二次創作小説(紙ほか)
- Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【復活宣言!】 ( No.174 )
- 日時: 2016/02/08 19:12
- 名前: cinnamon (ID: j/F88EhV)
「ふぅう…着いたぁぁ…」
普段はずっと穏やかで静かな森にいるせいで、週に一、二回ほどの買い物で行く街の賑やかさには、何度行っても慣れることはない。
その上、街から森まではそれなりの距離があり、美桜が森に入った時には既に身体のあちこちが悲鳴をあげていた。
(ちょっとだけ、休憩だね)
ドサっと割と大きな音を立てて、野菜などの入った袋を下に降ろす。
袋に目が届く位置に美桜も腰を下ろして、お気に入りの本を開いた。
陽は暖かく美桜を見守り、風は楽しそうに美桜の髪を弄ぶ。
美桜の周りは、色とりどりの花でいっぱいだ。
花の甘く、優しい、笑顔がこぼれる良い香りに包まれて本を読むのが、買い物の後の美桜の癒しだった。
童話のように穏やかで、まるで世界中の平和が全部ここに集まっているかのような、そんな気持ちで美桜は辺りを見渡す。
(いつまでも、こうやって過ごしていけたらいいなぁ……でも、やっぱり……)
今は、大好きなおばあちゃんがいるから、森でも安心して暮らせる。
おばあちゃんがいなくなった時、果たして自分は、一人でこの森で生きていけるのだろうか。
美桜の答えは、即答でNOだ。
勿論、おばあちゃんと同じくらい、この森も美桜の大好きな場所だ。
しかし、いくら大好きな場所でも、一人になったその瞬間から、怖さと不安でいっぱいになるに違いない。美桜は、自分が大好きな森に恐怖を感じることが何よりも嫌だった。
(この森のことが怖くなったら、私にもう、居場所はないから……)
美桜は、おもむろに立ち上がって、近くの木の幹に語りかける。
「……この森が、いつまでも変わらないで生きてくれますように」
*・゜゜・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゜・*
「で、出来た……」
穏やかな時間の流れとは正反対に、春輝の心臓は慌ただしく拍を刻んでいた。
優しい陽の光を浴びながら、春輝の手の中にあるのは、一つの花かんむりだ。
清楚な白、可愛らしいピンク、明るくふんわりとした黄色。
この三色を基調としたそれは、春輝の手の中で、今はおとなしく風になびいている。軽やかに揺れる花々は、いつも楽しそうに揺れている、彼女の綺麗な髪を思わせる。それを見ているだけでも、春輝は鼓動を速くなるのを感じた。
(いきなりこんなの渡すとか、やり過ぎかもしんねぇけど…)
それでも、春輝は誓ったのだ。
今日の朝日に向かって、自分を、初めて知った想いを大切にしよう、と。
想いが通じ合わない可能性の方が高いことは、重々承知している。
そうだと分かっていても、春輝は一度生まれたこの気持ちを、無かったことにしたくなかった。
「……行くか」
過去はもうやり直せない。
速まる鼓動を落ち着かせ、力強い一歩を踏み出しながら、狼は恋する男になった。