二次創作小説(紙ほか)

Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【復活宣言!】 ( No.138 )
日時: 2015/12/29 22:03
名前: cinnamon (ID: j/F88EhV)



「…」
「…」


沈黙と激しい雨音が二人を包む。
どんどんと激しくなる雨音に反比例していくかのように、二人の間の沈黙はどんどん重くなっていく。

(ど、どうしよう…私から話すべきなんだよね。で、でもやっぱりお爺様とお婆様以外の人と話すのって慣れてないし…)

部屋に来て頂いたのだから、とあかりは体を動かそうとするものの、緊張感に包まれている空間で体が強張り、自分の部屋なのに何処か知らないところへ来たように感じてしまう。

(と、とりあえず、この空気だけでも変えないと…!)

深呼吸して、いざ。

「お、お腹、空いてませんか!?」
(やっちゃった…何でお腹空いてるか聞くの、私…)

言った瞬間、恥ずかしさと後悔でまた俯いてしまう。
きっと呆れられただろうな、と思っていた矢先、頭上から声がした。

「あはは、僕は大丈夫ですよ。ありがとう。それより、どこか座れる場所はありますか?せっかくだから、ゆっくり話が、したいな、なんて…」

最初の方は笑顔で話していたのに、最後の方になった途端、凄い勢いで俯かれてしまった。あかりは何が何だが分からず、ぽかんとしてしまう。

(…俯かれた理由はよく分からないけど、とりあえず座れる場所、だよね…)

あかりの部屋は、反物などが沢山置かれているにも関わらず、一人部屋にしては広すぎるほどだった。なので座れる場所などすぐに見つかる訳だが…

(あ、あそこがいいかも)

「…どうぞ」

あかりが手で指し示したところには、小さな畳が敷かれ、四角く区切られた部屋があった。部屋の周りは反物で覆われていて、外から中の様子が分からなくなっている。

(ここで小さい頃よく遊んでいたよね…疲れて寝ちゃったりして)

ふふっ、と小さく笑っていると、流石におかしく思われたのか蒼太が不思議そうな顔をした。

「どうしたんですか?」
「あっ…ごめんなさい。実はこの部屋、私が小さな頃によく遊んでいた場所で…疲れて寝ちゃったりしてて、懐かしいなぁって」
「そうだったんですか…っと、ところで早坂さん、一ついいですか?」

蒼太は、あかりと一緒に少し笑ってから、また真面目な顔に戻って話を切り出してきた。あかりは、何だろうとぼんやり思いながら見ていたが、すぐにそんな余裕などなくなってしまう。







「…早坂さんは、いつ、何処から来られたんですか?」
「…っ!」








聞かれた、ついにその時が来た。
こんな風に二人きりなら、いつか聞かれるかもしれない、と思っていたけれど。
あかりは反射的に俯いてしまい、それを見た蒼太があわあわと落ち着きない様子になる。

「ああ、あの、ごめんなさい!!失礼でしたよね、いきなり聞いたりして…」
「いえ、その……」


言ってしまおうか。この人なら、大丈夫かもしれない。

(初めて出会った時から……)

何か違っていて。
街でいろんな人に会っても感じられない、不思議な感覚。
蒼太に会った時にだけ起こる、自分でも分からない自分。

(何なんだろう…急に心臓の鼓動が早くなって…何だか嬉しくて…)

人と話すのが大の苦手なはずなのに、こんな感情になる自分が分からない。
あかりには、この感情が何か見当すら付かないけれど…


(きっと、蒼太さんは特別なんだよね)



「………私は」
「……!」


まだお爺様にも、お婆様にも話してない事実を。

「……信じてもらえないかもしれないですけど」

この人には、聞いてもらいたい。
だって、ほら。
この人は、いつでもその優しそうな笑顔で迎えてくれるから。

「…信じます。僕は、どんなことだって」

「……私は……










『月の都』から、一週間前、落とされたんです」









Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【復活宣言!】 ( No.139 )
日時: 2015/12/31 00:06
名前: cinnamon (ID: j/F88EhV)










