさんと首を傾げていると……
「ああ、そういう事か。安心しろお前ら。明久が言ってるのは打順の事だ。二人三脚のクジはまだ引いてないぞ」
「「え?」」
「「は?」」
と、事情を察してくれたのかゆーさんがそう言ってくれます。ですが二人三脚?一体何の話何でしょうか?
「む、そう言えばこの二人に言うておらんかったの……二人とも、アレを見てみい」
と、ヒデさんが指差す先には……
『頼む……!なんとか最高のパートナーを……!』
『いいから早く引けよ。後がつかえてるんだから』
『わかってるから急かすなよ……!よし、これだ————チクショオォォォォッ!』
『『『っしゃああああああ!ざまぁみやがれええええええええええ!』』』
…………皆さん一体何をやっているんでしょうか?小さな箱の中身をめぐって一喜一憂しているクラスメイトの姿がそこにはありました。
「えっと、あれって何やってるのかな?」
「まあ、ただのクジ引きだな」
「いえ……それは何となくわかるのですが、何のクジ引きをやっているんですか?」
「次の二人三脚のペア決めじゃな」
「あ、そう言えば次は二人三脚でしたね」
「ふ〜ん。そうなんだ」
召喚野球に力を入れている自分たちではありますが、本来は体育祭がメインですからね。二人三脚も大事な競技、こちらも忘れず頑張らないといけないのは分かりますが……何だか大して興味がなさそうなアキさんですね。まあ、基本アキさんやゆーさんは没収品を取り戻す事の方が本命だからでしょうか。
「なんじゃ二人とも?随分落ち着いておるの」
「そですか?自分は基本誰となってもいいですし……」
「そだね。造と同じで、僕も誰がパートナーになっても気にしないから。どうせ男女別になってるだろうし———」
「言い忘れてたが、二人三脚は男女混合だぞ?」
「…………試獣召喚(サモン)っ!さあ殺れ!僕の召喚獣!このバカ雄二を血祭りにあげるんだっ!」
と、ゆーさんのその発言に、アキさん物凄くご乱心です。
「落ち着け。そもそも召喚フィールドがなきゃ召喚出来んだろうに」
「じゃあ造!悪いけどフィールド出して!男女混合なんて考え出したこのバカを粛正するからっ!」
「いやいや……出しませんよ。あ、でもそう言うことですか。それで皆さん祈るようにくじを引いていらっしゃるんですね?」
皆さん先ほどから、箱の前で祈りを捧げていた理由はそれなんですね。あまりに熱心でしたし何かの宗教的な儀式の一種かと思いましたよ……
「ぐぅうううううううう!瑞希、美波っ!誰とパートナーになったの!?とりあえずそのパートナーを始末してくるから安心してねっ!?」
「アキさん始末って……その発言は寧ろ不安になりそうなのですがね……?」
「そうでもなさそうじゃぞ?ホレ、見てみるのじゃ造よ。肝心の姫路たちは———」
「「アキ(明久君)ウチら(私たち)のことをそんなにも想ってくれて……♪」」
あらら……アキさんLOVEなこの二人は、アキさんのこの態度も何だか嬉しいようですね。ホントにこの3人は……相変わらずご馳走様です。
- 107時間目 二人三脚・三人四脚〜ドキドキのくじ引きです〜 ( No.31 )
- 日時: 2015/07/26 21:15
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「ったく……明久、先に言っとくが俺も本来は男女混合の二人三脚なんざお断りだぞ?」
「えっ?……あ、ああ!そっか。そんなことしたら坂本翔子さんが悲しむもんね!ゴメンゴメン雄二。ついカッとなっちゃったよ」
「……坂本翔子?ほぅ……良い根性してんなバカ久。とりあえずお前はさっさと異端者として裁かれろや」
「へぇ?……雄二はどうやら、そんなにも異端審問会の審判を受けたいようだね?」
そして相変わらずなこの二人。本当に仲が良いのやら悪いのやら?
「って、雄二なんかと話している暇はないんだった!瑞希、美波!待っててね、二人の引いたくじは僕が引き当てるからっ!」
そう言ってアキさんはくじ箱の方へ駆け出して行きました。
「あらあらアキさんたら……結構独占欲がお有りなんですね〜」
「そうじゃの。それにしても……あやつは姫路たちの引いたくじが何番かわかっておるのじゃろうか?」
「……あれ?そう言われれば……」
「と言うかだな、それ以前に姫路と島田が違う番号であった以上、二人の引いたくじを二つとも引き当てるのはまず不可能な事に、アイツは気が付いてないようだがな」
「…………その辺はやっぱり明久らしい」
と、しばらくして物凄く落ち込んだ顔のアキさんが戻ってきました。あらら……その様子だと———
「どっちも……ダメだった……ゴメンね二人とも」
「そ、そんなことないわ!ウチらだって……」
「そうですよっ!明久君が悪いわけではないんですし!]
———まあ、こうなる確率の方が大きいですし。残念でしょうが仕方ないですね。
「全く……これだから貴方は詰めが甘いのです!それでしたら、お姉様とペアになった豚を買収するか……」
「そうだね、それか二人のパートナーになる相手を再起不能にしておくしか出来ないよね……」
「ふむ、貴方も最近は多少はわかってきているみたいですわね。そうです、お姉様のペアにあの小学生か木下さん以外の豚がなろうものなら……」
「……穏便に買収。上手くいかないならとりあえず滅すれば良いワケ、か。ゴメン清水さん、その時は手伝ってね」
「仕方ありませんね、お姉様のため、手を貸してやりましょう」
あの……アキさん&清水さんは物騒なものを持って物騒な事を言わないでくださいね?本気かと思うじゃないです———あれ?
「「「「(なんで清水(さん)がここにいるんだろう……?)」」」」
…………いや、まあ今更でしょうかね?清水さんが島田さんLOVEなのはわかりきっている事ですし。
「えっと……ちなみに皆さんは何番だったのですか?」
「あ、その……私は7番です」
「ウチは……6番よ」
「あちゃー……姫路さんと島田さんは番号順的には惜しかったんですね。それでアキさんは?」
「あ、僕?えーっと……?“ラスト:3人”って書いてあるんだけど?」
???ラスト:3人?ってことは……最後に3人で走るってことでしょうか?
「ほう?明久はそれを引いたのか。クラス人数の都合上、二人三脚の最終走者は確か二人三脚じゃなくて、三人四脚だそうだ」
「うぅ……本当ならウチと瑞希とアキで三人四脚をやりたかったのに」
「残念です……どうして私はこう言う時のくじ運がないんでしょうか」
あらら……確かにその三人四脚なら、三人で走れて最高に良かったでしょうね。姫路さんも島田さんも、きっと三人仲良く体育祭を楽しみたかったでしょうし。
「……折角、アキともっと仲良くなるつもりだったのに」
「……明久君の胸とかお尻とか触るチャンスでしたのに」
…………!?し、島田さんはともかく姫路さん今何か言いま————いえ、気のせいってことにしておきましょう。自分は何も聞いていません。ええ、聞いていませんとも!
「おっと、そう言えば自分もまだくじを引いていませんね」
「そういや俺たちもまだ引いてなかったな。アイツらが落ち着くのを待っていたらすっかり忘れてたぜ」
「ワシもじゃな」
「…………同じく」
彼女の過激な発言は置いておくとして、大事な競技の一つですし自分たちもくじを引きに行く事に。
「こうなれば……造と秀吉が瑞希と美波のくじを引いてくれる事を祈るしか出来ないっ!頼んだよ二人とも……!」
「そうですわね……まずはこのお二人に託しましょう。それでもダメなら、美春が出ますわ……」
…………アキさんに清水さん。それではまるで自分とヒデさんが、男として見られていないように聞こえるのですがね?それどう言う意味か後でじっくり聞かせて貰いますからね。まあ、それは後でにして、今はクジ引きですね。
皆さんが固唾を呑む中、まずはヒデさんがくじを引きます。さて引いたくじには何が書かれているのでしょうか。
「む……6番のようじゃな。島田とペアじゃな」
「「よしっ!!流石は秀吉だね(木下さんですわ)!」」
ふむふむ……まずはヒデさんと島田さんがペアに。他のちょっぴりやましい男子と島田さんがペアでないとわかり、アキさんと清水さんが二人でガッツポーズをしています……何だかこの二人って、最近息があってますよね?島田さんのペアの相手がヒデさんとわかって安心したのか、清水さんはさっさとご自身のクラスへ戻っていきました。
ま、まあそれはともかく、次はこーさんがくじを引きます。少しガサゴソとこーさんは箱に手を伸ばした後……
「…………三人四脚」
こーさんが三人四脚ってことはアキさんと一緒ですね。後はゆーさんと自分が残っていますし、姫路さんとのペアかアキさんとこーさんと一緒ってことですか。
「最後は自分とゆーさんですか。どうします?ゆーさんが引きますか?」
「あー、めんどくさいし造。出来ればお前が引いてくれ」
「はいです、それでは自分が……」
- 107時間目 二人三脚・三人四脚〜ドキドキのくじ引きです〜 ( No.32 )
- 日時: 2015/07/26 21:21
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
こう言うクジ引きの時って何だかドキドキしますね〜♪まあ、くじを引くと言ってももう自分とゆーさんの分しか残っていないので、実質は2枚しか残っていないのですが。それでは先に手に触れたこのくじにしましょうね。
「……ふむ、三人四脚ですか♪」
ってことはアキさんとこーさんと一緒ですね。くじを引き終わり、そう思わず呟いた瞬間に……
『坂本、吉井、ムッツリーニ……またしてもお前らか』
「「「っ!?くっ……もう囲まれたのか……!?」」」
……まあ、予想はしてましたがこうなりますよね。アキさんゆーさんこーさんを取り囲み呪詛を込めて殺気立つクラスメイト達。止めないと暴動怒りますねコレ……
「あの!皆さんっ!」
『『『なんだい造ちゃん!お兄さんに何でも言ってみな!』』』
自分の一言にさっきまでの鬼のような形相から満面の笑みを浮かべそう返すクラスメイトさん方。と言いますかお兄さんって……一応言っておきますが、皆さんより自分は年上ですからね?
「…………えっと、自分小さいですし小柄なこーさんとバランスのとれたアキさんとじゃなきゃ三人四脚なんて出来ないんですよ。ここは自分に免じてアキさんたちを許していただけませんか?」
『『『ぐっ……そ、それは……』』』
「お願い……しますです……」
『『『…………吉井、ムッツリーニ。終わったら覚悟しておくんだな』』』
よかった……皆さん何とかこの場は抑えてくれまし————
『『『ただし……坂本ォッ!お前は別だ、逃がさんぞ!捕らえて血祭りじゃああああああああああああ!』』』
「くっ!さらばだっ!」
————全然、抑えていませんね……ゴメンなさいゆーさん。フォローするのが遅れて……
「ふぅ……造助かったよ」
「…………感謝する」
と、こちらは助かったアキさんとこーさん。いえいえ……あれ?
「そう言えばアキさんは何だかさっきより落ち着いてませんか?」
「む?そういえばそうじゃの。明久よ、お主さっきまで“姫路と島田のパートナーは抹殺する”と言うておったじゃろう?」
「あはは♪雄二なら大丈夫だよ。だって僕がそんな事しなくても霧島さんが」
『……雄二、浮気は許さない』
『って!?しょ、翔子!?どこから湧いて出た!?』
『……ナース服とチャイナ服、どっちを着て二人三脚に出たいの?』
『どっちも嫌に決まってんだろ!?』
「霧島さんが雄二を(社会的に)殺ってくれるから」
「「…………ゆーさん(雄二)、南無三です(じゃ)」」
ずいずいとゆーさんにコスプレ衣装を押し付ける霧島さん。あれは……いろんな意味でキツイです……このままではまたもや文月新聞にゆーさんの奇行が取りざたされること間違いなし、でしょうね。
『……ところで雄二』
『おい待て翔子。俺の服を脱がしながら何もないかのように話を進めるな』
『……お義母さんから何か預かってない?』
『ん?おふくろから?ああ、あれなら』
脱がしながら話をする霧島さんと、抵抗しながら普通に答えているゆーさん。どっちも凄いですね。凄いの意味が別次元に行っている気がしますが。
『……あれなら?』
『持ち物検査の日にお前の持っていた袋に入れておいた』
『……袋って』
『あの催眠術とか黒・白魔術とかの本が入っていた袋だ』
『…………本当に?』
『本当だ』
『……嘘じゃ、ない……?』
『嘘じゃない』
『…………』
『?どうした翔子。それがどうかしたのか?』
『……んて……とを……』
『だから、どうしたと————』
『……なんて事を、してくれたの……っ!』
ビリィ!
何があったかわかりませんが、霧島さんの乙女の怒りがゆーさんの体操服を綺麗に裂きます。恋する乙女って凄い。
『ちょっ!?おまっ!?何してくれるんだ!?』
『……こっちの、台詞!あの袋中身ごと全部没収されたのに……っ!』
『いや待て!ホントに何の事だ……あっ、待てって!?』
『……雄二の……バカ……!』
と、いつものメンバーが呆然とする中、霧島さんは物凄い早さで去っていきました。???一体何がどうしたんでしょうか……?
「雄二。一体何やったのさ?」
「ああ……どうも俺のせいでおふくろに預けていたものを没収された雑誌類と一緒に没収されたらしいが……」
アキさんがゆーさんの元に駆け寄り、一先ずアキさんのジャージを渡してゆーさんに尋ねます。それにしても、没収品ですか……
「預けていたもの、ねえ」
「……随分大事な物だったのではないでしょうか?あそこまで動揺している霧島さんは……あんまり見た事がないですよ?」
それこそ如月ハイランドの時並みに動揺してましたし……
「大事なもので、おふくろに預けたものって事は——まさか、婚姻届の同意書か!?」
「……へ?」
「ああ、そっか。雄二も霧島さんも未成年だから、両親の同意が必要。それでせっかく手に入れた同意書を没収されたんだから、そりゃ怒るわけだ」
…………同意書だけで、あんなに怒るでしょうか?あの霧島さんですよ?そんなものまたすぐ作れそうなものですのに……?
「危なかった……!そういう事ならあの持ち物検査に感謝してもふぐぅっ!」
と、安堵し慢心していたゆーさんがクラスメイトからスタンガンの一撃を食らって倒れます。
『連れて行け』
『『『ハッ!』』』
「ちょっ、ちょっと!?皆さん!ゆーさん!?」
あっという間に連れ去られたゆーさん。この後すぐに二人三脚ですのに大丈夫なんでしょうか?いえ、ある意味いつも通りと言えばいつも通りではありますが……
…………それにしても。
「……うーん……?」
「???どうかしたのかの、造よ?」
「あ、いえ……ねえ、ヒデさん?」
「む?何じゃ?……ひょっとして霧島の事かの?」
「ええ……ヒデさんは、今の霧島さんが————同意書だけであんなに怒ると思いますか?」
「……うーむ、何とも言えんの。まあ、一先ずは霧島には悪いがこの事は置いておいて、体育祭に戻らねばならんぞ」
と、時計を見るとそろそろ二人三脚の競技が始まる時間が迫っていました。……仕方ないですね、ここは一旦置いておくとして、体育祭に戻りますか。
『あ、ところでこーさん。話が変わって悪いのですがちょっといいですか?』
『…………?なんだ?』
『少しお願いがあるんですよ。良いでしょうか?』
『…………???』
〜造説明中〜
『———ってな感じです。やっぱりダメでしょうか?』
『…………フッ、面白そうだ。俺も乗った』
『ありがとうです♪こーさん!』
『…………それに貸しを作っておけば、俺の商売の手助けをして貰えるはず』
『……こーさん?あの3人に何させる気ですか?』
『…………何も』
『えーっと、まあほどほどにしてあげてくださいね』
『…………何も』
- 108時間目 天国と地獄の三人四脚〜途中から+1人〜 ( No.33 )
- 日時: 2015/07/31 21:03
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
「…………何これ?どう言うこと?いや、どう言う状態?もしかするとここは天国なの?」
見上げると、瑞希と美波が心配そうに僕を見ている。僕の体操服は真っ赤な血に染まり、流れ出る血は今もまだ止まる事がない。一秒で自分でもこれはもうダメなんだと理解できた。
「明久君!しっかり、しっかりしてくださいっ!」
「アキっ!今日高先生を呼ぶから、それまで耐えるのよ!」
二人が必死に僕に呼びかける。ああ……なんて心地良いのだろうか。大切なこの二人に看取られて、こんな気持ちのまま逝けるなんて僕はやっぱり幸せなんだね……
『『『吉井……吉井っ!逝くなっ!逝くんじゃないっ!』』』
クラスメイトも心配そうに僕を見ているようだ。そう、とても心配そうに————
『『『吉井、お前は……お前はちゃんと拷問してから殺らないと、気が収まらねえんだよっ!死ぬなら俺らが地獄に送って殺るっ!だから勝手に逝くんじゃねえええええええええええええええええ!』』』
————包丁に鎌にロープにスタンガンなどを構えて、クラスメイトたちは僕が勝手に天国へ逝くのを心配そうに(悪意と殺気に満ちた目で)見ていた。瑞希と美波がいるこの空間が天国なら、あっちはリアルな地獄にしか見えない。
……ホントに、どうしてこうなったんだろう?
〜こういう状況になる数刻前〜
「えーっと、とりあえず僕は造とムッツリーニの三人組なんだね。宜しく二人とも」
「ふふっ♪はいです、アキさん。よろしくですよ〜」
「…………宜しく」
二人三脚(いや、僕と造とムッツリーニは三人四脚だけど)のペアも無事に(?)決め終わり、あとちょっとで始まるであろう競技の前に三人で打ち合わせをしておく事に。唯でさえ二人三脚は難しいのに、三人四脚ともなればより高度な技術がいるだろうからね。
「木下がウチのペアね。宜しく頼むわ」
「そうじゃな。宜しく頼むぞい」
と、美波と秀吉も練習の為か僕らの側に来ている。その隣には表情を曇らせる瑞希の姿も。
「私は坂本君とペアですか……足を引っ張ちゃわないか心配です」
「ああいや瑞希、その心配はないんじゃないかな?」
だって多分、まともに走れないだろうし足を物理的に引っ張るのは雄二の方だろうから。さっきちらっと雄二とFFF団の様子を見ていたけど、多分アレはすぐには蘇生できないだろう。瑞希と美波と一緒になれなかったのは残念だけど、組合せとしてはこれがベストではないだろうか。【僕&造&ムッツリーニ】【美波&秀吉】【瑞希&死体(雄二)】ってことになるからね。まともな男女ペアになっているかは疑問だけど。
「まあ、瑞希も美波も一緒にはなれなかったけど、頑張ろうね!いい想い出作りの為にもさ」
「うー……そうね、仕方ないし」
「ですね……今回は我慢しましょう」
多少は残念そうな顔をしている二人だけど、今回は流石にくじ運があるし仕方ないね。そこは割りきってもらって、体育祭を楽しんでもらう事にしよう。
『これより、第二学年の二人三脚を行います。二年生の生徒はスタート位置に集合して下さい』
と、そんなことを考えていると、ちょうど集合のアナウンスが響き渡る。そんなわけでしょんぼりしている瑞希と美波をなだめつつ、僕たちは二人三脚のスタート地点へと歩いて行った。
- 108時間目 天国と地獄の三人四脚〜途中から+1人〜 ( No.34 )
- 日時: 2015/07/31 22:11
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
———二人三脚待機場所———
たくさんの参加者が並びざわめくスタート地点。ちなみに僕は三人四脚だから最終走者として出番を待っている。
『位置について! 用意———』
———パァン
乾いたピストルの音が響き、前方に並んでいる走者が一斉に走り出す。僕らが走るのは最後だから、まだまだ出番は先だけど、ここで一つ問題が。
「造とムッツリーニは……まだ戻ってこないのかな……?」
そう。二人三脚が始まってから、僕と共に走る予定の造とムッツリーニが一向に姿を見せない。二人とも『すぐに戻りますので〜』とか『…………俺も』とか言ってたけど、どこに行ったんだろうか?あんまりのんびりしていると、すぐに出番が回ってくるだろうに。
ちょっと心配になって、二人を探すために一旦参加者たちの集団から抜け出そうとすると……
ポンポン ×2
僕の背中を叩く二人分の感覚が。あ、ようやく造たちが戻ってきたんだね。全く、ちょっと遅いよ二人とも?
「造、ムッツリーニ。二人ともどこに行って—————」
とりあえず、二人が遅くなった事に文句を言う為に後ろを振り向くと……
「え、えっと……ゴメン、遅れて……アキ」
「そ、その……私も遅れてしまってすみません、明久君」
「…………美波……瑞希……?」
……何故かもうすぐ出番のハズの美波と瑞希の二人が、顔を赤くして立っていた。え?あれ?な、何で二人がここに?
「えーっと、どしたの二人とも?そろそろ二人三脚始まっちゃうよ?早く戻らないと————」
「あ、あのねアキ……ウチらその……」
「あ、あはは……明久君、あっち見ればわかると思いますよ?」
二人がここにいる事に混乱していると、瑞希が向こうを指差す。よくわからないけど僕も瑞希の指差す方向を向くと……って!?
僕と一緒に走る予定だった造とムッツリーニが手を振っている。造は本来は美波が組む予定だった秀吉と、そしてムッツリーニは瑞希が組む予定だった雄二(の死体)とペアを結んでいるのが見える。……っておい!?
『(やっほーですよ〜アキさん♪)』
『(…………明久、貸し一な)』
二人とも笑顔でそんなアイコンタクトを送っているけど……いやいや、何で君たちがそっちにいるの!?
「美波、瑞希!どう言うこと!?な、何でこんな事に!?」
「えーっと、その……瑞希行きましょうか?」
「そ、そうですね……では————」
「「回想スタートっ!」」
〜以下女子二名の回想〜
『『ハァ……』』
『島田さん、姫路さん。ちょっといいですか?』
『……ん?月野、どうしたのよ?二人三脚始まるわよ?』
『……あれ?土屋くんまで?お二人ともどうしたんですか?』
『ちょっとやることがありまして。ね、こーさん』
『…………ああ。それにしてもお前たち随分落ち込んでるな』
『『うぅ……だって……』』
『あらら……ふふっ♪ねえお二人とも?』
『…………明久と走りたいか?』
『『…………えっ!?』』
『あ、アキと一緒に走れるの!?』
『ど、どう言うことですか!?』
『おぉ……やっぱりアキさんと一緒に走りたいんですね、わかりましたわかりました。……ねえ、島田さん。自分は“ヒデさんと”ペアでしたよね?』
『……え?』
『…………姫路。俺は“雄二と”ペアだったハズ』
『……はい?』
『よくわかりませんが、どうやら間違えて自分三人四脚のくじを引いてしまったようなんですよ』
『『ま、間違えて……?』』
『ええ。間違えて♪自分は“本来お二人が引くはずの”くじを引いてしまったんですよ♪』
『『っ!?』』
『…………俺も間違えた。だから二人とも』
『『…………(ゴクリ)』』
『『自分(俺)のくじと交換しませんか(しないか)?』』
〜回想終了〜
「————って感じなの」
「そ、その……折角でしたので月野君たちのご厚意に甘えることにしたんです」
「あ、あはは……そっか、造たちが……」
つ、つまりそれは……僕らに三人四脚をさせてくれると言うこと……!?あ、あの二人……やってくれたな!ふっ、いいだろう……一週間は君たちの奴隷になる事を許可しようじゃないか!今なら二人の靴も舐められそうだよ!(それは謹んでお断り(です)byムッツリーニ&造)
「えっと……そ、そんなわけでアキ。よ、よりょしくねっ!」
「そ、その……明久君、よ、よりょしきゅお願いしますっ!」
二人とも、すっごく噛んでるよ?全く、可愛らしいなぁ。まあとにかく今の僕がやることは、造とムッツリーニに全力で感謝すること。美波、瑞希と一緒に体育祭を楽しむこと。そして————
「————うん!よろしくね。美波、瑞希!」
「「ええ(はい)!よろしくね(です)♪」」
『『『よろしくね、吉井♪そう……地獄の閻魔様に夜露死苦(ヨロシク)なァ……!』』』
————僕らの番が来るまで、地獄の鬼と化したクラスメイトから何がなんでも生き残ることだっ!いいだろう、かかってこいやっ!この二人との幸せなロードを駆ける為なら、僕は修羅と化そうじゃないかっ!
- 108時間目 天国と地獄の三人四脚〜途中から+1人〜 ( No.35 )
- 日時: 2015/07/31 21:16
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
「ふふっ♪良かった良かった。アキさん嬉しそうですね」
「やれやれ……何やらムッツリーニと相談しておると思ったら、こんなことを企んでおったのか」
ヒデさんと足に紐を結びながら、ペア替えの真相を暴露します。ふふっ♪折角の体育祭ですもの。アキさんも、それから姫路さんも島田さんも楽しんでもらいたかったいですからね〜♪
「それにしても……造はともかく、よくムッツリーニは雄二とペアになる事を承諾したのう。あやつの事じゃからまた写真を撮る為に、姫路や島田、もしくは不本意じゃが造かワシとペアになることを望むのじゃとばかり思うておったぞ?」
「そうですか?……意外とこーさんも結果的によかったんじゃないかなって思いますよ?」
「む?どういうことかの?」
だって……ねえ?
「こーさんがもしもこれで女子とペアを組んだりしたら———工藤さんがちょっと嫉妬しちゃうかもしれないじゃないですか」
「あー……それはあるかも知れぬの。フッ、何じゃ。それはつまりムッツリーニも意外と工藤を意識しておると言うことかの」
「ふふふっ♪本人は全力で否定しているようですが」
海の一件以来、こーさんと工藤さんがお互い意識しまくっているのは皆さんから見ても、鈍感な自分から見ても丸わかりですもんね〜
「まあ、じゃが造は大変じゃったの。結局何だかんだで、あやつらに振り回されて行ったり来たりと」
「へ?……あ、ヒデさん。そうでもないですよ」
「???何じゃ?また何かあるのかの?」
「だって……そのお陰で———」
「そのお陰で、何じゃ?」
「———そのお陰で、ヒデさんと一緒に二人三脚できますからねー」
「…………っ!?」
そう笑いながらヒデさんに告げる自分。ヒデさんとなら相性良いでしょうし、クラスで一番気の合う友人ですし一緒だと楽しいですからね。
「……造は……ワシと走れて、嬉しいのかの?」
「???ええとても嬉しいですよ。当たり前でしょう?仲良くして貰っているヒデさんと走れるんですからね、嬉しいに決まっているじゃないですか」
「……そうか。嬉しい……のじゃな」
???ヒデさん?大丈夫でしょうか?物凄く顔赤いですよ?
『位置について!用意———』
———パァン
と、スタートの音と共に前方に並んでいたペアが走りだしました。いよいよ自分とヒデさんの番ですね。
「ではヒデさん、頑張りましょうね!」
「……うむ。必ずや勝利をお主に捧ぐからの……」
「えっ!?」
そこまで!?ちょ、ちょっと気合入り過ぎでは!?お、おおぅ……ヒデさんが物凄く燃えてますね……!ちょ、ちょっとカッコいいですね♪ヒデさん、きっと本気で勝ちたいんでしょう。よっし!ここは自分もこれは自分も全力で応えねば!さあ、行きましょう!
『次の組。位置について!』
「じゃあ、行きますよヒデさん!」
「うむ、全力で勝利に向かって突き進むまでじゃ!」
『用意———』
パァン!
大空に鳴り響くピストルの音に合わせ、自分とヒデさんが動きだします。1・2・1・2とお互いリズムよく交互に足を出して、とてもいい滑り出しです。二人三脚で重要なのは相手と呼吸を合わせること。その点自分とヒデさんは普段から(色んな意味で)息が合うので、この競技には敵はいませんと豪語出来ます。そう、自分とヒデさんはそれほどまでに息の合った動きで————
《頑張りなさいな!我が弟たちよ!勝てたらご褒美にお姉ちゃんがハグしてあげるからねっ!》
《負けてもハグするがな!さぁ、行け造にヒデっちぃ!お前らの勝利の女神たちが応援してるからな!》
《《《頑張って!私たちが一生付いてますからねっ!!!》》》
《ちょっと!?先生方に木下さん!?実況をジャックしないでくださいよ!?》
ズザァアアアアアアアアアアア ×2
————息の合った転び方をしてしまいました……あまりに唐突すぎて、思わず顔から行ってしまった自分とヒデさん。あ、あの人たちは何してんですか……!?
《造くん!秀吉!大丈夫!?すぐにお姉ちゃんたちが手当てしてあげるからねっ!》
《ゴールしたらすぐアタシが治療してやるからなっ!ついでにその汚れた服も綺麗なものに変えてやるから安心してな!》
《《《綺麗な……服……♪頑張ってください二人とも!》》》
《ま、マイク返してください先生たち!?実況させてくださ———》
「「…………」」
「あ、姉上も先生方も……何をやっておるのじゃ……」
「き、気にしたら負けですよヒデさん……」
「いや、確かにいつもの事かもしれんが……」
「こうなればやることは決まっています。さっさとゴールして、止めさせましょう……」
「そうじゃの……それが一番の、この状況を打破する手じゃな……」
と、一先ず速攻で立ち上がり、それから最速でグラウンドを駆けて見事にヒデさんと自分は一位を確保しました。ついでに会場の皆さんの笑いも一番に確保してしまいましたがね!?……後で聞いた話ですと、自分ら二人は顔をすりむいた事も重ねて、顔が茹でダコのように赤かったとのこと。
「…………これがホントの赤っ恥ですか」
「…………寧ろ、姉上たちが恥じゃぞい」
ヒデさん共々、何だかとっても疲れる二人三脚でした……精神的な意味で。
- 108時間目 天国と地獄の三人四脚〜途中から+1人〜 ( No.36 )
- 日時: 2015/07/31 21:50
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
造たちが(ある意味)散々な目に遭った後、いよいよ僕と瑞希の美波の三人四脚が始まろうとしていた。……ふっ、ふふふ!はっはっはっ!生き残った……生き残ったぞっ!!クラスメイトと言う名の(嫉妬の)鬼共と渡り合い、死線を潜り抜け(本当に死ぬかと思ったけど)何とかこれで競技に出れるっ!
スタートギリギリまでフルボッコにされかかってたけど、この二人と走れるなら僕も命を賭けられるからね!ああ、本当にありがとう造にムッツリーニよ……
「あの……アキ?アンタもう、何だかボロボロだけど大丈夫なの?」
「明久君、もう見るからに満身創痍ですが……本当に平気ですか?」
おっと……なんて優しいんだろう。二人が心配そうに声をかけてくれる。ここは男として余計な心配をかけないようにしなきゃね。
「大丈夫、大丈夫。ほとんど掠り傷だよ♪」
「「そう(ですか)♪安心したわ(しました)」」
『『『安心した。なら……もっと甚振ってもいいのだな……?終わったら地獄の拷問フルコースを忘れるな、吉井ィ……』』』
瑞希と美波のセリフの後に、殺意に満ち溢れるクラスメイト達がそう続けてくれる。君たちは瑞希たちみたいにもう少し僕を心配してくれると嬉しいな。……あ、いやゴメン。ムサい男共に心配させれるのはちょっと勘弁だねHAHAHA! ←勝利者の余裕
『最終走者。準備して』
と、ここでようやく僕らの出番のようだ。よしよし。折角三人で仲良く競技に出れるんだ。どうせなら勝ちに行こう。
「やろう、二人とも。僕らがトップでゴールするんだ!」
「ええ♪任せなさいアキ。全力を尽くすわ」
「私も出来る限り頑張りますね!」
「そうですわね。美春も頑張ります」
そして僕ら“四人”で固唾を呑んでスタートを待つ。さあ、いよいよ勝負だ。
『位置について!用意———』
パァン!
スタートを告げる乾いた音と同時に僕たちは動き出した。打ち合わせ通り、いやそれ以上に息を合わせて足を出して行く。だんだんとペースを上げて行き、もうこれが四人五脚でないような一体感や疾走感が生まれた。
ああ、そうか。こんなにも呼吸が合っていたのか。だから、だからなんだね————
『『『あれ……?何で2−Fクラス(?)は四人で走ってんだ……?』』』
————僕の横で足を縛っているハズの美波が、清水さんにも縛られている事に三人とも走り出すまで気が付かなかったのは。
「「って、清水さん!?」」
「え?あ、あれ?美春!?アンタ何でここにいるのよ!?」
「決まっているじゃないですか!そこの恋敵がお姉様と走るのに、美春が走らないなんておかしいですもの!美春はお姉様と一心同体です!」
凄い理論だ。きっと清水さんの頭の中には、美波に関する独自の理論が在るのだろう。
「ちょっ!?アンタはDクラスでしょう!?ここにいちゃダメって……きゃっ!?な、何してんのアンタああああああああああああ!?」
「ああ、お姉さま……密着しても決して存在を感じさせない、その奥ゆかしいお胸がたまりません……』
「ドサクサに紛れて何処触ってんのよ!?やっ……ちょっ、シャレになってな———ひゃあんっ!?」
「おおおおおおおお姉様!?なんて色っぽいっ!……美春は感激ですわ!」
そして、物凄く過激だ。ヤバいな……鼻の辺りが熱くなってきた。清水さんにヤラレないように美波が必死で抵抗する。そしてその振動は僕にも、そして僕の反対側で縛られている瑞希にも伝わってきた。
「きゃっ!?し、清水さん暴れないで、下さいっ!?あんまり暴れられると……ぶ、ブラが……」
ブラが……どうしたって……!?いかん、本気でいろいろとマズイ。さっきから清水さんが暴れちゃっているせいで(お陰で?)美波と瑞希の……その、胸の感触が直に伝わってくる。このままじゃ僕のこれからの事で学校ではクラスメイトと、家では姉さんと一緒にお話し(と書いて拷問)されてしまう。
「そうよ!美春、あんまりふざけるとウチも怒るわ———ってちょっとぉぉぉっ!今アンタ背中に手を回してホック外さなかった!?」
「ハァ……ハァ……大丈夫です!お姉さまなら固定しなくても何の邪魔にもなりませんから!」
「い、いい加減にしなさいっ!?美春っ!後で覚えておきなさいよ!」
「はい!美春はこの感触一生忘れません!」
「そういうこと言ってるんじゃないわよっ!さわ……るなっ!……ゃんっ!?」
「や、止めてください!?ホントにこれ以上はブラが……っ!ぁんっ!?」
極めつけが、僕の耳元で聞こえてくる色っぽい二人の吐息。……思春期の僕にはちょっと刺激が強すぎるわけで。今ならムッツリーニの普段の気持ちが物凄くわかる。なんなら鼻血の量で勝負してもいいよ。
《ご、ゴール!一着は2−Fクラス(?)の皆さんです……よね?一人多いですが……》
アレだけ暴れておきながら、気がつけば僕らが一着でゴールしていた。皆一心不乱に走ってたからかな……
「はぁ、はぁ、はぁ……。美春、アンタねえ……!」
「お姉さま、素敵でした……」
「“素敵でした”じゃないわよ!?アンタはウチを辱める気!?」
「それでは美春はこの辺で失礼します!またお会いしましょうお姉様♪」
「あ!コラ!待ちなさい!美春————っ!!」
美波に頭を下げて、脱兎の如く駆け出す清水さん。流石だ、あれだけ走ってまだあのスピードを出せるのか……
「全く、あの子は……瑞希、大丈夫?」
「うぅ……私のブラ、また壊れちゃいました……折角良いの買ってたのに」
「……大丈夫じゃなさそうね、アンタの“胸”は……って、アキ?どうしたのよ。さっきから黙っちゃって」
「あれ?そう言えばそうですよね?明久君どうかしたんですか?」
二人が僕に話しかける中、僕は淡々と足の縛りを解く。だってそうしないとそろそろヤバイから……
「???明久く……!?明久君!?」
「ちょ、ちょっとアキ!?何よその血の量は!?明らかにマズイでしょう!?」
「(ドクドクドクドク)ははっ……平気……だよ?」
何とか気合いで足を解き、二人に笑顔を見せる事に。耐えろ、耐えるんだ吉井明久。苦しくても少なくとも逝く時は笑顔で逝かないとね。
「あ……二人とも、最期に一つだけいい?」
「「最期!?縁起でもないわよ(ですよ)!?」」
まあまあ聞いて。これだけは、ふたりに言っておかないとね。
「えっとね……ちょっぴり刺激的過ぎるから———早くブラ付け直してきて……ね(ガクッ)」
「「アキ(明久君)!?しっかり!?」」
……そして今回のお話の冒頭に戻る。その後のことはホントうっすらしか覚えてないけど、鼻血による大量出血とクラスメイトによる親身な拷問でリアルに三途の川でお爺ちゃんとお話ししてきたような気がする。確か『お爺ちゃん。僕二人も大切な人が出来たんだよ?』って話をした気が……まあ、造が日高先生を呼んで来てくれたから何とか現世に戻ってこれたけどね。
ちなみにグラウンドを真っ赤に染め上げたことと、翌日の『学園一のバカ、吉井明久:今度は三股か!?姫路瑞希・島田美波・清水美春との関係に迫るっ!』って言う新聞記事により一躍僕が(更に悪い意味で)有名になったことは言うまでもないだろう。
『吉井くぅん?キミホントいい根性してるねぇ……?コロスゾゴラァ!』
『『『会長に続けェ!クタバレ吉井っ!』』』
『ええぃ、やっぱりこうなるの!?』
『美波ちゃん!私気づいちゃいました!三股ってことは……私たちって学園中の皆さんから明久君と付き合っているって思われているってことですよね!』
『あ、なるほど……!つまりウチらの仲が学園に公認されてるってことね!流石瑞希、だったらこれって悪い気がしないわね!』
『『『『姫路(さん)……島田(さん)……それでいいのか(いいのですか)……?』』』』
- 109時間目 生贄?懐柔?突破口は〜どうして貴女がここに?〜 ( No.37 )
- 日時: 2015/08/01 21:20
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
クラスメイトからの(恨みと嫉妬がコラボレーションした)私刑と、自身の(興奮して鼻血の出し過ぎによる)大量出血で瀕死のアキさんを何とか目覚めさせて、再び召喚野球に戻った自分たち。
2回戦は結局3−E対3−Fの試合は決着がつかなかったので、幸運なことに自分たちの不戦勝となりました。そして次は……
「いよいよ次は準決勝なわけだが」
「確か、相手は3−Aだっけ?」
「あはは♪図らずも向こうからしてみればこの前の肝試しのリベンジマッチってことになりますね。最近何かと3年生と競い合う事が多いですよね」
召喚野球会場に向かいながら皆さんと準決勝について話ます。相手はツネとナツたち。清涼祭の時と言い肝試しの時と言い、本当に何かと縁がありますね。
「んむ?ということは、2−Aは負けたということじゃな?」
「そうなるな」
「負けたって、あの霧島さんがいるのに?」
……ふむ。姫路さん以上の実力を持つ霧島さんや、高い実力の優姉さんたちがいて2−Aが負けたと言うことは、
「ん〜……まぁ、姫路ほどじゃないが、アイツも野球には詳しくねえからな」
「ふむ……それに、三年にも霧島クラスがおったのかもしれんしの」
あー……確かに三年生にはツネやナツのような実力者もいて、おまけに学年、いや学園の首席であるタカさんや参謀役の小暮さんがいますからね。タカさんと小暮さん———自分にとっては特に小暮さんが非常に厄介。はてさてどう戦うべきか……
「……もし3年生が本気で来るなら、自分らも覚悟しておかないといけないでしょうね。この前の肝試しでは三年生は手加減していましたし。元クラスメイトの自分が自信をもって言えます———相当手強い相手と思って戦わないといけませんよゆーさん」
「その辺は頭に入れておくとすっか。……さて、こんなとこでごちゃごちゃ考えても仕方ないし、さっさとグラウンドへ行くぞ」
「それもそっか。まあ、試合になればわかるだろうし。……ん?ところで雄二?」
「なんだ明久?」
「もし2−Aが勝ち上がってきた場合はどうするつもりだったの?」
あ、それはちょっと気になりますね。負けたとはいえ2−Aはウチにとって最大の目標でもあるんですし。ゆーさんの策って何だったんでしょうか?
「そんなもん決まってんだろ。久保や木下姉を懐柔して11対7で勝負するつもりだった。あれだけデカい弱点抱えてるなら、そこ攻めるに決まってるだろうが」
「「「…………」」」
それは……まさかとは思いますが、自分とヒデさんを優姉さんに売り渡すって意味じゃないですよね……?もしそうなら今後はちょっぴりゆーさんの事を警戒せざるを得ないことになりますが。———って待った、何故に懐柔する対象に久保くんが入っているのでしょうか?
「あの、ゆーさん。優姉さんはともかく久保くんを懐柔する気だったって……それは無理なのではないでしょうか」
「そうだよね。確かに11対7とかが出来るなら成績差なんて跳ね返せるだろうけど、あの真面目な久保君がそんな汚い行為に手を染めるはずがないじゃないか」
と、アキさんと二人で頭にクエスチョンマークを浮かべていると……
「……そうか。そう思っていられるのなら、お前らはその方が幸せかもしれないな……」
「…………知らぬが仏」
「……造は渡さぬ……」
全員が何やら物凄く妙な反応を。一体どう言う意味なんでしょうか……?
- 109時間目 生贄?懐柔?突破口は〜どうして貴女がここに?〜 ( No.38 )
- 日時: 2015/08/01 21:26
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「???な、何ですか皆さん?急に変な目で自分らを見て……?」
「そ、そうだよ?てか前々から思ってたけど、どうして久保君の話をすると皆そんな慈愛に満ちた目で僕らを見るの?」
ヒデさんはちょっぴり黒いですし、ゆーさんとこーさんに至ってはどこか遠くに行ってしまう友人を見送る目で見ています。毎回気になっていましたが、久保くんの話になると皆さんが変な態度をとるのは一体なんですか……?そんな感じで混乱している自分とアキさんを無視して話を続けるお三方。
「して雄二。この試合はどんな作戦で行くのじゃ?」
「ああ。正直に言うといくら3−Aが相手とは言っても、翔子や久保や木下姉がいる2−Aが負けるとは思っていなかったからな。殆ど作戦なんてないんだが……」
「「「「ないんだが?」」」」
「……話を聞くに、どうやら三年にとっても造は知名度が高く人気がある。それならば造をちょいと生贄に捧げれば勝利は俺らの手に————」
「ちょっ!?売られる!?自分売られるんですか!?ドナドナ!?」
ゆ、ゆーさんが怖いっ!?やっぱりさっきの対Aクラス戦の策、本気だったんですか!?や、ヤバいこのままじゃリアルに売り飛ばされてしまう……しかも目的が成人指定の本を取り返すというしょうもない理由だけで……!?
「……雄二。お主覚悟はできて————」
「おっと秀吉に造、一応冗談だぞ。いくらなんでも流石にそれだけじゃ三年の連中は釣れんだろうさ」
せ、セーフでしょうかね……?全く、質の悪い冗談ですよ。一瞬本気かと思いましたもん。…………その。冗談、ですよねゆーさん?
「(まあ、最終手段として考えておくがな)一通りの策は一応考えてはいるんだが、基本は初戦のEクラスと同じだな」
「ん?って言うと雄二、どう言う意味さ?」
「決まってんだろ?またこれを使う。三年の連中に、これを俺に渡してしまった事を、後悔させてやるさ」
と、ゆーさんが対三年生との肝試しで手に入れた黒金の腕輪を見せながら言ってきます。おお……流石ゆーさんですね。もうすでにこの腕輪を手足のように使いこなしていますね。
「…………黒金の腕輪か」
「ってことは造がショートで守ってから、攻撃で回復するって作戦なんだね?」
「まあ、初戦と同じだな……そして今回は姫路が鍵となるだろう」
「「「「瑞希(姫路さん)が?」」」」
???一体どう言う作戦で行くのでしょうかね?
「正直に言うと、俺らがどう頑張っても3年との成績の差は歴然としている。だからこそこっちの最高成績保持者の姫路に頑張ってもらうのさ————アイツのポジションは投手(ピッチャー)だ」
おおぅ……ゆーさん、随分思い切りましたね。と、言いますかピッチャーって中々難しいポジションですが……
「ちょ、ちょっと!?それはいくらなんでも無謀じゃないかな!?瑞希まだ初心者だよ?」
「うむ。明久の言う通りじゃな。おまけにお主もEクラス戦の時に言っておったじゃろう?“姫路が投げても捕れる奴はいない”と。下手をすれば点が削れて戦死してしまうぞい?」
と、お二人が的確な事を言ってきます。ですよね……本当に大丈夫なんでしょうか?
