二次創作小説(紙ほか)

Re: 東京喰種:re 黒山羊とアゲハ蝶 ( No.4 )
日時: 2015/10/16 19:33
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)





 2年前の事件は、普段喰種に関わりのない普通のヒト達であっても、強く印象に残っているだろう。
 『喰種対策局(CCG)』通称『白鳩(ハト)』の総力による、20区・喫茶あんていく掃討戦。1区から23区までの喰種捜査官が集結し、喰種の巣窟であるとの調べがついた、20区の喫茶あんていくに対して総攻撃を仕掛けたのだ。
 いわく店長以下その従業員数名——並びに、従業員の手下である喰種多数との全面戦争は凄惨の限りを極めた。そして、血で血を洗う対決は——白鳩側の勝利で幕を下ろした。
 後日、取り分け立場の弱い喰種にとってオアシスとも呼べたあんていくは取り壊された。宇佐美オルハもまた、再び居場所を失った。
 今まで従事したバイト先は無事で、志望していた高校にも受かることは出来た。だが、手放しに喜ぶことが出来ないのは当然だった。
 横暴ではあるが何よりも妹の身を案じた兄も、彼女を温かく受け入れたあんていくも、彼女を守るものはもう何もない。そして、彼女は喰種の世界で生きることが出来ない——自分で人間を狩ることが出来ないからだ。
 だから彼女はヒトの世界に紛れて生きながらも、ヒトと触れ合うことを極端に避ける。
 先ほどの担任は教室で食事をしないオルハに対して、わずかながら疑念を抱いている。だから僕に喰種の力で攻撃を与えてまで(オルハは比較的弱いと言えど、基本的に喰種の筋力や身体能力はヒトの数倍以上と言われている)あの担任から離れようとしたのだ。
 もっとも、それをすれば更に怪しまれるだろうに。彼女の社会性がいかに低いか窺える。

「それも含めてカワイイんだけどね、オルハちゅわんは」

 またも産業廃棄物を見るような目で見られた。君の瞳に乾杯だぜ。
 さて——なぜ僕がここまで彼女の詳しい事情を知っているかというと、それは僕も喰種だから——ではない。そして、ちゃんとした理由がある。
 しかし、その前に自慢させていただきたい。

「ただいま」

 都内某マンションの4階にある僕の部屋。扉を開けて靴を脱ぎながら、疲れたサラリーマンのようにつぶやく。そして廊下に上がると、僕に続いて宇佐美も入ってきた。
 そう、同棲である。宇佐美オルハと僕は一つ屋根の下で暮らしている。
 しかも宇佐美は贔屓目や誇張無しに言ってもずいぶんな美少女である。美少女と二人で暮らす学園生活——まさしく、日本の、いや世界の全人類男子の夢。これを自慢せずしてナニを自慢するか。これで興奮しない男はきっとナニが不能なカワイソウ状態に違いない。ごめんなさい言い過ぎました。
 ひとつ残念なのは、性的な意味で手を出そうものなら間違いなく縊り殺されるだろう。なんて殺生な現実だとは思うが、最近この焦らされてる感も悪くないなと思い始めている自分がいることを否めない。
 僕と宇佐美はお互いに背を向けて着替える。別々の部屋で着替えないのは、もうひとつの部屋はワケあって今は入れないのと、僕がそちらへ行って着替えようにも、気を付けて着替えないと制服を汚しかねないからだ。
 白いきめ細やかな宇佐美の肌がそこにあるというのに、振り返ることすら許されない。なるほどこの感覚もなかなかどうして……などと考えられていたら背後から頭部に蹴りをいれられた。なぜだ。

「なんか不快なことを考えられてる気がした」

 こいつ見抜いてやがる。
 僕が高校に入ってしばらくした頃から、僕たちは二人で暮らすようになった。周りには、僕と宇佐美は公認のカップル——という設定になっている。当の宇佐美自身も、その話を持ち出すと、まるで「誕生日プレゼントだよ」とのたまい腐った犬の死骸を差し出されたかのごとく、これ以上ないほど嫌悪の表情を示すが、一応は僕に倣っている。その方が、彼女にとっても何かと都合が良いからだ。
 まず、住む場所というのが大きい。学生がバイトをしながら、ひとりで家賃諸々を補うには限界がある。奨学金やらを頼りにしようにも、彼女の身分は偽造だからそう簡単にはいかないし、そういった世話をしてくれるであろうあんていくの店長はもういない。二人で家賃・光熱費・水道代諸々を分割するのは彼女にとっても悪い話ではなかった。
 そして——。

「……面倒だけど片付けなきゃなあ」

 汚れてもいい服に着替えた僕は、リビングとは別の部屋に入る。
 部屋に入ると死臭がした。床に敷いた青いビニールシートは赤く汚れて、肉とも骨ともつかない何かが散乱している。それは間違いなく、先日まで生きたヒトとして形を成していたモノであった。

 ——そして自分でヒトを狩れない宇佐美に死肉を提供し、僕は僕が殺した人間の後始末を宇佐美に任せることが出来る。それも、お互いにとって悪い関係ではなかった。