二次創作小説(紙ほか)

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜後編 ( No.373 )
日時: 2016/03/25 21:30
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

雄二Side


「———ありがとうございました!またお越しください奥さまに旦那様!」
「……こちらこそ。ありがとうございました、また来ます」
「二度と来るかっ!つか、大声で誤解生まれるようなこと言うなテメェ!?」

あの無駄にテンションの高い店員に見送られながらも大急ぎで女性服店を後にする俺と俺に引っ張られる翔子。とんだ店員だったぜ畜生め……

「とは言え時間は多少は潰せたから良いが……あと30分くらいか?」
「……うん」

本来の目的である携帯ショップは一時間程度待たされると言われていたからな。さて、残りの30分をどうやって過ごしたものか。

「で、次どこ行く翔子。さっき行きそびれたゲームコーナーにでも行くか?」
「……雄二、ゴメン。私ちょっと行くところ出来た。そこ行っても良い?」

と、さっきまでは特に用事は無いと言っていた翔子が急にそう尋ねてくる。

「あ?何だ用事でも出来たのか?まあ、そりゃ別にかまわんが」
「……ありがとう。時間かかるかもしれないから、雄二も行きたいところに行ってていいよ。時間になったら適当な場所に集まろ」
「は?」

意外な事にあれだけ俺とバラバラに動くことを嫌がっていたのに、コイツ自身がこんな提案をしてくる。こりゃどういう心境の変化何だ?

「お前から分かれて行動しようだなんて言うなんざ珍しいな。つか、何の用事だ?正直携帯無い状態じゃ合流するの面倒だし、多少時間かかってもそこで待ってても良いんだぞ?」

さっきも散々待たされたしな。あの店に比べりゃ他の店で待つことなんて大したことは無いだろう。そう思って言ってみると何故か翔子のヤツはほんのりと頬を赤く染めて———

「……わかった。ちょっと恥ずかしいけど夫婦だし問題ないよね」
「?何の話だ」






「……これから行くのは———ランジェリーショップ」

…………ランジェリーショップ=女性用下着店。なるほど、つまりはあの店以上にアウトな場所ってことか……

「……さっき雄二に買ってもらった服に合う下着買おうと思ってた。あの店員さんにもお勧めの下着を教えてもらったし。さっきみたいに下着姿の感想を聞きたいから、雄二も一緒に———」
「さて!俺は気になっていた本でも探しに行くかなっ!つーわけで翔子!30分後に集合!集合場所は携帯ショップだ!遅れずに来るんだぞ!」

そう叫ぶように言い残して、この場から去る俺。あの店員最後まで余計な事を……!

『……雄二は恥ずかしがり屋さん。わかった、また後で』

遠くからそんな翔子の声が聞こえるが、お前が恥知らずなだけだバカ……!なんてツッコミも出来ずに一目散に本屋へと急ぐことに。あんにゃろ……俺を下着店にまで連れてく気なのか……!?

『……さて。雄二を待たせたら妻として失格だし、早速行こうかな』
『———って、あら?今度は代表じゃないの』
『翔子ちゃん!奇遇ですね、翔子ちゃんもお買い物ですか?』
『……?あ、優子に瑞希だ。こんにちは』


〜雄二撤退中〜


「アイツは何考えてんだろうな……いや、いつものことではあるんだが……」

ため息交じりに愚痴りながら、本屋へと辿り着く俺。アイツやおふくろの行動に半ば慣れつつあるのが辛いものだ……

「ま、そんなことより今はどう時間を潰すかだな」

別に読みたい本があったわけじゃねぇし、立ち読み出来れば何でもいいか。そう思って適当な雑誌を見繕い手に取って読むことに。

「……ほう、これは中々」

何冊か読み漁っていると、一つゲームに関する面白い記事を発見しじっくり読む俺。ふむ、確かこのゲームはあのバカ———明久が気になると言っていたゲームだな。あのバカは勉強や雑学その他に関しては全くアテにならんバカだが、料理やゲーム関連になると割と貴重な情報源になる。そのバカが欲しがっているゲームなると少し興味があるな。

「お?何だ、しかもちょうど今日が発売日じゃねぇか」

……ふむ。まだ合流予定時間まで時間はある。このまま本屋で立ち読みしようにも面白そうなの雑誌はほとんど読んじまったし……何より今日買うかもしれないスマホやさっき払った翔子の服の金額を差し引いても、まだおふくろから前借した金に余裕はあるな……