「安心しろ、明久に秀吉。一回は姫路に慣れさせるために最初と同じく明久がピッチャーだ。そんで様子を見て姫路に変える」
「う、うーん……まあ、それなら良い……のかな」
「ではキャッチャーは?姫路さんの球を捕れる人って残念ながらこのクラスには一人も———」
「フッ……なーに言ってやがる。ちゃんと一人いるじゃねえか。俺の目の前に」
と、そう不遜に笑うゆーさんが指差す先にいるのは……えっ、嘘!?じ、自分ですか!?
- 109時間目 生贄?懐柔?突破口は〜どうして貴女がここに?〜 ( No.39 )
- 日時: 2015/08/01 21:33
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「造、お前なら操作技術もトップクラス。おまけに成績も姫路とも渡り合えるだろ。そうとくればキャッチャー造で決定だ。つーわけで期待してるぜ」
「え、えっと……流石に姫路さんレベルのボールを捕り続けるのは難しいかと思います。戦死は避けるつもりですが、それでも捕球だけで点数が削られかねませんよ……かなり無理があるかと」
何せただ捕るだけで点数がごっそり減らされそうですもんね。……ん?いや、待って下さい?———点数が、減らされる……?それにゆーさんの黒金の腕輪……ま、まさかゆーさんの作戦って!?
「おっ!その顔は気がついた顔だな造。そうだ、だからこそのこの腕輪の出番だ。点数を消費したらこれでまた回復すればいい。そうすりゃ姫路も全力で投げれるだろ?先に言っておくが、攻守の際の腕輪の使用は審判にも了承済みだ。安心して使わせて貰うさ」
「「「「…………」」」」
う、うわー……つまりまた騙し討ちする気満々ですねこのお方……Eクラス戦の時みたいに3年生に怒られないかすっごく心配ですよゆーさん……
「まあ、この作戦は姫路と造には……いや、今回は恐らく造がだろうが、かなり負担をかける。あらかじめ言っておくが、すまんな」
と、ゆーさんが自分に向かって頭を下げます。あらら……ゆーさんって、意外なところで律儀ですね。
「ま、まあ作戦内容はともかくそれに関しては大丈夫です。負担と言っても今回に関しては試召戦争のように戦うってわけじゃないですし。基本普通に野球をしている感覚と同じですからね」
「そうか……まあ、すまんな。助かる」
「そんな顔しないでください。……正直反則ギリギリではありますが、三年生相手に手段は選べないのも事実。こうなったらやるだけやってみましょうか。さあ、早く行って皆さんに作戦の説明とかしませんと、ね?」
「……そうだな。うっし、いっちょやったるかっ!」
「やれやれ。造よ、お主も無理だけはするでないぞ?」
「大丈夫ですよヒデさん、頑張りましょうね皆さん」
「そうだね。造に無理させない為にも、僕らも頑張らないと!」
「…………ああ、俺らには使命があるからな」
「「……えっ?使命?」」
「「「そう———戦友《エロ本》奪還という使命がっ!!!」」」
「「台無しですよ(じゃぞ)!?」」
迸る若き青少年たちが天高く拳を突き上げそう宣誓します。うぅ……折角やる気が出てきてましたのに……台無しですよ全く。
〜全員移動中〜
「……あ、そうそう。ついでに聞きたかったんだけどさ雄二」
「あん?明久、まだなんかあるのか?」
召喚野球準決勝の地に向かいながら、アキさんが歩きながら不思議そうにゆーさんに尋ねます。
「なんか今回の作戦ってさ、確かに腕輪とかを使うけど雄二にしては随分直線的じゃない?てっきり何か搦め手を仕込んでいるとばかり思っていたんだけど」
「おお、それはワシも気になっておったところじゃ。雄二らしくないと思うのじゃがのう」
アキさんに続き、ヒデさんも尋ねます。ああ、確かにゆーさんらしくないかもですね。ですが多分……
「……いやな。さっきも言ったが、俺も一応は策を一通りは考えついている————んだが、三年にはあの着物着てた妙に頭が回る先輩がいるだろ。正直あの先輩相手に小手先だけの作戦じゃ逆効果だと思ってな」
「あはは……ですよねー」
小暮さんや……それからゆーさんはまだ知らないでしょうが、三年生学年主席。髙城くんことタカさんに挑むのでしたら小手先の策だけで挑むのは無謀ですもんね。と言いますか下手をすれば作戦を逆に利用されかねませんし。流石ゆーさんです。相手の事をよくわかっていらっしゃいますね。
- 109時間目 生贄?懐柔?突破口は〜どうして貴女がここに?〜 ( No.40 )
- 日時: 2015/08/01 21:40
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「そう言えばあの着物を着た先輩にはかなり苦戦させられたよね。今度も皆が誘惑させられないか心配だよ」
「そうじゃのう……造よ、あの先輩の対抗策はないのかの?」
「た、対抗策……?小暮さんの……?いえ、寧ろこっちが聞きたいのですが」
もし彼女の対抗策及び弱点についてご存知の方がいらっしゃるなら、どうか自分、月野造に教えてくれると嬉しいです。いやホントに。
「ん?あれ、意外だね。知らないんだ。造ってあの着物先輩と知り合いじゃなかったっけ」
「確かに小暮さんとは友人ですし二年間同じクラスでしたが、あの人の弱点なんて一つも知りませんよ自分。逆に自分の弱点はあの方は完璧に知り尽くしているようですが……」
「やれやれ……そりゃ厄介なことで」
「…………あの先輩は色々危険」
小暮さんには去年から———いいえ、一年生の時からいっぱい弄られてきた自分ですからね。彼女に弱点は知り尽くされ、彼女の弱点は何一つ知らない自分。理不尽ですね……そうやっていつものメンバーと苦笑しながらも、ようやく野球会場に入ります。……ん?何だかFクラスの皆さんが騒いでますね?
『『『うぉおおおぉぉっ!眼福っ!まさに眼福じゃあああああああああああ!!!』』』
何だか皆さんめちゃくちゃ歓声をあげて盛り上がっています。と言いますか、ちょっぴり怖いです。3年生の皆さんが少しばかり脅えて(引いて?)いますし……
「???何なのじゃあやつらは?」
「?まるで何かを囲むように集っていますね……?トラブルですか?」
皆さん一斉に集っているので、人垣が出来ていて何が起こっているのかわかりません。……べ、別に背が低くて何が起こっているのか見えないわけではないですらねっ!?ま、まあそれはともかく、どうやら皆さん誰かに向かってLOVEコールしているみたいですが、一体誰に……
『『『小暮先輩!今日は一段とお綺麗ですよ!!最高ですっ!!!』』』
あらら……噂をすれば何とやら。どうやら皆さん小暮さんの方に集っているようですね。
「ああ、さっき言ってた先輩がいるんだね。皆だからあんなに集まっているのか」
「そのようだな。ったく、アイツらは……あの着物先輩に早速惑わされてるが、この先大丈夫なのかね?」
「…………あの先輩は校内の美人ランキングの上位者。アイツらがこうなるのは、ある意味仕方がない」
「まあ、確かに随分色香のある先輩じゃからの」
「ですね、小暮さんお綺麗ですし」
皆さんと苦笑いをしながら先にベンチに向かう事に。それにしても小暮さんがいるってことはやっぱり3−A攻略は難し—————
『『『造ちゃんも今日はいつも以上に可愛らしいよ!お兄さんたちが可愛がってあげるねっ!!!』』』
「「「「「…………え?」」」」」
—————あ、あれ?今自分を呼びましたか?それにしては皆さん、こちらを向いていませんが……?
「……おい造?今お前アイツらに呼ばれなかったか?」
「じ、自分も呼ばれた気がするんですが、何で皆さん向こうを向いているんでしょうか?」
皆さんも自分も首を傾げて、再び皆さんが集まっている人垣の方を見ます。すると今度はこんなとんでもないセリフが聞こえてきました。
『造ちゃんいいね〜その服!また先生と木下さんに着替えさせて貰ったの?』
『造ちゃん、チア服可愛いよ!物凄く似合ってるね!』
『小暮先輩もです!いやはや、僕はこんなに素晴らしい光景を見れるなんて思っていなかった!造ちゃんの可愛らしさと先輩のエロ————じゃなかった、セクシーさが二段コンボでゴチになりますっ!』
!?ち、チア服ですと!?そんなの着た覚えはありませんよ!?一体何がどうなっているんですか!?
「つ、造?どういうことなのさ?」
「自分にもわかりませんよ!?ちょ、ちょっと確認してきますっ!?」
とりあえず状況確認の為にも、慌てて自分も皆さんが集まる人垣の中に入る事に。どうしてでしょうか……非常に嫌な予感がします……
必死に人波を掻き分け(だから別に小さいからってわけではないですよ!?)自分の目に飛び込んできたのは————
「あら♪月野君、ようやく来ましたね。“妹さん”が探していましたよ」
————皆さんに囲まれているにもかかわらず相変わらずマイペースな小暮さん(チアガール姿)と、
「ホラ、“文さん”♪“お兄さん”がおいでになられましたよ」
「…………何で、貴女がここにいるんですか……?」
…………どう考えてもここにはいないハズの彼女、
《ワーイ♪ ツクル 文は ツクルを 応援に キタヨー♪》
……文月学園の召喚システム《文さん》が、何故か小暮さんに寄り添っていました。……こっちもチアガール姿でねっ!?な、なんてことですか……!なまじ自分とそっくりな彼女のせいで自分がチアガール服を着ていると勘違いされて……いかん。今すぐにでも校内の皆さんに弁解しないとまた妙な噂が———
———と言いますか、それ以上に何でこんなところにいるんですか文さんっ!?
- 110時間目 僕らとチアと召喚野球〜須川君自重しろ〜 ( No.41 )
- 日時: 2015/08/02 21:16
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
一先ず文さんを一旦グラウンドの隅に連れて来て、どういう経緯でこんな事をしているか尋ねます。話を聞くに文さん曰く—————
今日は休みではないのに全員校内にいなくて不思議に思った。
↓
何か良くわからないけど、外で皆が集まってワイワイしている。
↓
調べたらこれは『体育祭』と言う行事で、ツクルも勿論参加している。
↓
だったらツクルに何かしてあげたい!でも文は何をすればいいのだろうと思う。
↓
再び調べると、こういう場合は応援してあげると喜んで貰える。
↓
どう言えばサクヤが言っていた!『応援にはこの服が一番さね!ついでに造にも着せたいねぇ!』と。
—————ってな感じですね。サクヤさんは文さんに何を吹き込んですか……帰ってちょっと説教しましょうそうしましょう。あ、そうそう。ちなみに文さんは今日はホログラムの身体ではなく、どうやらアキさんや自分と同じような原理で実体化しているようです。何でもその方が応援している感じがするってことだそうで……
「と言いますか応援、ですか。その為にそんな恰好を……」
《うん♪ どう? 文は 似合う かなー?》
「えっと……似合う……と思いますよ?」
《むー! 何だか 歯切れが 悪いー》
…………いや、だって文さんの容姿を誉める=自分の容姿を誉めることと同じですもん。なまじ自分の身体データを基に生まれた文さんですし、自分と文さんが同じ顔で同じ体型(ただし胸は違いますが)。言うならば鑑見て“自分ってチア服似合いますよね〜♪”って言っているのと同じですし。
「それよりちゃんと学園長に許可は取ったんですよね?じゃなきゃ今頃学園長お怒りでしょうし」
《…… …… …… そうそう! 文ね アオイと 仲良く なったの〜♪》
「文さーん?その間はなんですかー?取っていませんね?許可絶対取ってませんね?」
ああ……これじゃ学園長がまた、頭を痛めることでしょうね。って、そう言えば何で文さんと小暮さんが?
「文さん、ところで小暮さんと随分親しげでしたが、彼女とは一体どう言う関係ですか……?」
「ああ、それはちょうど月野君を妹さん———いえ、文さんが探していたので折角なので私がここに案内をしたんですよ」
《そなのー アオイが 文を 連れて 来てくれた のー♪ 文の 新しい お友達ー!》
「あらあら♪ありがとうね、文さん。嬉しいわ♪」
「小暮さん?随分ナチュラルに会話に入りますね……いつの間に……?」
いつの間にいたのか全く分かりませんでしたが、自分の真横に立って会話に参加するニコニコ顔の小暮さん。いえ、もう驚きませんよ……小暮さんの行動には色んな意味で慣れましたし……
「そうそう、文さん。私、月野君とちょっとお話ししなければならないんです。申し訳ございませんが、先に応援席で応援の準備なさっててください。私もすぐに参りますので」
《あっ そうだった ネー! それじゃ ツクル 頑張ってー♪ 文も アオイも 応援してる よー!》
と、文さんは元気に手を振って応援席へと向かいます。やれやれ……文さんも相変わらずやりたい放題ですね。悪い子ではないのでその辺は安心してますが。
- 110時間目 僕らとチアと召喚野球〜須川君自重しろ〜 ( No.42 )
- 日時: 2015/08/02 21:18
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「———ふふっ♪妹さん可愛らしい方ですね。わざわざ月野君の為に応援に来るなんて」
「あ、あはは……ん?あれ?妹?文さんが?」
「あら?違うのですか?文さん確か《文と ツクルは 家族なのー♪ 文は 年下 だけどー》って言ってましたが?」
あっ、なるほど。文さんそう言う風な説明をしたんですね。以前ちょっと色々あった時『文さんは自分の家族ですから♪』って文さんに言ったんですよね。良く覚えていましたね?
……あ、でもナイスアイディアかも。下手に文さんの事を説明するよりも、皆さんには妹だって言っておけば説明不要でしょうし。
「えっと……まあ、大体そんな感じですね。それとありがとうございます。文さんを連れて来てくださって」
「いえいえ♪月野君にそっくりの方が、ちょっと不安そうにうろうろしてましたから。黙っていられずについ声をかけたのですよ。それにしても最初は驚きましたよ。月野君がチアガールの姿でうろうろしているかと♪」
「……絶対驚いてませんでしょう?うぅ……何か皆さんにとんでもない勘違いをされた気がします」
「ふふふっ♪『月野造特集:今度はチアガール!勝利の女神は自分です♪』的な号外が翌日張り出されたりですか?」
「……ありそうで怖いです。何とか皆さんに説明しませんとね……」
「あらあら♪本当に月野君は皆さんに好かれていますね」
そんな感じで、ちょっぴり小暮さんと談笑。おお、何だか一年前を思い出しますね。懐かしいなぁ……
「あ、ところで小暮さん。小暮さんは召喚野球には参加しないんですか?チア姿ですが……それに何故かタカさんも見当たりませんが……?」
こちらにとっては非常に有難いことですが、何故か三年生のメンバー表の中には最大戦力の小暮さんと髙城くん———タカさんのお二人の名前がありません。チア服を着て応援する気満々のご様子の小暮さんとこの場に姿を見せないタカさんは一体どうして……?
「ああ、それはですね。髙城君は海外のお客様の対応です。今頃体育館で学園長と一緒に校内で召喚獣のデモンストレーションをしているはずです。この後は学園とシステムを見学するとか」
「ああ、なるほど。タカさんも大変ですよね———って、ちょっと待ってください?タカさん一人でそれやっているんですか……?」
普通、こういう場合のタカさんは“ボロ”を出さぬよう小暮さんと一緒になって行動するはず。まして大事な場面では余計なことを言ったりやったりせぬようにと必ずと言っていいほど小暮さんがタカさんをコントロールしていたような……?ならばこそ何故小暮さんはここにチア姿で……?
「あの……小暮さん学園長に呼ばれたりしていませんか?ひょっとして“人手が欲しいし、あのバカがボロ出さないようにアンタも来てくれ”って言われてませんか……?」
「流石月野君、よくお分かりですね♪はい、学園長先生に髙城君にも付いて来てほしいとお願いされましたが、大事な用事があると全力でお断りしてきましたの」
…………タカさん、学園長。がんばれ、超がんばれ。
「い、いいのですか……?タカさん泣きますよ?それに大事な用事って……それとチア服の何の関係が……?」
「とても大事な用事ですよ?文さんと一緒に月野君を応援しなきゃいけないじゃないですか♪」
「それが理由!?」
…………タカさん、学園長。あなた方は今泣いていいです。
「ふふっ♪安心してください。まあ、半分冗談です。デモンストレーション自体はさっき私も手伝って終わりました。あとはただの見学の案内役だけですし、いつまでも私が一緒では彼も成長しませんので置いて行ってしまいました」
「あー……まあ確かに一理はありそうですが。あれ?ですがこちらの方は良いのですか?自分たちからしてみれば助かる話ですが、小暮さん召喚野球に出ないなんて……」
タカさんには成長のため頑張ってもらうことにして、わざわざ抜け出してきたならどうして小暮さんは召喚野球に参加していないのでしょう?このお方に出られたら今の自分たちでは対処できなくなるのは間違いないですからね。不思議に思って尋ねると。
「いいのですよ、先ほども言いましたがデモンストレーションを兼ねて体育館で召喚獣同士の戦闘だけでなく召喚野球もやりましたし。正直言うと一戦やれれば十分楽しめました。後はまだやっていない方々に楽しんでもらえればいいですし」
なるほど……ベンチにいたり体育祭の競技に参加していた皆さんに譲ったってことですね。
「そして何より……月野君にこのチア姿見て貰いたかったですし♪月野君、応援しているので頑張ってくださいね♪」
「は、はあ……?あ、言いそびれていましたがチア服似合ってますよ小暮さん。とても綺麗で似合いますし」
「あら♪それは光栄です。月野君も着てみます?」
「全力でお断りです。それはともかく自分を応援って……それって3−Aの皆さんに申し訳ないのですが……?」
「ふふっ♪誰を応援するかは自由でしてよ?まあその分、3−Aには———応援席からちょっと助言はするでしょうが♪」
HAHAHA!その小暮さんのちょっとの助言が一番怖い。か、勝てるといいのですが……
「ふふふっ♪まあ、良い試合になる事を楽しみにしてますよ。……その、頑張ってくださいね月野君」
「その言葉、ちゃんと3−Aの皆さんにも送ってあげてくださいね?ですが……ありがとうございます。出来る限り頑張りますね」
「ええ……本当に、頑張ってください♪」
とりあえずそろそろ始まるので自分はベンチに、小暮さんは何か良いことがあったのか、楽しそうに応援席に向かいます。さてさて、この試合はどうなる事やら。
- 110時間目 僕らとチアと召喚野球〜須川君自重しろ〜 ( No.43 )
- 日時: 2015/08/02 21:41
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
『———トライッ。バッターアウッ!』
審判のコールが響き、一番バッターの美波が戻ってくる。うーむ、流石三年生のAクラスだけあって球の速度・コントロールと共に申し分ないね。
「ごめん。あれは打てないわ……」
「気にするな島田。点数差が点数差だ」
「美波、とりあえずまだ始まったばかりだし落ち着いて一回は様子見しよう」
《ですね……まだ全然目が慣れていませんもん》
なんせ僕らは勿論初戦のEクラスに比べても、点数でも操作技術でも相手の方が一枚も二枚も上手だ。まずは少しでもボールに慣れることから始めないとね。寧ろこの回の科目は化学なんだけど、それが得意教科でもないにもかかわらず必死に喰らいつきフルカウントまで持ちこんだ美波は十分賞賛に値するだろう。
あ、そうそうちなみに今回の勝負での打順と守備位置は—————
———VS3−Aクラス 守備位置・打順表———
1番 サード 島田美波
2番 ショート 須川亮
3番 ピッチャー 吉井明久
4番 キャッチャー 坂本雄二
5番 ライト 姫路瑞希
6番 セカンド 土屋康太(ムッツリーニ)
7番 レフト 君島博
8番 ファースト 福村幸平
9番 センター 月野造
ベンチ 横溝浩二 木下秀吉
—————ってな感じだ。雄二曰く今回の作戦で重要なのは、雄二がどのタイミングで腕輪を使うかと瑞希の抑え。そして何よりその瑞希の球をきっちり捕る事が出来る造にかかっているらしい。守備は二人に、特にフィードバックによる疲れが懸念される造に任せっきりになる分、僕らでなるべく一点でも取らなきゃね。造の負担を減らす為に打順が回りにくい9番に置いたのはその為だってさ。
あ、ちなみに何で最初から瑞希と造をピッチャーとキャッチャーにしないかだけど、瑞希に少しでも野球に慣れて貰う為に、そして2回は科目が英語だから造がまだ出せない為だそうだ。まあ、造の英語はちょっとアレだから仕方ないね。一回と二回はそれまで何とか僕と雄二で抑えられるよう頑張ろう。
『っしゃあ!やってやるぜっ!試獣召喚(サモン)っ!』
美波に続き、2番打者の須川君がやけに気合いを入れて召喚を開始しバッターボックスへと入る。さてさて、戦力差はどんな感じで……
≪Aクラス 夏川俊平 化学 244点≫
VS
≪Fクラス 須川亮 化学 59点≫
うん、須川君はともかく流石は三年のAクラスだね。中々に高い点だ。あっちの方は夏川って先輩がピッチャーで常村って先輩がキャッチャーのバッテリーを組んでいる。あの先輩たちとは何かと因縁があるね。色んな意味で。戦力差もはっきりしてるしこりゃ攻略は中々厳しそうだ。
『ほう?随分気合い入ってんな。……俺も全力で相手するぞ!』
マウンドに立つ坊主頭の夏川先輩が、楽しそうに須川君に言ってくる。何だかこの先輩(と常村先輩)って最初に会った時と比べると、良い意味で本当に印象が変わったなって思う。
- 110時間目 僕らとチアと召喚野球〜須川君自重しろ〜 ( No.44 )
- 日時: 2015/08/03 00:30
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
そんなことを考えていると早速先輩の召喚獣が投球の構えを取り、大きく振りかぶり力を込めてボールを放る。
『ットライ!』
瞬きする間に、ボールはミットへと吸い込まれていった。くっ……やっぱり早いね。須川君もまるで目を皿のようにして真剣に見ていたけど、どうやら見逃したようだ。
先輩は満足そうにニッと笑い、続く二球目をまたまた際どいコースに投げてきた。
『ットライ!ツー』
これも見逃し2ストライク。……どうしたんだろう?何だか須川君、ボールと言うより別の何かを狙っているみたいだけど……?
『さあ!そろそろ手を出さないとまずいぞ?打てるなら打ってこいっ!』
先輩が須川君にそう言ってくるけど……須川君は黙って、それでも何かを見て分析しているようだ。これは……もしや一回の攻撃を犠牲に相手の弱点でも見定めようとしているのだろうか。
立て続けに3球目を先輩はさっきと同じモーションで————さっきよりも遅いボールを投げてきた。こ、これってチェンジアップ!?ここに来てこんなことまでするなんてっ!?これじゃ間が外されて……
『っ!見えたっ!予想通りっ!!』
『何っ!?』
ええっ!?“見えた”だって!?おまけに“予想通り”って……!?ま、まさかこのチェンジアップを狙っていたのか須川君!?やるな須川君っ!見なおしたぞ!そしてその宣言通り、遅めのボールを狙い澄ましバットを振り切———
———らず、見逃した。うん、見事に見逃し三振だね☆っておい!?須川キサマっ!?見えたんじゃなかったのかっ!?
『え、えっと。ストライッ!バッターアウッ!』
『…………び、ビビったぞ……?』
『…………み、見えたんじゃなかったのか?』
これには審判も、それからボールを放った夏川先輩とコースを指示していたであろう常村先輩も呆然としている。てか、拍子抜けしてるね……
「(ちょ、ちょっと須川君!何が〝見えた”だよ!?何で打たないのさ!?)」
何やらアウトになったのにやけに興奮しながら2−Fクラスのベンチに戻ってくる須川君に、弁解を求めて小声で話しかけてみる。そんな須川君はちょっと気持ち悪い笑みを浮かべたまま僕にこう返してくれる。
「(フッ、吉井。お前にも良い情報を教えてやろう。アレを見ろ)」
と、須川君は観客席の方を指差す。良い情報、ね?それは有難いけど、それにしては何で観客席なんかを?野球と何の関係があるんだろうか?とりあえず僕も釣られて指差された場所を見てみると、
《フレー フレー ツ・ク・ル♪ ガンバレ ガンバレ ツ・ク・ル♪》
『ふふっ♪月野君、ついでに皆さんも頑張ってくださいねー』
チアガール二人が楽しそうに飛んだり跳ねたりして(主に造を)応援している姿が。ん?いや、あれって確か……
「(えっと……造の妹さんの文ちゃんと、着物の先輩だね。でもあの二人がどうかしたの?何か彼女たちが重要な情報を握っているとか?)」
「(ああ……とてつもない情報だ。いいか吉井?さっきの俺の打席でちゃんと確認したんだが、あの二人———)」
と、須川君が一呼吸間を開けてから……
「(あの二人————俺の予想通り、妹ちゃんは“ピンク”で先輩の方は“黒”だった……っ!)」
「(…………)」
そうか……必死に何かを見定めようとしていたのは“パンチラ”狙いか……君は一体何を観察しているんだい?いや、まあ多少気持ちはわかるけど。一先ず須川君は無視することにして、僕はバッターボックス入る事に。全く……ちょっとは自重しないとダメじゃないか!(←エロ本の為に野球をやっているバカの心の台詞)
『かっ、会長っ!どうでしたか!?』
『お、俺らの理想郷はどんな感じで……?』
『……お前ら、アレは凄かったぞ……方や可愛らしい文字通りの“桃色”の桃源郷、方や大人のセクシーさ際立つ“黒”だったっ!』
『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』
『……こやつらはどこまでバカなのじゃ……?』
『本当にバカだな……野球に参加していない先輩の色香に引っかかってどうするんだ。とりあえず後でシメるの確定だな』
《こ、困りましたね。味方を応援してくれるハズの文さんが、逆に皆さんの集中力を下げているとは……》
『そうね……こんなので本当に勝てるのかしら?』
『あ、あはは……』
『…………エロは自重すべき』
『その台詞をムッツリーニに言わせたら終わりじゃのう……』
…………いつものメンバー以外のFクラスの連中は、どうやらあの着物の先輩と文ちゃんに完全に堕とされてて使い物になりそうにないね……というか、キミたちはそれで良いの?この会話って3年生の先輩たちとか先生たちに聞かれているんだけど。みんなのFクラスを見る白い目がとても辛いや……これは折角回復しつつあったFクラスの評価が下がっていくことだろう。
「あー……吉井だったか?お前のところのクラスって、その何と言うか……個性的だな?」
「あー……吉井君。私も文月に来る前も結構長いとこ教師として勤めてきましたが、その……こんなに面白いクラスは見た事がありませんよ?」
「えっと……色々とすみませんでした。先輩に先生」
キャッチャーをしていた常村先輩と、審判の先生が引きながらも言葉を選んで頑張って僕をフォローしてくれたのが地味に嬉しかった。
- 111時間目 真剣勝負でも〜事故は起こるさ〜 ( No.45 )
- 日時: 2015/08/07 21:20
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
『ストライッ!バッターアウッ!チェンジッ!』
「ふぅ……当然だろうけど、予想してたよりしんどいね……」
僕たち2−F対先輩たち3−Aの召喚野球対決は、今何とか2回の裏を終えた。得点は【1 — 1】1回の表で2アウトながら、何とか雄二と僕の連携で一点はもぎ取ったんだけど……
「ゴメン皆……一点入れられた」
《いえ、アキさんのせいじゃないですよ。自分も止められませんでしたし》
「そうじゃの……まさかあの難しい球を狙ってホームランを打たれるとは思っておらんかったからの。明久が気に病む必要はないじゃろ」
「…………あの4番、点数も凄かった」
1回は何とか三者凡退に抑えられたんだけど……2回の裏のしょっぱなに4番の先輩(確か金田一って先輩)にホームランを打たれた。確かに点数差も凄かったけど、まさか外しのボール球を打たれるとはね。
「安心しろ明久。これが満塁のピンチだったら不味かったが、寧ろ1点で済んだんだ。その後持ち直して上手く対処出来たんだから序盤としてはいい流れだ」
「そう?……にしても、やっぱり3年生は手強いよね。まだ2回が終わったばかりなのに、完全に僕の投げるコースが読まれているみたいに打たれてたし」
1回の三者凡退が嘘みたいにガンガン打たれてたからね……まあ、満塁になるピンチはあったもののそこは雄二の的確な指示と造のカバーで何とか抑えられたけど。
《あー……それに関しては多分アキさんの言う通りこちらの手の内は読まれていると考えていいと思います》
「へ?や、やっぱり読まれてるの?」
《あはは……ほら、あちらで応援している小暮さん———つまり着物の先輩いるじゃないですか》
苦笑気味に造が指差す先には、造の妹ちゃんと例の先輩の姿が。そんな造に気が付いたのか二人とも嬉しそうに造に手を振っているけど……あの先輩がどうしたんだろう?
《えーっと、ですね。彼女どうやらアキさんたちのサインと球種を1回である程度読み切ったみたいでして……対処法とどう動けばいいかを応援席から紙飛行機飛ばして指示してますよ》
「「「「はぁっ!?」」」」
《見ててください———ほら、あんな風に》
慌ててもう一度見てみるとルーズリーフに何やら書いて、書き終えると今度は紙飛行機にして文ちゃんに渡している着物先輩の姿が。い、一体何を……?
『文さん、また紙飛行機作ったので、飛ばしゲームしましょうね♪三年生のいる場所にどっちが一番近くに飛ばせるか勝負ですよ』
《ウン! 文 負けない ヨー!》
そうして二人が紙飛行機を飛ばす先には、三年生の先輩たちのベンチ。よく見ると届いた紙飛行機を開いて先輩たちが何やら指示を出しているようだ。な、なんだこれ……
《——と、まああんな具合に小暮さんがお茶目にそして遊び心たっぷりに、三年生に指示出しているというわけでして》
「う、嘘ぉ!?と言うかそもそもたった1回の攻撃でサインとか傾向とかわかるものなの!?」
《そこはまあ……小暮さんですし》
「マジかよ……ちぃ、やっぱりあの先輩は油断ならねえな」
いや、油断してなくても勝てる気がしないんだけど……?何で野球に参加していない先輩にここまで苦しませられるのだろうか。戦友たちは色気にやられて使い物にならないし、確かに僕の投げるコースも球種も見破られていた。造の言う通りあの先輩ってある意味最強なのかもしれないね。
「だがまあ、次からは姫路と造のバッテリーだ。急には流れは読めんだろうし、こっからが腕の見せ所だな」
《おっと、そでしたね……では、その前に一点稼いでおきましょう》
そんなことを言いながら、造はトコトコとネクストバッターボックスに入る。幸いにも3回の科目は造が最も得意とする現代国語。造ならここで一発決めてくれるだろう。……何でも造曰く現国なら点は十分且つ風の能力がある以上、例え敬遠されても敬遠球ごとバックスクリーンに叩き込めるそうだ。何それ凄い。
『ストライッ!バッターアウッ!』
8番の福村君が三振(って言っても、須川君同様にあの着物先輩と文ちゃんに見惚れていただけっぽいけど)でツーアウト。ここは流れをこっちに持って来て貰う為にも、造に一点入れてもらおう。
- 111時間目 真剣勝負でも〜事故は起こるさ〜 ( No.46 )
- 日時: 2015/08/07 20:57
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
『あら♪文さん、待ちに待った月野君の出番のようですよ』
《ホント だー♪ ツクル ガンバ! ガンバ♪》
『ふふふ♪頑張ってくださいね〜♪』
応援席で応援している文ちゃんと着物先輩が造の出番により一層力を込めて応援している。……にしても、あの先輩は自分のクラスは応援しなくていいのかな?いや、一応作戦は指示しているらしいし、応援は自由だろうけど。
造もそれに気が付いているみたいで苦笑いをしながらバッターボックスに入る。さてさて、得点差は一体———
≪Aクラス 夏川俊平 現代国語 236点≫
VS
≪Fクラス 月野造 現代国語 582点≫
———あれれ〜?おかしいなぁ?あの先輩の点数って低いわけじゃないし、かなりの実力があるはずなんだけど……点数差2倍以上ってどういうことなの……?
「……改めて思うけど、造が味方で良かったよね」
「……だな。もし造が何も問題なく3年生として俺らと拳を交える事があったと思うと……」
「……もう手が付けられんかったじゃろうな。英語以外は」
「…………圧倒的戦力」
「……い、いや。保健体育限定ならムッツリーニも人の事言えないけどさ」
正直言って僕がもし造と戦う事があったら、間違いなく撤退をせざるを得ないだろう。点数的に教師たちや保健体育でムッツリーニを相手にしなきゃならないのと同じわけだし。この様子じゃ向こうの先輩たちも戦意を喪失して———あれ?
《よろしくです、ツネ・ナツ》
『月野か……ふむ。お前の事だ、間違いなく敬遠しても召喚獣の能力使ってそのまま打ってくるだろうな』
『ここは敢えて勝負だな。速球且つ重い球なら、その点でもそう易々とは打てないはずだ』
《たはは……読まれてますね。ちゃんと目で追えないと打てませんからね》
……凄い。どうやら先輩たちは冷静に造を抑えようとしているみたいだ。敬遠を打ってくるってところも読んでいるみたいだし。
造も先輩たちも真剣そうな顔で……まずは第一球————
バシィ!
『————ス、ストライッ!』
…………は、速い!?なんて速球を……流石の造も追いつけなかったようだ。今まで投げていた球に比べても、最高速度みたいだ。続く二球目。先輩の召喚獣は大きく振りかぶり渾身の力で投げ込む。これは……
バシィ!
『ボールッ!』
さっきと同じく目に負えないほどの速球で投げてきた。まあ、これはボールだからいいんだけど。
「……どうやら向こうさん、フォアボールになってでも力負けしないボールを投げるつもりだな」
「???どう言うこと雄二?」
「まあ、簡単なことだ。さっき先輩二人が言っていたように造のあの点数且つ、能力が付加されたバットならどこ投げても、敬遠球さえ打たれちまうだろ?生半可なボールじゃホームランにされちまう。だったら造本人が目で追えないボール、且つ重いボールを投げるしかねえ。この際コントロールや力配分は無視してやがるな。……見てみろ」
と、雄二がキャッチャー(確か常村先輩)を指差す。どれどれ?
『ボールッ!』
≪Aクラス 常村勇作 現国 225点 →Aクラス 常村勇作 現国 203点≫
「あれ?捕り損なってもいないのに……点が減った?」
「あれだけの剛速球且つ、点数もそれなりにあるんだ。そりゃ持ち点も減るだろうさ」
「む?じゃがそれならワシらにとっては有利になるのではないか?」
「そうでもないさ。投手ならいざ知らず捕球側は基本的に戦死にだけ気を付ければいいんだ。多分だが向こうさんの考えとしては『三振になれば儲け物。ここは月野を歩かせてでも、打たせないように』って感じだろう」
「…………あの点数差なら、それが一番正しいかもな」
- 111時間目 真剣勝負でも〜事故は起こるさ〜 ( No.47 )
- 日時: 2015/08/07 21:02
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
そうか、下手に投げて一点を取られるより全力で投げて打たせないようにした方がいいってことだね。敬遠球を投げれば打たれるってことも想定済みみたいだ。塁に誰もいないわけだし別にフォアボールになってもホームランよりずっとマシ。少なくとも次でアウトにすれば良いわけか。むむむ……中々力技なようで考えてあるね。
『ボールッ!』
気がつけば1ストライク3ボール。出来れば単発でも打って一点を貰いたいけど、ここは造は歩くしかないのかな?そんなことを考えていると、先輩の召喚獣が力強く5球目を……
『あっ……!?』
ゴスッ!
『あ……デ、デッドボール!一塁へ』
《痛っ〜〜〜〜〜〜〜!?にゅおぉおおおおお……っ!》
『わ、ワリィ月野!?召喚獣を力ませ過ぎた!?』
『お、おい……大丈夫か?メチャクチャ良い音したんだが』
《ぷ、プロ野球選手って……大変な職業なんですね……おおぅ、地味に効きました……》
『月野君!……かなり痛そうですね。平気……ではないようですね』
《! ツクル!? 大丈夫!?》
……造の左手にジャストミートさせた。あー……アレは痛い……僕と造にはフィードバックがあるからね。おまけにさっき雄二が言った通り、先輩は全力投球しているからその威力は半端ないものだろう。
≪Fクラス 月野造 現国 582点 →Fクラス 月野造 現国 425点≫
流石に200点越えしている召喚獣が放つボールをノーガードで受けただけあって、150点以上点が削られていた。僕や造の場合フィードバックもさることながら、召喚獣の点数が自身の体力にも直結するからあれは辛い。僕の感覚的に言うといきなりあれだけの点数が減らされると100メートルを一気に駆け抜けた疲労感が来る感じだって言えば伝わるかな。
「って言うか……半分は僕らのせいでもあるけど、造って今までも結構散々な目に遭ってるよね」
「ああ……生まれながらのトラブル吸引機っぽいしな。後でなんか奢ってやるか」
「それより治療の方が先じゃろな……この場合は疲労の方じゃからどうこうできるものでもないがの」
「アキもそうだけど……フィードバックって大変なのね」
「そうですね……月野君大丈夫でしょうか?」
「…………何か甘いものでも用意しておこう」
皆の心配をよそに、涙目で蹲っていた造がようやく起き出す。まだ多少痛そうだけどもう良いのかな……?
《痛ぅ……も、もう大丈夫です。気にしないでください。一塁行きますね?》
『すまんな……そういや月野にはフィードバックがあるんだったな』
《いえいえ。こればかりは事故ですし。別にどうってことないので平気ですよ。気にしないでくださいね》
まあそれでも戦死したわけじゃないし、問題は無さそうなので造は笑顔で(痛みで顔がちょっと引きつってたけど)一塁へ。造はホントに頑張ってるよね……造が塁に出てくれたんだ。僕らもここは一点でも入れないとね……!
『ああ……良かったです。月野君平気みたいですね、文さん』
《…… …… …… うん》
『あら?文さんどうしたのですか?少し顔色が悪いように見えますよ。それに一体どちらに……?』
《…… …… …… チョット 公平に 設定 し直してくる ねー》
『……?何の設定ですか?』
《アオイは 文の 分も 応援 してて ねー! 文 すぐに 戻る からー♪》
- 111時間目 真剣勝負でも〜事故は起こるさ〜 ( No.48 )
- 日時: 2015/08/07 21:09
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
『スリーアウッ!チェンジッ!』
うーん……塁に出たは良いものの、結局点を入れられませんでしたね。打順が戻って一番の島田さんが粘ってフォアボールで塁に出てくれたのですが……須川くんがその、ちょっと小暮さんと文さん(のパンチラ?)に気を取られてスリーアウト。中々チャンスをものに出来ませんね。
「造、お前デッドボールで痛めた手は大丈夫なのか?」
《あ、はいです。まあ、普通に野球やっているのと同じようなものですし、平気ですよ。……それと点数もこの回が現代国語なだけに、まだまだ余裕があります。ですからそろそろオッケーです♪》
そう……そろそろ作戦が開始出来そうです。ゆーさんもそれをわかってか、ニッと笑い……
「そりゃ何よりだ。うっし!んじゃそろそろ作戦通り姫路がピッチャーで造がキャッチャーで行くぞ!こっから先は3年に一点もやらん!姫路と造だけに任せるんじゃなく、お前らもちゃんと死ぬ気で守れっ!いいなっ!」
『『『応っ!』』』
「返事だけじゃなくて本気でやれよ?……特に須川、君島、福村!お前らさっきみたいなチャンスをむざむざ潰すようなバカやったら……全力でぶちのめすからそのつもりでやれっ!いいなっ!」
「「「俺らが何をしたっ!?」」」
い、いやー……まあ、小暮さんの意図せぬ誘惑に引っかかったりとかでしょうかね?まあ、小暮さんが魅力的な事と、須川くんたちの思春期が原因ですから仕方のないこと……ですかね?何せ彼らの原動力はちょっぴり過激な成年指定の本の回収なのですから。
「お前ら自覚ねえのかよ!?と、とにかく真面目にやれ!以上だっ!……姫路、造。このバカ共が迷惑かけるかもしれんがとにかく頼んだ」
《了解です。頑張りましょうね姫路さん》
「は、はいっ!ががが、頑張りましゅっ!?」
噛んだ……あらら……姫路さん随分緊張しているようですね。大丈夫かな?
《姫路さん大丈夫ですよ。リラックスしてください》
「そうだぞ姫路。俺らは出来る限りフォローする。何なら最初のバッターは歩かせていい」
「は、はいっ!歩きゃせましゅ!?」
「(こりゃ重症か?ふむ……だったら)おい姫路。明久たちのとこに行ってちょいと話して来い」
「はいっ!……はい?えと、どうして明久君と美波ちゃんのところにですか?」
《(ああ、なるほど……)ふふっ♪アキさんたちなら良いアドバイスをくれると思いますよ。行ってみてはどうでしょうか?》
「あ!そ、そうですよね!ちょっと行ってきましゅ!」
そう言って姫路さんは三度噛みながらも、アキさんたちのところに向かいます。まあ、アキさんたちなら姫路さんを落ち着かせられるでしょうし、何より姫路さんのやる気UPに繋がるでしょうし♪あんな具合に……ね。
『大丈夫だって。僕らがちゃんとフォローするよ』
『そうね。だから瑞希は思いっきりやってきなさい。ここで決めれたらカッコいいわよ♪』
『カッコいい……はいっ!頑張りますね!』
『うんうん、その意気その意気!よし……美波、瑞希。手挙げて』
『???手を……ですか?』
『あ、そう言うことね?ほら、瑞希もこんな感じで手を挙げなさい』
『はい……こうですか?』
パシン!×3
『え?……あ、ああ!ハイタッチですね!』
『そゆこと。瑞希頑張ってね!』
『背中は任せなさい、思いっきりね!』
『はいっ!姫路瑞希、頑張りますっ!』
……うんうん、良かったです。姫路さんもこれなら行けそうですね〜
「やれやれ……アイツらはホントに似た者同士なんだな。んじゃ造、守備や姫路のコントロール等はお前に任せたぞ」
《はいです。守備ではもう三年生には一点たりともあげませんよ♪その代わり攻撃はゆーさんたちに任せてますからね》
「フッ……愚問だな」
そう言ってゆーさんが守備位置へ向かって行きました。—————さて、ここからがホントの勝負ですよ♪覚悟しててくださいね!3−Aの皆さん♪
《…… …… …… ふふ♪ ホント 覚悟 してて ねー♪》
『あら文さんお帰りなさい。一体どちらへ向かわれていたのですか?』
《ふふふ♪ 内緒 だよー♪ でも すぐに わかる かもー♪》
『あらあら、それは楽しみですね』
《うん! 文も 楽しみー♪ ネー アオイ! やっぱり こう言うのは 公平に しなきゃ いけない ヨネー!》
『……公平?』
- 112時間目 頑張るあの子は殺戮マシン〜Deadボール〜 ( No.49 )
- 日時: 2015/08/08 21:14
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
《しっかり!どうかしっかり気を保って下さいっ!》
「……いいんだ、月野……もう、いいんだ」
《よくありません!大丈夫ですっ!だから、そんなこと言わないでっ!》
「……ははっ……もう眠いぜ……ちょっと、寝るな……」
《だ、だめええええええええええええええええええええ!?》
倒れこむ自分の旧友———夏川俊平ことナツ。皆さんも心配そうにナツの側に駆け込み見つめています。意識は朦朧としており、もう正直見てられないほどです。ですが、それでもまるで消えゆく蝋燭の火が最後の光を輝かせるかの如く満足そうに輝いています。
「ワリィ……後は、俺の言った通りに……(ガクッ)」
《ナツっ!?……くっ!?どうして……どうしてこんなことにっ》
〜この惨劇の数十分前〜
只今三回裏、3−Aの攻撃からスタートです。ゆーさんの作戦通り、ここからは姫路さんピッチャーの自分キャッチャーでの守備となっています。あ、ちなみに自分らが抜けたことでちょっと守備位置が変更していますね。自分がいたセンターは召喚獣の扱いが上手いアキさん。姫路さんがいたライトは点数が姫路さん・自分に次いで高いゆーさんが守っている感じです。
《それでは姫路さん。まずは慣れる為にも軽く放る程度に投げてみてくださいね。この際一人目は歩かせる———つまり塁に出しても構いませんから》
「え?でもそれじゃ点が取られちゃうんじゃないですか?」
《大丈夫ですよ。姫路さんの点数ならそう易々とは打てないでしょうし、姫路さんはとりあえずミットに向かって投げられるように召喚獣の扱いに馴れることだけ考えてください。二人目からが本当の勝負です》
……とりあえず一人目はフルカウント使って、姫路さんの制球力を上げてから勝負に移行するつもりです。それに上手くいけばダブルプレーが狙えそうですし。
「わかりました!頑張りますね」
《ええ、頑張りましょう♪姫路さんはアキさんたちに良いとこ見せないとですね〜♪》
「つ、月野君!?からかわないでくださいよ!?」
《ふふっ♪ガンバですよ〜》
そう言って、姫路さんにボールを渡してキャッチャーボックスへ向かいます。さてさて……ゆーさん程上手いリードは出来ないかもですが、自分も頑張ってみますか♪
「お?今度は月野がキャッチャーか。相変わらず色々と策を考えるのが好きな奴らだな」
キャッチャーボックスに入ると、二番バッターのツネが(と言ってもツネの召喚獣がですが)バットを構えてそう言ってきます。あ、そうそうちなみにツネと姫路さんの得点差は……
≪Fクラス 姫路瑞希 現代国語 413点≫
VS
≪Aクラス 常村勇作 現代国語 198点≫
……大体こんな感じです。流石に姫路さんは凄いですね。自分は成績にムラがありますが、姫路さんの場合はどの教科も平均400点と驚きの成績です。ツネも勿論成績はトップクラスですが、先ほど消費した事もあって今は点数差2倍です。戦力は十分ですし、後はどれだけ上手くそれを扱えるかにかかっていますね。
《いえいえ♪……それ言うならそっちの小暮さんもでしょ?1回で大体の自分らの動きを読んで指示してたみたいですし》
「……否定は出来んな。あの坂本だっけか?アイツと小暮の両方を敵に回すことは絶対したくねえよな」
《……それは同感ですよ……では、そろそろやりましょうか》
- 112時間目 頑張るあの子は殺戮マシン〜Deadボール〜 ( No.50 )
- 日時: 2015/08/08 21:18
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
こちらもミットを構えて、姫路さんにコースを指示します。正直姫路さんをツネから始まる上位打線から出すのは流石に冒険すぎだとは思いますが、状況的に姫路さんくらいしか抑えられそうにないですからね。頑張ってもらいましょう。まずは……
《真ん中 軽く放る程度で》
サインを受けて姫路さんが第一球を投げます。まあ、軽くなのでそう大してダメージは————
ズドンッ!
