二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.17 )
- 日時: 2017/05/10 18:20
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: mazIWFF0)
DQ8 * 主姫
【 夢見の花畑 】
「エイト」
色とりどりの花に囲まれた姫様が僕の名を呼ぶ。
頬を少し赤らめて、僕に手を差し出した。それはまるで、幼い頃お城で遊んだときのようだ。10年前の光景と重ねられて、思わず僕の頬も緩む。
——世界の果ての、花畑。 色とりどりの花が咲き、青く清んだ空によく映える。青いマントをなびかせながら立つ姫様はまるで花の女神のようで。風が吹くと花弁が舞い、昔お城に飾られてた綺麗な絵画のようだった。綺麗だね、と姫様と二人だ見たそれは今でもよく覚えている。
「あなたのおかげで、ミーティアは今も幸せです」
花畑の真ん中で姫様は口を開いた。それは、呪いで姿を変えられてしまった今も、か。
今僕の目の前にいる姫様はもちろん人間だ。不思議な泉を飲んだ、少しの間だけだけど。
——あぁそうだ不思議な泉。泉の水の効果はどれくらい持つのだろうか。普段、旅の途中に寄るときは姫様が話すだけで終わってしまうのだけど今日は妙に長い。だから姫様が来たいと言っていた此処に来たのだけど。もうこの姿に戻れないのではないだろうか、と思いもしなかった不安を感じる。
「こうして二人きりでお話しできるのも……本当に久しぶり。小さい頃お城のお庭で遊んだのを覚えてる? まるであのときに戻ったみたいだわ」
本当に、昔に戻ったみたいだ。久しぶりに見る姫様の笑顔は愛らしく、足下に咲いている花で花冠を作り頭に被せたらまた昔に戻れるのではないだろうかと思えるほど。昔は二人でたくさん遊んだっけ。小さかった僕たちにはお城の庭はとても広く感じて、まるで世界に二人だけになったみたいだった。
「この世界で二人きりになれたら良いのにね」
姫様は空を見上げながらポツリと呟く。
幼い頃のように、周りには僕たち以外何もない。この広い世界で二人きり。見渡す限りの世界がある。いつか誰かがそんなことを言っていた。確かにそうなのかもしれない。見渡す限り、僕らの世界は広がっている。たった二人きりだとしても。
「……エイトは、ミーティアと二人きりじゃ嫌?」
「そ、そんなこと! 僕は姫様と二人きりでも良いですよ」
そんなことを望んでいる自分がいる。呪いがかけられたって、解けなくたって、この気持ちは変わらない。
「あなたは本当に優しいのね。……ねぇ、ひとつお話をしてくれる?」
花畑に二人で寝転がると、姫様がそう口を開いた。
この光景も見覚えがある。二人で、伝説の勇者の物語を読んだことは絶対に忘れない。
「昔々、アリアハンと言う国に偉大なる勇者オルテガと言う男がいました——」
昔の記憶を頼りに僕は伝説の勇者の話を始める。
——勇者オルテガは戦いの末火山の火口に落ちて命を落としてしまいました。しばらく月日が流れ、オルテガの息子が誕生日を基に旅立ちます——。
オルテガの息子——後にロトの勇者と呼ばれるようになる青年のような勇気が僕にはあったのだろうか。お城で近衛兵として働き、呪いをかけられ、世界を旅した。それでも未だ姫様の呪いは解けない。今は人間として僕の目の前にいるけど、泉の水の効果が切れてしまったらきっと再び姿を変えられてしまう。
「……僕にもそんな勇気があったらな」
思わずポツリと呟いた。世界を救う勇気があったら、僕はすぐにでも呪いを解けるのに。
「……エイトはいつだって私の勇者様よ。小さい頃からいつも守られてばっかり。ミーティアはそんなエイトが近衛兵で幸せですよ?」
——僕はいつだって勇者、か。
勇気ある者に送られるその称号は、僕に似合うのだろうか。勇者と名乗っても良いのだろうか。こんな肩書き、僕には勿体ない。
……それでも姫様が言うなら。僕が勇者で、近衛兵で幸せなら。もうしばらくこのままでいよう。
「あ、そうだ姫様——」
泉の水のことを聞くために口を開き姫様の方を向こうとした瞬間——僕の目の前に姫様の姿はなかった。
くるりと周りを見渡すが、花が咲き誇っているだけで姫様の姿は見当たらない。隠れるような場所はもちろん無いのに、いったいどこへいってしまったのだろう。
「ひめさ——っ!!」
もう一度呼ぼうとしたとき、突然激しい頭痛に襲われた。思わず顔を歪めてしまう。
それでも彼女を探さなければ。僕は近衛兵だから。——幼い頃、姫様とかくれんぼをして遊んだのを思い出す。すぐに見つかっちゃった。さすが未来の勇者様!姫様はそう言って愛らしい笑顔を見せてくれて。何処かの絵本で勇者はかくれんぼが苦手だと聞いた気がする。——それでもお姫様はかくれるのが上手なんだって。あぁ、本当にどこへいってしまったのだろう。
——もう一度立ち上がろうとしたとき、再び激しい痛みに襲われて僕は花畑の上に倒れこんだ。
* *
「——ト! エイト!」
気づくとそこは花畑の上ではなかった。ふかふかしてる、ベッドの上。目を開けると仲間達が心配そうな顔で僕の名前を呼んでいた。
「目が覚めて良かった。朝になっても起きないからビックリしたのよ」
ゼシカの言葉に、僕は違和感を覚えた。朝になっても起きないなんて、そんなはずはない。第一僕は姫様と花畑にいたのに。
「姫様もトロデ王もずいぶん心配してたわよ」
「……そうだ、姫様は!?」
ゼシカが運んできた紅茶を受け取って、僕は口を開いた。姫様は? トロデ王は? きっと呪いが解けて人間の姿に戻れてるはずだ。
「……? いつも通り、街の外にいるわよ?」
不思議そうな顔をしてゼシカが答えた。
——いつも通り、か。じゃああれは僕の見たただの夢で二人の呪いは解けていなかったのか。
昔の光景と重なったのは、ただの夢だから。泉の水の効果があるときしか話せなかったら、僕は最近の姫様をよく知らない。
——見渡す限りの世界を旅して、勇気と言う名の剣を振り、呪いを解いてまた逢いに行こう。
今度は夢じゃなくて現実で。この世界で二人きりになれるまでずっと。