二次創作小説(紙ほか)

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜中編 ( No.369 )
日時: 2016/03/25 21:26
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

雄二Side


———雄二の部屋———


「……さあ、始めよう雄二」
「俺の自由な時間は存在せんのか……?」

部屋に付くと、早速俺の課題の問題集とノートに筆記用具を出して問題を解けと促す翔子。いや、だからそもそも俺は課題何て出す気はないんだよ……そんなことに時間裂くより寝てたいんだよ……っ!

「……これ終わったら私と一緒に自由に遊べるよ?」
「それは自由な時間と言えるのか……?」

どうやら俺に拒否権は無いようだ。……もういい、わかった。こうなりゃ速攻で終わらせて翔子を料理に向かわせる。その隙にあわよくば逃走。それが無理でも今度はちゃんと窓も閉めて俺の部屋で籠城するしか道は無い。とにかくまずはこの無駄に量がある課題の消化だな。ま、どうせ出すつもりすらなかった課題だ。適当にそれっぽい事を答えておけば間違いだらけでも何も問題な———

「……雄二、それ全然答え違う。と言うか途中の計算式もデタラメ」
「…………だよなー」

流石に学年主席の目は誤魔化せなかったようだな……泣く泣く消しゴムで適当に書いた答えを消すことに。……そういや夏休みも同じように、課題をこいつにやらされたっけな……

「あのなぁ翔子。課題何て出そうが出すまいが俺の勝手だろが。お前が俺の課題手伝う必要性は全くないんだぞ」
「……夫の恥は妻の恥。雄二が先生たちに怒られるのはあんまり見たくない」
「誰が夫で誰が妻だ」

夏に言ったことと同じことを言ってみるも、同じように頓珍漢な回答が帰ってくる。

「……それに雄二が怒られてる姿を他の人に見られて、他の人から雄二がバカにされてる姿も見たくない」
「他人にどう思われようと勝手だろ。そもそもお前自身のことならともかく、俺のことなんざ気にする必要ねぇし」
「……私は、嫌だから」

「「…………」」

……こりゃ、こいつに何言っても無駄だな。課題終わるまでやらされる……このままこいつと問答してても時間が無駄に過ぎるだけ、か。

「ハァ……わかったわかった。さっさと終わらせりゃ良いんだろ」
「……うん。わからないとこあったら言って」

そんなこんなで翔子の監視の目がある中、課題を真面目に解く羽目になった俺。と言っても量は確かに無駄に多いが———

「……雄二、すらすら解けてる」
「そりゃ例題通りに解きゃ誰でも解ける———あ、いや違うな。そりゃ明久を筆頭としたFクラスの連中は解けるか怪しいが、俺をアイツらと一緒にすんなっての」
「……まあ、計算途中でミスしてるところもあるけど。ここ違う」
「…………マジか、マジだ」
「……雄二ってケアレスミス結構多いよね。あまり吉井たちの事、言えないかも」
「…………かもな」

授業でやった範囲ということもあってそう苦労することなく解ける課題だったらしく、途中翔子に“ちょっとした”間違いを指摘されつつも順調に課題をこなす俺。そして———


〜一時間後〜


「やれやれ、やっと終わったな」
「……お疲れさま」

教科書、ノートを閉じで課題終了。もうちょい時間がかかるかと思っていたが、一時間程度で終わらせることが出来たな。ま、俺にかかればこんなの朝飯前———いや、朝食は食ったし昼飯前か。

「……それじゃあ終わったことだし私お昼ご飯作る」
「へいへい。……ま、俺の飯でもあるし昼食作りは多少手伝ってやる」
「……夫婦の共同作業♪」
「どこがだよ……まあいい。その前に便所行ってくるから先行ってな」
「……うん。勉強道具片づけたら私もすぐキッチンに行く」

