二次創作小説(紙ほか)

Re: 東方怨崎録 ( No.2 )
日時: 2016/02/10 22:52
名前: こんにゃく春風 (ID: ZgzIiRON)

02 幻想
どうしてだろう と、彼は思った。
痛みは消えている。
彼女が———この緑髪の女性がやったのだろうか。
きれいだ。 八雲紫は「美しい」と形容するにふさわしいが、この女性は、「きれい」だ。 間違いなく。

「どうしてだろう……」

「あーっ!やっとこさ口きいた! もう、こちとら大変だったんだよ、いきなり天狗が駆け込んできて『この少年を助けてやってください』なんて言うもんだから、びっくりして治療だけはしたけど、三時間も寝てたんだからねー!!」

その声を聴いて、彼は驚いた。 いつのまにか、 目の前に金髪の少女————というより幼女、がそこにいたからだ。
趣味の悪い帽子をかぶっている。まるで———カエルのような。
隣には、椛の髪飾りを付けた紫髪の女性もいる。

「あ、諏訪子様、神奈子様!!」

「………様?」

様、というのは、彼の嫌いな言葉である。

「そうです、こちらが諏訪子様と神奈子様。この守矢神社の神様でいらっしゃいます。 私は早苗、巫女です」

そこまで聞いた彼は、突然、狂ったように笑い出した。

「ハ、ハハハハハハ!! いやー、奴も俺を変わったところに飛ばしてくれたもんだ わるいがね、早苗さん。 俺は神様なんて、これっぽっちも信じちゃあいないんだ」

「だろうね」

とつぜん神奈子が口を開いたので、彼は驚いた。

「いや、悪い。治療するときに、君の身体を見せてもらったんだが、
打ち身をした痕以外にも無数の傷跡があった—————何があったのか、話してくれるかい?」

「…………俺の家は、小さな会社をやっていたんだが、二年——もう二年前になるのか………俺の祖父、資産家だった祖父が死んで、その金が、おやじに残された。
親父は会社を大きくし、兄貴に継がせた。  そして俺と妹は、「いらない子」になったんだ。」

そこまで言って、彼は、おいてあった緑茶を一息で飲み干した。

「おれは妹に金を持たせ、逃げるように言い聞かせた。 そして…」

「自分は何も持たず逃げている途中、紫につかまった、と」

彼は首を縦に振った。

「憎い……ですよね」

「当たり前だよ、実の親に愛されず育った俺の気持ちが、お前らに、分かって、たまるかッッ!!」

語気が鋭くなったその刹那、彼の身体から鈍色の玉が無数飛び出した。
幻想郷における攻撃手段『弾幕』、彼はそれを操る資格を手に入れたのだ。

「わかりました。 どうせ名前も言わないんでしょ。 あなたの名前は『怨崎 信』。能力はさしずめ『怨みを糧とする程度の能力』でしょうか」

早苗の声が聞こえてから数秒間、神社を静寂が支配した。———そして、だれからともなく笑い出した。

「ありがとう」

彼の声は笑い声の中に消え去ったが、きっと彼女らには届いていただろう。
これが幻想郷における『四英雄』の一人、怨崎 信の、第一の覚醒だった。