二次創作小説(紙ほか)
- 139時間目 ( No.283 )
- 日時: 2016/03/11 21:04
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
———旧校舎1階:生活指導室———
造Side
「あ、あの……?皆さんどうしてこんなことを……?」
「そ、そうよ!?アンタら何やってんのよ!?」
「もうすぐCクラス戦ですけど……あの、遊んでいる暇はないと思うのですが……?」
Cクラス戦まであと数十分、そんな中補充試験室(今回は生活指導室)で待機をしようとした矢先閉じ込められてしまった自分と姫路さんと島田さん(+福原先生)。閉じ込めた相手はと言うと……まさかの彼ら。
『遊び……?いやいや、違うんだよ造ちゃん、それに姫路に島田。我々は決して遊んでなどいない』
『我々には崇高な使命があるのだよ……悪いとは思うが我々の使命の為、キミたちには少しの間そこにいてもらう』
『何、すぐに終わるさ。終わり次第すぐに解放すると約束しよう。我々の———“Fクラスの変”が終わりさえすれば……!』
「「「Fクラスの変……!?」」」
扉に外から鍵をかけられ、その唯一の窓付き扉から見えるのはどこから持ってきたのか、机や椅子やぎっしり中身の詰まった段ボールに更には古びたロッカーやハードル鉄アレイなどを積み上げて誰も入れないようにしながらよくわからないことを口に出している———自分たちFクラスのクラスメイト達の姿。な、何をやっているのですかコレ……!?
と、もうほとんど周りの様子が見えなくなるほどバリケードを作り満足したのか、ゆっくりと近づく一人のクラスメイトの姿が。
『手荒な真似をしてすまない諸君。だが諸君らに下手に動かれては困るのでね、事が済むまではそこで大人しくしていてもらう』
「え、えっと福村くん……?あの、一体コレは……?」
「Fクラスの変って何のことですか……?」
「バカをやってないで開けなさいよ!Cクラス戦もうすぐでしょ!?」
そんなことを言うのは自分たちのクラスメイト、2-F所属の福村幸平くん。そんな福村くんに意味がわからずまくしたてるように尋ねる自分たち三人。その自分たちを意に介さず福村くんはこう続けます。
『Fクラスの変が何か、か……これは須川会長の意思であり我々の悲願である。それに比べたらCクラス戦、Aクラス戦など児戯に等しいものだな』
「いえ、ですからそれはどういうモノなのですか……?Fクラスの変だなんて、まるで本能寺の変のようなネーミング———」
ふと何故かそんな例えを思いついて、福村くんに尋ねると……何だか物凄い形相になる福村くん。大きく息を吸い込んで———
『造ちゃん、良い読みだ。そう、Fクラスの変それは———須川会長が宣誓した全リア充共を滅する宣言を叶えるため、手始めに我がクラスの3名の異端者である吉井・坂本・ムッツリーニをFクラス内部から亡き者とする計画であるっ!!!』
『『『異端者共は———抹殺じゃああああああああああああああ!!!』』』
「「「…………は、い?」」」
更にワケのわからない宣言を校舎中に響き渡りそうなくらいの大声でする福村くんたち。りあ、じゅう……撲滅……?それに……アキさんたちを亡き者に……?え、えっ!?何言ってるんですか皆さんは!?
