二次創作小説(紙ほか)
- 120時間目 真相・驚愕・復活雄二〜最強コンビのバッテリー〜 ( No.91 )
- 日時: 2015/08/29 21:48
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
明久Side
《……少しはこれで、冷静になりましたか?ゆーさん?》
怒り狂っていた雄二に、突然バケツの水をぶちまけると言うとんでもない事をする造。いや、確かに僕も”コイツをぶん殴って冷静にさせてやる”ってさっきまでは思っていたけど、まさかわざわざバケツに水を汲んでそれを雄二にぶちまけるなんて……流石の僕も驚いたんだけど、一体急にどうしたんだ造は。
「つく……る……っ!テメ、何しやがんだっ!?お前もこのバカみてぇに、翔子を庇ってんのかっ!?」
と、ここで我を取り戻した雄二が僕を指差しつつ造に詰め寄る。まあ、あれだけ僕に怒っていたところに、追撃するように造にあんな事をされたんだ。そうもなるだろう。そんな怒り狂う雄二を物ともせずに、造は呆れたように雄二を睨む。
《随分お熱いんですね。ああ、ひょっとしてまだ冷めて———いいえ、“覚めて”いませんか?何でしたらもう一回水浴びしてくると良いですよ。水汲んできますから待っててくださいね。頭も目も覚まさせてあげますので》
「っ!こんの……人の話聞きやがれっ!」
《……それを、今の貴方に言われたくないですよ。こんな台詞貴方に言う日が来るとは思いませんでしたが……冷静になりなさい》
「んだと……っ!?」
……どうしてだろう。ただ暴れている雄二よりも、今の造を見ている方がよっぽど怖い気がする……何だか造、静かに怒ってないかな?
《ねえゆーさん……さっき貴方“本人の同意もない紙切れ一枚没収された程度で、どうしてあそこまで怒られなきゃならんのだ”って言いましたよね?》
「……あ?なんだ造。まさかお前が人の大事なものを紙切れ呼ばわりするな、とでも言いたいのか?笑わせんなよ」
《誰がそんなこと言いましたか?さっきの言葉をお返しします。人の話を聞きなさいな、ゆーさん》
怒りに真っ赤に燃える雄二の眼とは対照的に、造の眼は哀しそうな冷たい色を見せる。どうしたんだろう?造は一体雄二に何を言いたいんだろうか……?
「ちっ……お前も明久も何が言いたい。これはアレか?造のお得意の説教か?悪いが今回は譲る気は一切ないと思えよ」
《説教?譲る譲らない?……そうじゃない……そうじゃないんです、違うんですよ。ねえ、ゆーさん?どうしてゆーさんは霧島さんの没収品が〝婚約届の同意書”だと決めつけるんですか?……ゆーさんは“本当に彼女が没収されたものが、何かも知らない”くせに》
「「「「「「…………え?」」」」」」
これには当事者の雄二も、事情をしている僕らも揃って頭に疑問符を浮かべる。どう言うこと……あっ!もしかして!
「つ、造!?もしかしてわかったの!?霧島さんが本当に没収されたものって!?」
「翔子が……本当に没収されたもの?お、おい待て!?一体何の話だ!?」
慌てて問いかける僕らに、造はゆっくり頷く。そして————
《先程とある友人から教えて貰いました。ほんっと、頭が痛くなってしまう話ですよ……霧島さんが没収されたものはですね————》
そうやって一度だけため息を吐いて、悲しそうに続ける造。
《———ゆーさん、如月ハイランドで、貴方が渡した“ヴェール”だそうです……》
「「「「「「…………は?」」」」」」
- 120時間目 真相・驚愕・復活雄二〜最強コンビのバッテリー〜 ( No.92 )
- 日時: 2015/08/29 21:30
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
思いも寄らぬ台詞に、雄二だけではなく僕ら全員も揃って聞き返す。ヴェール?ヴェールって、あの結婚式に使う奴だよね?それに如月ハイランドのって、もしかしてあのウェディング体験の時の物……?更に頭に疑問符を浮かべている僕らに、造はゆっくりと話を続けてくれる。
《話を聞いた限りだと、ゆーさん自身が霧島さんに渡したものだったそうですが、その様子だとどうやら本当に知らなかったみたいですね……ゆーさん……貴方自分で言ったそうじゃないですか。例え誰が笑おうとも『俺はお前の夢を笑わない』と。そう言ってプレゼントしたそうじゃないですか……その大切な想い出のプレゼントが没収されたそうですよ》
その造の言葉に、いつの間にか打席から戻ってきていた瑞希と隣にいる美波がピクッと反応する。