『ストライッ!』
「っ!早っ……!」
《痛っ……!?》
————大した事ないと油断すると痛い目見るでしょうね。痛い、そして速くて重い……400点越えのパワーは伊達じゃないご様子。真剣に捕らなきゃマズイですね。とりあえず、気を引き締めつつ次のサインです。
《外側 もう少し力を抜いていいですよ》
すると、何故かちょっと首を傾げつつ姫路さんは投球の姿勢を取り二球目を投げてきます。
ズドンッ!
『ボールッ!』
……い、一応コースは良いみたいですね。左手が物凄くジンジンしますが……と言いますか……姫路さん?これってちょっと力込めているんですよね?緊張してついつい力んでいるんですよね?
《同じコース もうちょっと軽く!》
3球、そして4球5球とストライクとボールでコントロールの調整を行います。狙いが良くなってきているのは良い事なのですが……
『フォアボールッ!一塁へ!』
三振を狙えたところではありましたが、ここは狙いが逸れてフォアボール。まあ、コントロール調整ってことでしたし、それ自体は構わないんです。ええ、構わないのですが……
≪Fクラス 月野造 現代国語 425点 →Fクラス 月野造 現代国語 302点≫
……まさかただ捕球しているだけなのに、100点以上ごっそり減らされるなんて思いませんでしたよ!?き、きっと姫路さん緊張して力が入っているんですよね?これって!じゃなきゃ本気で投げられたら、一撃で戦死しちゃうそうなんですが!?
と、そんなことを考えていると……
『姫路さん、牽制球投げてみなよ!俺がちゃんと受けとめてあげるから!』
一塁の須川くんが姫路さんに牽制球を要求してきました。え?いきなりどうしたんでしょう?
「?牽制球……ですか?」
『そう、ランナーいるでしょ?ランナーに盗塁をされないようにするのが牽制球!』
「えっと……つまりボールを一塁に投げたら良いんですか?」
ふむ……?盗塁を警戒しているってことでしょうか?まあ、確かにノーアウトですし、用心するに越したことはないでしょうが。
『(ねえアキ。何で須川急にそんなことを言っているのかしら?急に真剣になったとか?)』
『(いや多分だけど、着物の先輩と文ちゃんに良いところアピールしたいんじゃないのかな)』
『(……アイツ勝つ気、あるのかしらね?)』
『(さあ?まあ、折角瑞希が頑張っているのに集中を乱しかねない須川は、後で雄二に念入りにボコって貰おう)』
何かアキさんと島田さんが目と目で会話していた気がしますが、牽制球ですか。まあ、姫路さんが慣れる為にも————って待ったアカンっ!?姫路さんが投げるってことはっ!?
『さあ、姫路さん!思いっきり投げてくれっ!(そして小暮先輩と文ちゃんに良い所をっ!)』
「はいっ!思いっきりですね!それじゃあ……」
《ダメです!?ちょっと待って下さ————》
「やぁ————っ!」
————キュボッ!
『『…………は?』』
≪Fクラス 姫路瑞希 現代国語 413点≫
VS
≪Aクラス 常村勇作 現代国語 21点≫
≪Fクラス 姫路瑞希 現代国語 413点≫
VS
≪Fクラス 須川亮 現代国語 DEAD≫
- 112時間目 頑張るあの子は殺戮マシン〜Deadボール〜 ( No.51 )
- 日時: 2015/08/08 21:24
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
……止めるのが遅かったっ……姫路さんの投げた超剛速球は、構えていた須川くんの召喚獣の上半身を吹き飛ばし、更にはベースで待機していたツネの左腕を吹き飛ばして行きました。
やっぱり姫路さんのボールを受け止めるのって至難の業なんですね。一塁にいるのが自分やアキさんじゃなくて良かったです。フィードバックでとんでもない事になってしまうでしょうし————
『『ぎぃやぁああああっ!!身体が!身体が痛ぇえええっ!?』』
…………え?
《タ、タイム!……どうしました二人とも!?》
一先ずタイムを取り、二人の元に駆け寄ります。急に召喚者である二人が倒れるなんて……一体?この痛がり方は普通じゃないですよ!?
「な、何だかわからんが……急に左腕が焼けるような痛みと熱さで……」
「上半身が……無くなった……感じが……」
二人は負傷した召喚獣と同じ個所の痛みを訴えていますが……こ、これってまさか……フィードバック!?い、いや、ですがアキさんや自分以外にフィードバックなんて付属されてなんかいないハズでしょう!?
《と、ともかく少し休んでください……立てますか?———皆さん、手を貸してください!》
痛みを訴えている箇所を氷で冷やし、お二人をゆっくりとベンチに横たえます。ちなみに戦死した須川くんをベンチに送り代わりにヒデさんが入り、ツネは代走を頼んだようですが……ホントにどうなって……?
PRRRR! PRRRR!
と、全員今何が起こっているのかわからずにどよめいている中、ベンチに備え付けられている電話が鳴り出しました。その電話にここのフィールドを形成している先生が慌てて応えます。先生一分くらいの時間、その電話に対応していましたが……しばらくして———
『あー……その、ですね。学園長先生からの伝言です。“突然悪いねぇ。召喚野球に参加している生徒に連絡さね。とある生意気なシステムが……そのいらん事をやらかしてね。召喚獣の設定を弄りやがったのさ。現在全員の召喚獣に観察処分者たちの召喚獣と同じく痛みがフィードバックするようになっている。とりあえず今全力で戻してはいるが、色々と気をつけな“とのこと。以上です』
…………ふむふむ、なるほど?つまりは————
《文さんっ!また何かやりましたねっ!?……って、あ、あれ?》
文さんを叱ろうと応援席に目をやると、そこには小暮さんしかいませんでした。に、逃げましたね!?……とりあえず、文さんは後で説教ですっ!
『『『…………』』』
ちなみに皆さんはあまりの唐突さに唖然としています。そしてツネと須川くんの末路(?)を自分の未来に重ねたのか……全員震えだしています。
『あー……と、とりあえず試合を再開しましょうか?』
審判の先生に促されて、恐る恐る皆さん戻りましたが……これじゃまともに試合なんて出来そうにないですよ?全員あの惨劇に脅えているみたいですし。
「……月野、これ試合になると思うか?」
と、3番のナツが(ちょっぴり恐怖で顔が引きつっていますが)自分に聞いてきました。
《えっと……試合と言うより死合になりそうですよね》
「だよな……流石に恐怖を感じざるを得ないしな」
……何せ敵味方両方を滅することの出来る砲台が、自分らの目の前でボールを射出しようとしているんですからね。まあ、自分は先ほどからその恐怖を味わっていたので、気持ち的には皆さんよりも覚悟はあるほうだと———
「うぅ……失敗しちゃいました。うーん……やっぱり思いっきり投げていないからでしょうか?」
———覚悟なんて、なかった。ば、バカな!?さっきの一撃ですら本気で投げていなかったのですか!?前言撤回します、やっぱり怖いものは怖いです!?こ、ここは様子を見る為にも外側の緩い球で様子見してみましょう。
《そ、外側 力は込めすぎないで》
「では行きますよ!え、えいーっ!」
試合を再開し、まずは第一球。可愛らしい掛け声とは裏腹に、自分らの命すら刈りそうなほどの超剛速球は狙い通りミットの中へ————入らずに、ミットを突き破って遥か後方へ飛んで行きました。そ、外側に構えててよかった……あ、あはは。こりゃ自分の人生ここまでかも……
『……えーっと、ボール?』
審判の先生も思わず疑問形を付けてしまっていますね。もうこれって、ストライクとかボールとか関係ない気がするのですが?アカン……これ本気でアカン……
「うぅ……明久君と美波ちゃんに良いとこ見せなきゃならないのに……あ!だったらここは全力で投げるしかっ!」
HAHAHA!全力ですって?それって、自分に対する死刑宣言と見て宜しいのですよね?そんな不穏当な発言をした姫路さんは戻されたボールを握りしめ、……どう言うことか、目を瞑ってしまいます。
- 112時間目 頑張るあの子は殺戮マシン〜Deadボール〜 ( No.52 )
- 日時: 2015/08/08 21:28
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「…………おい、月野?あのピッチャー目を瞑ってねえか?」
《…………奇遇ですね、自分もそう見えますよ……姫路さん聞いてくださいっ!一生のお願いですからリードとサインだけはちゃんと見てくださいっ!?》
「すう、はあ……すう、はあ……大丈夫です。私には背中を守ってくれている明久君と美波ちゃんがいますから……!」
《全然聞いてないっ!?あ、アキさん!島田さんっ!ヘルプ!ヘルプです!?》
頼みの綱は姫路さんの想い人たち、この二人です!お願いしますアキさんに島田さん!このままじゃ自分もナツも殺られてしまいます!?
『『…………ゴメン造(月野)』』
謝られたっ!?何だか二人の顔に『こうなった瑞希は止められない』って書いてある気がしますよ!?嗚呼……ど、どうやら姫路さんを止めるのはアキさんたちですら無理みたいです。もう、これは覚悟するしかないのでしょうか……?
「行きますっ!やあーっ!」
「《せめて目を開けて(開けろ)!?》」
ナツと自分の心からのお願いは彼女には届かずに、姫路さんは目を閉じたまま全力でボールを叩きこんできました。……ってこっち来たっ!?ま、マズイです、避けられそうにないかも……
「っ!月野っ!……ちぃ、間に合えっ!」
《(ドンッ!)えっ!?な、ナツ、一体何を!?》
と、ここでナツが召喚獣を操り、持っていたバットを使ってボールと直線上にいた自分を押し出してくれました……ですが、その結果————
ズドスッ! ドサッ!
≪Fクラス 姫路瑞希 現代国語 413点≫
VS
≪Aクラス 夏川俊平 現代国語 DEAD≫
————ナツの召喚獣がその殺人球をまともに受け、ナツはフィードバックで倒れました。ナツの召喚獣は……敢えてどうなっているとは言いませんが、その、胸から真っ赤な綺麗な花————例えるなら彼岸花を散らせて消えていきます。
「……へへっ……無事、か……?月野……?」
《な、ナツっ!?なんて事を!何で敵である自分を庇ったりなんか……!》
「ははっ……さっきの……デッドボールは、これで……チャラにして、くれねえか?」
ま、まさか……最初からそのつもりで!?なんてバカなことを……っ!皆さんもタイムを取りフィードバックで倒れたナツの元へと駆け寄ります。
『夏川っ!おい、しっかりしろっ!』
『お前……無茶し過ぎだろっ!?』
『養護の日高先生がすぐに来てくれるっ!それまで意識をしっかり保てっ!』
「……いや、大丈夫……だ。それよりお前らに、頼みが……ある」
息も絶え絶えに、ナツは薄れゆく意識を必死で保ちながら皆さんに何かを伝えようとします。
「俺の……我儘だが……ここはお前ら……棄権するんだ。受験を、控えている……し、ここで無茶して、危険な真似……する必要は、ねえ、だろ?」
《ナツ、そんな……》
「……こんな目に遭うのは、俺や常村だけで……十分、だ」
そして、物語の冒頭に戻ります。まさか野球の試合が死合に変わるなんて、一体誰が予想出来たでしょう?犠牲になったツネやナツ(と須川くん)が、一体何をしたでしょう!?
《しっかり!どうかしっかり気を保って下さいっ!》
「……いいんだ、月野……もう、いいんだ」
《よくありません!大丈夫ですっ!だから、そんなこと言わないでっ!》
「……ははっ……もう眠いぜ……ちょっと、寝るな……」
《だ、だめええええええええええええええええええええ!?》
『『『な、夏川ああああああああああああああああ!?』』』
「ワリィ……後は、俺の言った通りに……(ガクッ)」
倒れながらも必死に仲間を護るナツ。同じく犠牲になったツネ。二人の姿は体育祭の伝説になりました。この二人の、特にナツの学内での地位が更に上がった事は言うまでも無いでしょう。ああ、そんでもってついでに……
「あ、あれ?どうなったんですか?私頑張ってみましたよ!?」
「……いや、うん……その、ね?」
「……瑞希、ちょっと頑張りすぎたわね」
……こっちの方も伝説が爆誕。“体育祭にピンクの髪の悪魔が舞い降りる時、そこは殺戮のフィールドと化す”と言うね。……まあ、姫路さんが悪いわけではないのですよ。頑張って慣れない野球を取り組もうとしていたわけですし。
『『『……夏川の遺志を継ぎます……3−Aは、棄権します』』』
こうして、2−F対3−Aの勝負は2−Fの勝ちとなりました。……ですが、何だか双方が勝敗よりも大事なもの、“命の尊さ”と“フィードバックの恐ろしさ”を学ぶと言う野球と関係ないものを学んだ死合———コホン、試合となりましたがね?
とりあえず今からやるべきことは、ナツたちの治療と3−Aの皆さんに全力で謝ること、そして何より……
《文さんっ!出てきなさいっ!大事なお話がありますっ!》
文さんへの説教タイムですかね……ホント楽しく野球してたはずなのに、何でこうなったのやら……
- 113時間目 お弁当は説教の後で〜叱ることも大切です〜 ( No.53 )
- 日時: 2015/08/09 21:08
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
あの惨劇の試合が終わり、ようやく昼休みに突入。本来なら今は楽しいお昼の時間ですが————
「……文さん。まずはそこに座りなさい」
《…… …… …… ツクル やっぱり 怒って るー?》
「……とにかく座りなさい。そして、どうしてこんなことをしたか説明しなさい」
まずはきちんと文さんを叱らねばなりません。今回の件は流石の自分も見逃せませんからね。そう言うわけで人気のないところで文さんを呼び出すことにします。まあ、人に聞かれたくない内容ですし、叱っているところを見られたくもないですからね。
《…… …… …… だって ツクルだけ 痛いの 不公平 だもん!》
「……そう来ましたか」
……大体そんなことだろうなと、思っていましたよ。どうにも文さんは自分の事を第一に考えてしまうところがありますからね……
《だったら みんな ツクルの 痛い思い 公平に わけないと!》
「……それは公平とは言いませんよ。と言うよりも一方的な押し付けです。“公平に”と言っている文さん自体、偏った見方しかできてないじゃないですか。ねえ、文さん。文さんは……デッドボールを自分が受けたから、ナツに仕返ししようと思ったんですよね」
恐らくですが途中のナツのデッドボール、そのせいで自分が苦しむ姿を見てしまい腹を立ててこんな行動に出たのでしょう。……学園長の仰るように、確かに文さんを監視も付けずに外へ出すのは少々危険という言い分も強ち間違いではないかもしれませんね。
《…… …… …… うん》
「……やっぱりですか。では逆に聞きますが、自分がデッドボールをやってしまったらどうですか?同じように文さんは自分に仕返ししますか?」
《しない! ツクルは 絶対 わざと ヒトを 傷つけ ないもん!》
「……ではそれと今回の件、一体何が違いますか?ナツも勿論、人を傷つけようとしてデッドボールを出したわけではないですよ?」
……どうやらまだ文さんには、自分と文さん自身の世界しか見えていない節がありますね。これはあまり良い傾向ではないです。
《…… …… …… でも!》
「ナツだって自分に悪意をもっていたわけではないでしょう?最初のデッドボールは明らかに事故でした。ですが……文さんがやったことは、明確に相手を傷つけようとする悪意がありましたよね?」
《…… …… …… 文は ただ ツクルを 傷つけた 罰を 与えようと!》
……っ!なんてことを言うんですかこの子はっ!?
「文さんっ!あなたは一体何なのですか!少しシステムが動かせる程度で、神様にでもなったつもりですか!罰を与える?その罰とは何ですか?無意味に引っ掻き回すことが罰を与えることになるとでも思っているのですか!?」
正直叱るのは好きではありませんし、あんまり厳しい事言いたくないんですが……まあ、ここはちゃんと言うべきところですからね。心を鬼にしても文さんに教えることは教えませんとね。文さんにはもっと大きく育って欲しいですから……たとえ、自分がここからいなくなったとしても。
「ちょっと考えればわかるでしょう!どうして自分の痛みを気遣う優しさがあるのでしたら、その優しさを他の方にも向けないのですか!あなたはナツ達が倒れている姿を見て、何とも思わなかったのですか!?」
《でも 文は ツクルが 大事で!》
自分のそんな説教に食い下がる文さん。……ええ、そうですね。確かに文さんにとっては自分———月野造と言う存在は大事でしょうね。文さんにとって自分は“誕生させてしまった存在であり生まれた意義そのもの”なんですし。ですが……
- 113時間目 お弁当は説教の後で〜叱ることも大切です〜 ( No.54 )
- 日時: 2015/08/09 21:13
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「……あのね、文さん。文さんが自分の事を大切に想ってくれることはとても嬉しいです。ですが文さん、あなたが自分の事を大切に想うことと同じように、ナツやツネたちのことを大切に想ってくれている人だっているんですよ?その人たちが悲しむかもしれないと考えなかったのですか?現に自分は悲しいです、友人たちがあんな目に合ってしまって……それも“自分が原因”だなんてね」
《…… …… ……》
……まあ、これは自分や学園長にも責任があります。文さんが誕生して今に至るまで約一年足らず。彼女はある意味まだまだ赤ん坊のような子。なまじ知識やシステムを掌握するほどの知能がある分、自分たち以外の他者とのコミュニケーションを取らせていなかったのも事実。まあ、取れる立場ではなかったですからね……
「今回は流石にやり過ぎです。悪ふざけにしては程があります。文さんは遊び半分でやったわけではないとはわかっていますが、それでもやっちゃいけない事をやってしまった事は文さん自身わかっていますね?」
《…… …… …… うん ゴメン なさい ツクル》
流石に堪えたのか、しょぼんと自分に小さな声で謝る文さん。……やれやれ、ですね。
「……違いますよ文さん。ごめんなさいを言う相手は自分ではないでしょう?……とりあえずナツ達に————は、文さんが謝っても何故謝られるのか意味がわからないでしょうから、後で保健室に行ってお見舞いついでにそれとなく謝りに行きましょう。その後、ちゃんと学園長に謝りに行きますよ?いいですね?」
《…… …… …… うん》
……よしよし、大体こんな感じですかね。自分が言うのはここまでにしておきましょう。甘いと言われるかもしれませんが、これ以上は言わないでおきましょう。あんまりしつこく叱っても逆効果でしょうし。それに……ここから先は何が悪かったのかを文さん自身が考え、そして反省しなくてはならないことです。1から10まで教えるだけでは意味無いでしょうし。
「……自分が言いたいことは一通り言いました。文さん、あなたがやったことはしっかりと反省すべきです。いいですね?」
《反省 する ちょっと やり過ぎた》
「そうですね。そこはきちんと反省してください。……ですが文さん」
……さてさて、叱った後にはちゃんとフォローもしませんとね。何も文さんはただ暴走していたわけではありませんもの。……本当はとっても優しい子だってわかっているから————
《??? ですが 何ー?》
「ですが……どんな形であれ、自分を心配してくれた事はとても嬉しいです。心配してくれてありがとうね、文さん」
《! ツクル♪ うん どういたし ましてー!》
そう言うとしゅんとした表情から一転、満面の笑みを浮かべる文さん。ホントはもう少し叱るべきかもしれませんが……曇った顔よりその笑顔の方が似合いますからね。
「ふふっ♪ではまずは保健室に言ってナツ達のお見舞いに行きましょう。その後学園長のところに謝りに行きますよ」
《…… …… …… ばーちゃん とこも 行かなきゃ ダメ?》
「こーら。そこは文さんの自業自得ですよ?そもそも今回学園長に出かける断りを入れてきてなかったでしょうに」
《…… …… …… 何で わかった のー?》
「そりゃわかりますよ全く……まあ、ちゃんと謝った後は皆さんのところに戻ってお昼ご飯ですよ」
《あ! そーだった♪ わかったー! ゴハン 楽しみー!》
「って、こらこら文さん?まずきちんと謝る事が先ですからね」
そう言うわけで、とりあえずは二人でナツたちのいる保健室にお見舞いに行く事にしました。それまではお昼はお預けですかね。
…………あれ?と言いますか今更ですが……文さんってご飯食べられるんですっけ?ま、まあ自分が大丈夫なんですし文さんも食べられる……のかな?
- 113時間目 お弁当は説教の後で〜叱ることも大切です〜 ( No.55 )
- 日時: 2015/08/09 21:36
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
康太Side
午前の壮絶な死闘が終わり、只今休息の為の昼休み。いつもなら明久や雄二たちと一緒になって弁当でも食べているハズなんだが……
「え、えっと。はい!こーたくん!お、お弁当どうぞ……」
「…………俺にか?」
昼休みが始まる前に、工藤に急に呼び出された俺なのだが……どうやらコイツは弁当を作ってきてくれたらしい。そう言えば夏休み中に、俺は一応コイツの料理の特訓に付き合ってやったが『上手になったら、手料理を食べて欲しい』って約束していたことをふと思い出す。
「い、一応頑張ってみたんだけど……その、さ?食べてくれるかな?」
「…………食べる。今日は弁当持ってきていなかったから助かる」
「あ、ありがとう、こーたくん♪」
とりあえず気まずくなる前に工藤から弁当を貰う事にする。と言うか、礼を言うのはこっちなのだが。……それにしてもここが他の連中と離れているところで良かった。こんなことバレたらとりあえずFFF団が抹殺行動に出るだろう。
それは一旦置いておき、工藤から受け取った弁当のふたを開ける。その中身は———
「…………ほう。これは中々」
「あ、あはは……口に合うかわかんないけど、どうぞ召し上がれ、カナ?」
———中から出てきたものはおにぎりに卵焼き。それから照り焼きハンバーグにきんぴらごぼうなどなど。オーソドックスながら一生懸命作った様子が良くわかる。夏から料理の勉強を始めたにしては、中々な出来栄えだな。
「…………頂く」
「ど、どうぞ……ちょっと焦げてるかもだけど」
そう言う工藤の顔は明らかに緊張している。気持ちは分かるが夏の間しっかり鍛えてやったし、コイツ自身の努力もあってかなり上達しているハズだ。そう心配する必要はないだろうに。そんなことを思いつつ静かにまずは卵焼きに手を伸ばす。一口パクリと頬張ると……うむ。
「…………甘みもちょうどいい。もう大体作れるようになったようだな。美味いぞ」
「そ、そう?えへへ♪まあ、こーたくんと言う名の先生の腕が良かったからね〜♪それじゃあどんどん食べちゃってよ!」
これは美味いな。それもかなり。素直にそう感想を伝えると、照れ隠しをしながらそんな事を言いつつもこっそりガッツポーズする工藤。先ほどの緊張していた顔から、いつものような明るく、本当に嬉しそうな顔に戻っているな。
「…………遠慮なく頂く。工藤も立って見てるだけじゃなくて食べろ」
「あ、うん。そだね〜♪んじゃ、いただきまーす!」
そう言って、工藤も俺の隣で弁当箱を開ける。…………ん?これは……見た感じ俺と同じ弁当の中身だろうが……何か違和感がある気がする。何だか少し焦げている……?
「…………(じー)」
「っ!?あ、あの……え、えっとさ、こーたくん?ちょっとこっちはあんまり見ないで欲しいカナー……なんて」
工藤の弁当箱をじっと見ていると、工藤が恥ずかしそうに言ってくる。この反応、そしてこの弁当の中身……なるほど、これはつまり———
- 113時間目 お弁当は説教の後で〜叱ることも大切です〜 ( No.56 )
- 日時: 2015/08/09 21:27
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「…………そっちは調理に失敗したものか」
「たはは……正解。まあそう言うことだよ。大丈夫、こーたくんの方は綺麗なもの詰めてあるから安心してね♪」
どうやら見た目的に焦げていたり形が崩れているものが工藤の方に、そして工藤の言った通り綺麗に仕上がっているものは俺の方に詰めてあるようだ。全く、コイツはそんなこと気にしていたのか……よし、ならば。
「…………いただき(ヒョイ パクッ!)」
「って!?ちょ、ちょっと!?何でよりにもよってこっちまで食べるのさこーたくん!?」
隙を見て工藤曰く”失敗した”ものも食べてみることに。ふむふむ、これは……
「…………これはちょっと焼き時間が長かったな」
「うぅ……ダメだってば。だから失敗したって言ったじゃない」
良いところを見せたかったのだろう。そんな思惑をあっさりと破られて、少し工藤はガッカリした表情になる。まあ確かに成功した方に比べると、やはり焼き加減がもう一歩だったり調味料の分量がまだまだなようだが……
「…………だが、美味い。ちゃんと頑張って作ってある」
「……もうっ!こーたくんなんか知らないっ!」
真っ赤になってふくれた顔を見せる工藤。やれやれ、たった1、2週間でここまで出来るようになれれば上出来だろうに。実際工藤は教えがいがあったからな。ここまで上達してくれた事はその、少し……少し誇らしい。
「こ、こっちじゃなくて綺麗な方も食べてよ!上手に出来たとこ食べて貰わないと意味ないしさ!」
「…………なら工藤もこっちも食べろ。折角上手く出来ているなら、お前も食べないと」
「むむむ……こーたくんってやっぱり頑固だー!……まあ、それも良いけど……さ」
そうして工藤と共に交互に二つの弁当を分けて食べる事になった。折角上手く出来たものと失敗したものを分けて詰んだのに、結局両方を食べられた工藤には悪いが、見た目はどうであれ正直どちらもかなり美味かった事だけは言っておく。……多分、料理に一番大事なものが入っている証拠だろう。
「…………ただ、もう少し修業は必要そうだがな」
「うぅ……そこはちょっと悔しいな。……そうだね、こうなったら……絶対にこーたくんがあっと驚くくらい料理上手になってやるんだからね!覚悟しておくよーに!」
……悔しいと言っているわりには、何故か物凄く楽しそうだがな?まあ、そう言う俺も満更ではないか。いつものメンバーで食べるのも良いが、工藤と一緒に食べるのも……まあ、悪くはない。
「あっ……ところでさ、今更だけど良かったの?こーたくん本当なら吉井君たちとご飯食べる予定だったんじゃないのカナ?」
「…………まあ、本当ならな」
「あらら……ゴメンね?無理言って付き合って貰ってさ」
「…………いや、寧ろ助かった」
申し訳なさそうな工藤だが……とんでもない、お前は俺の救世主だと心の中でつぶやく。そう、本当ならあいつ等に付き合わされて……地獄を見ていただろうから。
「???助かった?」
「…………ああ。命拾いした。感謝する」
「何それ?こーたくんって時々よくわかんないよね〜♪」
わからなくていいぞ……体育祭のようなイベントがあれば———必ずとあるクラスメイトの殺人料理が姿を現すという事実はな。悪いな……明久に島田。一応祈っておくが、生き残れよ。
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.57 )
- 日時: 2015/08/12 19:28
- 名前: ユウ (ID: qUgMea5w)
結論 ムッツリーニの一人勝ち。
まあ、本来なら罰を与えるところだが、せっかくの良い雰囲気を壊したくもないので、ムッツリーニへの罰は明久と雄二にでも肩代わりにさせて貰うよ。
だから、ムッツリーニと愛子ちゃんは存分にイチャイチャして来てくれたまえ♡
…さて、それじゃあ明久と雄二よ、覚悟は良いかい?(そう言って右手には姫路さんの手料理≪という名の殺戮兵器≫と左手には2人が気絶した後に着せるためのチアガールの衣装、そしてタスキ掛けしている8kカメラを持って怪しく目を光らせるユウ)
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.58 )
- 日時: 2015/08/14 21:03
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
>ユウさん
感想ありがとうございます。ムッツリーニ大勝利、もげろ
康「…………別に俺らは何も……」
愛「そ、そうだよ!?ボクらは何も……ね、ねぇ?」
HAHAHA!もげろ、今すぐ。まあ、ユウさんのお墨付きだし今回は大目に見るけど。
造「それは良いのですが……糖分、どうして姫路さんのお手製の料理をアキさんたちに押し付けて———」
えっ……?リア充だから。気にくわないから。モテるから。他に理由はあるの造?
明・雄「「理不尽すぎだろ!?」」
姫・美・翔「「「チアガール姿……カメラ……ゴクリ……」」」
明・雄「「そしてそこの女子勢は何を期待しているっ!?」」
- 114時間目 普通のおにぎりが〜こんなに美味しいなんて〜 ( No.59 )
- 日時: 2015/08/14 21:10
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
「それにしても、ババァ長もしっかりして欲しいよね。まーたシステムの異常とか暴走だなんてね」
「そうね……須川はともかく倒れちゃった先輩たち、大丈夫かしらね?」
「あの、明久君、美波ちゃん……」
2−F対3−Aの試合が僕らの勝利と言う形で終わり、折角の楽しいお昼の時間が来ているんだけれども、僕らは爽快感を得られずにいた。何せあんな事があったんだ。素直に決勝進出を喜ぶ前にあんな目に遭ってしまったあの先輩達に哀悼の意を捧げよう。にしてもあのババァ、やっぱりシステムに踊らされている気がする。
「一応学園長の話だと、今は召喚システムは正常に作動しているそうよ。これで次からは安心よね、瑞希♪」
「え、ええ。安心ですね。……あ、それでですね二人とも……」
「あ、そう言えば決勝って先生たちと戦うんだよね?雄二のヤツどんな策を練るんだろうね?ねえ、瑞希?」
「そ、そうですね。私は策を練るなんてこと、向いていないので何とも言えませんね。そ、それより二人とも……」
そう、次はいよいよ教師との戦いだ。いつもの恨みを晴らし、(瑞希&美波の写っている)写真と戦友《エロ本》たちを取り戻すチャンス。必ずや勝って見せるっ!
「泣いても笑っても次でウチらの没収品が取り戻せるかかかってるわけだし、気合い入れなきゃならないわね」
「その通りだね。それじゃあ次が一番重要な戦いになるし、早めに雄二に対教師共の作戦でも聞きに行って————」
「あのっ!二人ともっ!」
「「…………はい」」
美波と二人で必死に現実から目を背けていたけど、やっぱり逃げ切れないらしい。僕と美波は今にも泣き出さんばかりの表情で、瑞希に返事をした。
「実は私、お弁当を作ってきたんですけど……」
瑞希は大きな包みを差し出す。うん、わかっていたよ?瑞希はこう言う大事なイベントには、必ずお手製の料理を持ってくることくらい……ね?ただそう、認めたくなかったんだ。
「あ、あはは……瑞希は本当に尽くすタイプよね(アキ、どうしましょう?もう逃げられなさそうよ?)」
「そ、そうだね!瑞希はいいお嫁さんになるよ!(マズイね。いつもの生贄(ゆうじ)共がいないし)」
「も、もう♪美波ちゃんも明久君も誉めすぎですよ♪……はい、どうぞです♪」
瑞希と話をしつつ、美波とアイコンタクトで会話する。ホントに参った……造や秀吉たちが無事に避難できているのは良かったけど……雄二とムッツリーニ(生贄共)はどこ行った!?さては先にこうなることを察知して逃げやがったな!?
この場から逃げ出した奴らに呪詛を呟きながら、僕と美波が二人で死の恐怖を恐れている中、瑞希は持っていた包みをほどき中身を取り出す。……って、あれ?
「あら?ねえ瑞希、なんだか今日は量が少ないんじゃない?」
「あ、それ僕も思った。いつもはこの倍はあったよね?」
そう、そこにあるのは普通の重箱一つと、二回りくらい小さな箱が一つ。ちなみに中身は俵の形に握られた、たくさんの小さなおにぎりみたいだ。
「あ、はい。実は、また失敗しちゃったんです。本当はこれの他にちゃんとおかずを作っていたんですけどね……」
そう苦笑いをしつつ、瑞希は僕らにそのおにぎりを差し出し————
「さあ、二人とも。召し上がれ♪」
最高の笑顔で、最凶最悪の兵器を渡そうとしてきた。……その笑顔、とっても可愛いのにとっても怖い。本気でどうしよう……正直まだ死にたくないけど、こうなったら美波だけでも逃がすしか……っ!
「あ、あのさ!僕飲み物買うの忘れちゃっててね!?それでその……美波、悪いけど買ってきてくれないかな?」
「っ!?(ちょっ!?ちょっとアキ!?まさかウチを逃がす気じゃ……!?)」
「ダメかな美波?(美波……避難ついでに日高先生を呼んでて貰うと嬉しいかな。大丈夫、いくらなんでも即死は回避するから)」
まあ、とりあえず美波だけでもこの場を逃げて貰うとしよう。安心してよ?何とかなるって……多分。そう、美波にアイコンタクトを送ろうとすると……
バシッ!
「痛っ!?だ、誰だっ!?……って、え?」
「ちょっと!何、お姉様を使い走りのように扱おうとしているのですか!恥を知りなさい恥を!」
急に誰かに後頭部を叩かれる感触と共に僕を叱責するような声が木霊する。……って、この声は!
「「「美春(清水さん)!?」」」
- 114時間目 普通のおにぎりが〜こんなに美味しいなんて〜 ( No.60 )
- 日時: 2015/08/14 21:29
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
何故か再び清水さんが仁王立ちで僕の背後にいた。あ、4人5脚ではその……イロイロありがとう清水さん。大分イイ思いができたもんね———なんて心の中で呟く。それにしても不思議だ。FFF団に見つからないように2−Fクラスの待機場所から随分と離れたところにいると言うのに、清水さんはどうやってここを見つけてきたのだろうか……まあ、美波いるところに清水さん在りだし、その辺は考えるだけ無駄かな?
「全く……これだから男は気が利かないのです!ましてはお姉様をそのように扱うなど言語道断っ!……その点美春はちゃんと気が利けますわ♪さあ、お姉様!こちらの紅茶をどうぞです♪」
と、持っていた水筒に紅茶を注ぎ美波に渡す清水さん。その迅速な行動は賞賛に値するね。ただ気が利くって言っているケド、今回は完全に裏目に出ている事を彼女は知らない……困った、これじゃ美波を逃がせない……どうしたものか。
「あ、清水さん。清水さんもどうですか?」
「あら?宜しいのですか?では、お言葉に甘えて」
「「あ゛!?」」
と、僕らが止める間もなく、清水さんがおにぎりを一つ口に放り込んだ。し、しまった!?こんなことなら大人しく僕が食べておけばよかった!?早くも犠牲者が出るなんて———
…………って、あり?
「ふむ。普通のおにぎりですが、美味しいですわね。感謝しますわ、姫路さん」
「そうですか。良かったですっ」
「「…………???」」
予想に反して、清水さんに体調等の異常は見られない。これは一体どう言うこと……清水さん、食べても無事って……?ホントに何ともないの?
「え、えっと……瑞希?このおにぎり、どうやって作ったの?」
流石に清水さんが人外レベルに強い子だって言っても、お腹の中まで異常なレベルってことは無いだろうから、おにぎりに秘密があるんだよね?それとなく瑞希に尋ねてみることに。一体どんな秘密が……?
「特に何もしてないですよ?炊いてあったご飯に、お塩を振ってから俵型に握って、海苔を巻いただけです。まあ本当ならおにぎりが普通な分、おかずを特別製にしていたんですけど、ね」
…………と、言う事は。それはつまり———
「「いただきます、瑞希♪」」
このおにぎりは、瑞希が一生懸命作ってくれた(初めてまともに食べられる)ご馳走だってことだ!そうとわかれば、何も遠慮することはないっ!美波と二人で一口食べてみると———
「「お、美味しい……!」」
とても、そうとても美味しかった……!どうしてだろう。本当に塩と海苔だけの普通のおにぎりなのに、こんなにも美味しく感じられるなんて!僕は今本気で感動しているよ……!
「どんどん食べちゃってくださいね!……すみません、おにぎりだけじゃ物足りないかもしれませんが」
「あ、そういうことなら……瑞希、おかずが足らないって言ってたわよね?だったら良かったら皆でウチの作ったお弁当食べない?」
と、おにぎりを幸せそうに食べていた美波が自分のバスケットを開ける。中身は色とりどりのサンドイッチのようだ。余っているスペースにはから揚げ、ウインナー、卵焼きなどどれも美味しそうなものがたくさんあって凄い!
「美波も凄いね!これ凄くおいしそうだよ!」
「ホントですね!私ももっと頑張らないといけませんね!」
瑞希、頑張る君の姿はとても魅力的だけど、できれば頑張る方向性だけは間違えないでほしい。僕らの命がかかってるわけだし、ホント切実に思う。
- 114時間目 普通のおにぎりが〜こんなに美味しいなんて〜 ( No.61 )
- 日時: 2015/08/14 21:22
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「素晴らしいですわ!お姉様っ♪……全く、そこの男に食べさせるのは勿体ないくらいに。吉井!とりあえず貴方はお姉様に全力で感謝しなさいな!」
「全くもってその通りだね、二人ともホントにありがとう!」
と、清水さんが言ってくるけど、正直本当に感謝しなきゃいけないくらいご馳走だ。ホント僕は幸せ者だなぁ〜
「さて。お姉様、こちらの紅茶はご自由にお飲み下さいませ。それでは美春はこの辺で失礼し————」
「は?何言ってんのよ美春。アンタお昼食べないの?」
「…………はい?」
と、水筒を置いて立ち去ろうとする清水さんを美波が止める。止められた清水さんは、心底不思議そうな顔で美波を見ているね。
「え、えっと……お姉様?それはまさかとは思いますが……美春も一緒にお昼を共にしてよいと言うことで……宜しいのですか?」
「はぁ?当たり前でしょ。別に誰も食べちゃいけないって言ってないわよ。ねえ、アキ、瑞希」
「そだね。清水さんさえ良ければ、一緒に食べようよ」
「そうですよ!三人じゃ食べきれそうにないですし、清水さんもいかがでしょう?」
まあ、形はどうあれ清水さんは美波の事大切に想っているし、本音を言えばきっと清水さんは美波と一緒にお昼を食べたいに決まっているだろうからね。瑞希と一緒になって美波に頷く僕。
「そ、それではっ!?い、頂いてもよよよ宜しいのでしょうか!?」
「だから良いって言ってるでしょ。ホラ、アンタも食べなさいな」
「あ、ありがたき幸せ……」
「いや、美春……そこで土下座されても困るんだけど……」
————そう言うわけで、急遽四人でお弁当を食べる事になった。うんうん♪やっぱり皆で食べるとまた、美味しく感じるよね。今日は本当に珍しいメンバーでだけど。
「それにしても唐揚げをおかずにおにぎり食べられるなんて……!本当に今日は贅沢だね!塩だけのお昼に比べたらもう天と地の差だよ!」
「…………は!?塩だけのお昼!?あ、貴方は一体どんな生活を送っているのですの!?」
「ダメよアキ。そんな食生活をまだ続けるようだったら、玲さんに報告しちゃうわよ?」
「そうですね♪明久君はお姉さんの玲さんには頭が上がらないですもんね」
「ほう?それは良い事を聞きましたわ。この男は姉に弱い、っと」
「ちょっと!?清水さんは一体何をメモってんの!?止めて!?」
雑談をしつつ楽しくお昼を過ごすことに。ある意味凄いなー……清水さんとまともに会話する日が来るとは思わなかったよ。そんなことを考えつつ、飲み物を取ろうとすると————
「……あれ?もう無くなっちゃった?」
「あらら。まあ、四人で飲んでたからね」
————すでに水筒の紅茶は空になっていた。ちょっと飲みすぎたかな?そうか……だったら。
「ねえ三人とも?好みの飲みものって何かな?」
「へ?……えっと、ウチはレモネードかしら?」
「私は……紅茶でしょうか?」
ふむふむ、なるほどね。レモネードに紅茶か。そう言えば良く二人とも飲んでたね。
「そっかそっか。……それで、清水さんは?」
「……何ですの?いきなり」
「いーからいーから。とりあえず言ってみてよ」
「……強いて言えばコーヒーです。微糖の」
「オッケー。んじゃ待ってて。すぐに買ってくるから」
「「「……え?買ってくるって?」」」
「美味しいご馳走と紅茶のお礼!まあ、すぐに戻ってくるよ!」
多分瑞希たちのことだし『そんなの悪い』って言うだろうから、有無を言わさず飲み物を買いに行くことにする。
『明久君ったら……そんなこと気にしなくてもいいですのに』
『ま、その辺はアキらしいわね♪』
『……ふん。まあ、多少はマシってところですか』
あんなに美味しいお昼のお礼が安いジュースの奢りだなんてケチくさいけど、何もしないより良いだろうからね。待たせちゃ悪いし急いで自販機に向かう事にしよう!
…………ただこの時は、まさかこの離れている数分の間に大変な事になっていようとは夢にも思わなかったけど。
〜明久移動中〜
- 114時間目 普通のおにぎりが〜こんなに美味しいなんて〜 ( No.62 )
- 日時: 2015/08/14 21:42
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「———あや?アキさんじゃないですか」
「あ、造と……妹の文ちゃんだっけ?」
《おー! アキヒサ だー♪》
自販機のある購買傍の近くまで行くと、造とその妹の文ちゃんが二人仲良く歩いていた。そう言えばこの二人ってお昼はどうしてたんだろ?