そう言って一旦便所に行く俺。用を足しながら昼に何を食べようか考える。昨日の夜は(闇)鍋で朝は一般的な日本食。となれば……中華系の料理にしても面白いかもな。

「つっても材料あればの話だし、翔子はもう何作るのか決めてるかもな」

まずは翔子に何を作るつもりか聞くべきだな。そう考えながら用を足し終えてからキッチンに向かうことに。もう作り始めてるかもしれないしな。

「翔子、昼は何作る予定だ———って、あ?」
「ん〜?どうしたの雄二」

……?そう思い声をかけるも、キッチンにはボケっと気泡緩衝材(要するにプチプチだな)を潰しているおふくろしかいない。……この際このおふくろの行動は無視するとしてだ。

「おふくろだけか?翔子はまだ来てないのか?」
「翔子ちゃん?ううん、降りてきてないと思うわよ」
「……?まだ俺の部屋か?」

何だ?ただ教科書だのノートだの片付けるにしては随分と時間かかってんな。気になってもう一度部屋に戻ってみることに。

「(コンコン)オイ翔子、いるか?」
『……っ!?ゆ、ゆうじ……』

扉をノックしてみると、声が聞こえてくる。何だ、やっぱまだいたのかよ。全く何やってんだか。にしても翔子のヤツ何だか焦ってる声だったような……まさか盗聴器でも仕掛けているんじゃねぇだろうな?少し心配になり慌てて扉を開けてみると———

「(ガチャ)ったく、何モタモタしてんだ。さっさと飯を———」
「…………雄二、ごめんなさい……」
「っ!?ど、どうしたお前!?泣いてんのか?何があった!?」

———ぽろぽろと涙を零しながら、手に何か持っていきなり謝ってくる翔子の姿が。な、何だぁ!?慌ててハンカチを取り出して翔子に渡しながらしばらく落ち着かせて事情を聞く俺。

「で、何だ。腹でも痛いのか?怪我でもしたか?」
「……違う。雄二の携帯、触ったら壊れた……ごめんなさい」
「触ったら壊れただと?もしかしてフリーズしたのか?どれ、見せてみな」

恐る恐る俺に携帯を渡す翔子。確かに何の反応もしねぇな。フリーズしているだけかもしれんと思い、試しに一度電池パックを取り外して電源を入れ直しても携帯が起動しない。あーこれは恐らくフリーズどころか……こいつの言う通り完全に壊れちまってるようだな。一度携帯ショップに行って見てもらわにゃならんが……

「で、何やったんだお前?」
「……雄二が席外した途端、携帯鳴り始めて———」


〜翔子回想中〜


Prrrrr! Prrrrr!


『……?あっ、雄二の携帯鳴ってる……?でも、雄二はトイレだし……えっと、なら私が出ないと』
『……???雄二の携帯、どう出れば良いんだっけ』
『……通話、コレ?あ、違った……えっと……こっちでもなくて』
『……全部押せば、繋がる……かな?……えい』
『…………動かなく、なった……?』


〜翔子回想終了〜

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜中編 ( No.370 )
日時: 2016/03/25 21:26
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

「……なんて事があって」
「…………お前はホント、機械音痴だな……」

翔子も……あとついでに造も、そろそろマジで携帯くらい使えるようになってもらわないと困るな……まあ、向き不向きは人間誰しもあるもんだが。それに翔子は自分の携帯での通話はできるようだしまだマシなほうか。

「……ごめんなさい」

そう言ってしゅん……とした表情を見せる翔子。……ったく、しゃあねぇな。

「まあ、アレだ。電話出ようとしてくれたんだろうし、一応ワザとでもないんだろが」
「……うん」
「ならしょうがねぇだろ。次から気を付けりゃ良い」

長い事使い込んでいたし、どうせそろそろ寿命だったかもしれんしな。こんなんで落ち込まれるほうがよっぽど困る。

「……弁償する」
「それはいい。それより、お前確かこの後の予定は昼飯作りって言ってたな」
「……?うん」
「…………その後は何か予定あんのか」
「……ない」

ならちょうどいい。確か一番近くにある携帯ショップはショッピングモールの中……だったな。

「なら午後は携帯ショップのあるショッピングモールまで俺と付き合え。修理するにしろ買い換えるにしろどの道行かなきゃならん。お前も付いて来てちっとは携帯ショップで携帯の使い方勉強しろ」
「…………雄二はそれで良いの?」

