二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.18 )
- 日時: 2017/05/14 16:56
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: iLRtPlK2)
DQ2【 決して枯らすまいと 2 】
「か、体が動かない……どうやらハーゴンが僕に呪いをかけてるらしい……」
やっとのことで王女が仲間になり、ベラヌールの街に着いた矢先のことだった。宿屋に止まると翌日カインが呪いか何かで動けなくなってしまったらしい。
「呪いって……この時期にか……?」
俺は呆れたようにため息をついた。もちろん心配する気がない訳じゃない。だが、やっと船が手に入り安定してきたところなのに……いつ呪いが解けるか分からないこいつを此処に置き去りにして、マリアと二人で旅をするのは危険すぎる。
「……確か、ここから東で世界樹の葉が採取できると聞いたことがあるわ」
「……世界樹の葉……?」
——世界樹の葉。名前は聞いたことがある。死人をも蘇らせる不思議な力を持つこの葉は世界中を探してもごくわずかしかないらしい。
ハーゴンの呪いなら、この葉を使えば解けるのではないだろうか。俺はそう思うとマリアが持っている地図を確認した。
「結構遠いけど……二人だけで大丈夫かしら」
マリアが心配するのも無理はない。思ったより此処ベラヌールから世界樹の葉が採取できると言う東の小島までは、船で行くにもかなりの距離がある。海は特に魔物の群れがたくさん襲いかかってくるので俺と二人だけでは少し危険だろう。
「……行ってすぐに帰ってこよう。カインを長い間放っておくのも危険だからな」
ハーゴンのことだ、仲間がいないのを良いことに呪いを悪化させたりするのではないだろうか?そうなると二人だけの旅よりもっと大変なことになる。それだけは避けたかった。
「そうね。じゃあカイン、すぐに戻ってくるわ」
「……ううっ……多分僕はもうだめだ……僕に構わず行ってくれ!」
やられたのが自分一人で良かった、なんて。抜けてるところもあるあいつにもこんな一面があるのか。
幸い、カインが寝込んでる間の宿代は免除してくれるらしいので俺たちはさっそく街から出て船を出し、東の小島へと急いだ。
*
「……ここか」
長い間船に揺られ、魔物と戦闘をして来たのでもう心身共にボロボロだ。小島なのであまり魔物は出ないらしい。空がだんだんと暗くなるのを感じ、今夜はここで寝泊まりすることにした。
「……ごめんな、寒くないか?」
旅をしているとはいえマリアは年頃の女の子。こんな夜遅くまであまり休憩も出来なかったのだから、こんな地面で寝るよりは街の宿屋で寝たいに決まっている。
だけど彼女はそんなことを言うはずもなく、木の根元に寄り掛かった。
「大丈夫よ。それよりアレンは? 私の代わりに攻撃したりしてくれて……足手まといでごめんね」
「俺は全然大丈夫だ。……そんなこと言うなよ。俺はマリアがいてくれて良かったと思ってるよ」
もしカインと二人だけの旅だったら。途中で一人になってしまい、遠くの小島まで行くのは無理だったかもしれない。呪文を使うことができない俺一人で魔物の群れに立ち向かう勇気はない。
「ありがとう。ふふっ、二人で寝るのって何だか不思議な気持ちね」
マリアが急にくるん、と体を俺の方に向けたので、思わず目が合ってしまった。恥ずかしさで少し微笑みながら、俺は視線を夜空へ向ける。夜とはいえ月のお陰で少しは明るい。
「アレンと旅ができて良かった。貴方がいなかったら私はずっと犬のままだったかもしれないもの」
「ずっとって……カインが助けてくれるかもしれないぞ」
——だってカイン、アレンほどしっかりしてないんだもの。