「あっ!それ……私たちも翔子ちゃんからお話を聞きました。あの時大勢の前で笑われて、夢を否定されたのに坂本君はその夢を大事にしてくれたって……」
「ウチも聞いたわ……お泊り会の時にね、あの子幸せそうに言ってたのが凄く印象的だったもの。そっか……そのヴェールを没収されちゃったんだ……それは確かにショックよね」
瑞希と美波は、哀しそうに二人で目を伏せる。そっか、僕らはあの時の一部しか知らなかったけど、そう言う事があったんだね……
「「「「…………」」」」
これには雄二も僕らも言葉を失ってしまう。小さな頃からの霧島さんの大事なたった一つの夢。それを笑われ否定されて、傷ついた彼女に彼女の想い人である雄二が『俺はお前の夢を笑わない』なんて言ってあげたんだ。それはもう、大事な大事な想い出の一品のハズだ。
《その想い出のプレゼントを『つまらない物』と言われた、霧島さんの気持ちはゆーさんが一番わかりますよね……?》
「…………」
こんなこと、当事者じゃない僕にでもわかる。雄二に『つまらない物』と言われる事は霧島さんにとっては最も辛いことなんだと。何せプレゼントしてくれた張本人に想い出の品を馬鹿にされて、『笑わない』と言われたはずの大事な夢を笑われたように思えるから……
《霧島さんなら事情を説明して、先生に掛け合えさえすれば没収品を取り戻すことは簡単だったはずです。ですが————》
「「「…………きっと、もう誰にも笑われたくなかった」」」
ふと、雄二があの時霧島さんに言った事を思い出す。
あんなもん
つまらない物
俺が代わりに捨ててやる
……小さな頃からの夢を大事にし続ける彼女にとって、それはどれだけ残酷な言葉に聞こえただろう。自分の事ではないハズなのに、思わず顔を覆いたくなる。
「……雄二……お前はなんてバカなことを……」
「……最悪の展開じゃの……正直引っぱたかれても釣りがくる話じゃ」
「…………やはり、あの時霧島にちゃんと確認すべきだった」
《……さてゆーさん、もう一度聞きます。ゆーさんは、本当にわかっていなかったんですね。霧島さんが没収された物の事を。何でも霧島さんの話ではゆーさんご自身がそのヴェールを霧島さんの持っていた袋の中に入れたそうですが》
「…………知らな、かった……確かに俺のおふくろに……翔子に渡してくれと頼まれたものがあったが……」
《……それですね。霧島さん、その袋ごと没収されたそうですし》
要するに、これは雄二の勘違いが招いた事ってことだ。こうなると完全に霧島さんに同情せざるを得ない。何せ雄二は知らなかったとはいえ、それだけの事を霧島さんにやってしまったんだから。それがわかっているからこそ、雄二自身もこうやって真実を知って呆けているのだろう。
- 120時間目 真相・驚愕・復活雄二〜最強コンビのバッテリー〜 ( No.93 )
- 日時: 2015/08/29 21:42
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「さて雄二、どうしようか。このままだと没収品は返して貰えないよ?」
茫然自失している雄二を目覚めさせるようにハッキリと伝える。そう、このままだと負けてしまう。負ければ没収品は返ってこないだろう。それが例え僕らの大事なものだろうと、誰かの大切な想い出の品だろうと。
「どうするもこうするも……きっちり守って、点数を取って勝つだけだ」
おいおい……肝心な作戦が出てないじゃないか。さては全く頭回ってないな?
「そう言うが雄二よ。次は4番の鉄人からじゃぞ?いくらなんでも、無策で挑んでは無事では済むとは思えん」
「…………おまけに二巡目。さっきと同じ方法では確実に点を取られる。これ以上向こうのミスは期待出来ない」
秀吉やムッツリーニも雄二の目を覚まさせるように強い口調で会話に加わる。この二人の言う通り、このままじゃ絶対に勝てない。横目で雄二のバカを見ると、回っていない頭を全力で回転させてなんとか次の回を乗り切る方法を模索していた。
……今までに見た事のないような真剣な顔で。
「…………」
全く……いつもの余裕綽々な態度はどこへ行ったのやら?見るからに必死に考えを模索する姿が見える。そんな雄二の様子を見ていた造とふと視線が合った。と、造はさっきまでのような冷やかな顔から一転していつもの陽気で可愛い笑顔で……
《(ふふっ♪アキさん、ゆーさんに手を貸して上げてくださいな)》
と、そんなことをアイコンタクトしてくる。うん、そだね。まあ造に言われるまでもないけど……手を貸してやろうじゃない雄二?そんな顔見せられたらさ!
