二次創作小説(紙ほか)
- Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜 ( No.35 )
- 日時: 2015/08/26 00:53
- 名前: cinnamon (ID: 76LSjzh0)
夏とは思えないほどの涼しさを感じる夕暮れ___
春樹の横には、小柄で大人しい影が伸びている。
それだけで嬉しくて、別れたくないと駄々をこねる幼い自分がいた。
美桜は、さっきからずっと黙ったままだ。
少し火照った顔に、夕日の光が輝きを添える。
柔らかな猫っ毛は風に舞い、どこか遠くを見つめる瞳が目に入る。
(この表情、映画に出来たらなぁ…)
自分の顔をカメラに収められるだけでも半泣きになるのだから、映画にする、と言えばますます恥ずかしさを露わにするだろう。
もしかすれば本気で泣いてしまうかもしれない。
こんなに良い表情をしているのに自分に自信が持てない美桜が、微笑ましくももどかしい気持で、春樹はひたすら歩いていた。
「…春樹くん?どうしたの?」
「え?…あぁ悪りぃ」
いきなり声をかけられ、鈍い反応をしてしまったと、慌てて笑顔で返す。
美桜は良かった、と優しく微笑み、また前を向こうとする。
(ダメだ、また前を向かせたら)
春樹は美桜に前を向かせまいと、慌てて声をかけ直す。
「なぁ美桜」
「どうしたの?」
「美桜はさ、早坂からメール来たか?」
そう、今日春樹は、美桜との下校途中に蒼太から来たメールについて、話を聞こうとしたのだ。
美桜が前を向かずに、此方を見るようになったことに安心しつつ、春樹は続ける。
「俺もなんか、もちたから来たんだよなー何なんだ?これ」
蒼太の名前が出ると、美桜は何故か安心したように肩を揺らし、口を開く。
「えーっと…最近あかりちゃんから来たメールは…あ、これかな」
華奢な指が素早くボタンを押し、メールを開く。
「この、成海さん…とテレビ局に行こう、って話だよね」
「あぁ。やっぱり美桜にもきてたのか。
…で、どうする?美桜は行くのか?」
春樹自身は、映画用のカメラ等、この目で見ておきたいものはいくらでもある。
優は分からないが、蒼太が来ることは決定しているし、春樹は行くつもりなのだが、夏樹から、あかりも蒼太と同じようなメールを送っていると聞くと、美桜が行くかが気にかかって仕方なかったのだ。
「…春樹くんは行きたいよね」
「俺?んーまぁ、映画のセットとか、運良ければ見れるかもしんねぇし、行きたいとは思うけどなー」
美桜は小さく、そっか。と呟き、また黙ってしまう。
その空白がもどかしくて、春樹の中の様々な感情が暴れ出す。
(なぁ、どうなんだよ。俺は、お前と一緒に行きたいんだよ)
口には出来ない想いが、心の中で渦を巻く。
美桜は、平然とした態度で考え込んだ後、ついに答えを出した。
「私も……行こうかな。映画に出てくる絵とか、背景の色彩とか、私も見たいものたくさんあるから……」
その一言で、春樹の心の渦が止む。
そう、その渦の正体は__
「そっか。なら、今日、DVD貸すよ。この間、美桜が好きって言ってた映画の」
「うん。ありがとう」
淡々とした会話に、夕陽のように熱い想いが滲むのは、
果たして何方の想いかな。