俺の提案———と言うか命令に、あまりにも意外な命令だったようで心底驚いた表情をしている翔子。

「何がだ。言っとくが壊したのはお前だから、嫌だとは言わせんぞ」
「……そうじゃなくて、その……私と休日過ごすの、ホントは嫌なんでしょ?それなのに……携帯まで壊しちゃったのに……なんで」
「バカかお前。あ、いや。バカなのは知ってるが……」

ったく。ホントこいつは面倒だ。普段は押せ押せで俺に迫ってくるくせに、こういう時は一歩下がっちまう。頬をポリポリと掻きながら翔子の頭にポンッと手を乗せてこう続けることに。

「あのな、俺は単にお前やおふくろのトンデモ行動にツッコむのが面倒で仕方がないだけだ」
「……だから、嫌なんでしょ?」
「違うな、お前昨日俺が現国苦手だろって言ってたが……お前こそ苦手だろ。俺は……その、嫌とは言ってねぇぞ」
「???」

ここまで言ってもピンと来ていないようで頭にハテナマークを浮かべる翔子。ええぃ、ここまで言ってもわからんのか……!

「だーかーらー!俺は、お前と一緒にいること自体は嫌じゃねぇって言ってんだバカ!それくらいもわからんのか学年主席!」
「…………雄二!」
「ったく、こっぱずかしいこと言わせんな……ホレ。わかったらさっさと飯作って携帯ショップに行くぞ。意地でも携帯の使い方覚えさせてやるから覚悟しろ」

そう言って翔子の頭をわしゃわしゃと撫でてからキッチンに行くように促すことに。

「……雄二、その。携帯本当にごめんなさい」
「一度謝ったんだし二度も三度も謝んな。んな暇があるなら昼飯を朝よりも旨く作れ。んでもってさっさと携帯の使い方勉強しろ」
「……うん。ありがとう」

やれやれ、やっと納得したか。ったく、お陰で時間くっちまったな……おふくろのやつが腹空かせて俺らの様子見に来たらどうすんだ全くよ。なんて考えながら扉に手をかけようとした次の瞬間———






『うーん……今のはちょーっとわかりにくいわよ雄二。もうちょっと好意はわかりやすく伝えてあげないとね〜。まあ翔子ちゃん笑顔に戻してくれたから及第点ってところかしら?』

「「…………」」

———なんて声が扉の向こうから聞こえてきやがった。

「…………オイ、何コソコソ見ていやがるそこのおふくろ」
『失礼ね、見ては無いわよ。たまたま雄二と翔子ちゃんの声が聞こえてきただけで聞き耳立ててたわけでもないし。それよりお母さんお腹空いちゃったわ〜♪』
「……はい、すぐ作りますお義母さん」

…………前言撤回。やっぱおふくろのトンデモ行動にツッコむのは、俺嫌だわ……


〜坂本家昼食中:しばらくお待ちください〜


———ショッピングモール———


「……着いた」
「休日だけあって割と人多いな」

飯も作って朝と同じく俺・翔子・おふくろの三人で食った後、携帯を見てもらうためにショッピングモールへとやって来た俺。まあ約束通り翔子も一緒だな。

「……どこか寄る?買いたいものとか雄二はある?」
「いや、俺は携帯以外は特にねぇな。つか何より先にショップ行くべきだろうさ。どこか寄るにせよ寄らんにせよ、どんだけ時間がかかるか分かったもんじゃないし最初に携帯見てもらった方が良い。ま、お前がどうしても先に行かにゃならん場所あるならそこに行っても良いが」
「……雄二優先で大丈夫。なら雄二の言う通り、先に携帯屋さん行こう」