「これも良い機会なのかもな。ちょいとゲーム屋に立ち寄ってみるか」

そう決めて読んでいた雑誌をパタンと閉じて本屋を後にすることに。今日はホント金の出入りが激しいが……どうせ使うならパッと使っておきたいし思い切って買うのも悪くはない。買わないにしてもゲーム屋も暇つぶしにはもってこいの場所だからな。

『……あれ?ゆーさん……?』
『む?何じゃ造よ。雄二がどうかしたのかの?』
『あ、その……後姿だけですけど、ゆーさんのような人が見えた気がしまして』
『今度は雄二じゃと?造よ、さっきは明久らしき人影がどうとか言っておらんかったかの?』
『あ、はい。見間違いじゃなかったらですが、もしかしたら二人とも遊びに来てるのかもしれませんね』

本屋からゲーム屋まではそう距離は無いため、途中途中にある店にちょくちょく顔を出しながらのんびりとゲーム屋に向かう。よくよく考えてみれば本日初めての心にゆとりの持てる自由な時間を過ごす俺。

「休日はやっぱこうでなきゃなー」

何て独り言ちしながら曲がり角を曲がると、目的のゲーム屋を発見する。ご丁寧に件の新作ゲームが店頭に並び“話題のゲーム!本日発売!”と法被を着た店員が宣伝しているのが見える。おっと、やっぱ結構売れてんだな。こりゃ急がないと売り切れちまうかな?

「(———ん?)」

なんて、ゲームに意識を集中していた俺の背後で妙な気配を感じる。気になって立ち止まり後ろを向いてみるが———別に何もおかしな奴もいないし、その妙な気配も消えている。…………?何だ今の気配?気のせい……か?

「(そういやさっきも敵(バカ)の気配感じたんだよな……だが姿は見えないし……)」

…………ひょっとして、昨日今日のごたごたで俺疲れているのだろうか。それで変に気が立っていつもの第六感がおかしくなっているのか?確かに朝は無駄に早起きしたし、翔子やおふくろ、それから昨日の闇鍋騒動のせいで昨日今日ツッコミ三昧だったから疲れも溜まっているのかもしれない。

「(そう考えてたら急に眠気が……)ふぁ……」

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜後編 ( No.374 )
日時: 2016/03/25 21:31
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

なんて考えていたせいか思わずあくびが出てきてしまう。いかんいかん、まだ本来の目的だった携帯ショップに行かにゃならんと言うのにな。よし、ならばこそ気晴らしにゲームを買って目を覚ますとするか。

と、再びゲーム屋に向かおうと踵を返すと勢いよく振り返ったせいで靴紐が解けてしまう。このままじゃ転んじまうなと靴紐を直そうと屈んだ瞬間———

「クタバレ雄二ィイイイイイイイイイイ!」
「っとと、やれやれ靴紐が……」


ブゥン!


———俺の頭上を何者かのハイキックが通過していった。…………は?

「「…………」」

屈んでいる俺と、ハイキックを仕掛けてきた襲撃者。俺ら二人によるちょっとしたにらめっこスタート。流石の俺も突然の襲撃で、一瞬思考が停止してしまうが———すぐさま気合いで思考を元に戻して目の前の襲撃者を分析することに。

———バカそうな顔。
 ———バカそうな雰囲気。
  ———と言うかバカそのもの。

…………見紛うことなぞありえない、俺の宿敵であるバカ———そう吉井明久だ。何やってやがんだこのバカは……!

「……………………おい、テメ———」
「命拾いしたな雄二!だが次はないものと思えっ!」
「あっ!コラ!待ちやがれ!」

襲撃に失敗したあのバカはそんな捨て台詞を俺に向かって言うとさっさと徹底していく。そんな逃げ出したバカの後ろ姿を見ながら俺もすぐさま考えをまとめることに。

「くそ……っ!よりにもよって、何故このタイミングで明久が……!?」

まさか翔子と出かけていたことが筒抜けだったのか……!?そう考えると奴の襲撃の理由もわかる。やはりさっきアミューズメントエリア内で感じた敵(バカ)の気配はヤツのものだったのか……!

