二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.20 )
- 日時: 2017/05/20 23:53
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: tOQn8xnp)
DQ6*主バ
【 ずっと忘れない 】
——あたしはみんなのこと絶対に忘れないよ。
* *
あれから何日経ったのだろうか。大魔王を倒して、世界を救った。それで終わりでいいのに。どうして彼女を失わなければならないのだろうか。
世界を救うのに犠牲を払う必要があるか? ——否、有るわけがない。彼女がいたからここまでこれた。共に冒険して、やっとここまで来たのに——この先共に生きることは許されないのだろうか?
「レック、さっきからボーッとしてるけど大丈夫?」
そんな俺を心配して、仲間のミレーユが声をかけてくれた。彼女の瞳にもまだ悲しみが宿っている。それでも彼女は仲間のために、頑張ろうとしてるのだ。俺は何て情けないのだろう。このパーティのリーダーなのに。本来ならばこんなときこそ仲間を引っ張らなければならないのに。
「……あぁ、ごめん。部屋に戻ることにするよ。おやすみ」
「あまり無理はしないでね。テリーたちも心配してたわよ。おやすみなさい」
俯きながら俺はミレーユの横を通り過ぎ、自分の部屋へと足を向ける。
ミレーユの様に俺も強くならなきゃ——何てことは思うけど、実際そんなに上手くはいかなかった。ミレーユはいつも落ち着いてて、どんなときも冷静で、それでもその判断は正しくていつも結果へ導いてくれる。俺がそんな彼女みたいになれるわけがない。ずっとずっと憧れのままだ。
部屋に戻り電気をつけて、直ぐにベッドに横になった。消えてしまった彼女——バーバラのことを考える。彼女は今何をしているのだろう。
「……っ」
バーバラとの想い出を思い出していると、頬を冷たいなにかが伝った。それが涙だとわかる頃にはもう枕が少し湿っていて、どんどんと溢れ出てきた。
涙を手で拭うけれど、その勢いは止まらない。会いたい。バーバラに会いたい。その一心で俺はベッドから身を起こし外へと駆けた。俺の名前を呼ぶ仲間の声が聞こえるけど、聞く耳持たずにバーバラのことを考える。
——レック、早くおいでよ。
ふと、バーバラの声が聞こえるような感じがした。もちろん辺りを見回したって彼女はいない。それでも、あの明るい声はまだ耳に残っている。
「バーバラ」
暗闇の夜空へ向かって、彼女の名を呼ぶ。空は星が散りばめられていて、昔旅の途中にバーバラと見たな、何て思いながら俺はもう一度呟いた。——戻ってこいよ、と。
思い出の場所に行けば、彼女がいるような気がする。俺の名を呼んでいるような気がする。でもそれは、全部俺の想像に過ぎなかった。彼女はもういない。絶対に忘れないなんて言ってくれたけれど彼女はどこにいるのだろうか。
こんな風になるなら世界なんか救わなきゃよかった。何度そう思ったことか。彼女を失うくらいなら、大魔王なんて倒さなかった。世界なんか見棄ててた。
*
翌日、俺はあまり眠れないままベッドから身を起こし部屋を出た。あれから部屋に戻って寝ようとしたけれど、どうしてもバーバラのことを考えてしまって眠ることは出来なかったのだ。
「……お前、寝てねぇだろ」
部屋から出たとき、向かいの部屋から出てきたテリーとちょうど目が合った。寝てないことを見透かされて、思わず気まずくなる。一回部屋に戻ろうと扉を閉めようとしたが、それはテリーの手によって遮られた。
「いつまでもうだうだしてて、バーバラが喜ぶか? あいつの分まで頑張るって決めたんだろ?」
——あぁそうだ。テリーの言うことはもっともだった。
彼女が消え去ったあの日の夜、俺は彼女の分まで強くなると決めたんだ。そんなことも忘れてしまったのか。
「お前の気持ちは良く分かる。だけど、今するべきことを考えろよ」
今するべきこと——テリーの言葉を考えて、俺は小さく口を開いた。
「……ごめん。バーバラの分まで頑張るよ」
これが質問の答えになっているかはわからない。だけど、今俺がするべきことはこれしかなかった。どこかで見てるかもしれない彼女を安心させるため、俺は強くなり、頑張らなくてはならない。
「姉さんからお前の様子を聞いてさ、俺も考えたんだ。だけどもうあいつは帰ってこない。でもきっとどこかで元気にやってる」
扉から手を離し、テリーは微笑みながら視線を俺へ向けた。切れ長の瞳が優しく感じ、扉が音を立ててゆっくりと閉まっていく。俺は腕をテリーに引っ張られて、気づけば残りのパーティメンバーがいる場所に連れていかれていた。
ミレーユが作ってくれて朝食のパンケーキを食べて、持ち物を確認して俺たちは宿屋を出る。道具屋で薬草を買おうとして、俺は再びバーバラがいないことを実感した。——どうして彼女の分も買ってしまうのだろう。一人分多く買ってしまった薬草は袋の中へ入れて、街を出る。朝日が眩しくてまた長い一日が始まると感じた。