二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.10 )
- 日時: 2017/04/20 23:51
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: ESDOwl5l)
【勇者と呼ばれた日】
ーー少し昔話をしようか。
世界は幾度なく闇に包まれた。その度に勇者が現れ世界を救った。世界を救った勇者たちはやがて、世界に見捨てられ消えてしまった。
どんなに世界が平和になっても、再び闇に包まれる。君は本当にこの世界を救いたいか?
この残酷で、醜い世界を救いたいのなら応援しよう。ただ、これだけは守ってほしいんだ。
ーー決して自分の救った世界に絶望しないこと。
今まで消えてしまった勇者たちは皆、自分の救った世界に絶望してしまったんだ。本当に世界を救いたいなら、約束だよ。
*
「……やぁ11番目」
暗闇の世界アレフガルドに、一人の青年の声が響き渡った。名はアレル。かつてこの世界を救った“勇者”であった。
11番目ーーそう言われた青年が、くるりとアレルの方を振り返る。青色の瞳は既に輝きを失い、悲しみに満ち溢れていた。
「お前は本当に世界を救いたいか?」
アレルの問いには答えず、彼はただこの世界を見つめるだけであった。アレルの瞳は赤く染まり、真っ赤なマントも風になびく。正義の色だとされたマントはボロボロで、深い闇の世界によく似合っていた。
「世界に見捨てられる覚悟がお前にはあるか?」
大きく目を見開いて、アレルは彼に一歩近付いた。アレルの威厳に思わず身がすくむ。足が地面に貼り付いたように動かない。
「……この醜い世界へ、ようこそ」
勇者様、君を歓迎するよ。
その瞳は血のように赤い。”勇者“と呼ばれた頃の希望や輝きはなくなっていた。サークレットの青い宝石が月光で怪しい光を放つ。アレルの足元に乱雑に置かれた剣に埋め込まれた宝石は輝きを失っていた。
ーーやがて、彼は世界を救う勇者となった。
アレルに歓迎された彼はーー自分の救った世界に絶望し、そして世界に見捨てられた。
勇者と呼ばれたあの日の、あの勇気が今もあったのなら。
そう考えてももう遅い。人は勇気ある者を勇者と呼ぶ。勇気がなくなった彼はもう勇者じゃないのだ。
ーーめでたしめでたし。