二次創作小説(紙ほか)

番外編:寒い日は鍋が一番!〜闇鍋?病み鍋?暗黒鍋デス〜その⑤ ( No.219 )
日時: 2015/12/27 21:28
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

造Side


いよいよ始まった恐怖の闇鍋。最善は尽くしましたし後は無事に生還できることを祈るのみ。鍋が煮えきるまでの、静寂の時間がゆっくりと流れ数分後———

「そろそろ、ですかね。火を消しましょう」

しゅんしゅんグツグツと音を立て蓋を蒸気が持ち上げる様子をしばらく観察した後で、コンロのつまみを回してガスを絞ると三度目の暗闇が訪れます。

「いよいよね」
「……ドキドキする」
「どんな味になっているのかな〜?」
「では、開けてみますね。アキさん、鍋掴み貸してください」
「オッケー、よろしく造」

アキさんから鍋掴みを借りて、鍋の蓋をゆっくりと持ち上げます。すると、そこからツンッとしたタバスコ特有の臭気がリビングいっぱいに漂います。

「「「う……」」」

そのにおいに思わず顔をしかめるAクラス3人の気配が。あー……それに関してはちょっぴり自業自得ではないかと。こうなるってわかってたはずでしょうに、3人全員がタバスコなんて入れるから……ま、まあ本来はパーティゲームのようなものですしこれも一つの楽しみ方ではあるでしょうが。

「じゃあ、いよいよ闇鍋スタートだね!」
「はいっ!気合い入れていきましょー!」

アキさんの開始宣言と共に、最後の仕上げに自分、ヒデさん、こーさん、島田さんの4人が真っ先に姫路さんの投入した物体Xを包み込んだキャベツの回収に急ぎます。本来は真っ暗で何も見えず何を取ったかわかりませんが、4人の座っている正面にキャベツの端が来るように計算して配置しているので作戦は完璧。このまま鍋の中に箸を入れ、キャベツの四方を挟んで一気に引き上げてあらかじめ用意していたタッパーの中に入れれば、誰も傷つくことなく処理できるはず!

「「「「(———捉えた!)」」」」

箸の先に当たったキャベツを挟み込みます。4人が全く同じタイミングでキャベツを掴んだことが気配で感じると、決して落とさぬようしっかりと改めて挟み込み心の中で掛け声をあげて皆さんで一気に取り出します———せーのっ!












ざばぁ…… ←真ん中に大穴があいたキャベツの層


「「「「…………」」」」

……………………は?

い、いかん。一瞬、完全に思考が停止してしまいました。え、え?ははは、何かの間違い、ですよね?きっと暗くてよく見えなかっただけ。こんな、こんなおかしなこと、まさかね?

一度何も見なかったことにして、頭を振って目を擦ります。大きく深呼吸して再び箸で掴んでいるキャベツを見直す自分たち。


ざばぁ…… ←真ん中に大穴があいたキャベツの層


「「「「…………(ぽろぽろぽろ)」」」」

「(み、美波に造!?ど、どうしたの!?)」
「(ひ、秀吉にムッツリーニも応答しろ、何があった!?)」

ただ静かに涙を流して作戦の一つが失敗したことを知らせる自分たち。どうして……?もしものことを考えてこれでもかと言うくらいキャベツを重ねて挑んだと言うのにどうして……?少し目が慣れてきたので零れ出る涙を拭いてよく見てみると……どういうわけか未だにジュワジュワとキャベツが溶けつつあることが確認できました……もうだめだコレ……

「(あ、安心するんだ皆!まだ希望は残っているよ!)」
「(そ、その通りだ!まだ三重防壁は機能しているはずだからな!)」

そう小声で告げ、防壁が機能しているうちに物体Xを今度はお玉で回収しようと試みるアキさんとゆーさん。パパッと取り出した二人の取り皿の中には———


どろり ←溶解したこんにゃく・豆腐・出汁取り昆布・長ネギ・人参・お麩の欠片


「「だ、大事な防壁がぁあああああああああああああああああ!?」」

「ど、どうしたんですか明久君に坂本君!?」

———三重に作っておいた防壁が型である長ネギやサポート役のお麩、更には支柱にするために生のまま入れた固い人参までもがドロドロに溶けていました……なぜ?Why?何と反応してるんですかコレ?鍋物なのに化学反応が起きるって一体全体どういうことなの……っ!?

