二次創作小説(紙ほか)
- 番外編:ワシと自分と演劇と〜演目はバカテス童話!?〜その④ ( No.154 )
- 日時: 2015/10/11 21:30
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
文と学園長の(主に文の行き当たりばったりで破天荒な)行動が原因で、急遽葉月の通う小学校で召喚獣を使った人形劇を行う事となった造たちFクラス仲良しメンバー。ステージで他の演劇や芸人のちょっとしたコントが行われる間も、秀吉が中心となっての演劇の稽古及びに調整が行われていた。
そして———あっという間に三時間が経ち……
『それでは、只今より睦月小学校創立祭:午後の部を始めたいと思います』
お昼を過ぎて舞台裏で忙しさがピークに達している中、午後の部のスタートを告げる司会の声が観客たちのいる体育館に、そしてギリギリまで稽古をしていた造たちの元に響き渡る。
『さてさて、午後の最初の出し物は……皆さんも良くご存じの、あの“試験召喚システム”で有名な文月学園からお兄さんお姉さんたちがみんなの為に来てくれました!』
午後一番の出し物だと言うのに、体育館はすでに人という人で溢れ返る事に。今話題の試験校“文月学園”の生徒による演劇だけあって、睦月小学校の生徒たちだけではなく保護者・学校関係者が午後からのひと時を今か今かと楽しみに待っている。
『そしてドッキリサプライズ!本来プログラムになかったのですが、何と今回はその試験召喚システムにより生みだされる試験召喚獣を使った人形劇を披露してくれるそうです。話題の召喚獣たちが動きまわる姿をどうかみんなで楽しんでいってね♪』
『しょーかんじゅう?ねえ、それってなーに?』
『えっと、ホラ。あれだよ!よく葉月ちゃんが話してくれる……ね!』
『そうです!葉月のお姉ちゃんとバカなお兄ちゃんたちが通っている学校のマスコットさんです!』
『へぇ〜召喚獣を使った人形劇ねぇ、それは結構面白そうね。噂には聞くけど試験召喚獣を見るのは初めてだし』
『そうですね。噂は聞きますが、実際は中々見る機会はないですからね』
『これはまた、粋なサプライズですね。流石話題に事欠かない文月学園と言ったところでしょうか?』
さり気なくプログラム変更を伝える司会の言葉に賑わう観客席。この観客の中に、まさか本来は普通に演劇を行うはずだったとか、今から始まるのは実は三時間半前に急遽やる事になったぶっつけ本番な演劇であると言う事を知る人はいないだろう。
「やれやれ……実際はサプライズでも何でもない、ただのババァの横暴のせいなんだけどね。僕らの方がサプライズだよ……」
「だよな。ったく……後であのババァに払うもん払って貰わにゃワリに合わんぞ」
《ま、まあまあ。その辺は終わってからにしましょう》
そう言って愚痴を言う明久たちとそれを宥める召喚獣化した造。まあ、明久の言う通り真の意味でビックリドッキリなサプライズは演技する彼ら本人であるため、愚痴がついつい出てしまうのは仕方のない事である。
「もうあっという間に出番じゃな……ワシは舞台にも緊張にもある程度慣れておるつもりじゃったが、今回のような緊張感はまた新鮮じゃな……」
と、先ほどまで必死になって演技指導していた秀吉がポツリと呟く。
「やはりワシの本音としては、練習時間がもっと欲しかったのう……危惧しておった通り、やはりほとんどぶっつけ本番になってしもうたしの。と言っても今更じゃな」
「そうね……でもこの三時間で少しはマシになったんじゃないかしら木下」
「ですね、限られた時間の中で私たちは私たちのやれることはやったわけですし」
「…………後やれる事と言えば、本番で自分の演技をしっかりするだけ」
多少のぎこちなさ・経験不足、そして本来の演劇部たちの演技に比べてのレベルの差はあれど、この三時間で全員秀吉を中心にかなり頑張って何とか見せられるレベルに至ったとのこと。秀吉の指導の巧さと、それぞれの頑張りの賜物だろう。
「まあ、お主らはこの短時間で良く頑張ってくれたからの。ワシはこれ以上の贅沢を言う資格はないじゃろう———さて最後に一つだけ言わせて貰いたい」
