二次創作小説(紙ほか)
- Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【新章開始!】 ( No.102 )
- 日時: 2015/10/09 06:56
- 名前: cinnamon (ID: X9/tG6Az)
本編2
【あのキャラ達が童話になっちゃったお話】
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「はぁあ…」
今も昔の事、ある一人の貴族の男性がおりました。
そして、彼はこの世以外の女性に、恋をしてしまうのです。
〜かぐや姫〜
「あぁ、もう朝か…」
文机に突っ伏したまま、今日も朝を迎えた。
望月蒼太は、ここ何日かこんな生活を続けている。
(こんな僕が、貴族なんて、周りには思われないだろうなぁ…)
これでも、蒼太は帝に仕えている身だ。
身分上はちゃんと貴族だし、道具も部屋も服装も、それなりの物を持っている。
しかし今は、布団も床に敷いてあるにも関わらず文机で寝ているため、髪はボサボサで服にもシワがついている。
こうも連続で文机で寝てしまう原因は分かっている。
仕事疲れだ。
蒼太はよろよろと立ち上がり、とりあえずシワだらけの服から着替える。
そして、着替えが終われば速攻で、宮殿へと向かうのであった。
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誰もいない宮殿に入り、仕事場を軽く片付ける。
そして、早速自分の文机に着いて、書類と格闘する。
(違う国との交流を深めよ、かぁ…)
上位の役員から、他国へ向かう人材確保と、その計画を立てるように言い付けられ、それ以来、山のように積み上げられた紙とひたすら戦う日が続いているのだ。
(といっても、この仕事は今まで以上に地味だなぁ)
今までも、蒼太は大抵こうして裏方の仕事についてきた。
しかし、今回は他国との交流という、今までとは格が違いすぎる大仕事だというのに、仕事の地味さも、今までとは比較にならないくらいに上がっている。
軽く溜め息をつきながら、蒼太は一つの山を崩し終えた。
それと同時に、豪快に仕事場の襖が開かれる。
「ふぅー!遅れましたっ」
「何だ、春樹かぁ…」
春樹こと、芹沢春樹は、蒼太と同じ位の貴族だ。
幼い頃から気が合い、こうして働くようになっても、友人として場を共にすることが多い。
ただ、一つ、蒼太と春樹には違いすぎる事があった。
「今日の仕事帳だよ、春樹。今日も顔合わせがあるんだね」
「おう。これ以上、顔合わせて何になるんだよって思うんだけどな」
仕事場にやってくる全員の日程を管理している蒼太には、春樹の忙しすぎる日程はお見通しなのだ。
春樹は帝の助手として、客との顔合わせやもてなしを担当している。
そんな大役を任される程の実力があるのに、蒼太達と同じ位に留まり続けていることが、不思議でならなかった。
(自慢にもならないけど、僕はそんなに位が高い訳じゃないし…)
探るような視線を春樹に送れば、すぐに「何?」と問われる。
聞いてもまたすぐにはぐらかされる展開が、幼なじみの目には見えている。
蒼太は何でもない、と返し、また書類の山に向き直る。
「しっかし、この書類の数、多すぎだよな」
独り言のように呟かれた一言だが、無視するのも気が引けて、蒼太は返事を返す。
「まぁでも、僕よりも大変な人だって山ほどいるしね。このくらいさっさとやり切らないと」
「無理な時は言えよ?」
そんなの、言える訳ないだろ!
とっさにそう言いかけて、蒼太はかろうじて口を閉じた。
感情的に反論すれば、確実に胸の内を明かしてしまう自信があった。
「…考えておくよ」
「何だそれ」
春樹は明るく笑い飛ばし、蒼太に広い背中を見せながら仕事場を去って行った。
蒼太は、やけにモヤモヤとする胸の霧をかき消すように仕事に没頭したのだった。
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(あぁ…暑い…)
昼食休憩に、久々に宮殿の外に出ることを許可された蒼太は、外の暑さに驚き、ひたすら耐えていた。
久しぶりに外の空気を満喫出来ると思って来たが、この暑さではせっかくの休憩も地獄の時間へと変わってしまう。
ふと目線を向けた先に、竹やぶを見つけた。
賑やかな街道と違って面白くはないが、幾らかこの暑さは遮断されるはずだ。
蒼太は、食べかけの昼食を手に、竹やぶへ向かった。
一歩足を踏み入れれば、そこはさっきまでいた街道とは別世界だった。
足元にはせせらぎが流れ、天に向かって伸びている竹の葉が太陽の光を受け止めている。
(なんだ、こんなに綺麗な場所があるなら始めから来ておけばよかったなぁ…)
時間は余るほどあるからと、蒼太はさらに足を進めた。
すると、目先に見える竹の根元に、鮮やかな色が見える。
花だろうかと近寄ってみると__
(えっ、人!?)
