二次創作小説(紙ほか)

彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜前編 ( No.356 )
日時: 2016/03/26 00:22
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

毎日が非日常的な生活を送っている造や明久たちも、学園を離れた時の休日や放課後はまた学園とは一味違った日常の中で生きている事でしょう。そして造たちの日常は、これまたやはり普通では味わうことのできない面白おかしいものとなっているはずです。それでは———折角ですから今回は、姫路瑞希と島田美波&葉月の両親及び月野造の母と日高先生(+執事&お手伝いさん)達がストにより海外から帰られなくなった時期の日々を少しだけ覗いてみましょうか。


明久Side


———吉井家———


———チチチチチ


なんて、窓の外から小鳥の囀りが聞こえてきた。どうやらカーテンを閉め忘れていたようで、窓から朝の陽光が差し込み心地よいまどろみの淵にいる僕を照らし、まだ眠いと言うのにその身体を無理やり覚醒させようとしていく。

「……あの、明久君」
「アキ、朝よアキ」
「バカなお兄ちゃん、起きてくださいー!」

鳥の囀りに混じって、可愛らしい三人の女の子の声が聞こえてくる気がする。夢うつつだからだろうか、どう考えてもこの場にはいないハズの声が頭の中に妙にすんなりと入ってくる。だからこれは夢だと理解しつつも、思わずまるでそれが当然の様にその三人の声に反応して応えていた。

「ん……ゴメンね……瑞希に美波に葉月ちゃん……もう少し……だけ」
「え、あ……はい。そうですよね。日曜日ですしもう少し寝ていたいですよね」
「んー……とは言え玲さんに呼ばれたことだし、そろそろ起きてもらわないと困るけど」
「葉月お腹空いちゃったです……」
「ゴメン……先、食べてて……いいから……」

夢見心地に身をゆだね、寝返りを打ちつつそう言う僕。すると———

「さっさと起きなさいアキくん。さもなくば———私とアキくんの一生を左右するチュウをします」
「邪悪なる気配っ!」

———さっきの優し気な声の三人とはまるで違う、どす黒い企みを秘めた脅し文句を言い放つ邪悪なる声が聞こえてくる。その声で一瞬で覚醒し身体を横に転がす僕。顔面、正確には口元を両腕でガードしつつ、下肢に力を込めていつでも逃走できるよう準備する。そう完全防御体勢を取る僕に対して、

「……失礼ですねアキくんは。誰が邪悪だと?」

なんてのたまいながら、さっきのトンデモ発言の主である姉さんがジトッとした目で僕を見ていた。

「ほほぅ?邪悪じゃないならさっき僕に何をしようとしていたのか言ってみてよ姉さん」
「チュウをしたのちアキくんの自由を奪い、あられもない恰好をさせてその恰好を写真に残し、その写真を使い一生脅迫し続けようとしただけですよ」
「そっか、確かに邪悪じゃないね。だって……それもう犯罪行為だよバカ姉さんっ!?」

咄嗟に起きれて本当に良かった。姉さんのこの目は本気だ……

「やれやれ、アキくんにバカと言われるのは心外ですね」
「常識のない姉さんをバカと呼んで何が悪いと言うのさ……あ、それはそうと瑞希も美波も葉月ちゃんもおはよう。ゴメンね朝っぱらから姉さんが非常識で」

そんな禍々しき姉さんの横にいた姉さんとは打ってかわるかのような朗らかな三人の姿を見て挨拶をする僕。

「あ、えっと……はい。明久君おはようございます」

ロングスカートにカーディガンという私服を着ているのは瑞希。ふんわりしている柔らかそうなカーディガンもフリルの付いたロングスカートも、愛らしくも温和な彼女にぴったりの姿だね。

「うん、おはよアキ」

シフォンのブラウスとキュロット姿の活発そうな恰好をしているのは美波。活動的な彼女らしい恰好でこっちもぴったりな格好だ。それでいて胸元のリボンが彼女の女の子らしさを引き立てているのが素晴らしい。

「おはようですバカなお兄ちゃん!」

そしてレースやフリルをふんだんに使ってある黒色のゴシックロリィタ風な年相応の格好をしているのは美波の妹の葉月ちゃん。葉月ちゃんも美波とは色違いのお揃いのリボンをしていてこれまた可愛らしい。

いやぁ、自宅でしかも朝からこんなに癒されるなんて眼福眼福。なんとも得難き幸せな時間———あれ?ちょい待った、何かおかしくない……?