「いや……何でもない(恐ろしい奴だ姫路……俺らの小細工なんか相手じゃないってワケか)」
「ゴメンゴメン瑞希、気にしないで(……僕らは所詮小者だったようだね、色んな意味で格が違ったよ)」

まさか防壁ごと破壊してこようとは。彼女の一手は自分やゆーさんたちの知恵を総動員させて編み出した決死の小細工とはレベルが違いました。ただ純粋な圧倒的破壊力、それだけでこの幾重にも張った策を粉砕してくるとは……完敗です。

「造くんに秀吉、今日はなんか変よ?どうしたのよ」
「……雄二、もしかして具合悪い?」
「こーたくんひょっとして調子悪いのカナ?」
「明久君、美波ちゃん食べないんですか?」

何も知らない彼女たちは、絶望に駆られている自分たちを横目にそう尋ねつつ取り皿に具材を取って食べる準備します。……それがとても恐ろしい化学兵器だと知らずに。

「いえ、たべましょう……たべたくないですが」
「ああ食べる、さ……その前に、明久頼む」
「OK雄二、皆も行くよ———天にまします我らが父よ……」

ここまでやって、自分たちの無力を悟った後はもう天にお祈りするほかありません。アキさんの祈りに続き被害者の会フルメンバーで無心に祈りを捧げます。

「秀吉、アンタいつもそこまで真剣にお祈りなんてしてたっけ?それに造くんまで……」
「……雄二ってキリスト教徒だっけ?」
「わ!すっごいね、こーたくんってちゃんと食べる前にお祈りしちゃうんだ」
「私たちもやったほうが良かったでしょうか明久君、美波ちゃん」
「うん、出来ることなら皆で一緒に。本気でお祈りしよう———(ボソッ)僕らは大事な人と友人を失いたくないし」

アキさんの提案で他の4人もお祈りを。神様……どうか我らをお救いください……

「———アーメン」

「「「「「———アーメン」」」」」

十字を切って、いよいよ審判の時来たり。とりあえず敵の戦闘力を調べるため、改めて取り皿の中のものを暗闇の中で観察することに。温かな湯気と共にタバスコ特有の刺激臭がしてきます。……あれ?この湯気タバスコ入りとは言え、それ以上に目に染みて———

「つつつ、造よ!?気のせいなのかワシにはこの湯気が紫色に見えるのじゃが!?」
「き、気のせいじゃないですね……皆さん気を付けて!この湯気下手したら目を傷めかねな———」
「…………し、染みる……!?」
「ぐうぅ!?め、目が!目がぁ!?」
「や、やっぱり!?こーさん、アキさん大丈夫ですか!?」
「アキしっかり!?駄目よ慌てちゃ!」
「落ち着け明久、ムッツリーニ!暴れて鍋を引っくり返したら終わりだぞ!?」
「ゆ、ゆーさん!アキさんを押さえておいてくださいっ!自分はこーさんを!」

なんということでしょう、湯気だけでダメージを負う自分たち。これで鍋を引っくり返して人体にかかってしまったら大惨事になる気がしてなりません。耐性の無い皆さんもいますし、それだけは避けねば。

番外編:寒い日は鍋が一番!〜闇鍋?病み鍋?暗黒鍋デス〜その⑤ ( No.220 )
日時: 2015/12/27 21:21
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

「あら、何だかとっても楽しそうじゃない」
「……雄二たちはしゃいでる」
「こーたくんたちはいつも楽しそうでいいよねー」

異常事態に気付いていない女性陣。き、気を付けてください!?食べる以前ににおいや湯気だけですでに一級品の破壊力持ってますよコレ!?

「待ってください優姉さん!食べちゃダメですっ!」
「しょ、翔子!まだ食うな!ちょ、ちょっと舐めるだけだぞ!?」
「…………工藤、試すならほんの一滴だけだからな……っ!」
「大げさね、そりゃアタシもちょっと面白いもの入れたけど大丈夫よ」
「……うん、そんなに怖がることはない」
「そうそう、それじゃいただきまーす!」

無防備に口にしようとするお三方に、ひとまず一滴舐めるだけと忠告します。笑いながらも一応自分たちの言う通り、取り皿を持ち上げほんの少しだけ汁を啜ると———

『……においほど、変な味でもない』
「翔子ぉ!?おま、お前の声が何故か直接脳に響いてくるんだが、魂はちゃんと身体の中に入っているのか!?しっかりしろぉ!?」

「「きゃああああああああああああああ!?」」

「あ、姉上!?なんじゃその反応は!?食材を口にして悲鳴を上げるなぞおかしかろう!?」
「ゆ、優姉さん!?だ、大丈夫ですかホント!?何です今の断末魔的な叫びは!?」
「…………普通は“美味しい”か“不味い”の一択だろう工藤!?」

霧島さんの背中からは白いぼやっとした魂的なものが出ているのが見え、優姉さんと工藤さんは悲鳴を上げて倒れます。いやいやいや!?どの反応もおかしい!?食べ物を食べた後の反応じゃないでしょこれ!?そ、それ以前に———三人ともテーブルに突っ伏して動きません!?い、意識がない!?