「つか、なんで俺が襲われなきゃならんのだ……!」

今回このショッピングモールに来たのは翔子が壊しちまった携帯を買い替える為だ。そのついでにただ単に翔子に携帯の使い方を勉強させるつもりなのだから、ハッキリ言ってあのバカ久や他の連中(=FFF団)に見つかっても襲われる謂われなんざ欠片も無い。

…………無いのだが。

「そんなもん、考慮する連中じゃねぇんだよな……」

そもそも休日に女子と二人で出かけている事実さえあれば、連中は躊躇いなく俺を殺しに来るだろう。そこには反論の余地など一切ない。明久にしたって普段の恨みとか雄二の幸せは許せないとか何とか言って喜んでさっきのようにFFF団に力を貸すハズ。もしも奴らに捕まって異端審問会を開かれた場合、最悪昨日翔子を家に泊め更には朝食昼食を作ってもらったなんてバレてしまう。そうなれば俺の人生が終わりを告げることになるだろう。となれば、俺がやるべきことはただ一つ———

「…………殺るしか、ない」

仲間であるFFF団を呼ばれる前に手を打つ。奴にFFF団への連絡の隙を与えたらこっちが不利になる。あのバカも無駄にしぶといが俺の方がスペックは上。正面からぶちのめせば殺れる……!それが最善の策と言えるだろう。そうと決まれば———

「明久!待ちやがれ!」
『なんで!?』

———そうと決まれば全力でヤツを追おう。死人に口なし、ここでヤツを消せばFFF団にも今回の事がバレずに済むわけだしな!俺の追走に気付いたバカはさらに速度を上げて逃げ出すが……逃がすかぁ!

『『…………』』

『ね、ねぇヒデさん……今のって……』
『う、うむ……明久に雄二、じゃったの。こんな場所で一体何をやっておるのじゃあやつらは……』
『やっぱりさっき見えたのはアキさんとゆーさんでしたか……と言うか良いのでしょうか?あんまり騒ぎ立てると警備員さんにまた———』

『———高校生、でしょうか?さっきも何やらいかがわしい発言をしている高校生を見かけたと連絡ありましたよね』
『とにかく捕まえて……他のお客様に迷惑になりかねませんし補導を———』

『『…………あっ』』


〜明久&雄二鬼ごっこ中:しばらくお待ちください〜


『ハァ……ハァ……くそぅ、まだ追いかけてくる……』
「テメェ、待てやゴラァ!」

前方を走る明久を追いかけること数分、奴も地味に俺と同じくらいに足は速いがだんだんとバカ久との距離が縮まりつつある。奴の逃走に合わせショートカットを駆使した甲斐があったな……逃がさんぞバカめ……

『くそ……追いつかれるのも時間の問題……こうなったら———』

あと一歩で射程圏内と言うところで、急に曲がり角を曲がるバカ久。ハッ!苦し紛れだぞ!そう思いながら俺も奴に続いて曲がり角を曲がると———

「何ィ!?」

———もう少し、あと一歩で追いついたにも拘らず煙のように姿を消しやがったあのバカ。

「っ!ヤロォ!どこだっ!」

あんにゃろ……どこに消えやがった!?慌てて辺りを見渡してみるも、近くにあるのはランジェリーショップ———つまりは女性用下着店だけで他に隠れられそうな場所は無い。いくらあのバカが宇宙一のバカとは言え、そんな場所に逃げ込むほどバカではない……と思う。と言うことは多分まだ近くにいるハズ。どこだ……どこにいやがる……!

と、しばらくキョロキョロとヤツを探していた俺の背中を叩く感覚が。っ!明久かっ!

「そこかぁあああああああああ……あ?」
「君だね?大騒ぎしていた高校生は」
「ちょっとこっちに来て学校の先生と保護者の連絡先を教えてくれるかな」
「…………は?」

明久だと思い振り返った先には…………警備員のおっさん二人。拒否権は無いぞと言いたげに俺の肩をがっちり掴んでいる。こ、これは……もしやさっきの明久との追いかけっこで目立ち過ぎた……か?よく考えれば少し過激な発言(例:クタバレ明久っ!地獄に送ってやるから大人しくしやがれテメェ!)を大声でしていた俺。そ、そりゃ目を付けられてもおかしくないか……

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜後編 ( No.375 )
日時: 2016/03/25 21:32
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

「ほら、とりあえず行こうか」
「他のお客様に迷惑がかかるからね」

問答無用で俺を連れていこうとする警備員のおっさんたち。ヤバイ、これはヤバい……このままだと明久をどうこうするどころの話じゃない。

「あ、いや違う。待ってくれ……その俺はだな」
「うんうん、とりあえず話はここじゃなくてスタッフルームの方で聞くからね」

どうやら言い訳も碌に聞いてもらえないようだ。このまま連れていかれて文月学園の生徒だとバレれば鉄人に連絡がいって———人様に迷惑をかけるなと物理交じりの説教になっちまう……どうする、このまま振り切って逃げようにも顔は見られているし……マジでヤベェ……どうする、どうするんだ俺……!?

