二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.19 )
- 日時: 2017/05/26 19:32
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: ejIoRkVP)
DQ3.8
【 彼の"伝説"の第零章 】
——かつて、大国アリアハンに、ひとりの英雄がいた。 偉大なる勇者、オルテガである
彼はとても勇敢で、世界の平和を取り戻すためたった一人で魔王に立ち向かいましたが、その戦いの末火山の火口に落ち命を落としてしまいました。
そして月日が流れ、嘆き悲しむ人々を救おうとオルテガの息子が16歳の誕生日を基にアリアハンを旅立ちます。
——仲間と共に冒険に出た青年でしたが、やがて彼もまた父親のオルテガと同じくアリアハンに戻ることはありませんでした。
彼は大魔王を倒し世界の平和を取り戻しました。しかし、世界は彼を元の世界には返してくれませんでした。
そんな彼は後にロトの勇者と呼ばれ、彼らの冒険は伝説へと変わっていきます。
——平和な世界アレフガルドが再び闇に包まれたとき、ロトの子孫は立ち上がるのです。
精霊ルビスの加護を受け、再び光を取り戻すため。
そんな彼らを人々はこう呼びました。勇気あるもの——勇者と。
* * *
「面白かったわ。ねぇエイト、この続きはないの?」
すっかり春の花が咲き誇ったトロデーン城の裏庭で、今僕らが読んでいたのは、遥か昔の勇者の話。分厚く金色の装飾が施されたその本は、昔からお城にあり幼い頃もたくさん読んだ記憶がある。僕もこんな人になりたい、何て思っていたっけ。
「続き——確か、竜の王に立ち向かう話があったはず。探してみましょうか」
この話の続きは、確か平和になったアレフガルドが再び闇に包まれてロトの子孫が一人で竜の王に立ち向かい拐われた姫を救いだす話、だった気がする。
幼い頃ここで姫様と過ごした日々を思い出しながら、僕は膝に置かれた本を閉じた。裏表紙には何かの紋章が描かれている。
「そうね。——あっ、でもごめんなさい。今日は少し用事があって……また誘ってくれる?」
「もちろんです。では、またの機会に」
せっかくの機会だったのだが、姫様の用事あるのなら仕方がない。裏庭から城内へ戻り、姫様は王室へ、僕は本を返すため書物庫へと足を向けた。
「あ、あった」
古ぼけた本が並ぶ書物庫で、一人呟きながらロト伝説について記された本を探す。諸説はたくさんあり、どれが本当なのかは勇者ロトにでも会わない限り分からない。僕はその中でも銀色の装飾が施された、今さっき読んでいた本と似た感じがする物を手に取った。その本はあまり開かれていないのかページの端が黄ばみ、ところどころ茶色い汚れもついていた。先程の本も読まれていなかった筈なのに、この本だけ他の本よりも酷く汚れているように感じた。
書く時期が違ったのかな——何て思いながら本棚から離れ、机の上でその本を開く。乾いた音がして表紙をめくると、そこには一列、文字が書いてあった。読めないけれどきっと、昔習ったルーン文字というやつだろう。最後にローマ数字でⅠと書かれたそのページをめくり、僕は早速そこに書いてある文字を目で追った。
『 ——古のアレフガルドは閉ざされた闇の地、絶望が支配する国であった。
伝説の勇者ロトが、神より授かりし光の玉をもって闇の魔王を倒し、邪悪な魔物を大地に封印した。
このときより、永き平和がこの地に訪れたという。』
最初のページはこんなことが記されていた。先程読んだ本の続きはまさにこれのことだろう。
持ち帰ろうと本をかかえたとき、ある一冊の本が目に止まった。金と銀の装飾が施された、今持っている本と似た感じのするものが机の端に置いてあったのだ。
姫様は此処には寄らないし、一体僕以外の誰が此処に来てこの本を読んだのだろうか。表紙に記された紋章を見て、思わず持っている本と見比べる。間違いない、これは確かにロトの紋章だ。
ロト伝説について記された別の本だろうか? しかし、他の本に比べて妙に綺麗だ。まるでつい昨日、書かれたかのように。
この伝説は遥か昔のことで、それについて記された本はたくさんあるのだから今更書く必要もない。きれいな表紙をめくるとそこにはまたルーン文字が書いてあり、最後にローマ数字で今度はⅡと書かれていた。
息を呑み、持ってる本を机に置くとページをめくる。そこには同じような書体でこう記されていた。
『 ——古の昔、ロトの伝説あり。
ロトの血を引きし若者、暗闇の支配者・竜王を倒し、 アレフガルドを救う。 その若者、ローラ姫なる女性を連れ、この地に来たる。
