二次創作小説(紙ほか)

Re: 【角川つばさ文庫短編集】全ては君に逢えたから ( No.12 )
日時: 2015/11/12 21:15
名前: SUZU (ID: 7pjyJRwL)

【裏庭にはニワ会長がいる】

第3話『電話のベルには気を付けて』


ジリリリと家中に鳴り響くベルの音
余りに人が少ないせいか広い家のわりによく通る

「悪いな、出てくる」

父が食事のときに席をはずすのはしょっちゅう
今まではトモコと別で食べてたから分からなかったがいつも5回以上は電話が鳴る

(押し付けがましいお父さんだけど私と似て真面目に仕事はこなすんだから…)

大庭トモコ、桂木学園中等部二学年。そして元生徒会長。
父がこの学校の理事長を勤めていて父の望みを叶えるのが娘であるトモコの仕事。

だったんだが…
色々あって今じゃ問題児のリーダー、裏会長に。

隠してたこの秘密もバレちゃって大変だったんだけども
そのお陰(?)で学校は前より自由な校風になり(まだ厳しいけど)裏庭だって沢山の人が出入りするようになった

と、突然お父さんがトモコを呼んだ

「トモコ、お前に電話だ。トネリコ…と言ったか?卒業生だそうだ」

「トネリコ!?…て、ちょ貸して!!」

すぐに父から受話器を受け取る

(トネリコって…こんな珍しい名字、私の知り合いには一人しかいない…)

「もしもs…「ウラちゃん!!これウラちゃんちの大きい家の方の電話だったの!?」…やっぱり」

トネリコ モモ、今度アメリカの高校に行ってしまう元桂木学園の生徒で裏カフェメンバーの一人

そんなモモが電話をしてくるなんて滅多にない
というか、うちに仕事や学校のこと意外で電話が来ること事態が珍しい

トモコは半心面倒で半心ワクワクしていた

「どうしたの?」

「いやね、新しい裏カフェの飲み物を考えててね。どうかなって聞こうと思って」

「そんなの明日でいいじゃん…」

期待を裏切られたような気分になり少しガッカリする
それでもモモは話を続けた

「今がいいのっ、それでね粒あんを薄めて温かくした飲み物とトウモロコシを潰して温かくした飲み物、どっちがいいかな?」

「え…それって」

(普通におしることコーンスープだよね?)

どちちも美味しいし
どちらも温かくて良いと思うけれども

「それは自動販売機にあるし却下」

「えぇー………ま、いいや。じゃね、また明日ぁ」

「用事って本当にこれだけなんだ…うん、また明日ね」

受話器を元に戻し、ため息をつく私
席についき、温かいスープを飲む

「なんだ、友達か?」

「うん、そんなところかな」

するとまた突然ジリリリリと電話が鳴った
父が立ち上がり受話器をとる

(お父さんも大変だな……)

と、思っていると

「トモコ、野茨…という子からだ」

「え、いや、嘘でしょ……」

モモならともかくマスミから電話なんて珍しいにも程がある
きっと明日は雨が降るだろう
そんな感じにトモコは嫌々受話器を受け取った

「はいトモコです……」

「元気ないな。それよりこの電話番号は君のお父さんの家のだったか」

私の家でもあるんですけどね…
それに、元気がないのは誰のせいでしょうか

「うん、そうだよ、で?どうしたの?」

「今日、裏カフェのコップを割ったのは君か?」

(嘘っ…まさか、お説教?)
(説教は私の後ろで黙々とご飯食べてるお父さんだけで十分なのにっ)
(それに、指摘事項指摘事項うるさいって言ったのはどっちよ!)

言いたいことは色々あるが全て口に出したらまた叱られるだろうと我慢するトモコ
この裏カフェのナンバー2である野茨マスミはトモコでさえ何も言い返すことができない相手である

「そうです、でもルイには謝ったし大丈夫です」

「だが、それでまた裏カフェの経費が……自腹と言うてもあるがそうなるとリョウに何か言われるだろう、だからな……おい、聞いているか?おi」

ガチャ…


ツーツーツー

マスミには悪い、と思ったがトモコは電話を切った

(これ以上何か言われるのはめんどくさくなりそうだし…)
(それに、大事なようじゃないなら明日で良いのに…)
(どうしてこう、夕飯の時間帯に…)

そんなことを思いながらトモコはまた大きなため息をついた

Re: 【角川つばさ文庫短編集】全ては君に逢えたから ( No.13 )
日時: 2017/06/26 01:35
名前: SUZU (ID: 4.2P0hz.)