栄えているだけあって色々と目移りしちまう店が立ち並んではいるが本来の目的を忘れるわけにはいかんからな。まずは壊れた携帯をどうにかするため真っ先に携帯ショップへ向かうことに。

……ああそうそう。ちなみに一応は携帯が壊れた事はおふくろに話したんだが。

『いいのよ翔子ちゃん気にしないで。雄二ったらそろそろスマホに買い替えたいって随分前から言ってたしきっとちょうど良い機会ってことなのよ。雄二、買い換える機会をくれた翔子ちゃんに感謝するのよ』

とか宣うだけでは飽き足らず。

『そ・れ・と♪何だったら、今日は家に帰らなくても良いのよ二人とも。お泊りしたりイロイロしたりね。……翔子ちゃん、ガンバ♪』

———何て、出かける前にそう俺と翔子に宣いやがった。頼む。誰でも良いからあのおふくろに常識ってもんを教えてやってくれ。

「…………ハァ」
「……雄二、変な顔してる。どうしたの?」
「いや何。あのおふくろをどうにか変えられないかと思ってな……」
「……どうして?お義母さんは今も昔もとっても優しくて私好き。変わってほしくない」
「色んな意味で俺の胃にも優しいおふくろになってほしい……」

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜中編 ( No.371 )
日時: 2016/03/25 21:27
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

———携帯ショップ———


んな事を考えながらも、携帯ショップに辿り着いた俺と翔子何だが……

「オイオイ……こりゃ随分と」
「……混んでるね」

いくら休日だろうと、ここまで混んでいるとは流石に予想外だな。満足に商品を見ることさえ困難じゃねぇかと思ってしまうくらい携帯ショップを所狭しと客たちで溢れかえっている。と、ショップの入り口付近で客の多さに唖然としている俺と翔子に気が付いたのか、店員が慌てて声をかけてくる。

「も、申し訳ございませんお客様方。只今大変混み合っていましてお時間を頂くことになるかと……」
「ああ、いや。そりゃ見りゃわかるがどのくらいかかりそうなんだ?」
「その……今からですと一時間くらいかかるかと……」

対応に追われているのか、かなり焦りながらそう言って来る店員。店の様子を見るとどうやら新しい商品の発売日。それでこんなに客が多いのか……

「一時間か……まあ、そのくらいなら適当に他の店でも回ってりゃすぐだな」
「……うん。すみません、でしたらしばらく他のお店見てきても良いですか?」
「え、ええ勿論です!では番号札をお渡ししておきますので、一時間後くらいにまたいらしてください。本当に申し訳ございませんでした!」

そう頭を下げる店員に見送られつつ、一旦携帯ショップから離れることに。さて……

「で、どうすっか。さっきも言ったが俺は買うものなんざ携帯以外は無いぞ。翔子お前は?」
「……私も今のところ特にない」
「なら二階から面白そうなとこ順に回って一時間後にショップに戻るぞ。……一応聞くが、俺とお前でバラバラに行動は———」
「……嫌。雄二と一緒に行く」
「———しないよなぁ……わかった、わかったよ……」

…………ちっ。正直誰に会うかわからんショッピングモールでコイツの一緒にいるのは色々とリスクがあるが……まあ、そう心配せずとも厄介な奴らに会うこともない……か。

ならきっと大丈夫と自分に言い聞かせ、翔子と共にエスカレーターを使い二階へと上がる。このショッピングモールの二階は本屋やゲーム屋、服飾品や小物の店。更にはアミューズメントエリアにあるゲームセンターも存在する。時間を潰すならやはり二階だろう。

