二次創作小説(紙ほか)

Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【復活宣言!】 ( No.144 )
日時: 2016/01/04 16:18
名前: cinnamon (ID: ACwaVmRz)


「まず、落とされても私が笑っていられる理由は……やっぱり、向こうよりもずっと自由に絵が描けるからだと思います。私が落とされた理由が、絵を描くことを禁じられたことだから……」

幼い頃から絵が大好きで。
絵を描いていれば、嫌な事なんてなかった。しかし、後に政治を担っていく立場上、あかりに絵を描いている時間が与えられることはなかった。

それでもあかりは、さまざまな稽古の隙を見ては絵を描き続けた。そんな事を続けて数年はやり過ごせたものの、やはりそれは見抜かれて…


「…」
「……二つ目、私がこの事をお爺様やお婆様に話せない理由は」

(正直なところ、これが一番重要かなぁ…)

大きく深呼吸する。
緊張で全身の筋肉が固まるのを感じながらも、あかりは口を開いた。

「……勿論、傷つけたくないというのもあるんです。お爺様とお婆様は本当に、私に親切にして下さって……実は私、初めて蒼太さんに会った時、竹に入ることに失敗した時で……」
「…え、竹に、は、入る、!?」

ものすごい動揺の仕方に、話し手としての楽しさのようなものを感じ、あかりはついつい笑いながらも詳しく話す。

「はい。私の仮の名前は、『なよ竹のかぐや姫』と言います。
私は月の都の人に、天罰としてこの世界に落とされた。それで、一本の竹の中にその身を包まれ、お爺様が偶然その竹を切るまで、蒼太さん以外の人に見つかることはありませんでした」

蒼太はあかりの説明にしばらく考え込んでいるようで、自分の説明が難しすぎたかな、変だったかな、とあかりがそわそわし出した頃にようやく蒼太が口を開いた。

「ってことはですよ?早坂さんは竹に身を包まれる前、一度だけこの世界の地に直接着いた。それが僕と初めて出会った時に倒れていた時ですよね。で、その後今度こそ本当に竹の中に入れられて、竹取の翁さんがそれを発見した……ですね?」
「そう!そうです!正解!」

蒼太がもともと文学に慣れ親しんでいるのか、またはあかりの説明力もあってか、とにかく無事に理解されたようだ。
正解、正解〜とぱちぱち手を叩くあかりに蒼太が少し照れたように笑顔になった……のはほんの一瞬で、またすぐに真面目な顔に戻った。

「いやいやいや、違いますって!本題!」
「あ。そうでした!」

またまたぱちっと手を合わせたあかりに、蒼太は「はぁ…」とため息を漏らしているものの、心なしかその耳は赤く染まっていくように見える。雨に濡れた影響が出始めてきたのかな、と思うも、蒼太に先を促された以上、あかりは話すことにした。

「…竹から見つけたから、正直に言ってしまえば、私とお爺様やお婆様とは、赤の他人なんです。でも……絆は、本物の親子にだって負けてないと思います」

穏やかなあかりが、ここまではっきり言うのはかなり珍しい事だ。
自分でもびっくりしているけれど、蒼太は驚きを露わにせずに力強く頷いてくれた。その事に感謝しながら、あかりはついに決定的な事実を突きつける覚悟を決める。


「…だから、そんな絆があるから、言い出せなかったんです。ましてや、私が、この夏の八月十五夜の日に、月に帰るだなんて…」

「………え………?」



蒼太が発したのは、あかりが告げてから随分時間が経過してからだった。
それも、たった一文字。
ただ、それだけでも、あかりの胸を締め付けるのには充分な反応だった。

(…きっと、お爺様やお婆様に話したら、この程度の痛みじゃ済まないよね…)







しばらくの沈黙。
その重苦しさに、あかりは蒼太さんとの会話は、始めはこんな沈黙ばっかりだっけ、と場違いながら思う。
極度の人見知りのあかりがここまで心の内を明かせる人なんて、過去にいただろうか。第一、人と一緒にいながらにして沈黙の重苦しさを忘れられるほど楽しんだことが、あかりの人生で初めてだった。


(何だろう、蒼太さんといると本当に時間があっと言う間で……優しい笑顔を見てると気持ちが落ち着いて……)

この感情は何て言うの……
過去の出来事を隅から隅まで漁った結果、一つの答えにたどり着いた。

Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【復活宣言!】 ( No.145 )
日時: 2016/01/04 16:24
名前: cinnamon (ID: ACwaVmRz)



☆*:.。. .。.:*☆



「良いですか。主に人間や獣が生息する下界では、人間の異性同士が運命に沿って出会い、別れ、共に生きていくと言う流れがあります。しかしこの流れに乗る速さは、人間一人ひとり違う上に、その短い一生の中でその流れがない者もいるそうです。この流れのことを…………」

ひたすら続いた、長官の長い話。
あかりはいつも真面目に取り組んでいたものの、その話の長さに流石に疲れて、最近はあまり真面目に聞いていなかった。

それでも唯一、あかりが楽しいと思ったのは、人間たちの住む下界の話だった。
月では人間や下界の獣を、汚らわしいものと扱うのが普通となっていたが、あかりにはそうは思えなかった。

(何で決めつけるんだろう…誰か月の都から、人間の世界に降りたことがあるからとか?)

