二次創作小説(紙ほか)
- Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【復活宣言!】 ( No.209 )
- 日時: 2016/07/09 18:11
- 名前: cinnamon (ID: 5Hbj4fpw)
*・゜゜・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゜・*
「……ちゃん、お嬢ちゃん!」
「……へっ!?あ、はい!」
誰かに呼ばれていることに気づいて、ハッと顔を上げる。上げた先には、心配そうな顔をした女性が夏樹をじっと見つめていた。
(あれ、ここ………そうか、私、買い物に来てるんだっけ……?)
自分のいる場所を理解した瞬間、ザワザワと周りの声が耳に入ってくる。手に持っていた鞄の重さもだんだんと分かってきて、夏樹はそれほど自分がぼんやりしていたのか、と素直に驚いた。
「ごめんなさい!ついぼーっとしてて……」
「ぼーっとしてるって……あんた、ここに来てからもう30分も経ってるんだよ?大丈夫かい?」
「え、30分!?」
(やっちゃった……今から晩ご飯作って……時間、守れるかな……)
夏樹の家の夕食は、夕方6時と決まっている。勿論その準備も全て夏樹の仕事であるため、今から帰ったところでギリギリ間に合うかどうかの境目だ。
慌ててメモに書かれた野菜を買い、ダッシュで家へと向かう。
(お願い、お願いだから、間に合って……!)
全力ダッシュを続ける夏樹の背後から、城の時計の鐘が無慈悲に午後五時を告げた。
☆*:.。. .。.:*☆
午前1時。
ようやく全ての家事を終え、夏樹は自室のドアを閉めると同時に、小さなベッドに倒れこむ。
いつもは日付が変わるほど遅くはならないのだが、あの『招待状』が届いてからの母や姉のテンションが尋常ではなかった為に、こんな遅くになってしまった。
話は、遡ること三時間前。
☆*:.。. .。.:*☆
何とか夕食を作り終え、玄関の掃除をしていた夏樹は、道路の先から見慣れない馬車を見つけた。
(うわ、何あれ……お城の馬車みたいな……って実際見たこともないんだけど……)
夏樹の予想は見事的中し、家の前に止まった馬車には国の紋章が入っていた。馬車にしばらく見惚れていると、ドアが開き、煌びやかな紳士服に身を包んだ男性が姿を現した。突っ立っていた夏樹は急激に焦り、顔が青ざめていくのを感じた。
「あ、あの、ぇぇっと……」
「あぁ、お気遣いなく。国王様の側近の者です。今日はこちらの招待状を、一般のご家庭にお配りしているので、どうぞ」
「え、あ、はい……」
差し出された封筒を受け取り、家に戻ろうとすると、「あぁ、それと」と、側近が引き留めてきた。
「私としたことが、申し訳ございません。一つ言い忘れていましたね。その中身は国王様直々の招待状となっていまして、舞踏会にご参加される場合は、必ずお持ちになられますように」
「はぁ……?」
とりあえず分かったように返事を返すと、満足気な顔をしながら、今度こそ側近と馬車は去っていった。
(えーっと、とりあえずお姉ちゃんに渡せばいいかな?)
詳しいことなど全く分からないし、一つだけはっきりしているのは、舞踏会なんて自分には縁の無いことだというだけだ。
この時はそう思いながら、夏樹は玄関の門をくぐった。
- Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【復活宣言!】 ( No.210 )
- 日時: 2016/08/05 17:00
- 名前: cinnamon (ID: ydb695RL)
「…えーと?青いスパンコールが付いたドレスが……ってどこーーーー!?」
舞踏会まで、あと3日。
夏樹は日を追うごとに、舞踏会の準備を進めていた。
ドレスの準備は勿論のこと、ネックレス等のアクセサリーの準備を欠かせないらしい。そのため、アクセサリーを買いに行くのだが、肝心の母親たちは付いてこないので、選ぶのは夏樹だった。
しかし無慈悲にも、夏樹のセンスは母親たちとは違うらしく、買ってきた物のほとんどはボツにされるのだ。嫌になって仕事を投げ出したくもなったが、そんなことをしている間に時間はどんどん過ぎていくので、諦めて地道に買い出しを繰り返していた。
(もう、王子様だか誰だか知らないけど、結婚の相手くらい自分で見つけたらいいのに!)
あの招待状の中身は、この国の王子の婚約者探しとして、国中の年頃の女性を招いたものだった。
招待状に記されていた王子の年齢は、奇遇にも夏樹と同い年だった。
つまり、本来なら夏樹も舞踏会に行けるはずなのだ。
(………もし、私が行ったら………)
何かが変わるのだろうか。
王子様の婚約者に選ばれようなんて、やましいことは考えていない。
でも、きっと一生忘れられないくらい、幸せなんだろう。
それに、夏樹だってドレスやアクセサリーに全く興味がない訳ではない。
母親たちのドレスを選びながら、このドレスにはこの靴が似合う、なんて考えることが、ここ数日の夏樹の楽しみになっていたくらいだ。
「………自分で用意すれば、いいよね?」
こうして、残り3日の、夏樹の挑戦が始まった。
- Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【復活宣言!】 ( No.211 )
- 日時: 2016/09/04 19:26
- 名前: cinnamon (ID: pTKbdp.H)
一日目。
主に材料調達。
しかしこの始めの段階が案外難しかった。ドレス用の布、装飾用のキラキラしたストーンなどを買う資金が問題になったのだ。
亡き父や母が遺してくれた夏樹宛のお金も多少はある。しかし、それからというもの夏樹に収入は一切無く、支出だけが積み重なる一方だ。そうなれば当然、夏樹の所持金は少なくなる。別に無駄遣いしていた訳ではない。この家に来てから、食料品以外の家事に使うもの全ては夏樹の所持金で賄ってきたのだ。
(洗剤くらい安い物買おうって思ったのに、洗剤の種類決められるっていうね……)
しかも一番高い物。
ここまで何もかも自分でやらなければいけないのも、正直夏樹は精神的にも辛かった。しかし、自分はこの家に住まわせてもらっている立場であり、文句を言うのがかなり勇気のいることだった。少なくとも、夏樹にはそんな勇気は存在しない。
(……まぁ今さらそんなこと言っても仕方ないよね!よし、今日の買い出し行って来よう!)
まだ成人してもいないのに、これではまるで主婦のようだ。
今すぐにでも主婦になれるんじゃないか、なんて思いながら夏樹は家のドアを開けた。