『まずは異端者筆頭吉井明久。この世界一のバカはそこにいる姫路瑞希並びに島田美波、更には綺麗なお姉さんや愛らしい小学生と同棲生活を送っているそうじゃないか———こんな横暴、神や閻魔が許しても俺たち異端審問会が許さん……火あぶり・鞭打ち・拷問だけじゃあ生温い、徹底的に痛めつけ輪廻すら絶たせなければならない』
何だか真顔でとんでもないことを言っている福村くん。これにはアキさん大好き二人組が必死になって抗議します。
「ち、違いますっ!この前言いましたけど、私たちのは同棲ではなくてですね!?」
「ウチらの両親がストライキに巻き込まれて、安全のためにアキの家に泊まらせてもらってるってちゃんと説明したでしょ!?」
その抗議に静かに首を振る福村くん。周りのクラスメイトたちもわかっていないなと言いたげに彼に続いて首を振ります。
『違う、違うのだよ……そう言う問題じゃないのだよ姫路に島田よ。良く考えてみてくれ……あの世界一のバカが美少女たちと同じ屋根の下で生活するんだぞ……?』
「?そ、それが一体どうしたんです———」
『そんなん———羨ましいんじゃボケェ!?どんな理由があろうとも納得いくわけないだろうが畜生めえええええええええええええ!!!それに、だ!忘れたとは言わせんぞ今朝の会話をっ!』
そう言って手に持っていたボイスレコーダーを怒りで手が震えながらも再生ボタンを押す福村くん。そこから聞こえてきたのは———
『ほらアキはしっかりしなさい。夜にちゃんと寝ないからよ。って、あららまた寝ぐせが……ふふっ♪押さえておいてあげる』
『明久君、ネクタイも曲がっちゃってますよ。じっとしててくださいね———はい、出来ました♪』
『う、うん……ありがと二人とも。な、何か照れるね』
「「「っ!?」」」
———今朝のアキさん・島田さん・姫路さんのとても微笑ましい初々しい、例えるなら新婚さんたちのようなあまーい会話。そ、そう言えばそんな会話あったような無かったような……その再生を聞き終わるとボイスレコーダーを床に叩きつけ般若の如き形相で粉砕する福村くん。こ、これはマズい……
『ぜぇ、ぜぇ……コホン。な?諸君らもわかっただろう?———吉井ィ!キサマなーにが“照れるね”だゴラァ!!?見せつけてんじゃねーぞバカのくせによぉ!?彼女無しの俺らに当てつけてんのかクソがぁああああああああああああああ!!!』
『『『羨ま死刑じゃ吉井イイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!』』』
福村くんを筆頭に先ほど以上に割れんばかりの悲鳴に近い絶叫と共に叫び狂うクラスメイト達。中には言葉すら失い暴走しつつあるクラスメイトの姿も。
『坂本、ムッツリーニも同罪だっ!坂本は霧島と同棲予定でありあろうことか婚姻予定もあるそうじゃないかっ!?裸ワイシャツで共に寝た、(おでこに)キスをしたとの情報も入っている……ッ!それにムッツリーニも工藤とキスまでした上に愛妻弁当まで作ってもらっているほど仲良く付き合っているとの噂になっていやがる……ッ!?両名事実でなくても噂が流れるくらい仲の良い証拠であり、事実であるなら1000回ブチ殺しても気が済むわけないわぁあああああああああああ!!!!』
『『『ブチコロ!ブチコロ!!ブチコロォ!!!』』』
どこから取り出したのか鉄パイプや木刀をもって壁をガンガン叩いて興奮している皆さん。いつも以上に世紀末に見えてしまうのは絶対に気のせいじゃないハズ。
「あの、君たち待ちなさい」
「っ!福原先生……!」
と、流石に見かねた自分たちと共に閉じ込められた補充試験監督兼採点役の福原先生が、皆さんに説教するために前に出てきてくれます。よ、よし……流石に先生に怒られるくらいなら皆さんこんなことは止めてくれるハズ。
「冗談であれ何であれ、学校内でそのような危険なことをされるのは一人の教師として見過ごせな———」
『『『あぁん!?ただの教師が俺たちに何の用だゴラァ!!!』』』
「———何でもありません。続きをどうぞ」
「先生っ!?そこはちゃんと叱るべきだと思いますよ!?」
