二次創作小説(紙ほか)

番外編:ワシと自分と演劇と〜演目はバカテス童話!?〜その⑤ ( No.157 )
日時: 2015/10/12 21:04
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)

観客の反応も立ち上がりも上々の召喚獣版人形劇。さてさて場面は変わり、再び背景に城が浮かび上がる。

【お城の女騎士に、カッコよくなれる方法が鬼ヶ島にあるかもしれないと聞いた可愛い王子さま。王子さまは王さまや王妃さまに反対される前に一人で鬼ヶ島へ向かう事にしました】

瑞希のナレーションと共に、秀吉と美波の召喚獣の扮する王子と女騎士が再び現れる。

「よし!それじゃあ、後は色々と頼んだよ女騎士!行ってくるね」
「ふむそれは構わないのですが……本当にお一人で向かわれるのですか?王女———じゃなかった、王子さま」
「ああ、勿論さ!それじゃあ女騎士は僕が戻るまで、お父さまとお母さまを上手く誤魔化してね!」

そんなことを言う王女———ではなく王子を前に、女騎士は溜息を吐き……

「はいはい。わかりましたよ王子さま。ですが王子さま、どうか気を付けてください。何でも鬼ヶ島へ行く途中には“一本足の妖怪”と“冷酷な機械人形”と“暴れる百獣の王”が行く手を阻むと聞きます。危なくなったらすぐに帰ってくるのですよ?」
「ふむふむ。“一本足の妖怪”と“冷酷な機械人形”と“暴れる百獣の王”だね?ありがとう女騎士、気をつけるね!それじゃあ、行ってきます!」

【そう言って王子さまは一人、鬼ヶ島があるとされる女騎士の故郷へと向かう事にしました】

瑞希がナレーションを終えると同時に、美波の召喚獣である女騎士が退場し背景が城からまた別の背景へと変わっていく。絶えず動きまわる召喚獣やコロコロと変わる背景に子供たちや保護者、観客一同は知らず知らずにこのハチャメチャなお話を堪能しているようである。


———舞台裏———


———そうそう、ちなみに一芝居終えた美波は舞台裏で明久たちに誉められていた。

「美波お疲れ。物凄く良い感じだったよ!」
「そ、そうかしら?……あれでホントに良かった?木下よりも断然台詞とか動きとかも少ないハズなのに、ウチ結構疲れちゃったわ。こんなにも緊張するものなのね」

と、てのひらで顔を仰ぎながらそんなことを言う美波。いくら人形劇とはいえ、流石にぶっつけ本番の劇を大勢の観客に魅せなければならなかった分は緊張したようだ。……まあとは言え、

「いやいや、僕はかなり良かったと思うよ。ね、皆!」
《そうですね。とても良い演技でした、お客さんの反応も良いみたいですよ》
「だな。しっかり演技してたし、秀吉もかなり演技しやすいみたいだったぞ」
「…………お疲れ」
「そう?まあ、楽しかったからウチも良いんだけどね。あ、そろそろアキたちの出番でしょ?ふふっ、アンタらも頑張ってね!」

「「「《おうっ!》」」」

こんな具合に多少の緊張はあるものの、何だかんだでこの状況を楽しんでいるFクラス仲良しメンバー。こういう不測の事態にも割とスムーズに対処できるこのメンバーは、案外大物なのかもしれない。……まあ、日々非現実的な毎日を送っている結果がこれだろうが。


———舞台:トウモロコシ畑———


さて、再び演劇に戻ることにしよう。舞台は夜のトウモロコシ畑。鬼ヶ島へ向かう道中そのひと気のないトウモロコシ畑を、秀吉が演じる王子は一人トコトコ進んでいく。

【と、ずっと歩きっぱなしで疲れた王子さまは道の端の柵にちょこんと座り休憩する事にしました。月明かりに照らされている王子さまとその周りは、一面のトウモロコシ畑と一本足で立っている奇妙な人形のようなものが立っているだけでした】