「さて……おお、早速ゲームセンター発見」
「……ゲームいっぱい」

二階に上がると、真っ先に目についたのがアミューズメントエリア。翔子の奴も特に用事は無いって言ってたからな。ここで一時間過ごすのも悪くはないか。

「んじゃちょいと寄ってみるか———って、そういやお前機械音痴だしゲーム駄目だったな」
「……うん。でもいい、こういう場所あまり来たことないから見てるだけでも楽しい」
「そ、そうか?なら良いが……」

機械音痴なこいつはここはあまり向かないんじゃねぇかと思ったが、意外にも興味深そうにあたりを見回す翔子。

「そもそも女子ってあんまこういう場所行かないのか?」
「……そうでもない。ほら、結構女の人たちも来てるよ」

そう指差す翔子の先には、女子同士でプリクラ撮ったりカップルなのか腕なんか組みつつ恋占いをしている男女がいたりとしている。ほう、割といるもんだな女子も。

「……えい」
「って、コラ。くっつくな、周りから妙な誤解されちまうだろが」
「……誤解じゃないし、仲の良さアピールしたい」

と、どうやらカップル共に影響されたのか俺にくっついてくる翔子。やれやれ、いないとは思うがこんなところを知り合いにでも見られたらヤバいだろうが……そう考え翔子の腕を引っぺがそうとしたその瞬間———

「(——————っっ!!?)」

俺の第六感が何者かの気配を感じ取る。姿は見えない……だが俺にはわかる……伝わってくる。これまでも何度も窮地を脱してきたことにより培われてきた勘が俺に教えてくれる。これは、この気配は———

「(敵(バカ)の気配……っ!)」

アミューズメントエリア内でそんな気配を感じる俺。恐らくはFクラスの誰かだな。……まず考えられるこのバカさ加減は明久。後は須川や福村ってこともあり得るだろう。考えてみりゃ休日にバカ共がゲームコーナーでたむろってても何もおかしくない。だが……何にせよこれはマジでマズい……翔子とデートしているなんて傍から見ればそう取られてもおかしくない状況でバカ共の気配……恐れていたケースになっちまった……

「……雄二?どうかしたの?」
「翔子、ここは駄目だ。こっち来い」
「……?よくわからないけどわかった」

とにかくまずは隠れるべきだな。翔子の手を引いて敵(バカ)の気配とは逆の方向へ早歩きで歩き出す。しばらく歩くと手ごろな店を発見。大急ぎでその店へと入る。

「……?このお店って……」

店の中に入ると、物陰に隠れつつさっきの気配の主に気付かれていないかと外の様子を探る俺。追いかけられた気配はなかったが……どうだ?

「(……どういうことだ?さっきの敵(バカ)の気配、近づくどころか逆に離れていっただと?)」

俺が気づいたということは向こうも俺の気配に気づいている可能性が高い。さっきの俺と翔子が腕を組んでいた(と言うか組まされていた)ところも見られていた可能性も勿論ある。だと言うのに……何故だ。予想に反しその気配は近づくどころか離れていったようにも感じる。いや、単純に俺の気のせいだった……のか?

「まあいい。とりあえず当面の身の危険はないだろうしな。ワリィな翔子、手引っ張っちまって———」
「……雄二、このお店に用があったの?」
「…………は?」

翔子に言われて周りをよく見てみると———カーディガンにブラウス。ワンピースにポンチョにキャミソールなどなどが女性型のマネキンに着せられて商品として立ち並んでいる。どう考えても俺には不釣り合いな場所、そう……

「…………女性服の、ファッションエリア……か」
「……雄二、何か買うの?」

慌てていたとはいえ何たる不覚……!店をちゃんと確認するべきだった。不幸中の幸いだが、これが女性用下着店じゃなくて助かった……!とは言え男の俺がこんな場所に長居するのも場違い過ぎて良くねぇ。そうとわかれば店員に見つかる前に即離脱だ。

「よし、ここも駄目だな!さあ翔子、さっさとここから退散を———」
「いらっしゃいませ!何かお探しでしょうか?」
「ぐっ……」

遅かった……っ!踵を返して店から出ようとするも、ニコニコと笑いながら女性店員が俺らの前に現れる。

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜中編 ( No.372 )
日時: 2016/03/25 21:28
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