こんな恐ろしい剣幕で声を荒げられたら仕方ないとは思いますが、どうやら福原先生では止められませんねこれ……西村先生か大島先生あたりじゃないと無理かも。
「で、ですが何でこんなタイミングで……し、試召戦争は良いのですか!?負けちゃったらクラス設備のランクが下がっちゃいますよ!?」
先生ですら止められないとは言え、このままでは本当にアキさんたちが危ないです……ボーっとしているわけにもいきません。必死に話題をアキさんたちから試召戦争へ向けようとしますが、皆さん聞く耳持たない様子でこう返します。
『別にいいのだよ造ちゃん……奴らを地獄に送れるならそれでナァ……!それにこのタイミングだからこそ、だ!打倒Aクラスとのたまっている坂本達はこれで“逃げられなくなった”のだからな……!“彼女”に従った甲斐があったものだ……!』
「……は?逃げられなくなる……彼女……?…………っ!まさか……!?」
“逃げられなくなる”“彼女”そして今の状況……自分の頭の中にある仮説が浮かび上がってしまいます。ま、まさかこれって……今日戦う“あの人”の作戦なんじゃ……!?そんなことを思いついてしまった自分や困惑している姫路さん・島田さんをよそに、福村くんは背を向けて最後にこう言い放ちます。
『と言うわけで、名残惜しいが諸君らとのおしゃべりもここまでだ。我々は今すぐ須川会長たちと合流し異端者どもを処刑しなければならない……この崇高な計画を邪魔するであろう諸君らは、一時的に監禁させてもらったワケだ。姫路、島田……君たちもある意味当事者だ。そこで反省して吉井の事は忘れることだな。そして巻き込んでしまった造ちゃんは———後でお菓子あげるから大人しく待っておくんだ。お兄さんとの約束だぞ』
- 139時間目 ( No.284 )
- 日時: 2016/03/11 21:05
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
その言葉を最後に福村くんは踵を返して去っていきます。そしてそのままダメ押しにさっきまで彼が立っていた場所にもバリケードを張り完全に出られなくなってしまいました……
「やめてください!お願いです……明久君に酷い事しないでください……!」
「アンタたち……!アキに何かあったらタダじゃ済まないんだからね……!」
そんな二人の悲痛な叫びも空しく、アキさんたちを滅するべく階段を上がっていく福村くんたち。やられた……ふと、この前のアキさんの家でのゆーさんが話していた事を思い出します。
『———これもあまり楽観的に考えられない問題かもな』
『今朝の出来事を思い出してみろ。明久の同棲が判明した途端、FFF団が大暴れしただろが』
『いくらストが終わるまでとは言え、一つ屋根の下こんな頭悪くて甲斐性無しのバカとクラスの数少ない女子が一緒に暮らすんだぞ、普段ちょっと女子と話しただけで審問会開く連中がこの事実を見過ごせると思うか?クラス内の士気に影響がないわけないだろが』
『下手しなくても長引けばアウトだな』
———確かに、ゆーさんの仰る通りストライキが長引いてアキさんたちの同棲生活も長引けば、皆さんのモチベーション的な意味で良くないとはわかっていました。わかってはいましたが……見通しが甘かった……!彼らの嫉妬心を甘く見てはいけなかったのですね。アキさんたちの同棲が始まってから、すぐにでも対応すべき問題だったなんて……!
「ど、どうしましょう美波ちゃん、月野君……このままじゃ明久君たちが……!」
「くっ……ここ生活指導室だから生徒が逃げ出さないように出入口がこの扉だけなのよね……今頃アキたちは……」
「落ち着いて二人とも。こうなれば仕方ありません。今すぐどこか脱出できる場所がないか探しましょう」
マズい、これは本当にアキさんたちが危ないです。殺気に満ち溢れた彼らの話しぶりを察するにアレは本気も本気でした。このまま放っておけばアキさんたちの命が———とは言え鍵だけでなくバリケードまでも張られたこの状況でどうすべきか。
島田さんの仰る通りこの場所は窓すらないため外へ脱出も出来ません。おまけにとても強固な作りの部屋ですし壁を壊そうとしてもちょっとやそっとじゃ壊れないでしょう。唯一の出入り口が封じ込まれた以上何か他の脱出方法を考えないと……