「やっほ、二人とも。ねえ造たちってもうご飯食べたの?てか今までどこ行ってたのさ?」
「んー、ちょっと文さんと一緒に行くところがありまして。あ、ちなみにご飯はまだですよ?ヒデさんや優姉さんたちと食べる予定です」
《あと アオイとも 一緒に ご飯 食べるー!》
ああ、秀吉がいなかったのはそう言うことか。ってことはムッツリーニも雄二も、それぞれが工藤さんと霧島さんと一緒にご飯食べているんだろうな。まあ、今回は瑞希の殺人レシピは出現しないだろうし、寧ろムッツリーニや雄二はいない方が助かるね。瑞希や美波のご馳走を勝手に食べられることを心配しなくていいし。
「そう言うアキさんはどうしたんですか?そんなに急いで」
「あ、うん。ちょっと瑞希たちに飲み物奢ろうかと思ってさ。瑞希たち僕にお弁当作ってくれてさ、そのお礼にね」
「へー、そうなんですn———はいぃ!?姫路さんのお弁当……ですと!?あ、アキさん!?まさか一人で命を賭けて食する気ですか!?バカな考えは止めてくださいっ!それでしたら自分も行きましょうか!?」
と、瑞希たちのお弁当と言うワードを聞いた造は青い顔でそんなことを言ってくる。あはは……やっぱり造は優しいね。逃げた雄二やムッツリーニはとりあえずこの子の爪の垢を煎じて飲めばいいのに。と言うか、とりあえずあのバカ二人は後で〆ることにしよう。
「あはは。いやいや大丈夫だよ。今回は何も特別なものは入れていない普通のおにぎりだってさ」
「……ほ、本当ですか?良かったです。てか、姫路さんも普通の料理って作れたんですね……」
「……だよね……今日一番驚いたかもしれないよ」
その分今日のお昼は本当にご馳走だけどね。……やっぱり普通の料理が一番美味しいってことかな?
《ツクル 早く ゴハン 食べよー?》
「おっと、そうでした。では大丈夫ならここで失礼しますね。アキさんは姫路さん&島田さんとごゆっくり♪」
「うん。それじゃーね。……おっと、僕も早く行かないとね」
とりあえず二人と分かれて、再び小走りで購買へと向かうことに。三人を待たせるのは悪いからね、っと。
〜明久帰還中〜
「み、美春っ!しっかり美春っ!?」
「しあわ……せ、です……わ……」
そして飲み物を買ってから、三人のところに戻ると……何故か僕の目の前に地獄のような、当の本人にとっては天国のような光景が広がっていた。
「……何コレ?」
「美春っ!?しっかりなさい!とにかく意識を保つのよ!」
「……嗚呼……美春は今、天国に……いるのです、ね。天使様が見えます……わ」
「天国!?ダメよっ!そ、そっち逝っちゃダメだって!?」
「お姉様の……腕の中で……逝けるなんて、本望……我が人生一片の悔い……無し(ガクッ)」
「美春ううううううううううううううううううううううううう!?」
清水さんが美波の腕の中で、今まさに天に召されようとしていた。何だかわからないけどこれはマズイ。僕の生存本能がさっきからエマージェンシーコールを起こしている。
「あ、明久君お帰りなさい♪」
「た、ただいま……はい紅茶どうぞ」
「ありがとうございます!すみません、わざわざ」
一先ず瑞希に買ってきた紅茶を渡し、美波と清水さんの元にそれとなく駆け寄る。
「はい、美波もお待たせ。レモネードだよ(……何があったの美波?清水さんはどうしてこうなったの?)」
「あ、ありがとね、アキ(わかんない。見た感じ、美春はただおにぎりを食べただけだと思うけど)」
……おにぎり?で、でも確かこのおにぎりは普通の味なハズじゃ……?いや、だが清水さんがこうなっている以上、何か仕込んである可能性が高くなった。何だ?一体何がどうなっているんだろうか?
「み、瑞希?ところでさ、このおにぎりって———何か特別な仕込みでもしたのかな?」
「えっと、あまり時間がなくて、ほとんど何もできなかったんですけど……」
「ですけど……?」
そうしてはにかみながら瑞希はこう続ける。
「二つくらい、特別な具を入れておいたんです。残っていた材料で。本当は全部に入れるつもりだったんですけど、中和に失敗してお弁当箱が溶けたせいで二つだけしか———」
「へー、そっかー……そっかぁ……」
…………OK原因発覚。トラップが仕掛けられていたと言うわけか。これは事情を知らない清水さんには悪い事をしてしまったね……と言うか瑞希、今キミ“中和”って言わなかった?……それは流石に僕の耳がおかしくなったからだと思いたいんですけどぉっ!?
その後、美波と瑞希に食べさせるわけにはいかないし、死ぬ気で(いや、本気で死ぬかと思ったけど)全てのおにぎりを食べきった僕。多少走馬灯は見えかけたけど……姉さんの料理も食べる機会が増えてきたし最近耐性が出来始めているお陰で、何とか現世に踏みとどまれたけどね。
「……今日の教訓。“油断した時が、一番危ない”かな?」
「……そうね。とりあえず美春を保健室に連れて行きましょう」
美波と二人でこっそり溜息。いつか瑞希にちゃんと料理を教えられたらいいんだけど……そんな儚い願いを馳せつつ、僕らは倒れた清水さんを保健室に運んで行くことになった。
- 115時間目 小暮先輩には〜姉上すら敵わぬようじゃ〜 ( No.63 )
- 日時: 2015/08/15 21:14
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
秀吉Side
「「「…………」」」
午前の競技・召喚野球大会が終わりを告げ、ようやくワシらは昼休みに入った。本来なら、すぐにでも造たちと弁当を食べる予定じゃったが……何やら造とその妹君の文が少々やらねばならぬ事があるらしく、ワシらで昼食の準備をやる事に。その事に関しては特に問題はないのじゃが……
「……その、何じゃ。造たち遅いのう。のう、姉上に先輩よ」
「…………そうね。でももうすぐ来るわよ」
「ふふっ、そうですね。ああ、弟さん?何でしたら先に召し上がっててくださいな。お姉さんもお先にどうぞ」
「…………いいえ。アタシは造くんたちが戻ってくるまで待ちますよ。先輩こそ先に食べてていいですよ?」
「あらあら♪お姉さんが待つのでしたら、私も待ちますね」
…………物凄く気まずいのう。そう、どう言うわけかここには姉上とワシの他にあの3−Aの智将であり、造曰くある意味最凶のお方:小暮先輩がワシらと腰を下ろしておる。何でも造の妹君に誘われたそうじゃが……
「遠慮しないでさっさと食べててください先輩。何だか申し訳ないですし。と言いますか、わざわざ待つ必要は先輩には無いでしょう?」
「うふふ、そうでもないんですよ。私、月野君たちが来ないと食欲が湧きませんの。ですからお姉さんと同じく月野君たちを待っているのですし」
ふむ……どうも姉上はこの先輩に対して敵意を剥き出しにしておるの。そう言えばあのオカルト召喚獣でこの先輩と相対した以降『あの先輩は……アタシ苦手かも』と姉上が言うておったからの。弱みをあまり見せぬ姉上がこうも明確に“苦手”と言うなぞ珍しいものじゃ……
「先輩、出来ればそのお姉さんって言う呼び方は止めていただけませんか?と言いますか、どうして先輩はそんな風にアタシを呼ぶんですか?」
「あらあら?ふふふっ♪すみませんね。月野君が貴女の事を『優姉さん』といつも呼んでいるので、どうやらあだ名がうつってしまったようですね」
……まあそれとは対照的に先輩の方は始終にこにこ笑って、いくら姉上が鋭い視線で睨んでも、いくら姉上が踏み込んでものらりくらりとかわしておるようじゃが。本当に珍しいのう。姉上が手玉に取られるなぞ……
「ぐっ……先輩、それは遠回しに『貴女は先輩である月野君に“優姉さん”と呼んで貰っているじゃないですか』って言っているように聞こえますけど?」
「あらあら、そう言うつもりではなかったんですよ。許して下さい、お義姉さん」
「今完全にお義姉さんって言いましたよね!?と言いますか誰が義姉ですか!?」
…………この先輩は本当に侮れんようじゃの。まさか姉上にツッコミを入れさせるとは。と言うか、久しぶりに姉上のツッコミを見た気がするぞい……?
「まあまあ、これもちょっとした渾名みたいなものですよ。……あらあら、見てください。月野君たちがいらしたようですよ。お二人ともー!こちらですよー!」
姉上の渾身のツッコミもやはり軽くいなし、先輩はやってきた造たちに楽しそうに手を振る。た、助かった……正直これ以上気まずい雰囲気はワシには耐えられそうにないからのう。
- 115時間目 小暮先輩には〜姉上すら敵わぬようじゃ〜 ( No.64 )
- 日時: 2015/08/15 21:19
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
《お待た せー♪ それ じゃあ ゴハン 食べよー!》
「すみません皆さん、遅くなりましたね」
「「ううん(いいえ)♪全然待っていないわよ(いませんよ)」」
……さっきまでのいがみ合い(正確には姉上の一方的な絡み合いかの?)から一転、見事にハモる姉上に先輩。姉上は認めむやもしれぬが、案外この二人は似ているのやもしれぬの。まあ、これはワシの勘じゃが……この先輩も造のことを————
「ヒデさんもお待たせしました。さあ、食べましょうね♪」
「うむ!流石に腹が減り過ぎて困っておった所じゃからな♪頂くとするかの!」
まあ、そう言うワシも人の事は言えんか……と言うか、この場にいる全員が造を大事に思うておるからのう。
「(ボソッ)造は罪な男じゃ……」
「???はい?何か言いましたか?ヒデさん?」
「いや、何でもないぞい。それより早く食べるとするかの!」
「あ、はいです♪流石にそろそろ燃料切れですからね〜♪」
《文も 食べて みたいー!》
造(と文)は、そう言ってにこにこと笑顔で弁当を取りだす。先輩や姉上の、————ワシの気持ちを全くわかっておらぬ純真な笑顔じゃな……本当に、造は罪な男じゃの。そんなどうでも良い事を想いつつワシも弁当を取り出しようやく昼食を頂く事に。
「造くん、これ良かったら食べて♪」
「はい、月野君♪私のもどうぞ。文さんもね♪」
全員で“いただきます”と言い終わると同時に、姉上と先輩が造にそれぞれの弁当のおかずを造に渡そうとする。……まあ、先ほどのやり取りでこうなる事は大体読めておったがの。ある意味これは修羅場じゃな……
「ありがとうです。……うん♪どちらも美味しいですね〜♪」
「「ふふっ♪それは良かった(です)」」
まあ、修羅場にならぬのは造の持つ場を和ませる空気のお陰じゃな。こやつと一緒におると、皆が毒気が抜かれるようじゃし。さっきまでの重たい空気は完全に払拭されたようじゃな。食事の際はやはり楽しく食べるに尽きるのう。こっそりホッと胸を撫で下ろすことに。
「ほら、秀吉。アンタも食べなさいな。文ちゃんも良かったらどうかしら?」
「はい文さん、弟さん。私のもどうぞ♪」
「おお、助かるぞい。ではワシも頂くとするかの」
《おー! ありが とー♪ うん! オイシイ ねー♪》
おっと、ワシも折角じゃし頂くとするかの。……それにしても先輩の方も姉上の方も手作りの弁当のようじゃな。姉上、朝早く何かしておると思ったがこれを作っていたのか。あれだけ姉上は料理が苦手だったはずなのに良くやるのう……ワシも、少しは料理を覚えてみるかの?
「(あ、文さんってやっぱり普通にご飯食べられるんですね)文さん、良かったですね」
《うん! オイシイ ねー! 文 生まれて 初めて ゴハン 食べたー!》
「「「…………?生まれて初めて?」」」
……?妙な言い方をするのう?それではまるで、文はこれまでご飯を食べた事が無いように聞こえるぞい?姉上や先輩もワシと同じように首を傾げる。そして兄である造は、その文の発言に何故だか青い顔に。
- 115時間目 小暮先輩には〜姉上すら敵わぬようじゃ〜 ( No.65 )
- 日時: 2015/08/15 22:42
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「っ!?(しまった、これはマズい……!?)い、いや!?文さんは“こんなに美味しいご飯は生まれて初めて”って言いたいんですよ!ね、ねえ文さん!?」
《あっ …… …… …… そう なのー♪ とっても 美味しい よー!》
なるほど、そう言う事じゃったか。確かにこの先輩の弁当のおかずはとても美味じゃの。姉上のも夏までは料理が苦手だった割には中々によくできておるようじゃしの。
「…………ふむなるほど。それは光栄ですね。私も頑張って作ってきた甲斐があるというものです。あ、ところで文さん?文さんのお好きな食べ物は何でしょう?」
「ぐっ!?(な、なんて答えにくい質問するんですか小暮さぁん……!?)」
《…… …… …… うーん あっ! ツクルが 好きな もの 全部!》
「(よし、文さんナイス回答!)そうなんですよ。文さん自分の好きなもの大好きですよねー」
「なるほど。つまり文ちゃんは甘いものが好きってことね」
「えっ!?」
うむ、造の好きなものと言えば間違いなくそうなるじゃろうな。
「あ、あの……優姉さん?どうして自分の好きなもの=甘いものってなるんですか?いや、確かに甘いもの好きですが……」
「まあ、造は甘いものに関しては譲らぬことろがあるしのう。その辺は否定できんじゃろ?」
「……い、いや……そこまでアレじゃない……ハズですよ?」
《??? ツクル 甘いもの 大好き だよねー?》
「…………ま、まあ……好きか嫌いかって言ったら……大好きですよ」
「「「ふふっ♪」」」
このような感じで全員談笑しつつ昼食を食べる。それにしてもいつもは明久や雄二たちと食べる昼食じゃが、このメンバーで食べるのは本当に新鮮じゃのう。まあ明久は姫路と島田。ムッツリーニは工藤。雄二は霧島と楽しく食べておるじゃろうし邪魔するのも悪いからの。若干明久と島田が(生命的な意味で)無事か心配じゃがの……
〜少年(?)少女+召喚システム:昼食&談笑中〜
「それにしても月野君と弟さん。次は召喚野球の決勝ですよね、私たちに勝ったんですし是非とも頑張ってくださいな」
「ああ、そう言えばそうだったわね……それにしても、造くんに秀吉?アンタたち良くこの先輩たちに勝てたわよね」
全員一通り食べ終わり、造の作ったアップルパイ(相変わらず見事な出来栄えじゃ)を食べていると、姉上たちがそんなことを言ってきた。うーむ、召喚野球……のう……
「アタシも代表も愛子も、それから久保君もかしら?没収品が懸かってたし、全力でやったのに全く歯が立たなかったのよね。それがまさかアンタたちが勝つなんて……ホント凄いわね」
「あ、あはは……えっと、あれは勝てたと言いますか……」
「う、うーむ……結果的に不戦勝……なのかの……?」
「……は?不戦勝?どう言うことよ?」
……まあ、ちょっとしたトラブルがあったからの。思わず造と二人で表情を暗くする。あの先輩二人に、それと3−Aの先輩方にはワシらがどうこうしたわけでもないし事故ではあるとは言えあのような勝ち方をしてしまい正直申し訳ない。落ち着いたら頭を下げにでも行こうかの。ああ、ちなみにその肝心の3−A所属の小暮先輩はと言うと————
- 115時間目 小暮先輩には〜姉上すら敵わぬようじゃ〜 ( No.66 )
- 日時: 2015/08/15 21:34
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
《うー 文 反省 しないと いけない ねー … … … ナツカワ ツネムラ あと よく知らないヒト(=須川) ごめんな さいー》
「文さん大丈夫ですよ。夏川君たちはもう大丈夫だと言ってましたし。文さんが反省なさっているなら夏川君たちも月野君も許してくれるでしょうし♪」
《うん …… …… …… ナツカワと ツネムラ 大丈夫って 言ってた》
「夏川君たちがそう言っているならきっと大丈夫ですよ。今度から気をつけましょうね、文さん」
《わかったー!》
————特に負けた事を気にした様子もなく、文の頭を撫でながらそんなことを言っておる。この先輩はいつも落ち着いておるのう。……それにしても文と先輩は何の話をしておるのじゃろうか?まあ話を聞く分に、もう解決しておるようじゃし特に気にする事ではないかの?
「ふーん、不戦勝ねえ?まあ不戦勝でも勝ちは勝ちだし、折角ここまできたなら頑張りなさいな」
「そうですね。先生方とどう戦うのか、楽しみにしていますよ♪」
《二人とも ガンバ! ガンバ!》
「うむ。まあ、折角じゃ!ワシも持っていかれた私物を取り戻せるよう頑張ってみるかの!」
「そですね、頑張りましょう!自分も取り戻したいものありますし」
「「《……取り戻したいもの?それって?》」」
3人が口を揃えて聞いてくる。ああ、忘れておったが造も何か持って行かれたと言っておったの。何じゃったかの……あまり覚えてはおらぬが、確か何かの花の種と写真立てじゃったか?
「ふふっ、まあ気にしないでください。ちょっとしたものですよ。でも優姉さんは残念でしたね。何か大切なものでも没収されたんですか?」
「ええ!折角造くんと秀吉の為に作ったコスプ————コホン、洋服と先生方に渡すつもりだった夏の想い出(主に造&秀吉のコスプレ集)が大量に詰まった写真がね」
「「ああ、それは本当に持ってかれて良かったですね(のう)♪」」
この瞬間、ワシは造と心の底から持ち物検査に感謝をしてしもうた。と言うか、姉上は何を学校に持ってきておるのじゃ……
「ちなみに高橋先生たちも泣いていたわ……ホント残念ね」
「……ホント、優姉さんも先生方も残念ですよね色んな意味で……おっと、もうすぐ昼休みも終わりますし戻らないと間に合わなくなりますね」
と、造が時計を指差すと確かに時計は昼休みの終わりを告げようとしていた。もうそろそろ戻らねばならんようじゃな。造の一言で全員が立ち上がる。
「ん、それもそうね。それじゃこの辺で解散しますか」
《美味し かったー! ミンナ ありがとー! ご馳走さま でしたー♪》
「ふふふっ♪お粗末さまです。そうそう、月野君と弟さんは待機場所が反対方向ですので、もう戻らないと午後の競技に間に合いませんよ。私と文さんとお義姉さんで後片付けをしておきますので、先に戻っててくださいな」
「あ、いいんですか?……では、申し訳ありませんがよろしくお願いしますね。———それと文さん。文さんは小暮さんか優姉さんの側にいてくださいね。そして何かあったら自分か西村せんせか学園長のところに行く事。いいですね?」
《はーい! ツクル 文 良い子に してる ねー♪》
「宜しい、良い返事です。では申し訳ありませんが小暮さん、それから優姉さん。文さんをよろしくお願いしますね。では皆さんまた後で」
「うむ。それでは、ワシらはこの辺で失礼するぞい。また後での」
そんなわけで先輩たちのご厚意に甘えて、ワシらは待機場所へ戻る事に。それにしても……
『———ところで先輩?……やっぱりさっきからアタシのこと“お義姉さん”って言ってますよね!?だからその呼び方は止めてください!』
『あらあら♪それは気のせいですよ、義姉さん♪』
『どんどんフランクになってる!?ど、どう言われようと造くんはお嫁にやりませんからねっ!』
『義姉さん、そう堅い事言わずに仲良くしましょう。私これからも掃除も洗濯も料理ももっと精進しますので。義姉さんの理想の嫁になってみせますので!』
『嫁ぐ気満々!?アタシは姑か何かですか!?それに“義姉”呼びは止めてくださいっ!?』
《おー! ユーコ アオイの お姉ちゃん なのー? 文も お姉ちゃん 欲しいー!》
『あら、それはそれはとても良いことを聞きました。それでしたら文さん、良ければ今日から私が文さんのお義姉さんに————』
『だ、ダメですっ!?絶対ダメっ!先輩、させませんからね!?それと文ちゃんも何言ってるかわかっているの!?』
……何故か姉上と先輩の関係が、姑と嫁のように見えたのはワシの気のせいじゃろうか?まあ、それ以前に何か根本的なものが違う気もするが。
「……姉上に苦手な人がいるとはのう……」
「ん?何か言いましたか、ヒデさん?」
「……何でもないぞい。ホレ、急ぐとしよう」
「そうですね。次は確か応援合戦でしたっけ?楽しみですね〜」
そんな姉上たちの様子も一切わかっていなさげな造は、のんきにそして楽しそうに鼻歌交じりにワシの隣を走る。こやつは普段は頭が回るのに恋愛事に関しては明久並みにわかっておらぬからの……まあ、それでこそ造らしいがの。
- 116時間目 応援・平手・翔子の涙〜すれ違いの決勝前〜 ( No.67 )
- 日時: 2015/08/16 21:15
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
『これより、一年生各クラスによる、応援合戦を行います。一年生の生徒は———』
グラウンドにアナウンスが響き渡ります。昼休み明けの最初の競技は、皆さん楽しみにしている応援合戦です。色とりどりの衣装を身に包んで、一年生の皆さんは音楽に合わせて、思い思いの演技を魅せてくれます。それにしても懐かしいですね、もう2年前になりますが自分もあんな風に一生懸命踊ってましたっけ。
そんな一年生たちを微笑ましく眺めつつ、自分らも次に来る出番を待ちつつ準備に取り掛かっています。
「学ランなんて久しぶりだなぁ……中学校以来だよ」
「なんだ。明久も中学は学ランだったのか」
「…………同じく」
「ワシもじゃな」
「あ、自分もです。もう3年も前になりますがね」
「へぇ〜。秀吉と造はセーラー服だったんだね」
「「アキさん(明久)?会話がまるで繋がっていませんよ(おらんぞ)」」
アキさんに全力でツッコみつつも衣装を手に取り、和気藹々と着換えながら話をします。と、そこにチアガールの衣装を手にした島田さんがこっちにやってきました。随分と困った様子で、自分とヒデさんの方へと来ましたが……これはまさか……
「ねぇ木下、月野」
「「嫌です(じゃ)」」
「う……まだ何も言ってないのに……」
いえいえ。その持っている服で大体言いたいことはわかっていますよ。どうせあれでしょう?チアを一緒にやってくれってことでしょう?嫌ですよ。悪いですが、ここは譲れません。
「そんなこと言わないで。ほら、この衣装もかなり可愛いわよ?」
「可愛いから嫌なんですってば」
「その通りじゃな。何度頼まれようと、ワシらはチアガールなぞやらん。こちらの応援団をやるのじゃ」
「ええ。何せ自分とヒデさんは、正真正銘立派な男子ですからね」
「(立派な……男子?何の事かしら?)でも応援団は人数余ってるじゃない。こっちは人数が足りなくて困ってるの。だから、ね?人助けってことでお願いっ!」
…………ぐぅ、人助けって言われると辛いのですが……それでもダメです。
「???美波、どうしてそこまで秀吉と造にチアやらせたいの?一応この二人って戸籍上は男なのにさ」
「「戸籍も何も、正真正銘男ですよ(じゃぞ)!?」」
アキさん、後で説教ですからね。ま、まあそれは一旦置いておくとして、確かにアキさんの言う通りどうして島田さんはそこまで自分らに拘るのやら?気になって聞いてみると、島田さんは黙って遠くを指差します。えっと……?
『あ。美波ちゃん。早く着替えないと時間が無くなっちゃいますよー』
と、そこにはチアガールの衣装に着替えた姫路さんが。……ああ、なるほどそう言うことですか。つまり……
「あの子と二人で踊るのは、色々と辛いのよ!?わかる!?あの子の“アレ”って物凄く揺れるのよ!?跳ねるのよ!?暴れるのよ!?」
「「「「「(…………胸、か)」」」」」
確かにお二人だけで踊るとなると、否が応でもその胸部を比べられちゃうのは当然。だからこそ当たり前ですが胸の無い自分やヒデさんと踊って欲しいというわけですか。まあ、そういう意味では確かにお辛いでしょうが、女装となるとやっぱり嫌です。全力で拒否します。そう断固としてお断りですね。
「あー……確かに瑞希と並んで二人で踊ってたら、色々と比べられちゃうのか」
「うぅ……そうなの。あの子すっごく張り切って一生懸命飛び回るのよ!?そんなことはないって分かってはいるケド、もう隣にいるウチへの嫌がらせとしか思えないのよ!」
「んー……でもさ?別にそんなこと気にしなくても、美波は十分魅力的だと思うけど?」
「っ!もう!あ、アキったらっ……!」
と、さらりと島田さんを赤くするアキさんの殺し文句。わー、どうしましょう。何だか今ならお砂糖吐けそうですよ?相変わらずなアキさんたちですね。あ、ちなみに皆さんも同じような反応をしてます。
「で、でもそれとこれとは別問題よ!お願い木下、月野!一緒にチアガールをやって!」
「お断りですね」
「絶対に嫌じゃ」
「けど学ランの上に無理してサラシを巻くくらいなら素直にチアをやって方が良くないかしら」
「あ、あれはお主らが巻かなければ教育委員会に訴えられると言うから……」
「自分たちは仕方なくサラシを巻いているんですよ……あれ?と言いますか島田さん。どの道自分じゃそのチア服は着れないような……?」
「え……?あ、そっかしまったサイズが……そう言われればそうかも」
- 116時間目 応援・平手・翔子の涙〜すれ違いの決勝前〜 ( No.68 )
- 日時: 2015/08/16 21:19
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
よくよく見るとサイズがちょっと(?)合っていません。まあそりゃそうですよね。特注か優姉さんたちが作りでもしない限り、自分に合った服なんて用意できないでしょう。……べ、別に背の低い事なんか悔しくないですからね!?
「でも待って、アンタの妹の文ちゃんってチア服着てたわよね。身長同じくらいだしあれは借りれないの?」
「……あー、無理だと思います。色んな意味で」
何せ文さんのアレは、文さんご自身が創造して創った“データの服”です。……文さんのことですしちょっと調整すれば行けるかもしれませんが。
「くっ……なら仕方ないわね。ここは木下だけで我慢するしか……」
「待つのじゃ島田よ。ワシも着らぬと言っておるじゃろうに」
とりあえず何とか島田さんは自分は諦めてくださった様ですが、ヒデさんにターゲットを絞ったようですね。ヒデさん、島田さんの説得頑張ってください。
「あらら……美波も大変だね」
「そうですね……って、アキさん?何だか少しだけ顔色が悪くないですか?大丈夫です?」
自分の横でヒデさんと島田さんの問答を見ているアキさんは、何だかお昼に会った時よりも若干顔色が悪い気がします。どうしたんでしょうか?ひょっとして体調悪いとかでしょうか?
「ん、そう?……あー、多分瑞希のお弁当の“当たり”を食べたからだと思う。油断してたら思わぬトラップがあったよ」
体調が悪いとかそんなレベルじゃなかった件について。よ、よくぞ生き残ってくれました。
「……まあ、安心してよ。耐性が出来てたせいか何とか帰還出来たし、問題ないよ」
「「「…………あー」」」
この場にいる姫路さんの殺人料理被害者の会全員納得。なるほど耐性が……って言うか、やっぱり姫路さんのお料理ってとことん油断ならないんですね……
「あ、お弁当で思い出したけど……雄二にムッツリーニ。貴様らよくも逃げてくれたな……?」
「逃げたとは心外な。俺はただ次の教師戦に備えて策を練っていただけだ。別に“こう言う時、姫路は必ずお手製の弁当を持ってくる”とは思っていなかったぞ」
「…………俺は工藤に呼び出されて」
あ、やっぱりこーさんは工藤さんとご飯を食べてたんですね。ふふっ♪最近本当に仲が良いようで何よりですね♪
「ってことは、ゆーさんは霧島さんとご飯食べたんですね♪」
「ん?いや、俺は一人で食ったんだがな」
「「「…………え?一人で?」」」
あら?意外ですね。霧島さんの性格からして、こう言う時は絶対ゆーさんと一緒にご飯を食べると思ったんですが……?
「何だお前らそんな意外そうな顔は。まあ、アイツも別に始終俺と一緒ってわけじゃねえし、そう言う時も偶にはあるんだろ」
「「「…………うーん?」」」
それはそうですが、何だか霧島さんらしくない気がします。普段もクラスが違ってあまり一緒にお弁当が食べられない分、こういう時はゆーさんと(半ば強制的にでも)一緒にお弁当を食べるのが彼女らしいと言いますか……何か用事でもあったのでしょうかね?
「???あの?明久君。美波ちゃんは木下君に何をお願いしているんですか?」
と、こちらにやってきた姫路さんが、島田さんとヒデさんのやり取りに首を傾げつつアキさんに尋ねてきました。えっと……
『なんでそんなに嫌がるの?こんなに可愛いのに』
『可愛いから嫌なのじゃ!ワシは男なのじゃから、可愛いのは着ないのじゃ!』
『ああ、そう言うこと。それなら……えっとね、木下。これ、後で月野にも教えてあげようと思ってたんだけど……ここだけの話ね———』
『む?なんじゃ?』
『———実は、チアリーダーの衣装って……すごく男らしいのよ?』
『ほう?さてはお主、ワシと造を明久レベルのバカじゃと思っておるじゃろ?』
……何て言ったらいいのでしょうね?
「あー……美波が秀吉にチアガールをやってみないかって誘ってる最中なんだ」
「???チアガールを、ですか……どうしてでしょうね?」
「あはは……きっと女子の数が少ないからだよ」
「あ、そういうことでしたら———明久君もアキちゃんに」
「待った瑞希!?どうしてもう一着チア衣装を取り出してジッと僕のほうを見るの!?」
……ひ、姫路さんが物凄く良い笑顔でチア衣装をアキさんに渡そうとしていますね。どうして姫路さんや優姉さんたちは、男子にそう言う格好をさせたがるのでしょうかね……
「ははっ!良かったじゃないか明久。俺も女子が少ないのを心配してたんだ。これで少しは見栄えも良くなるだろうな!」
「…………売り上げも伸びる」
「あ!でしたら坂本君と土屋君も良かったら……」
「…………(ブンブンブン)!?」
「待て姫路。何故チア服を取り出して俺らを見る?」
「それに月野君はどうして学ラン何かを———」
「だから自分は男ですって!?これで合っているんですよ姫路さん!?」
どうしましょう……ひょっとしてこの学園には、男の子を女の子にさせたがる呪いでもあるのでしょうか?このままではツッコミきれませんよ……
- 116時間目 応援・平手・翔子の涙〜すれ違いの決勝前〜 ( No.69 )
- 日時: 2015/08/16 21:28
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「そ、それはそうと瑞希。応援の練習すごく頑張ってるらしいね」
「あ、いえ。それほどでもないですよ?」
「…………あまり無理はするな」
「そうだぞ、あんなもの俺らの没収品のかかった召喚野球に比べれば適当でいいんだしな」
そんな感じで暴走気味の姫路さんからご自身に妙な白羽の矢が立ってしまわぬよう、必死に話題を変えようとする皆さん。
「あー、そうですね。無茶して身体を傷つけないようにしてくださいね。アキさんも島田さんもとても心配していますし」
「ちょっ!?つ、造っ!?」
姫路さんにそう教えてあげると、アキさんが物凄く焦った顔で自分のその言葉を遮ろうとします。HAHAHA!今更ですし、別に恥ずかしがる事ないでしょうに。
「それに応援合戦はあくまで余興で体育祭の点数とは関係ないしな」
「あ、はい。なるべく無理はしないようにはします。けど——」
「けど?何かな瑞希?」
「私は私の出来る事で役に立ちたいって、そう思って」
「「「「…………おお」」」」
へぇ……?何だか姫路さんって、前と良い意味で印象が変わりましたね。以前よりもとても前向きになっている気がします。心なしかそんな彼女の心の変化にアキさんも誇らしそうですね。
「明久君。私、応援頑張りますからっ!応援の応援、してもらえますか?」
「うん!勿論だよ!精一杯瑞希の応援の応援をしてあげるね!」
「良かったです!では早速————これを着てくださいね!きっと私も美波ちゃんも応援に力が入ると思いますので!」
「HAHAHA!瑞希は冗談が上手いなぁ!」
そう満面の笑みでアキさんにチア服を渡そうとする姫路さん……ま、まあ別の意味でも前向きになっている気がしますがこれも立派な(?)成長ってことでここはひとつ。とりあえず姫路さんのチア服攻撃(?)からどう逃げ出すべきか全員で考えていると……
「…………」
「あれ……?霧島さん?」
……何だか一瞬誰かわからなくなるくらい、物凄く落ち込んでいる霧島さんがとぼとぼと歩いているのが目に映りました。ど、どうしたんでしょう?霧島さん、何だか随分元気がないですね……?
「ん?ホントだな。おい翔子。どうかしたのか?」
「……あ……雄二……」
何だかゆーさんが話しかけても霧島さんは上の空。とてもじゃないですが、いつもの凛々しい霧島さんの姿はそこにはありません。
「……野球、負けちゃった」
「ああ。そうらしいな。だが安心しな、一応仇は討ったぞ」
と、ゆーさんはニッと笑いかけますが……それでも霧島さんの表情は戻りませんね。
「……でも、私の没収品返してもらえない……」
「没収品?ああ、あれか。ったくお前な……」
「……結婚式まで、大事に保管しておくつもりだったのに……」
「バカ言うな。あんなもん、没収されてなくても見つけたら俺がかわりに捨ててやる」
「…………え……?」
……むう。何だか嫌な空気ですね。何でしょうか……何かおかしいような?ゆーさんと霧島さんの会話、噛み合っていない感じじゃ?霧島さんの表情も何か困惑したものに変わっていますし……
「いや。『…………え……?』じゃないだろ。あんな物没収された程度でそこまでショックを受けるなって」
「…………あんな物、って……」
「そうやってつまらない物を没収されたくらいで凹むなってこと————」
そのゆーさんの一言に、霧島さんは目をカッと開き……
「…………っ!!」
———パシンッ!
……乾いた平手の音が響き渡りました。
「「「「……っ!?」」」」
「…………な、に……?」
「……つまらない物なんかじゃ、ない……!」
ゆーさんを叩いた霧島さんは目に涙を溜め、唇を噛んでいます。何か良くわかりませんが、霧島さんの表情から見て、何やらただ事ではない事は確かです。
「雄二にだけは、そんな事言って欲しくなかった!」
頭に響くような大きな声を上げ、霧島さんはこちらに背を向け走り出してしまいました。……あまりの唐突な出来事に、自分を含め当事者のゆーさん、そしてアキさんこーさん姫路さんは固まってしまいます。
「「「「「…………」」」」」
彼女が立ち去りようやく動けるようになった自分たち。思わずアキさんゆーさん、姫路さんこーさんと顔を見合わせます。一体どう言うことでしょう……?
「わ、私、ちょっと翔子ちゃんのところへ行ってきます!」
そんな中姫路さんが真っ先に我に返り、霧島さんを追って行きます。……そ、そうですね。まずは状況を確認に行きませんと。
「じ、自分もちょっと様子を見てきま「待て……造……」———ゆーさん?」
と、駆けだす前にゆーさんも我を取り戻したのか、自分の肩を掴んで制止させます。ゆ、ゆーさん……?
- 116時間目 応援・平手・翔子の涙〜すれ違いの決勝前〜 ( No.70 )
- 日時: 2015/08/24 22:02
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「…………お前まで、行く必要ねえよ……子の……ヤツ……!」
まるで地の底から響いてくるような———そんな低い声。そして……
「翔子のヤツ……!な・に・が『つまらない物なんかじゃない!』だ!俺本人が同意していない婚姻届なんか、つまらない物以外の何物でもないじゃねえか!俺にだけは言われたくないだと!俺だから言うんじゃねえか!こっちは何も承諾してないんだぞ!悪く言うのは当然だろうが!」
霧島さんも何だかゆーさんに怒っていたみたいですが……こっちも烈火の如く怒りを露わにします。これは……ダメだ、ちょっと手が付けられませんね……
「造っ!翔子の事なんざ気にかけるんじゃねえぞ!明久、ムッツリーニ。お前らもだっ!いいなっ!」
そう言って、ゆーさんは獣のような雰囲気のまま、もうすぐ応援合戦が始まると言うのに2−Fの待機場所に戻ってしまいました。これは重症ですね……ゆーさんをこれ以上刺激するわけにもいきませんし、姫路さんに続いて霧島さんを追うことのできないこの状況。とりあえずアキさんこーさんと集まって緊急会議開始です。
「どう思います?二人とも」
「どうって……まあ確かに、霧島さんにとっては大事でも、同意した覚えのない婚姻届とかであそこまで怒られても困るよね?」
「…………雄二の言い分もわからなくはない」
「……あの、本当にそうでしょうか?」
「え?いやだってそうでしょ造?ちょっとだけ怒るならともかく引っぱたくのは流石にね」
「…………普通はな」
「……お二人ともよく考えてみてください。そもそもですよ、霧島さんが婚姻届くらいであそこまで取り乱すと思いますか?本当に必要なら———そんなものまたすぐに作れば良いだけでしょ。それこそ霧島さんならすぐに用意できますよ」
「「あれ……?」」
そう。ただ婚姻届を没収されただけでは、霧島さんの行動を説明できません。彼女が大好きなゆーさんを引っぱたくですって?そんなの……それこそとんでもないミスをゆーさんがしてしまったと考えるのが普通ではないかと。
「それにですね、流石に書類物は没収品に含まれないと思うんです。大体仮に何かの間違いで本当に没収されたのが婚姻届だったとしても“すみません、没収品の中に誤って大事な書類が中に入ってました”って先生方に言えば済む問題じゃないでしょうか」
「そう……だよね。確かにそうだ」
「まあこれはあくまで自分の推測ですし、今回皆さんも知っての通り厳しめの持ち物検査でしたからそう言う言い訳は通らなかった可能性もありますので間違った推測なのかもしれませんが……」
「…………だが、造の言う通り婚姻届が没収されたにしては何かおかしい」
「そうだね……でも、だったら一体霧島さんって何を没収されたんだろ?」
「「「…………うーん」」」
どれだけ三人で頭を捻っても手元に情報が何もない以上推測くらいしか出来ません。弱りました……これから大事な教師戦だと言うのに、2−Fの要であるゆーさんがあんな感じでは————
雲行きが怪しくなりつつある召喚野球大会決勝。不安だけが募るこの状況で、このままで何とかなるんでしょうか……?
———同時刻の翔子———
『(グスッ)…………雄二の……バカ……』
『……あら?どうかしました?大丈夫ですか?』
《んにゅ? 大丈夫ー? 泣いて いるのー?》
『……え?』
《痛い のー? だったら サクヤに 痛いの 治して もらおー!》
『こらこらダメですよ文さん。こういう時はまずはどうしたのか事情を聞かないとね。……はい、ハンカチをどうぞ。———ああ、思い出しました。貴女確か二学年の学年主席の霧島さん、でしたっけ?』
『……いつかの、先輩と……造……?』
《ツクル? 違う よー? 文は 文 だよー!》
〜シリアスブレイカーな余談〜
「仕方ないわね、じゃあこうしましょう木下!ウチが学ランを着るから、アンタがチア服を」
「それはワシにとって何の解決にもなっておらぬのじゃが!?」
「って、まだやってたんですか島田さん……」
もうすぐ応援合戦が始まると言うのに、島田さんはヒデさんにまだ諦めずに交渉(?)していたようです。まあ、コンプレックスを刺激される痛みやその気持ちはわからなくもないですが、やっぱり自分やヒデさんがチアをやるなんてどう考えてもおかしいわけでして。我慢して姫路さんと二人で踊って頂くしか……
「あ、わかったそういう事ね……木下、アンタやっぱり月野にも出てほしいって言いたいんでしょ?いいわ、ちゃんと月野にも付きあわせるからやりましょう!」
「ちょっ!?じ、自分のこと諦めてくれたんじゃなかったんですか!?」
またもや島田さんは自分もターゲットに入れる始末。ですから絶対に出ませんってば。
「島田よ……いい加減にするのじゃ。ワシらは絶対に踊らぬからの」
「申し訳ありませんが無理なものは無理ですので。では、そろそろ始まるので準備しましょ———」
そう言って、二人で立ち去ろうとすると———
ガシッ!
「———まあ待てやお二人さん。ここは美波っちの言うことを聞いてやんなよ。それとも何かい?お前ら二人は可愛い女の子のお願い一つ聞けないような“小さい男”なのかい?なあ、造にヒデっちよ」
———立ち去ろうとする自分とヒデさんの肩を力強く捕まえる一人の女性の姿が。…………この……声……は……っ!
「女の子のちょっとしたお願いを聞けないような男は、もう男じゃねぇと思うんだがねぇ?ま・さ・か、造たちはそんなヘタレな男じゃぁねえよなぁ?」
振り解こうと必死に抵抗するも全く抵抗できない自分とヒデさん。さ、最悪です……よりにもよってこんな時にこの人に捕まるとは……っ!?そうこの人、いいえこの変態淑女———
「「サクヤさん(日高先生)……何故ここに」」
「美波っち!後は任せな〜♪アタシがちゃんとコイツらの着付けしておくからね♪」
「あ、はい!ありがとうございます、先生!」
「おっし!んじゃまずは保健室で着替えるか!……さあ行くぞ二人とも!」
「「ヒィ!?離して下さい(離すのじゃ)!?い、嫌あああああああああああ!?」」
———サクヤさんの肩に担がれて、拉致られる自分とヒデさん。どれだけ暴れようともサクヤさんの拘束から逃れられるわけもなく、抵抗虚しく保健室にて強制的にメイクアップさせられた自分たちはと言いますと。
その日の応援合戦。姫路さんと島田さんの横で、チア姿でなければ勿論学ランでもない———サクヤさんと優姉さん曰く、ながーいうさ耳+まーるい尻尾のせくちーバニーガールの格好をした自分とヒデさんが虚ろな目でボンボンを持って踊っている(踊らされている?)光景が見られたとか。
「…………バニーガール?HAHAHA!違いますよ?断じて認めません。もう一度言います。バニーガールなんかじゃないです……」
「ははっ……造よ、ワシはもう疲れてしもうた……バニーにちなんで今ならワシ、4階くらいからぴょんと跳べそうじゃぞい」
「自分もあいきゃんふらーい出来そうです……」
「「ははは…………ハァ」」
まあ、悲しいことではありますが、自分たちの登場に観客席が大いに沸いたとかなんとか。それと同時にあまりに刺激的過ぎて(※優姉さん談)観客の三分の二は鼻血を出して倒れたとのこと。後でこーさんが呟いていましたが、その時の写真は飛ぶように売れてムッツリ商会なるものの売り上げは、過去の最高記録を塗り替えられかけたとかなんとか。売るこーさんもこーさんですが、買う人も買う人ですよ……もうやだこの変態たち……
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.71 )
- 日時: 2015/08/16 22:46
- 名前: ユウ (ID: JnUv6JO9)
率直に言おう、造と秀吉のバニーガールの応援は、俺達変態の最高のご褒美だぜ!!
WRAYUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!!!(奇声)+鼻血
だが、此処であえて言おう。どうせならオプションで汗をかくと、バニースーツが透けていく仕様にすれば更にさいK…(熱弁するユウの後ろで仁王立ちする造の(自称)保護者達)
バキゴキベキ!!アアーン!!!
青年拷問中…
ふっ、今日の拷問も何とか乗り切れたぜ。これ以上保護者達に目をつけられる前に感想を終わらせよう。
さて、まずは美波ちゃん?秀吉にチアガールを着せようとするのは別の意味で大いに賛成だけど、そんなことをすると明久の視線を全て秀吉に奪われちゃうぞ(ハート)
…まあ、隣でボインボインって擬音が聞こえそうなほどの、全男子煩悩殴殺兵器(という名の姫路さん)と一緒だと、気持ちは分からなくはないけど…
いやー、まさしくあのポヨンポヨンは兵器ですな…(そういって、高性能連射機能付きカメラで取ったプルプル写真のフィルムを内緒でムッツリリーニのカバンに収納するユウ←やっぱりこやつにも出血死という名の罰を与えねば)
そして、霧島さんにビンタ(原因は雄二にあるけど)をされ、更に理不尽(本人はそう思っているらしい)怒られた事によって、ミノタウロスよろしく、暴走状態に陥ってしまった雄二と司令官が冷静ではない状態で決勝に挑むこととなった造達Fクラス、一体この先どうなるのでしょうか!?
…以上で感想は終わりですが、やはり感想を書くのが自分だけって糖分さんにとっては寂しいですよね?
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.72 )
- 日時: 2015/08/17 22:28
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
>ユウさん
いつも感想ありがとうございます。サクヤさんたちにご用心、と言うか可愛いの着せてチアやらせたのサクヤさんたちじゃないですかヤダー!