「え、瑞希に美波に葉月ちゃん……?」
「?はいそうですが?」
「ん?何よアキ?」
「どうしましたかバカなお兄ちゃん?」
「その、どう———っ!」

どうしてここにいるの?なんて言葉を慌てて飲み込む。そうだった、昨日から皆のご両親が海外でストに巻き込まれて日本に帰れなくなっちゃって……最近は物騒だからってこともあって三人ともしばらく我が家に泊まってもらうことになったんだった。もしどうしてここにいるの?なんて失言しちゃったら今以上に気を遣わせてしまうね。ホント危なかったぁ……

「「「???」」」

「あー、コホン。どうだったかな?三人とも昨日はよく眠れたかなって思ってさ」
「ああなるほど。うん、ありがとアキ。お陰様でねバッチリ眠れたわ」
「葉月もぐっすり眠れましたっ!」
「私なんか、すっごく幸せな夢まで見れちゃいましたよ明久君っ!」

慌てて言い繕ってみたけど、何とか誤魔化せたようだね。それにしても良かった。慣れない環境で眠れないなら大変だっただろうけど、どうも三人ともそれは無さげだし。

彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜前編 ( No.357 )
日時: 2016/03/25 21:09
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

「羨ましいわ瑞希……そんな夢見れるなんて」
「綺麗なお姉ちゃん、葉月もそれ見たかったです……」
「ん?そんなにいい夢だったんだ瑞希?」
「はいっ!現実でも見てみたいくらい可愛かったんですよっ!」

ふーん、可愛い夢かぁ。葉月ちゃんたちも見たがっていると言うことは、それはきっと犬や猫とかの小動物系の夢ってことだろう。

「そっか、それなら現実でも見れたらいいよね」

「「「えっ……!?」」」

「……ん?何かな皆?」

そう呟くと何故か三人が目を丸くしている。え、何?別に何も変な事言ってないよね僕……?

「あ、明久君……それはつまり協力してくれるんですか?」
「うん?うーん……まぁ僕に出来ることがあるなら何でも協力するけど」
「い、良いのアキ!?」
「いやだってそんなに可愛いなら僕だって見てみたいしさ」
「バカなお兄ちゃん、葉月楽しみですー!」
「そっかー葉月ちゃんも楽しみなんだね。僕も楽しみにしているよ」
「わかりました明久君!お洋服の準備が出来たらすぐに呼びますからねっ!」

……何故に洋服?まあ、よくわからないけど、皆がそこまで言うくらいならきっと良いものが見られるんだろうね。うんうん、楽しみだ。

「ふむ、なるほど。アキくんはこうやって墓穴を掘っていくのですね」
「んー?何さ姉さん。何か言った?」
「いえ。私にとっても悪い話ではなさそうですし、気にしないでくださいねアキくん」
「???」

……なぜだろうか、少し悪寒がする。

「まあ、どうでもいいか。それじゃとりあえず僕顔でも洗ってくるね」
「そうですね、それがいいでしょう」
「それじゃ皆、また後で」

今日からは姉さんだけじゃなくて瑞希も美波も葉月ちゃんもいるわけだし、あまりだらしのない姿を見せるわけにもいかないからね。シャキッとするためにも顔でも洗おう。そうやってベットの前に立っている皆を残して洗面所へと向かう僕。顔洗ったら簡単なものでご飯でも作るかな。