そしてその話は当然、いつものように長く続いた。

その流れに乗るには、その人間同士が感情を揺さぶられ、想いを確かめること。
そしてその想いの力で、お互いを理解し、信頼し、尊重し、一生を共にすると言う……

自分の想いの先に行き着いた人物が、大勢の人の奪い合いになったり、一生を共にすると誓っても、その想いが冷めてしまったり。
その複雑な事実と想いの力に、あかりは今までにない衝撃を受けていたのを覚えている。


「あたくしは分かりませんわね。何故ここまでして一生を誰かと共にしようとするのか。自分の想いに自分でケリを付けられないところは、流石下界の生き物だと言っていいけれど」
「……それは、どうでしょうか」
「まあ?何か反論でも?」
「……ままならない自分の想いと闘いながら、想いの先にいる人物の幸せを願い、そしてその幸せを自分が創ろうと努める……綺麗だと思います。それがたとえ、辛く悲しいものだったとしても私は………」






ぱちり。
瞬きで、謎が解けた。

(そう、それがたとえ、辛く悲しいものだったとしても私は……








『恋』がしたい)







「……早坂さん?」
「あ、ごめんなさい……
そうです。私は八月十五夜、月に帰るように言われました。それはもう、私の運命さだめなので、変えることは出来ません。で、あの、そ、蒼、太さん………」


自分の気持ちを、このまま言ってしまおう。でも何故かそう決めた途端、今までで一番、体が思うように動かなくなる。
名前の呼び方までぎこちなくなってしまって、蒼太は不思議そうに目を向けてくる。

「早坂さん?どうかしたんですか?」
「あ、えーっと、その……」

気持ちはあるけど、言いたいことが出てこない。それにさっきまでたわいもない話をしていたのが嘘のように緊張し続けていて、頭が真っ白になる。それ故に物事も考えられず、悪循環に陥ってしまう。


「大丈夫ですよ、ゆっくりで」


ぱっと顔を上げると、すぐに優しい笑顔を浮かべた蒼太と目が合った。
安心と嬉しさが込み上げて、あかりの体を縛っていた糸が、ぷつりぷつりと切れていく。







「……好きです」
「……え、えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?」
「………私、蒼太さんのことが、好きなんです」
「…………………え?」
「好きです!」


何回言ってもえ?、としか返してくれなくて、ダメなのかな、と暗い思考が始まり出した頃。

「……本当に、僕が、です、か……?」

蒼太の顔も今までに見たこともないくらい真っ赤で、あかりは思わず声を出して笑ってしまう。

「えぇ!?ちょっ、あのっ、何で笑って……」
「ふふっ…ごめんなさい……それで」


さぁ、想いを伝えるんだ。
自分は月の住人、彼はこの世界の住人。
それでもいい。


(私が恋できる人は、貴方だけだから)


「好きです」
「……狡い」
「え?何かずるい、ですか?」

理解出来ずに小首を傾げると、蒼太は何故かますます顔を赤くさせて叫んだ。

「そうですよ!だって…っ、僕の方が、ずっと前から早坂さんに恋していたから……!」
「え……」
「出会った頃から…!ずっとずっとずっと、忘れることが出来なかった。だから早坂さんが月の都の人だって聞いた時は、僕から告白してから終わろうって決めたのに、まさか、こんなことってあるんだな……今はもう嬉しすぎて…」
「……いずれ私は帰ってしまうのに……嬉しいんですか?」


蒼太は、普段の穏やかな笑顔とはまた違う、心の底から幸せそうな顔をしていた。その笑顔に、あかりは鼓動が速くなるのは勿論そうなのだが、どこかで罪悪感のような、苦い感情があるのを感じていた。あかりの言葉を聞いた蒼太は、一瞬苦虫を噛み潰したような顔になるものの、すぐにまた笑顔に戻る。

「確かに、僕たちは永遠に一緒にいることは不可能ですけど…今は、少なくとも…あと一ヶ月。まだ一ヶ月もあるじゃないですか!」
「……あ」
「一ヶ月しかないと思えばそこで終わる。その一ヶ月を自分たちの間で長くするには、僕たちの考えと行動が鍵だと思います。だから…」

(…やっぱり、蒼太さんはすごいな。それに…私も今、楽しくて嬉しくて……)


「…早坂さん」
「……あかり、です」

想いの通じ合った第一歩として、名前で呼んでもらおうかな、と軽い気持ちで言った言葉が、蒼太にとっては爆弾発言となっているのは勿論あかりは知らないこと。

「………あかりさん」
「………望月さん」
「って、呼び方統一しません!?このままじゃ不自然ですし…」
「あははは、じゃあどうしましょうか?」


楽しい夢のようなひと時は、こんな雨の中、始まったのだった……


【かぐや姫ストーリー】 完結