サ「造の可愛い姿は見せたいけど、エロい目で見るのは禁止だかんな!」
優「弟たちを堪能していいのは姉だけなのよ……残念ながらね」
造「……うん、それ残念なのはお二人の脳内なのでは?」
美波に関しては大丈夫!ここの明久は瑞希&美波しか見えてませんからね、モゲろ明久爆発四散しろ。
明「何で僕恥ずかしい事暴露された上で罵倒されてんの!?」
二人にモテるバカだから悪い。ぽよんぽよんなπの娘にもスレンダーなモデル体型娘にもまとめてモテるバカだから悪い。
さて、それはさておき問題の雄二と霧島さんの気持ちと気持ちのすれ違い。冷静でない司令塔を抱えた波乱の決勝の行方はいかに。……野球自体はすっごい苦手でルール確認等が危ういですが、頑張って書きますね。金曜辺りに更新します多分。
それから感想に関しては大丈夫ですよ。自分のこの作品一学期編・夏休み編・ここの二学期編と無駄に長いので読むだけでもかなり時間かかっちゃうので、皆さんには時間のある時にのんびり気軽に暇つぶしとして読んで貰いたいですし、こうも長いと感想書くのかなり大変そうですからね……それと情けないことに自分って感想の返信すっごい遅いですし。
勿論感想を書いていただけるのはとても嬉しいです。モチベーション上がりますし読んでいただき評価して頂けるのは書いた甲斐がありますからね。いつも色々とありがとうございますユウさん。
ユウさんも、それから読んでくださってくれている皆さんも、自分自身少し忙しいのであまり更新できない時もあったり感想の返信遅れたりすることもありますが、これからもお付き合いいただけると幸いです。では。
- 117時間目 波乱の決勝:VS教師戦〜高橋先生大活躍?〜 ( No.73 )
- 日時: 2015/08/21 21:07
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
体育祭のプログラムの一つであり、自分たちFクラスにとっては最も重要な野球大会の決勝戦。その決勝戦を前に、自分たちは一塁側に用意されたFクラスベンチで、それぞれのポジションや打順の確認を念入りに行っているのですが……
「あー……雄二は8番で良かったの?」
「…………俺は英語も世界史も点数を取れているからな」
……どうにもゆーさん未だにご機嫌斜めのようですね。試合が始まれば切り替えるかなと思いましたが、これはもうどうにもなりそうにないですかね?
「(造よ、雄二の奴はどうしたのじゃ?何やら随分不機嫌ではないか)」
「(ホントよね?何?坂本のヤツ何かあったの?)」
クラス代表であり、Fクラス最大の智将でもあるゆーさんが不調(いえ、不機嫌?)な事を気にしてか、先ほどの事情を知らないヒデさんと島田さんが自分に小声でそう尋ねます。
「(えっと……実はですね————)」
〜造説明中〜
「(———そう言う感じで、何やらゆーさんと霧島さん、仲違いをしているみたいなんですよ)」
「(なるほどのう……それで雄二はあんな感じなのか……)」
「(それにしても……翔子が坂本を引っ叩いたですって?正直信じられないわね)」
掻い摘んで二人に説明しましたが、お二人とも大体の事情は察してくれたようです。それにしてもホントに参りましたね……
「(…………作戦に支障が出なければいいが)」
「(と言うか雄二のヤツ、今回はほとんど作戦なんて指示してないからね。僕らで何とかするしかない、か)」
いつの間にか自分らの側に来ていたアキさんとこーさんも話に加わります。
「(……ねえ、瑞希?霧島さんの様子はどうだった?)」
アキさんが島田さんの隣にいる姫路さんに尋ねますが……そうでしたね。姫路さん確か、霧島さんの様子を見に行ったんでしたっけ。姫路さんなら何か知っているのかも?
「(ゴメンなさい……翔子ちゃんあっという間に走っていっちゃって、私じゃ追いつけずに見失っちゃって……)」
「(そっか……いや、瑞希が気にする必要はないよ。にしても霧島さん大丈夫かな……)」
「(そうね……翔子自身、坂本を叩いた事悩んでいるでしょうし……)
「(でも、翔子ちゃんは理不尽に坂本君を叩いたりする子なんかじゃないです!多分、多分ですが……何か理由が————)」
これからの試合も心配ですが、霧島さんとゆーさんが仲違いしている事もかなり心配です。姫路さんの言う通り、何か事情があるとは思いますが……手持ちの情報量では判断できません。全員で試合のこと、ゆーさんと霧島さんのことをどうするか頭を捻っていますが……どうも良い考えが浮かんできませんね。
『これより生徒・教師交流野球決勝戦を始めます。皆さん、整列してください』
……どうやらタイムアップのようです。審判を務める先生の声が聞こえてきます。
「……おら、お前らつまんねぇ話なんてしてないで、さっさと行くぞ」
「あっ……はい、です……」
とりあえずこの辺で話を打ち切って、今は試合に集中しなくては。ベンチのメンバー共々グラウンドに駆け寄り整列します。先生方も三塁側から歩いてやってきて、自分らと向かい合うように並び———
『プレイボール!』
『『『おねっしゃ———すっ!!』』』
一斉に頭を下げて、各自持ち場につきます。自分たちは後攻で、まずは守備からですね。ああ、ちなみに全員の今回の打順と守備位置ですが————
- 117時間目 波乱の決勝:VS教師戦〜高橋先生大活躍?〜 ( No.74 )
- 日時: 2015/08/21 21:10
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
———VS教師陣 守備位置・打順表———
1番 サード 近藤吉宗
2番 レフト 横溝浩二
3番 ファースト 木下秀吉
4番 セカンド 島田美波
5番 ショート 須川亮
6番 センター 月野造
7番 ピッチャー 吉井明久
8番 キャッチャー 坂本雄二
9番 ライト 姫路瑞希
ベンチ 君島博 土屋康太(ムッツリーニ)
—————こんな感じですね。ゆーさんの指示がほとんど無い状態でしたので、一先ず自分とアキさんたちで打順と守備位置を考えてみました。一応各イニングの教科を考慮した打順になっています。守備位置はあんまり変わっていませんが、その辺は順次状況判断して入れ替えればいいですからね。
「はは……野球なんて、二十年ぶりでしょうね。———試獣召喚(サモン)!」
≪化学教師 布施文博 化学 501点≫
VS
≪Fクラス 吉井明久 化学 96点≫
教師チームのトップバッター、布施先生がバッターボックスに入り召喚獣を呼び出します。ちなみに初回の科目は布施先生の担当の化学。初めから超大物が来ましたね。点数差大体400点ですか……
《アウトコース 低め 遅い球》
そんな中、ゆーさんは淡々とアキさんにサインを送ります。一応試合が始まっていますし、ゆーさんも多少の切り替えは出来ているハズ……です。アキさんは頷いて指示通り、第一球を投げました。
『ストライッ!』
布施先生は動きません。まあ、先生方は体育祭の審判等の関係上全員メンバーが入れ替えてあり、召喚獣を使役した野球なんて今回が初めてのハズです。先生も慎重にならざるを得ないってことでしょうかね。
《インコース 高めに外す 遅い球》
次はボール球で、先生の反応を見るみたいですね。アキさんの召喚獣は大きく振りかぶり、二球目を放ります。
「……っ」
『ボール!』
一瞬布施先生はピクリと反応しますが、何とか堪えてそのまま球を見逃します。カウントは1ストライク1ボール。そろそろ先生も振ってくる頃かもしれません。自分も用心しなければ。
《インコースギリギリ 低め 速球》
ゆーさんもそろそろ先生が仕掛けてくるとわかってか、遅い球から速い球に指示を変えてきましたね。緩急つけたボールなら、点数差があっても中々打てないでしょう。アキさんも頷き、思いっきり振りかぶり全力を籠めたボールを————
ひょろ〜
————ぜん、りょく……?あれ?何だか今までで一番遅い球のような……?
『こんのバカ野郎っ!すっぽ抜けてんじゃねえか!?』
ゆーさんの表情を見ると、どうやらアキさん召喚獣に力ませ過ぎたご様子。ボールは打ち頃のど真ん中に、ゆっくりと飛んでいきます。あ、まずいこれは入れられる……?
「っ!?っとと、と……」
と、幸運なことに何やらタイミングが狂わされたのか、先生の召喚獣はフォームが崩れたまま打ち、バットに掠るように当たったボールはそのまま———
『アウト!』
———レフトフライとして抑えられました。よ、良かった……初回ホームランかと冷や冷やしましたが、担当教科の先生を抑えられたのは大きいですね。
- 117時間目 波乱の決勝:VS教師戦〜高橋先生大活躍?〜 ( No.75 )
- 日時: 2015/08/21 21:39
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「やれやれ……あまりに良い球が来たので焦ってしまいましたよ」
「次は僕ですか。中々難しそうですね。試獣召喚(サモン)っ!」
布施先生と入れ替わるように、今度は現代国語の教師の寺井先生がバッターボックスに入ります。
≪現国教師 寺井伸介 化学 211点≫
VS
≪Fクラス 吉井明久 化学 96点≫
むう……寺井先生は現国の教師であるにもかかわらず、化学でもAクラス上位の成績ですか……分かってはいましたが、先生方も一筋縄ではいかないようですね。
《低め一杯 速球》
ゆーさんの指示に頷き、アキさんが狙い通りの中々良いコースに投げます。よしよし、これならそう簡単には打たれな———
「……ほっ、と」
———嘘っ!?初球から打ってきたですって……!?カンッ!と鈍い音が響き、ボールは低い軌道ながら地面を抉るように、一,二塁間を抜けて転がっていきます。
「あはは……ちゃんと捉えたと思ったんですけど、やっぱり生身でやるのとは違いますね」
そう苦笑いをしながら一塁ベースに立つ寺井先生。あっ……!しまった、そう言えばある意味自分の師匠でもある寺井先生って学生時代に野球をやっていたと本人から直接聞いた事がありましたね。これは油断大敵、そして寺井先生は思わぬ強敵になるのかも。1アウト、ランナー一塁。そして迎えるネクストバッターは……
「宜しくお願いします。吉井君お手柔らかに。そして———造くん♪今そちらに行きますからね!試獣召喚(サモン)っ!」
……おおぅ……今度は学年主任にして2−A担任、今回の強敵にしてある意味自分の天敵である高橋先生ですか。余計なひと言付きでアキさんと自分に挨拶をしつつ召喚獣を召喚させます。と言いますか『そちらに行きます』って言われても……出来れば来て欲しくないんですがね?まあ、嫌でも先生が塁に出る事は間違いなさそうです。何せ高橋先生と言えば———
≪学年主任 高橋洋子 化学 803点≫
VS
≪Fクラス 吉井明久 化学 96点≫
『『『ぶほぉっ!!!?』』』
この圧倒的な点数の保持者ですからね……頼りになる守備陣及び、ベンチ・応援席の皆さんが一斉に噴き出したのがわかります。まあ、高橋先生と西村先生がこちらにいる時点でこうなる事は予想済みですが……800点越えかぁ……ホントにこれって勝てるのでしょうか?自分も始まる前は先生方に勝てるチャンスがあると言ってはいましたが、これは流石にどうしようもない気が……
《勝負にならねえ。敬遠するぞ》
流石のゆーさんもここは敬遠を選んだようですね。妥当と言えば妥当でしょうか。と、アキさんが頷こうとすると……
「あれ……?高橋先生、何かおかしいような?」
バッターである高橋先生を見てアキさんは首を傾げます。自分も気になって高橋先生の召喚獣をジッと見てみると……あらら?これひょっとして……バットを持つ右手と左手の位置が逆じゃないですか?……あ、そう言えば以前先生本人に『私あんまりスポーツには詳しくないんですよ』ってことを聞いた事があるような……?
『高橋先生。手が逆だな。それだと打ち難いはずだ』
ネクストバッターボックスに待機中の西村先生もそれに気がついたのか、高橋先生にご自身もバットを持って教えていますね。ああ、やっぱり高橋先生って野球に慣れていらっしゃらないみたいです。
「ああ、通りで……アドバイスありがとうございます、西村先生」
- 117時間目 波乱の決勝:VS教師戦〜高橋先生大活躍?〜 ( No.76 )
- 日時: 2015/08/21 22:16
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
西村先生にそうアドバイスを貰い、バットを構えなおす高橋先生。この様子を見ていたアキさん&ゆーさんも、お互いに『ここは勝負』とアイコンタクトをし勝負の体制に構えなおします。
《アウトコース 高めに外す 速球》
様子見も兼ねて、ゆーさんは外しの空振りを狙っているようです。アキさんはそれに従いボールを放ると———
「ええっと、こうでしたか」
『ストライッ!』
———高橋先生の召喚獣は急に姿勢を変えて、バントの体制に変わります。まあ外してあるのでバットには当たらずに白球はミットに収まりましたが……コレ、送りバント……ですか?いや、ですが……
《ここは黙って送らせて、アウトを一つもらうぞ》
ゆーさんも送りバントだろうと考えたのかアキさんに、そうやってアイコンタクトを取ります。ですが……ちょ、ちょっと待って下さい!?ゆーさんはどうやら素直に送らせるつもりのようですが……いくら高橋先生が初心者とは言え、わざわざアウトカウントを取るようなことはしないはずじゃ!?
それにいくらバントとはいえ、800点越えの点数で打たれたら一溜まりもないハズ。それは姫路さんによる投球を捕球しただけでダメージを負った自分が証明できます。そうでなくてもさっきの姫路さんの400点オーバーの力の凄さを見ていたならばその倍の点数でバントされたらどうなるのかは想像できるでしょう!?こんなこといつものゆーさんならすぐに気が付くはずなのにどうしてっ……!?
《ダメですっ!ゆーさん、アキさん!待ってくださ———》
止める暇もなく、アキさんの召喚獣はボールを放ちます。放たれたボールはバットに吸い込まれるように向かい……
「ここで、こう……」
ゴンという堅い音が響き、バント成功。ただし高橋先生の狙いはただのバントではなく、
「ちぃ!?プッシュバントかっ!」
送る方ではなく、ヒット狙いのバント。そうプッシュバントです。やられました……狙われていたようですね。野球のルールがわかっていないハズなのにこの咄嗟の判断と場の理解力、高橋先生……なんて厄介な。
ボールは目の前に転がると予測し、前に突っ込んでいたピッチャーであるアキさんとサードの近藤くんの間を低い軌道で抜けて行きます。マズイですっ……誰かカバーを……!
「任せろ!」
《おぉ!ナイスです須川くん!》
と、ここで先ほど姫路さんの活躍(?)により召喚獣は戦死させられフィードバックで今まで倒れていた須川くんが復活し、カバーに回ります。おお、助かりました!須川くんはきっちりと捕球の姿勢を取り、すぐさま一塁側に返球出来るような体制を取って……
ズドスッ! ゴロゴロゴロ……
「ごぶるぁあ!?」
《んな!?す、須川くん!?》
「「「!?んだとぉお!?」」」
……!?ぼ、ボールと一緒に須川くんの召喚獣も吹き飛ばされた!?プッシュバントなのに……な、なんて恐ろしいパワーなのですかコレ!?……これが800点越えの本気!?
『高橋先生あれなら二塁まで行けます!』
先生のどなたかが高橋先生に叫びます。ちぃ……呆気にとられている暇はありません!とにかく須川くんの召喚獣ごと飛んでいったボールを追うことに。これは……完全にやられましたねっ!
「二塁……ああ!造くんがいる方向ですね!分かりました♪」
そして、高橋先生は嬉しそうに頷き、凄い勢いで召喚獣と共に自分のいる方向の二塁へと向かいます。まるで障害が無いかの如く、真っすぐ。
「造くん、宣言通りちゃんと来ましたよ!どうですか!凄いですか!」
《…………え?》
『『『…………は?』』』
———そう、真っすぐ一直線に。マウンドの上を突っ切ってどういうわけかボールを捕球しに来ていた自分のところまで。これにはランナーである寺井先生も含め、流石の自分たちFクラスの皆さんも敵である先生方や応援席の皆さんも唯一人の例外もなく全員の目が点になります。確かにこれはある意味凄い。
『……バッター、アウト』
審判の先生が何とも言い難い表情で高橋先生の凡退を宣告します。えっと……ここで野球のルールの一つを確認したいと思います。もうすでに皆さんお分かりだとは思いますが、ランナーは所定の場所以外を走ってはいけないってルールがあります。それと、一塁ベースを踏んでいない状態で二塁ベースを踏んではいけないと言うルールも。つまり一塁ベースも踏まずに真っ直ぐ自分の場所まで召喚獣ごとやってきた高橋先生は……残念でしょうがアウトです。どうやら高橋先生はその事を知らなかったようですね……
『えっと……高橋先生。アウトなのでベンチに戻ってください』
『むぅ……何故ですか?折角造くんのところに行けましたのに』
『いえ……そもそもそういうルールではないのですがね……次の打席までに他の先生方に正しいルールを教えてもらっておいてください』
審判の先生にそう言われ不服そうに高橋先生は、召喚獣と共にベンチに戻っていきます。ま、まあ野球をやる経験が少なかったって事でしょうし、初心者なのでそう言うこともあるんでしょうね……多分。
《えっと……島田さん、お願いします(ヒュッ!)》
「(パシッ!)あ、うん……寺井先生、タッチアウトです」
「え?……あっ」
まあ一応今も試合中ですし、追っていたボールをなんとか捕球し(ちなみにパワーダウンしているはずなのに捕球した際も未だにとてつもないパワーを保持していました)島田さんに投げ渡します。受け取った島田さんが一、二塁間で呆気にとられている寺井先生をタッチアウトに。すみません寺井先生……これも勝負ですので。
『あー……す、スリーアウト。チェンジ……です』
『『『…………』』』
折角一点も入れられずに一回の表を抑えられましたのに、先生方は勿論、喜ぶべきである自分たちも観客の皆さんも物凄く盛り上がっていません。何なのでしょうね……この言いようのない気持ちは……
≪学年主任 高橋洋子 化学 803点≫
VS
≪Fクラス 須川亮 化学 DEAD≫
『ああ、それと残念だが須川。お前は後で戦死した教科の分補習室行きだからな』
『…………はぁ!?ちょ、何故だ!?俺が一体何をしたと言うんだ鉄人!?』
『誰が鉄人だ誰が。まあ、安心しろ。試合が終わるまでは特別に保留してやるからな』
『安心できるかぁ!?』
そうそう……ボールを受けようとしただけなのに、須川くんの召喚獣は再び静かに天に召されていました……姫路さんから戦死させられた分も含め試合が終われば点数補充のため補習室に行かねばならない運命となった今日の須川くん。彼は今日ちょっぴり厄日ですね……
- 番外編:覚えよう野球のルール〜スクイズしてください!〜 ( No.77 )
- 日時: 2015/08/22 21:57
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
問1 次の野球用語について説明しなさい。
『タッチアップ』
坂本雄二の答え
『フライがあがった時に走者がその打球の行方を見守ること。捕球後は進塁することができる』
教師のコメント
その通りです。
姫路瑞希の答え
『痴漢をする』
教師のコメント
野球のタッチアップを知らないのに英語の touch up のそんな訳まで知っているとは、流石に先生も驚きました。英語を訳す上では正解ですが、野球用語としては残念ですが間違いですね。
土屋康太の答え
『フライがあがった時に走者が打球とチアリーダーのスコートを確認すること。捕球後は痴漢しに行くことができる』
教師のコメント
落ち着いて下さい。正しい知識といやらしい願望が混ざっています。
霧島翔子の答え
『フライがあがった時に夫(ゆうじ)をチアリーダーとしてコスプレさせること。捕獲後は夫(ゆうじ)を痴漢しに行くことができる』
教師のコメント
霧島さんも落ち着いて下さい。と、言いますか色々とツッコミどころが多すぎてどれからツッコむべきかわかりません。
坂本雄二のコメント
と言うか、翔子は自重しろ!?つーか、それはまさかお前の願望なのか!?
問2 ヒットエンドランとは、どのような連携でしょうか?
吉井明久の答え
『ピッチャーがボールを投げると同時に走者が次の塁に走って、バッターもボールを打つ連携のこと』
教師のコメント
その通りです。ちなみに余談ですがヒットエンドランは、打者の打撃方法や走者の走行タイミングなどでいくつかの応用戦術があります。バントエンドランやバスターエンドランなどがいい例ですかね。
姫路瑞希の答え
『当て逃げ』
教師のコメント
えっと、確かに hit‐and‐run accident で当て逃げ事故と言う意味ですが、野球用語としての問題ですので不正解ですね。
月野造のコメント
……いえ。姫路さんや高橋先生レベルの打球の威力は当て逃げ以上の破壊力ですし、ある意味合っているのかもしれませんよ先生……
須川亮の答え
『hit=撃つ,end=終わる,run=逃げる つまり異端者共を撃ってその対象の命を終わらせてから、速やかに逃げ去ること』
教師のコメント
貴方はゴ〇ゴか何かですか。
〜解答終了後:Fクラス教室〜
「うぅ……」
「ん?どうしました姫路さん?帰らないのですか?それに何やら落ち込んでいるようですけど……」
「あ、月野君……えっと、さっきの野球のミニテストの結果でちょっと落ち込んじゃいまして……これ見て貰えますか?」
「ふむ……あらら。ひょっとして姫路さん野球はあまり得意じゃないのですか?」
「その、恥ずかしながら私野球だけじゃなくて他のスポーツもあまり得意じゃなくて……難しいんですね野球のルールって」
「ああ、大丈夫ですよ姫路さん。誰でも最初は初心者ですし、わからなくても恥ではありませんよ」
「でも……もうすぐ召喚野球大会があるのに、私何もわからなくて……このままじゃダメだなぁって思っていまして」
「あ、それでしたら———折角の機会です。召喚野球の前に姫路さんは放課後にでもアキさんやゆーさんたちに野球のルールを教わってはいかがでしょうか?」
「え?明久君たちに……ですか?」
- 番外編:覚えよう野球のルール〜スクイズしてください!〜 ( No.78 )
- 日時: 2015/08/22 21:19
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
———体育祭兼召喚野球大会前のとある放課後の教室にて————
「———と言うわけで、数日後に召喚野球大会を控えているわけなんだが……野球をほとんど知らない姫路に、簡単に野球のルールについて説明をしようと思う」
「あはは♪僕らが教えるなんて、いつもとは逆の立場だね瑞希」
「よ、宜しくお願いしますね皆さん!」
「姫路さん、そう緊張なさらずに。楽しく覚えていきましょうね」
先日のちょっとした野球に関する問題で、野球の事があまり理解出来ていないようであった瑞希の為に、明久と雄二と造が一通りの野球についての知識を教えることとなった。
「今回は……そうだな。“ボーク”などの反則行為について学んでいこうか」
「ボーク、ですか?」
「そうだ。これはピッチャーの投球や送球における反則行為の一つなんだがな」
「反則ですか。具体的にはどういうものなんですか?」
「その辺は明久に造、説明を頼む。俺は要点を黒板に書いておく」
そう言って黒板の前に立って要点をまとめ始める雄二。バトンタッチされた明久と造が瑞希にその内容を説明し始めることに。
「オッケー。ふむ、例えばそうだね……プレートに足を着けた状態で一塁に牽制球を投げるフリをして、実際には投げないとかがボークの例にあたるかな」
「ピッチャーというボールを投げるポジションの人がいますよね。その人が走者という塁に出ている人を騙して盗塁とかヒットエンドランを阻むことが無いようにするルールですね」
「……?当て逃げを防止するんですか?」
「……はい?」
「OK、とりあえず瑞希はヒットエンドランを当て逃げと結びつけないようにする事から始めようか」
雄二は黒板に要点を書きつつ、明久や造は瑞希に具体的な説明を瑞希にする。造はともかく残りの二人はこういうことがちゃんと出来るなら、普段の授業も真面目に受ければいいのに……
「「それは全力で断る!」」
「???えっと……二人とも、突然どうしたんですか?」
「ああ、すまん。気にしないでくれ。ボークに関しては二人の言った通りの事だな。他に例を上げるならつま先を打者方向に向けたままでの牽制球とか」
「そうそう、あとは二段モーションって言って———投球動作中に少しでも全身の動きが止まったりすると、これも反則になるんだよ」
「ええと、つま先を打者に向けての牽制球に、二段モーション……」
瑞希が一生懸命ノートにメモを取る。流石に真面目な子なだけあって、真剣に理解しようと頑張っているようだ。
「姫路さん、そう深く考えなくていいですよ。要するにピッチャーがボールを投げる時には、走者やバッターに対して【紛らわしい・思わせぶり】と取られるような行動をしちゃいけないってことです」
「そゆこと。バッターが『来る!』と思っていたら牽制球だったり、『来ない』と思っていたらいきなり投げてこられたり、なんてされたら大変でしょ?簡単に言っちゃえばその防止のためのルールなんだよ」
そんな瑞希の授業態度に苦笑いをしながら、明久たちは朗らかに説明する。その説明を受け、瑞希はポンッ!と手を叩き納得した面持ちでこう返す。
「なるほど……【紛らわしい事・思わせぶり】な行動はボーク、ですね!」
「ああ。大まかにはそう考えてもらって構わない」
「つまりボークとは———明久君みたいな人の事を言うんですね」
「「「…………へ?」」」
ここで何やらよくわからないことを言いだす瑞希。これには教師役のこの三人も意味がわからないと言う顔で頭に疑問符をつけてしまう。
「え、えっと……何でボークが僕?」
「……姫路、ちゃんと意味わかっているのか?つか、お前が何をどう捉えたのか俺にはわからんのだが」
「じ、自分もです……姫路さん、どういう意味ですそれ?」
「違うんですか?紛らわしくて思わせぶりな反則行為———つまり明久君ってことですよね?」
その瑞希の言葉は明久は未だに理解できていない様子だが、その他の二人は何となく理解できたようで。
「あー、そう捉えたか。まあ、大体合ってるかもな」
「……あ、ああそう言う事ですか。ルール的には理解してもらったか微妙ですが……ニュアンス的にはあっている……のではないでしょうか」
「わかりました!明久君、ボークは反則ですから今後は気を付けてくださいね!」
「何が!?何が合ってるのさ!?一体何の話してんの!?」
恋愛面に関して常日頃から非常に紛らわしい行動を起こしまくり、思わせぶりな行動で瑞希や美波、玲さんや葉月ちゃんや久保君や玉野さんたちをも誑かす吉井明久と言うこの男。ある意味存在自体がボークと言っても問題ないのかもしれない。
- 番外編:覚えよう野球のルール〜スクイズしてください!〜 ( No.79 )
- 日時: 2015/08/22 21:29
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
———これまたとある放課後の職員室にて————
「高橋先生。頼まれていた資料を持ってきました」
「ありがとうございます姫路さん」
「いいえ。えっと、ここに置いておきますね」
瑞希が野球の勉強を始め出した次の日。高橋先生に頼まれごとされた瑞希は職員室に高橋先生と共にしていた。
《大日本高校、1点を追う状況でバッターは山根。ここまでの打率は———》
「あれ?高校野球のラジオですか?」
「はい。どうにも私は野球に疎いようなので、勉強も兼ねて聞いていました」
と、瑞希に貰った資料に目を通しながらも高橋先生は苦笑い混じりにそう言ってくる。
「勉強ですか。高橋先生は勤勉ですね」
「いえいえ。わからないことは勉強しておく必要がありますから」
「そうですよね。私も頑張らないと……」
「おや?姫路さんも苦手なのですか。では一緒に頑張りましょうか、姫路さん」
「はい!頑張ります!」
と、笑い合う二人。生徒と教師という立場ではあるが、何だかんだでこの二人は気が合うのかもしれない。思えばこの二人、立ち位置も性格もかなり似ているようである。
「あ。わからないことと言えば。野球に関係あるかどうかはわからないんですけど……」
「?なんでしょうか姫路さん?」
「先生はスクイズって何のことだかご存じないですか?ここに来る前に、明久君と坂本君がそんな話をしていたの気になって。自分で調べたら良いのですけど……」
「いえ。気になったことを忘れないうちに確認するのも大事なことです。姫路さんは立派ですよ♪」
「あ、ありがとうございます♪」
「そうですね。スクイズ、ですか……」
※スクイズとは———野球で三塁走者と打者が示し合わせて、打者がバントをすることで走者を本塁に迎える連携プレーのこと
「あまり私も詳しくはありませんが……響きから察するに———『スクール水着』の略称か何かだと思います」
「あ、なるほど。そうなんですか。ありがとうございます」
…………ツッコミが……いないだと?この場に誰か一人でも常識人の教師がいれば、絶対にツッコまれていたであろう間違った知識を、何の違和感もなく頭の中に二人が入れ込んでいると。
《大日本高校、ここはきっちり“スクイズ”を決めてきましたね》
《そうですね。7番・山根権三郎くん、見事な“スクイズ”でした》
「「…………えっ?」」
———ラジオからそんな衝撃の解説の声が聞こえてくる。傍から聞いていれば何もおかしな解説ではないのだが、間違って理解しているこの二人にはさぞかしとんでもない解説に聞こえてきたであろう。
「……先生。高校野球って、スクール水着を着てやるものなんですか?」
「……わかりません。ですが……もしかしたら、暑さの厳しい地域の風習なのかもしれません」
「そ、そうですよね……(明久君のスクイズ……)」
「そ、そうなんでしょう……(造くんのスクイズ……)」
やはり完全に違う意味でスクイズの事を認識してしまった高橋先生と瑞希。そしてその最悪のタイミングで————
「失礼しまーす!あ、瑞希いたいた。今日の野球の授業は外でやるよー」
「失礼しますです。高橋先生、何か良くわかりませんが、サクヤさ———もとい日高先生が呼んでましたよ。保健室まで来てほしいとかなんとか」
————能天気にニコニコと笑いながら、この状況も自分たちがピンチだと言うことすらも理解していない最高の獲物(かも)がやってくる。
「「…………」」
そして高橋先生と瑞希はお互い顔を見合わせると……
「あ、明久君!スクイズしてくれませんか!?」
「つ、造くん!造くんもスクイズしてください!?」
「「…………へ?」」
「「スクイズです!スクイズをお願いします!!」」
「「???(スクイズって、お願いされるものなのかな?)」」
いきなりそんなことを言われて、造と明久は頭にクエスチョンマークを浮かべ首を傾げる。
「えっと……よくわかりませんが、つまりスクイズプレーをすればいいんですかね?」
「スクイズプレイ(=スク水プレイ)!?は、はいっ!恐らくはそれですっ!」
「んー……まあ、どの道今日は簡単に試合の流れを実際にグラウンドで教えようと思ってたし、僕らでいいならやって見せようか?雄二がピッチャーで僕が打者、造が三塁にいればギリギリできそうだし」
「本当ですかっ!?あ、ありがとうございます明久君!では————」
と、高橋先生と瑞希は嬉しそうに自分たちの鞄の中を探ると————
「「————では、早速お願いします!これに着替えてくださいっ!さあ!」」
「「…………ゑ?」」
————その日、涙目になりながらも必死で逃げる造と明久の後ろを、スクール水着(女子用)を片手に全力疾走で追いかける高橋先生と瑞希の姿が見られたとか。
「「二人とも待ってください!スクイズをしてください!」」
「瑞希、違うっ!多分君の思っているスクイズは色んな意味で違うんだよ!?説明を聞いてくれないかなぁっ!?」
「た、高橋先生も落ち着いてくださいっ!?貴女はとんでもない勘違いしているんです!とにかくちゃんと説明するので、お願いですから冷静になってくださいっ!?」
「「でしたら、その説明!是非こちらに着替えてからお願いしますっ!」」
「「そんなこと出来るかぁ!?」」
それにしても。どうしてピンポイントに高橋先生&瑞希はスク水なんか持っていたか……それはこの二人にしかわからない永遠の謎だろう。
「「いや!?というか、野球のルールの勉強はどこ行ったの(ですか)!?」」
「「これも立派な野球のルールの勉強ですっ!!」」
- 118時間目 不調の雄二と波乱の決勝〜隠し玉にご用心〜 ( No.80 )
- 日時: 2015/08/23 21:20
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
僕たちFクラス対鉄人たち教師の因縁の召喚野球大会決勝。一回の表は大波乱だったけど、今度は僕たちの攻撃の番だ。見てろよ……絶対に一泡吹かせてやる!
「んじゃ、行ってくる。一発でかいの打ってきてやる」
「頼んだよ、近藤君!」
こっちのトップバッターの近藤君が、張り切って打席に立つ。向こうは科目が化学なだけに、ピッチャーは化学の担当教師の布施先生。キャッチャーは鉄人と言う組み合わせだ。あ、ちなみに一回表で様々な意味で活躍(?)した高橋先生の守備位置はライト。あの点数じゃ流石にピッチャーは任せられなかったんだろうね。高橋先生と瑞希の存在が重なるのは気のせいではないだろう。
「高橋先生のいるライトに飛ばせれば、勝機があるかもしれないね」
《そうですね、まあただ、ライトに飛ばすだけの余裕は残念ながら今はなさそうですけど。超え難き点数差をどう攻略するか……ここはまだチャンスを待つしかないですかね。ねえ、ゆーさん》
そんな中霧島さんとの一件以来物凄く機嫌の悪い雄二をフォローするように造が話しかける。相変わらず造は気が回るなぁ〜……まあ、その本人はと言うと———
「ああ、そうかもな」
———ぶっきらぼうにそんな返事をするだけ。コイツ……全然機嫌直ってないな。全く、らしくないと言うか何と言うか……
「(ホント、この試合どうなるんだろうね?)」
雄二があんな感じだし、とりあえず皆に小声で相談する。下手に雄二を刺激したくないからね。
《(うーん……一応ゆーさんの『ストライクっ!』作戦では、終盤が『ストライク、ツー!』先生方に勝つ、唯一の鍵だって『ストライク!バッターアウト!』言ってましたよね?)》
「(…………序盤は点を取られないように『ストライク!』だけ、気を付けて『ストライク、ツー!』いればいいらしい)」
「(それにしても『ストライク!バッターアウト!』坂本があんな感じで『ストライク!』本当に何とかなるの?)」
「(私たちだけじゃ、先生方に勝つ方法なんて『ストライク、ツー!』わかりませんよね……)」
「(まあ、ここは一先ず皆で応援を『ストライク!バッターアウト!チェンジ!』———する前に、さあ守備だ。皆頑張ろう)」
「「「「(おー…………)」」」」
近藤君・横溝君・秀吉の全員が三球三振に倒れる。向こうに比べると戦力的にこっちの方が圧倒的に不利だってことくらい最初からわかっていたけど、なんて僕らの攻撃は短いんだろうか。
気を取り直して再び守備につく僕ら。科目は世界史ってことで、ピッチャーはまた僕がやる事になった。まあ、召喚大会や瑞希たちとの勉強会以来世界史と日本史は僕の得意教科だからね。ここは活躍できそうな場面だし、目的の一つであった教師共の鼻を明かすチャンスでもある。きっちり決めてやろうじゃないか。
「さぁ来いっ!今度はさっきまでのようにはいかないはずだっ!」
マウンドの上でバッターを待つ。さあ、次は誰だっ!どう料理して————
「ほう?随分威勢が良いな吉井」
————ヤバイ、コレどう考えても僕が料理される。いきなり鉄人とか、もう意欲が削がれまくりだよ……い、いや!鉄人は僕らFクラスの担任なんかしているわけだし、怖いところと言えばあの無尽蔵の体力と無敵の身体能力だけのはずだ!頭はそこまで良くないと
≪補習教師 西村宗一 世界史 741点≫
VS
≪Fクラス 吉井明久 世界史 174点≫
《敬遠するぞ》
《OK雄二》
- 118時間目 不調の雄二と波乱の決勝〜隠し玉にご用心〜 ( No.81 )
- 日時: 2015/08/23 22:25
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
目を見るまでもなく雄二の考えが伝わってきた。あの化け物相手に真っ向から勝負なんて正気の沙汰じゃない。全くもって意味が分からないけど、この鉄人あれだけ武闘派なのにどうやら頭も良いらしい。ここは悔しいけれど大人しく塁に出すほかないだろう。
「……あれ?」
と、雄二はキャッチャーミットをストライクゾーンの外に構える。……え、嘘立ち上がらないの?ああ、もしかして雄二の事だし、敬遠すると見せかけて三振狙いとかか……?いくらなんでも立ち上がるのが面倒だったってことは……流石にないと思うし。
多少疑問に思いつつも、一先ず雄二の指示通りにボールを投げることに。
『ボール!』
一球目は鉄人は眉を顰めながらも見逃す。何かえらく不服そうな顔で雄二と僕を眺める鉄人。雄二も雄二だけど鉄人も鉄人で一体どうしたんだろ?敬遠されるってことが腹立たしいのかな?
『……これは、まさか坂本の指示か?』
『そうだが、何か?』
『……そうか』
何だか不機嫌そうに低い声で雄二にそんな事を言う鉄人。鉄人もしかして正々堂々やれって言いたいの?まさか敬遠が汚いなんて言うつもりなんだろうか?いやでも敬遠だって立派な作戦の一つなのになぁ……
『やれやれ……お前たちは勉強が苦手でも、こういったことはわかっているものだと思っていたんだがな……まだまだ教育が必要だということか』
『? 何を言ってるんだ?敬遠くらい、勝負の世界では常識だろう。この程度のことで文句を言うとは———』
『いいや。そういうことを言っているんじゃない……いいか、坂本。教師として一つ言っておく』
何だかよくわからないけど、とりあえず雄二の指示通りボールを投げる。会話の途中だったみたいだけど、どうせ敬遠なら別に———
『———何事も、やるならば徹底的にやれ!』
ガギン!
「「なっ!?」」
物凄く豪快な音が響き、ミットに向かっていたはずのボールがかき消えた!?ば、バカなっ!?ひょっとしてこれ敬遠球を打たれたの!?
慌てて後ろを振り返るも、ボールはどこにも見えない……フィールドにないってことは……くそっ!ホームランか!?
『……ふっ、月野に救われたな』
と、そう言って鉄人はニッと笑うと、何故か一塁には行かずに再びバッターボックスに戻る。あ、あれ?どうして……?
『ファール!』
「「……え?」」
鉄人がバッターボックスに戻ると同時に審判がファールと宣言する。ど、どう言うこと?ファールって……今の軌道なら、明らかにホームランじゃ?それに鉄人が言っている“月野に救われたな”って一体……?
『た、タイムじゃ!造、しっかりするのじゃ!?』
と、突然に秀吉がタイムを取る。秀吉の声のした方向を見ると……
《た、たはは……流石西村せんせですね……点数約半分……使っても……ボールの軌道を変えるだけで、精一杯……でしたよ》
≪Fクラス 月野造 世界史 451点 →Fクラス 月野造 世界史 203点≫
造が息を切らしてかなり辛そうにしている姿があった。点数もごっそりと削られているところを見ると……ま、まさかアレを止めようとしたの!?僕も、そして雄二も慌てて造の元に駆け寄る。
「つ、造ゴメン……まさか打たれるなんて……」
《あはは……大丈夫ですよ。それにしても警戒してて正解でしたね。さすが西村せんせです……》
造は打たれた事を気にしていないように僕に笑顔で答えてくれる。相変わらず何て無茶するんだ!?僕と造にとって、召喚獣の点数は言わば体力ゲージに相当する。一応フィードバックが全部返ってくるわけじゃないけど、それでも当然点数が半分になれば体力も半分になるって事とほぼ同義なのに……
- 118時間目 不調の雄二と波乱の決勝〜隠し玉にご用心〜 ( No.82 )
- 日時: 2015/08/23 21:38
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「悪い……甘かった……」
「そうじゃ雄二よ!あの例の腕輪で造の点を戻せぬか?どの道半分も削れておるのじゃ。今点を回復させておけば次の造の打席で戦えるじゃろ」
あっ、そうか!雄二にはあの点数回復の黒金の腕輪があるんだったね。それなら造の点も回復するだろうし、体力だって回復するはず。雄二も秀吉の提案に慌てて懐から腕輪を取り出し始める。
「そ、そうだな……なら待ってろ、今すぐ腕輪の能力を《ゆーさん、腕輪使うのは無理ですよね?》———は?」
と、造は腕輪を出している雄二にやんわりと首を横に振る。使うのは無理?造は何が言いたいのだろうか。回復すれば辛くないだろうに?
《ねえ、ゆーさん……その腕輪を使用する際の条件、覚えていらっしゃいますか?》
「は?いや、それは……お前や明久の腕輪のようにキーワードを言うことだろ?俺の場合は『再設定(リセット)』って言わないと———」
《……違います。ゆーさんの腕輪を使用するにはもう一つ条件がいるハズだったでしょう?ご自身で言ってたじゃないですか“面倒な腕輪だ”ってね。ある条件、つまり———“あらかじめ張られているフィールドに『設定(セット)』のキーワードを唱えてその腕輪に場の状況を覚え込ませる事”が条件だったでしょう?》
「っ!?」
……そ、そう言えば造と雄二がEクラス戦の時に雄二の腕輪の説明でそんなことを言ってたよね。ま、まさかだけど雄二……お前っ!?
《ゆーさんこの回、『設定(セット)』を使ってないでしょ》
「…………すまん」
やっぱりそうか……そんな単純なミスするなんて、いつもの雄二では考えられない。そもそも腕輪を使って出し抜くって作戦は、雄二が何よりも誰よりも得意としていたのに腕輪の存在すら忘れているなんてらしくないにも程がある。さっきの鉄人の件と言い、初回の高橋先生のプッシュバントの件と言い、悪知恵だけがウリの雄二がこんな調子じゃ……
《自分の事はどうでもいいですが……とりあえずちゃんと立って、西村せんせは歩かせる事にしましょう。ゆーさん。ご自身が一番わかっていらっしゃると思いますが———ここは気持ちを切り替えてくださいね》
「…………ああ、すまなかった」
そう言うと、雄二は踵を返しキャッチャーボックスに戻って行った。
「「《…………ハァ》」」
残った僕と秀吉と造は顔を見合わせて、同時に溜息を吐く。ダメだ……あんな状態の雄二に試合なんて任せてたら、とてもじゃないけど先生たちに勝つなんて夢のまた夢だ。
《……とりあえず、今は“あのゆーさん”に任せて、どうしようもなければ自分がキャッチャーになります。アキさん。それまでは大変かもしれませんが、どうかゆーさんをお願いします》
「……そうじゃの。本人も本調子ではないことくらいわかっておるようじゃが、このままではコールド負けも考えられるぞい」
「……あのバカ……まあ、霧島さんの事で悩むのはわかるけど、それとこれとは別なのに……」
……とりあえず鉄人は歩かせて次から勝負をする事に。諦める気はさらさら無いけど、雄二があのまま腑抜けているようなら……この勝負、絶対に勝てないと僕らは心の中でそう考えていた。
〜試合再開〜
現在得点は【2 — 0】しかもツーアウト満塁のピンチ。あの後、一応鉄人を歩かせたんだけど……鉄人ほどではなくてももう一人の超人:大島先生がホームランを放ちこんな結果になっている。大島先生は保険体育の教師だし野球もお手のものだってこと、それに僕の球が打たれやすいってこともあるだろうけど、それよりも最大の原因は雄二の指示がかなり雑になってきたところを狙われたからだって感じがする。正直2点も入れられたのは痛すぎる……これ以上点が離されたら、本気で追いつけないね。
迎える打者は一巡して、再び一番の布施先生。ちぃ……そろそろこの野球に慣れてきている頃だろうし、一回のような先生のミスを待つなんて無駄だろう。困ったね、この流れはどう考えても教師たちに分がある……と、どうやって勝負するか悩んでいると、僕の視界の隅で秀吉が手を上げて何かを訴えてくる。ん?どしたんだろ?
《明久よ。牽制球を頼む》
そうアイコンタクトを送る秀吉。……ふむ?もしかしてちょっと落ち着けってことかな?この嫌な流れを払拭すべく、一先ず秀吉の言う通り一塁に向かってボールを投げる。
パシン!
軽く投げられたボールは、秀吉の召喚獣のグローブに収まったけど……勿論ランナーはアウトになるわけもなく、悠々と塁上に立っている。まあ、多少これで落ち着けたかな?と、秀吉にボールを戻して貰おうと手を上げると、
『……むぅ。タイムじゃ』
何やら心配そうに顔を歪ませてタイムを宣言する秀吉。あれ?何か僕の投球で悪いところでもあったのだろうか?そのまま秀吉と秀吉の召喚獣は僕のところにやってくる。
「?どしたの秀吉?」
「……いやなに。ちょっと仕掛けをじゃな。造!すまぬが来てくれぬか?」
秀吉は僕のところに来ると、ついでに造も呼びだした。んー……ひょっとして雄二の件で何か相談したいのかな?造もトコトコやって来たけど……
- 118時間目 不調の雄二と波乱の決勝〜隠し玉にご用心〜 ( No.83 )
- 日時: 2015/08/23 22:04
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
《ふふっ♪……ヒデさん、“アレ”やりますか?》
「うむ、ワシらも活躍せねばな」
???何だか秀吉と造、先に二人で会話してるみたいだけど……“アレ”って?出来れば僕にも教えて欲しいんだけどな?
