二次創作小説(紙ほか)

154時間目 ( No.322 )
日時: 2016/03/11 22:02
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

———旧校舎一階空き教室———


造Side


「だったらどうやって姫路さんを屋上まで!?も、もしや未だにわからないことに一つの最初に先輩が使ったルートでも使ったという……」
「いや、それじゃないのう。なーに、ネタがわかれば単純じゃぞ小山。それはの———」

姫路さんが補充試験室からどうやって脱出したのかわからない小山さん。自分とヒデさんに涙交じりに説明を求めてきました。うーむ、これはそう難しく考えなくてもいいのですがね。小山さんの問いにヒデさんがさらりと答えてくれます。

「———それは、主犯格である須川・横溝・福村の三人。及び言葉の通じなくなった狂戦士達(バーサーカーズ)以外のFクラス生徒を……“交渉”して“ワシらの仲間に引き入れた”ただそれだけのことじゃ」
「……なん、ですって……!?」

そう、何も難しい事ではなく考えてみればとても簡単。密室な上唯一の扉の前にはバリケード付きで監視している人がいる時どうやって外に出るべきか。別に推理物のようなトリックなんて必要ありません。“監視役を味方に引き入れれば、顔パスで通してくれる”のですから。

「ですからCクラス、及び須川君たちが自分とアキさんゆーさんに気を取られている間に……ヒデさんがFクラスの大半を説得して味方にしてくれた、ただそれだけの事です」
「は、はぁ!?そ、そんな説明では納得できるわけないでしょう!?どう考えてもあれほどまでに暴走していたFクラスを木下君一人で御することなんか出来っこないわ!一体どんなカラクリが……!?」
「うむ、ここからが造がワシに授けた真の策の本領発揮なのじゃ。ワシとボイスレコーダー一つさえあれば、それだけであやつらを制御できるのじゃ」
「木下君と……ボイスレコーダー……?」
「まずはこれを聞いてみるとよい、小山よ」

そう言ってヒデさんは持っていたボイスレコーダーを再生させます。その中から聞こえてきたのは———


ピッ!


〜以下ボイスレコーダーの会話〜


『須川クン今日もかっこいいわー♪こんなにカッコイイ人と付き合えるなんてあたしって幸せものねっ!』←女子Aの声
『HAHAHA!いやぁ……モテる男は辛いなぁ!俺も君みたいな綺麗な子と付き合えるなんて超幸せだよ』←須川の声
『それにしても良いのですか?私たちと付き合っているって見つかったら……怖いクラスメイトさんがいるって言ってませんでしたか?横溝さん』←女子Bの声
『いいのいいの!バレやしないって!俺らのクラスにさぁ、ちょうどいい隠れ蓑的な奴らがいてねぇ』←横溝の声
『そうそう!そいつらにクラスの怒りの矛先向けてりゃ、俺らが君たちみたいなカワイイ女の子と付き合ってるなんてだーれも気づかないんだよ。連中バカばっかりだからねー』←福村の声
『やーん、悪い人だー♪福村くん素敵ー♪』←女子Cの声


ピッ!


———聞こえてきたのは須川くん・横溝くん・福村くんの三人の声と知らない女子三人の声がするそんな会話。

「……何ですかこれ」
「聞いての通り、須川たちのような声がする会話じゃな」
「……まさかこれを?」
「はいです。この会話をFクラスの皆さんに聞いてもらいました。そしたら皆さんあっという間に自分たちに協力してくれましたよ」

まあ、そもそもの発端がクラスメイトたちの嫉妬が原因でしたからね。こんな会話を聞かされて、おまけに交渉したのはヒデさんです。Fクラスの皆さんを味方に取り入れる交渉が上手くいかないハズがありません。と、そんな中このボイスレコーダーの会話を聞いた小山さんはワナワナと肩を震わせて、まるで怒鳴るように声を荒げてしまいます。

「なんっ……何なんですかこれはっ!?」
「いや、じゃから聞いての通り———」
「そっちじゃなくて、こんなっ!こんな先輩たちに都合の良いこんな会話を……短時間で用意できるわけ、無いじゃないですか!?どうやって……どうなっていると言うのですか!?」

まあ、確かにそうでしょうね。こんな会話、予め用意でもしていなければ手に入れることは出来ないでしょう。いいえ、それ以前にこんなピンポイントに今回の首謀者たち三人のこのような際どい会話を手に入れることなど実質不可能でしょうから。

