二次創作小説(紙ほか)
- 122時間目 なりふり構っていられない〜秘密兵器と真の主役〜 ( No.104 )
- 日時: 2015/09/04 21:10
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
最終回裏、得点は0対2で僕らが負けている。何がなんでもこの回に3点を取らなきゃならないこの状況で、トップバッターは美波と交代したムッツリーニ。そして対するピッチャーは、我らが体育教師の大島先生だ。ある意味保健体育の師弟関係な二人だけあって、二人ともえらく燃えている気がするのは気のせいじゃないだろう。
「にしても鉄人はキャッチャーか……向こうはクロスプレーを警戒してやがるな」
「まぁ、散々お主らは仕返しがどうのって騒いでおったしの」
「うーん……西村せんせは鍛えてありますし。本塁での勝負じゃ勝機は無いですかね……」
「だろうね。鉄人相手じゃ僕らがいくら体当たりしたところで弾き返されるのがオチだろし」
と、皆でそう言っていると、大島先生が一球目を振りかぶって景気よくその腕を振り下す。ボールはそのままうなりを上げキャッチャーである鉄人目がけて飛び出した。
「…………っ!(ブンッ!)」
『ストライクっ!』
ムッツリーニがボール一個分下で、バットを空振りする。むむむ……ボールの下で振ると言うことは、相手のボールが想像よりも速かったということだろう。流石は大島先生だ。鉄人並みに厄介な相手だとは思っていたけど、やっぱり伊達に体育教師をやっていないってことか。
「…………(スッ)」
ムッツリーニがバットを構え直す。大島先生は鉄人とサインのやり取りをすると、二球目を振りかぶった。さっきのストレートと大差ない速度で迫るボールが、バッターの手前で突然に横方向に変化する———ってちょっと待って!?これスライダーじゃないか!?こんなの使うなんて大人げないぞ!
「…………っ!(ブンッ!)」
『ストライクっ!』
ムッツリーニが二球目も空振りに。ツーストライクか……ヤバい、これで後がなくなった。
「ナイスピッチ、大島先生」
「いえいえ。———土屋、どうした。かかってこい」
と、鉄人がボールを戻し、大島先生が受け取りムッツリーニにそう挑発する。その間もムッツリーニは大島先生の手元をしっかりと見て、三度バットを構えた。大島先生が三球目を投げる。今度は……
「ちょ!?ちょっと!?今度はカーブ!?」
「どんだけ気合い入ってんだ……!?」
「しかも……速いっ!?こーさん……!?」
『ボールッ』
ここで審判がボールを宣告。び、ビックリした……鉄人のミットの位置を見る限りでは、今のでストライクを取ろうとしていたみたいだけど。変化球を投げられる代わりにどうやら大島先生はそこまでコントロールは良くないようだ。
「むぅ……冷や冷やするのう。こんなものを本当に打てるのかの……?」
「でも……こーさんなら。こーさんならきっと……!」
造たちの心配をよそに、大島先生は振りかぶって四球目。今度は直球を内角に。これは……打てないか……っ!
「…………いけ……っ!」
と、ここでムッツリーニが動きを見せる。高橋先生の召喚獣が一回で見せたものと同じ行動。そう———プッシュバンドだ。ピッチャーの横を抜けて、サード前に転がるボール。サードを務めているのは長谷川先生。ちなみにあの先生に運動神経が良いと言う話は聞いたことがない。従って……
「っと、ととっ」
転がって来たボールを慌てて捕球し、ファーストに山なりに投げる長谷川先生。だけど、その程度のスピードじゃ、我らFクラスが誇る最速のムッツリ忍者、ムッツリーニの速さには到底敵うはずもなく。
『セーフ!』
「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
流石ムッツリーニ。きっちり塁に出てくれた。ノーアウト一塁で迎えるバッターは、
- 122時間目 なりふり構っていられない〜秘密兵器と真の主役〜 ( No.105 )
