二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.22 )
- 日時: 2017/05/31 20:58
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: xElOy2eq)
DQ3
【 ひとつの終わりと始まりと 】
——俺は世界で一番、自分を信じてるよ。だって確信できるじゃん。最後は裏切らないって。
*
世界が闇に包まれて、勇者と共に世界を救うと決めた者たちだけがこのアリアハンの酒場に集まっていた。
そのなかには私と、昔からの友人のレイとリリーも含まれている。
「——お前らが一緒に旅してくれるのか?」
背後から声が聞こえ、振り返るとそこには真っ赤なマントを身に纏った一人の青年が立っていた。——見たところ私たちと同い年だろう。きっと勇者であろう彼は、空いている私の隣の席に腰を下ろした。
「あぁ。俺はレイ。こっちはリリーで隣はティナ。よろしくな」
「よろしくね!」
「よろしく……お願いします」
レイとリリーに続いて、私も小さく頭を下げる。現在の職業はレイは盗賊、リリーは商人、私は僧侶なのでこのパーティなら戦闘で困らないかな……。
勇者の青年の名前は、確かアレルって言ったっけ。ルイーダさんに言われた彼の情報を思い出しながら、私は隣に腰かけているその彼に体を向けた。
「私、あんまり戦うの得意じゃないんだけど大丈夫……?」
「全然平気。……えーっと、ティナ? だっけ? その分回復は任せたからな」
不安を声に出すと、彼は白い歯を見せながらニカッと笑うので自然と私の不安も無くなっていくような気がした。世界を救うとなればたくさんの魔物と戦わなければならない。今まで、レイとリリーと少し旅をしてきた分とは比べ物になんかならないと思う。それでも、アレルに言われた通り私にもできることがあるんだ——私は頷き、小さく返事をした。
*
「じゃあまずはレーベの村を目指すか。準備は良いか?」
青空の下真っ赤なマントが風になびく。彼の声に私たちは頷くと早速アリアハンから一歩踏み出した。
北にあるレーベの村を目指して、私たちは歩き続ける。まだ装備も完全ではないから、途中たくさんの魔物に行く手を阻まれたりした。だけど——もっと、強くならなきゃ。魔王を倒して世界を救うため。こんなところで挫けてはいけない。
しばらく歩くと目的のレーベの村が見えてきた。魔物から得たり、リリーが拾ったりしたゴールドで出来る限りの武具や薬草などの道具を買っていく。
——そして、次はアリアハンの西にある岬の洞窟を目指して私たちは再び歩き始めた。
*
——時は流れ、あっという間に最終決戦。あの真っ赤なマントを羽織る勇者は先頭に立ち、いつでも私たちのことを引っ張ってくれた。挫けそうになったって、彼だけは諦めなかった。
「アレルはすごいね。いつでも自分を信じてきて」
静かな城内に私の声が響き渡る。あまり魔物の気配がしない場所でアレルは立ち止まり、ゆっくりと口を開いた。
「そりゃあ、俺だって自分を嫌いになることだってあるよ。でもさ、分かるんだよ。俺は世界を救うって。最後は絶対裏切らないって」
「……どうして自分が救うって分かるの?」
アレルの答えに、私はすぐにもう一つの質問をした。アレルの言うことは十分わかる。だけど、どうして自分が世界を救うって分かるのだろう。どうして裏切らないって分かるのだろう。最後の最後で挫けたりするかもしれないのに。
「……世界が俺を選んだからかな」
青が混じった瞳を輝かせながら、彼は口を開いた。希望に満ち溢れた彼ならば、そんなことは簡単に分かるのかもしれない。自分は世界に選ばれたんだって。
——ついに来たな、とレイの声が聞こえる。視線をその方向へ移すとそこには私たちが倒すべく闇の魔王が待ち構えていた。その威厳さに、思わず足がすくむ。地面に張り付いたように動かない。頭が真っ白になるのを感じて思わずアレルのマントに手をかけた。でもだめだ。心配をかけちゃいけない。すぐそこに敵が待ち構えているのに。
「……ごめん。行こう」
深く息を吸って、吐いて、呼吸を整える。私もしっかりしなくちゃ。自分を信じないといけない。
「世界から光を取り戻してやるよ」
——魔王を目の前にしたって勇者は怯むことなく、剣を構える。やっぱり私はそこまで強くはないけれど、彼に続いて魔王に目を向けた。私たちとは比べ物にならないくらい大きく、そして強いこの魔王を倒すことは出来るのだろうか。それでも世界を救うのは私たちしかいないのだけど。
——アレルの合図で、私たちの挑戦が始まった。自分を信じて、裏切らないで。世界から光を取り戻すため。再びこの世界が平和になりますように。
*
その後の話>>003