「そりゃそうじゃな。お主の言う通り、こんな都合の良い会話をすぐに用意できるわけなかろうて」
「ですね。実際こんな会話……“この世に存在するわけない”ものですからねー」
「ワシが“作った”ものじゃしな」
「この世に存在するわけがない会話……?作った……?…………んなっ!?ま、まさか!?」

そのキーワードにハッとする小山さん。彼女も気が付いたようですね。

「そのまさかじゃよ小山。“一人六役”のワシの“声帯模写”じゃ。なーに、このくらい朝飯前じゃぞ。ボイスレコーダー越しじゃと若干声色が違っても違和感はないしの。ああ、ちなみにこのボイスレコーダーは工藤から借りたものじゃよ」
「あとはこの会話をFクラスの皆さんに聞かせて、ヒデさんが“木下優子”として交渉するだけでした」


〜秀吉回想中〜


『———ふぅ。これであと20人くらいじゃろうか』

リストにチェックを入れつつ嘆息するワシ。わかっておるつもりじゃったが、やはりこれは中々に骨の折れる役割じゃのう。精神的にも技術的にもかなりしんどいものじゃ。失敗すればこの試召戦争に負けかねんから普段の稽古や本番以上に気を張りつつやり遂げねばならぬしの。

『次は……この三人は最後にするとして、後は例の手におえん連中と今表に出ておる連中も後回し。ならば残りの人数やメンツを考えると……そろそろ一階のあやつらを何とかせねばならぬか』

まあ、泣き言を言っておる暇はないがの。造や明久、雄二にムッツリーニ。それに姫路や島田たちも恐らく頑張っておるじゃろうし。そう自身に言い聞かせ、再び作戦の為に動き出そうとした矢先———

『———この辺か?木下を見たと言う報告があったのは』
『見つけたら……い、イロイロ好きにしていいんだよな!?』
『ぐふふ……秀吉ィ、今行くからねぇ……待っててねぇ……』

『……っ!』

———すぐ近くの曲がり角から、そんなワシを探しておるようなFクラスの連中の声が聞こえてきおった……もう来よったのか、全く油断も隙も無いのう。さて気合いを入れて“姉上”を演じなければの。

『『『さぁ!大人しく捕まるんだ秀……よ……し……?』』』

『……何よアンタら。アタシに何か用かしら?』
『あ、あれ……?女子の制服に……この言葉遣い……そして“アタシ”……?』
『も、もしかして……秀吉のお姉さんの方の木下優子さん……?』
『す、すんません……間違えました。も、戻るぞお前ら』

曲がり角から飛び出してくるFクラスのこやつらをそのように騙すワシ。よし、双子なだけあって制服を交換しただけでこやつらもワシを姉上と認識してくれたようじゃな。

『ちょっと待ちなさい。アンタら確かFクラスよね?』

『『『へ?あ、はい』』』

“ワシを姉上だと勘違いをしてしまったと思い込んだ”気まずそうにワシの前からそそくさと退散しようとするこやつらを止めるワシ。ちょうどいい、こやつらも交渉しておくとしようかの。

『秀吉から話は聞いたわ、何でもアンタら試召戦争中なのに暴動を起こして造くんたちを追い回しているそうじゃないの』
『うっ……そ、それに関しては仕方のない事なんですよ!』
『す、須川会長の偉大なる革命“Fクラスの変”の為、造ちゃんや秀吉には捕まってもらわねばならないのです』
『悪いとは思っていますが……ちゃんと坂本や吉井たちを始末したら解放するのでここはどうか見逃して頂きたく……!』
『知らないわよそんなこと。それよりアンタたちに会ったらこれを聞かせてほしいってうちの秀吉から言伝されているんだけどいいかしら』

『『『秀吉から……?』』』

『これよ。何でもこの試召戦争を左右しかねない重大な事実が録音されているとか言ってたわ。とりあえず再生するわね』


〜例のボイスレコーダー再生中〜

154時間目 ( No.323 )
日時: 2016/03/11 22:03
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

『———だそうよ』
『お、おのれ須川ァ……』
『横溝……俺らを裏切ってやがったのか……!?』
『福村のヤロウ……こうなりゃ吉井たちと一緒に奴らも血祭に———』
『ハァ……何というか……アンタら情けないわね』

