二次創作小説(紙ほか)

Re: 東方 夢想朱 ( No.3 )
日時: 2016/08/13 09:02
名前: 瑠愛 (ID: qUUtOunA)


それが何なのか、そういうものに慣れていない私にはわからなかったが、その感情はストンと私の中に落ちてきて、そのまま残っている。
そしてその感情を持っているのものは少なからずいる。
私は、昔からの顔馴染みという場を利用して彼女に一番近い存在だと思わせてきた。
だから私は彼女にこの気持ちを明かすことはできない。
軽蔑される。
私は怖い。あの日から、私の中には彼女が一番残っているからだ。
そんな彼女を手放してしまったら、私は私ではいられなくなってしまう。

「……それは幸せが逃げるってことでしょ」
「そんなのもあったかな」

そう言うと、魔理沙は許可なく居間に入ろうとする。
私はそれを止めない。いつものことだから。
仕方ないと、彼女だからと、私はいつも緩い一線を引いてしまう。

「散らかさないでよ」
「わかってるぜ」

ニヤニヤと笑みを浮かべる魔理沙。
私は奥に入り、棚から茶葉と魔理沙の好きな煎餅を取り出す。
お湯を入れ、暖かい蒸気が上がる。
それを持ち、居間に戻ると魔理沙が向かって左側に座っていた。
私はその右、魔理沙の正面に座る。
魔理沙は早速煎餅を一枚とり、バリッと音をたてた。

「ま、これが普通なんだよなあ」
「どういう意味よ」

魔理沙に続いて煎餅とる。
呆然と半目で意味も無さそうに呟く魔理沙の言葉に、私は疑問を返した。

「ついこの間まで異変が長く続いていたからな……何というか、平凡な日常が退屈というか」
「つまり暇ってことじゃない」
「う、うるさい」
「まあでも、魔理沙の言うこともわからなくもないわね」

それでも、私はこの平凡な日常が嫌いではなかった。
魔理沙と過ごす時間は少なからず、博麗の巫女としての仕事に比べれば心を落ち着かせることのできる場だった。
私は彼女との時間が好きだ。
彼女と過ごしていると、心が安らぐ。
そんな唯一の安易の場を、私はすっかり当たり前だと思っていたのかもしれない。
もしも、こんな日常が続けば、それで終わることができるのなら、それはどんなに幸せなことなのだろう。

「…………」
「…………」

そう思ったのも束の間、目の前の光景に私と魔理沙は呆然とする。
そしてお互い顔を見合わせて引き攣らせた。

「なあ、こういうのって客である私に譲るべきだよな」
「あら、お茶も菓子も用意した家主である私に譲るべきよね」

私と魔理沙は笑ってはいるが、とても目が笑っていない。
そう、目の前に入るのはお皿の上に置かれた一枚の煎餅。
二人いるこの空間で一枚という数字は天敵の数字だ。