- 番外編:ワシと自分と演劇と〜演目はバカテス童話!?〜その④ ( No.155 )
- 日時: 2015/10/11 22:16
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
そう言って全員を集める秀吉。全員の視線が秀吉に集まると、秀吉はゆっくりと見まわしてこう告げる。
「確かにお主らは半強制的にこの演劇に参加することとなったわけじゃが……これだけは心に留めておいて欲しい。どうか、失敗を恐れずに演劇を楽しんでくれ」
「「「「「「演劇を、楽しむ……?」」」」」」
「うむ。この状況で楽しめだの言われてもピンとこんかもしれぬが、演劇は本当に素晴らしいものなのじゃよ。見ている客にとっても、そして———演劇をする者にとっても楽しいものなのじゃ。だからどうか存分に楽しんでくれ。どれだけ間違えても良い。その時はワシがちゃんとフォローする。じゃから……ワシと共に演劇を楽しんてくれ。ワシからは以上じゃっ!」
秀吉の言葉に、メンバー全員は頷いて笑い合う。それと同時にステージに上がっていた司会の説明が終わり、いよいよ全員の出番が来る事に。
「さて、アンタたち。準備は良いかねぇ?良いならとっとと行っちまいな」
《ミンナ 頑張れ ガンバレ〜♪》
ついでに舞台をセッティングしていた元凶の学園長と文がステージ裏に来て能天気に激励(?)する。これにはメンバー全員苦笑い。
「では……行くかの!」
「はいっ!皆さん、ヒデさんの言う通り楽しみましょ♪」
そして———
『それではお待たせいたしました!只今より、文月学園生徒有志による創作人形劇“バカテス童話”を上映致します。どうかごゆっくりお楽しみくださいませ!』
———舞台:お城———
観客の拍手が鳴り終わると同時に、舞台にライトが当てられると学園長と文が創った立体映像が浮かび上がる。背景はどこか中世をイメージしたような城が浮かび上がり、あまりのリアルさと迫力に小学生たちだけでなくその保護者たちの『おぉ……』と言うどよめきが聞こえる。
そこへ一体の召喚獣、そう主役の秀吉の召喚獣がトコトコ舞台の中央まで歩く。ちなみにいつもの秀吉の召喚獣の装備の袴と薙刀ではなく、文の設定どおり王女———コホン、王子様の恰好をしている。その王子が中央まで辿り着くと、瑞希のタイトルコールで劇のスタートだ。
【バカテス童話〜王子さまと三バカトリオに告ぐ!眠れる姫の残したダイイングメッセージ“犯人はきび団子”の意味とは!?鬼ヶ島に眠る財宝の謎を追え!〜】
……序盤から何か変だが、とりあえず召喚獣版人形劇の始まり始まり。
「「「「《……って!?何このタイトル!?秀吉(木下)(ヒデさん)!?》」」」」
「……言っておくが、ワシが考えたワケではないからの。学園長がまた……」
勿論、このタイトルにしたのは文の強い要望だそうだ。流石造を元に誕生しただけあって、何とも残念なネーミングセンスである。そうそうちなみに……
『あはは!変なの〜!』
『そんな童話聞いたこともないよ〜』
『えー?いいじゃん!普通のより面白そうだし!』
……意外にも客受けは良いようだ。そんな造や明久たちの反応と、観客の反応に若干苦笑しつつも、瑞希は早速ナレーションに戻る事に。
【むかーし、むかしのお話です。とある国のとあるお城に、それはそれは可愛らしい———“王子さま”が住んでいました】
「睦月小学校のみんな、こんにちは!僕はこの国の王子さまです。よろしくね♪」
『『『かわいい〜♪』』』
『よろしく〜王子さま!』
『王子さまなのにかわいいね!』
『ホントに動いてる!すご〜い!』
瑞希のナレーションに合わせて、秀吉は裏で声を当てつつ、召喚獣に飛んで跳ねさせたり手を振らせたりする。そのように召喚獣が動き喋る事に小学生たちはキャッキャッとはしゃいでいる。
【この王子さまは国のどの女の人よりも可愛く、何処へ行っても“可愛い可愛い”と言われ国中から愛されていました。道を歩けば“今日も可愛いですね、王子さま”と声をかけられ、パーティに参加すれば男の人に“躍って頂けませんか王子さま?”と誘われます】
……どう考えても中の人(秀吉)の事のを言っているように聞こえるのは気のせいだろうか?