『『『は!?』』』

これでいい感じで怒りは須川たちの方向にも向いてきたのう。さて、ならばもうひと押ししてやるとするかの。

『さっきも言ったけど、アンタら試召戦争そっちのけで造くんや秀吉、それに代表である坂本君たちを追い回しているのよね?』
『そうですが……それが何故我々が情けないという話に……?』
『情けないにも程あるわよ。アンタらは一学期あと一歩のところまでアタシ達Aクラスを追い詰めたのよ?そんなアンタらだからアタシたちは高く評価していたのに……』

『『『……』』』

『勝てる見込みのあるアタシ達Aクラス戦を目前に、些細な嫉妬で暴走してそのチャンスを棒に振るの?正直……かっこ悪いわよアンタたち。ああそうか———だからアンタたちは“モテない”のね』

『『『…………ぐふっ』』』

モテないと言う単語がこやつらの胸を刺す。この騒動、色々と理由はあろうが突き詰めればこやつらがモテず明久や雄二やムッツリーニたちがモテると言う事実に原因があるからの。だからこそそこさえ取っ払いさえすればきっと何とかなるはずじゃ。現に———

『あーあ、Fクラスならアタシ達といい勝負できると期待してたのにガッカリよ。まあこんな“モテない”クラスメイトたち抱えているなら坂本君たちも勝てるわけないか。とは言えそんな“モテない”アンタ達でも、そう例えばアンタたち最低クラスのFクラスがアタシ達最高クラスのAクラスに勝つなんてことがあれば———“モテまくる”でしょうにね』

『『『…………っ!?』』』

———うむ、やはりこやつらこういう話題に喰らい付いてきたの。

『そ、その……木下さん。それはつまり……お、俺たちでも……Aクラスに勝てれば……モテる、と?』
『さあね。でも考えてみなさい。アンタたちが今必死で追い回している吉井君に坂本君、土屋君の事を』
『吉井に坂本に土屋を……?』
『吉井君は造くんと一緒に一学期清涼祭の召喚大会で優勝しているでしょ。それに坂本君も同じように夏課外の時のオカルト召喚獣の肝試しで優勝したわね。土屋君だって一学期のアタシ達との試召戦争でFクラスなのにAクラスの愛子に勝っているわ。その三人はその栄誉がモテるきっかけになったんじゃないの?』

『『『…………た、確かに!?あんなバカ共でも勝てれば……モテている……!』』』

……まあ、姫路と島田、霧島や工藤は勝てたからあやつらを好きになったと言うわけではないのじゃがの。そこは言わぬようにしておくか。

『アンタらだって、本来戦うはずだったAクラス戦で活躍出来れば目立ってモテることになったでしょうにね。ああ情けない情けない』

『『『…………』』』

さあここまでやったのじゃ。少しばかり言い過ぎたやもしれぬが……これで、どうじゃ?












『———坂本達に手を貸そう!』
『このCクラス、そしてAクラスを倒してモテモテになるのだ!』
『さぁ、今すぐ須川たちを血祭りにあげて俺らも目立とうぜ!』

……作戦成功じゃな。こやつらが単純で何よりじゃ。

『そう、好きにすることね。ああ、もしアンタ達が協力してくれるならワシの言う通りに動いてほしいと秀吉から頼まれているけど、一応聞いておく?』

『『『是非ともお願いしますっ!』』』


〜秀吉回想終了〜


「———と、こんな感じでFクラスを交渉……いや懐柔をしたと言うわけじゃよ。良くも悪くも単純で影響されやすいあやつららしいじゃろ。ちなみにここでも姉上と入れ替わっている利点が出てきておるのじゃ。騒動の真っただ中におるFクラスのワシがこのように懐柔するよりも、他所のクラスであるAクラスの女子“木下優子”がこのように懐柔した方があやつらも懐柔しやすいと思わぬか?」
「女の子に“こうすればモテるんじゃないの”と言われれば、即実践するのが自分たちFクラスのクラスメイトさん達ですからね。ああ、あと一応このボイスレコーダーの会話は皆さんを落ち着かせるための嘘だったと報告はしておきますので、今度は須川君たちが追いかけられるってことは無いようにしておく予定です」
「…………」

ヒデさんのその話に、口をパクパクと開きまるで“Fクラスはこんな手に引っ掛かったの……?”とでも言いたげな小山さん。ま、まあ元々女の子にモテたいが為に暴走しちゃうクラスですからねー……

