二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.13 )
- 日時: 2017/04/22 18:02
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: r7vnrseg)
DQ4
勇者 × シンシア
【思い出の地で】
ーーあと何度泣けば、君は目を覚ましてくれますか。
*
ーーいつまでも一緒よ、ソロ。
彼女は覚えているだろうか。いつまでも一緒と言っていたことを。
……でもそんなの妄言だ。いつまでも一緒だなんて。叶うはずがない。
「……シンシア」
地面に転がる羽帽子を見て俺は彼女の名を呟く。かつては花畑だったこの地は、見るも無惨な姿になってしまっていた。花は枯れ、荒れ果てた地に思いでの品だけが転がる。
羽帽子を拾い上げると頬を何かが伝った。冷たいそれは頬を濡らし、羽帽子へ落ちていく。唇を噛み締めても、ずっと溢れ出てくる。
「……戻ってこいよ」
消え入りそうな声で呟くが、それが叶わないのは分かっている。だけど、この地に再び彼女が戻ってくるような気がするのだ。緑が溢れ、花畑の真ん中で、また逢えるような気がするのだ。
……俺は何て馬鹿なんだろう。どんなに願っても想っても彼女は帰ってこないのに。
彼女の笑顔と風に揺れる桃色の髪は、花のように美しかった。いつも被っていた羽帽子も良く似合っている。彼女はいつも花の香りがして、俺のことを大切にしてくれた。俺はそんな彼女が大好きだった。自分の犠牲になってしまったことを、今でも悔やんでいる。そう思ってもどうにもならないのは知っているが、どうしても彼女の命を奪った魔王だけは許すことはできなかった。
いつまでも一緒な筈だったのに。どうして死ななきゃいけなかったんだ。彼女やこの村に罪はない。殺すなら俺だけを殺せば良かったのに。
ーーソロ。
ふと、彼女の声が聞こえたような気がした。
慌てて後ろを振り向くが、もちろんそこに彼女はいない。
風がそよぎ、意味もなく足元を見てみると一輪の花が咲いていた。名前は分からないが、荒れた地に咲くその桃色の花はどこか彼女を思い出させた。
「シンシア」
先程の声に返事をするように、彼女の名を呟く。
俺の言葉に答えるように足元の花が風に揺れた。どうして一輪だけ咲いているのだろうか。そんな疑問を抱くがやっぱり花は彼女に似ていた。
彼女が得意とした、自分の姿を変えるモシャスと言う呪文。もしかしたらその呪文で花に姿を変えているのではないだろうか。ーーこんなことを考えてしまうが、彼女はこの呪文を覚えていたせいで犠牲になっていたのだ。勇者の姿にならなければ、彼女はまだここにいた。
花を見つめていると、彼女の優しい声が聞こえてくるような気がする。再び頬を涙が伝い、今度は花びらの上で無くなった。
あと何度泣けば良いのだろうか。彼女が帰ってくる日はいつになるのだろうか。頼むから、早く目を覚ましてくれ。そう思いながら、もう一度彼女の名を呟き羽帽子を抱き締めた。