「(こ、こうなりゃ多少手荒でも———そう、この二人気絶させてでも逃げ出すしか……!)」

かと言ってこのまま大人しく連れていかれるわけにもいかない……か。仕方ない、暴力沙汰はなるべく起こしたくないが軽く腹殴って気絶させるしか……!そう考えて、掴まれている手を振り払おうとした瞬間———

「———お兄ちゃん、いたあああああああああああああああああ!」

「「「…………は?」」」

俺が行動を起こす前に、どういうわけか俺に向かって俺を兄と呼ぶ小さい黒い影が飛び込んでくる。お、お兄ちゃん……!?待て、俺に兄弟何て———と、飛び込んできたヤツをよく見ると。

「って、造じゃねぇか!?」

……俺の胸に飛び込んできたのは、あろうことか俺より年上のクラスメイト。な、何やってんだ造……?流石にツッコむべきか迷いそう尋ねようとすると。

「(ゆーさん、ここは話を合わせてください)」
「(っ!お、おう了解だ)」

表面上は泣きじゃくる弟を演じつつ、警備員のおっさん二人の死角からいつものアイコンタクト会話術でそう俺に指示する造。もしやこいつ……俺に助け船を……?ありがたい、ならここは便乗させてもらおう。

「どこ行ってたのお兄ちゃぁああああああああああん!?勝手にいなくなってお兄ちゃんのバカぁ!うわぁああああああああああああん!!?」
「お、おうすまん……俺も随分探したんだぞ造。泣くな、な?」
「あ、あの君たち……?これはどういう———」
「ああ、兄さん!良かったやっと見つかった……!」
「(秀吉もかよ!?)」

警備員のおっさんが俺らに何か言いたげだったようだが、後から現れた秀吉に遮られる。その秀吉も造と同じくアイコンタクトでワシらに合わせよ雄二と言ってきた。こ、こいつらホント良いタイミングで来てくれるなオイ……

「すみません警備員さん。兄がご迷惑をおかけしました」
「え、いやその……」
「兄弟で遊びに来てたのですが……一番下の子とはぐれてしまって。それで兄が取り乱してしまったようです。申し訳ありませんでした」
「あ、ああそう言うこと……」

流石は演劇部。全く顔色を変えずに平然と即興の口八丁でこの場を支配する。畳みかけるような秀吉の演技にさっきまで問答無用で俺を連れていこうとしていた警備員のおっさんたちも怯み始める。

「それで……やはり兄は補導されてしまうのでしょうか……?このような事は二度とないように気を付けますので……できれば補導は……」
「え、いやその……ど、どうしましょうか……」
「い、一応はこちらにも規約がありますし、名前と学校名だけでも教えてもらうためにこちらに来てもらわないと———」
「おじちゃんたちお兄ちゃん連れていっちゃヤダ!取っちゃやぁだあああああああああああああ!!」

そして造も迫真の演技を見せてくれる。大声でそう言って俺の裾を掴み泣きじゃくる造。勿論これはウソ泣きなんだが……いやはや、コイツ改めて秀吉に負けず劣らず凄い演技力だな。本人に言ったら泣きそうだから言わんが、マジで子役とか向いてそうだ。

「あ、ああゴメンね僕!?だ、大丈夫キミのお兄ちゃんは取らない、取らないから!」
「き、キミ!今度からこういう事無いようにしてくれよ!?こ、今回だけ見逃すから……それじゃあ……」