「ああいや、すまんが違うんだ。用があったワケじゃなくて」
「……うん。用は無いけど彼に連れられてきました」
「あら♪カップルさんたちですか!」
「いいや全然違う」

何を勘違いしているのか俺と翔子をカップルだと思い込んでいやがる店員は、馴れ馴れしくもペラペラと俺らに話しかけてくる。……いや、確かに翔子は俺の腕を組んだままだし、こんな店に男女が入ってくるならそりゃそんな勘違いをするかもしれんが……

「彼氏さんそう恥ずかしがらずに。つまりは彼女さんに似合う服をお探し何ですね?」
「何も買う予定ねぇんだよ。間違ってこの店に来てしまってな。あとこいつは彼女とかじゃなくてだな」
「……うん。彼女じゃなくて妻です」
「余計な事言って場をややこしくすんなバカ!?」

そして更に深まってしまう誤解を生みかねない発言をしやがるバカが一人。翔子、俺らくらいの歳の夫婦なんざいねぇんだよバカ野郎……っ!

「まあ♪将来を誓い合ったカップルさんでしたか!そういう事でしたらお任せください旦那様っ!奥さまにピッタリのコーディネートをしますのでっ!」
「いらんっ!誰が旦那で誰が奥さまだゴラァ!ええぃここから出るぞ翔子———って、オイ待て店員っ!?翔子連れてどこへ行く!?」
「すぐに済ませますので!さあ奥さま、必ずや旦那様をメロメロにしちゃうコーディネートを提供させていただきますねっ!」
「……メロメロ……!よろしく、お願いします」

止める間もなく何着かの服と翔子を連れて試着室へと向かいやがる店員。……あの店員のテンションは何なんだ……

「つか、俺はこんな場所で何してりゃいいんだよ……!?」


〜雄二待機中:しばらくお待ちください〜


「お待たせしました旦那様!コーディネート完了ですっ!」
「とりあえず次に旦那って言ったら殴っていいか……?」

待ちぼうけを食うこと約10分。そろそろイライラでどうにかなってしまいそうな中、ようやくコーディネートとやらが終わったらしく試着室から先に出てくるこの鬱陶しい店員。

「さっきも言ったが俺らはただ迷い込んだだけだ。何も買う気なんざねぇからな……?」
「いやいや、そう仰らずに旦那様!絶対に気に入ってくださるよう頑張ってコーディネートしましたので!」
「また旦那って言いやがったなテメェ……!」
「さあ、奥さま!どうぞっ!」

俺のツッコミも無視して翔子を促すこの店員。…………まあいいさ、絶対に買わねぇしな。見るだけならタダなんだ。寧ろ時間かけてコーディネートしたのに何も買わけりゃ、この店員に無駄な時間を取らせたってことで一矢報いることが出来るってもんだ。そう考えていると試着室のカーテンが開かれて———

「……雄二。どう、かな?」
「………………っ」

———見慣れた、でもいつもとは少し雰囲気が違う翔子が現れる。

「いかがですか旦那様!僭越ながら説明させていただきますが、まずコート!こちらはこれから寒くなることも予想してのファーの付いたものです!暖かさは勿論のこと奥さまの持つ上品さを決して損なうことのない上質で華やかなものを選ばせていただきました!それからトップスは奥さまの素晴らしいプロポーションを損なわないように、ですがくどくなり過ぎないようにバランスを取ったチュニック丈の———」

翔子が姿を見せると同時に、店員が捲し立てるように何やらぺちゃくちゃと説明始めるが……思わず翔子の姿に見入ってしまった俺は、そんな店員の説明なんか頭に入ってこない。