『———フリフリの可愛いのが良いですよね』
『ウイッグは……長めのやつにしましょうか』
『大きめのリボンと……折角ですから下着も』
『葉月、お兄ちゃんの可愛い所見たいです!』

———それにしても。どんな話をしているのかわからないけれど、背後から微かに聞こえてくる声が不思議ととても怖く感じてしまうのは何故だろう。


〜少年少女たち+大人の女性 朝食中:しばらくお待ちください〜


「———それじゃあ、ウチと葉月はとりあえず必要そうなものを取りに一旦家に戻るわね。あと少し家の掃除とかしてからこっちに戻ることになると思うわ」
「うん了解、こっちも軽くだけど掃除とかしなきゃいけないしゆっくり準備とかすると良いよ。後、重そうなものとかあったら僕も運ぶの手伝うから何かあったら電話してね美波」
「ありがとアキ。その時はお願いね」

朝ご飯を食べ終わってしばらくすると、美波と葉月ちゃんが必要なものを取りに家に帰ると言ってきた。昨日は急にお泊りすることが決まってバタバタしてたし、特に美波は葉月ちゃんを連れてくるだけで碌に準備できないままだったしこれから準備するそうだ。

「美波ちゃん、ちなみに今日のお昼ご飯はどうしますか?」
「うーん……そうね。ウチの家の冷蔵庫の中に賞味期限近いものもあったから、それ早めに使っておきたいのよね……と言うわけで今日のお昼はウチと葉月は家で食べてくることにするわ」

これからしばらく皆が僕の家で同棲生活(と言うかルームシェア?)をするわけだし、傷みそうなものとか中心に冷蔵庫の中のものを整理しときたいとのこと。うんうん、料理上手な美波らしい賢い判断だよね。あ、ちなみに料理で思い出したけど今日の朝ご飯は僕が作ったよ。僕が作った理由?それは聞かなくてもわかると思う。

「そうですか。では準備が終わったらアキくんの携帯にでもかけてくださいね美波さん。どんどんこき使ってくれて構いませんので」
「はい、じゃあそうさせてもらいますね。と言ってもそんなに荷物にならないとは思いますけどね。あと多分準備終るの夕方ぐらいになると思います。それじゃあ行ってきますね。行こ葉月」
「はいです!バカなお兄ちゃんたち、行ってきますです!」

そう言って仲良く手を繋いで一旦自分たちの家に帰っていった美波と葉月ちゃん。あとに残ったのは僕と姉さんと瑞希だけ。あれ?そう言えば瑞希は大丈夫なのかな?

彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜前編 ( No.358 )
日時: 2016/03/25 21:10
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

「ねぇ瑞希。瑞希は美波たちみたいにお泊りの準備自体はもう良いの?」
「あ、はい。私は昨日のうちに持ってこれましたので」
「あらら……ゴメン、言ってくれたら運んだのに」
「大丈夫ですよ、軽かったですし。着替えと簡易用の旅行セットと学校に必要なものと勉強道具があれば十分ですからね」

と、客間の端っこに置いている少し大きめの旅行用バックを指差してそう言う瑞希。自分のお家で寝ていた葉月ちゃんを連れてくる必要があった美波とは違って、瑞希は時間があったから昨日のうちに十分準備出来たそうだ。そもそも必要最低限の持ち物みたいだからね。そう言うところは流石にしっかりしている性格が出ているよね。仮に僕だったら漫画・ゲームで瑞希の5倍の持ち物となるだろうし。

「そっか、なら良かったよ。……さて、それじゃそろそろ掃除と洗濯でもしよっかな。今日はホントに良い天気で良かったよねー」

来客用のお布団も溜まっていた洗濯物も干せるし助かるよね。さて、まずは三人が寝泊まりする予定の客間をしっかり掃除しよう。埃があったら少しだけ身体の弱い瑞希が体調崩しかねないかもしれないし、女子三人も汚れた部屋で眠るのなんて嫌だろうし。