- 番外編:ワシと自分と演劇と〜演目はバカテス童話!?〜その④ ( No.156 )
- 日時: 2015/10/11 21:24
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
【ですがいつでもどこでもどこの誰からも“可愛い”と言われる王子様は、とうとう怒ってしまいます】
「うぅ……みんなみんな、僕を可愛いって言うなんてヒドイよ!僕は立派な王子さまなのに!最近はお父さまもお母さまも僕に女ものの服を着せようとするし、“王女さまになってもらうのもいいな”って言ってたし!」
そう言ってプンプンと腰に手を当てて怒っている演技をする秀吉の召喚獣。妙に力が入っている演技は、中の人(秀吉)の心の声に聞こえるのは気のせいではない気がする。
【そう、何と王さまと王妃さまにまで“可愛い王女”と言われるようになった王子さま。このままではいけないと思った王子さまは、お城で一番強くてカッコいい女騎士のところに行って相談をすることにしました】
瑞希がそう言うと同時に舞台は一旦暗転して、立体映像で映していた城が消え今度は立派な部屋が背景として映される。その背景と共に美波の召喚獣、女騎士が現れる事に。
『あ、あれ……?もしかして……お姉ちゃんの召喚獣?』
『ん?どうしたの葉月ちゃん?』
『い、いえ!何でもないです!』
美波の召喚獣は女騎士と言う設定だが、元々彼女の召喚獣は軍服にサーベルと言う設定である為ほとんど外見は変わっていないようだ。と、美波の召喚獣が本を読んでいる(ように演技をしている)と、王子さまを扮する秀吉の召喚獣が部屋に駆けこんでくる。
「女騎士、女騎士!」
「あら?どうしましたか王女———コホン、王子さま?」
「女騎士!?ねぇキミ今僕の事を“王女さま”って言いかけなかった!?」
「おほほ♪気のせいですよ、王子さま♪」
ちなみにこれは余談だが、この時美波は素で秀吉の事を王女様と呼んでしまっていたらしい。呼ばれた秀吉は『アドリブとは、島田も中々やるのう』と考えていたそうだが。知らぬが仏というものだろう。
「ま、まあいいや!それより僕の悩みを聞いてくれよ女騎士!」
「おや?ウチ———じゃなくて、私に何の用でしょうか王子さま」
「それがね、みんな僕のことを“可愛い”だの“王女さま”だの言いたい放題なんだよ。どうすればいいと思う?どうやったら君みたいにカッコよくなれるかな?」
「えっ?えーっと……」
【そう言って女騎士に尋ねる王子さま。ですが、誰がどう見ても可愛い王子さまをカッコよくする方法なんて女騎士にはわかりません。困った女騎士はしばらくの間考えて、こう言います】
「そうですね……私は王子さまをカッコよくする方法はわからないのですが、私の故郷に“鬼ヶ島”と言うとても強くて恐ろしい鬼が住んでいる島があるんです」
「オニガシマ?強くて恐ろしいオニ?」
女騎士(美波)の言葉にポカンとする王子さま(秀吉)。ちなみに、急に桃太郎の話になったことに観客席にいる子供たちや保護者たちも同じようにポカンとした顔をする。
「おい……今更だがこれ、客はこのトンデモ話の流れについていけんのか?」
「そだね……改めて思ったんだけど、この脚本ってホントに色んな物語がミックスされすぎてるよね?」
《ま、まあその辺は、ヒデさんが巧い具合に脚本を書き換えているので大丈夫なのではないでしょうか?ホラ、現にお客さんも反応は上々ですし》
『ねーねー?鬼ヶ島はももたろうのお話じゃないの?』
『別にいーじゃん!普通のももたろうより、こっちの方が面白そうだし!』
『そうだね!……ってあれ?葉月ちゃんどうしたの?』
『うーん?……あの声って、やっぱりお姉ちゃんですよね……?』
『葉月ちゃん?さっきからどうしたのさ?』
『え?……あ、何でもないですよ』
造の言う通り観客席では“普通”の劇ではない事にちょっと戸惑いつつも、これからどうなるのかワクワクしている子供たちの声が聞こえてくる。ちなみに島田さん家の葉月ちゃんは、劇の内容よりも自分の姉がどう言うわけかこの劇に参加している事に戸惑っているようだった。
「鬼とは強くて悪い妖怪の事です。その鬼はとてもとても欲張りで、色んなものを奪い取ってしまうそうなのですが……その鬼が奪った物の中になら、もしかしたら王子さまの望むものがあるかもしれませんね」
「おお!それは良い事を聞いたよ!ありがとう、女騎士!」
【それを聞いた王子さまは、女騎士にお礼を言うと部屋から飛び出して早速鬼ヶ島へ行く準備を始めます】
「……と言ったものの、“そこ”に王子さまの望むものがあるワケでは無いんですがね。王子さまは果たして“それ”に気が付いてくれるのかしら?」
と、美波が操る召喚獣が溜息と吐きつつ、そんな意味深な台詞を喋ると同時に舞台は暗転する。さてさて、とりあえず序章は中々順調な立ち上がりを見せるこの召喚獣の人形劇。このまま無事に進むのやら?それとも……?