ふふ、と微笑みながらマリアは口を開いた。確かに——あいつのことだ、ラーの鏡を手に入れてもムーンペタで犬状態のマリアを見つけても、そのままじゃれて遊んでしまうに違いない。……もしくは、犬状態のまま二人きりで旅をするか。カインのことだから充分有り得る。
「そうだな。……じゃあ今夜はもう寝るか」
「そうね、明日も早いし。おやすみなさい」
*
「アレン、これが世界樹の葉よ!」
翌日、目を覚ますと直ぐに俺たちは世界樹の葉を採取した。
マリアが手に持つそれは、思ったよりも大きくて、葉っぱといえども艶があり輝いていた。これなら死人を甦らせたり、呪いを解いたりできるのも納得できる。
「思ったより大きいんだな。——それじゃあ行くか」
マリアが葉をポシェットの中に入れるのを確認すると、船の帆をあげて、西にあるベラヌールの街を目指し始めた。
*
「カイン!」
ベラヌールの町に到着すると、俺とマリアは直ぐに宿屋で寝込むカインの元へ駆け寄った。
「アレン……マリア……」
苦しそうに名前を呼ぶカイン。どうやら間に合ったようだ。すぐ近くによると、マリアは直ぐに世界樹の葉を取り出す。
——世界樹の葉を持ってこれたのは良いが、どうやって口に含むのだろうか。もしかしてそのまま食べるのか?
「カイン、口を開けて」
——マリアはスプーンに緑の物体……恐らく世界樹の葉を乗せてカインの口に含ませた。いつの間にすりつぶしていたのだろうか、何て思っているとカインはそれを飲み込んだようだ。マリアの嬉しそうな弾んだ声と、カインの笑い声が聞こえてきた。
「カイン、無事でよかった…!!」
「良かったな。俺達が世界樹の葉を持ってきたお陰だな」
「ありがとう。心配をかけて悪かったな」
久しぶりに見るカインの笑顔に、思わず俺の頬も緩んだ。カインはあくびをしながらベッドから身を起こし、立ち上がる。ボサボサの頭を手で少し整えると、直ぐに宿屋ので入り口に向かった。
「二人とも、さあ行こう!」
——また直ぐ仕切る。俺とマリアは呆れながら微笑むと、カインの後を追った。今度は三人で船に乗り、北にあるというテパの村を目指した。
*
テパの村に着き早速情報収集を始めた。村の入り口にいる兵士によるとこの村には羽衣作りの名人——ドン・モハメがいるらしい。気難しい性格らしいが、マリアが気になるというので後日会いに行くことにした。
マリアによるとドン・モハメが作る水の羽衣は聖なる織機と雨つゆの糸で出来ているらしい。守備力も高く、呪文や炎のダメージも軽減されるという素晴らしい羽衣だ。
「なーアレンー。今日はもう遅いし、早く宿屋に行こうよ」
いつもは遅いくらいなのに、元気なときはこんなことを言うのはもう慣れてしまった。少し外が暗くなってきたのもあり、仕方なく俺たちは宿屋で休むことにした。
*
「カインおはよ——ってどうした!?」
翌日目を覚ましてまだ寝ているカインを起こそうとしたところ、思わず驚き朝から大きな声を出してしまった。別にそんな大したことではないのだが——カインのやつ、風邪を引いている。顔を真っ赤にさせながら咳をしていた。
俺はすぐにマリアを呼び、今後のことについて話し合う。
「せっかく呪いが解けたのに……」
マリアの言うことはもっともだ。せっかく二人で世界樹の葉を採取しに行ったのに、次の場所で風邪を引いてしまうなんて。
「全く……じゃあしばらく此処にいるか」
カインの風邪がうつるのは避けたいので宿屋の主人に部屋をもうひとつとれるか聞いてみたのだが、生憎とれないらしくて俺とマリアが同室になってしまったのだが仕方がない。
「うぅ……すまない……ゴホッ……」
どうして再び寝込む破目になってしまったのだろうか。だが愚痴を仕方がないので、俺とマリアも今日は宿屋で休むことにした。