「どこかに……どこか……外に通じる場所さえあればアキさんたちを助けに行けますのに……」
必死に三人(+先生)で突破口を探します。扉も使えず窓も無し、ですが何か……何か残る手段が必ずあるはず。必ず———
「…………あっ!」
———旧校舎:4階———
明久Side
防衛戦であるD,Eクラスとの試召戦争も何とか乗り切り、今日が防衛戦の山場であるとされるCクラス戦。そんな重要な戦いがあと少しで始まるにもかかわらず。
『死ねええええええええ!吉井いいいいいいいいいいいいいいい!』
『クタバレ坂本おおおおおおおおおおおお!』
『大人しくFクラスの変の制裁を受けやがれや邪教徒らめがあああああああ!』
『『『地獄に墜ちろや異端者共があああああああああああああああああ!!!』』』
「「危なっ!?」」
仲間であるクラスメイト達が“Fクラスの変”なんて意味がわからない事を呟きながら、全員敵意と殺意むき出しで僕と雄二に襲い掛かってきた。
「テメェら全員落ち着きやがれ!もう時間がねぇだろが!もうちょいでCクラスが攻めてくるんだぞ!?こんなところで負けたら、もう次はないかもしれねぇんだぞ!?」
攻撃を回避しながら怒鳴る勢いでクラスメイトと言う名の暴徒に説得を試みる雄二。
『おうよっ!わかってるぜ、俺も“貴様らに”次は無いって思ってる!Cクラス戦楽しみにしてたんだぜ異端者共よ!めちゃくちゃ待ってたんだぜこの時を!』
『安心しろ坂本!今日まで存分に“殺れ”なかった分、めいいっぱい“殺って”やるよ!』
『点数補充も十分やったし、心置きなく討ち取りに行くからな!———“坂本、吉井、ムッツリーニの三人を”ナァ……!』
が、雄二の説得も虚しく、彼らが攻撃の手を緩めることはない様子だ。FFF団を率いている須川君たち曰く、この暴動の原因はまさかの僕と瑞希と美波(と葉月ちゃんと姉さん)の同棲と普段の僕らと女性陣の関係がどうしても憎くて憎くて仕方がなかったからだとか。……ぎゃ、逆の立場だったら確かに僕もそっちに付いたかもしれないけど……同棲は元々ストが原因であって僕の問題じゃないのに……!
そんなことを考えていると、中距離用に持ってきたであろう鞭を手にしたFFF団が僕らの前に立つ。ええぃ、今はとにかくこの場を切り抜けない事には始まらない。よし、ここはひとまず———
「迎え撃つぞ明久!」
「逃げるよ雄二!」
ピィンッ
「「ふぐぁっ!?」」
真逆の行動を取ってしまった僕らを、中央でワイヤーがピィンッと引き留める。ふぐぅ……!?さっきFFF団に騙されて嵌められたワイヤー付の手錠が邪魔過ぎる……!いや、それ以上に邪魔なのは———
「バカ明久!普通こんなに囲まれちゃ戦うしかねぇだろが!」
「アホ雄二!普通こんなに囲まれちゃ逃げるほかないだろ!」
———このアホ雄二の存在だ。つくづく意見が合わないし、この手錠百害あって一利なしだよこん畜生……
『吉井ィ……姫路だけでなくこっそり狙ってた島田までもがお前に惚れてるだとォ……!同棲ラブラブ生活なんて儚き夢を実現しやがって……死んで詫びろやクソ野郎……!』
『坂本ォ……キサマ如きが霧島さんと言う頭脳明晰クールビューティを手籠めにしていると言う事実……生かしておくかァ!許してほしけりゃ責任取って腹切れゴラァ……!』
「「おわぁ!?」」
大上段から一切の躊躇なく振り下ろされた釘バットを、雄二と二人で横に転がりギリギリ回避する。あ、危なかった……雄二に気を取られててもうちょっとで殺られるところだった……
「あぁもう!雄二、少しは僕の動きに合わせなよ!?」
「喧しい!お前が俺に合わせれば済む話だろうが!?」
思わず敵の前でお互いの胸倉をつかみ合い喧嘩をしてしまう僕ら。ほんっと気が利かない奴だね雄二は……と、そんな仲良く(?)喧嘩する僕らに———
ゴオッ!
殺気!?咄嗟に受け身すら考えずに必死で横に飛ぶ僕と雄二。するとどうしたことか、さっきまで僕らがつかみ合っていた場所に設置してあったロッカーが“突き刺さっていた”……何で!?床にロッカーが突き刺さるって一体どういうことなの!?