「えっと……二人とも?」
「おお、すまん明久。実はの———」
《ふふっ♪自分たち実は———》
と、二人は僕に近づき、耳打ちするように小声で囁く。あ、ちなみに言うまでもないけど造が召喚獣になっているから秀吉が造を持ち上げて二人で耳打ちすると言う、中々シュールな絵になっている。
「えっと、実は何かな?」
「《実は、自分たち(ワシら)この試合が終わったら……お風呂に入りたいんです(入りたいのじゃ)》」
「—————はぁ!?」
ちょ!?ななな、何を言っているんだこの二人は!?この状況で僕を惑わせてどうしようって言うんだ!?女の子二人がお風呂に入りたいって……こう言う時、どう反応すればいいのさ!?
「それだけじゃ。邪魔したの。造、後はタイミングを」
《はいです♪任せてください、ではアキさん失礼しますね》
二人とも、何か企んでいるように小悪魔的な笑みを残してお互いの守備位置に戻る。その一方で、僕はまだ混乱の極みになっていた。ど、どう反応すればいいのだろうか?お風呂?何?ひょっとして『だからお風呂を沸かして欲しい』って言う事なのかな?それともやっぱりそのままの意味で『お風呂に一緒に入って』ってこと……?あまつさえその背中を流したりその他諸々の———ど、どうしよう?ここは瑞希と美波に頼んで造たちをお風呂に入れてもらうしか……いや、そんなこと二人には頼めないだろうし、姉さんにでも頼むか?いやいや、それだと不純異性行為がどうのこうのと————
『プレイッ!…………あれ?あのー、吉井君?聞こえていますかー?』
「ふえっ!?あ、はいっ!聞こえます!」
未だに混乱している僕に構わず、審判の先生が試合再開を高らかに宣言する。し、仕方ない……二人の言った意味はわからないけど、ここはちゃんと抑えてから後で二人を説得するとしよう。年頃の女の子がそう言うことを男の子に言っちゃいけませんって!
そう気を取り直して投球を始めようとすると……
「ってあれ?ボールが……ない?」
どう言うわけか、僕の召喚獣はボールを持っていなかった。あれ?さっき確か秀吉の召喚獣がボールを持ってきたと思ったんだけど……あ、もしかして貰ってなかったのかな?そう思って秀吉の方を見るけど……んん?秀吉の召喚獣もボールを持ってない?どう言うこと?じゃあボールはどこに……?ボールの行方を捜そうとあたりを見回すと、
《船越せーんせい♪》
『はい!何でしょうか造くん♪』
ポスッ!
《ふふっ♪ごめんなさい、タッチアウトです》
『……あら?』
……何故か二塁の方向でそんな声が。造?え?タッチアウトって……?僕の手元にも、そして秀吉の手元にもボールが無く代わりに———造のグローブの中にボールが握られていた。そしてそのまま造は二塁にいた船越先生にグローブを当ててニッコリ笑っているけど———これってまさか、隠し球!?いつの間に……!?
『ランナーアウト、チェンジ!』
審判が攻守交代を告げる。う、嘘!?本当にこのピンチを切り抜けられたの!?
「造ちゃん、木下!ナイス!」
「隠し玉なんて、味な真似しやがって!流石だぜ!」
「…………グッジョブ」
僕らのベンチの中で、皆が秀吉と造を誉め称える。ホント助かったよ!もう一点は覚悟してたし。
「これでワシも少しは役に立てたかの。造、ナイスプレーじゃ!」
《ヒデさんもナイスです!何か合図してましたから、何かあるだろうと思いましたが隠し球とは……しかも一度ヒデさんがボールを持つことで、アキさん側や一塁側に注目させて油断を誘うなんて恐れ入りましたよ》
と、二人はお互いにハイタッチしながら喜んでいる。ああ、なるほど。さっきのはその為のタイムだったんだね。……ってことは、
「何だ、さっきの造と秀吉が言った『お風呂に入りたい』ってのはジョークか何かだったんだね?もう、ビックリさせないでよ〜思わず『一緒にお風呂に入りたい』的な話かと思って本気で混乱しちゃってさー」
「うむ。お主が混乱するのを逆手に取ったワシの———“一緒に風呂”じゃと?」
《ふふっ♪それこそヒデさんの作戦なんですよ———“一緒にお風呂”ですと?》
そうか、ビックリさせること自体が二人の作戦ってわけだったのか。敢えて僕に動揺させることで、先生たちに僕らが焦っているってことを印象付けて油断させると同時に、混乱して何か変な動きをしている僕に先生たちの意識を集中させてこんなトリックプレーをやったってことか。だから『お風呂に入りたい』なんてとんでもない事を言ったんだね。なるほど、流石は演劇部の秀吉と小さな策士の造だ。そういう演技はお手の物か。
《……い、いや待ってアキさん!そうです、お風呂自体は勿論入りたいです!そう、“皆さんと”一緒にね!ねえ、ヒデさん!》
「そ、そうじゃな!風呂じゃ!のう明久たちよ、この試合が終わったら是非ワシらと共に男湯へ———」
ガシッ!×2
「あらあら、ダメじゃない木下に月野。知らないの?お風呂は性別ごとに別れて入るものなのよ(させないわよ木下、月野!アキと一緒にお風呂なんて、ウチらもまだやってないのにっ!)」
「そうですよ木下君、月野君。もしお友達と一緒にと言うのなら、お風呂は後で私たちとゆっくり入りましょうね(美波ちゃんの言う通りですっ!明久君とお風呂に入るのは、私たちですらまだやってないんですよ!?)」
と、また何か言いたそうな造たちに、美波と瑞希が優しくそんな提案をしてくる。お風呂?……ああなるほど、今のトリックプレーの頑張りのご褒美にお風呂に入りたがっていた二人と一緒にお風呂に入ろうってことなんだろうね。
《んなっ!?ちょっと!?それは色々とマズイでしょう島田さんに姫路さんっ!?ですから自分らは男ですってば!?それに先に言っておきますが別にアキさんを誘惑とかそう言うことしようとしてるんじゃなくて、これを機にアキさんに自分たちが男であると言う証明をですね!?》
「そ、そうじゃぞ、島田に姫路!?落ち着くのじゃ!と言うかじゃな、お主らついにワシらと風呂に入るということにすら違和感を覚えなくなっておるのか!?それは女学生としてはアウトではないのか!?」
「「はいはい、わかったから後で二人は女子風呂に入りましょうねー」」
「《何もわかっていませんよね(おらぬじゃろ)!?》」
瑞希と美波は何かよくわからないことを叫んでいる造と秀吉の腕を抱えて、とてもにこやかに微笑みながら二人をベンチに連れていく。うんうん♪やっぱり女の子同士仲が良いのは絵になるなぁ〜
さてさて、造や秀吉のお陰でピンチは脱した。それじゃあ……盗られたものは物は取り返そうか。それは僕らの写真もエロ本も私物も————そしてこの回奪われた点もね。
「さぁ皆、今度はこっちの攻撃だよ!そろそろ流れを引き込もう!」
「「「おうっ!」」」
- 119時間目 勝利の鍵は〜文さん&小暮さんに在り!?〜 ( No.84 )
- 日時: 2015/08/28 21:17
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
『さぁ皆、今度はこっちの攻撃だよ!そろそろ流れを引き込もう!』
『『『おうっ!』』』
「———とかなんとか前回言ったけど、あっという間に三者凡退だね。薄々わかってはいたけどさ。さぁ皆、またこっちの守備だよ。気持ちを切り替えて頑張ろう……」
「「「おー……」」」
《うぅ……結局塁に出られませんでした……》
これはもう笑うしかありませんよね。先生方の攻撃はあんなにも綺麗に続くのに、こちらはまだ誰一人塁に出ていませんもの……かくいう自分も先ほど消費した点が響いたのか、先生の放つボールに力負けして結局三者凡退。これはそろそろ本気でマズイですね……
二回が終わって三回の表。科目は世界史から物理に変更されています。打順は先ほど隠し球で結局打っていなかった布施先生からスタートしたのですが……布施先生にはヒットを打たれ、2番打者の寺井先生にはセーフティバントを決められてしまい、気が付けばノーアウト一・二塁とまたもやピンチです。おまけに迎えるネクストバッターは……
「宜しくお願いします。そして———今度こそ待っていてくださいね造くんっ!」
またもやこの人、学年主任の高橋先生。正直あの点数を見せつけられては、勝負はしたくないんですが……あ、それと安心してください。全然待ってませんからね高橋先生。寧ろ勝負的な意味では来てほしくないって思ってますからね高橋先生。
《敬遠はしないよね?》
《……当たり前だ》
ゆーさんたちの様子では、ここは勝負に出るようですね。まあ、何せ次は西村先生に大島先生が控えてあるわけですし……ノーアウト満塁の状況にだけはしたくないですから当然と言えば当然ですか。
「今度は上手くやりますね!」
と、高橋先生はバットを短く持ちます。あれは……恐らく当てる事を意識してある構え方ですね。西村先生に大島先生、寺井先生など野球経験者も多い教師チーム。恐らく先生のどなたかにアドバイスを貰ったんでしょう。これはまた厄介な……
《アウトコース 高め 速い球》
ゆーさんは先生の召喚獣から最も離れたコースを指示しています。……何だかゆーさんにしたらちょっと消極的ですね。普段でしたら敢えて裏をかき、インコースを狙うくらいすると思うのですが……?何でしょう、嫌な予感が……
そんなことを思っている間にも、アキさんは全力でボールを放ります。ゆーさんの指示通り、アウトコースに投げられたボールは……
「まぁ、予想通りですね」
「「———っ!何ぃ!?」」
……突如腕を伸ばした高橋先生の召喚獣に、見事に打たれます。くっ……例え野球に関しては初心者でも、頭の良さは随一な高橋先生。やられた……ゆーさんの指示するコースを読んできましたねっ!?
「ま、また来た!?こっちくんなぶるぁあああああああ!?」
高橋先生に打たれたボールはまたもやショートを守っていた須川くんの召喚獣を吹き飛ばし、自分が守るセンター前へと転がってきます。ちぃ……今度こそ完全にやられたっ!?
『『『高橋先生!今度はきちんと一塁から順に回ってください!』』』
「わかっています。同じミスは、二度と犯しません」
教師チームの皆さんの指示を受け、高橋先生の召喚獣はその驚異の点数に比例した恐るべき速度で1、2,3塁ベースを順番に踏んで行きます。マズイですね。あの速さはまさに保健体育のこーさんの召喚獣レベル。これじゃ送球が間に合わなく……
……って、あれ?は、速すぎでは?このままじゃ———
『高橋先生……アウト、です……』
『なぜですか』
———その、一応寺井先生たちも召喚獣を全力で走らせていたはずなのですが……速すぎて前の走者である寺井先生、布施先生の召喚獣を追い越してしまう高橋先生。
『『『…………』』』
- 119時間目 勝利の鍵は〜文さん&小暮さんに在り!?〜 ( No.85 )
- 日時: 2015/08/28 21:20
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
これにはこの場にいる、全ての人間が絶句します。その、再び野球のルール確認をしましょうか。そう……野球のルールの中の一つにですね、“後位の走者がアウトとなっていない前位の走者に先んじた場合、後位の走者がアウトになる”というものがあります。
『とにかく高橋先生。アウトなので戻ってください……』
『納得できません。折角造くんにカッコイイところ見せられると思いましたのに』
『そういうものなので……』
まあ、要するに前のランナーを追い抜いたらアウトになるってことですね。高橋先生は不満そうな目をしつつ、自陣へと戻っていきます。ま、まあこれは高橋先生の点数があまりに高すぎた事による悲劇なんでしょう。このルールは知らないなら仕方のない……事だと思いますし。
《えっと、ホントすみません。タッチアウトです。島田さんお願いします(ヒュッ)》
『え?』
「(パシッ)あ、うん……それじゃ、こっちもアウトです」
『あ』
『…………3アウト、チェンジ』
高橋先生の行動に呆然と立ち尽くす布施先生と寺井先生を、それぞれタッチアウトにさせて一応これで3アウト。審判の先生が物凄く力なく宣言しますね。まあ、このようなトリプルプレーなんて、見たことないですし……
『……まさか月野君関連以外は完璧超人と噂される高橋先生が、あんな凄いことするとは思いませんでしたよ……』
『誰にでも向き不向きってあるんですね……まあ、これで親しみやすくなった……のかなぁ』
布施先生と寺井先生が反応に困る反応をしながらトボトボとベンチに戻ります。お、お二人ともドンマイです……ともあれ、こちらとしては助かりました!何とかこれで凌ぎ切りましたし後はこっちが点を入れられればいいのですが……
「…………ちっ」
《……ゆーさん……》
ゆーさんの機嫌も調子も戻っていないこの状況で、点を入れることは難しそうですね……前回の事もさっきの高橋先生の行動も、普段のゆーさんでしたらすぐに予測して対抗策を練るハズですのに。今回は怒りで全く頭が回っていないようです。
……このままではホントに負けちゃいますね。せめて霧島さんがどうしてあんな行動をしたのかだけでも分かれば良いのですが。と、歯がゆく感じながらもベンチへと戻ろうとした次の瞬間。
ポスッ!
と、音を立て何か柔らかいものが観客席から狙いすましたように自分の方へと飛んできて自分にジャストミート。ふわふわですし痛くもなんともないのですが……何ですこれ?ぬいぐるみ?
《…………!?ってホント何これ!?“自分の”ぬいぐるみ!?》
そう、何故か以前こーさんが作ってきて、そのまま没収し文さんに上げた自分にそっくりの召喚獣サイズのぬいぐるみが飛んできました。いや待って、ホントに何ですかコレ!?慌てて飛んできた方向を振り向くと。
《って、小暮さんに文さん……あの人たちは……》
そう、そこにはさっきまで姿が見えなかった小暮さんと文さんの姿が見えます。なるほど?また彼女たちの悪戯ですね?大方プロ野球選手がホームランを打った後にぬいぐるみを観客席に投げ込むのやつの逆バージョンで遊んでいるのでしょう。これはつまりさっさとホームランを打てってことですか?全く、今はそんな状況じゃありませんのに……と、抗議も兼ねてお二人をジトッと見つめると———
『月野君、お話があります。少々宜しいですか?』
《ツクル コッチに 来て! ハヤク!》
———あれ?二人とも自分を手招きしてる……?おまけに…………何だかわかりませんが、いつもに比べると、二人はとても真剣なご様子。もしかして、何かあったとか?
どの道この回は自分の出番はなさそうですし、少しだけベンチから離れる事に。これは唯の勘なんですが……ひょっとしたら、物凄く大事な何かをお二人は知っているのかも……?
〜造移動中:しばらくお待ちください〜
- 119時間目 勝利の鍵は〜文さん&小暮さんに在り!?〜 ( No.86 )
- 日時: 2015/08/28 21:23
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
《お待たせしました。どうしたんですか?小暮さんに文さん?》
とりあえずこっそりベンチを抜け出して観客席まで走り二人の元に辿り着きます。どうやら二人のいる席は穴場だったらしく、他の応援している皆さんが周りにいないようですね。
「すみません、突然に……ねえ月野君?単刀直入に聞きますが、貴方は霧島さんと坂本君が仲違いしている事は知っていますか?」
《!?え、ええ。その場にいたので勿論知っていますよ?ですが、どうして小暮さんがそれを————》
知っているんですか?と質問しようとする自分に、小暮さんは手を翳して———
「それでは……月野君。月野君は霧島さんが坂本君に怒った本当の理由を知っていますか?」
自分が質問する事も許さず、小暮さんは真剣に自分に問いかけます。今回はかなり真面目な話のようですね。こんなに真剣な小暮さんは久しぶり……こんな時に考えるのもアレですがちょっと凛々しくて良いなって思ったり。
《……すみません、情けない話ですが正直さっぱりなんです。霧島さんの行動には何か違和感があるってことくらいしか……わからないんです》
どう言う経緯かわかりませんが、どうやら小暮さんは霧島さんとゆーさんのことを知っている様子ですね。もしかしたら霧島さんのことを……?
「ふむ。やはりそうでしたか……月野君にしては彼———坂本君に対して何も行動を起こさないので、もしかしたらとは思いましたが。やはり月野君は知らなかったようですね。いえ、この場合は坂本君もこのことを知らなかったとか……?」
納得がいったような顔で小暮さんがしきりに頷いています。やっぱり何か小暮さんは知っているようです。ですが一体何を……?
《あの……一体どう言うことなんですか?小暮さん、何か知っているんじゃ……》
「ええ。ですが、ここからは私に聞くより直接霧島さんの声を聞いた方が早いでしょう———文さん、お願いします」
《……え?》
《わかったー! あのねー ツクル! 文ね アオイと ショーコの 会話 記録 してるよー 今から それ 立体映像で 流す ねー!》
《…………なっ!?ちょ、ちょっと!?(ボソッ)だ、駄目です!文さん何て事しようとしているんですか!?そんなことをしたら———》
文さんが召喚システムだって小暮さんにバレちゃいますよ!?そのように文さんに注意しようとすると———
「ああ、大丈夫ですよ月野君。私、文さんの正体は大体予想ついていますので安心してください」
《…………えっ?》
……小暮さん?今さらりと何かとんでもないこと言いませんでしたか?文さんの正体の、予想がついているですって?え、うそ……?
「それはともかく、文さんお願いしますね」
《うん! 行く よー!》
ま、まあ後で小暮さんにはどう言うことか説明して貰うとして、緊急事態と言うことで黙って従います。どういう原理かわかりませんが文さんが何かの映像を映し出すと、その映像には—————
明久Side
高橋先生の珍プレーのお陰で(?)この回無失点で何とか切り抜けた。何だか正直、塁に出ていた布施先生と寺井先生にはちょっと申し訳ないけど……
「と、とにかく、これでピンチは凌いだ!そろそろ一本出そう!こっちの最初のバッターは」
「お主じゃな、明久」
って、そう言えば僕か。ここは責任重大だ。科目は物理でお世辞にも得意教科と言うわけじゃないけど、何としても皆の期待に応えて———
「期待してるぞ、坂本」
「坂本、お前だけが頼りだ」
「頼む。ホームランをかっ飛ばしてくれ坂本」
———ねぇ、ちょっと?何故に皆僕の次の打者にエールを送るのかな? この回の先頭打者である僕へのエールは?
「ねぇ皆、それは僕に余計なプレッシャーをかけまいという気遣いなんだよね?」
「「「……あー……まぁ、そうだな……一応吉井も…………」」」
「もういいよ!形だけの声援なんていらないよ!?」
畜生……一体何だこの期待の寄せ方の差は……地味に凹むんだぞこれでも。
「あの、明久君。頑張って下さいね!」
「アキ頑張って!ウチらにカッコいいとこ見せてよ♪」
そこに訪れる、二人の女神の癒しのエール。ふん!いいもんね!僕にはこの二人の女神の加護があるからさ!男共のエールより、女の子のエールの方が力が湧くし!
「瑞希、美波……ありがとう!僕頑張ってくるよ!」
「「応援してますね(してるわよ)!」」
「よしっ!この打席を、二人に捧げるね!」
ここが男の見せ所。絶対二人に勝利を捧げる!二人の為ならヒットでもホームランでも打ってやれる気がするぞ!意気揚々と打席に向かい、相手ピッチャーをしっかりと視界の中央に置き————
ズゴス!
『デッドボール!』
- 119時間目 勝利の鍵は〜文さん&小暮さんに在り!?〜 ( No.87 )
- 日時: 2015/08/28 21:27
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
———凄い一発を貰った。い、いきなり失投、だと……?しかも、しかもっ……!
「ぎにゃぁぁああっ!手が!左の手首から先の感覚がぁああっ!」
「「あ、明久君(アキ)!?大丈夫(ですかっ)!?」」
気合いを入れて身を乗り出した結果がコレだよ!?左の手首めっちゃ痛いっ!?何ですっぽ抜けのくせにこんなにも痛すぎるの!?
「す、すいません吉井君……力加減に失敗してしまって……」
「だ、大丈夫……です。うぅ……カッコ悪いところ見せちゃったなぁ……」
いつまでものたうち回っているわけにもいかないので(瑞希と美波に心配もかけられないし)、一塁へとフラフラな状態で向かう事に。てかもうすでに僕の召喚獣死にかけてるんだけど……ま、まあ何とか走れそうではあるから良いさ。それにしてもそっか……さっきから姿が見えないけど、造。君は前の試合でこの痛みに耐えてたんだね……
とは言え、この試合初めてのランナー且つ、ノーアウトという最高の条件だ。ここは次の雄二に期待をしたい所だ。……死んでも言うつもりはないけれど、これでもいつも期待はしてるんだぞ雄二。だからさ……いい加減に切り替えろよな……
≪化学教師 布施文博 物理 269点≫
VS
≪Fクラス 坂本雄二 物理 188点≫
多少は点数の差はあるけど、それでも雄二の動体視力、運動神経や反射神経を加味すれば十分良い勝負が出来る点数のはずだ。寧ろここで得点を入れなきゃ、今の僕らに他に点を入れられる場面は限りなくゼロに近づいてしまうだろう。雄二が打った瞬間に、僕も走れるように準備しておこう。
「今度は失投しないように気をつけなくては……」
布施先生の召喚獣が投球姿勢を取り、ボールを投げ放つ。おおっ!さっきのデッドボールを気にしてか、コースはど真ん中で球速も普通になっているじゃないか!これは……絶好球だ!
「…………っ」
雄二はその球を見てピクッと動き———そのまま見送る。
『ストライク!』
結果、勿論ストライクカウントが一つ増えた。んん……?あの球を見過ごすなんて、雄二の奴何か策があるのかな?いや、単に間を外されただけ……か?首を傾げているうちに布施先生が二球目を投げる。今度はアウトコース低めの球だ。ギリギリストライクゾーンに入っているけど……雄二はどうする?
「こ……の……っ!」
「なっ!?バカヤロっ!」
さっきと同じように一瞬身体を震わせて、そこから雄二はバットを動かした。動かしたのはいいけど、カツッと半端な音が響いてボールがピッチャー前に転がる。あのバカ、判断に迷ってきちんとバット振らなかったなっ!?それに何だ!その下手くそなバッティングはっ!?お前は初心者じゃないだろっ!
必死になって召喚獣を走らせるも、ピッチャーがボールを拾い二塁へと送球する。くそっ!間に合わ———
『アウト!』
僕の召喚獣が二塁に到達する前にボールが二塁手のグローブに収まる。そして、そのまま二塁手は受け取ったボールを一塁へ向かって投げ———
『アウト!』
打者である雄二もアウトとなり、一気に2アウト。千歳一遇のチャンスは残念ながらものにすることは出来なかった。
「くそぉっ!」
雄二は悔しそうに吠えながらベンチに戻ろうとする。あんにゃろ……別に失敗なら誰にでもあるし、チャンスをものに出来なかった事をとやかく言うつもりはない。でも————今度ばかりはいい加減にして貰わないと迷惑だっ!
「…………ちょっと待ちなよ。雄二、今の気分は?」
「あァ?」
「今の気分はって聞いてんだよ。やる気無いなら補欠と代わりなよ」
話しかけたら凄い目で睨まれる。全然機嫌が直っていないね。でもさ?睨みたいのは僕の方だよバカ野郎。とりあえず、こんな雄二に任せてたら本当にどうにもならない。
「さっきのは何さっ!あんなへっぴり腰で打てるとでも思ったの!?さっきだけじゃない!この試合始まってから不抜けて……正直迷惑なんだよ!」
「んなことは、わかってるっ!」
「いいや何にもわかってないねっ!いい加減切り替えろよ!まださっきの事気にしているのかよっ!」
ベンチにいる皆も先生たちや観客の皆も、『何だ何だ?』と僕らに視線を向ける。事情を知っている美波と秀吉とムッツリーニ、それからバッターボックスにいる瑞希は心配そうに僕らを見ている。皆の手前、正直僕もあんまり言いたくないけど今のコイツにはちゃんと言わなきゃダメだっ!
「霧島さんだって、たまには機嫌が悪いときだってあるだろ!霧島さん本人に何で引っ叩かれたかも聞きもしないで、ただ吠えてるだけじゃ何にもならないじゃないか!」
「……やかましい!何が機嫌が悪い時だ!そんなもんで納得できるかっ!」
と、火に油を注いだが如く、雄二は更に怒りを燃やす。爪が食い込むほどに拳を握りしめて————
「だいたい、どうして俺が、本人の同意もない紙切れ一枚没収された程度で、あそこまで怒られなきゃならんのだ!」
本日何度目かの遠吠えを始めた。コイツ……完全に頭に血が上ってやがる。もういいわかった、こうなったらぶん殴ってでも冷静にさせてやろう。
そう、僕が今まさに拳を固め目の前の暴走寸前のバカを殴りかかろうとした瞬間————
バシャァア!
『『『『…………え?』』』』
「「…………は?」」
突然、何の前触れもなく……その雄二が水浸しになった。これには目の前の僕も見ていた皆も、あれだけ怒り狂っていた雄二でさえも唖然としてしまう。そう何せ————
《……少しはこれで、冷静になりましたか?ゆーさん?》
————そんなことを言いつつ、空になったバケツを片手に造が冷やかな笑顔で立っていたのだから。
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.88 )
- 日時: 2015/08/29 16:54
- 名前: ユウ (ID: JnUv6JO9)
そして、物語は核心へ・・・っと文章をカッコ良く書いてみましたが、実際はそこまでのことでもないんだけどね。
まあ、これが雄二のウジウジをぶっ飛ばす効果が発揮されるのを期待してます!!
所でふと思い浮かんだネタが2つほどあるのですが、
まず1つはもしも造が♂も♀も口説き落とす、バイセクシャルの性癖が合ったら・・・文月学園に止まらず全世界に革命(という名の鼻血天国)が起こるわけですね、なるほど分からん。
すいません、今の提案、無かったことにしてください。
そして二つ目はもしも造が自分の作品の問題児達と一緒に、異世界に放り出されたら何をするのか、といIF ストーリー等はいかがでしょう。
すみませんこれもやっぱり無しで
取り敢えず明久には見合い写真(蒼さん)の資料でも送りましょうか。
・・・間違ってお届け先は姫路さんと美波の家に届けちゃったけど・・・
許してヒヤシンス(‾∇‾*)ゞ
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.89 )
- 日時: 2015/08/29 17:40
- 名前: ユウ (ID: JnUv6JO9)
ふと思い出したのですで糖分さんに質問ですが、
造の家には居ても居なくても同じだけど、サクヤさんと蒼を除いてもメイドと執事が何人か居るんでしたよね?
なら、それを教育する人や(この場合はサクヤさんと蒼さんとか)見習いメイドとかが居ても良いような気がするのですがそこの所は如何程に?(期待の瞳)
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.90 )
- 日時: 2015/08/29 21:16
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
>ユウさん
感想&読んでいただきありがとうございます!
うじうじグダグダ悩む雄二は正直めちゃくちゃカッコ悪いので、気合いを入れさせましょ今すぐに。さあやれ造に明久たち。
明「うーん、ぶん殴る前に造に先越されちゃったね。日頃の鬱憤晴らすついでにぶん殴れなかったよHAHAHA!寧ろあのバカにはもっと加減無しに思い切りやっても良かったんじゃないの造?」
造「い、いえ……正直今思うとやり過ぎたと思ってます、はい」
それにしても……造が誰これ構わず口説いちゃうかぁ……いかん、シャレにならない。設定上酒(?)少しだけ飲ませると精神幼児化して暴走する造ですし、いっそたくさん飲ませたらそう言う性格になっちゃうお話書くのもひょっとしてアリか……?ネタ提供ありがとうです!
秀「と言うかバイセクシャルについては触れぬのかの……?」
え?いや、だって基本造ってどっちでもイケそうだし……やったね秀吉、チャンスはあるよ!
秀「な、何の話じゃ!?」
造「……どっち?イケそう?ヒデさんの言う通り何の話です?」
それからもう一個のほうのネタですが……うぅ、面白そうだし正直そちらの世界にお邪魔して書きたい気持ちがいっぱいなのですが……
造「?何か問題でもあるのですか糖分?」
問題児シリーズまだ買ってないから世界観的に書けないの……お邪魔して感想とか書こうにも元ネタが未読で悩ましくてね……私事でいろいろあってホントお金無いしで……
造「…………あー」
余裕が出来たらいつかお邪魔できたらって思ってます!うちの造とかもいつでも使ってもらって構いませんし!こちらもネタ提供ありがとうです!
瑞「……見合い写真の蒼さんとてもきれいですよね」
美「……アキも蒼さんみたいな人が良いのかしら」
造「あの、わかってると思いますが女装はしてますが蒼兄さんは男性ですので安心していいのでは?」
それと月野家のメイド&執事さんの件ですが。教育係は勿論サクヤさんと蒼さん。そしてどうやって人材確保しているのかについては、夏休み編の旅行の時に出てきた司会者さんのようにスカウト———
———するのは例外中の例外でして、基本的にはサクヤさんが町を夜回りして暴走してるニーちゃんやらレディースさんを片っ端から捕まえて更生させる&舎弟を作った結果が現在のメイド隊&執事隊の実態という裏話が。メイドはあまり出してませんが執事がヤのつく自由業のような面持ちだったのはそれが理由とか。サクヤさん、あんた一体何なんだ。
サ「まあ、その辺の話はまた別に機会になー」
- 120時間目 真相・驚愕・復活雄二〜最強コンビのバッテリー〜 ( No.91 )
- 日時: 2015/08/29 21:48
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
《……少しはこれで、冷静になりましたか?ゆーさん?》
怒り狂っていた雄二に、突然バケツの水をぶちまけると言うとんでもない事をする造。いや、確かに僕も”コイツをぶん殴って冷静にさせてやる”ってさっきまでは思っていたけど、まさかわざわざバケツに水を汲んでそれを雄二にぶちまけるなんて……流石の僕も驚いたんだけど、一体急にどうしたんだ造は。
「つく……る……っ!テメ、何しやがんだっ!?お前もこのバカみてぇに、翔子を庇ってんのかっ!?」
と、ここで我を取り戻した雄二が僕を指差しつつ造に詰め寄る。まあ、あれだけ僕に怒っていたところに、追撃するように造にあんな事をされたんだ。そうもなるだろう。そんな怒り狂う雄二を物ともせずに、造は呆れたように雄二を睨む。
《随分お熱いんですね。ああ、ひょっとしてまだ冷めて———いいえ、“覚めて”いませんか?何でしたらもう一回水浴びしてくると良いですよ。水汲んできますから待っててくださいね。頭も目も覚まさせてあげますので》
「っ!こんの……人の話聞きやがれっ!」
《……それを、今の貴方に言われたくないですよ。こんな台詞貴方に言う日が来るとは思いませんでしたが……冷静になりなさい》
「んだと……っ!?」
……どうしてだろう。ただ暴れている雄二よりも、今の造を見ている方がよっぽど怖い気がする……何だか造、静かに怒ってないかな?
《ねえゆーさん……さっき貴方“本人の同意もない紙切れ一枚没収された程度で、どうしてあそこまで怒られなきゃならんのだ”って言いましたよね?》
「……あ?なんだ造。まさかお前が人の大事なものを紙切れ呼ばわりするな、とでも言いたいのか?笑わせんなよ」
《誰がそんなこと言いましたか?さっきの言葉をお返しします。人の話を聞きなさいな、ゆーさん》
怒りに真っ赤に燃える雄二の眼とは対照的に、造の眼は哀しそうな冷たい色を見せる。どうしたんだろう?造は一体雄二に何を言いたいんだろうか……?
「ちっ……お前も明久も何が言いたい。これはアレか?造のお得意の説教か?悪いが今回は譲る気は一切ないと思えよ」
《説教?譲る譲らない?……そうじゃない……そうじゃないんです、違うんですよ。ねえ、ゆーさん?どうしてゆーさんは霧島さんの没収品が〝婚約届の同意書”だと決めつけるんですか?……ゆーさんは“本当に彼女が没収されたものが、何かも知らない”くせに》
「「「「「「…………え?」」」」」」
これには当事者の雄二も、事情をしている僕らも揃って頭に疑問符を浮かべる。どう言うこと……あっ!もしかして!
「つ、造!?もしかしてわかったの!?霧島さんが本当に没収されたものって!?」
「翔子が……本当に没収されたもの?お、おい待て!?一体何の話だ!?」
慌てて問いかける僕らに、造はゆっくり頷く。そして————
《先程とある友人から教えて貰いました。ほんっと、頭が痛くなってしまう話ですよ……霧島さんが没収されたものはですね————》
そうやって一度だけため息を吐いて、悲しそうに続ける造。
《———ゆーさん、如月ハイランドで、貴方が渡した“ヴェール”だそうです……》
「「「「「「…………は?」」」」」」
- 120時間目 真相・驚愕・復活雄二〜最強コンビのバッテリー〜 ( No.92 )
- 日時: 2015/08/29 21:30
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
思いも寄らぬ台詞に、雄二だけではなく僕ら全員も揃って聞き返す。ヴェール?ヴェールって、あの結婚式に使う奴だよね?それに如月ハイランドのって、もしかしてあのウェディング体験の時の物……?更に頭に疑問符を浮かべている僕らに、造はゆっくりと話を続けてくれる。
《話を聞いた限りだと、ゆーさん自身が霧島さんに渡したものだったそうですが、その様子だとどうやら本当に知らなかったみたいですね……ゆーさん……貴方自分で言ったそうじゃないですか。例え誰が笑おうとも『俺はお前の夢を笑わない』と。そう言ってプレゼントしたそうじゃないですか……その大切な想い出のプレゼントが没収されたそうですよ》
その造の言葉に、いつの間にか打席から戻ってきていた瑞希と隣にいる美波がピクッと反応する。
「あっ!それ……私たちも翔子ちゃんからお話を聞きました。あの時大勢の前で笑われて、夢を否定されたのに坂本君はその夢を大事にしてくれたって……」
「ウチも聞いたわ……お泊り会の時にね、あの子幸せそうに言ってたのが凄く印象的だったもの。そっか……そのヴェールを没収されちゃったんだ……それは確かにショックよね」
瑞希と美波は、哀しそうに二人で目を伏せる。そっか、僕らはあの時の一部しか知らなかったけど、そう言う事があったんだね……
「「「「…………」」」」
これには雄二も僕らも言葉を失ってしまう。小さな頃からの霧島さんの大事なたった一つの夢。それを笑われ否定されて、傷ついた彼女に彼女の想い人である雄二が『俺はお前の夢を笑わない』なんて言ってあげたんだ。それはもう、大事な大事な想い出の一品のハズだ。
《その想い出のプレゼントを『つまらない物』と言われた、霧島さんの気持ちはゆーさんが一番わかりますよね……?》
「…………」
こんなこと、当事者じゃない僕にでもわかる。雄二に『つまらない物』と言われる事は霧島さんにとっては最も辛いことなんだと。何せプレゼントしてくれた張本人に想い出の品を馬鹿にされて、『笑わない』と言われたはずの大事な夢を笑われたように思えるから……
《霧島さんなら事情を説明して、先生に掛け合えさえすれば没収品を取り戻すことは簡単だったはずです。ですが————》
「「「…………きっと、もう誰にも笑われたくなかった」」」
ふと、雄二があの時霧島さんに言った事を思い出す。
あんなもん
つまらない物
俺が代わりに捨ててやる
……小さな頃からの夢を大事にし続ける彼女にとって、それはどれだけ残酷な言葉に聞こえただろう。自分の事ではないハズなのに、思わず顔を覆いたくなる。
「……雄二……お前はなんてバカなことを……」
「……最悪の展開じゃの……正直引っぱたかれても釣りがくる話じゃ」
「…………やはり、あの時霧島にちゃんと確認すべきだった」
《……さてゆーさん、もう一度聞きます。ゆーさんは、本当にわかっていなかったんですね。霧島さんが没収された物の事を。何でも霧島さんの話ではゆーさんご自身がそのヴェールを霧島さんの持っていた袋の中に入れたそうですが》
「…………知らな、かった……確かに俺のおふくろに……翔子に渡してくれと頼まれたものがあったが……」
《……それですね。霧島さん、その袋ごと没収されたそうですし》
要するに、これは雄二の勘違いが招いた事ってことだ。こうなると完全に霧島さんに同情せざるを得ない。何せ雄二は知らなかったとはいえ、それだけの事を霧島さんにやってしまったんだから。それがわかっているからこそ、雄二自身もこうやって真実を知って呆けているのだろう。
- 120時間目 真相・驚愕・復活雄二〜最強コンビのバッテリー〜 ( No.93 )
- 日時: 2015/08/29 21:42
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「さて雄二、どうしようか。このままだと没収品は返して貰えないよ?」
茫然自失している雄二を目覚めさせるようにハッキリと伝える。そう、このままだと負けてしまう。負ければ没収品は返ってこないだろう。それが例え僕らの大事なものだろうと、誰かの大切な想い出の品だろうと。
「どうするもこうするも……きっちり守って、点数を取って勝つだけだ」
おいおい……肝心な作戦が出てないじゃないか。さては全く頭回ってないな?
「そう言うが雄二よ。次は4番の鉄人からじゃぞ?いくらなんでも、無策で挑んでは無事では済むとは思えん」
「…………おまけに二巡目。さっきと同じ方法では確実に点を取られる。これ以上向こうのミスは期待出来ない」
秀吉やムッツリーニも雄二の目を覚まさせるように強い口調で会話に加わる。この二人の言う通り、このままじゃ絶対に勝てない。横目で雄二のバカを見ると、回っていない頭を全力で回転させてなんとか次の回を乗り切る方法を模索していた。
……今までに見た事のないような真剣な顔で。
「…………」
全く……いつもの余裕綽々な態度はどこへ行ったのやら?見るからに必死に考えを模索する姿が見える。そんな雄二の様子を見ていた造とふと視線が合った。と、造はさっきまでのような冷やかな顔から一転していつもの陽気で可愛い笑顔で……
《(ふふっ♪アキさん、ゆーさんに手を貸して上げてくださいな)》
と、そんなことをアイコンタクトしてくる。うん、そだね。まあ造に言われるまでもないけど……手を貸してやろうじゃない雄二?そんな顔見せられたらさ!
「雄二」
「……何だ明久」
「ポジション、交代」
「「「「…………へ?」」」」
僕の台詞に対して、造以外の周囲の皆は『コイツ何言ってんだ?』的な顔をする。そんな中雄二はいち早く僕の意図に気がついたのか、真っすぐ僕の目を見返す。
「……いけるのか?」
問いかけと言うよりは、確認するような雄二の言葉。全く、コイツはわかってないなぁ。これはいけるかいけないかじゃないだろうに。そうこれは———
「———やるしかないじゃないか。この勝負、死んでも負けられなくなっちゃったんでしょう?」
「……そうだな」
僕がそう言うと、雄二は小さく笑みを浮かべて応えた。ふっ、いつもの憎たらしい顔がちょっとは戻ったのかな?そうそう、その憎ったらしいブサイク顔がいつもの雄二じゃないか。ウジウジナヨナヨな雄二なんてつまんないもんね。
「???どういうことじゃ明久よ。ピッチャーが雄二と言うのは良いのじゃが、その球を取れるキャッチャーがおらんではないか。まさか、姫路か造に任せるのかの?」
《おおっと、ヒデさん。申し訳ないですがこの回の科目英語ですよ?自分にどうしろと。間違いなくボールを受け捕るだけで一瞬で昇天しちゃいますよー》
「それに何を言ってるのさ秀吉。流石に急に瑞希にそんなキツイことやらせられないよ」
キャッチャーって意外と大変な仕事だからね。初心者である瑞希に任せるのは色々と酷だろう。造は……まあ、ここでは英語だからね……人には向き不向きがあるってことでここはひとつ。
- 120時間目 真相・驚愕・復活雄二〜最強コンビのバッテリー〜 ( No.94 )
- 日時: 2015/08/30 21:33
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「じゃが、そうなると雄二の球を捕れるのはおらんのではないか?」
「…………雄二並の点数保持者が無いなら、少なくとも相当の召喚獣の操作技術がいる」
「いるよ、一人。この状況でキャッチャーができるのが。忘れてもらっちゃ困るなぁ」
《ふふっ♪確かにいますね。相当の召喚獣の操作技術を持っている方。自分以上に召喚獣の操作技術を持っているお方が》
「「…………それって、まさか……!」」
まあ、簡単な話だね。捕り損なうと戦死しちゃうなら……全部完全に捕れればいいんだ。ダメージも一切無いように受けきれば良い、唯それだけの事。そしてその操作技術は————僕にはある。
「来い雄二。———僕が、お前の球を全部捕ってやる!」
「言ったな明久。その台詞、後悔するなよ。受け損なったらお前の召喚獣が消し飛ぶからな!」
四回表。2点ビバインド。さあ、こっからが本当の勝負だっ!
造Side
『プレイ!』
空気を読んで先生方も一旦中断していた試合も無事に再開されました。アキさんの作戦通りピッチャーはゆーさん。キャッチャーはアキさん。そして迎えるバッターは———最強の4番、西村先生です。
《ど真ん中 ストレートで行くぞ》
《了解》
ゆーさんの指示に、思わずくすりと笑ってしまいます。……やれやれ、ようやくゆーさんらしくなってきましたね。ゆーさんの召喚獣は投球モーションを取り、まずは力強く第一球を————
ズバンッ!
————と、乾いた音が鳴り響き、ゆーさんの放ったボールは見事にアキさんのミットに収まります。おそらくアキさんの表情から見るに、腕や肩には衝撃のフィードバックが伝わっているのでしょう。取り損なえば即終わり、お二人のギリギリの戦いが始まりを告げます。
≪Fクラス 坂本雄二 英語W 281点 ≫
&
≪Fクラス 吉井明久 英語W 93点 ≫
『ストライクッ!』
少し遅れての審判の先生のコール。流石の西村先生もゆーさんの球に反応できないようですね。さっきまであれほどアキさんの球を見た後で、急に速さの違うゆーさんの球を相手にしているんですし、いくら西村先生が凄くても即座に対応が出来ないようです。
「ナイスボール」
「当然だ」
ボールを戻しつつ、お二人はそんな会話をします。……良かった♪ゆーさんの表情も元に戻っていますね。これならば……
《ど真ん中 ストレート すぐ行くぞ》
と、ボールを受け取りながら、間髪いれずにゆーさんはアイコンタクト。アキさんの召喚獣は慌ててミットを構えます。ゆーさんはボールを受け取ると、普通はサインのやり取りに費やす筈の間を持たず、いきなり腕を振り上げてボールを投げ込みます。これはアキさんを信頼しての行動。その行動が吉と出たのか……
『ス……ストライクッ!』
二球目もど真ん中のストライク。本当に素晴らしいです、やっぱりこの二人息が合って———
《危ないじゃないか雄二っ!僕が捕りこぼしたらどうする気だよこのアホ!》
《はっ!ぬるいこと言うな。テメェの提案だろうが。俺の球全部捕るんだろバカ久》
————えっと、まあここでもある意味息ぴったりです。そして迎える第3球目。ゆーさんとアキさん。二人が二人、次にどうするのかわかっているのかとうとうアイコンタクトさえせずに……
「さて、先生方。手前勝手で悪いが……こっちも色々と事情が変わっちまったんだ」
ゆーさんの召喚獣が三球目を振りかぶった直後ストライクゾーンど真ん中、つまりはアキさんの召喚獣が構えたミットの中に、最高速度のストレートが突き刺さります。
『ストライク、バッターアウッ!』
これで三球三振です。まずはアウトカウント一つ頂きですね。
「———これ以上は、1点たりとも取らせねぇ」
ここからがアキさん&ゆーさんの、そして自分たちの本気の時間。はっきりと申し上げましょう。今のこの二人が打たれる姿なんて全く想像できませんよ。さぁて、随分時間がかかりましたが自分たちも全力で行きます、ですから覚悟してくださいね先生方。
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.95 )
- 日時: 2015/08/29 23:26
- 名前: ユウ (ID: JnUv6JO9)
雄二完全復活!!遅すぎるぜこの野郎!