流石の屈強そうな警備員も泣く子には敵わなかったようで、結局俺の名前も聞かずに二人とも戻っていった。ハァ……やれやれ助かったな……

「ぐす……ぐすっ………………コホン、警備員さん行きました?」
「…………うむ、もう良いようじゃぞ」

しばらく泣きじゃくるふりをしていた造とその造を宥めてるふりをしていた秀吉だったが、おっさんたちが行ったのを確認するとホッと息をついて脱力する。

「ふぅ。良かった……何とか上手くいきましたね」
「良い演技じゃったぞ造よ」
「ワリィ、助かったぞ二人とも。サンキューな」

気が抜けたのか近くにあった椅子にぐったりと座り込んだ造と秀吉に、まずは礼を言う事に。

「ホントですよ……かなり捨て身の演技だったんですからねー?あー……恥ずかしかった」
「だろうな。重ね重ねスマン、助かった。つーかお前たちもここに来てたんだな」
「はいです。自分とヒデさん、それから優姉さんの三人で野暮用兼遊びに来てましてね」
「そんな中ウロウロしておったら逃げる明久と追う雄二と、更に二人を追走する警備員に出くわして———で、見過ごせぬからと助け船を出したと言うわけじゃ。全く……ワシらがいなかったらどうするつもりだったのじゃお主は?」

秀吉にそう尋ねられる俺。いや、マジでどうしようも無かったかもな……

「いや……そこは……ホレ、あのおっさんたちを気絶させてだな……」
「なんて物騒なことを考えてたんですかゆーさん!?下手したら補導どころの話じゃないですよねそれ!?」
「……ワシらがいて良かったのお主。と言うか、一体全体何故に暴れておったんじゃ。お主も、それから姿が見えない明久も」

そう盛大にツッコむ造とジト目になる秀吉。確かに実行してたらヤバかったかもな……

「ま、まあ待て落ち着け。それもこれも理由があるんだ二人とも。大体明久が悪いんだが———」

流石にこのままではこの二人にいらん誤解を招いてしまう。そう思い弁明をしようとした次の瞬間。

「———(ドンッ!)雄二っ!」
「ぐぼほっ!?……い、痛っでぇ!?な、なんだぁ!?」

再び俺の懐に飛び込んでくる黒い影。さっきの造と違うのは地味に痛い点だが……今度は誰だ……!?

「……雄二、大丈夫!?ゴメンね、寂しかったよね……」
「って、翔子じゃねぇか!?」

良く見れば、いや良く見なくても飛び込んできたのはさっきまで一緒だった翔子。何を慌てているのか知らんが俺の腰にしがみ付いて意味の分からん事を呟いている。今度はこいつかよ……ったく次から次に一体何なんだ。

「纏わりつくな、離れろよ翔子。つーか何だ急に」
「……離れない。雄二に寂しい思いさせた。ゴメン雄二……」
「?霧島さんどうしたんですか?」
「何を取り乱しておるのじゃ霧島よ?」
「待ってよ……代表……ほ、ホント代表……足早いわね……ハァ、ハァ……」

何の話してんだコイツ……?一向に状況が読めんな。と、俺も造も秀吉も困惑している中、ぜぇぜぇと翔子を呼びながらやって来た秀吉の姉である木下姉。

「あ、あら。坂本君も造くんに秀吉もいるわね……」
「あれ?優姉さん用事終ったんですか?」
「何じゃ姉上。霧島と一緒だったのかの」
「え、ええ……代表ったら……自分の、荷物……試着室に置きっぱなしのまま……あっという間に飛び出していっちゃうんだもの……やっと追いついたわ……あぁ疲れた……」

多分この口振りから察するに翔子を追ってきたんだろう、息を整えながら翔子のやつに荷物を渡す木下姉。そんな状況を知ってそうな木下姉に説明を求めることに。

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜後編 ( No.376 )
日時: 2016/03/25 21:32
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

「なあ木下姉、こいつが何でこんなに取り乱しているか知ってるか?」
「え?何でって……それは坂本君が一番分かっているんじゃないかしら?」
「は?」
「だって、ねぇ代表?」
「……吉井から連絡受けて。翔子ニウムが足りなくなって雄二が禁断症状出てきて大暴れしているって聞いた。雄二が私依存症になってパニックを起こしたって聞いたから……」

「「「…………」」」

俺の腰に抱き付いたままそんなことを宣う翔子に俺は絶句、ついでに造と秀吉は完全にドン引きする始末。あ、明久……あんにゃろまた適当な事を言いやがって……!?翔子ニウムって何だ翔子ニウムって……!?

