二次創作小説(紙ほか)

Re: 東方怨崎録 ( No.20 )
日時: 2016/03/21 17:11
名前: こんにゃく春風 (ID: ZgzIiRON)

11 墨染め桜の木の下で

信はある少女を師として仰いでいる。 その少女の名は魂魄妖夢。白玉楼の主、西行寺幽々子の庭師(この場合の庭師というのは庭の掃除や剪定をする人より御庭番のことを指すのではないかと信は考える)である。

「遅い遅い! 脇が開いてますよ!!」

そういいながら妖夢は鞘の付いたままの白楼剣で信の足元を薙いだ。
それを信は冬木立の鞘で受け、よろめきながらも妖夢に向かう。

「奥義『紫怨桜』!!」

この剣技も、もとは妖夢から教えてもらったものに、応用を加えただけのものである。

「天上剣『天人の五衰』!! 信、それは基本に応用用を加えただけのもの。 そこからさらに発展させないといけませんよ!!」

妖夢がそう言うと、信は、

「わかってますよ」

と言う様に笑い、こう叫んだ。

「八卦『明星、布都御魂太刀』!! これで、どうだあッ!!!」

妖夢は不覚にも、信に気圧された。 避けようにも、結界が張られており、避けられない。 そんな中、弾幕とともに襲い掛かってくる弟子の姿を見たとき、妖夢は笑った。

「(してやられた)」

と。

三十分後——————

「一つ聞いてもいいですか?」

「なんだい、師匠」

「あの技、いつ思いついたんですか?」

「即興だよ」

「嘘…………?!」

あまりの驚きに、妖夢は持っていた茶碗を落とし、やけどしてしまった。 それを見た信は、たまたま持っていた布でやけどの応急処置をした。

「これで良し、と」

「あ、ありがとうございます」

妖夢は信の顔を見た。 屈託のない人のいい笑顔。 その笑顔を見て、妖夢は頬を紅潮させ、顔をそむけてしまった。
その様子を見ていた幽々子と紫は、

「あらあら妬けちゃうわねぇ」

という表情をしていたが、もちろん彼らはこれを知らなかった。

その夜——————

月と桜を見ながら、酒を白玉楼で飲んでいた信は、気配を察知して、振り向いた。 そこには、幽々子がいた。

「あらあら、見つかっちゃったわね」

「いつからそこにいた?」

「二十にも満たない子が、酒飲んでていいの?」

「質問に答えてくれ、頼むから」

どうもこの人は苦手だ—————と、信は思う。
なにを思ったのか、幽々子が信の手に触れてきた。

「手、冷たいな」

「ふふふ。 ところで、ここにいること、早苗さんは知ってるの?」

黙って彼は首を横に振った。

「自分の彼が自分よりほかの女と遊んでるって知ったら、彼女、どう思うかしらね」

信は笑いかけ、顔を蒼白にした。今彼の頭の中では、『危険』のプラカードを持ったダンサーが、鉄の靴でフラメンコを踊っている。

「(ヤバい—————)」

「冗談よ、私が妖夢に伝えておいたわよ」

それを聞き、信は胸をなでおろした。

「ねえ、信」

「ん?」

「こっち向いて」

信が幽々子のほうを向いた瞬間、唇を唇でふさがれた。
彼が、呆然としていると、幽々子は笑いながらこういった。

「ふふふ、ごめんなさいね。あなた、私の初恋の人にそっくりだったのよ—————」

しかし、その言葉すら、彼には夢の中のようだった—————