「……雄二、やっぱり似合わない……?」

俺からの反応がなかったせいか、若干不安そうにもう一度尋ねる翔子。その言葉を受けて思わずもう一度翔子の姿を見てみる。普段コイツが着ている服装とは大分イメージが違い今どきの流行の服って感じではある。けれど似合っているか似合っていないかって聞かれたら……そんなもん……

「し……だった……」
「……?し?」
「し、新鮮……だった……似合わない……ことも、ない……かもな……」
「……そっか♪」

目を背けつつも言葉に詰まりながらそう感想を言うと、何故か幸せそうな笑みを浮かべやがる翔子。そのまま未だに説明を続ける店員に話しかける。

「……店員さん、ありがとうございました。これ、全部ください」
「———それから防寒にもなり、スラリとした奥さまにピッタリの黒のタイツとそれに合ったブーツを……え?」
「……全部、買います」
「ほ、本当ですか!あ、ありがとうございます!」
「……あ、それとこのまま着て帰っても良いですか?」
「勿論ですとも!では値札を外して会計しますので少しお待ちくださいね!」
「お、オイ翔子!?」

待て待て待て!?何でわざわざこんなの買う必要がある!?コイツの家ならもっとこいつに合った今着ているものよりも高級な服もあるだろうに金の無駄だろうが!?

「お前ん家にはもっとずっと品物の良いもんあるだろうが!?考え直せよ翔子!」
「……ううん。これが、良い」
「いや、良くねぇよ!正直お前の趣味とは毛色が違うだろ!?」
「……だって……雄二気に入ってくれたから」
「ハァ!?」

正直このハイテンション店員が気に入らねぇし、そんな奴が選んだ服なんて買うのも癪だ。そう考えて説得してみるも帰ってきたのは相変わらずの頓珍漢な返事。お、俺は別に気に入ったとは一言も言ってねぇぞ!?そう言い返そうとするが、翔子はその俺の返事をわかっているかのように首を横に振り先にこう返す。

「……少なくともこの格好、雄二嫌じゃないんでしょう?」
「…………いや、そりゃ嫌とは確かに言っては無いが……」
「……なら、買う」

嬉しそうに言って迷わず財布をトートバッグから取り出そうとする翔子。ああくそ……調子狂う……これだから世間知らずのお嬢様ってやつは……っ!もういい、こうなりゃヤケだ。

「…………いくらだ」
「……え?」
「いくら、かかる。値段は?」
「あ、はい旦那様!ええっと計算しますので少々お待ちを———」

間接的とは言え俺の発言で買わざるを得なくなっちまったことだし、このまま翔子に払わせるのも少々腹立たしく感じて気が付けばそんな行動を起こしている俺。そんな俺の行動に、ついさっきとは逆で翔子の方が慌てて俺を止めようとする。

「……ゆ、雄二。いいよ、私の服だし私が払う……」
「…………別に、俺はただ……あー………そ、そうアレだ!朝飯と昼飯を作った対価として払うだけだからな!勘違いしてもらっちゃ困るが、別にプレゼントなんかじゃねぇぞっ!?」
「……でも雄二、朝ご飯とお昼ご飯の分は携帯で帳消しだってさっき言ってたのに」
「そっ……それは……だ、だからアレだ!こんな店にこれ以上いたくねぇだけ!金払ってさっさとここから出たいんだよ俺は!」

そう言いきってそっぽを向く。ったく、携帯といい服といい今日はやけに出費することになるな……今日の俺もしかして金運良くねぇのか?そうブツブツと愚痴る俺に、翔子はと言うと。

「……雄二」
「…………何だ」
「……ありがとう。一生、大事にするから」
「お前な……こんなもん一生使えるわけねぇだろ……成長期ってことでそのうちどうせ着れなくなるぞ」
「……うん。多分そうなる。でも———」






「———雄二が私の為に買ってくれたものだから、一生ものの宝物になる」

そんなことを宣いながら、幸せそうにもう一度試着室の鏡に映して自身の恰好を確認する翔子。…………ああ、ホント……ホント調子狂っちまうなぁオイ……