「あー……そうですか、だから暴れていたんですかゆーさん……」
「やれやれじゃな。ノロケるのも大概にしてほしいのう……」
「うぉい!?全然違うからな!?お前らも信じるなよこんなでたらめな話!?」

や、ヤロウ……何でこんな適当で頓珍漢なことを———待て、まさかこれは……!?

『よし……今のうちに行こう瑞希。今なら邪魔されることなく脱出できるよ』
『は、はぁ……わかりました……』

「テメェ!やっぱりそういう事か明久ァ!」

『ヤバいバレたっ!……瑞希、走るよっ!』
『ま、待ってください明久君……!』

もしやと思い辺りを見回すと、何故か姫路の手を引いて逃げ出しているバカ発見。アイツ……!やはりここから安全に逃げ出すために翔子を使って俺を足止めする気だな!?

「しょ、翔子離せ!?このままじゃ明久が逃げちまうだろ!?」
「……駄目。雄二が回復するまでは離しちゃ危険だって吉井に教えてもらったし」
「騙されてんだよお前っ!ああ畜生……明久ァ!テメェ覚えておけやゴラァ!」

翔子に力いっぱい腰を抱かれているせいで、明久を追えずに地団太を踏むことになった俺……クソ……っ!もういい、とりあえず明久は明日以降ボコるとして今やるべきことは……腰にまだ纏わりついている翔子を引っぺがすこと。そして———

「いやはや……相変わらずお熱いですよね、ゆーさんに霧島さんは」
「うむ、人目を気にせずにいちゃつくとはの。バカップルもいい所じゃな」
「だから違うっ!頼むから説明させてくれ造に秀吉っ!?」

———この二人に誤解を解くことだな……


〜雄二説明中〜


———十分後:携帯ショップ———


「———と言うわけだ。翔子が壊しちまった携帯の買い替えついでに翔子に携帯の使い方学ばせようとした矢先にあのバカが俺に襲い掛かってきたんだ。で、口封じのためにヤツを追っていたら警備員のおっさんたちに目を付けられてたと言うわけだ」

「「…………」」

「相変わらずなお二人ですね……」
「ホントに毎度毎度バカじゃのうお主ら……」
「ま、待て待て!?何故更に引くんだお前たち!?」

ドン引きするこの二人に説明はしたんだが、更にドン引きされる俺。明久が引かれるならともかく何故俺まで……!?

「ま、まあある意味いつも通りですし……下手に騒ぎにならなかったから良いですけどね。ゆーさん、今度からは気を付けてくださいね」
「流石にまたさっきと同じように暴れられたらワシらもフォロー出来ぬからの」
「へいへい、以後気を付ける。それに今日は無事に用も済んだし騒ぎなんか起こさねぇよ」

ちょうど良い時間になったし、携帯ショップで二人に事情を説明した俺。ついでに色々あったが説明しながらも念願のスマホを無事に買えた。

「わぁ……ゆーさんも新しい携帯何ですねー♪自分も買い換えちゃいました!どうですか!カッコイイですよねコレ!」
「……お、おう。良かったな造」

……ちなみに。どうやら造も俺と同じく携帯を買い替えるために、秀吉や木下姉と遊びついでにこのショッピングモールにやって来ていたらしい。それは別に良いんだが……造が買い換えた携帯、どう見てもキッズ用の———

「(……まあ、造が使いやすけりゃそれで良いか)」
「(雄二よ、知らぬが仏と言うものじゃぞ)」
「(それもそうか……OK秀吉、黙っておくから安心しときな)」

まあ、本人がそれでいいならそっとしておいてやろう。世の中には知らんで良い事もたくさんあるしな。

「……お待たせ」
「携帯のマニュアル貰ってきたわよ。こっちが代表ので、こっちが造くん用のね。はいどうぞ造くん」
「ありがとうございます優姉さん♪」

と、秀吉とこっそりアイコンタクトで会話をしていると翔子と木下姉も戻ってきた。さて、これで用は全部終わったな。

「お前たち他に用事は無いか?」
「いえ、自分たちはこれで用は済みましたよ」
「んじゃ、帰るとするか。ああ疲れた……」

昨日に続いて今日もまたドタバタではあったが、何とか無事に帰れるな……やれやれとんだ休日だったぜ。愚痴りながらも翔子や造たちと共にショッピングモールを出ることに。

「それにしてもビックリしましたよ。ゆーさんもアキさんも、それに霧島さんに……あと姫路さんも来ていたなんて」
「む、そう言えば結局姫路とは話せなかったが、あやつもここに来ておったのじゃな」
「……ああ、そういや最後に明久が姫路も連れて逃げてたな」

