二次創作小説(紙ほか)

Re: 私だけの勇者様【DQ短編集】 ( No.3 )
日時: 2017/04/17 18:40
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: VNx.OVCe)

DQ3
【一つの終わりと始まりと】


 風になびく真っ赤なマント。光に反射される金色のサークレット。希望に満ちた青い瞳の彼は、突然と世界から姿を消した。
 一緒に世界を救うと約束したのに。酷いよ、勇者のくせに約束を破るなんて。勝手に世界を救うなんて。

「馬鹿アレル……」

 私はポツリと呟くと、褐色の地面をじっと見つめる。つい最近まで大穴が空いていたそこは、もうすでに平らで、まるで大穴なんて最初から空いていなかったみたいだ。

 アレルが姿を消したのはつい先日。大魔王を倒すために闇の世界アレフガルドに行き、「先にアリアハンに戻ってて」とパーティメンバーに告げてからそれっきり。なかなか帰ってこないから大穴に寄ったらすでに塞がっていて、もう会うことはできない。

「ティナ、元気出せよ。アレルのことだ、ひょっこり顔を出すんじゃないか?」
「……レイ」

 私の頬を伝う涙を受け止めたのは、同じ仲間でもあるレイだった。その後ろにはリリーもいる。
 二人は私の左右に腰を下ろすと、ため息をつきながら穴が開いていたところを見つめる。

「それにさ、穴だっていつか開くかもしれないし。もう少し待ってみよ?」
「……うん」

 リリーだって辛いはずなのに。彼女も私を励ましてくれる。
 ーーアレルったら、酷いよ。こんな素敵な仲間を置いてっちゃうなんて。

「また下の世界に行けるようになる日がいつか来るさ。そのときは、アレルを迎えに行こう」

 レイの言葉に、私はこくりと頷く。確かに、もう二度と穴が開かないーーというわけでもないかもしれない。いつか必ず開くかもしれない。

「……そうだよね。二人ともありがとう」

 溢れる涙を手で止めながら、私は立ち上がる。
 レイとリリーも立ち上がり、私たちはキメラの翼を使いアリアハンに戻った。旅の始まりとなった、思い出の場所へ。



 ーーそれから、三年後。


 私たちはアレルの帰りを待ちながら、かつて仲間だった商人・ミントが作った街で静かに暮らしていた。
 ときどきアリアハンに帰り、酒場に行き情報収集をするが未だにアレルの情報はない。ーーそれでも、魔王に関する情報もないのでアレルのお陰でこの世界は平和になったのだ。

「すみません、昔この街に住んでた勇者アレルについて聞きたいのですがーー」

 今日もアリアハンに来て、聞き込みをするけど首を横に振るばかり。返事はいつも同じだった。

 ーーそんなある日。私たちが聞き込みをしていると酒場の扉がゆっくりと開いた。扉の隙間から見えるのはボロボロの赤いマント。扉をつかむのは黄色い手袋。……私は確信した。扉に駆けつけて、力強く扉を開ける。

「アレル!!」

 顔も確認せずに、私は抱きつく。……あぁ、この感じ。懐かしい。どんなに汚れていようとアレルだ。

「……ティ……ナ……!?」

 顔をあげて、アレルの顔を確認する。三年離れてたとはいえ、確かにアレルだ。
 私の名前を小さく呟いたアレルは、少し微笑んだあとゆっくりと目を瞑る。

「ねえっ、アレルッ!!」

 そして、崩れるように私にもたれ掛かった。
 嘘だ、嫌だ。せっかく逢えたのに死なないで。脳内が不安で埋め尽くされる。ボロボロの赤いマントを力強く握った。

「……お城に行こう。リリーはおばさんに連絡してこい」
「分かった。アレルのことはお願いね!」

 レイが素早くアレルを背負い、酒場から出る。他のお客さんがなんだなんだと声をあげるけど、泣き崩れる私はその場から動けないでいた。この涙が嬉しいものか悲しいものかは分からない。



「——ん……」
「「「アレルっ!!!」」」

 お城に行き、暫くするとベッドの上でアレルが目を覚ました。
 私とレイたち、そしておばさんたちが同時に声をあげた。アレルはまだ自分がおかれている状況に理解していないらしくて、ゆっくりと口を開く。

「……ティナ、レイ、リリー……母さん、何で、ここに……」

 私たちと顔を合わせながら、アレルは途切れ途切れ、呟くように話す。まだ傷が痛むのか、声はかすれたままだ。

「そんなの、アレルのことが心配だからに決まってるじゃん。待ってたんだから……!」

 アレルの顔を見ていると、自然に涙が溢れ落ちてきた。久しぶりに聞く声。久しぶりに見るアレルの顔。どんなに傷だらけでも、まだ勇者の風格は失っていなかった。



 それからしばらく、私たちはアリアハンで休憩をとっていた。
 アレルが戻ってきてから数週間が経ち、アレルはすっかり回復していて今では普通に歩いて喋れるようになっていた。

 そんなある日、私たち三人は気まずそうな顔をしたアレルに連れられて城内のとある部屋に来ていた。部屋に入るなりアレルは扉の鍵を閉め、流し台から水を出し、私たちの会話が外には聞こえないようにする。

「……ごめん、魔王がまた復活した」

 突然の言葉に、私は思わず生唾をごくりと飲み込んだ。背筋が凍り、冷や汗も垂れてくる。

「アレルが倒したんじゃなかったのか?」
「もちろん、倒したさ。だけど……昨日ギアガの大穴を見に行ったら穴が開いていたんだ」

 ギアガの大穴——それは、この世界と闇の世界を繋ぐ場所だ。アレルがいなくなったあの日、確かに穴は閉じていた。それがまた開いたと言うことは……。不安と恐怖で押し潰されそうになり、思わず身が震えた。

「……俺はまたこの世界を救いたい。また俺に着いてきてくれるか?」
「もちろん。アレルがいないと世界は救えないよ」

 気づいたら私は口を開いていた。アレルが笑顔でありがとう、と言うと自然とこっちの頬も緩む。

 世界を愛し、世界に愛された勇者アレル。そんな彼とまた再び旅ができるなんてどんなに幸せなことなんだろう。

 一つの旅が終わり、また一つの旅が始まった。