「……明久、どうやらこんなことしている余裕は無さそうだぞ」
「……そのようだね。ここはホントに協力しないとヤバそうだ」
雄二と利害は一致した。とりあえずこの場は協力しないと命の保証がないね。気を取り直して雄二と立ち上がり構えを取る。すると、この場を仕切っているFFF団会長須川君と遅れてこの部屋に入ってきた福村君が僕らの前に出てきた。
- 139時間目 ( No.285 )
- 日時: 2016/03/11 21:05
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
『会長。無事に姫路と島田、そして造ちゃんの拘束に成功しました。3人は補充試験室に閉じ込めているのでしばらくは動けません。2階にいる秀吉も同士諸君がすぐに捕獲するでしょう』
っ!?瑞希と美波、それに造たちが……!?なんてことだ……ぶ、無事だろうか?ヘタレだし一応腐っていても無理やり女子に手を出す連中ではないけど今は暴走しているし心配だ……つーか君たち、瑞希と美波の二人に手を出したらぶちのめす。
『うむ、ご苦労であった福村副会長。ムッツリーニはどうだ?』
『ここに来る前に少し様子を見てきましたが、奴は用意したトラップに見事に引っかかり、現在3階で横溝隊長率いる同士諸君に袋叩きにされています。何もかも“計画通り”に事が進んでいますよ』
僕らの頼れるムッツリ忍者、ムッツリーニまでもやられているらしい。くぅ……これじゃ増援は期待できないか……
『それは素晴らしいな。作戦を授けてくれた“彼女”もさぞお喜びであろう。さて、ならばこそ———我々は思う存分そこの異端者共を処刑に専念できると言うわけだな……っ!』
そう言ってギロリと僕らを睨みつけ末恐ろしい形相で対峙する須川君。あの眼……間違いない、今ここで僕らを沈める気満々だ……
「お、落ち着いてよ須川君たち!?そりゃ確かに羨ましいことかもしれないけど、君たちが思っているようなことはそうそう起こらな———」
『“そうそう起こらない”なら起こる可能性もあるってことだろうが吉井ィ!キサマというバカだけは一万回殺しても気が済まねぇんだよ……!』
「Cクラス戦はどうする気だお前ら!?ここで勝たなきゃAクラス戦は———」
『そのAクラス戦もどうせ霧島にイイ恰好見せつけたいんだろうが坂本ォ!キサマの口車には乗らんぞ!代わりにキサマは拷問車に乗せてやるから安心して逝けやっ!』
駄目だ、これ何を言っても逆効果になりかねない。
『本当は吉井の同棲生活が始まった時点で、すぐにでも殺りたかったところだが……貴様らの無駄に高い逃走力は悔しいが驚異的だからな……怒りを堪え機会を待ち、牙を研いできた甲斐があったぜぇ……!
『“あのお方”に頼んで抹殺計画も立てられたからナァ……もう逃げられないぞ異端者共が……!』
『普段は授業と言う名のタイムリミットがあるが今日はそうはいかねぇ……試召戦争中は厄介な教師共の邪魔もされないからな……楽しい楽しい拷問を、皆で楽しもうぜバカ共が……!』
須川君たちだけでなく、周りのクラスメイトたちも僕らを取り囲んでくる。……それにしても不思議だ。この話しぶりだと、単純明快安直直情な連中が今日と言う今日まで僕らの処刑を我慢できたと言うことになる。堪え性のない連中が我慢してまでこんな凝ったことを考えることが出来るとも思えないし、“計画”とか“彼女”とか“あのお方”って一体……?