…………あ。もしかして明久のヤツ、姫路と一緒に来てたのか……?だからアイツ俺を口封じしようとした……のか?今更ながらその事実に気付く俺。なるほど、あのバカのことだ。姫路と一緒にいるところを俺に見られるわけにはいかないと思い至って俺を抹殺しようとしたってことか。これでやっと全て合点がいったな。

「ってことはあいつ姫路とデートでもしてたのか。……こりゃFFF団に通報ものだな」
「いやいや……その理屈だと霧島さんと一緒だったゆーさんまでFクラスの皆さんに追い回されちゃいませんか?」
「……ちっ、そう言われればそうか……」
「瑞希……?ああ、そうそう。瑞希で思い出したわ」

残念だ。あのバカをFFF団に引き渡せたら今日の分の仕返しが出来て俺が直々に制裁を加える面倒が省けたのにな。と、残念がっていると木下姉が何かを思い出したかように話を始める。

「それにしても瑞希もやるわよね代表」
「……うん。私も見習いたい」
「?何の話じゃ姉上に霧島よ」
「いやね、その話題の瑞希なんだけどさ。かなり積極的になっててね」
「……ビックリだった。瑞希ね、吉井を———」

「「「明久(アキさん)を?」」」

「———ランジェリーショップの試着室にまで連れ込んでた」

「「「…………」」」

翔子のその衝撃的な言葉に、俺と造と秀吉は思わず顔を見合わせる。…………は?

彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜後編 ( No.377 )
日時: 2016/03/25 21:33
名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)

「いやぁ、瑞希と吉井君、関係進んでいるのは知ってたけどまさかそんなことまでするなんて驚きよね代表」
「……私も負けていられない」

そんな衝撃の事実を何故か女子二人は気にしていない様子だが……いや待てちょっと待て……

「何をやっているんだあのバカは……」
「え、え……?それはつまり……アキさん女性用下着店に入るだけじゃなくて———試着室にまで入ったってこと……ですか……?」
「……真に補導されるべきはあやつじゃったか……ムッツリーニじゃあるまいに」

あのバカ……流石に女性用下着店に逃げ込むほどのバカじゃないと思っていたが……甘かった。やはりあいつは宇宙一のバカ。何をやっているんだマジで……

「これは鉄人に通報しておいた方がいいのかのう……」
「い、いや……何か事情があったのかも……しれませんし……」
「女性用下着店の姫路が入っている試着室に入らにゃならん事情とは何だ造」
「…………何でしょうかねホント……」

さてどうしたものか。秀吉の言う通りこのまま鉄人に連絡するのも良いが……それだとしらばっくれられる可能性もある。それよりも確実にあのバカを地獄に送れる方法は———

「やっぱこれだな」
「ゆーさん……?」
「雄二、どうするつもりじゃ?」
「まあ見てな二人とも。鉄人に連絡するよりももっと良い方法があるからな」

さっき買ったばかりのスマホを取り出す俺。そして———

「もしもし。どうも玲さん。俺です、坂本です。実はですね。先ほど明久の奴が変態なことを……もとい大変なことをしでかしたようでして。ええ、その報告をですね———」

———先ほどの制裁を兼ねて、あのバカの姉である玲さんに電話をして事情を説明することに。


〜雄二通話中:しばらくお待ちください〜


「ハッハッハ!いやぁ、良いことした後は気分が良いなぁ!」

玲さんに連絡をした後、造たちと別れた帰り道。俺の気分はとても晴れ晴れとしていた。

「……雄二何だか嬉しそう」
「おうよ。そりゃ嬉しいに決まってるさ!」

何せ今頃自身の家に帰りついた明久のバカは、玲さんに問答無用に説教&折檻させれられているハズだからな。女性用下着店に入り込んだばかりか、あろうことか姫路がいる試着室に突貫したとなりゃ玲さんに言い訳なんざ効くはずもない。運が良ければあのバカの命は今夜限りで終ることになるだろう。

「そう言う翔子こそ何だかさっきから随分嬉しそうじゃねぇか。なんかあったのか?」

俺の隣で何やら俺と同じく上機嫌になっている翔子にそう尋ねる俺。どうも合流した時から嬉しそうにしているなコイツ。何か良いものでも買ったのだろうか?