「ちなみに小山よ、一体何のために面倒で割に合わぬとも造がFクラスに戦死者が出ぬように必死で戦っておったと思う?」
「そ、それはAクラス戦を前に戦力を余計に減らすわけにはいかないからでしょ……?」
「それも勿論ある。じゃがな、それだけではないのじゃ。戦死すれば補習室送りとなり、鉄人による地獄の補習を受けねばならぬことになるのはわかるかの?」
「……え、ええ」
「もし仮に暴走していた状態で補習室行きになれば、更にアキさんとゆーさんとこーさんへの不満が募ってしまいますでしょう?“よくも俺たちをこんな補習室に詰め込みやがって”ってな感じでね。次の戦争に尾を引かないようにするためにも、少なくともヒデさんがFクラスの皆さんを説得するまでは絶対に戦死者を出すわけにはいかなかったんです」
「……だから、先輩は裏切ったはずのFクラスの連中を倒さなかった……」
「その通り。今回の作戦の最重要事項はFクラスの持ち直しですからね」

だからCクラスの皆さんとギリギリの接戦の中でFクラスの皆さんを盾にされても戦死者を出さずに戦ったわけですからね。

「そ、それにしたって姫路さんは一体いつの間に補充試験室から脱出したんですか!?我々Cクラスの監視の目もある中で、彼女が出る暇なんてどこにも無かったはずです!」
「そのための休戦協定ですよ小山さん。……用心深く念入りに、そして先を見越して作戦を立てていた貴女のことです。きっと次に繋がるようにと、休戦終了までの一時間を補充試験に当ててくると思っていました」
「じゃがの、それこそが雄二の罠だったのじゃよ。Cクラスの全員で補充試験をするために、お主は姫路と島田のおる補充試験室の監視をFクラスの任せてしまったじゃろ」
「……その時には……補充試験室の監視役であるFクラスの生徒の説得を、すでに終えていた……!?」
「はいです。Cクラスの皆さんが補充に入った瞬間、こっそりとバリケードを解き鍵を開け姫路さん達を解放していました」
「その後バレぬようバリケードを戻し、姫路たちをワシが他の生徒として“変装”させてお主らCクラスの油断を誘ったと言うわけじゃ」

あとは現状の通りです。ヒデさんの手で“変装”した姫路さん達はゆーさんとアキさん達を守りつつCクラスの皆さんの動きを封じるために一足先に屋上で待機。そしてヒデさんは“優姉さん”として現れて小山さんたちの意表を突き自分と一緒に彼女を追い詰めます。

「これで説明はすべて終えましたね。そうそう小山さん……確か須川くんたち曰く今回のこの暴動って本能寺の変に見立てて“Fクラスの変”と呼ばれていましたよね。それになぞると大方織田信長がゆーさん、明智光秀が須川くんたちってことになるのでしょうね」
「そ、それが……何か……?」
「だったら面白いと思いませんか?だってその“本能寺の変に見立てた明智光秀役の須川くんたちの企てたFクラスの変”を“織田信長役であるゆーさんの臣下である秀吉と言う名の生徒”が打ち破ったんですもの」
「……」
「本能寺の変———もといFクラスの変ここに破れたり、じゃな」

この自分の作戦はヒデさんを捕えたと勘違いしてしまったC・Fクラスの皆さんの死角を突く一手。そう、何度も言いますが今回の作戦、自分やアキさんゆーさんはただの“陽動”。作戦の要は間違いなくヒデさんでした。持ち前の演技力は勿論の事、一人六役の声帯模写に自身だけではなく他人をも化けさせるメイクによる変装技術。更には巧みにFクラスの皆さんを味方に取り入れたその話術———ヒデさんの持つ一見すると試召戦争では意味をなさないと思われたヒデさんの長所が逆転の一手となったのです。

「ねぇ小山さん。貴女ひょっとして……自分やゆーさんたちにばかり気を取られてヒデさん対策を怠ったんじゃないですか?」
「……っ!?」


『———ところで代表。木下と、同じく未だに姿を確認できていない土屋はどうしますか?』
『……そうね。土屋君の方は行動不能になっているってFクラスの連中が言ってたし、木下君自体はそう戦力にはならないわ。一応見かけたら余裕があれば余計な事させないためにも戦死させるつもりでいてね。と言っても基本的にはFクラスの連中に任せて大丈夫でしょう』


どうやら図星のようですね。何か思い当たることがあるようで、あからさまにしまったと言う表情の小山さん。やれやれ駄目ですよ、試召戦争では誰もが脅威に成り得ると言うのに慢心しちゃいましたか?

「———ヒデさんは自分たちの立派な主戦力です。ヒデさんがこの学園で必死に磨いてきたものを……嘗めないでくださいね」