二次創作小説(紙ほか)

Re: 私だけの勇者様【DQ短編集】 ( No.1 )
日時: 2017/03/28 19:03
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: LaqAx/EG)

DQ8
主人公 × ククール


【世界から勇者が消えた日】


「クク…………ル……………」

 闇に染まった空の下、勇者は小さく呟いた。
 血に濡れた腕が掴むのは漆黒のマント。マントの持ち主ーーククールは、青色の瞳に涙を浮かべて勇者を見る。

「ぼ、く……頑張ったよ…………」

 勇者の血のように赤く染まった瞳から涙がこぼれ落ちた。涙は頬、地面を濡らし、ククールの指先を濡らす。

「……本当によく頑張ったな」

 ククールは服が汚れるのにも構わず、勇者の身を起こした。勇者の手を優しく握り、肩に腕を回す。
 荒々しく息をする勇者を、ゆっくりと落ち着かせさせるように。

「もう辛いだろう? ーー俺が、楽にしてやるよ」

 ククールはそう言うと、目を閉じて小さく口を開いた。
 銀色の髪、漆黒のマントが風に揺れる。少し唇を噛み、決心するとククールは一滴涙をこぼす。それは勇者の肩に落ち、彼の血と混ざる。

「ザラキ」

 ーー勇者の命が終わりを告げた。
 ーー大好きだったよ、ありがとう。そう言うかのように勇者は優しく微笑んだ。


 ーーもっと一緒にいたかった。もっと一緒に戦いたかった。素敵な旅を、ありがとう。


 世界から勇者が消えたこの日、物語は終わりを告げた。


 勇者を失った人々は悲しみ、やがてその地に一輪の花を植えた。


 そして、その翡翠色の花は、いつまでも、永遠に、咲き続けていた。この世界に勇者の物語があるかぎり。