「……うん。良い事たくさんあった。雄二が私の為に服買ってくれたし」
「あ、ああ……それかよ」

今着ている買ってやった服を大事そうに愛おしそうに撫でる翔子。ったく……それくらいで大げさだなオイ。

「……それに」
「それに?」

そこまで言うと急に立ち止まって俺の方に身体を向き直し、滅多に見せることのない満面の笑みを浮かべて翔子はこう続ける。

「……それに“今日から私と雄二の同棲生活が始まる”から。とっても嬉しい……!」
「ははっ!そうかそうか。今日から俺と翔子の同棲生活が始まるのかー。それはめでたいな!ハッハッハ!———











———What did you say?(何て言った?)」

思わず何故か英語で聞き直してしまう俺。ちょっと待て……こいつ、今マジでなんて言った……?

「……だから、今日から私と雄二の同棲生活が始まるからとても嬉しいの」
「……?……??……!??」

いかん、あまりの事に脳の処理が間に合わない。同棲?俺とコイツが?何故?何の話だ……?そんな現在進行形で混乱しまくっている俺に、おもむろに翔子のヤツはトートバッグからボイスレコーダーを取り出す。

「……雄二、覚えているよね。約束したもんね」
「何の……ことだ……?」
「……“俺らにとっても身近な———文月学園の連中が同棲とかやってたら、一緒に暮らしてやるよ”ってちゃんと雄二は私と約束した。私言質ちゃんと取ってるから」
「い、いや待て……た、確かにそんなことも言ったり言わなかったりしたかもしれんが……そんな、まさか高校生で同棲しているような奴らなんて———」

そこまで言うと、ニコッと何故か底冷えしてしまいそうな笑顔を見せて手に持っていたボイスレコーダーを再生させる翔子。そこから聞こえてきたのは———


ピッ!


『……瑞希、今言った事もう一度言ってもらっても良い?』
『え?あ、はい。実は私と美波ちゃん———昨日から明久君の家で明久君と同棲することになりまして』
『……ありがとう瑞希。後は———(Prrr! Prrr!)』
『(ガチャ)もしもし翔子?どうしたのかしら』
『……こんにちは美波。突然で悪いけど、美波って昨日から吉井と同棲してるって聞いたんだけどホント?』
『あ、あらやだ……どうして知ってるのよ翔子。う、うん。実はそうなの。ウチと瑞希アキと同棲することになってね』
『……ありがとう美波♪』
『???何で翔子が感謝してるのかよくわかんないけど……どういたしまして』


ピッ!


ボイスレコーダーから聞こえてきたのは翔子と……それからクラスメイトの姫路と電話越しだが島田の何やら幸せそうな声。そしてそこから聞こえてくるとんでもない内容の話。は、ははは……なんだこれ。なんだこれ……っ!

「……」
「……ちょうどさっき瑞希に同棲生活始めたって教えてもらった。灯台下暗しだったけど、やっとうちの学園で同棲している人たち見つけた。同棲を始めてくれた吉井と瑞希と美波に感謝」
「…………」
「……そして雄二。今日から一緒に暮らそうね。昨日は雄二のお家に泊めてもらったし、今日は私のお家———ううん。私“たち”のお家に行こう。お父さんたちにも報告したいし」
「……………………」

…………晴れ晴れとした気分から一転、俺の心は曇天模様。さて、これから俺がやるべきことは……

「翔子……」
「……何雄二?」
「俺さ……」
「……うん」
「今日は家に帰りたくないんだ……っ!」


ダッ! ←雄二逃走


「……逃がさない、一生」


ダッ! ←翔子追走


「ちくしょおおおおおおおおおおおおお!明久ぁああああああああああ!テメェ次会ったら必ずぶちのめしてやるからなぁあああああああああああ!!」

あの日の適当な話をしてしまった自分自身と同棲生活なんてバカなことを始めやがったバカ久を呪いつつ、翔子に捕まらないように死ぬ気で逃げ出すことに。あ、あのバカはやはりきちんと俺の手で潰さねばならんようだな畜生め……!必ずや生還し、明日にでも消してやるぞ明久ァ……っ!

そんな決意を胸に抱きつつ赤々と燃えるような夕日を背にして、その夕日が作り出す翔子の禍々しき陰に怯えながらも捕まったら即人生終了なサバイバルゲームを体験することになった俺であった。