席につくとほとんど食べ終えた父がトモコの方を向いて言った

「また友達か? 」

「いや…ま、うん…どうだろう」

そして、すぐにジリリリリと鳴る電話
父が最後の一口を食べ終えて電話にでた

(今度はなんだろう…)

「トモコ、イチカさんだそうだ」

(え、イチカ…って…うそ、どうして?)

トモコは慌てて父に駆け寄り受話器を受け取った

「もしもし?…イチカ?」

緊張とか嬉しさとかの色々な感情があふれでて受話器をうまくもつことができないトモコ
そんな緊張感を感じたのかイチカは突然笑いだした

「あははは…理事長んとこに繋がっちゃったね」

「ごめんね、どうしたの?」

イチカは裏カフェで知り合った女友達
トモコが鬼の生徒会長だって分かってもこう仲良くしてくれるとてもいい子

「あ、いやあのね!!トモコちゃんってリョウさんのことが好きだったn」

ガチャ…



ツーツーツー

「は、早かったな…」

「うん…ちょっと…ね 」

何言い出すのかと思ったらほんとうに何言い出しちゃってんの!?
前言撤回。
とてもいい子じゃなくて普通にいい子だ

ステーキを頬張りむしゃむしゃと噛み砕く

すると、またトモコの神経を逆撫でたいのかなんなのかジリリリリと電話が鳴った

「トモコが出ろ」

「はい…、もしもし大庭ですが!!」

トモコも父もかかってくる電話が全て私への電話だということが分かりもう父は席をはずすのをやめた

受話にをとると聞き慣れない、でもよく聞く声がした

「ニワ…会、ちょ?」

「……もしかして、ミツル…?」

「う、うん…そう……だよ……」

鬼怒川ミツル。
トモコが生徒会長だったときによくお世話になった生徒会の一員で
トモコが裏カフェで活動してたことを全校生徒の前で公表した人

無口すぎで数文字しか喋れないミツルが勇気をはって大きな声で言ってくれた事だし、責めようとは思わない
それに、今では途切れ途切れだけどしっかり話してくれるようにもなった

「ごめん…突、然…電話…して」

「ううん大丈夫、どうしたの?」

「ニワっ…会長、ってさ……その、怒らないで…ね、その…柊君のことが…好k」

ガチャ…



ツーツーツー

「どいつもこいつもあぁぁぁぁっもう、くだらないことで電話してきて!!」

「トモコ、落ち着け」

「んったくもう!」

席に座ろうとすると、電話のベルがまたトモコを呼び止めた
っ…しつこいなぁっ

トモコはもう苛立ちが押さえきれなかった

「今度は誰!?」

「あ、トモコ?」

「……リョウ?」

さっきまでの怒りがまるで元々なかったかのように静まっていく

トモコが裏カフェで裏会長をすることになったきっかけの男、柊リョウ。
そして、今の生徒会長。

「あぁ、って…怒ってる?」

「あ、ううん。あれは違うの!」

「今度はって…何?めっちゃ電話でもきたの?」

小馬鹿にするような声色でリョウは言った
苦笑いをするトモコ、肩をすくめて呆れ口調でいった

「まぁ…ね、それで?どうしたの?」

「いや、特になにも」

「はぁ?」

またリョウも訳のわからないこと言い出して…ほんと今日は何?
嫌がらせ電話ラッシュ?皆で口裏でも合わせてんの?

私は電話を切るため受話器を耳から離そうとした…そのとき

「声、聞きたかっただけ」

「は?何が?」

「『話したい』これ以上の用件はねぇだろ」

「……っ////なに、急に」

「あ、いま、ニワちゃん照れてる?」

笑ながらいうリョウ
その顔が目に浮かぶようでほんの少し口元が緩むトモコ

「指摘事項、発見!人のことを指差して笑わない!!」

「指差してねぇわ 笑」

気がつけば父はとっくに仕事場に戻っていて
トモコ一人、クスクスと笑っていた


「指差してるように見えるの!」

「ふっ…やっぱトモコと話してると楽しいわ、電話して正解。じゃまた明日な」

「ちょっ……もう !!切れちゃったし……ほんとに何も用事なかったの?」

ほんと、意味わかんない……


広い家の広い部屋でたった一人で電話してるはずなのに
どうしてかな
物凄く暖かい

その暖かさは暖炉の火だけじゃない

──今度は私から電話してもいいですか
  声を聞くために何度も何度もベルを鳴らしてもいいですか

シンとした部屋の中、ただただ鼓動の音だけがうるさく鳴り響いていた

【完】