「しょ、翔子ちゃん!?愛子ちゃんに優子ちゃんもしっかりしてください!?」

姫路さんが大慌てで倒れた三人に呼びかけます。ヤバイ……これで起きなければすぐに救急車を呼ばねば……

「う……な、なにあの味……」
「……食べ物とは思えない」
「ぼ、ボクもちょっとあれは……」

三人とも頭を振ってゆっくりと上半身を起こします。よ、良かった一命は取り留めたようですね……先に食べるなら少しだけと忠告しておいて本当に良かった……

「う、うぅん……酷い目に遭ったわ……」
「……臨死体験」
「ボクあんな味は初めてだったよ……」

飲み物を口にして、息を整える三人。その三人を見ながら被害者の会フルメンバーは静かにアイコンタクト。これ以上耐性の無い人は耐えられない……自分たちで処理しなければ、と。

「コホン、瑞希お願いがあるけどいいかな?」
「は、はい?明久君何でしょうか……?」
「キッチンにさ、美波が買ってきてくれた胃薬があるんだ。取ってきてくれないかな」
「あ、それと悪いけど人数分のお水も用意しておいてくれるかしら?ゴメンね瑞希」
「は、はい!今すぐ行ってきます!」

優姉さんたちやこれから処理する自分たちの胃のために、姫路さんの避難も兼ねて彼女に胃薬を取ってきてもらうことに。覚悟は決まりました……策がまるで通じなかった以上、こうなれば全力で当たって砕けるのみ。砕けるのは魂と肉体ですが。

「それでは、逝きましょうか」
「うむ……共に逝こうかの造」
「やれやれ、結局逝くしかねえのか」
「…………工藤、逝ってくる」
「アキ、瑞希がキッチンにいるうちに逝くわよ」
「オッケー、皆で逝けば怖くないもんね」

全員、“行く”の字が違う気もしますが、大体あってるので気にせずに。大きく深呼吸し眼前の敵を見つめて食すため取り皿を手に取ります。

「ちょっと待ちなさい!?これ食べる気なの!?だ、駄目よこんな……あ、アタシが余計なもの入れたから……」
「……雄二、それに造に皆も食べちゃ駄目。私が変なもの入れたせいで……」
「そうだよ!?ボクが普通は食べられないようなもの入れたせいでこうなったんだし、こーたくんたちが食べることないってば!?」

どうやらご自身の入れたタバスコが原因と勘違いしているAクラスの三人が、必死になって自分たちを止めます。いや貴女方が原因ではないので大丈夫ですよ、とは言えませんが、気遣ってくれる彼女たちがこれ以上この暗黒鍋を口にしないためにも———

「では、イタダキマス」

「「「「「イタダキマス」」」」」

———無理やり自分たちの口に鍋のスープを押し込めます。

『ほ、本当に食べた!?み、瑞希急いでお水持ってきて!?造くん、秀吉!気をしっかり保ちなさい!』

……ああ……この感覚……不味いです、ね……意識が……

『……雄二、しっかりして……!死なないで……!』

……もう、意識が……

『こ、こーたくん……なんて無茶をするの!?キミがいなくなったらボクは……ボクはどうすれば!?』

意識が……






——————なくならない……?

「あ、あれ?無事……ですと?」
「ホントだ、全然平気じゃないか」
「う、ウチも平気……実はあの世とかってオチじゃないわよね?」
「いや、現世のようだな。なんだ意外と大したことねーな」
「…………どうということはない」
「うむ、辛い(つらい)ことは辛い(つらい)が、耐えられぬレベルではないのう」

どういうわけか被害者の会全員無事に生還。意識を失うことも無ければ走馬灯が見えるわけでもないとは正直拍子抜けです。あれー?これって一体どういうことでしょうか……?

