二次創作小説(紙ほか)

Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.23 )
日時: 2017/06/30 17:59
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: wyieLVt/)

【 大切な人 】

DQ8 ( 主人公 × ゼシカ )


 ——ずっと、僕の大切な人。


「良いのかエイト? あのままじゃ、誰かに取られちまうぞ」
「うーん……それは嫌だけど……あの人たちの方が、僕よりカッコいいし……」
「……本当は話したいんだろ?」

 溜め息混じりにククールはそう言い、僕の胸を指でトン、と押した。
 今僕らが来ているのはとある街の一角。だけど隣にいるのはククールだけ。ゲルダたちは宿屋で休んでいるし、ゼシカは一人買い物を楽しんでいた。

「そうだけど……」

 僕はそんなゼシカの様子とククールの顔を交互に見ながら、小さく口を開く。ククールの言う通り、僕だってゼシカと話がしたい。だけど、あそこにいるお兄さんのようにかっこ良くもなければククールのように口説き上手——いや、話上手な訳でもない。
 こうやってなかなか自分に自信が持てないのも、ゼシカは嫌いかもしれない。不安だけが募り、僕たちはただただゼシカを見ているだけになってしまった。

「だったら行ってこいよ。ちゃんと言わねぇと伝わらないからな」

 流石はククール、とでも言うのだろうか。ゼシカは彼のことを『ケーハク男』何て言うときもあるけれど、僕はククールのことを尊敬していた。回復もできるしいつだって自信満々で、自分の考えを貫き通して——それがいつも良い方向にいくとは限らないけど僕にできないことを何でもこなす彼は、いつしか僕の憧れの存在だった。
 僕がゼシカへの恋心を抱いて間もない頃、一人悩んでいたのを救ってくれたのもククールだった。好きなのかな——何て言う曖昧な事を言ったって、いつだって真剣に聞いてくれた。もっとも、僕が「好き」という気持ちに気づくのに時間がかかってしまったけれどククールには最初から分かっていたのかもしれない。

 もう一度、視線をゼシカへ向ける。お気に入りだと言っているワンピースは胸元が大きく開いていて、大抵の男はそれ目当てでやって来る。だから街中ではなるべく一人にしないようにしていたんだけど、今日だけは「一人で行きたい」と言われたので仕方なく僕は彼女の事を一人にしてあげた。お昼時なので太陽は真上にあり、日射しが照り付けてくる。汗のせいで服がじっとりとし、肌に張り付いているのを感じた。

 ゼシカがくるりと振り返りこっちを向く。僕らに気づいた彼女は微笑んで、ヒラヒラと手を振った。思わず手を振り返す。すると彼女は何を思ったのか、ツインテールを揺らしながら僕らに駆け寄ってきた。今そこで買ったらしきネックレスが、太陽の光により一層輝いて見える。

「ねえ、これ似合う?」
「もちろん似合ってるさ。綺麗だ」
「うん。とっても素敵だよ」

 隣にいるククールのように甘い言葉は吐けないけれど、僕なりの精一杯の気持ちを彼女に伝えた。ネックレスについたオレンジ色の宝石は丸い形をしていて、彼女が動く度に白い肌の上をコロコロと転がる。

「ありがとう。私、少し外を散歩してくるわね」
「一人で平気?」
「もちろん。二人もゆっくり休んで」

 それじゃあね、と言う彼女に手を振って、僕とククールは宿屋へ向かう。ここ最近は野宿ばっかりであまり良く眠れなかったのだ、疲れがたっぷりと溜まっているので僕は直ぐにベッドに行くと深い眠りに落ちてしまった。



 真夜中、小さな物音で目が覚める。月明かりが部屋に差し込み、暗闇の中を照らしている。誰か暑くて起きたのかな、何て思いながら僕も風に当たりたくて、外に出ることにした。

「……エイト」

 外に出るとそこに立っていたのは意外にもゼシカだった。ククールかな、何て思っていたから心の準備が出来ていない。
 平常心を保とうと、僕は深呼吸をしてから彼女の隣で立ち止まった。

「ゼシカも、眠れないの?」
「うん、ちょっとね……。涼しい風を浴びたくて」

 彼女はそう言い、月へと目を向ける。星が散りばめられた夜空にポツンとあるそれは、とても輝いていて綺麗だった。それを見つめるゼシカの横顔も月明かりに照らされて綺麗だな、と僕は思う。

「……月、綺麗だね」

 沈黙を破ろうと、思わず、分かりきっていることを口にしてしまった。ゼシカに顔を向けるとちょうど彼女も僕の方を向いていたので、目が合ってしまう。照れ臭くなり慌てて目を逸らした。

「あっ、これはただ単に綺麗だと思ったから——」

 昔ククールが言っていた。「『月が綺麗ですね』とはI love youという意味なんだ」と。それを思い出して僕は慌てて訂正をした。確かにゼシカのことは好きだけど、まだ旅の途中だし告白する気はなかったのだ。

 僕のその言葉を聞いて、ゼシカは小さくクスッと笑った。思わず目を向けると、再び目が合ってしまう。

「別に良いのよ、そんなこと。ただ、他の子に言ってたらちょっと傷ついちゃうけどね」
「えっ、それって……」

 ゼシカの言葉を聞いて、僕は驚きの声をあげる。他の子に言ってたら傷つくって——僕が、他の子を好きになったら嫌ってことなのかな……。

「ふふ、私ね、エイトのそういうところ好きよ。いつも誠実で、本当に素敵」

 ——今度は、声を挙げることもできなかった。驚きのあまり口が塞がってしまい声が出ない。嬉しいのか何なのか、複雑な気持ちだった。

「……僕もゼシカのこと好きだよ」

 やっと出たその言葉は、彼女のと比べたらとてもシンプルで。でもそれでも伝わったのか、彼女は優しく笑ってくれた。細いしなやかな指がキュッと僕の手を掴む。

「……告白って、こんなに恥ずかしいものなのね」

 小さく笑う彼女の表情は、今どんな感じなのだろうか。僕も緊張して恥ずかしくて、彼女に目を向けることは出来なかった。

 それでも、大切な、大好きな人が、隣にいてくれるのはとても嬉しい。彼女の手を、小さく握り返した。