- 日時: 2015/09/04 21:16
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「俺も土屋に続くぜ!」
と、意気揚々とバットを抱えて打席に入るのは異端審問会を率いる若きカリスマ:須川君だ。そのいつもの有り余る勢いの良さをここでも発揮して貰いたいね。
「あ、須川くんの次は自分ですし、ネクストバッターボックスに行っておきますね」
そう言って須川くんに続き、造もよいしょっと立ち上がって準備をする。……あれ?ところで今更だけど造って———
「ねえ造?こう言っちゃ悪いけど、造って野球得意なの?もし無理そうならピンチヒッターってことで君島君と変わってもいいんじゃない?」
「む?そう言えば造が野球が得意であると言う話はあまり聞かんのう。実際どうなのじゃ?」
「まあ、確かに造が野球やってる姿なんざ俺も見た事ねえな。行けるか?」
ちょっと気になって造に尋ねる事に。どうやら雄二と秀吉も同じように気になったようでこの二人もそんな風に造に尋ねる。と、造はニッと笑うと———
「ふふふっ、安心してください。絶対に塁に出て見せますよ」
「え?ってことは、造って野球上手なんだ?」
「さてどうでしょうね……まあ、ですが昔から———秘密兵器って呼ばれていますので」
「「「ひ、秘密兵器……!?」」」
な、何だこの絶対的な自信は……?秘密兵器……だと……!?『まあ、見ててください』と言い残して造はそのまま向かって行ったけど……
「「「…………うーん?」」」
秘密兵器と呼ばれるほど、造って野球上手いなんて初耳だ。だ、大丈夫なのかな?3人で首を傾げていると、須川君が三振で倒れてしまう。さっそくその自称秘密兵器の造の番となったけど……
『……ふむ、月野か。ひょっとしたらお前も坂本みたく何か策があるのか?』
『さて?どうでしょうかね。まあ———絶対に塁に出る自信はありますので』
『ほう?それはまた大した自信だな。ならばやってみろ……いくぞ月野っ!』
と、鉄人と造の会話が聞こえてくる。ついでに————
《おー♪ ツクル 出てきたー! ファイト! ふぁいと!》
『月野君頑張ってくださいな〜♪勝ってくれないと私泣いちゃいますよ〜♪』
————いつの間にか来ていた、文ちゃんとあの着物先輩の力強い応援も聞こえてくる。凄いね、造が活躍しそうなところで必ずあっちの二人がいるんだもん。それはまあ置いておくとして。そんな注目の第一球。鉄人と大島先生は、そして造はどう出る……?
『ボールッ!』
大島先生が投げた球は、さっきと同じ速さの鋭いストレート。対する造は、“秘密兵器”がどうのこうの言ってた割にまだ何も動きを見せないようで動かずにじっとしている。これには鉄人も首を少し傾げつつ、大島先生にサインを送る。続く第二球は……
『ボールッ!』
これも良いコースのスピードあるストレートだけど……さっきと同じく造は動きを見せない。……うーん?これも打たないの?ひょっとして何か狙い球でもあるのだろうか。
- 122時間目 なりふり構っていられない〜秘密兵器と真の主役〜 ( No.106 )
- 日時: 2015/09/04 21:20
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
……あれ?それにしてもちょっと不思議だ。一応綺麗に入っていると思うし、さっきムッツリーニや須川君に対してストライクを入れたコースと同じだと思うのに、何でさっきから“ボール”ばかり何だろ—————ってまさか!?
ふとした考えが頭をよぎる。その間にも大島先生が第三球を投げてくる。今度はカーブのようだけど、
『ボールッ!』
やっぱり造はバットは振らずに、しかし投げられる前に微妙に体を動かして“ボール”を誘っている。そしてやっぱり大島先生の投げた球は“造の狙い通りボール”になった。そっ、そうか……造が言った秘密兵器ってコレの事なのか!?
