二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.4 )
- 日時: 2017/05/22 00:06
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: PQ6W.j/M)
- プロフ: http://uranai.nosv.org/u.php/novel/NatumeOri2/
DQ2
【 決して枯らすまいと 】
ムーンブルク城崩落の知らせを聞いたとき、真っ先に思い浮かべたのは彼女のことだった。
近年はあまり会えていないのだが、ムーンブルク城に魔の手が差し掛かった今、彼女はどうしているのだろうか? 無事でいるのだろうか?
自分とは同い年とは思えないほど冷静で、落ち着いている彼女が王女の国ならまだ大丈夫であろう。そう信じてはいるが、どうも心配だ。
花のように美しい容姿の彼女。無理はしていないだろうか。国を思う心が強いために、自分を犠牲にしてはいないだろうか。
5年前に出逢ったときの、美しい彼女の笑顔が脳内をよぎる。どうか、無事でいてほしい。その笑顔を絶やさないでいてほしい。
数々の不安を抱きながらも、城から一歩足を踏み出す。どうか間に合いますように、そう願いを込めて歩き出した。
*
——これは、つい先日の出来事だった。
「ローレシアの王様! 大神官ハーゴンの軍団が、我がムーンブルクのお城を……!」
王室の扉が勢いよく開き、一人の傷ついた兵士が俺たちの前に現れた。どうやら鎧を見るからにムーンブルクの兵のようだ。彼は自身が傷だらけなのにも関わらず、荒々しく息をしながら口を開いた。
「こ、このままでは、や、やがて、サマルトリアもローレシアも……う……うぐっ!」
ーーそれだけ言うと、彼は息を引き取った。彼の口から出た真っ赤な血が絨毯を汚す。それを見て改めて今世界に何が起こっているのか理解した。邪神の使徒・大神官ハーゴンのため世界の平和が乱れようとしているのだ。
「王子よ。そなたもまた、勇者ロトの血を引きし者。 その勇気と力で、邪教の使徒・大神官ハーゴンを打ち 滅ぼしてまいれ! 」
王座に座った父上が、俺に剣を渡しながらそう言った。剣を受けとり、生唾を飲み込む。じわじわと服に汗が染み込み、思わず身震いをした。心臓が大きな音を立てて、恐怖と不安に押し潰されそうになる。
「サマルトリアとムーンブルクには、同じロトの血をわけた者がいるはず。 彼らを見つけ、仲間にするがよい。 ゆけ、王子よ!」
ーーそれでも、誰かが平和を取り戻さなければならないのだ。かつて世界に光を取り戻した偉大なる勇者ロトのように。
剣を握りしめて、大きく深く息を吸う。
どうか、世界が平和になりますように。そしてーー彼女が無事でありますように。
*
「いやー、探しましたよ!」
リリザの町に着くとやっとのことでサマルトリアの王子が現れた。ヘラヘラ笑っている彼は、俺がここにつくまでどんなに苦労したのか知るよしもないだろう。
探したのはこっちだ、そう文句を飲み込みながら俺は彼ーーカインとの再会を果たした。
「さぁ早く行きましょう。王女を探しに行くんでしょ?」
気づくとカインは既に扉の前にいた。どうやら本気で自分が探しまくったと思ってるらしく、俺に休む暇を与えようとしない。
「ーーあー、はいはい」
適当に返事をして、俺はカインに続いて町を後にした。
*
二人でローラの門を通り、城の近くにあるであろうムーンペタの町を目指す。ローラの門と言う名前はかつて竜王を倒した勇者とローラ姫がここを通りローレシアとサマルトリアを築いたため、美しき姫の名前がつけられたと言う。とはいえ、周りには苔が生えているジメジメとしたとした洞窟で、名前に相応しくないのだが。
「ほら、ここがムーンペタの町。賑わっているでしょう?」
俺が先頭だったのだが、町に着くなりカインはいきなり先頭に立った。ーーとはいえ、二人旅なのでそんなに関係はないが。
人と人が出会う町、ムーンペタはとても賑わっていて、傷だらけの俺たちが場違いのような感じがした。ムーンブルク城は崩壊してしまったが、この町は大丈夫だったのだろう。先日城に来た兵士と同じ鎧を着用している兵士がそこらにいた。
何故だか湖畔にいた子犬が後を着いてきた。寂しいんじゃない、とカインが言うようにクーンと鳴き、俺たちの後ろを離れようとしない。ーーやっとのことで離れたと思えば、垂れた耳をいっそう垂らし静かに寂しげに鳴いていた。
「宿屋とってくるね」
カインはそう言い宿屋の方へ走っていった。……俺は情報収集でもするか。
どこか抜けてる感じのするカインだが、どうやらできるときはできるようだ。いつもこんな感じだとこっちも助かる……何て言葉は、閉まっておこう。
*
「あぁ、よく寝た」
ふわあぁ、と大きなあくびと伸びをしてカインがやっとベッドから身を起こした。俺は既に着替えなどの準備を済ませており、剣の素振りもバッチリだ。後はカインの準備を待つだけなのだが……彼はゆっくりとのんびりと行動する。王女が心配ではないのだろうか? 俺は少しでも早く彼女に会いたいのに。
「ーーお待たせ。お城に向かおっか」
15分くらいした後、カインが準備を終わらせた。
軽くため息をつき、荷物を確認して宿屋をあとにし俺らはムーンブルク城へと向かって歩き始める。城が近づくにつれだんだんと不安になっていたのだがーーどうやらその不安が的中したようだ。
「なんだこれ……」
城は崩壊していて思った通りだ。冷や汗が垂れ、ごくりと唾を飲み込む。不穏な空気が漂い、廃墟と化したここは魔物が住み着き死にきれなかった魂が漂うがーーどうやら、ここに探している王女の姿は無さそうだ。
ほっとして、思わず安堵の息を漏らした。
「……東の沼地へ行ってみよう」
今度は真実を写し出すラーの鏡があると言われているここから東の沼地を目指して歩き始めた。
*
ラーの鏡を探しだし、再びムーンペタの町に戻った。湖畔に行き、あの子犬を探す。ーー思った通り、子犬はまだそこにいた。俺たちの姿を見ると今度は嬉しそうに鳴き、足に擦り寄ってきた。
ーーそれを良いことに、俺は持っていたラーの鏡を子犬へ向ける。
刹那、鏡から眩しい光が放たれて子犬を包んでーー。
「ああ、元の姿に戻れるなんて……」
次は煙に包まれたかと思えば、鏡の前に先程の子犬はいなくずっとずっと探し求めていた彼女が立っていた。
「マリア!」
その瞬間、手に持っていたラーの鏡が跡形もなく消え去った。思わず彼女の名前を叫んで、俺は彼女に抱きついた。
「……アレン……!? それにカインも……!! 二人とも、私を探してくれたの?」
「……もちろんだ。ずっと心配だった。会いたかった」
あぁマリア。愛しい姫。本当に無事で良かった。
更に強く抱き締めて、思わず頬を緩める。幼い頃見たふわふわの金髪はそのままで、ピンク色の頭巾も汚れひとつ付いていなかった。
「……私も、あなたたちの仲間にしてくれる?」
「もちろん。一緒に戦おう」
ムーンブルク城を襲い、王女に呪いをかけた軍団なんてすぐに倒してしまおう。
ーーきっと、この三人ならうまくいく。俺たちはロトの子孫なのだから。
ーー力を合わせ、共に戦おう。
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URLにてこの続き(>>018とは別のもの)を執筆しております。ゲームのストーリーに沿って沿っていくつもりなのでそちらも是非…!!