「もしかして……耐性が更に出来上がってきたのでしょうか?」
「なるほどね、そりゃ事あるごとに口にしてたからね」
「まあ、複雑な気分だがな。んじゃ何とかなるってわかったし処理———もとい食うとすっか」

タバスコと溶けた具材の混ざったスープを絡めて、人参や長ネギなどをパクパクと食べることに。耐性もそうですが、どうやら皆さんで入れた具材のお陰で普段よりも姫路さんの料理の攻撃力が弱まっているようですね。若干舌と手足は痺れますが、問題なく食べきります。

「な、なに食べてるのよ!?無理しちゃダメよ!?」
「……雄二、そこまでにしておいた方がいいと思う」
「こーたくん、その……ホントに大丈夫なのカナ?」
「お、お水とお薬持ってきました!皆さんどうぞ!」

一応念のため最後に姫路さんが持ってきたお水と胃薬を飲んで全員の無事を喜びます。平然と完食してしまう自分たちを見て、Aクラスの三人は戦慄していましたが———ともあれ一人も欠けることなく作戦終了。ご馳走(?)さまでした。

番外編:寒い日は鍋が一番!〜闇鍋?病み鍋?暗黒鍋デス〜その⑤ ( No.221 )
日時: 2015/12/27 21:05
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

〜その帰りの造&秀吉&優子〜


「———それにしてもすごい怖い闇鍋だったわね……ゴメンね、アタシがタバスコなんて入れたばっかりに。大丈夫二人とも?気持ち悪くなったりしてない?」
「あ、いえ……大丈夫ですよ。それにアレは優姉さんのせいじゃないので」
「真に怖いのは闇鍋ではないからの……」

闇鍋、いいえ暗黒鍋を乗り越え本日優姉さんとヒデさんのお家にお泊りの自分は3人で今日の感想を述べつつ木下家に向かいます。死を覚悟しましたが、結果的に無事全員生き残れましたし、何だかんだで楽しかったですよね。……正直もう二度と闇鍋なんてしたくありませんけど。

「ところで話変わるけど、瑞希と美波はまだ帰らないみたいね」
「後片付けして帰るそうですよ。お二人ともご両親が遅くに帰るらしいですし時間もあるからと。ただ島田さんは葉月さんが待っていますし片付けが終わったらすぐに帰ると言ってましたが」
「夜道を女子二人で歩かせるわけにもいかんから、明久が片付けが終わり次第まとめて家に送ってやると言っておったしの」

本来なら自分たちも残って後片付けを———と言いたいところでしたが、まあアキさん大好きなお二人の邪魔をするのもなんでしたし、片付けはお任せして別れました。送り迎えも含めてアキさんがいるなら大丈夫でしょうからね。と、そんな談笑をしていると———


PRRRRR! PRRRRR!


「———あら?アタシの携帯……師匠から?」
「え、サクヤさん……?」
「日高先生じゃと?」

突然優姉さんの携帯が鳴り響きます。しかも相手はサクヤさんときましたか。ふむ……恐らく自分は機械音痴ですし携帯がまるで使えないので、連絡が通じそうな優姉さんに電話してきたってところですかね。

「出てみるわ———お待たせしました師匠。どうかしましたか?……はい?え、えっと……ちょっと待ってくださいね。今造くんに代わります。造くん、お願い。(ボソッ)なんか師匠とても焦っているわよ」
「?ええ、ありがとうございます優姉さん———もしもしサクヤさ……」

いぶかしげな表情をしながら優姉さんが自分に携帯を渡してくれます。手に取って電話に出ると———

『造ぅ……!すまん……!ストで、動けん……!ごめんなぁ……!』
「…………は、い?あの?サクヤさんどうしました?」
『会えない……さみしいぃ……最悪……泳いで、帰るぅ……まって、待ってて……うぅ……』

何ですこれ?嗚咽交じりでよくわかりませんが、サクヤさんがえらく取り乱しているようですね。と、電話の向こうでそんなサクヤさんから誰かが電話を代わった気配が。

『サク姉さん落ち着いて。私が事情を話しますので———もしもし、造さん。蒼です、聞こえますか?』
「あ、はい。蒼兄さん聞こえますよ。それで、何があったのですか?」
『あー……それがですね。空港がスト状態になりまして』

自分専属の執事さんで、兄貴分の蒼兄さんがそう自分に電話越しで伝えます。……スト?ストって……アレですか?ストライキ的な……

「ストって、もしかしてストライキのことですか?」
『そうです。それで……そのストのせいでですね、飛行機が飛ばせないらしくて』
「あ、あー……大体わかってきました。それでサクヤさんがあれほど取り乱して……」

