二次創作小説(紙ほか)
- Re: 東方怨崎録 ( No.27 )
- 日時: 2016/04/10 14:24
- 名前: こんにゃく春風 (ID: 2qFw4l..)
14 温泉旅行に行こう! 後篇
「あんた、誰だ?」
信がピンク色の髪の少女に声をかける。考えてみれば、初対面の少女に対して、この言葉はひどく失礼なのだが、もちろん神の頭にそんなことは浮かんでこない。
「私は古明地さとり。この館の主です」
その喋り方を聞いて信は、
「(好感のもてるやつだな)」
と思ったが、声には出さなかった。が、さとりにはばれていたらしい。
「ふふっ、ありがとうございます」
信はあくびしたカバのように口を開けていたが、その理由をさとりが話してくれた。
「私はさとり妖怪なんです。そのせいで聞きたくない心の声を聴いてきましたが、言葉を話せない動物からは好かれてきました」
「だろうな。嘘をつき、騙し、欺き、他人の血を自分の利益にする肉人形が人間なら、あんたはそれを見通し、阻止できる存在だし、妖怪だからさぞかし疎まれてきただろうぜ」
早苗と神奈子、諏訪子が顔を蒼白にしたが、さとりは穏やかに笑い、信の言葉を聞いているだけだった。
「そこまで悪い人間の特徴ばかり語れるのは、見てきたからですか?」
「ああ、そうだな。俺が見てきたやつらは、金とスキャンダルばかり恐れてた屑野郎どもだった」
さとりの微笑が、春の木漏れ日のように慈愛の深いものになる。
「あなたは優しい人です。私を気遣おうとして、そんな厳しい言葉を言っているのでしょう? おそらくそのことには、早苗さんも気づいていると思いますよ?」
それを着た早苗が、胸を張ってうなずく。反対に信は、耳まで真っ赤になり、その場にうずくまった。
と、そんなときお燐が血相を変えて飛び込んできた。
「さとり様ッ! お空が、お空がおかしいんです!!」
おそらく知らない妖怪の名だろうが、危機が迫っていることは、信にもわかった。
「おいおい、そのお空ってやつが、どうしたんだ?」
「お空さん、本名————霊烏路空さんは、核融合を操る灼熱地獄跡の管理人であり、八咫烏の力を神奈子様から与えられた妖怪です。
とにかく急がないと、この地霊殿ごと吹っ飛ぶことになりますよ!!」
早苗の説明で、恐怖の死神が、鎌を持って来るのが分かった。
「アハハハハッ!! さとりさまぁ……もう何でもかんでも壊したくてたまらないんですよぉ……!!」
お空の目を見て信は理解した。壊れている。 片手の制御棒から、エネルギーがあふれているのが、目を見ても明らかだった。
お空の方は、信の微妙な体温変化と位置から、信が早苗を守ろうとしていることを理解した。 そして————早苗めがけて————撃った。
早苗が弾き飛ばされ、気絶し、倒れる。その光景を見た信は、無理と解っていながら、それでも冷静で居たし、やらねばならなかった。
「(前には結界も張れた、なら!)」
神も降ろせる。それはもう過程や推測ではなく、事実だった。
「万物の長よ、我、この命を賭して請い願う。どうか我に天の神、戦の神の御力有らんことを!!」
信の周りで光が炸裂し、包み込む。そして羽が生え爪が伸び、目つきが鋭くなる。
『ふむ……この少年、神降ろしをすれば、八坂の力がもらえるとでも思ったのか? しかし、面白いな』
信の口が信ではない言葉を紡ぐ。そして、神奈子を見て笑う。
『久しいな、八坂よ』
「おまえは、まさか」
信である何かは、お空を見て高笑いした。
『さて、八咫烏よ、貴様、少し調子に似乗りすぎているようだな』
「あんたは、だれ?」
『知る必要はない、天戦『王の目、主神の目』!!』
それは信のスペルカードではなく、美しく強い。が、同時に使い続けると身を滅ぼす。
「焔星『十凶星』」
お空は弾幕で迎撃しようとするが、しかし押されている。体勢を変えると弾き飛ばされ、叩きつけられる。
信は飛翔し、右手から作った氷弾を、お空めがけて投げつけた。
肩の肉が切り裂かれ、血が飛ぶ。それでも攻撃を止めず、さらに撃とうとする。 その時信は気付いた。お空の背に紫色の霧がまとわりついている。
信は光で霧を祓った。お空が倒れる。
『チクショウ、ココマデカ……!!』
霧が言葉を発し、消えていく。後には信たちだけが残された………。