二次創作小説(紙ほか)
- Re: HoneyWorks〜告白実行委員会〜【 本編完結間近!】 ( No.74 )
- 日時: 2015/09/23 14:22
- 名前: cinnamon (ID: BEaTCLec)
エピローグ
「ふぅ〜今日は楽しかった〜〜!」
冷たい風が吹きすさぶ、茜色の空の中、夏樹の明るい声が空気を震わせる。
「そうですね、これも全て、成海さんのおかげですね」
「うんうん、恋雪くんもハニワ好きだし、楽しかったよね!」
「はい!もちろんです!でも僕は…」
夏樹と恋雪が親しげに話をする中、恋雪はつい口をつぐんでしまう。
(僕は、榎本さんといるなら何処だって楽しいんです、なんて、カッコつけた台詞言えないから…)
急に黙ってしまった恋雪に、「恋雪くん?」と優しい声が降ってくる。
優しい彼女は、こんなことで僕が焦れているとも知らずに心配してくれている。
以前の恋雪は、こんな風に彼女が心配してくれることに、いや、そもそも夕暮れ時に二人で話せることを嬉しく感じただろう。
(でも、今は…)
嬉しくないことはない。
いつもは僕以外を映すことが多い瞳が、逸らさずに僕だけに向けられているのだから。
でも、彼女の恋が実ってしまった今、嬉しさよりも悲しみの棘がグサグサと容赦なく恋雪の胸を刺すだけとなってしまったのだ。
「いえ、なんでもありません。すみません…」
「ううん、気にしないで!私なんて、そんな事ば〜っかりだよ?何か言おう、としてあれ?何だっけ?ってこと」
あはは、と軽快に笑う彼女を見ていると、さっきまで恋雪の胸を刺していた棘は綺麗さっぱり消え去り、恋雪もつられて笑い出す。
(なんなんだろう、僕。悲しいはずなのに、こんな時にはしっかり笑って…)
ここのところ、恋雪は自分が分からなくなっていた。
あれ程、悲しんでいたのは何処のだれなのか。
自分にそうつっこんでしまうほどに、どんどんと迷路に落ちていくような気分になっていくのだけ、はっきりと分かった。
「でも、歌って良いよね〜」
夏樹の声で、現実に引き戻される。
せめて、彼女が隣にいる今は、現実を楽しもう。
そう決意し、恋雪は夏樹に返す。
「…どんなところがですか?」
「んーと、やっぱり、歌っていると楽しいし、心の中のモヤモヤも少しずつ晴れていく気がして…」
モヤモヤが、晴れていく。
その言葉に、恋雪はなるほどな、とすぐに納得出来た。
自分は一曲のみだが、確かに心に溜まっていた、霧のようにどす黒い感情が、少しずつ消えていったのを感じた。
恋雪は、夏樹の言葉に頷き、続きを促した。
夏樹もそれを横目に見て、一言一言を噛みしめるように続ける。
「それに、自分は、恋して、それからこんなことがしたいんだ、とか、自分の中にこんな知らない自分がいたんだ!…って、新しいことをいっぱい見つけた気がするんだ」
恋雪は、今度はすぐに納得することが出来なかった。
むしろ今は、驚きで息が詰まりそうになっている。
自分のしたいこと…
知らない自分…
その言葉は、恋雪にとって、あまりにもダメージの大きいものだった。
今更、恋愛上の自分のしたいことなんて、あるわけがない。
何故なら、僕の恋はもう__
(でも、そうじゃない。僕は…)
楽しかったのだ。いや、今この瞬間も、楽しんでいる自分が確かにいる。
想いを伝えずに、悲しい終わり方をしてしまった初恋。
だけど、その中で彼女と話したり、何かをしたり…
いろいろな楽しい想い出は、確かに恋雪の中に存在したのだ。
(そうか。僕の中の『知らない自分』は…)
恋雪は、新しく見つかった自分に、喜びと幸せを噛み締めながら、夏樹にありったけの感謝を返す。
「そうですね。榎本さんの気持ち、僕には痛い程、分かります」
痛い程、なんかじゃ伝え足りないけれど。
今はこれで良いのだ。
全てを伝えてしまえば、きっと恋雪の想いは留まること無く溢れるだろう。
それだけは、避けたかった。
「そっか、ありがとう恋雪くん!いや〜このことを優とか春樹に言ったら、「らしくねぇな」って笑われたんだよ〜!?二人ともからかっちゃってさー!ひどくない?」
「あははは…瀬戸口くん達らしいですね。なら、望月くんはどうですか?望月くんは恋愛映画好きと聞きますし、そういう感情は誰よりも理解してくれるはずですよ」
瀬戸口 優。
今、その名前を聞いても、恋雪はもう棘のような痛みも、悲しみも感じなかった。
今まで知らなかった、『新しい自分』になれたから__
「そっか〜もちたかぁ!うん!もちたなら、大丈夫かも!ありがとう、恋雪くん!」
「いえ!こちらこそ…ありがとうございます」
恋雪は、真っ直ぐにお礼の言葉を口にした。
今度は、彼女にしっかりとした笑顔を向けて。
家路を歩きながらも、恋雪は花のことを考えていた。
今日は、家に帰ったら、真っ白で可愛らしいチューリップを部屋に飾ろう。
新しい自分になった第一歩を記念して…
*・゜゜・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゜・*
それから、早くも数ヶ月。
桜の蕾は、この日を待ち構えていたように花開き、卒業生の祝いの席に、より一層花を添えた。
卒業式の少し前に来ていた恋雪に、兼部してまでして園芸部に入部してくれた二人の後輩からのプレゼントに白いチューリップがあった時には、恋雪は真っ先に喜びと、あの時の想い出を感じた。
(これも、また新しい自分になる僕への、祝福の一つなのかな…)
そうだったら嬉しい。
園芸部に入ったのも、仕事が自分に合っていた、という理由もあったが、単純に花が好きだったからだ。
それに加えて、目の前に広がる一面のチューリップ畑には、白いチューリップもある。
白いチューリップは、恋雪にとっては、ある意味思い出深い花だ。
そして、花言葉も___
恋雪はこれからの人生も、こうして花に彩られて過ごしていきたいと、雲一つ無い青空に願う。
辛い恋も、悲しい恋も、どの恋も、きっと美しい色の花々で、想い出に残るだろうから___
本編【あのキャラ達がHoneyWorksの曲をレコーディングするようです】 END