そして、Fクラスのゴールデンバカコンビが先生達に牙を向く(野球の話だよ?)
さあ、いけ!!明久に雄二よ彼の物は聖典を、彼の物は大事な人の宝を取り戻すのだ!!
それから糖分さん!自分の感想と意見に丁重にお答えしてくださって真に有り難うございます!!
お詫びとしてはアレですが、もし造が自分の作品の異世界でこんな場面に合ったらどうするかといった小話を一つ、
《造達問題児、4000m上空から落下中》
造「うにゅうううううううううー!?」
皆さん、始めまして。
自分の名前は月野造と言います。
今朝、自分が通学路を歩いていますと自分の上空から何故か手紙が降ってきまして、何だろうと思って手紙を拾うとそこには『月野造様』と自分の名前が書いてあったのです。
不思議に思った自分は手紙の中身を開いて読もうとしました。
…その瞬間、何故か自分は地上4000mの所から自由落下していたんですよ。
えっ?なんで落ちてるかですか?・・・そんなのこっちが聞きたいですよ!!?
アベル(作者のオリキャラ)『うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!???』
飛鳥(原作のヒロイン)『わっ』
耀(原作のヒロイン)『きゃっ』
三毛猫(耀の飼い猫)うにゃあーーーー!!《ぎにゃあああああああ!!お、お嬢おおおおおおお!!》
エル(作者のオリキャラ)『一体何が起こっているのぉぉぉぉ!!?』
コルル(作者のオリ猫)フニャアーーー!!?《うぎゃあああ!!?お、落ちてるーーーー!!??》
十六夜(原作主人公。文章は3巻より抜粋)『ひゃははははははははははは!いやいや在りえねえッ!いくらなんでもコレはありえねえぞ”クソババアァ”!!』
どうやら僕自分の他にも落ちている方々がいるようです。しかし、このままでは皆さん墜落死してしまいます!ここは自分が…!
造『起動』
そう言って自分は右腕の腕輪、『白銀の腕輪』により召喚フィールドを形成しました。
造「そして『召喚獣召喚』
その言葉を口にした瞬間自分の周りにポンっと可愛らしい煙幕が発生し徐々に煙が消えていくとあら不思議、なんと次に現れたときの自分の体がちっちゃくなっちゃいました。これは『試験召喚獣』というのですが今は、説明する時間がありません!!それじゃあ、いきますよ!!
アベル「《エルウィn》『せーの…どっせい!!』…えっ?」
ブゥン!!『箒を強く振るう造』
ヒュゴ!ドゴーン!!(造の下にいたアベルは更に落下速度が増し(その速さ《マッハ1》)、そのまま水面に激突した)
自分が箒を下に向けて振るうと強い風が発生しその反動によって自分達にかかる重力を無くし無重力の状態が発生しました。そして自分の放った風により自分の上の方にいた彼らの落下スピードも落ちてきました。
?「ひゃはははは・・・ん?風の抵抗がなくなってきたような」
そして自分達はそのまま風に煽られ、なんとか陸地に足を着けることができました・・・ふう、た、助かりました。
そう言って冷や汗をかきながらふと視線を湖に向けますと、顔を水面に付けながら、その場でプカプカと浮かびながら身じろぎ一つ起こさない男性の姿がありました。
…ってあれ完全に意識失っているじゃないですか!直ぐに助けませんと!?
そして自分のせいで意識を失った少年をなんとか救い上げ、心臓マッサージを行うことによって何とか意識を取り戻させることに成功しました。
…生き返ってくれて、本当に良かったです。
…以上、さて簡潔にですがいかがでしたでしょうか、幾つかご都合主義はありましたが、気にしないでください。
さて、
ここでまたネタ提供になってしまいますが一つ、
今まではあんまり気にしてはいなかったのですが、造って学校から家に帰宅した後や、休日は何をしているのでしょうか?そういう訳で造と仲が良い見習いメイド視点による《月野家の華麗(?)なる1週間》といった話が作られたら嬉しいなと思いまして、そして、その見習いメイド枠には是非、2年前に没に成ってしまった《彼女》を…!?
…さて、感想だと言うのに色々と暴走してしまって申し訳ありません。でもそれだけ造達のことが大好きだということなのであしからz(ユウの後ろに聳え立つ(自称)保護者達)
…その後、ユウを見たものは誰も居なかった
ユウ《アアーン!!もっとです、もっと攻めてください、攻め方がぬるいんです!!ぬるぬるなんd》
…本当に、ユウを見たものは誰も居なかった
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.96 )
- 日時: 2015/08/30 00:17
- 名前: ユウ (ID: JnUv6JO9)
あっ、それから造君?アベルに関してはこれが彼の扱われようだから心配する必要はないからね?
逆にドンドンいじってやってくれ(黒笑)
それでは
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.97 )
- 日時: 2015/08/30 21:15
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
>ユウさん
感想と小話、ネタ提供までありがとうですユウさん。
遅めの起床で、ようやく目が覚めた雄二。合言葉はGet back ERO−BOOK!大事な人の大事な想い出死ぬ気で取り戻せバカ共!
造「反撃、開始ですねゆーさん」
明「雄二は死ぬ気で頑張らないとね」
雄「応よ。腑抜けてしまった分は、結果で示す。いくぞ造、明久」
小話までありがとうございます!問題児面白そうですよねー!いつかちゃんと読んでおきたい。
———と言うか、だ。…………造、やっちまったね。マッハ1で叩き落とすって……おいおい、アベル死んだわ。あーあー、下をちゃんと確認しないからー
造「〜〜〜〜〜〜〜っ!?〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
雄「お、落ち着け造。どんな身体してるのか知らんが、生きているらしいし平気だそうだ!」
明「雄二、ちょっと!?言葉にならない悲鳴あげて気絶してるよ造!?」
……やっべ、弄り過ぎた……サクヤさん達にぶちのめされる……
そ、そうそうサクヤさんで思い出した。実を言うと造の休日の話や執事さんメイドさんたちの話は、実は今後入れる予定でした。夏休みの祭り編で出てきた司会者さんとかを入れて書こうかなって。
番外編をしばらく挟みますが次の章は明久&瑞希&美波の同棲編(?)何ですが、サクヤさん蒼さんがとある理由で海外に行くことになります。そこでサクヤさんたちのいない月野家の日常や勿論明久たちの同棲生活をスポット当てて書こうかなって。
そこで良いなら造の幼馴染キャラ出せたらなって思ってます。あ、と言っても婚約者はまた別にいますし、一応小暮さん√書いている感じなので想像されている感じで書けないかもしれません。その辺はご了承ください。
婚約者はリンネ君と同じ留学生って設定にしようと思ってますけど、幼馴染どうしようかな……まだまだ先の話ですけどちょっと考えておきます。思いつかずに保留になったらすみません……
長々とすみません、では次の話更新しますね。それではまた来週の金曜日に。
- 121時間目 雄二復活作戦始動〜これが勝利の方程式〜 ( No.98 )
- 日時: 2015/08/30 21:18
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
四回表を見事に抑えたゆーさん&アキさん。どうやら完全にエンジンが入ったゆーさんは皆さんを集めて円陣を組みます。
「おっしゃテメエらッ!こっちの攻撃はあと二回!きっちり点数もぎ取って、俺らのお宝を取り返すぞ!いいなっ!」
「「「おうっ!」」」
「向こうにゃ点では負けてるが、運動能力じゃ俺らは決して負けてねぇ!若さってもんを見せてやれっ!」
「「「おうっ!」」」
「今の今まで色々不甲斐ねぇとこ見せちまったが、こっから先は俺も全力を出すっ!だから……お前らも協力してくれっ!没収された、“大事な物”を取り戻す為に!合言葉は——」
「「Get back ERO−BOOK!!!」」」
「反撃、行くぞお前ら!」
「「「っしゃあああああああああああ!!!!」」」
ゆーさんの鼓舞にも、否が応にも力が入ります。良かった……いつものゆーさんに戻りましたね。いいえ、これはそれ以上ですか。それにしても『没収された、“大事な物”を取り戻す為』と来ましたか。やれやれ困りましたね。そんなこと言われたら……自分も全力で応えるしかないじゃないですか。
「近藤、横溝、秀吉!作戦だ。いいか?どうせこのまま、まともに向こうとやりあったところで勝ち目はねぇ。例え偶然フォアボールやポテンヒットが出ても、そこから点に繋げるようなことはまず今の俺らじゃ無理だ」
この回の最初の打者である三人にゆーさんが作戦を指示します。確かにゆーさんの言ったように、守備では対抗出来ても攻撃に関してはまだまだ対応できそうにありません。ですから————
「だから、その後の“例の作戦”に全てを賭ける。その為にもお前らは、なんとか時間を稼いでくれ」
「うむ。了解じゃ」
「エロほ———参考書の為だ。時間稼ぎくらいいくらでもやってやるさ」
「その代わり、次の回はしくじんなよ坂本」
三人は首を縦に振り、快く作戦を承諾して下さりました。本来ここは折角活躍できるチャンスですが、時間稼ぎを引き受けてくれるあたり皆さんの結束の堅さが窺えますね。
『エロ本、エロ本、エロ本……』
『抱き枕、水着写真、シャワーカーテン……』
…………結束……ですよね?近藤くんと横溝くんがそうブツブツと呟いて気合いを入れます。いや、これも自由奔放なFクラスらしい結束という事なんでしょう。……多分ですが。
「……ワシ、別にそういう物の為に頑張っておるわけではないのじゃがのう。微妙に気が抜けるのう……」
《あはは……まあ、気合の入れ方や結束の仕方は人それぞれなので。ともかく……ヒデさん、頼みました》
「うむ、わかっておる。雄二と霧島があんなことになったのじゃ……負けられんからの」
ヒデさんとお互いの拳をコツンと当てて、自分たちは自分たちなりのやり方で気合を入れます。ヒデさん……頼みます。ご自身の為にもクラスの為にも———そして大事な仲間のゆーさん、霧島さんの為にも。
『プレイッ!』
バッターボックスに入るまでの時間を反則にならないギリギリまで引き延ばし、一番打者の近藤くんが召喚獣に構えを取れせます。バットを短く持ち、カットさせて時間を延ばすつもりみたいですね。そう……アレが来るまでは。
と、さっきまで慌ただしく皆さんに指示を飛ばしてきたゆーさんが、一息ついてベンチに座ります。前の回までのゆーさんとは別人の如く、活き活きとしている良い表情を見せてくれます。
《ゆーさんお疲れ様。タオルどうぞです。濡れたままじゃ風邪ひきますし。……それと改めて。ゴメンなさい、突然あんなことをして》
そんなゆーさんにタオルを渡しながら頭を下げることに。何せ、熱くなったゆーさんにバケツの水をかけると言う、とんでもないことをしちゃいましたからね……人の事言えないってこの事ですね。小暮さんと文さんから事情を聞いて居ても立っても居られなくなりあんなことを———ゆーさんだけじゃなくて自分もちょっと熱くなっていましたものね。
- 121時間目 雄二復活作戦始動〜これが勝利の方程式〜 ( No.99 )
- 日時: 2015/08/30 21:20
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「おお、すまんな使わせてもらうぞ。……それと、造は謝る必要なんかないさ。お陰で“目が覚めた”からな。寧ろ俺の方が正直本当に何て礼を言えば良いかわからん。助かったぞ造」
《いえいえ。それとその台詞はこの試合を勝ってから言ってください。っと言っても自分にではなくこの情報をくれた方に、ですが。さて……ゆーさん、勝ちましょうね》
「そうだな……絶対に勝たんとな……」
と、そう言いながら髪を拭きつつ、ゆーさんは目をギラギラ光らせます。その目だけで絶対に勝つという強い意思が伝わってきますね。
「まあ、こうなった以上は雄二は死んでも勝たなきゃいけないからね。それで雄二。肝心の仕込みはどう?上手くいってるの?」
「ふっ……おうよ、バッチリだ。クラスの連中にもきちんと指示は出してある」
「…………あとは、時機がくるのを待つだけか」
《その為にも……あの三人には頑張って頂かないと、ですね》
「ああ」
アキさんとこーさんも加わって、祈るように試合を見守ります。相手は召喚獣の扱いにも慣れた先生方。時間稼ぎすら許してくれないでしょうし……
『ストライッ!バッターアウト!』
『ぐ……!』
気が付けば近藤くんが粘りに粘ってくれましたが敢え無く三振。次のバッターである横溝くんもカウントをフルに使ってくれましたが打ち捕られてしまい、残るはヒデさんただ一人となってしまいました。
《くっ……まだ、来ませんね……》
「そろそろ、来てもいいと思うんだけど……」
「…………時間的には本当にもうすぐなハズ」
「そうだ……あと少しで始まる。それまではどうか頑張ってくれ秀吉……!」
『ファール!』
話している間も試合は続いていきます。ヒデさんはバットをコンパクトに振るよう召喚獣に指示し、必死で教師チームの豪速球に食らいついています。頑張ってヒデさん……!
『ファール!』
《……ヒデさん辛そうですね……》
「だな……くそっ。向こうもフォアボールくらい出してくれたらいいものを」
「相当慎重に投げてるよね。先生の性格かな」
ピッチャーは几帳面な英語W担当の山田先生ですからね。かなりコントロールがいい所を見ると、フォアボールは期待できません。おまけに打ったところで、ショートとセカンドは野球経験者且つ、運動神経の良い寺井先生と大島先生が守っているので抜けることはまずないでしょう。
『ファール!』
「まだか……まだか……」
「頼む秀吉……もう少しなんだ……!」
《頑張れヒデさん……頑張れ……!》
そろそろヒデさんの集中力も限界のハズ……見ているこっちにも背中に冷たい汗が流れます。きっとあと少し、あと少しなんです……どうかヒデさんそれまでは頑張ってっ!全員手に汗を握り、ベンチに乗り出してその瞬間を心から待っていると————
「…………来た」
「「《っ!》」」
不意にこーさんが呟き、全員は弾かれたように振り返って校舎に取り付けてあるスピーカーを見ます。
『——ジジ……ジ……!』
「来たかっ!」
ゆーさんが嬉しげに声を上げます。そして次の瞬間、
『——これより、中央グラウンドにて、借り物競争が始まります。出場選手の皆さんは、所定の場所に——』
「「「《来たああああああああああああああああああ!!!!》」」」
これです!これを待っていました!この放送にクラスの全員が声が重なりました。と、同時にヒデさんが打ち上げてアウトになりチェンジとなります。なりますが————
- 121時間目 雄二復活作戦始動〜これが勝利の方程式〜 ( No.100 )
- 日時: 2015/08/30 21:24
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「やれやれ……どうやらうまくいったようじゃの……」
「ああ!本当によくやってくれた秀吉!近藤!横溝!」
《ヒデさん!それに近藤くんに横溝くん、お疲れ様です!そしてぐっじょぶです!》
「まあ、これでワシも少しは役に立てたじゃろうか?」
《当ったり前ですよ!ヒデさん、本当にありがとうです!》
そう言ってヒデさんとハイタッチ。ええ、勿論ですとも!ヒデさんたちもこの試合のヒーローです!本当によくやってくれました!
「……お前ら、何をそんなに喜んでいるのかわからんが、とりあえずさっさと守備につけ。チェンジだろう?それともまた何か企んでいるのか?」
と、ここで訝しげに自分たちがはしゃいでいるのを横目で見つつ、西村先生が準備を促します。……先に謝ります。ごめんなさい西村先生。ちょっと卑怯な手かもしれませんが、今回は絶対に勝たなきゃいけないんです……
「わかってます。けど、ちょっと待って下さい」
「?何を待てと?」
「今にわかりますよ。そろそろ————来たっ!」
と、アキさんが嬉しそうに遠くを見つめます。その視線の先には……自分たちFクラスのクラスメイト3人が駆けてくる姿が見えます。
「なんだアイツらは。あんなに急いで……」
そんな姿を見て西村先生は疑問符を浮かべています。そんな中、クラスメイトの一人が野球場にいる次の科目の立会い予定の遠藤先生に大声で叫びます。
『遠藤先生!借り物競争です!すいませんが一緒に来てくださいっ!』
『えっ?でも私、今からここでリーディングの立ち会いを』
『いいから来て下さい!』
『で、でも私は———』
『なんと言おうとダメですよ!“今日は、野球よりも体育祭が優先される”んですから!』
『『『———っ!?』』』
先生方が目を見張ったのがよくわかります。そう、ルールで事前に決めてありました。“野球はあくまで交流が目的。優先されるのは体育祭の本種目”と。
『あ、えっと……すいませんっ。そういうわけで、ちょっと行っていますっ!』
『先生、急いで!』
『わ、わかりました。……その、ちなみにどんな内容の借り物競走ですか?』
『“月野造が大好きな先生”って内容ですよ。流石に試合に出ている高橋先生と船越先生や養護担当の日高先生は呼べないので、先生どうかお願いします!』
『!な、なるほど!それは私が行かなきゃいけませんね!さぁ、すぐに行きましょうね♪』
『(ふっ、ちょろいぜ……)』
立ち会いの遠藤先生が手を引かれて、グラウンドから去っていきます。
「それなら仕方がない。ベンチで待機している先生の科目で代わりを———」
『向井先生!来てください!』
『竹中先生、お願いします!』
ところがどっこい、残りのクラスメイトの二人が今度はベンチの二人の先生に声をかけます。これで立ち会いが行える先生がいらっしゃらなくなりましたね。
「……坂本。これは貴様の作戦か」
「さて。どうでしょうね?」
「とぼけるな。さっきからここに来ている生徒は全員Fクラスの人間だろうが」
「はは。偶然じゃないですか?何にしても———これで立ち会いの先生はいなくなったな、鉄人」
……まあ、勿論ですが偶然なんかではありません。ネタ晴らしすると非常に簡単。教師のオーダーが決まった時点で、ゆーさんはクラスメイトの皆さんに頼んで先生方を借り出して貰うよう連絡している、ただそれだけのこと。
「ならば仕方ない。さっきの回の立ち会いの先生にまた頼んで」
「おっと。それはルール違反だ。事前に決めただろう?『同じ科目は二度使わない』と」
「……ならばどうしろと言うんだ。立ち会いの教師は他にいない。試合に参加している教師は立ち会いができない。こっちのチームに八人でやれとでも言うのか?」
西村先生は自分たちを交互に睨みます。いや、ホントすみません先生。
「いやいや鉄じ———西村先生。まだ他に勝負できる科目があるでしょう?」
「何を言っている吉井。立ち会いの教師がいなければ……」
《あー……せんせ。野球の勝負が出来るものが一つありますよね?立ち会いの先生がいなくて、且つ召喚獣を使わない。それでいて“立派な授業科目”で“野球の”勝負が》
「……おい、まさか月野それは……」
そう、これこそゆーさんが召喚野球大会開催の時から考え出していた一つの解法。体育祭のプログラムとルールを使い自分たちに勝利をもたらす方程式。それは———
「五回の勝負は、体育の——実技で勝負といきましょう」
そう、実際に自分たちの身体を使う———つまり実技:体育の科目が残っています。これも立派な授業科目。西村先生はしてやられたと言う顔をしていますね。
「さあ全員、グローブをつけろ!五回の勝負はハードだぞ!」
「「「っしゃああああああああああああ!締まっていくぞ!」」
野球部から借りていたグローブを握りしめ、こうして迎える最終回。たった一回だけの教師と生徒による野球大会が幕を開けます。
- 121時間目 雄二復活作戦始動〜これが勝利の方程式〜 ( No.101 )
- 日時: 2015/08/30 21:30
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
最終回は、本当の野球の勝負。まあ、今の今までがあの妖怪ババァのわがままで、こっちが本来の体育祭のプログラムだったんだけどね。ピッチャーは再び僕、そしてキャッチャーは雄二に戻る。相手は二巡目の、7番バッターの長谷川先生の登場だ。
《外角 高め カーブ》
雄二に指示されたコース通りに投げる。まあ、ぶっちゃけて言うと草野球レベルのピッチングだけど———
ズバンッ!
「う……」
『ストライクっ!』
————悪いけど、運動不足な先生に打たれるほどへなちょこじゃないよ。その後も変化球や緩急つけたボールを駆使し、長谷川先生を追い詰める。
『ストライクっ!バッターアウトっ!』
これで一人目。次は氏家先生で、その次は山田先生か。———さっきまでは恐ろしい化け物のように見えたのに、今は何の恐怖も感じない。流石に鉄人や大島先生みたいな実技もリアルでヤバイ化け物共とはやり合いたくはないけど、それ以外の先生に打たれる気は全くしないね。その後も雄二の指示通り意地の悪い投球を繰り出して、そして……
『ストライクっ!バッターアウトっ!チェンジ!』
審判の攻守交替のコールが鳴り響く。よっし!難なく抑えられたっ!
「アキ!カッコ良かったわよ!ナイスピッチ!」
「明久君素敵です!三人もアウトにするなんて!」
「あはは、ありがと二人とも。まあ、鉄じ———西村先生とか大島先生じゃ無かったからね。何とか抑えられたよ」
自陣に戻りつつ、僕に駆け寄って褒めてくれた美波と瑞希に話をする。いや、何度も言うけどホントにあの二人が相手じゃなくて良かった……恐らくだけど、召喚獣での戦い以上に脅威となってしまうだろう。
「…………本来はあの二人にも借り物競走で排除したかったが」
「あはは……人の良い遠藤先生たちならともかく、用心深い西村せんせや大島先生はきっと『怪しい、書かれた紙を見せろ』って言ってくるでしょうからね」
「そうじゃの。そうでなくともワシらは基本、あの二人に目を付けられておるしの」
と、召喚獣から元に戻った造と秀吉たちが話に加わる。……確かに造たちの言う通りだ。鉄人たちを排除することは無理だってことくらいは僕もわかる。下手に疑われたらこの作戦はお釈迦になっちゃうし、最低限の危険性は受け入れざる負えない。
そんな話をしながら、全員がベンチに戻ってくるのを待つ。そしてメンバー全員が集まった所で、雄二は僕らの顔を見回しながら話を始めた。
「さて……これで残すところ俺たちの攻撃だけとなった」
現在の状況は変わらず0対2で、雄二の言う通り今は最終回。そう、僕らに残されたたった一回の攻撃チャンスだ。
「同点じゃダメだ。追いつくだけじゃ意味は無い。ここで逆転出来なきゃ、俺らは負ける。延長戦に入れば俺らに勝ち目はねぇ」
そう……もし延長戦にでもなれば、借り物競走に連れ出された先生たちが戻ってくるだろう。そうなればまたもやテストを使った勝負に戻り、僕らが勝つ可能性は万に一つもないだろう。
「この一回が、俺たちの正念場だ!何がなんでも3点もぎ取れ!いいかっ!絶対勝つぞ!」
「「「おうっ!」」」
気合いも十分、勝つ為の糸口も見えた。後は前に進むだけだっ!そう意気込んでいると……
「それじゃ、ウチは土屋に交代してもらおうかな」
「え?」
こちらのトップバッターを務めるはずの美波が、突然そんなことを言い出した。あれ?何で……?
「どしたの美波?自信がないの?」
「そりゃまぁ、ね。いくらなんでも、ウチだって男子と同じレベルで野球なんてできないもの。体力もそうだけど、経験でも敵わないし」
「あ、そっか……確かに女の子だと、あんまり野球ってやらないもんね」
僕たちFクラス男子一同は休み時間とか、その他にも余り褒められることじゃないけどたまにつまんない授業を抜け出してまで野球をやっているわけだし、野球に触れている時間の差があるのは仕方ないだろう。
「そ。だから、土屋と交代。きっとウチよりうまくやってくれるだろうし、それに———」
「それに、どしたの美波?」
「———こういう時ってさ、男の子が頑張るからカッコ良いんじゃない」
……そう言って、美波は楽しそうに笑った。……ヤバイ、ちょっと(いや、本当は物凄く)ドキッとしてしまう。こういう時の美波はすっごく可愛い顔をする。いつもは『ウチに女の子らしいのは似合わない』ってよく言うけど、本当は誰よりも女の子らしいってことを僕は知っている。ふと、美波の笑顔を見て、そんなことを思った。
「…………行ってくる」
と、そんなことを考えている間に、美波と交代したムッツリーニがバットを担いで打席に向かう。そして審判に交代の意思を告げて、バッターボックスへ。
『プレイ!』
審判が五回裏の開始を宣言する。さあ行くぞっ!……泣いても笑っても、これが正真正銘最後のチャンス!絶対勝利を掴んで見せるっ!
『あ、そうだ造ちゃん。大丈夫なの?』
『つ、造“ちゃん”付けは止めてくださいね?で、一体何が大丈夫って意味です?君島くん』
『いや、確か造ちゃんって6番バッターだよね?島田もムッツリーニと変わったし、何なら俺も代わろうか?造ちゃんは野球を俺らより経験ないだろうしって思ってね』
『(ちゃん付けは止めてくれないんですね……)ああ、なるほどその件ですか。……うーん、多分ですけど大丈夫だと思いますよ』
『え?ホント?まあ、造ちゃんが大丈夫って言うならそれでいいけど……』
『ええ、まかせてください。何せ昔から自分、野球では———“秘密兵器”って言われてましたし』
『…………秘密兵器?』
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.102 )
- 日時: 2015/08/30 22:09
- 名前: ユウ (ID: JnUv6JO9)
造…その秘密兵器というのはしんちょ…いや、何も言うまい、何も…言ったら造がかわいそう過ぎる。
そして、輝く変化球とプロ並みの速球で先生たちから奪三振を奪う明久!!
彼のプロ野球への道はまだまだ続く!!←嘘です
とはいえ、やっぱり明久の運動能力の高さは素直に賞賛に値できますね!!
…オツムは馬鹿だけど
後それから、造?
小話で出てきたアベルの容態だけど、確かにマッハ1で地面に直撃すれば即死だっただろうけど、落ちた場所が湖だった事と彼のとある事情によってなんとか命は無事で済みましたよ。
アベル「代わりに顔から着水したから、顔全体が凄く痛かったけどね」
水面の表面張力って案外強いらしいからね。
エル「所で、造は小さくて可愛いな〜。ほら、頭ナデナデしてあげるからこっちにおいで」
造「あの〜エルさん?身長のことは置いておきますけど、頭ナデナデは恥ずかしいので自分は」
エル「来てくれたら、エル特製の『絶品!くるみのアーモンドクリームパイ』を1ホールあげるよ」
造「今行きます!!」
耀「私もエルのお菓子食べたい!」
…うん、エルはサクヤさんと蒼さんにも負けないくらいの超一流の料理人だからね、ウチの食いしん坊娘だけじゃなく造が食いつくのも仕方がないといえば仕方ない。
…しゃーない、せっかくやし、エル特製のこのデザートレシピを姫路さんと美波に手渡して、明久達に振舞ってもらうとしますか(天国と地獄)
それと気になることがあるのですが、前に自分が設定した婚約者についてなのですが、幼馴染と婚約者の二人に分かれたと判断して宜しかったでしょうか。
…そう言えば自分って、二年ほど前に婚約者さんと蒼さん以外にも何かオリキャラをほざいていたような…気のせいですね♪
それではまた来週の金曜日も楽しみにしています!!
追記
実は件の『問題児シリーズ』なのですが、全12巻(番外編込み)で第1部が完結しており、今は第2部の『ラストエンブリオ』(現在1巻発売中)という作品になっています。
第1部と第2部で主要キャラもそうですが、キャラクターを描く絵師様も変更されていますので、それを確認するのもとても楽しいですよ?
それでは、本当に失礼をば。
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.103 )
- 日時: 2015/09/04 21:25
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
>ユウさん
感想ありがとうございますですユウさん。あと返信遅れてごめんなさい。
造の言う秘密兵器……ま、まあ本人もわかって言っているので大丈夫です。
造「糖分も学生時代そう呼ばれてましたよねーチビーズとも言われてましたっけ?」
うっさいわ!?何で他の人には優しいのに糖分にはそう古傷抉るのかな造は!?
瑞「明久君カッコよかったです!」
美「うんうん♪先生たち手も足も出なかったわよね!凄いわアキ!」
明「まあ、草野球レベル何だけどね。鉄人や大島先生じゃなくて良かったよ」
雄「運動能力はそこそこあるからな。その分頭の方は……」
明「黙れ雄二」
と言うか水面にマッハ1で叩き落とされてミンチにならない……だと……!?
造「いや、ホントごめんなさい……と言うか、冷静に考えたら腕輪使えるなら金の腕輪使って【飛翔】すればよかったんですよね……」
まあ、あれも3人くらいしか乗せられないししゃーない。問題児シリーズは早くお金入ったら読みたいです。古本屋にでも行ってみようかな……それはそうと良かったね皆!お菓子のレシピを貰えたよ!姫路さんの手作り貰えるよ!
造・明「「そこでどうして瑞希(姫路さん)に渡すのですか(かなぁ)!?」」
それからオリキャラ関連の話ですが———
まず先に予防線張らせてください。オリ主使っている自分が言うのも何ですが、基本的に原作のバカテスキャラを中心に話を回したいのであまりオリキャラを話に持っていけない事をご了承ください。まだ久保くんやら玉野さんやらリンネ君やら髙城やら書きたいキャラが一杯ですからね。
で、話を戻しますがユウさんの仰る通り一応婚約者さんと幼馴染に分けて考えています。展開上婚約者さんは海外にいる設定で考えてましたので月野家に住んでいる人を出すなら分けて考えないとって思いまして。ただネタ提供いただいたメイド予定の幼馴染は……こっちはまだ絶対に出せるかはわかりません。
話しの都合上、多分ですが婚約者さんはほぼ確定で出すとして……あとは清涼祭で話題になった造の召喚獣化の一つの理由の造の親友も多分登場させます。ですがあまりオリキャラ出すと混乱しちゃう可能性もあるので幼馴染のメイドさんは何度も言いますが絶対に出せるかわかりません。もしダメそうだったらすみません……
頂いたネタ全ては消化できないことをお許しください、それでも良ければ今後ともよろしくお願いします。では、長々と申し訳ございません。そろそろ次の話を更新させていただきますね。
- 122時間目 なりふり構っていられない〜秘密兵器と真の主役〜 ( No.104 )
- 日時: 2015/09/04 21:10
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
最終回裏、得点は0対2で僕らが負けている。何がなんでもこの回に3点を取らなきゃならないこの状況で、トップバッターは美波と交代したムッツリーニ。そして対するピッチャーは、我らが体育教師の大島先生だ。ある意味保健体育の師弟関係な二人だけあって、二人ともえらく燃えている気がするのは気のせいじゃないだろう。
「にしても鉄人はキャッチャーか……向こうはクロスプレーを警戒してやがるな」
「まぁ、散々お主らは仕返しがどうのって騒いでおったしの」
「うーん……西村せんせは鍛えてありますし。本塁での勝負じゃ勝機は無いですかね……」
「だろうね。鉄人相手じゃ僕らがいくら体当たりしたところで弾き返されるのがオチだろし」
と、皆でそう言っていると、大島先生が一球目を振りかぶって景気よくその腕を振り下す。ボールはそのままうなりを上げキャッチャーである鉄人目がけて飛び出した。
「…………っ!(ブンッ!)」
『ストライクっ!』
ムッツリーニがボール一個分下で、バットを空振りする。むむむ……ボールの下で振ると言うことは、相手のボールが想像よりも速かったということだろう。流石は大島先生だ。鉄人並みに厄介な相手だとは思っていたけど、やっぱり伊達に体育教師をやっていないってことか。
「…………(スッ)」
ムッツリーニがバットを構え直す。大島先生は鉄人とサインのやり取りをすると、二球目を振りかぶった。さっきのストレートと大差ない速度で迫るボールが、バッターの手前で突然に横方向に変化する———ってちょっと待って!?これスライダーじゃないか!?こんなの使うなんて大人げないぞ!
「…………っ!(ブンッ!)」
『ストライクっ!』
ムッツリーニが二球目も空振りに。ツーストライクか……ヤバい、これで後がなくなった。
「ナイスピッチ、大島先生」
「いえいえ。———土屋、どうした。かかってこい」
と、鉄人がボールを戻し、大島先生が受け取りムッツリーニにそう挑発する。その間もムッツリーニは大島先生の手元をしっかりと見て、三度バットを構えた。大島先生が三球目を投げる。今度は……
「ちょ!?ちょっと!?今度はカーブ!?」
「どんだけ気合い入ってんだ……!?」
「しかも……速いっ!?こーさん……!?」
『ボールッ』
ここで審判がボールを宣告。び、ビックリした……鉄人のミットの位置を見る限りでは、今のでストライクを取ろうとしていたみたいだけど。変化球を投げられる代わりにどうやら大島先生はそこまでコントロールは良くないようだ。
「むぅ……冷や冷やするのう。こんなものを本当に打てるのかの……?」
「でも……こーさんなら。こーさんならきっと……!」
造たちの心配をよそに、大島先生は振りかぶって四球目。今度は直球を内角に。これは……打てないか……っ!
「…………いけ……っ!」
と、ここでムッツリーニが動きを見せる。高橋先生の召喚獣が一回で見せたものと同じ行動。そう———プッシュバンドだ。ピッチャーの横を抜けて、サード前に転がるボール。サードを務めているのは長谷川先生。ちなみにあの先生に運動神経が良いと言う話は聞いたことがない。従って……
「っと、ととっ」
転がって来たボールを慌てて捕球し、ファーストに山なりに投げる長谷川先生。だけど、その程度のスピードじゃ、我らFクラスが誇る最速のムッツリ忍者、ムッツリーニの速さには到底敵うはずもなく。
『セーフ!』
「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
流石ムッツリーニ。きっちり塁に出てくれた。ノーアウト一塁で迎えるバッターは、
- 122時間目 なりふり構っていられない〜秘密兵器と真の主役〜 ( No.105 )
- 日時: 2015/09/04 21:16
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「俺も土屋に続くぜ!」
と、意気揚々とバットを抱えて打席に入るのは異端審問会を率いる若きカリスマ:須川君だ。そのいつもの有り余る勢いの良さをここでも発揮して貰いたいね。
「あ、須川くんの次は自分ですし、ネクストバッターボックスに行っておきますね」
そう言って須川くんに続き、造もよいしょっと立ち上がって準備をする。……あれ?ところで今更だけど造って———
「ねえ造?こう言っちゃ悪いけど、造って野球得意なの?もし無理そうならピンチヒッターってことで君島君と変わってもいいんじゃない?」
「む?そう言えば造が野球が得意であると言う話はあまり聞かんのう。実際どうなのじゃ?」
「まあ、確かに造が野球やってる姿なんざ俺も見た事ねえな。行けるか?」
ちょっと気になって造に尋ねる事に。どうやら雄二と秀吉も同じように気になったようでこの二人もそんな風に造に尋ねる。と、造はニッと笑うと———
「ふふふっ、安心してください。絶対に塁に出て見せますよ」
「え?ってことは、造って野球上手なんだ?」
「さてどうでしょうね……まあ、ですが昔から———秘密兵器って呼ばれていますので」
「「「ひ、秘密兵器……!?」」」
な、何だこの絶対的な自信は……?秘密兵器……だと……!?『まあ、見ててください』と言い残して造はそのまま向かって行ったけど……
「「「…………うーん?」」」
秘密兵器と呼ばれるほど、造って野球上手いなんて初耳だ。だ、大丈夫なのかな?3人で首を傾げていると、須川君が三振で倒れてしまう。さっそくその自称秘密兵器の造の番となったけど……
『……ふむ、月野か。ひょっとしたらお前も坂本みたく何か策があるのか?』
『さて?どうでしょうかね。まあ———絶対に塁に出る自信はありますので』
『ほう?それはまた大した自信だな。ならばやってみろ……いくぞ月野っ!』
と、鉄人と造の会話が聞こえてくる。ついでに————
《おー♪ ツクル 出てきたー! ファイト! ふぁいと!》
『月野君頑張ってくださいな〜♪勝ってくれないと私泣いちゃいますよ〜♪』
————いつの間にか来ていた、文ちゃんとあの着物先輩の力強い応援も聞こえてくる。凄いね、造が活躍しそうなところで必ずあっちの二人がいるんだもん。それはまあ置いておくとして。そんな注目の第一球。鉄人と大島先生は、そして造はどう出る……?
『ボールッ!』
大島先生が投げた球は、さっきと同じ速さの鋭いストレート。対する造は、“秘密兵器”がどうのこうの言ってた割にまだ何も動きを見せないようで動かずにじっとしている。これには鉄人も首を少し傾げつつ、大島先生にサインを送る。続く第二球は……
『ボールッ!』
これも良いコースのスピードあるストレートだけど……さっきと同じく造は動きを見せない。……うーん?これも打たないの?ひょっとして何か狙い球でもあるのだろうか。
- 122時間目 なりふり構っていられない〜秘密兵器と真の主役〜 ( No.106 )
- 日時: 2015/09/04 21:20
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
……あれ?それにしてもちょっと不思議だ。一応綺麗に入っていると思うし、さっきムッツリーニや須川君に対してストライクを入れたコースと同じだと思うのに、何でさっきから“ボール”ばかり何だろ—————ってまさか!?
ふとした考えが頭をよぎる。その間にも大島先生が第三球を投げてくる。今度はカーブのようだけど、
『ボールッ!』
やっぱり造はバットは振らずに、しかし投げられる前に微妙に体を動かして“ボール”を誘っている。そしてやっぱり大島先生の投げた球は“造の狙い通りボール”になった。そっ、そうか……造が言った秘密兵器ってコレの事なのか!?
『くっ……全く入らんとは。流石にこれは狙い難いな……』
『月野、お前……ひょっとすると最初からフォアボール狙いか?』
『えへへ♪バレちゃいました?その通り、自分の身長だとストライクゾーンはかなり小さいでしょう?物凄く狙い難いですし。振らなきゃ三振は無いでしょうから“必ず塁に出れます”ものね』
……な、何て子だ……自分の身長の低さを逆に利用するなんて……!?てか、自分でその事言って、哀しくないのかな……?普段あれだけ小さいって言われるの嫌がっているのに……
《んー? ツクル どうしたの かなー? 打たない のー?》
『……そう来ましたか。坂本君に花を持たせるってことですね……本当にお優しい人ですね』
《んー? ナンカ 言った? アオイ?》
『……ふふっ、いえいえ何も。ただ、ますます誰かさんに惚れちゃいそうってだけですよ』
《??? よく わかん なーい》
『……いいのか月野?どこかの応援しているヤツらに良いところを見せてやりたいと思わんのか?』
『あはは……まあ、自分にだってプライドとか男の意地ってものがありますし応援を頂いている以上、いつもなら頑張って期待に応えたい所ではあるんですが……』
と、造と鉄人が話している間にも、大島先生が振りかぶって第四球を投げる。それでもその球は————
『ボールッ!フォアボールっ!』
————やっぱりボールカウントを取られて、造は見事にフォアボール。
『……大事な友人の為ですもの。プライド?男の意地?そんなもの二の次三の次。なりふり構っていられません。すみません西村せんせ、大島先生。今回は勝たせて貰います』
そう言って鉄人たちに笑顔を残して、造は一塁に進んだ。あ、あはは……造らしいね。まさか自分のコンプレックスを武器にするなんてさ。しかもそれは自分の勝利の為じゃなくて、友人の為にってところがいかにも造らしい。
…………うん。僕も出来る事をやんなきゃね。あのようやくエンジンがかかったバカの為にも……造の次の打順が僕と言う事で、バットを持って準備をする。
「いいところで回って来たじゃない、アキ。ここで打てばヒーローよ!さっきのピッチングみたいに決めちゃってよ♪」
「あの、頑張ってくださいね明久君!私たち応援していますからっ!」
と、女性陣二人が気合いの入る応援をしてくれる。まあ、本音を言えば僕だって、さっきの汚名返上といきたい所なんだけど……
「ありがとう二人とも。期待に応えられるかどうかわからないけど、僕なりに頑張るよ」
とりあえずそう応え、僕はバッターボックスに向かう。
「吉井か。面白い場面で出てきたな」
打席に入ると、キャッチャーである鉄人が僕にそう話しかけてくる。確かに鉄人の言う通り、面白い場面だと僕も思う。
「そうですね。ここで難しいでしょうがホームランでも出たら逆転サヨナラ。最高にカッコイイヒーローですよね」
「そうだな。女子の応援もあるんだ。お前はここで打ちたいだろうが———こっちも教師としてのプライドがある。そう簡単には譲ってやれんな」
「はは!譲ってもらえるなんて最初から思ってませんよ」
鉄人に答えてバットを構える。大島先生がセットポジションを取り、投球モーションに入る。その一瞬の後、先生の投げたボールは鉄人のミットに収まっていた。
『ボールッ!』
一球目はボール。しょっぱなからストライクじゃない所を見ると、少しは警戒して貰ってるんだろうか?もしくはいきなり造から僕に代わって、ストライクゾーンを見誤ったのかもしれないね。
「一球目から振ってくると思ったんだがな」
「ひょっとして女子の前で格好つけると思ったんですか?」
「まあ、そんなところだ」
「はは、それは残念でしたね」
- 122時間目 なりふり構っていられない〜秘密兵器と真の主役〜 ( No.107 )
- 日時: 2015/09/04 21:45
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
鉄人が大島先生にボールを戻す。僕は足元を軽く均し再び構えることに。大島先生が二塁のムッツリーニの動きを確認し、再びボールを投げる。今度は速球、ストライクゾーン低めだ。
『ストライクっ!』
これも黙ってボールを見逃す。横目でちらりと見ると鉄人はそんな僕を見て、違和感があるって顔をしている。多分僕が何か企んでいるように見えたんだろう。そんな鉄人のサインを確認し、三球目を構える大島先生。
『ボールッ!』
その三球目も、僕はバットを振らない。先生たちも警戒してかまたもやストライクゾーンの外だ。
「どうした吉井、打たんのか?」
「はい。えっと……色々と、作戦とかあるんですよ。色々ね」
更に警戒してくれるようにと、軽口を叩いてみる。僕の言葉を鉄人がどう受け取ったかわからないけど、静かにミットを動かす気配が伝わってくるのがわかる。
『ボール』
そしてまたしてもボール。カウントはこれで1ストライク、3ボール。向こうは勝負するしかなくなった。
「…………む」
鉄人が五球目の為にミットを構える。と、そこにストライクゾーンど真ん中且つ、さっきよりもコントロールを意識してか、球威もそれほど感じない絶好球が飛んでくる。これなら……多分二回に一回はヒットに出来るとは思う。思うけど———
『ストライクっ!』
———けど、それは二回に一回は打ち損じてしまうってことだ。それじゃ、ダメなんだ。今回は何がなんでも僕の後の……あのバカに繋げないといけないし。
「いいのか吉井。折角の活躍の場だぞ?」
「いやいや。僕だって、出来る事ならここでヒーローにでもなりたいですよ?まあ、作戦あるので楽しみにしててください」
鉄人は今の球を見逃した事を不思議に思ってか、また僕に話しかけてきた。僕がヒットを狙っているように見えなかったんだろう。まぁ今の球を見逃したんだから当然といえば当然だけど。
更に混乱させるべくそんな意味あり気なことを口にしながら、バットを短く持って構える。と、間を擱いて六球目が飛んできた。これはさっきと同じコントロール重視且つ、ストライクゾーンの中だ。いくらなんでもこれは見逃せないっ!
カキンッと僕がバットを振ると、ボールは一塁線の脇へと転がる。
『ファール!』
今のカウントは2ストライク、3ボールでいわゆるフルカウントってヤツだね。
「……つまりお前も月野と同じくフォアボール狙いか。吉井にしては随分と消極的だな」
「あ、いえ。そういうわけじゃ———」
「誤魔化すな。そんなスイングを見せられたらバカでもわかる」
「デスヨネー」
はいはいそりゃ悪かったね。そう、鉄人の言う通り、僕の狙いは造と同じくフォアボール。後一球のボール球が来るまで、ファールで凌ぎ切るっ!
「お前も月野も、折角のチャンスだというのになんて勿体ない真似をしているんだ」
「ははっ!まあ造はともかく、確かに僕だってそう思うんですけ———ど!」
カキンッ
『ファール!』
七球目もファール。そろそろ大島先生も焦れてくるかな?