そこには、一人の女性がうつ伏せに倒れていた。
鮮やかな色は、その女性の着ている着物の色だったのだ。
(と、とりあえず脈があるか…)
確認しようとした矢先、女性の手がかすかに動いた。
どうやら、脈はあるらしい。
それに、手が動いたということは、もうすぐ目を覚ますかもしれない。
顔が見えるように、女性を仰向けにする。
その瞬間だった。
女性の顔を見た瞬間、身体中に電撃が走ったような衝撃に襲われる。
息をするのも忘れてしまい、蒼太はその顔に魅入ってしまう。
そして、女性の目がゆっくりと開くと、蒼太はさらに大きな衝撃を体に感じた。
真っ直ぐで艶やかな黒髪は、僅かに漏れ出す日光に当たると、キラキラと濃い紫のような色に輝く。
潤んだ瞳はぱっちりと大きく、藤の花のような紫色で、星が宿っているかのように、髪と同様輝いて見える。
蒼太は、またまた魅入っていたが、このままではいけないと、咄嗟に声をかけていた。
「あの…大丈夫、ですか?」
「……」
女性からは返答が返って来ず、蒼太は慌ててしまう。
しかし、その瞳が一度瞬きをすると、女性はやっと今の状況を飲み込んだようだった。
「…私は…ここは…?」
(うわぁぁぁぁあ、声も、何て可愛いんだぁぁぁぁぁあ!!)
初めて聞いた声に感動を覚えながら、蒼太は何とか正常な声を出す。
「こ、ここは、天の宮街道の近くの竹やぶです。ご存知なかった…ようですね」
「…ここが…」
女性は、ぐるりと周りを見渡し、もう一度蒼太に向き直る。
そして、にっこりと微笑んだ。
「教えて頂き、誠に感謝いたします。ですが、私は予定がありますので、ご無礼ながら、これにて失礼させて頂きます」
と、ぺこりとお礼をされた。
(う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!もう!見た目最高、声最高、おまけに礼儀も最高って!)
蒼太は、脳内が異常な上機嫌になっているの自覚しながら、何とか理性を繋ぎ止める。
「ご丁寧にありがとうございます。倒れておられたので、お気をつけて。
……あ、あと!」
(うわぁ、何だこの声!おかしい、おかしすぎるぅぅぅぅう!)
自分で自分の声を聞いて、脳内で悲鳴を上げながらも、身体はまだ言葉を出そうとする。
「失礼ながら、お名前は…」
「あっ、そうでした!名前、名前!私は早坂あかりです。よろしくお願い致します」
早坂あかり。
何故か耳に心地よく響き、心に自然と居座る。
そして、今時の女性にはあまりない名前だからか、多少の違和感も感じた。
「えっと、貴方は…」
「あっ、え、えーと、僕は望月蒼太です。どうぞ、ま、また、機会なんかがあれば…よ、よろしくお願い致します」
蒼太の中では、もう理性を繋ぎ止める鎖が切れかけ、今まで耐えて来たのがあっけなく吹っ飛びそうになりながらも、最後の言葉を告げた。
あかりは小さく頷き、最後に笑顔を振りまきながら去って行った。
(僕って、僕って…)
「幸せ者だなぁ…」
そう呟いてからは、顔のにやけが止まらず、目撃者がいなかった事が後の蒼太にとって救いになった。
この時の蒼太は、謎の上機嫌に浮かれ、気づかなかった。
これが、新たな恋の始まりであることに___