「…落と、された…?」


今までで一番長かった沈黙を、蒼太の明らかに困惑した声が破る。
あかりはそっと溜息をつきながらも、まだ話そうと顔を上げた。


「……そうです。私は、確かに落とされました。あ、そう言えば」


何か思いついたようにぱちっと手を合わせてから、あかりはいつもの文机に向かう。備え付けられた引き出しを開けて未だかつて誰にも見せたことのないものを取り出した。

(手を離せば風にのって飛んでいくくらい軽いのに、私にとってはどんなものよりも重く感じるから不思議だよね)

感慨深い思いで手元を見ながら、「見てもらえますか?」と蒼太に手渡した。
今まで誰の目にも晒されず、当然、誰かの手にも渡らなかったそれを、蒼太は大事そうに受け取ってくれた。

「じゃあ…失礼します」

そう言って、あかりが手渡した一枚の紙がついに蒼太に見られた。

「…」
「うわ…」


あかりが蒼太に見せたもの、それは……

「…それ、私が描いたんです」
「えぇ!?これを、は、早坂、さん、が…!?」
「ふふっ、そうなんですよ」


大きな満月。
雲の中から顔を出し、星と共に夜空の美しさを一層引き立ている。
ただ……


「…綺麗な絵なんですけど…僕には少し、悲しそうに見えるというか…」
「……え」
「あ、いや、その、これは僕個人の感想なので、決して気にしないで下さ…?」

あかりは首を横に振って、蒼太の言葉を制した。
何故なら、あかりはそんな否定的な意味で驚いたのではないからだ。

(こんなことってあるんだね)

「違いますよ。だって私、本当に悲しかったんです。この絵は、私が此処に初めて来た日…私が見た月を描いたです。この世界から見た月って、こんなに綺麗だったんだってびっくりして…信じられなかったです。本当は人を落とすくらいに、酷い所なのに」

ちょっと皮肉です、と苦笑したけれど蒼太は至って真面目だった。
それどころか、どんどんと眉間に皺が寄っていくように感じる。

「…あ、あの、蒼太さん…?」
「どうしてですか」
「へ?」

恐る恐る訪ねた声は、逆に蒼太からの疑問にかき消された。しかも蒼太の声には怒りが込められているようで、今までの優しさが微塵も感じられない鋭さがあった。主語が無いその疑問から意味を読み取るのは不可能で、あかりは咄嗟に聞き返していたけれど、かえってそれが怒らせてしまっているのか、と口を手で覆い隠くす。

「どうして…どうして貴女は、そんな辛い思いをしたのに笑っていられるんですか、どうしてそんな辛い思いをしたのに貴女の信頼している竹取の翁さんやお婆さんに話さないんですか!」

せき止めていた水を一気に放出するように、叫ぶような勢いで蒼太は話し出し、あかりはたじたじとなる。ただ、心の中は不思議と落ち着いていた。

(…そうだよね、私…ずっと逃げてたんだ、現実から…)

「それに……」

そう言いかけて、何故か蒼太は急に口を閉じてしまう。
ずっと話していて酸素が足りなかったのか、その耳はあかりでも分かるくらいに赤く染まっていた。

「それに、何ですか?」

あかりが続きを促すと、蒼太はあからさまに動揺したあと、何かを覚悟したような目で再びあかりの方を向いた。その真剣な目つきに、あかりの鼓動はまた速くなる。


「それに、何で僕にだけ、話してくれたんですか…」
「…え…」


何で、と聞かれても困ってしまう。
蒼太に打ち明けられた理由なんて、そんなにはっきりとしたものはないし、自分がこの人は大丈夫だ、という謎の信頼感の元で勝手に判断しただけなのだから。

(で、でも…答えた方が良いんだよね…聞かれてるし…)

どう答えようか、焦っているうちに、蒼太の視線がふっと和らいだ。
あかりが戸惑いの目を向けると、申し訳なさそうに目尻を下げてくるのが少しおかしくて、あかりは笑いそうになるのを必死にこらえていた。

「……何か、すみません。自分でも、何でこんなに言っちゃったんだろーなー…って今反省してます…」
「あ、いや、それは全然大丈夫ですけど…あの、一つずつ答えていきますね」

一番最後の疑問はどうするか、あかりにもまだよく分からないけれど。



(素直に伝えよう、特別なんだって…)