二次創作小説(紙ほか)

Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.15 )
日時: 2017/04/26 23:17
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: ejGyAO8t)

DQ9
【君が教えてくれた世界の変え方】


 君の世界と僕の世界、同じ世界の筈なのに。どうしてこんなにも違うのだろうか。

 僕の世界はいつも闇に染まっている。絶望と憎悪にまみれて、救いようのない世界だ。
 彼女の世界は光輝いている。きっと、彼女自身が希望に満ちているからだろう。

「ナイン」

 ふと声がして、振り返った。
 ーーそこに立っていたのは、かつて一緒に世界を守っていたリンだった。背中には白く美しい翼があり、頭の上の輪も光輝いている。身体こそ透けているが、僕には彼女がリンであることが分かった。

「無理しすぎは良くないよ」

 僕が最近魔王を倒すためにたくさん戦闘をしていることを、天使界から見ていたのだろうか。それとも、僕の心を見透かしたのか。
 どちらにせよ、リンの言うことは最もだ。最近僕は疲れているのかもしれない。だから世界が醜く見えるのか。

「世界を変えることはできるんだから」

 彼女は天使界があるであろう空を見つめながら口を開いた。桃色の髪が風に揺れて、その度に光輝く星屑が宙を舞う。
 綺麗だな、と僕は思う。昔の自分もこんな姿があったのだろうか。ーーいや、あったとしても綺麗な星屑は僕には似合わない。

「変えるって……僕にはそんな力何てないよ」

 そう言いながら、リンと同じように空を見つめた。綺麗な青色だ。再びこの上に戻ることはできるのだろうか。

「何言ってるの。ナインならできる。だって、世界を救おうと頑張ってるじゃない」

 そうでしょ?とリンは小さく首を傾げた。
 ーーそんなこと言ったって、僕は救いたくてこの世界を救おうとしてるんじゃない。僕は只の守護天使だったのに。どうして人間になってまでこの世界を救わなきゃいけないんだ。こんな醜い世界に、何の価値もない。



 ーー世界世界って煩いなぁ。そんなに世界が大事か?



 ……突然、脳内が、誰かの声で埋め尽くされる。……違う。これは僕の声だ。僕自身の声だ。
 この世界が大事か何て。そんなの僕が一番分かってるじゃないか。大事じゃないに決まってる。一時は守ろうと気持ちもあったけれどそんな気持ちはもうない。
 世界が勝手に壊れたんだ。そして僕を見棄てたんだ。

「私はね、いつもこの世界がこんな風になったら良いなって考えてるの」

 望んだってなにも変わりやしないのに。

 ーーあぁ、まただ。リンは僕の事を心配してくれてるのに。僕の世界を変えようとしてくれているのに。どうして僕はこんな考えしか出来ないのだろうか。人間になってしまったから?

 否、それは違う。
 僕は天使だった頃もこんな感じだったんだ。守護天使でも、人間でも、これは変わらないことなんだ。

「そしたら、素敵な世界になるように自分も頑張れるでしょ?」

 少し間をおいて、リンが口を開いた。
 ……確かにそうかもしれない。望んでも叶わないなら、自分から行動に移せば良い。少しでも、ほんの少しでも変わるかもしれないんだ。少し変わったところで僕には何の変化もないかもしれないけど、リンのようになればなにか変わるのではないだろうか。

「……そうだね。僕も頑張ってみるよ」

 ーーこの世界を変えられるように。君が教えてくれたように。


 気づいたら隣にリンはいなくて、地面には色とりどりの星屑が散りばめられていた。



その後の話【天使と呼ばれて】>>012