瑞希がそうナレーションし終わると、秀吉の召喚獣の前に今度は明久の操る召喚獣が現れる。と、同時に劇を見ていたとある一人の小学生が声を上げる。

『ば、バカなお兄ちゃんの召喚獣さんですっ!』

『『『へ?……バカなお兄ちゃん?』』』

「…………はい?」

『はい♪そうですっ!葉月のお婿さんですっ!バカなお兄ちゃーん♪』

『『『お婿さん……?(小学生の婿……ロリコン……っ!犯罪!?)』』』

「え……?ちょ、ちょっと?」

『『(ムッ!)……アキ(明久君)はウチら(私たちの)嫁よ(ですっ)!』』

『『『よ、嫁……!?(男なのに……嫁っ!?……変態!?)』』』

そのたった一言から、一人の生徒の社会的立場が一気に危ういものとなったことは、おそらく容易にわかることであろう。

「って!?ちょっと待った!?僕はまだ誰かの婿にもなっていないし、嫁とかでもないからね!?てか、今の発言って一体誰が!?違うからね!?」
「これ明久!気持ちはわからんでもないが、ちゃんと演技せい!」
「ぐっ……で、でもこのままじゃ僕の社会的立場がヤバイことになるような気がするんだけど!?」
「元々お前にんなもんねーだろ。いいからさっさと演技しろや明久」
《そ、それは言い過ぎかもしれませんが……とにかく今は気にせず演技を続けましょうアキさん》
「…………客を待たせるな」
「その通り、本番中の観客のヤジ(?)をいちいち気にしてるようでは先に進めぬ。ホレ、今は演技じゃ演技」
「うぅ……ゴメン……でも納得いかない……あと雄二は後でぶちのめす」

その小学生の発言とナレーター&舞台裏の女騎士の発言に少々(?)一部の出演者と観客席に動揺が走ったが、とりあえず明久は気を取り直して演技を続ける事に。

番外編:ワシと自分と演劇と〜演目はバカテス童話!?〜その⑤ ( No.158 )
日時: 2015/10/12 21:07
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)

「(コホン)お、お嬢さんこんにちは。キミはこんな所で何をしているんだい?」

と、明久の召喚獣が王子である秀吉の召喚獣に話しかける。急に話しかけられた王子は驚きつつも、持っていた剣をサッと抜き構える。

「何者だっ!その面妖な成り形……さては鬼ヶ島に立ち塞がると言われるものの一つ、“一本足の妖怪”だな?だったら成敗してやるっ!と言うか、誰がお嬢さんだ!?」
「へ?立ち塞がる?それに一本足の妖怪って……ぼ、ボクの事かい?お嬢さん、別にボクはそんなんじゃないよ」
「だから誰がお嬢さんだっ!いいから覚悟しろ妖怪めっ!」
「いや、ボクの話を聞いてよお嬢さんっ!」

【このようにまるで噛み合わずに話が一向に進まない王子さまと奇妙な人形の二人。しばらくこんな感じでお互い不毛な言い争いを続けます。そして三十分後———】

「えーっと、それじゃあキミはお城の王子さまって事なんだね?全然そうは見えないけど」
「そ、そうなんだよ……やっとわかってくれた?ところでそう言う君は何者なんだい?」
「ボクかい?そりゃあボクは見ての通りのただのカカシさ。ただしちょっとお喋りが出来るカカシだけどね」

【ようやくお互いに誤解(?)が解けて、自己紹介をする一人の王子さまと一体のカカシ。そう、奇妙な人形の正体はカラスたちからこのトウモロコシ畑を守るお喋りなカカシだったのです】

今回の明久の役は、王子について行く三人のお供の内の一人(?)であるカカシの役だそうだ。恰好は藁のとんがり帽子にボロの服。そして背中に竿が挿してある典型的なカカシの格好である。

「それにしてもカカシ君?君はどうして喋られるんだい?」
「それはね王女———ゴホン、王子さま。ボクは本当ならある人形技師に意思のある人形として創られたんだけど、失敗しちゃったみたいでね。意思はあるけど、見ての通り藁でできたカカシになったんだ」

【そう言って哀しそうに王子さまに話をするカカシ。このカカシはそのせいでこんな誰も来ないようなトウモロコシ畑に一人でポツンと立っている事しか出来ないと言います】

「頭の中も藁でできているから、脳みそが無くて皆からバカにされるんだ。最近じゃカラスにまでバカにされる始末さ。ボクにも王子さまみたいに脳みそがあればなぁ……」
「それはそれは気の毒だね……」