「雄二」
「……何だ明久」
「ポジション、交代」
「「「「…………へ?」」」」
僕の台詞に対して、造以外の周囲の皆は『コイツ何言ってんだ?』的な顔をする。そんな中雄二はいち早く僕の意図に気がついたのか、真っすぐ僕の目を見返す。
「……いけるのか?」
問いかけと言うよりは、確認するような雄二の言葉。全く、コイツはわかってないなぁ。これはいけるかいけないかじゃないだろうに。そうこれは———
「———やるしかないじゃないか。この勝負、死んでも負けられなくなっちゃったんでしょう?」
「……そうだな」
僕がそう言うと、雄二は小さく笑みを浮かべて応えた。ふっ、いつもの憎たらしい顔がちょっとは戻ったのかな?そうそう、その憎ったらしいブサイク顔がいつもの雄二じゃないか。ウジウジナヨナヨな雄二なんてつまんないもんね。
「???どういうことじゃ明久よ。ピッチャーが雄二と言うのは良いのじゃが、その球を取れるキャッチャーがおらんではないか。まさか、姫路か造に任せるのかの?」
《おおっと、ヒデさん。申し訳ないですがこの回の科目英語ですよ?自分にどうしろと。間違いなくボールを受け捕るだけで一瞬で昇天しちゃいますよー》
「それに何を言ってるのさ秀吉。流石に急に瑞希にそんなキツイことやらせられないよ」
キャッチャーって意外と大変な仕事だからね。初心者である瑞希に任せるのは色々と酷だろう。造は……まあ、ここでは英語だからね……人には向き不向きがあるってことでここはひとつ。
- 120時間目 真相・驚愕・復活雄二〜最強コンビのバッテリー〜 ( No.94 )
- 日時: 2015/08/30 21:33
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: Thm8JZxN)
「じゃが、そうなると雄二の球を捕れるのはおらんのではないか?」
「…………雄二並の点数保持者が無いなら、少なくとも相当の召喚獣の操作技術がいる」
「いるよ、一人。この状況でキャッチャーができるのが。忘れてもらっちゃ困るなぁ」
《ふふっ♪確かにいますね。相当の召喚獣の操作技術を持っている方。自分以上に召喚獣の操作技術を持っているお方が》
「「…………それって、まさか……!」」
まあ、簡単な話だね。捕り損なうと戦死しちゃうなら……全部完全に捕れればいいんだ。ダメージも一切無いように受けきれば良い、唯それだけの事。そしてその操作技術は————僕にはある。
「来い雄二。———僕が、お前の球を全部捕ってやる!」
「言ったな明久。その台詞、後悔するなよ。受け損なったらお前の召喚獣が消し飛ぶからな!」
四回表。2点ビバインド。さあ、こっからが本当の勝負だっ!
造Side
『プレイ!』
空気を読んで先生方も一旦中断していた試合も無事に再開されました。アキさんの作戦通りピッチャーはゆーさん。キャッチャーはアキさん。そして迎えるバッターは———最強の4番、西村先生です。
《ど真ん中 ストレートで行くぞ》
《了解》
ゆーさんの指示に、思わずくすりと笑ってしまいます。……やれやれ、ようやくゆーさんらしくなってきましたね。ゆーさんの召喚獣は投球モーションを取り、まずは力強く第一球を————
ズバンッ!
————と、乾いた音が鳴り響き、ゆーさんの放ったボールは見事にアキさんのミットに収まります。おそらくアキさんの表情から見るに、腕や肩には衝撃のフィードバックが伝わっているのでしょう。取り損なえば即終わり、お二人のギリギリの戦いが始まりを告げます。
≪Fクラス 坂本雄二 英語W 281点 ≫
&
≪Fクラス 吉井明久 英語W 93点 ≫
『ストライクッ!』
少し遅れての審判の先生のコール。流石の西村先生もゆーさんの球に反応できないようですね。さっきまであれほどアキさんの球を見た後で、急に速さの違うゆーさんの球を相手にしているんですし、いくら西村先生が凄くても即座に対応が出来ないようです。
「ナイスボール」
「当然だ」
ボールを戻しつつ、お二人はそんな会話をします。……良かった♪ゆーさんの表情も元に戻っていますね。これならば……
《ど真ん中 ストレート すぐ行くぞ》
と、ボールを受け取りながら、間髪いれずにゆーさんはアイコンタクト。アキさんの召喚獣は慌ててミットを構えます。ゆーさんはボールを受け取ると、普通はサインのやり取りに費やす筈の間を持たず、いきなり腕を振り上げてボールを投げ込みます。これはアキさんを信頼しての行動。その行動が吉と出たのか……
『ス……ストライクッ!』
二球目もど真ん中のストライク。本当に素晴らしいです、やっぱりこの二人息が合って———
《危ないじゃないか雄二っ!僕が捕りこぼしたらどうする気だよこのアホ!》
《はっ!ぬるいこと言うな。テメェの提案だろうが。俺の球全部捕るんだろバカ久》
————えっと、まあここでもある意味息ぴったりです。そして迎える第3球目。ゆーさんとアキさん。二人が二人、次にどうするのかわかっているのかとうとうアイコンタクトさえせずに……
「さて、先生方。手前勝手で悪いが……こっちも色々と事情が変わっちまったんだ」
ゆーさんの召喚獣が三球目を振りかぶった直後ストライクゾーンど真ん中、つまりはアキさんの召喚獣が構えたミットの中に、最高速度のストレートが突き刺さります。
『ストライク、バッターアウッ!』
これで三球三振です。まずはアウトカウント一つ頂きですね。
「———これ以上は、1点たりとも取らせねぇ」
ここからがアキさん&ゆーさんの、そして自分たちの本気の時間。はっきりと申し上げましょう。今のこの二人が打たれる姿なんて全く想像できませんよ。さぁて、随分時間がかかりましたが自分たちも全力で行きます、ですから覚悟してくださいね先生方。