二次創作小説(紙ほか)

Re: 東方怨崎録 ( No.14 )
日時: 2016/03/17 18:04
名前: こんにゃく春風 (ID: ZgzIiRON)

09 人生に必要なものは笑顔と危険の香辛料

ある晴れた日、信は昼寝をしていた。

「あれ、フランちゃんは?」

「ん?ああ、あいつなら紅魔館に帰ったよ」

それを聞いた早苗が笑う。

「わぁい!じゃあこれからとうぶん信さんと二人っきりなんですね!!」

「わっ、こら抱き着くな!!だいたい神奈子と諏訪子はどうしたんだよ」

「神奈子様も諏訪子様も布教しに行かれています」

そりゃよかった、と言いながら信は読んでいた本に目を戻した。

「しっかし、暇だなー。早苗なんかやることないか?」

それを聞いて、

「あの、お使い頼めます?」

と言った早苗は、ある種の間違いを犯したことになるだろう。 と、言うのも信は幻想郷にきてまだ一か月足らず。この世界の地理すら、頭に入っていないのだ。

「わかったよ、どこに行けばいい?」

しかも彼は、自分でそのことを理解していない。

「では、命蓮寺というお寺の聖さんにこの包みを渡してください」

「了解、じゃ、ちょっくら行ってきますかねーっと」

立ち上がる信が、『ドーレミーファソーラシード』という鼻歌を歌っているように早苗には聞こえた。 そしてそれは、当たっていたのである。

       三時間後—————

「どうしてこうなった」

簡潔に言うと、信は道に迷っていた。皮の水筒も底をつきかけている。周りを見わたしても、あたりは知らない道だらけであるのは、至極当然のことである。

「(しまった、地図もらってない)」

ここでごく初歩的なことに気づけたのは、彼の進歩である。
ここで餓死するのを待つか———と、考えた彼を動かせたのは一人の女性の悲鳴であった。

「うあぁぁぁぁぁっ、妖怪じゃ、妖怪が出おった!」

「んだよ、妖怪ぐらいいつでも見るだろうが!!」

女性の悲鳴にいら立ちながら、信は駆けつけて、妖怪を斬った。
当然の事であり、彼の体に染みついていることの一部だったのだが、女性はそうは思わなかったらしい。信に三度ほど礼を言い、自己紹介をした。

「われは物部布都と申す、いや、そなたには危ないところを救われた。ぜひ我らが信霊廟に参るといい!」

「いや、別に俺は……」

そこまで言いかけ、信はおや?、と思った。物部。どこかで聞いたことのある名字だ、と

「そうと決まれば善は急げ、じゃ!」

そういうと少女は、高速に走り出した。 しばらくする頃にはもう信霊廟についていた。

「太子様〜すみません、面目ないです。 妖怪に襲われてしまって〜」

布都の視線の先には、金髪でヘッドホンをかぶり、錫杖を持っている女性がいた。

「まったく、布都。あなたのオッチョコチョイも、程々にしてくれないと—————おや?」

そこでその女性は、初めて信に気づいたようだ。 そして信も、そのことに気づいた。

「お初にお目にかかります。私は厩戸神子と言います。あの、あなたは?」

「ああ、俺は信。怨崎信、よろしく」

「よろしく、信」

「太子様、いかがなされました?」

ふすまの奥のほうから声が聞こえ、烏帽子をかぶった、足のない女性が入ってきた。 抹茶色の髪をしている。
その女性は、布都を見るなり、笑いをこらえるような顔をした。

「なんじゃ物部、薬草を取りに行くと言って今帰ってきたのか!」

「すまんな、屠自古。その途中で妖怪にも襲われた」

屠自古は信を見て不審そうな顔をしたが、神子から紹介され、表情が和らいだ。

「ありがとう、怨崎殿。私は蘇我屠自古。 ここで物部といっしょに太子様を守っておる」

「あんたらのご先祖、蘇我氏と物部氏だな?」

信のその質問には、神子が答えた。

「ええ、そのとおりです。ところで—————すみません、帰っていただけませんか? この後聖と会う約束なので」

そういわれて、信は包みのことを思い出した。

「あの、ごめん。 これ、聖さんに渡しといてくれ! じゃあな!!」

そういって疾風のように去って行った。 残された三人はただ、呆然とするしかなかった。


守矢神社

「ごめん、すまない!! 遅れた!!」

「遅いですよ信さん、もう晩御飯のお鍋できてますよ!」

神社に帰ってきた信は、今日あったことを早苗に話した。
なんでもない、普通の1日。