……どうでもいいが、劇の中でもバカな配役にされる明久も気の毒と言えば気の毒かもしれない。ちなみにこの配役は学園長が“吉井にはこの役をやらせな”と強い要望があった為だとか。

「くくくっ!にしても明久にピッタリの役だよな。“バカで脳無し”のカカシってのはな。この前のオカルト召喚獣の時と言い、“頭が無い”ってシステムにまでバカにされるなんて流石はキング・オブ・バカの明久だ!」
《ゆ、ゆーさん、それも言い過ぎでは……?それとアキさんも落ち着いて。ね?》
「くぅ……こんのヤロ、マジで後で覚えてろよ雄二ィ……」

舞台裏では本番中にも関わらず、全力で明久を弄る雄二と、その雄二を殴りたがる明久と、その明久を一生懸命宥める造の姿があったそうだ。

【王子さまはこのカカシがとてもかわいそうに思い、自分が旅をしているワケをカカシに話す事にします】

「ねえ、カカシ君。僕はこれから鬼ヶ島に行くつもりなんだ。そこに行けばカッコよくなれる方法があるかもしれないって言われててね。そこで君も一緒に来ないかい?そこに住む鬼は何でも持っているらしいんだけど、もしかしたら君が欲しいものもそこにあるかもしれないよ」
「おお!それは本当かい?脳みそを手に入れる方法があるかもしれないね!だったらボクも王子さまと一緒に行こうかな。ああ、でもその前に王子さま。一つお願いがあるんだ」

そう苦笑いをする明久の召喚獣であるカカシ。そんな様子に秀吉の召喚獣の王子は不思議そうに首を傾げる。

「お願いだって?一体何かな、カカシ君?」
「決まっているだろう、背中に挿してある竿を抜いてくれないかな?このままじゃ動けないんだよ」

【こうして王子さまは動けなかったトウモロコシ畑のカカシを助け、今度は二人で鬼ヶ島へ向かう事になりました】


〜舞台暗転:次の場面へ〜

番外編:ワシと自分と演劇と〜演目はバカテス童話!?〜その⑤ ( No.159 )
日時: 2015/10/12 21:17
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)

———舞台:森———


【トウモロコシ畑を抜けると、今度は森が見えてきました。王子さまとカカシは夜も遅いので今日はどこかで休む事にしたようです】

瑞希のナレーションと共に、今度はトウモロコシ畑から森へと背景が変わっていく。それに合わせてBGMや効果音も変わるので、まるで映画を見ているかの如く観客は見入っているようだ。

「今日は疲れたし、休みことにしようかカカシ君」
「そうだね王子さま。と言っても、身体が藁でできているカカシのボクは休む必要はないんだけどね。疲れることは無いんだよ」
「へぇ?カカシって便利なんだね」
「まあ、その分脳みそは無いけどね」

【そんなことを言い合う二人の耳に、急に森の中から大きな呻き声のような音が聞こえてきます。驚いた二人は慌ててその音が聞こえる方向を向くと、そこには一体の鉄の機械がジィっと王子さまとカカシを見ているではありませんか!】

キィイ……と何かが軋むような音と共に、今度は康太の召喚獣の登場である。王子とカカシは驚きつつも王子は剣を、カカシは自分の背中に挿してあった竿を構える。

「…………おい、そこのお譲さんとカカシ」
「何者だっ!その鉄の身体……さては鬼ヶ島に立ち塞がると言われるものの一つ、“冷酷な機械人形”だな?と言うか、だから誰がお嬢さんだっ!?」
「あ、やっぱりキミも王子さまってお嬢さんに見えるよね」
「…………そんな事よりオレの話を聞け」
「そんな事とはどういう意味だ!いいかい、僕はだね———」