「まあ、ちょっと今までの借りを返すついでなんですよ」
「???借りだと?」
カキンッ
『ファール!』
「ええ、借りです……まあ、何と言うか僕だったらすごく悔しいと思うんです。先生だってそう思いません?大事な物のかかった試合なのに自分が何にも出来ずに終わるっていうのは。多分造も同じ気持ちだと思います」
「?おい、何を言っているんだ?」
カキンッ
『ファール!』
「自分の譲れないものを、他人任せにすることのやるせなさというか、憤りというか、納得のいかない感じとか……少なくとも僕だったらすごく悔しいんです」
「……お前が何を言おうとしてるのか、いまいち理解できん」
打球はまたもや逸れて、草むらの中に。バットを構えてまた次に備える。
「あはは……そう言う話は僕じゃ上手く言えないんで、造にでも終わったら聞いて下さい。けどまあ、要するに———」
「要するに何だというんだ?」
「———今日の本当の主役は僕らじゃないってことです」
『ボール!フォアボール!』
ついに大島先生の集中力が切れ、コントロールが乱れたようだ。これで僕は一塁に向かう事が出来るね。
「それより先生こそいいんですか?」
「なにがだ?」
「勝負に徹するなら僕と雄二を敬遠して瑞希を狙うべきだと思うんですけど?」
まあ、押し出しにはなるけど僕らより野球に慣れていない瑞希を狙う方がよっぽど効率的だと思う。上手く行けばダブルプレーで終っちゃうだろうし。でも、僕と真っ向勝負を挑んできたところから見ると、それはどうやら無いみたいだ。
と、僕がそう尋ねると、鉄人は一瞬間を開けて———そして豪快に笑った。
「バカを言うな吉井よ。いいか?」
鉄人は僕に指を突き付けて、ハッキリと告げる。
「俺たち教師は、お前たち生徒の模範を示すべき存在だ。それなのに、向かってくる生徒を正面から受け止めずに、何を教えられると言うんだ?」
…………そう言われてちょっと言葉を失う。いつもだったら暴力ばかりする憎い教師だって思えるけど、今ならよく造が『あの先生は……本当に尊敬できる方です♪自分の恩人で、最も尊敬すべき先生だと思っています』って言ってた理由がほんの少し、ほんの少しだけわかるような、そんな気がした。
とりあえずそのまま話を打ちきって、次のバッターである雄二のところに向かう僕。雄二はそんな僕と、先に塁に出ている造とムッツリーニを見回す。
「さて雄二。これでこの前の肝試しの借りは返したよ」
「ほざけ。今まで積み重ねてきたお前の借りがあれだけだと思うなよ」
「へいへい。ま、それだけ憎まれ口言えるなら平気か———それじゃ、後は任せた」
「わかっている。必ず打つ」
力強い雄二の言葉に頷いて僕は一塁に、雄二はバッターボックスへ向かう。さて、2点を追う今の状況はと言うと……1アウト、満塁で長打を打てたら逆転サヨナラ勝利。そして、ここで決められなければ仮に同点であっても延長戦になれば、また振り出しに戻る。何てわかりやすくて、何てお誂え向きな状況何だろうか。
僕も造もムッツリーニもお膳立てはしてやったんだ。さて雄二、言うまでもないだろうけど今日の主役は誰かわかっているよね?わかっているなら……さっさと霧島さんのヒーローになってこいやっ!
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.108 )
- 日時: 2015/09/05 11:11
- 名前: ユウ (ID: JnUv6JO9)
お膳立ちは明久や造達がしてくれた。後は雄二!お前が決めるだけだ!!
愛する霧島さんの為にかっこよくヒーローになって来い!!
後それから造?身長を利用した戦術はとても立派だったよ。
さすがは見た目は子供、頭脳は大人な高校生だね♪
そして、オリキャラに関してもご配慮いただき誠にありがとうございます。
そもそもは勝手に自分がオリキャラを出して欲しいと無理を言ってのこと。
自分のせいで糖分さんの作品を壊したくもないし、できる限りは要望を聞き入れてもらってますので、これ以上は罰が当たると思うのです。
今まで至らぬ自分の要望に答えてくださって、本当に感謝感激です。
お礼に姫路さんから貰ったレシピで作る、ゲテモノメーカーアベルの破壊兵器(という名のカレーライス『ただし具財は蝙蝠の翼、蛙の目玉、バッタの姿焼き、臭みが強烈な熊肉、カレールーには姫路さん特製レシピを使用』)
を造の家に郵送しておくね♪
アベル「味は食べてないから分からないけど、多分おいしく出来たと思うから、友好の証に食べてもらえると嬉しいな」
アベル除く問題児達『『『『悪魔だ。無自覚な悪魔が居る。』』』』
それでは、これにて失礼します!
- Re: バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 ( No.109 )
- 日時: 2015/09/05 21:07
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
>ユウさん
いつも感想ありがとうございます。
ここが雄二の正念場。大事な思い出守るため、死ぬ気で打てよ雄二!
雄「今回は不甲斐ないところばっかだったからな……絶対打つ」
明「ここで決めなきゃ霧島さんが許しても僕らが許さんからね」
造「というわけでゆーさん、ファイトです!」
オリキャラや各種設定、それからネタ提供本当に助かっています。自分が力不足で上手く消化できないことも多々あると思いますし、想像されている感じと大分イメージが変わってしまう恐れもありますが、もし良かったらこれからもいろいろとアドバイスなど頂けると嬉しいです!
身長を活かしたプレー。自分も学生時代は打席に立てば必ず塁に出ることのできました。皆の期待を背負って100%塁に出られる最強のバッターでしたよ!
造「……その戦術を使った自分が言うのも何ですが、プライドは無いのですか糖分」
……塁出たら褒められたし、いいもん。見た目は子供、頭脳は大人な高校生。某名探偵ですね!まあ造の場合見た目は小学生!中身は……おと、な……?その名は———
造「糖分摂取魔ですね」
…………ほほぅ?いい根性してるね造ちゃんは。そんな造にアベルの破壊兵器———もとい、プレゼントをあげよう。さあ食え、今すぐ食え。
造「…………これ、たべなきゃ、駄目ですか?」
- 123時間目 決勝・決着・結末は?〜お帰り我らの聖典よ〜 ( No.110 )
- 日時: 2015/09/05 22:00
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
召喚野球大会決勝もいよいよ大詰め。2点を追う自分たちの最後の攻撃で、迎えるバッターは……まるで差し合わせたかのようにゆーさんが立ちます。ここで長打を打って3点をもぎ取れば自分たちの勝ち。勿論このまま点が取れない・1点しか取れないなら教師チームの勝ち。例え同点で延長にでもなったらさっきの先生方が戻ってきて再び召喚野球での勝負となり、ほぼ間違いなく教師チームの勝ちが確定します。
そんな状況の中、保健体育の教師である大島先生が一・二・三塁にいる自分たちを見渡して、ゆっくりと投球準備を始めるます。そして緊張の第一球目が大島先生の手から離れました。
『———ト———ライッ!』
ストライクの宣告が高らかに響きます。な、なんて速い……っ!自分のところから見ても、かなりの球速なのが分かります。さっきのアキさんはフルカウントという助けがあったのでもう少しボールが見えたと思いますが、そのハンデのない今の大島先生の球はかなりのものです。なるほど、あのこーさんが咄嗟にバントに移行したのも頷けますね。
西村先生が返球し、大島先生がそれを受け取ります。それからそれぞれサインのやり取りをして、再び投球に入り……
『ボールッ』
今度は低めに外れたボールです。ゆーさんは手を出すことなく見送って、カウントは1−1となります。頑張れゆーさん……貴方はこの試合でやらなきゃならない事がありますでしょう?応えなきゃいけないのでしょう?だったらそろそろカッコよく決めてくださいよ……っ!貴方を想う、貴方が想う大事な人の為にも……!
そんなことを考えている自分も含め、この場にいる全員が固唾を呑んで見守る中、大島先生が右手をシャツに当て手の汗を拭い三球目に移行します。
「……っ!」
と、ここでゆーさんは後ろ足に体重を乗せ一気に爆発させられうように溜めを作り———
「来るか坂本……勝負っ!」
それに応えるかの如く、大島先生は大きく身体を乗り出して腕を振り抜き———
「ったい……打つ……絶対、打つっ!」
その大島先生から放たれた唸りを上げて迫る速球は、軸足に体重を移し身体全体でバットを振るゆーさんが完全に捉え———
———キィンッ!
快音がグラウンドに響き渡りました。
「「「————ッ!!」」」
その瞬間、こーさん、自分、アキさんの三人で全力で次の塁を目指して疾駆します!打球の行方は———よしっ!センター前っ!深く守っていたセンターが、バウンドするボールを追って前に出ます。三塁線上にいたこーさんがホームに帰りまずは一点。自分も後を追うように三塁を蹴ってホームに急ぎます。アキさんも全力で二塁を蹴って三塁に!
と、後ろの方で『大島先生っ!』と若い先生の声が聞こえます。どうやらボールを拾った寺井先生が、中継に入った大島先生にボールを託したみたいです。ですが———その間に自分はホームベースを踏み、2対2の同点となりました!
ホームベースを走り抜けたと同時に、急いで振り返りどんな状況か確認します。ボールは大島先生が受け取って、今まさにホームベースを守る西村先生の元に投げようとしたところで、アキさんが三塁に辿り着きます。
『吉井!止まれっ!』
三塁のコーチャーが、アキさんにそう指示してきます。確かに……それはもっともな指示で、このまま間に合うとは思いません。思いませんが———
- 123時間目 決勝・決着・結末は?〜お帰り我らの聖典よ〜 ( No.111 )
- 日時: 2015/09/05 21:52
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
『『『っ!?吉井!?』』』
アキさんはその指示を無視してその勢いのまま、三塁のベースを踏んでホームに向かいます。そのアキさんの目は……『絶対に、勝つ!』という意志が伝わってきます。ですから……
「アキさん!いっけええええええ!」
「…………走れ明久っ!」
「絶対に還るのじゃ明久っ!」
「明久君っ!」
「アキっ!」
「やれっ!明久っ!決めちまえぇえええええええっ!」
……ホームに帰った自分とこーさん、ベンチから自分らのところまで来ているヒデさんたち。そして……この勝利を誰よりも願っているゆーさんが、アキさんに全てを託します。やっちゃえ!アキさんっ!
そのアキさんは、必死にグラウンドを走りゴールを目指します。ホームベースまであと5メートルくらいです。と、そこで西村先生がボールを受け取りブロックの体勢を取ります。これは……くぅ、恐れていたクロスプレイですね。ここでアキさんが体当たりで西村先生のボールを溢させればアキさんの勝ち。完全にブロックしたら西村先生の勝ち。これで勝敗が決しますっ!
「っっっ!!」
アキさんは歯を食いしばって姿勢を低くし、前のめりになって衝突に備えます。西村先生も同じように、アキさんとの衝突に負けないように体重を前にかけようとした————まさにその時。
「————っ!」
アキさんの身体が突然横にブレたかと思いきや、まるで自分たちの、そして西村先生の目の前から姿を消すかの如く回り込みます。
「っ!?く———っ!」
衝突に備えて体重を前にしていた西村先生は、咄嗟にはアキさんの機敏な動きについていけず、その動きが遅れた一瞬の隙を突き、アキさんは身体を全力で前に投げ出して、腕をホームベースに伸ばします!
土煙が上がり、居合わせた全員が息を呑み……そして審判がこの試合の結果を高らかに告げます。その結果は……?
『—————セ————フ!』
「「「ぃよっしゃぁああああああああああああっ!!」」」
自分も、いつものメンバーも、それから勿論Fクラスベンチ全員も立ち上がって鬨の声を上げることに。青く広がる大空に、Fクラスの勝利を喜ぶクラスメイトの声が木霊します。
「勝ったっ!勝ったよ皆っ!」
「アキさん!ナイスです!」
「明久君カッコイイですよ!素敵です!」
「ホントよ!もう♪惚れ直しちゃうわね♪」
「思い切った作戦じゃったが、よくぞ決めてくれたのう」
「…………GJ」
アキさんの元に皆さんが集まり、それぞれ誉め称えます。あそこであんなに上手く回り込むとは……さては狙ってましたね♪やるじゃないですかアキさん!
「けっ!なーにが後は任せた、だ。結局最後はお前が決めやがって。だが……よくやった明久っ!」
「はっ!お前もあの剛速球を良く打った!今の今までダメダメだったくせにやるじゃないか雄二っ!」
「ふふっ、お二人とも、お見事です!自分本当に感動しましたよ!」
姫路さんや島田さんは勿論の事、これにはいつもはいがみ合っているゆーさんもアキさんもお互いを褒め称えます。あの土壇場で最高のコースに打ち込んでサヨナラタイムリーを打ったゆーさんも、冷静に西村先生と勝負を挑んで勝利したアキさんも、それぞれ素晴らしい活躍でした!もう最高ですよ!
- 123時間目 決勝・決着・結末は?〜お帰り我らの聖典よ〜 ( No.112 )
- 日時: 2015/09/05 21:57
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「……やれやれ。やってくれたな吉井」
と、そんな中、西村先生が苦笑いを浮かべつつアキさんの元にやってきました。服についた土を落としながら西村先生はアキさんに向かってそう言います。
「あはは。まあ、行けると思ったもんで」
「ほう?行ける?この俺を相手にか?」
「いえ。西村先生が相手だったからです。だって先生、さっき言ってたじゃないですか」
そう言ってアキさんは先生をからかう様に、西村先生の口真似をします。
「———“教師は生徒を正面から受け止める”って。先生が絶対正面から受け止めるってわかってたからこそ、回り込みが成功するって思ってましたよ」
そう言われた西村先生も、聞いていた自分たちも最初は目を丸くしますが……
「はっはっはっ!まさかお前に一本取られるとはな!吉井、お前も唯のバカではないらしい!なるほど。そういうことなら、今度はお前に対しては接し方を変えたいくとしよう!」
「ふふっ♪アキさんったら、西村せんせ相手に凄い事考えてたんですね」
「ったく、バカの発想と言うか鉄人相手に怖いもの知らずというか。明久らしいと言えば明久らしいな」
「えっ!?な、何でみんな笑うの!?僕そんなにおかしなこと言ってないよね!?」
……自分も皆さんも、負けたハズの西村先生も楽しげに笑いだします。ふふふっ♪流石アキさん。本当にアキさんって面白い方ですね。
「さぁ、喜ぶのは良いがお前らもとりあえずは整列しろ。試合終了の挨拶がまだだろう?」
「「「「「「「はーい!」」」」」」」
先生に言われた通り、再び試合開始の時と同じくグラウンドに整列する事に。そして————
『二年Fクラスチーム対、教師チーム。3対2で二−Fの勝利です!』
『『『ありがとうございましたっ!!!』』』
————こうして、長きにわたる自分たちの野球大会は自分たちの大逆転勝利、そして優勝という結果で幕を閉じました。
———閉会式———
野球大会を終え、最終種目のクラス対抗リレーの後は閉会式です。他の全クラスは勿論自分たちFクラスもグラウンドに整列して、優勝クラスの表彰をじっと見守っています。
『———体育祭総合優勝、3−D。代表は前へ』
『はいっ』
ああ、そうそう。ちなみに自分たちFクラスの体育祭の順位は学年で四位で、全体では一三位となっています。本当はかなり良いところまでいってましたが、召喚野球の作戦に使った借り物競争での無得点が響いたようでこの結果になってしまいました。普段からよく体を動かしている自分たちにしては、ちょっと低い順位かもしれませんね。ですが不満を告げるFクラスの生徒さんは誰一人としていません。そう、なぜならば———
『———生徒・教師交流召喚獣野球。優勝、2−F』
自分たちにはコレがあります。クラスの皆さんも小声で嬉しそうに話していますね。あの状況で教師チームに打ち勝って優勝できたことによる達成感と、自分たちの私物が戻ってくるであろう期待感で皆さん胸が一杯みたいです。そりゃあ嬉しくないわけがありませんもの。
『———それでは、これにて文月学園体育祭を終了します』
各競技の優勝クラス発表と学園長のありがたいお話も終わり、これで体育祭の全プログラムは終了となります。他のクラスの生徒たちが帰宅の途につく中、自分たちFクラスの皆さんは早速担任の西村先生のところへと集まります。
『さぁ、俺たちのお宝を返して貰おうか!』
『俺のDVD!俺の写真集!俺の抱き枕!』
『俺の聖典《エロ本》!俺の宝物《エロ本》!俺の参考書《エロ本》!』
……え、えーっと……?そう、口々に没収品の返還を要求するクラスメイトの皆さん。周りには他のクラスの皆さんもいるので……ちょ、ちょっとだけ恥ずかしいですね。西村先生もはそんなクラスメイトの姿をジト目で見ながらも溜め息を吐きます。まあ、ですが———
「……まぁ、約束は約束だ。没収品は返還しよう」
———ルールはルール。約束は守ると、仕方なさげに呟きました。
『『『よっしゃあぁああああああああああああ!』』』
- 123時間目 決勝・決着・結末は?〜お帰り我らの聖典よ〜 ( No.113 )
- 日時: 2015/09/05 21:37
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「では、この紙に没収された品と、名前を書いて提出しろ。一両日中には返還する」
『『『はーい!』』』
あらら……こういう時は本当に素直なんですから全く。皆さんこぞって西村先生に渡された紙に没収された物の名称と、自分の名前を書いていますね。苦笑いをしながらも自分も先生に紙を頂ます。ちょっと気になってふとゆーさんを横目で見ると———ちょっと顔をしかめながらも、真剣に何かを書いている姿が見えました。多分……ウェディング用品の一つの名前を書いているんでしょうね。霧島さんに渡す為に、ね。お疲れ様、ゆーさん。あ、ですがちゃんと霧島さんに謝るのは忘れないようにね。
それはそうと。ところで……あの、クラスメイトの皆さん?
『エロ本エロ本エロ本……』
『写真集写真集写真集……』
『抱き枕抱き枕抱き枕……』
……若さゆえの何とやら、かどうかはわかりませんが、そこら中でその……自身の欲望に素直すぎる台詞を呟くのは、ちょっと怖いのですが……?隣にいた須川くんの用紙をちらり見ると、
『Hなお姉さんが《ピ———》して《ズキュ———ン》してあげちゃう☆』
…………見てません。見えませんでした。見えたとしても、幻覚でしょう。とりあえず今は周りの皆さんは気にしない方向で、自分も一先ず没収品を書くことに。まあ、ゆーさんの件も勿論ありましたが、自分だって“コレ”をあの人に渡す為に、頑張ったわけですし。
和気藹々と勝利の味を噛みしめながら、西村先生に用紙を手渡します。先生は呆れかえりながらも、その用紙を受け取り小箱に入れると……
「……さて。それではここに書かれた没収品は、後日きちんと“郵送”する」
『『『…………ん?』』』
ここで、先生の口からそんな台詞が飛び出してきます。その瞬間、クラスメイトの皆さんが固まるような音が聞こえた気がします。え?郵送、ですか?
「更に言っておくが、宛名は勿論お前たちの“保護者”になるな。全員、到着を楽しみにしているんだな」
…………郵送、そして宛名は保護者。んーと、つまりはその———
『『『はぁあああっ!?』』』
———成人指定の本+郵送+保護者=家に帰ればお説教ですかね?ああ、そういうことですか……あはは、先生方もなかなかやりますねー
「良かったなお前ら。海外からのゲストも大満足だったようで、学園長は機嫌良く返還を快諾してくれたぞ」
と、西村先生は頷きながらそう説明してくれます。……なるほど。学園長の事ですし、恐らくですがこうなる事も計算の内だったんでしょう。だからこそゆーさんと交渉した、と。相変わらず抜け目のない方ですね。
「それと、学園長からの伝言だ。『学園としては返還してやるけど、子供として持っていて良いものかどうかの判断は、アンタらの保護者に一任する』とのことだ」
『『『あ、あのババァアアアアアアアアアアアアアアっ!!??』』』
これには皆さん先ほどまで歓喜に震えていた状況から一変し、今度は学園長への怒りで震え、同時に家に帰ってから自分たちがどんな目に遭うのか未来を想像し更に震えだします。多分恐らくいいえ間違いなく、このままではお母様方に説教されるのでしょうね。
『はぅ……まずいです……このままじゃ、お母さんたちに抱き枕が……』
『ウチも、どうしよう……な、なんて言い訳しようかしら……』
『が、学園のアイドルの抱き枕ってことで……は、言い訳になりませんよね……』
『まあ……実際……ウチらのアイドルの抱き枕だし……』
姫路さんと島田さんも、皆さん同様に沈んだ顔をしていますね。ま、まあ没収されたものがされたものだけに……ドンマイですとしか言いようがありませんが。
「それでは、HRを終了する。各自、寄り道などせずに真っ直ぐ帰るように」
『『『あっ』』』
そう言うだけ言うと、西村先生は校舎へとすたすたと向かいます。と、思ったら何故かくるりと踵を返し自分の方に近づく西村先生。
「ああ、そうだ……月野」
「あ、はいです」
「悪いが学園長がお呼びだ。恐らく今日の件で話があるんだろう。……文の件で、な?疲れているとは思うが一緒に来てくれ」
「あ、あはは……わかってますよー?では皆さん、また明日ですね」
「うむ、気を付けて帰るのじゃぞ造よ」
「はい、ヒデさんも気を付けて!」
そうでしたそうでした。今から文さんの反省会の始まりですね。お昼自分が叱ったので、あまり怒られないようにフォローしなくてはね。……霧島さんの件は文さんに助けられましたし。とりあえずヒデさんや他の皆さんに挨拶をしつつ、西村先生に付いていきます。
文さんの件も含め色々とありましたが……どうあれ素晴らしい生徒と先生方の交流大会だったのではないでしょうかね。良い思い出でがたくさん作れましたものね。
『皆、やっぱりまた職員室を襲おう。僕らの生きる道は、それしかない。あの卑怯で卑劣な教師どもを正義の名のもと痛めつけ、僕らの本当の力で戦友を取り戻すんだ』
『いいことを言ったな吉井。流石は今日のヒーローだぜ。俺もたった今、そう考えていたところだ』
『実は俺もだ。何だ、やっぱり俺ら気が合うな。とりあえず全員で作戦を練ろう』
『『『合言葉は———Get back ERO-BOOK!!!』』』
…………い、良い交流できたんですよね……?別れ際の皆さんの会話がちょっとだけ———いいえ、ものすごく気になるのですが……?
- 124時間目 召喚野球編終了!〜女の子たちの裏舞台〜 ( No.114 )
- 日時: 2015/09/06 20:46
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
造Side
「それにしても……全く驚いたぞ。坂本の策や吉井の最後の勝負にしてやられただけでなく、まさか本当にお前らが勝つとはな」
「あはは……すみません西村せんせ。反則ギリギリの事してしまって」
体育祭も召喚野球大会も終わった放課後。本来ならちょっとした打ち上げでもやるところかもしれませんが、文さんの事で話があると学園長に呼ばれているため、只今西村先生と共に学園長室へ向かっている最中です。
「まあ、ルール上は一応問題ないからな。月野が謝る必要はどこにもないぞ。それにしても……」
「はい?それにしても、どうしました?」
「ふむ……いやなに、少し気になってな。普段のお前なら絶対に反対するであろう坂本の策を、月野自ら率先してやっていただろう?正直まさかお前までアイツらに加担するなんて思いもしなくてな」
と、歩きながら西村先生がそう不思議そうに尋ねます。あー……確かにいつもならそうでしょうね。
「おまけに吉井が途中妙な事を言っててな。“自分の譲れないものを他人任せにすることのやるせない”とか“ここは僕らが主役じゃない”とかなんとかな」
「あ、あははっ!そうでしたか……アキさんがそんなことを。なるほどなるほど、“アキさんも”でしたか」
「アイツは月野に聞けばわかると言っておったが……どう言う事なんだ?良ければ教えて貰えぬだろうか?」
西村先生は心底不思議そうに自分に尋ねます。まあ、自分やアキさんの行動を不思議に思うのも無理のないことでしょう。先生方には正直申し訳ないことをしてしまいましたし、ちょっとネタ晴らししちゃいますか。
「えっとですね……ちょっと掻い摘んで話をすると———」
〜造説明中〜
「———って感じなのですよ。ですから自分もアキさんも……そしてゆーさんも絶対に負けられなかったんです」
「ふむ……なるほど霧島と坂本の仲違いに没収品、か。確かにそれなら月野やあのバカ二人が真剣になるのもよくわかる」
少し端折ってゆーさんと霧島さんの件の話をしたんですが、先生は大体の事を理解してくれました。
「それにしても……はっはっは!全くお前たちは面白い奴らだ!よし!それならば、坂本の“それ”は一番先に送って貰えるよう頼んでおこう。霧島との仲を直してやる為にもな」
「ほ、ホントですか!?ありがとうございます、西村せんせ!きっとゆーさんも霧島さんも喜びますよ」
西村先生はそうニッと笑って手に持っていた箱の中からゆーさんの提出した没収品リストを取り出して、一番先に郵送できるように並び変えます。先生ってやっぱりどんな時も生徒の事を大事に想ってくれる本当に良い先生ですよね!
「まあ、アイツにはこの事を言うなよ月野。恐らくそんなことをアイツらに言えば……確実に調子に乗って冷やかすだろうからな」
「あはは、了解です。自分の胸の中にしまっておきますね」
「是非ともそうしてくれ。……そうそう。没収品で思い出したが、お前の没収品は確か————何かの種と写真立て、それから何枚かの写真だったな」
と、突然西村先生が自分にそんなことを言ってきます。あら?自分の話ですか?一体何でしょうかいきなり?
「よく覚えていらっしゃいますね?そうですよ。夏休みに皆さんで撮った写真と……その、ちょっとしたお土産と言いますかそんな感じのものです。とある友人に渡したいなって思ってまして」
「うむ、それだな。あの没収品のことだが……特に問題があるわけではないし、何なら今すぐにでも返しても良いんだぞ。こう言うと贔屓と言われるかもしれんが、本来なら没収品されるようなものではなかったしな。あれはお前が自主的に没収品の中に入れただけだっただろう?」
「あー……まあ、授業に関係ないものって考えると没収品に当たると思いましたし。あ、ですが返していただけるのであればお言葉に甘えて————いや、待てよ……?」
「む?どうした月野」
ちょっと待って下さい……折角郵送して貰えるなら……そうだ♪
「……ねえ、西村せんせ?ちょっとお願いがあるんですが」
「ほう?お前が俺にか?それはまた珍しいな。一体何だ?」
……ふふふっ♪折角です。今日のお礼と、いつもの仕返しを兼ねて……少しだけ彼女にサプライズをしてみましょうか。彼女、驚いてくれると良いのですが。
「いくつかの自分の没収品の送り先の宛名、変更して貰えませんか?勿論後日郵送代は支払いますので。あ、郵送するならついでに手紙も入れなきゃいけないかな……?後は突然すぎると困ると思うから例の件の確認を含めて先に電話もしておくとして……」
「…………は?今何と?」
「ふふふっ♪宛名変更ですよ。送り先はですね————」
- 124時間目 召喚野球編終了!〜女の子たちの裏舞台〜 ( No.115 )
- 日時: 2015/09/06 20:31
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
???Side
ここは体育祭も終えて、夕日が射し始めた文月学園2−Aクラスの中。放課後だけあって、本来ならば誰もいないハズの教室に四人分の人影があった。
「———という事なんです。翔子ちゃん」
「どうも坂本も誤解していただけみたいなのよ」
「……うん。教えてくれてありがとう瑞希、美波。それに———」
そのうちの三つの影は……瑞希と美波、それから翔子。瑞希と美波は雄二がやったことについて、翔子にこっそりと教える為にやって来たらしい。そして最後の一つの影は———
「……ありがとうございます、小暮先輩。雄二にこの事を教えてくれて」
「あらあら♪お礼を言われるようなことは、私は何もしていませんよ。坂本君本人に教えたわけでもありませんし」
———そう、造に雄二と翔子の仲違いの真実を教えてくれた小暮先輩の姿が。翔子が泣き止むまでの間ずっと翔子を慰めてくれていたらしい。ちなみにこの小暮先輩。翔子の側で泣いている翔子を慰めつつ、何があったのかを聞き出していたとのこと。
「ウチもよ。別に気にしないでよ、翔子」
「そうですよ。これくらいお安いご用です」
「……ううん。助かった。大体の事は先輩から聞いてたけど、本当の事は聞いてなかったし。それに雄二はきっと私に何も説明してくれないと思うから。先輩、瑞希、美波。本当にありがとう」
改めてきっちりお礼を言う翔子。そんな彼女の態度に瑞希たちは苦笑いをする。
「だからお礼なんて良いって。でも……確かに坂本なら説明しないかもね」
「そうですね。まあ、言い訳をしないというのは坂本君らしいと思いますけど」
「あらあら、坂本君はそんな方なのですか。なるほど男の子のプライドってやつですかね」
「……(コクン)はい。雄二はそういう事には、凄く不器用ですから」
「そうなんですよね、坂本君他の事にはあんなに気が回るのに変わっていますね」
「男はそう言う生き物だってMutter———じゃなくて、お母さん言ってたわ」
「うふふ♪確かにそうですね。そこがまた愛おしいのですが、ね」
「「「ふふふっ♪ですよねっ!」」」
と、他に誰もいない教室に四人分の笑い声が響き渡る。それはそれは姦しく楽しげな笑い声で。
「それにしても……ビックリしました。先輩だったんですね、月野君に本当の事を教えてくれた人って」
「そうよね。ちょっと意外かも?先輩と翔子の接点があるなんて思わなかったし」
「ああ、それですか?いえ、実を言うと今の今まで接点はあまりありませんでした。霧島さんと会ったのは偶然だったんですよ。月野君の妹さんの文さんと一緒に歩いていたら偶然出会いまして」
「……泣いてたら、先輩に慰めてもらった。本当にお世話になりました」
翔子は恥ずかしそうに、顔を赤くする。どうやら慰めて貰った事、相談に乗ってくれた事を今になって意識し始めたらしい。
「いえいえ、ですから私は何もしていませんって。私はただ、“ちょっとだけ”文さんと一緒に霧島さんとお話をして霧島さんの悩みをどう解決すべきかを“坂本君の友人であり、私の友人でもある月野君”に相談しただけですもの♪」
「「「…………」」」
まさにその“ちょっとだけ”の行動が今回Fクラスの勝利を導く最善の行動であったわけで。その言葉を聞いた瑞希・美波・翔子の三人は顔を見合わせて全員同じ事を考えたとのこと。そう……『この人にはまだまだ敵わない』と。
「そんなことより霧島さん。恐らく理由を説明しなくても坂本君は謝ってくれると思います。ですからその時は」
「……はい。私も雄二に謝———」
「おっと、違いますよ。霧島さんが謝るのは最後です♪」
「「「……え?どうしてですか?」」」
「うふふ♪いいですか霧島さん。最初は事情を何も知らないふりするんです。そして———」
と、小暮先輩は片目を瞑り、ニコっと笑いながら……
「「「???そして?」」」
「———そして、お詫びの印に彼にキスでもせがんじゃいましょう♪」
「「「ふえ!?」」」
……とんでもない爆弾発言を告げる。これには翔子は勿論、聞いていた瑞希と美波も顔を赤くして驚く。
「あらあら、皆さんどうかしましたか?」
「えっ!?い、いや……そのぅ……」
「せ、先輩……凄いですね……」
「……何という、策士……」
「そうでもないですよ。これは“ごく一般的な恋の駆け引き”ですもの♪まあですが———」
と、彼女は腕を組んで嘆息しながら、一度間を開けて……
「私もまだまだ頑張らないといけないのですがね。駆け引きがどうのこうのと偉そうに言っている割に、未だに“あの人”には気持ちが届かず、ですもの」
- 124時間目 召喚野球編終了!〜女の子たちの裏舞台〜 ( No.116 )
- 日時: 2015/09/06 20:34
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
そう少し苦笑気味な笑顔で話す小暮先輩。瑞希たちは一瞬ポカンとした顔だったが……
「え、えっと……と言う事は、先輩も好きな方がいらっしゃるんですか?」
「先輩ほどの美人さんの気持ちが伝わらない相手って一体……?」
「……ちょっと気になります」
すぐさま食いつく三人娘。女の子にとってこの手の話題は何よりも興味の湧くものである。この三人も、いや現在進行形で恋をしているこの三人だからこそ興味があるのは当然であろう。
「あら?そんなに気になりますか?……ふふっ♪中々大変な方なんですよね。何せとても優しくてのほほんとしていて誰もが好きになってしまうのでライバルも多いですし、彼自身は本来はとても鋭いはずなのに恋愛関係になると色々とわかっていない方ですし……まあ、だからこそ燃えると言うものですが♪」
「「「…………それってまさか!?」」」
三人が三人、とあるのんきで小さな友人の姿を思い浮かべる。そんな三人を前に小暮先輩は唇の近くに人差し指を立てて———
「———彼にはナイショですよ?私、欲しいものは自分で手に入れる主義ですので♪」
———お茶目にも楽しそうにそんなことを言う彼女。
「で、ですが先輩……その、あの人って」
「そ、そうよね……えっと、言い辛いんですけど先輩、アイツは確か……」
「ええ、わかっています。婚約者さんもいらっしゃることもちゃんと、ね。ですが言ったでしょう?だからこそ———燃えると言うものだと」
その瞬間再び三人は顔を見合わせて同じ事を考えたとのこと。そう……『この人を師匠にしよう』と。
「そんなことより……霧島さん?折角のチャンスなんですから、頑張ってくださいな」
「……はい。頑張っちぇみましゅ」
「あらあら?緊張なさってます?」
「……少し」
「ま、まあ翔子も頑張りなさいな!いっそ坂本のハートも奪っちゃえ♪」
「そうですよ翔子ちゃん!ファイトです!」
「……うん」
「そう言う姫路さんや島田さんも……機会があれば頑張ってくださいな。それこそ吉井君のハートを完全に奪っちゃうくらいにね♪」
「「っ〜〜〜〜〜〜!?」」
夕日で赤く染まった教室以上に顔が真っ赤な瑞希や美波、そして翔子。そんな彼女らを楽しくからかう小暮先輩。体育祭と召喚野球大会は、思わぬところで思わぬ友情が芽生えたそうな。
葵Side
体育祭が終わりを告げた次の日の夜。今日も充実した学園生活を過ごしたなと考えていた矢先———
Prrr! Prrr!
ガチャッ!
「はい。どちらさまでしょうか?」
『夜分遅くにすみません。小暮葵さんのお宅でしょうか?自分、彼女の学友である月野と申します』
「あらあら♪こんばんは月野君、小暮です。もしかして私に何か聞きたいことがあるんでしょうか?」
———突然月野君からのお電話が。大体の要件はわかっていますが、やはり確認にきましたね。
『はい。こんばんわです。たはは……その口ぶりだと、どう言う用件かわかっているのでしょう?』
「いえいえ♪そんなわけないでしょう?私は予知能力者ではありませんので♪」
『予知はしなくても、予想していますよね……いえ、確信しているって言った方が良いのでしょうか?———まあ、ちょっと聞きたい事が二、三点あってですね』
ふむ、やっぱりそう来ましたね。あの体育祭の件、つまり———
「ふふっ♪つまり聞きたいことは———文さんの事、ですかね?」
『……ビンゴです』
そう、月野君曰く妹さん。ですが本当はちょっぴり不思議な存在の彼女……文さんの件。月野君、霧島さんと坂本君の問題がなければすぐにでも話を聞きたかったようですからね。
「小暮さん、あの時“彼女の正体を知っている”的な事を言ってましたよね?いつ、どうやって、いえそもそも何をどう知ったんですか?』
「すみません月野君。その前に予防線を張らせていただきますね。今から話すことは私の唯の想像です。私のその勝手な想像でも良ければ聞いて貰えますか?」
『是非ともお願いしますね』
「ありがとうございます。———まあ、切っ掛けは勿論3−A対2−Fの試合の時の文さんのおかしな行動と言動です」
まあ、流石にその時までは本当に文さんは月野君の妹さんと思っていましたが。本当に彼女は“よく出来ていましたし”
「彼女、月野君がデッドボールを受けた時に言ってたんです。《試合を 公平に してくる》って。その直後に文さんがいなくなったと思ったら、あのフィードバック騒ぎ。これは文さんが何かしたな、と。最初はそんな唯の女の勘です」
『……なるほど?素晴らしい勘ですね。ですがそれだけで判断したわけではないですよね?文さんの独り言かもしれませんし、そんなことをあんな小さな子がそんなことをできるとは普通は思えませんよね』
あらあら、いいのでしょうか?文さんを小さいと言うことはつまり同じ体型のご自身も小さいと言うことに———と、思わずくすりと笑ってしまいます。言った張本人は全く気が付いていないご様子ですが。
『???小暮さん?何か可笑しなことでも?』
「ふふふっ♪何でもありませんよ。続けましょうか。えっと……その次はその後のお弁当を食べる時に違和感が。彼女確か《生まれて 初めて ゴハン 食べたー》って言ってましたよね」
『……あー、やっぱり小暮さんは騙せませんよねー……自分の誤魔化し、効きませんでしたか?』
- 124時間目 召喚野球編終了!〜女の子たちの裏舞台〜 ( No.117 )
- 日時: 2015/09/06 20:43
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
どちらかと言うと———しまった、と言いたげに文さんの発言を必死に誤魔化そうとしていた月野君がかえって印象に残ったせいで気づいた違和感ですけどね。
「しかも三年生と二年生の召喚野球の話になった時、文さんはですね———」
《うー 文 反省 しないと いけない ねー … … … ナツカワ ツネムラ あと よく知らないヒト ごめんな さいー》
『文さん大丈夫ですよ。夏川君たちはもう大丈夫だと言ってましたし。文さんが反省なさっているなら夏川君たちも月野君も許してくれるでしょうし♪』
《うん …… …… …… ナツカワと ツネムラ 大丈夫って 言ってた》
『夏川君たちがそう言っているならきっと大丈夫ですよ。今度から気をつけましょうね、文さん』
《わかったー!》
「———と、このようにあたかもあのトラブルがご自身のせいだと言いたげに話していたんです」
『と言うことは……やっぱりその時には気づいたのですね?文さんが、“人間じゃない”って』
正直未だにどういう原理なのか、そして文さんが月野君とどんな関係なのかは詳しくはわかっていませんがね。まあ、ただこれも私の唯の勘ですが……文さんは月野君の留年と身体の召喚獣化に何かしら関わりがあるのかもしれませんね。これは本人の口から聞くまでは彼に聞くつもりはありませんが。
「ええまあ。ですがそれでも流石に荒唐無稽なおとぎ話のようなお話でしたし、分からないことは分からないままにするのも癪でしたので———」
『癪でしたので?』
「正直に白状するとですね……あの後こっそり文さんを誘導尋問しちゃいました☆“文さんって、実はシステムの関係者さんなのでしょう?私は知っているので隠さなくて大丈夫ですよ”と。そう鎌をかけてみたら、素直な文さんは色々と教えてくれました♪まあ、これが真相です」
『…………』
あらあら?月野君黙っちゃいましたね?恐らく電話越しでジトっと私を見ているのでしょう♪ああ、直接彼の顔が見れないのは残念ですね♪
「と、まあそんな感じでわかったんです。文さんが“文月学園召喚システムの管理者兼システムの頭脳”ということが」
『……ま、まあ手口は置いておくとして、お見事ですよ小暮さん、全くもってその通り。文さんの正体を暴いた手腕、賞賛に値します』
と、彼は電話越しにパチパチと拍手をします。照れちゃいますね♪
『それでは本題に入らせていただきますね……小暮さんにお願いなんですが、』
「ああ、他言無用ってことでしょう?勿論ですよ。私、文さんとも友人ですもの。友人を売る気はさらさらありませんので」
天真爛漫でちょっぴりやんちゃ。ですが元になった誰かさんと一緒で優しいあの子。良い子ですし守ってあげたいと思ってしまいますからね。
『……まあ、貴女ならそう言っていただけると思ってましたよ。ですが———本当にありがとうございます。彼女を守ってくれて。彼女と友人と言ってくれて』
「お礼を言われるような事は何もしていませんよ?……あら、もしかして用件はそれだけでしょうか?」
どうやら聞きたいことはこれだけのご様子ですからね……個人的には、もう少しお話したい気持ちでいっぱいです。普段は長電話なんて好きではないのですが……そう言えば月野君が電話をかけてくれるなんて初めてでしたっけ。……いけませんね、ちょっと欲張りすぎました。
『まあ、文さんの件は終わりですが……その他にもお礼を言いたくて』
「……ああ、もしかして霧島さんの件ですか?」
『はい。教えてくれて助かりましたよ。そっちも本当にありがとうございます。助かりました。それで、ですね———小暮さんにお礼をしたいのですが』
「霧島さん本人からも言われましたし、そもそもお礼なんて要りませんよ。気にしないでくださいな」
言うならば、この電話自体がお礼そのものです———なんて、冗談交じりでも言えませんが。
『まあ、そう言わずに“お礼”貰っててくださいな。多分今日、明日中に届くらしいので』
「……は?」
……?何でしょう?ここに来て月野君によくわからない事を言われます。届く?お礼?
『ふふふっ♪流石に何の事かわかりませんよね?ヒントはですね“自分が何のために召喚野球で頑張っていたか”です。お弁当の時を思い出してみればわかるかもしれませんよー?』
「…………何のために頑張ったか……お弁当の時……ひょっとして没収品、ですか?」
『おうっ!?さ、流石小暮さん……一瞬で気づくんですね……』
ああ……そう言えば二年生は召喚野球大会に勝てば没収品が戻ってくるそうですね。霧島さんのヴェールも戻ってくるそうですし。……そう言えば月野君の没収品ってそもそも一体何なのでしょう……?
『まあ、とは言え中身まではわかりませんよね。その答えは———多分すぐにわかりますよ。では、また学園でお会いしましょう。お休みなさい小暮さん』
「え、ええ……お休みなさい月野君」
ガチャ!
「…………?」
何か意味深な台詞を残して、月野君との電話が終わります。……私とした事が、彼の言動が読めないなんて不覚……何となく悔しいので、とりあえず月野君の意図を分析しようとすると———
「葵さん、電話終わりましたか?学園から貴女宛てに届けものがありますよ」
「はい?」
———母様が何かの小包を私に渡します。学園から、ですか?一体何なのでしょうかね?
月野君の言葉に悩んだところで今は判断材料もありません。どうにもならないので、まずは母様からその学園からの小包とやらを受け取り部屋へと戻り中身を取り出してみる事に。その中には———
「……小瓶に入った向日葵の種に、向日葵の写真立て?それから……手紙?」
何とも言い難いラインナップです。そもそも誰が何のために私に……?一先ず情報が欲しいので、入っていた手紙を開いて読むと……そこには———
『小暮葵様へ
突然驚かれたでしょう?貴女の驚いている顔を直接見れないのは残念です♪
今年の夏は受験勉強であまり遊びに行けなかったって言ってましたよね?そこで、遅くなりましたが夏の想い出をプレゼントです。本当はコレ、夏休みが終わってすぐ渡そうと思ってたんですが没収されちゃいまして。一応自分だってこれを取り戻す為にも、野球を頑張ってみたんですよ?
小暮さんって確か向日葵好きでしたよね?ちなみにこれはいつぞやの小暮さんが持っていた写真に写っていた向日葵の種と、向日葵の写真立てです。夏休み中に見つけておきました。押し付けるように送ってごめんなさい。いらなければ捨てちゃってくださいな。
いつかのお礼と今回のお礼、それからいつも助けて下さっている貴女に感謝をこめて送ります。
月野造
追伸 いつもからかわれている仕返しのつもりでしたが、いかがだったでしょうか?貴女の反応がちょっと楽しみです♪ではまた学園でお会いしましょう』
「…………あの、人は……」
さっきの意味深げな台詞は、そういう事ですか。全く参りましたね、まさかここで一本取られるなんて……と言うよりも卑怯ですよ?こんなの……卑怯です。
「…………ええ。それはそれは驚きましたよ月野君。本当に……全く、私も霧島さんたちの事、全然言えませんよね」
手紙と頂いたプレゼントを抱き締めつつ、思わずため息が出てしまう私。私の気も知らないでこんなことしてくれて……本当に、私の追い求める人は……手強い方なんですから……
「…………ですが、ですが必ず貴方を……♪」