二次創作小説(紙ほか)

Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜 ( No.5 )
日時: 2015/08/03 01:04
名前: cinnamon (ID: 76LSjzh0)

第一章

雲一つ無い青空に、蝉の大合唱が響く。

(今日も、絵になる空だなぁ)

その空を眺めながら、早坂あかりは、またまた絵の事を考えていた。
園芸部が育てた、向日葵の黄色が青空と周りの木々に映え、あかりは、今すぐにでも筆を動かしたくなる。

だが、今日はいつものように、美術室に直行する事は出来ないのだ。
中学時代からの友人、成海聖奈から、大事な話がある、と約束されているからだ。

(スケッチブックと鉛筆だけでも、置いておけば良かったなぁ)

放課後の教室は、人っ子一人おらず、ただただ蝉たちの大合唱が響くだけだ。
先に美術室へ行った、親友の夏樹と美桜が、あかりの荷物も持って行ってくれた為、あかりの手元には、貴重品である携帯電話しかない。

「スケッチブックと鉛筆だけ、取りに行こうかな…」
「ごめん、あかり!お待たせ〜!」

あかりの独り言と、聖奈の焦った声が発されたのはほぼ同時だった。
あかりは驚き、顔を窓から聖奈へと向ける。
その反応に、聖奈は焦りを忘れて苦笑する。

「もしかして、絵描きたい?」
「うん。この青空と、向日葵の風景を描きたいんだ〜」
「そっかぁ、風景画だね!また良い絵が出来るなぁ」

聖奈がうんうんと頷き、あかりと笑い合ったのもつかの間。

「って、あかり!話ずれ過ぎだよ〜!あの、大事な話!」
「あ、そうだったね、えへへ〜つい…」
「もう!ってそれより、大事な話はね…」

内緒話をするように声を潜める聖奈に、あかりも距離を縮めて聞く。
聖奈は、ニッコリ笑うと、その場でくるりと回って、自信有り気に言う。

「今度の土曜日に、みんなでテレビ局に行こ〜う大作戦!」
「今度の土曜日に、みんなでテレビ局に行こ〜う大作戦?」

聖奈が自信有り気に言ったにも関わらず、あかりは訳が分からない為、オウム返しとなる。
しかし、何を期待したのか聖奈はますます笑みを浮かべた。

「あのさ、あかり。私って、よく仕事で学校に来られないじゃん?」
「うん」

急に聖奈の現状を話され、あかりは真剣に頷く。
聖奈とは中学時代からの付き合いだから、聖奈の芸能活動の忙しさは、友人の中では誰よりも、分かっているつもりだった。

「だから私は、もう高3だけど、あかり達より学校の事を知らないかもしれない。でもその分、あかり達に普段の私がいる場所を知ってほしいな〜と思って!ね?」
「聖奈ちゃん…」

聖奈の言うとおりだ。

あかり達は、聖奈よりも学校に来ている回数は多いのだから、学校の事をよく知っているのは当たり前だ。
しかし聖奈は、日頃から芸能活動を優先し、学校には最近滅多に来ていない。

そんな聖奈の立場に立ってみる事も、友人として必要な事なのかもしれない。

「うん!その大作戦、私やるよ!」
「ありがと、あかり!それでさ?」
「うん」

始めは絵を描きたくて仕方なかったが、今は聖奈の企画が詳しく知りたい。
だからだろうか。
あかりは自然に、声が明るくなっている気がした。

「さっき、私が言った作戦名、分かった?」
「えーと、今度の土曜日に、みんなでテレビ局に行こ〜う大作戦!…だっけ」
「そう!で、その作戦名通り、日は今度の土曜日なんだけど」

そこで聖奈は言葉を切った。
あかりは一瞬、何が何だか分からなかったが、やがて顔を明るくし、

「分かった!待ち合わせ場所と時間でしょ!」
「えぇ…なんでそうなるの〜!?」

あかりとしては、日程の後は、待ち合わせ場所と時間を決めるのが普通なのだが、聖奈はどうやら違うらしい。
あかりは素直に首を傾げるしかない。

「もう!作戦名に、『みんなで』ってあるでしょ?」
「あぁ、誰と一緒に行くかって事?」

聖奈は、やっと分かった…と呆れたが、またすぐに話を進める。

「そう!で、行くメンバーは、あかりが誘いたい人で良いよ」
「誘いたい人かぁ…あ。なっちゃんと美桜ちゃんは良いかな?」
「なっちゃん?美桜ちゃん?」
「あ、同じ美術部の友達だよ〜」

「そっか。じゃあ良いよ〜!って、あかりの誘いたい人って、その二人だけ?」
「うん、今は…」
「そっかぁ…私はもっと、大勢の方が有り難いんだけどな…」
「え?なんで?」

テレビ局を見学させてもらうなら、少人数の方が迷惑がかからないし、良いのではないのだろうか。
あかりは、真っ先に浮かんだ疑問を、聖奈に訴える。

「聖奈ちゃん、テレビ局を見学させてもらうなら、少ない方が良いんじゃ…」
「そこは大丈夫!引率で、明智先生もいるしね」
「あ、明智先生も来られるんだ」
「そうそう、これで人数はOK☆」

(でも、私がなっちゃんと美桜ちゃんの他に誘いたい人って…)

夏樹と美桜の他にあかりと親しい女子はそんなにいない。
しいて言うなら、夏樹の幼馴染で彼氏でもある、瀬戸口優の妹、雛くらいだろう。

(あ、瀬戸口君達…)

雛の名前で思い出したが、瀬戸口優、芹沢春樹、望月蒼太の映画研究部の三人と美術部であるあかりと夏樹、美桜は、それぞれ一度映画の制作で関わったことがある。

それからは、何かとこの六人で顔を合わせる事が多く、彼らもあかりにとっては『友達』だった。

(望月君は、友達…だよね…)

実はあかりは、この前の放課後、蒼太に呼び出され、告白されたのだ。
結局、告白の答えは宙に浮いたままだが、二人でケーキ屋さんに行ったりと、少しずつ蒼太との距離は縮まっている。

あかりも、告白されてから、何処かで蒼太の事を少し意識するようになり、友達以上ではないか、などと思ってしまう。

(もしも、私が望月君にこの事を話したら…)

蒼太は、また優しく笑って、喜んで来てくれるだろうか。
……彼なら、来てくれる気がする。

蒼太も、部活が忙しく、決して暇ではないが、あかりには不思議とそう思えるのだ。

「来れるかは分からないけど…誘いたい人ならいるよ」
「へぇ、そっか〜!何人くらい?」

「…六人、かな」
「おぉ〜!良い人数〜良かった〜!」
「良い人数…なんだね」

六人、の何が良い人数なのかはよく分からないが、少なくともあかりが誘いたいのはこの六人だった。

(今日は、ケーキが食べたいなぁ)

あかりの中で、この後の予定は決まっていた。

空は相変わらず青く、あかり達を明るく見守っているような日差しだった。