この2人こそ、ローレシアをつくりたる者なり——。
——これは、ここローレシアの国に古くから伝わる言い伝えです。
ローラ姫はその後、3人の子供をもうけ、兄王子には、ここローレシアを。 弟王子には、サマルトリアの地を。 妹王女には、ムーンブルクの地を与えました。
——こうして、ロトの血筋に結ばれた、3つの国には、100年の平和が続いたのでした。』
……驚いた。ロト伝説にはまだ続きがあったなんて。
ついでにこの本も持っていくことにしよう。きっと姫様が喜ぶはずだ。そう思い本を二冊抱えて書物庫を出る。
自室について机の上に本を置き、ふと窓の外を眺める。
もうすでに暗くなっていて、まるで闇の世界みたいだな——何て思いながら僕はベッドに移るとそのまま深い眠りについた。
*
翌日、僕は目を覚ましいつも通り身支度を済ませると、昨日書物庫から持ってきておいた本を二冊手に取りいつもの裏庭へ向かった。
風が心地よく、姫様が来るまでの時間僕は銀色の装飾が施された本を手に取る。ロト伝説の二番目の話、ロトの子孫が竜の王に立ち向かう話だ。
「……アレフガルド……?」
昨日の本にも出てきていたこの地名。同じという辺り、どうやら本当に数百年後の話のようだ。
ルーン文字は習っていたけれどもうとうに昔のことだ。復習をしないまま年月が流れてしまったのでもう読むことはできない。だけど、僕でも読める字で書かれたページを見つけてすぐに目で追った。
食い入るように、僕は本の内容に釘付けになった。再び闇に包まれたアレフガルドをロトの子孫が救う、そして囚われた姫をも救うと言う何かの物語のような感じの話に、僕は今にでもこの世界に入り込みそうになっていった。
——勇者ロトはアレルという名前らしい。真っ赤なマントを身にまとい、青い宝石がついた金色のサークレットをつけている。本に描かれている肖像画を見ると、いかにも勇者、と言った感じだった。その子孫——今回の話の主人公は青色の鎧を装備しており、真っ赤なマントがよく似合う。囚われたラダトームの姫君は黄色のドレスでいかにもお姫様、と言った感じだ。
——ガサガサッ
ふと、何か葉の擦れる音がした。姫様が来たのかと思ったけれど彼女はこんな音を出してまで無理矢理入っては来ない。第一、裏庭とは言えきちんと出入り口は用意してある。葉の間から来るなんて、猫か何かの動物だろう。
「……あれ、8番目」
——気を取り直して本に目を向けたその瞬間、後ろから男性の声が聞こえた。驚きながらも振り向くとそこには、先程本で見たばかりのロトの勇者——アレルが立っていた。僕のことを指差す伝説の勇者を呼び捨てにしてもいいのかと思うけど、年齢は僕の方が上だし——何て下らない理由をつけて良しとしよう。
「8番目? その、ロトの勇者がここに何か用が?」
何が8番目なのだろう。そしてなぜ彼がここトロデーン城に、しかも裏庭にいるのだろう。時代だって世界だって違うはずなのに。
「……君はまだ知らないのか」
アレルはそう言い、白い歯を出し笑いながら軽くジャンプし植木を飛び越える。僕は本を閉じて置くと立ち上がり、アレルの方に歩み寄った。金色のサークレットに青い宝石、正義の色をした真っ赤なマント。やっぱり彼こそが伝説の勇者で間違いなかった。
「いつかこの先、君にとって嫌になること、生きたくなくなることが起こるかもしれない。——いや、実際起きるんだけど……」
僕の問いに、アレルはゆっくりとたどたどしい言葉で答える。彼が何を言っているのか、さっぱりわからない。実際起こる、なんて彼は予言者なのだろうか。
未だポカンとしているであろう僕の顔を見つめながら、アレルは再び口を開く。サークレットの宝石が太陽の光に反射し、美しく輝いていた。
「そんなことがあっても挫けないでほしい。決して世界を終わらすな。滅ぼすな。必ず救い出せ」
青が混じった黒色の真っ直ぐな瞳をした勇者は、命令口調でそう僕に言い聞かせた。一体これからこの世界に何が起こるのだろうか。世界を滅ぼす? 必ず救え?
全く理解が出来ないまま立ち尽くさしていると、勢い良く風が吹いた。砂埃が舞い、目を手で被うと——目の前から勇者の姿は消えていた。この風は彼が巻き起こしたものなのか、なんて思いながら足元に置かれた本に視線を移す。いつのまにかページが捲れ、そこには伝説の勇者アレルの肖像画が描かれていた。
僕に不思議な伝言を残した彼は、やっぱり伝説の勇者だった。世界が違えど、勇者には僕に会いに来るのは簡単だったのかもしれない。
——それからしばらくして、アレルの言っていた通り僕に思いがけない出来事が起こる。それでも挫けず戦い続け、いつかこの世界を救おうじゃないか。新たなる伝説を造り出すために。