『『『死ねぇえええええええええええ!!!』』』
「「っ!」」
———なんて、考える暇も息を整える暇もなく連中の猛攻は続く。ちぃ、とにかく今はこの場からどうにか逃げ出すことを先に考えないと……
まず逃げ道らしい逃げ道は2つ。でも一つ目の逃げ道である唯一の扉は10人以上の連中が固めてあってどう考えてもそこからは逃げられない。一応もう一つの逃げ道である———僕らの後ろにある窓は幸運なことに塞がれてはいないんだけど……
「「(ここは……高すぎる……っ!?)」」
雄二とアイコンタクトをして、流石に無理だと判断。2階までならまだしも4階から何も道具無しで飛び降りるのはムッツリーニレベルじゃないと危険すぎる。つまりは……連中の言う通り僕らに逃げ道はないようだ……
『大人しく八つ裂きにされろやバカ共が!お前らと言う名の癌のせいで俺が女子にモテねぇんだよ!死んで詫びろや今すぐに!』
『俺らにも慈悲はある、素直に罪を認めるなら貴様らの人生を終わらせるに留めてやる。認めねぇなら輪廻すらここで絶ってやるぜクソ共がァ!』
「「勝手なことを———抜かすなぁ!!」」
『『ぐふっ……!?———やってくれたな異端者が……!楽に死ねると思うなよ……!』』
「「……ッ!やっぱ効いてないか」」
逃げ道がない以上、正面突破やこの場の全員を倒していくしか今のところ道がないだろうけど———それもまたかなり無理そうだ。さっきから繋がれているワイヤー付手錠が非常にうっとおしくて上手く回避や攻撃が出来ない上、いくら鳩尾に渾身の一撃を叩き込んでも嫉妬でリミッター解除された連中はものの数秒でゾンビの如く復活して襲って来てキリがない。
「ハァ……ハァ……くそっ」
「げ、限界……かも……」
体力がある内は何とか対処してたけど、数の差や武器の差で徐々に……でも確実に追い込まれる僕と雄二。逃げ道もなく助けも来ないのが確定しているこの状況。ホントに打つ手がもう……
『どうやらここまでのようだな。ではさらばだ異端者よ』
『あの世で自分たちの行いを反省するがいいさ』
『まあ安心しろ、すぐには殺さん……たっぷり拷問して自分から死にたくなるように追い詰めてやるよド畜生共め』
それはどっちがド畜生なんだ。くぅ……ダメなのか……万事休すなのか……?こんなところで終わるなんて……!
「(ボソッ)瑞希……美波……ゴメン」
「(ボソッ)翔子……ワリィ」
雄二と二人、一瞬。そう一瞬諦めかけたその時———
バンッ!
「「……え?」」
『『『……は?』』』
と、大きな音と共に扉が開き中に入ってくる小さな影が一つ。これには僕も雄二も異端審問会の連中でさえも思わずその方向に目を向けてしまう。そんな僕らの目に映ってきたのは———
「「っ!?造!?」」
『『『な、何ィ!?造ちゃんだと!?』』』
———連中が閉じ込めたと言っていたハズの、箒に跨り召喚獣化している造の姿が。驚いて造に向かって騒ぎ立てている僕らとは対照的に、造はただただ無言で手に何か持っている。いや、口では確かに無言とは言え、目はハッキリとこう告げていた。
《(お二人とも、目を瞑ってください!)》
———普段のアイコンタクト会話術!造の意図がすぐわかり、咄嗟に雄二と僕は造の言う通り目を瞑る。その次の瞬間、造は手にしていた何かを地面に叩きつけると……
———カッ!
『『『…………っ!!?ぎゃああああああああああああ!?め、目が、目がァああああああああああ!?』』』
連中が転がり込み苦しむ音が聞こえてくる。これは……ひょっとしてムッツリーニの閃光弾……!?
《……OK、もう大丈夫です!目を開けてくださいアキさんゆーさん!逃げましょう、掴まって!》
「よ、よし!助かるぜ造!」
「わかった!頼んだよ造!」
目を開けると箒に跨ったまま、僕らに両手を伸ばしてそのまま窓を目指す造の姿が。造の言いたいことをすぐさま察した僕らは召喚獣化している造の手に掴まって———
『お、おのれ……おのれェ!……吉井ィ、坂本ォ……貴様らァ……!』
———連中の悔しがる声を聞きながら、3人で造の金の腕輪の能力【飛翔】により、4階の窓から大空を駆け悠々と大脱走することになった。