どうやら向こうでストライキが起きて飛行機が飛ばず、予定の日程より遅れて帰国することになったってことですね。それでサクヤさんが泣いている、と。

『はい。本来なら三日もすれば帰れると思っていましたが、この分ではいつ帰れるかわかりません。申し訳ないですがしばらくは戻れませんので』
「ええ、わかりました。心配なさらずともこちらは大丈夫です。寧ろ蒼兄さん———」

『と言うことは、まだまだ遊べるってことねー♪さあ観光行くわよー!』
『お、奥様落ち着いてくださいね!?こういう場合は空港で待機を———』
『やー!飛ばない飛行機待ってたって意味ないもの。さあ遊ぶわよー!』
『と、止めろ奥様を!?見失うなよ野郎ども!』
『…………こうなりゃ、海の上走る……造に、会いに行く……だいじょうぶ、アタシならできる……最悪の場合力を解放すれば余裕で……』
『さ、サクヤ姐さん!?姐さんならやれそうですがホントに実行しないでくださいね!?』
『蒼兄貴ッ!奥様と姐御がヤバイっ!?至急援護を!?』

「———ほんっとに、申し訳ありませんが。そこの暴れている二人の子守をどうか頼みます……」
『……気が重いですが、承りました。では、そういうわけですので……』

そう言ってバタバタと電話を切って問題児二人を止めに行った蒼兄さん。海の向こうで応援しています、蒼兄さんにお手伝いさんたち。皆さんがんばれ、超がんばれ。

「優姉さん、携帯ありがとうございました。もう大丈夫ですよ」
「そう?それで要件は何だったのよ結局」
「日高先生も蒼殿も、随分取り乱しておったようじゃが?」
「お気になさらず、いつも通りちょっと母さんとサクヤさんが暴れているだけのようです」

「「あー……なるほど」」

「さて、もう大分遅いですし急ぎましょう。自分お泊り楽しみなんですよね♪」

優姉さんとヒデさんに心配かけないようにそう返します。それにしても、ストですか……蒼兄さんやお手伝いさんたちのためにも早く解決してくれればいいのですがね。とりあえず明日にでも西村先生と学園長にサクヤさんが戻ってこれないと連絡しておくとして……


———同時刻:吉井家———


「———へ?空港で、スト?」
「そ、そうみたいです。飛行機が飛ばないとかで父も母もすぐには帰れられないらしくて」
「ストですか……アキくん。テレビを」
「うん、了解わかった」


ピッ!


『それでは中西さん。空港は当分使用可能になる目途は立たないと言うわけですね』
『はい、どうやら空港に勤務する人々の不満は大きいようで、労働条件の改善を求める動きは依然止まる気配を見せません。暴動などの不安は無いようですが———』

「あちゃー……これはまた」
「ああ、この国ですか……幸いこの国は治安は良い観光の国ですが、困りましたね」
「ええ。ですが父も母も心配ないそうです。玲さんの言う通り治安自体は良いようですし、いつになるかわかりませんがのんびり帰ってくると思いますよ」
「……瑞希も、かぁ……困ったものよね」
「あ、美波電話終わったんだ。ん?というか“瑞希も”って、何が?」
「いや、そのさ……ウチの両親もちょうど今この国に行っててさ……」

「「……ま、まさか美波(ちゃん)も……?」」

「う、うん。たった今両親から連絡あってね。しばらく帰れないって。それでさ、アキ。それに瑞希に玲さん。片付けの途中で悪いんだけど今すぐ帰るわ。葉月が完全に一人だし心配になってきちゃってね……」
「あ、うん。片付けはいいけど……美波も瑞希も今日はご両親いないってことだよね」
「まあ、そうなるわね。ウチも葉月も慣れてるけど……瑞希は大丈夫かしら?」
「はい、それくらい私は大丈夫ですよ」
「でもその間一人暮らしってことになるでしょ瑞希。最近は物騒だし、だったらちょうどいいし瑞希か美波のどっちかの家に葉月ちゃんと三人で泊まるとか……」
「待ちなさいアキくん。それよりもっといい案がありますよ」

「「「姉さん(玲さん)?」」」

「アキくんの言う通り最近は物騒です。女の子だけで留守番するのは危ないです。そこで、どうせでしたら瑞希さんも美波さんも、それに葉月さんも———ご両親が戻られるまでこの家に滞在しませんか?」

「「「…………え?」」」

……ちなみに。このストが新たなFクラスの非日常的な事件の火種になるとは、この時の自分もそしてアキさんたちも全く想像していませんでした。