二次創作小説(紙ほか)

Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜 ( No.32 )
日時: 2015/08/22 22:02
名前: cinnamon (ID: 76LSjzh0)



「で、俺も行けっつーのか」

隣から帰ってきた姉、夏樹は、急に虎太郎の部屋に来て開口一番、先ほど送られてきたというメールの話をされたのだった。

(で、よりによって雛も来るのかよ…!)

雛といることが嫌なのではなく、何よりも、雛への想いが周囲に広まること、そしてまた雛が自分と喋らなくなるという現象が起きることが、虎太郎が一番勘に触る部分なのだ。

「大体、なんで大人数が良いんだよ」
「知らないよ、そんなことー!でもさ、成海さんもいるし、テレビ局なんて、この機会逃したら一生行けないかもしれないんだよ!?ねー行こ、行こーよ虎太郎ー!」

お願い、と顔の前で手を合わせてくる姉に、虎太郎は呆れのため息をつく。
何故自分にそこまでして来て欲しいのかは謎だが、この様子だと、夏樹は虎太郎が行くと言うまでここから退く気は無いであろう。

そのことは弟である自分と、ついに彼氏となった優の二人が、一番理解しているから、虎太郎はまたまた大きくため息をつく。

(姉の頼みに弟が折れるとか…普通は逆なんじゃねーの?)

心の中で愚痴をこぼしながらも、虎太郎は今回も折れてやることにした。

「ったく、行けば良いんだろ、行けば」
「あっりがとー!流石、私の弟!」

よしよし、と満足そうに頷く姉に、虎太郎はため息と共に苦笑をこぼす。

(優はいっつも大変だな…)

だがきっと、優は姉のこんなところに惚れたのだろう。
誰に対しても同じように接し、皆を笑顔にさせる。
夏樹には、そんな能力が幼い頃から備わっていたのだ。
だからこそ、こんな風に押し付けがちでも、虎太郎が苦笑を浮かべることが出来るのだ。

(あいつも…綾瀬先輩も来るのか…?)

「なぁ、夏樹」
「ん?どうしたの虎太郎?何か言い忘れてたっけ?」

上機嫌で部屋を出ようとしていた姉を引き留め、虎太郎は続ける。

「あいつも…来るのか?」
「ん?あいつって誰?雛ちゃんなら来るって先言ったじゃん」

(だから、あいつって言って雛を指すのやめろよな!)

また心の中で愚痴をこぼしつつ、虎太郎は平然を装って答える。

「ちげーよ。ほら、あいつはあいつだよ」
「ん?」

夏樹は『あいつ=雛』という方程式が頭からなかなか離れないのか、うーんと唸り首を捻っている。
虎太郎はため息をついて、本当ならば極力口にしたくなかった名前を出す。

「綾瀬…先輩と高見沢だよ」

家の中でも、恋雪が先輩であることには変わりないから、一応先輩、と付けておく。
夏樹はと言えば、虎太郎の言葉にただただ驚きを隠せずにいた。

「えーっと、恋雪くんは分かるけど…高見沢って誰?」

遠慮がちな夏樹の声で、今度は虎太郎が面食らった。

(俺…高見沢とか、言ったか…?)

虎太郎は、ただ恋雪の名を口にしただけのつもりだったが、どうやら無意識でクラスメートである、高見沢アリサの名も出してしまったらしい。

「…クラスおんなじなんだよ」
「へ〜どんな子?髪型とか、特徴ある?」

夏樹は、虎太郎や雛がいるので、よく一年生の教室を訪れる。
その際の記憶に彼女がいるかもしれないと、こんなことを聞いたのだろう。

「髪は…二つにしばってるな、特徴はー、あ、よく男子に囲まれてんなー」
「二つぐくりで男子に…って、あーーーー!」

夏樹は目を輝かせて叫ぶ。
相変わらずの声の大きさ、そして叫ぶ前触れもなく発されることに、虎太郎は頭を抱える。

「ねぇ、虎太郎!あの子だよね、あの子だよね!」
「お前の頭がどーなってんのか、俺にはわかんねー」
「だっ!だから〜あの子だよ、あの子!昼休みに、いっつも成海さんの雑誌読んでる…」

高見沢アリサは、現役モデルであり、虎太郎達の通う、桜丘高校の生徒でもある成海聖奈の大ファンだ。
実際、昼休みはいつも雑誌を眺めているし、髪型も、成海を真似ているのだろう。

「多分、そいつだわ」
「そっか〜確かに、あの子かっわいいもんね〜♪」

夏樹があらぬ事を考えている予感がするが、虎太郎はあえて触れずに話を進める。

「…やっぱ高見沢は良いわ。雛と仲良い訳じゃねーし」
「え〜?雛ちゃんと仲良くないんだ?」
「まぁ多分な」
「ふーん、じゃあ今回はパスして…何で恋雪くん?」

この疑問には、流石に適当に返すわけにもいかず、虎太郎はぐっ、と息を詰める。

恋雪は、いつからかは不明だが、ずっとずっと夏樹を追いかけていた。
一見女子のようだった彼が、急に長かった髪を切ったのも、眼鏡をやめてコンタクトレンズにしたのも、何事にも積極的になったのも。
全ては、自分の姉__夏樹に恋をしていたからだと虎太郎は思う。

自分に向けられている好意に全く気付いていない夏樹は、恋雪の想いを聞く前に、自分から優へと想いを伝えた。
そして二人は通じ合った__恋雪の恋は、その時に終わりを告げたのだった。

優とは、ちょっとした口論があったりしたものの、夏樹が恋雪の想いを知ることはなかった。

(でも、夏樹と優のおかげで、雛の勝率が増えたってことか)

そう考えて、すぐに違うな、と確信した。
恋雪は、きっとまだ、夏樹を想っているだろう。
諦めはついているかもしれないが、少なくとも、夏樹以外の人を好きになっていることは無いはずだ。

雛を想い続ける虎太郎にとっては、ライバルのような存在で、正直に言えば良い気はしない。
が、同じ高校に入って、『先輩として』、少しは認めるようになったのも事実だ。

「まぁ、あいつも暇なんじゃねーの」

本当は暇な訳がない。
三年生は、後の受験の為に、今はもう勉強シーズン真っ只中だからだ。

(でもさ、あいつ絶対、まだ楽しめてねぇよな)

虎太郎には、彼が高校生活を楽しんでいるようには思えなかった。
余計な心配かもしれないが、恋雪がフられた相手が自分の姉だと言うことも気にかかり、その詫びを、少しでもしたかったのだ。

(詫びになんてならねぇし、そんなのをあいつが求めてるとも思ってる訳じゃねーし)

本音を言えば、あの後、恋雪が夏樹と話している姿を一度も見ていないから、現状を知っておきたい、という目論みだった。

(それに、あいつが元気ねぇと、雛まで落ち込みそうだしな)

雛の元気を奪うようなことはしたくない。
ずっと隣にいた虎太郎は、今まで、どんな時も雛を元気に、笑顔にさせて来たつもりだ。
そして、それはこれからも変わらない。

(俺は、俺にしかできねぇことがあるからな!)