「お掃除ですか?それなら私も手伝います明久君」
「ああ、いいよいいよ。瑞希はお客さんなんだしテレビでも見てゆっくりしてなよ」
「じゃあせめてお昼ご飯は私が———」
「瑞希は客間の掃除をお願いね。僕は廊下とかキッチンとか自分の部屋を片付けるから。三人が寝泊まりする部屋だから頑張って掃除してね。いやぁ、分担してやった方が効率良いもんねっ!じゃあお願いするよ瑞希」
「え?あ、はい。わかりました!」

あっぶな……油断できないねこりゃ。手伝わせるなんて悪いとは思うけど、こうなると寧ろ瑞希には積極的に掃除でもやってもらった方が良いかもしれない。それこそ———料理に手を出す余裕がなくなるほどに。

「では、姉さんがお昼を作りましょう」
「ええぃ、ちっとも危険回避できてないっ!?」

一難去ってまた一難。大分まともになったとは言え、姉さんの料理の腕前もかなり怪しいんだよね……よし。この際だから二人には言っておこう。

「ねぇ二人とも。ご飯の用意は全部僕に任せて貰えないかな。ほら、瑞希はお掃除しなきゃならない客間って結構広いし料理にまで手が回らないよ。姉さんは姉さんで最近仕事忙しいんでしょ。ご飯よりも仕事に使う資料作りをちゃんとしなきゃね」
「えっ!?で、ですが……」
「お断りです。またそうやって誤魔化そうとしてもダメですからねアキくん。どういうわけか知りませんが、アキくんが姉さんをキッチンに立たせまいとしていることくらいわかっていますから」

そう不服そうに僕を見ながらそんなことを言う姉さん。……僕だって姉さんや瑞希が多少下手でも美味しくなくてもまともに料理できるのであればやらせても良いとは思っているよ?でもね、いくらなんでも命にかかわるレベルの料理されるのは見過ごせないんだよ。

「よしわかった。そこまで言うなら簡単なテストしてあげる。姉さん、お米をどうやって砥ぐのか知ってるかな?」
「…………アキくん。さては貴方は姉さんをバカにしていますね?」
「いいや、僕は大真面目に聞いてるよ」

そう、僕は決して忘れない。前に『野菜洗って』って頼んだら洗剤を持ち出したこの姉さんの事を。そんな僕の小学校レベルのテストに対して、姉さんは大きく溜息を吐いて呆れた顔でこう返してくる。

「まったく……アキくんは何のために台所に砥石があると思っているのやら」
「包丁砥ぐためだよバカっ!?」

あーもうっ!案の定だったよ!?確かに“砥ぐ石”と書いて“砥石”だけど、アレはお米を研ぐための道具なんかじゃないよ!?そんなの小学生でもわかるよね!?

「そうですね。ダメですよ玲さん、お米を砥ぐのでしたらクレン———へくちっ」
「待って!?“クレン”!?もしかしなくても瑞希今“クレンザー”って言おうとしたわけじゃないよね!?」

瑞希、クレンザーは食器の研磨用だよ!?食べ物に使ったらどうなるか普通分かるよね!?と言うかわかってほしいんだけどっ!?……これは思っていた以上にマズい。この二人に台所を任せてしまったらマジで大変なことになってしまう……

「と、とにかくさっさと掃除を始めることにしよう!姉さんはさっさと仕事に必要な資料作りしなよ!お昼はとりあえず僕が作るからっ!」

有無を言わさぬ口調で強引に決める僕。そんな僕の提案に対して二人はと言うと。

「しょうがないですね。アキくんがそこまでメイドさんの恰好で私たちに給仕したいというなら姉さんは我慢するとしましょう」
「明久君のメイド姿ですか……そうですね。それなら仕方ないですね」
「何をどうしたらその発想になるのさ!?ああもう、この二人って頭良いんじゃなかったの!?」

近いうちに教育委員会に連絡しよう。学校のテストには“一般常識”の項目を追加するべきですよって。若干疲弊しながらもそんなことを考えつつ、ようやく掃除に取り掛かることになった。