【またまた始まったこの言い争い。やっぱりどう見ても可愛らしい女の子にしか見えない王子さまは、自分の事を王子さまと説明するのも一苦労のようです】

『王子さまカワイイもんね〜』
『もう王子さまじゃなくて王女さまになっちゃえばいいんじゃないの?』
『えー?それじゃ、王子さまかわいそうじゃん』

物語だけでなく、観客の小学生たちにまでそんな事を言われる秀吉———もとい王子さま。だんだん王子が王女として見られてきている気がするのは気のせいではないだろう。

【さて、それでも何とか説明できた王子さまとカカシの二人は、今度は機械人形に何をしているのか尋ねる事に】

「それで?君はそんなところで一体何をしているんだい?」
「と言うか、キミって何者なんだい?」
「…………オレか?オレは見ての通りただのロボットだ。そしてこれまた見ての通り動けないんだ」

そんなことを言う康太の召喚獣は、見た目通り鉄の身体を持つ機械のロボット。頭にアンテナが付いており、電波を受信しそうなところ以外はそのまま何の特徴もないロボットそのもののようだ。ちなみにアンテナは地デジ非対応なので今はもう映像が映らないとかなんとか。

「動けない?そりゃまたどうしてだい?」
「…………ゼンマイが切れて、ずっと動けない。悪いが巻いてくれないか。背中にネジがあるはずだ」
「どれどれ……あ、ホントだね。それじゃボクらが巻き直してあげるよ」
「…………頼む」

【そう言ってカカシと王子さまがロボットの背中のネジを巻き直してあげる事に。一回、二回、三回としっかり巻き直してあげると———】

ウイィイイイイインと音を立てて動き出す康太の召喚獣。それにしても、どうでもいいが今時ゼンマイ式のロボットとは……これ如何に?

「…………助かった。あのままじゃ、動けずに朽ち果ててしまうところだった。お礼がしたい」

頭を下げて礼を言う康太の召喚獣もといロボット。余談ではあるが元々康太が無口で淡々と喋るところがあり雰囲気も十分出ている為、この役は彼にかなり合っているようだ。

「別にいいよ。気にしないでくれ」
「そうだね。困った時はお互い様だよ!」
「…………そうか?ところで二人はこんな所に?」

【そう尋ねるロボットに、王子さまとカカシの二人は顔を見合わせてお互いの目的を話します】

「…………カッコよくなる方法と、脳みそを捜しにか。だったらオレも手伝う」
「え?いいのかいロボット君?鬼と戦わなきゃいけないかもしれないんだよ?」
「…………助けてもらったお礼。それに———」
「ん?それに何さロボット?」
「…………オレも欲しいものがある。オレは心が欲しい」

【何でもこのロボットの話では、機械であるため心が無いと言います。元はカメラ屋のロボットだったのですが自重する心が無い為、カメラ屋で働いていた時に色々な危ない写真を撮りまくってしまい店長やお客さんに怒られてこの森に捨てられたとの事です】

「「《これ……ムッツリーニ(こーさん)の事じゃ……》」」

「…………っ!?(ブンブンブン)」
「いや、今更隠さなくても。まあ、確かにムッツリーニは自重すべきかもしれないけどさ」
「って言ってもムッツリーニだぜ?自重なんて言葉は辞書にねえだろうな」
《とりあえず前々から言っていますが自分らをこっそり写真に撮るのは止めましょうね、こーさん。あまつさえそれを許可を取らずに商品にしないでくださいね》
「…………なんのことかさっぱり」

「「《…………へー(棒)》」」

「…………(プイッ)」

瑞希のナレーションが流れる間、舞台裏ではそんな会話が繰り広げられていたとかいなかったとか。

「(ゴホン)それなら一緒に行こうじゃないかロボット。いいだろう王子さま?」
「そうだね。これからよろしくロボット君」
「…………よろしく。それじゃあ記念に二人の写真を撮らせてもらう」
「……一応聞くけど、それは何に使うのロボット君?」
「…………高値で売りさばく」

「「自重しろっ!」」

【そんなわけで、王子さまの鬼ヶ島までの旅にまた新しい仲間が加わりました。王子さまにカカシにロボットと、何だかとってもおかしな一行には果たしてどんな困難が待っているのでしょうか?】

そのナレーションが終わると、舞台はまたもや暗転する。さてさて、色々な意味で先が見えないのは出演している造や明久たちも同じ。演劇自体もこの後の展開も文と秀吉が創作したこの物語も———これから一体何処へ向かうのやら?