『くっ……全く入らんとは。流石にこれは狙い難いな……』
『月野、お前……ひょっとすると最初からフォアボール狙いか?』
『えへへ♪バレちゃいました?その通り、自分の身長だとストライクゾーンはかなり小さいでしょう?物凄く狙い難いですし。振らなきゃ三振は無いでしょうから“必ず塁に出れます”ものね』
……な、何て子だ……自分の身長の低さを逆に利用するなんて……!?てか、自分でその事言って、哀しくないのかな……?普段あれだけ小さいって言われるの嫌がっているのに……
《んー? ツクル どうしたの かなー? 打たない のー?》
『……そう来ましたか。坂本君に花を持たせるってことですね……本当にお優しい人ですね』
《んー? ナンカ 言った? アオイ?》
『……ふふっ、いえいえ何も。ただ、ますます誰かさんに惚れちゃいそうってだけですよ』
《??? よく わかん なーい》
『……いいのか月野?どこかの応援しているヤツらに良いところを見せてやりたいと思わんのか?』
『あはは……まあ、自分にだってプライドとか男の意地ってものがありますし応援を頂いている以上、いつもなら頑張って期待に応えたい所ではあるんですが……』
と、造と鉄人が話している間にも、大島先生が振りかぶって第四球を投げる。それでもその球は————
『ボールッ!フォアボールっ!』
————やっぱりボールカウントを取られて、造は見事にフォアボール。
『……大事な友人の為ですもの。プライド?男の意地?そんなもの二の次三の次。なりふり構っていられません。すみません西村せんせ、大島先生。今回は勝たせて貰います』
そう言って鉄人たちに笑顔を残して、造は一塁に進んだ。あ、あはは……造らしいね。まさか自分のコンプレックスを武器にするなんてさ。しかもそれは自分の勝利の為じゃなくて、友人の為にってところがいかにも造らしい。
…………うん。僕も出来る事をやんなきゃね。あのようやくエンジンがかかったバカの為にも……造の次の打順が僕と言う事で、バットを持って準備をする。
「いいところで回って来たじゃない、アキ。ここで打てばヒーローよ!さっきのピッチングみたいに決めちゃってよ♪」
「あの、頑張ってくださいね明久君!私たち応援していますからっ!」
と、女性陣二人が気合いの入る応援をしてくれる。まあ、本音を言えば僕だって、さっきの汚名返上といきたい所なんだけど……
「ありがとう二人とも。期待に応えられるかどうかわからないけど、僕なりに頑張るよ」
とりあえずそう応え、僕はバッターボックスに向かう。
「吉井か。面白い場面で出てきたな」
打席に入ると、キャッチャーである鉄人が僕にそう話しかけてくる。確かに鉄人の言う通り、面白い場面だと僕も思う。
「そうですね。ここで難しいでしょうがホームランでも出たら逆転サヨナラ。最高にカッコイイヒーローですよね」
「そうだな。女子の応援もあるんだ。お前はここで打ちたいだろうが———こっちも教師としてのプライドがある。そう簡単には譲ってやれんな」
「はは!譲ってもらえるなんて最初から思ってませんよ」
鉄人に答えてバットを構える。大島先生がセットポジションを取り、投球モーションに入る。その一瞬の後、先生の投げたボールは鉄人のミットに収まっていた。
『ボールッ!』
一球目はボール。しょっぱなからストライクじゃない所を見ると、少しは警戒して貰ってるんだろうか?もしくはいきなり造から僕に代わって、ストライクゾーンを見誤ったのかもしれないね。
「一球目から振ってくると思ったんだがな」
「ひょっとして女子の前で格好つけると思ったんですか?」
「まあ、そんなところだ」
「はは、それは残念でしたね」
- 122時間目 なりふり構っていられない〜秘密兵器と真の主役〜 ( No.107 )
- 日時: 2015/09/04 21:45
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
鉄人が大島先生にボールを戻す。僕は足元を軽く均し再び構えることに。大島先生が二塁のムッツリーニの動きを確認し、再びボールを投げる。今度は速球、ストライクゾーン低めだ。
『ストライクっ!』
これも黙ってボールを見逃す。横目でちらりと見ると鉄人はそんな僕を見て、違和感があるって顔をしている。多分僕が何か企んでいるように見えたんだろう。そんな鉄人のサインを確認し、三球目を構える大島先生。
『ボールッ!』
その三球目も、僕はバットを振らない。先生たちも警戒してかまたもやストライクゾーンの外だ。
「どうした吉井、打たんのか?」
「はい。えっと……色々と、作戦とかあるんですよ。色々ね」
更に警戒してくれるようにと、軽口を叩いてみる。僕の言葉を鉄人がどう受け取ったかわからないけど、静かにミットを動かす気配が伝わってくるのがわかる。
『ボール』
そしてまたしてもボール。カウントはこれで1ストライク、3ボール。向こうは勝負するしかなくなった。
「…………む」
鉄人が五球目の為にミットを構える。と、そこにストライクゾーンど真ん中且つ、さっきよりもコントロールを意識してか、球威もそれほど感じない絶好球が飛んでくる。これなら……多分二回に一回はヒットに出来るとは思う。思うけど———
『ストライクっ!』
———けど、それは二回に一回は打ち損じてしまうってことだ。それじゃ、ダメなんだ。今回は何がなんでも僕の後の……あのバカに繋げないといけないし。
「いいのか吉井。折角の活躍の場だぞ?」
「いやいや。僕だって、出来る事ならここでヒーローにでもなりたいですよ?まあ、作戦あるので楽しみにしててください」
鉄人は今の球を見逃した事を不思議に思ってか、また僕に話しかけてきた。僕がヒットを狙っているように見えなかったんだろう。まぁ今の球を見逃したんだから当然といえば当然だけど。
更に混乱させるべくそんな意味あり気なことを口にしながら、バットを短く持って構える。と、間を擱いて六球目が飛んできた。これはさっきと同じコントロール重視且つ、ストライクゾーンの中だ。いくらなんでもこれは見逃せないっ!
