二次創作小説(紙ほか)

Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜 ( No.29 )
日時: 2015/08/20 17:53
名前: cinnamon (ID: 76LSjzh0)

第二章

そろそろ夏の青空も茜色に染まりかけ、焼き付けるような直射日光を放っていた太陽も、姿を変えようとしていた頃。

瀬戸口優の家には、今日もまた、榎本夏樹が上がり込んでいた。
彼氏彼女の関係となっても、二人の行動はいつもと大きく変わることはなかった。
夏樹が優の家に来た名目は、いつも、暇潰しか宿題を片付けるかのどちらかだということにも、至って変わらない。
今日は宿題を片付ける為に来たが、数学のプリントを前に、夏樹は既に放心状態にあった。

集中力は欠片もない状態の中。
沈黙が漂う部屋に急に流れたのは、夏樹の携帯の着信音だ。

「あ、メール。誰から?」
「なーつーきー?ったく、勉強中に携帯触るなー?」

宿題終わってないのはどこのどいつだ、とぼやきながら、優が夏樹の携帯へと手を伸ばす。
夏樹は慌ててそれをかわしながら、メールを読む。

「もー、良いじゃんかちょっとくらいー!」
「ちょっと?お前のちょっとは何時間だ?」
「なっ!?それひどーい!」

優と夏樹の口論が始まった時。
今度は別の携帯が、着信音を鳴らす。

「あ、ほら、優の携帯もメール来たよ〜?」
「ったく、夏樹は…って、もちたからか。また脚本のことか?」
「もちたから?私はあかりからだったけど…」
「あぁ、あの二人の企みかー」
「え、優、何か知ってるの?」

映画研究部に、あかりが一人で来て、我らが望月蒼太を連れて行ったのは、もう数時間前のことだ。

「あぁ。早坂が、俺らのとこに来てさー。もちたと二人でケーキ屋行った」
「へ〜そうだったんだ〜♪」

実は夏樹は、あかりがもちたを誘いたい、と前々から思っていたことは知っている。
告白の返事も中途半端だから、返事を伝える機会を作りたい、と。
勿論、親友である夏樹と、合田美桜は応援した。
そして、今日、あかりが一枚の絵を早々と完成させたチャンスを見計らって、夏樹が強引にあかりに誘いに行かせたのである。

(正直、あかりが誘えてるか、不安だったんだけど)

あかりは極度の人見知りであり、なかなか自分から、慣れない人に積極的に話しかけることは無い。
映画研究部とは、メンバーが夏樹の幼馴染であることもあって、よく顔を合わせているが、それでも不安が夏樹の胸から消えることは無かった。

思わず携帯を見て微笑む夏樹に、優が声をかける。

「夏樹、これ行くのか?」
「へ?これって…あぁ!えーと、どうしようかなー…」

これ、の意味がしばらく分からなかったが、自分達に送られてきたメールのことだと理解する。

夏樹と優のメールは、文は違えど内容は同じだったのだ。
それは、今度の土曜日に、成海聖奈の元、テレビ局に行かないか、と言う大胆な誘いだった。

「んー、成海さんとはあんまり関わりないけどな〜」
「メールには、早坂が成海と中学時代からの友達だ、って書いてあるけどな。ってか、マジで雛誘うのかよ…」

優がメールを見て、渋い顔をするのは、この一文が原因だった。

『人数多い方が良いみたいだから、雛ちゃんも誘ってよ』

雛とは、優の妹だ。
今年、優と同じ高校に入学し、一度、あかりや美桜達とも顔を合わせたことがある。

「良いじゃん、誘おうよ!私も虎太郎誘うから!ね?」

聞いてみれば、夏樹のメールにも、虎太郎を誘うように書かれていたと言う。
夏樹は、雛のことを自分の妹のように可愛がり、雛もまた、夏樹とよく遊んでいる。

「人数多い方が良いって言うのは、納得いかねぇけどなー。まぁ、とりあえず、返信しますか」

そう言って、メールを打ち出す優の姿から、遠回しに賛成してもらえたことが分かる。
夏樹は小さく笑って、優と同じようにメールを打ち出す。

「送信、っと!って、いっけない!空もう真っ暗じゃん」
「ったく、もちたと早坂からのメールで、結局宿題片付かなかったなー」
「うぅう…お願いしますっ!写させてくださいっ!」

今までも、何度かこんな事になって来た為、優には想像出来ていた展開だった。
いつも通り苦笑しながら、優は自分のプリントを手渡す。

「汚したらラーメンおごりなー」
「えぇー!またおごりー!?っていうか、ラーメン好きすぎでしょ!」
「また新店舗発見したんだよなー」

夏樹はやれやれ…とため息をつく。
幼馴染のラーメン愛は、もう知っているが、こうして新店舗の情報をいち早く持ってくる辺り、その愛の強さに呆れるばかりだ。

「新店舗かぁ〜良いねぇ」
「俺、明日そこ開拓しに行くんだけど」

そう言って夏樹に向けられる視線は、お前も来るか?、と言っている。
夏樹は素直じゃないなぁ、と苦笑しながらも、その誘いに乗ることにする。

「じゃあ、私は塩で!」
「行く気満々だな」

えへへ、と笑う夏樹に呆れている優の顔は、夕日に照らされているからか、ほんのりと頬が赤く色付き、少しの笑顔を讃えていた。