カキンッと僕がバットを振ると、ボールは一塁線の脇へと転がる。
『ファール!』
今のカウントは2ストライク、3ボールでいわゆるフルカウントってヤツだね。
「……つまりお前も月野と同じくフォアボール狙いか。吉井にしては随分と消極的だな」
「あ、いえ。そういうわけじゃ———」
「誤魔化すな。そんなスイングを見せられたらバカでもわかる」
「デスヨネー」
はいはいそりゃ悪かったね。そう、鉄人の言う通り、僕の狙いは造と同じくフォアボール。後一球のボール球が来るまで、ファールで凌ぎ切るっ!
「お前も月野も、折角のチャンスだというのになんて勿体ない真似をしているんだ」
「ははっ!まあ造はともかく、確かに僕だってそう思うんですけ———ど!」
カキンッ
『ファール!』
七球目もファール。そろそろ大島先生も焦れてくるかな?
「まあ、ちょっと今までの借りを返すついでなんですよ」
「???借りだと?」
カキンッ
『ファール!』
「ええ、借りです……まあ、何と言うか僕だったらすごく悔しいと思うんです。先生だってそう思いません?大事な物のかかった試合なのに自分が何にも出来ずに終わるっていうのは。多分造も同じ気持ちだと思います」
「?おい、何を言っているんだ?」
カキンッ
『ファール!』
「自分の譲れないものを、他人任せにすることのやるせなさというか、憤りというか、納得のいかない感じとか……少なくとも僕だったらすごく悔しいんです」
「……お前が何を言おうとしてるのか、いまいち理解できん」
打球はまたもや逸れて、草むらの中に。バットを構えてまた次に備える。
「あはは……そう言う話は僕じゃ上手く言えないんで、造にでも終わったら聞いて下さい。けどまあ、要するに———」
「要するに何だというんだ?」
「———今日の本当の主役は僕らじゃないってことです」
『ボール!フォアボール!』
ついに大島先生の集中力が切れ、コントロールが乱れたようだ。これで僕は一塁に向かう事が出来るね。
「それより先生こそいいんですか?」
「なにがだ?」
「勝負に徹するなら僕と雄二を敬遠して瑞希を狙うべきだと思うんですけど?」
まあ、押し出しにはなるけど僕らより野球に慣れていない瑞希を狙う方がよっぽど効率的だと思う。上手く行けばダブルプレーで終っちゃうだろうし。でも、僕と真っ向勝負を挑んできたところから見ると、それはどうやら無いみたいだ。
と、僕がそう尋ねると、鉄人は一瞬間を開けて———そして豪快に笑った。
「バカを言うな吉井よ。いいか?」
鉄人は僕に指を突き付けて、ハッキリと告げる。
「俺たち教師は、お前たち生徒の模範を示すべき存在だ。それなのに、向かってくる生徒を正面から受け止めずに、何を教えられると言うんだ?」
…………そう言われてちょっと言葉を失う。いつもだったら暴力ばかりする憎い教師だって思えるけど、今ならよく造が『あの先生は……本当に尊敬できる方です♪自分の恩人で、最も尊敬すべき先生だと思っています』って言ってた理由がほんの少し、ほんの少しだけわかるような、そんな気がした。
とりあえずそのまま話を打ちきって、次のバッターである雄二のところに向かう僕。雄二はそんな僕と、先に塁に出ている造とムッツリーニを見回す。
「さて雄二。これでこの前の肝試しの借りは返したよ」
「ほざけ。今まで積み重ねてきたお前の借りがあれだけだと思うなよ」
「へいへい。ま、それだけ憎まれ口言えるなら平気か———それじゃ、後は任せた」
「わかっている。必ず打つ」
力強い雄二の言葉に頷いて僕は一塁に、雄二はバッターボックスへ向かう。さて、2点を追う今の状況はと言うと……1アウト、満塁で長打を打てたら逆転サヨナラ勝利。そして、ここで決められなければ仮に同点であっても延長戦になれば、また振り出しに戻る。何てわかりやすくて、何てお誂え向きな状況何だろうか。
僕も造もムッツリーニもお膳立てはしてやったんだ。さて雄二、言うまでもないだろうけど今日の主役は誰かわかっているよね?わかっているなら……さっさと霧島さんのヒーローになってこいやっ!