二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.28 )
- 日時: 2017/08/04 00:11
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: WqZH6bso)
DQ3
勇者 × 賢者
【 輪廻の先で逢いましょう 】
「……もう、このまま諦めるしかないのかな」
彼女は小さく呟いた。俺は何も言えないまま、周囲をぐるりと見回す。荒れ果てた地にはもう何も残っていない。俺たち以外の人はもちろん、魔物さえもいなくなってしまった。
——事の発端はつい最近のこと。闇の世界アレフガルドを救おうと俺と隣の彼女——ティナを含めた仲間四人で訪れたのだが、その時はもちろん町や魔物も今のような状態ではなかった。闇に包まれてはいても、町の人々は元気に暮らしていた。魔物だって、上の世界の通り、たくさんいた。
しばらくして、大魔王ゾーマの城に乗り込もうとしたある日の晩、アレフガルドは大きな地震に見舞われた。それは一瞬の出来事だったのだが、村や町、ゾーマ城までもが滅びてしまったのだ。その時隣にいたティナは少し怪我をした程度だったのだけれど、他の仲間——盗賊のレイ、商人のリリーは姿を消した。未だ見つかっていないけれど、きっとどこかで生きていると信じている。
「……アレル、私たちはこの先どうすれば良いの? 元の世界にも、戻ることができないのにっ……」
——ティナの言う通りだった。俺たちはこの先、どうしていけば良いのだろう。倒さなければならないはずの魔王は姿を消した。今どこで何をしているのかさえ分からない。仲間も二人失って元の世界に変えることもできない。このままティナと二人で世界の終わりを見届けることしか出来ないのだろうか。
ティナの瞳から涙が溢れ出してきたので、そっと肩を抱き寄せる。彼女の肩はとても細くて、小さく震えていた。こんな体なのに今まで文句をひとつも言わず俺についてきたなんて。仲間を守ろうと必死で戦ってくれたなんて。……それなのに、俺はこんな状況になっても彼女を守れないでいる。魔物ではなく、不安と恐怖から守らなければならないのに。
「もう少しすれば、きっと何かが変わる。このまま世界の終わりを黙ってみるわけにもいかないだろ?」
俺の声に、ティナはこくんと小さく頷いた。……もちろん、何かが変わるなんて保証はない。だけど、言葉にしたら少しは変わるんじゃないかと思ったのだ。
——あとは行動あるのみ。この世界をこんな姿のままで終わらしてたまるか。必ず救い出してやる。光を取り戻して俺たちも元の世界に帰るのだ。
「……何するの?」
「決まってんだろ、世界を救いに行くんだ」
どこにいけば、何をすれば、とかそんなの考える前に俺は立ち上がっていた。考えるよりも先に行動する——それが俺のモットーだと前にティナが教えてくれた。それが原因で失敗したこともあったけれど、今はそんなことを思う余裕はない。成功だけを信じて、行動しなければならない。
——こんな何もない世界、救う以前に終わりを迎えるのか、という疑問はあった。俺たち以外に誰もいないなら滅ぼす者もいないだろう。だけど、もしかしたらまた突然大地震に見舞われて世界が変わるかもしれない。もっと酷く、最悪終わりを迎えるかもしれない。だから、そうなる前に、俺は少しでも早く救いたかった。
「……ティナも来るだろ?」
「えぇ、もちろん」
ティナに手を差し出して、ゆっくりとその手を掴む。鍛えぬかれた、だけどしなやかさも残るその手がいとおしく感じた。ティナが立ち上がると優しく抱き締める。——もしかしたら、これが最後になるかもしれないから。さっきはああ思ったけれど、いざ行こうとすると少し不安もあった。ティナと二人きりの世界、助けに来る者は誰もいない。襲いに来る者もいないけれど、大地震は自然現象だ。この前のだって誰かが予測していたわけでもない。
俺は視線を空へと向けて、小さなため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げるとかそんな言い伝えがあったけれど、今はそんなのどうでも良い。こんな世界に幸せなんて残っていない。空の上にはきっと俺らが暮らしていた幸せな世界がある。早くそこに帰りたかった。だけど、どんなに空を見つめても大穴らしきものは姿を現さなかった。
「!!」
——刹那、大地が激しく揺れ始めた。ティナの手を取り、安全そうな高台に登り始めるけどもう遅い。周囲の岩は崩れ始めてきて、足場もあまり残っていなかった。
「しっかり掴まっとけよ!!」
ティナを抱き抱えて、腕を俺の首へ巻くように指示をする。高台に向かう途中、何度もバランスを崩して転びそうになったりした。所々地面も崩れ、真っ暗な闇が姿を現す。——きっと、落ちたりなんかしたら助かるわけがない。どんなに行っても底にはたどり着かそうな雰囲気が感じ取れる。まだ丈夫そうな岩を見つけて走りだし、俺たちはようやく高台に辿り着いた。荒々しく息をしながら、ティナを地面へ下ろしてやる。
救おうとしていた世界は完全に崩壊し始めていた。この高台が崩れるのも時間の問題だ。もうどうすることもできない。ティナと顔を合わせるが、何も言えなかった。
「アレル……」
ティナが震える声で小さく俺の名を呟いて、俺の手を握りマントに手を掛けた。手を優しく握り返すけれど、その間にも世界の崩壊は進んでいく。揺れはおさまったけれど、地面の岩は崩れ続けていた。
「……っ!!」
——再び大地が激しく揺れる。周りの地面と同様に、俺たちがいるこの高台も崩れ始めてきた。離れないようにティナの体を強く抱き締めるけれど、足の震えが止まらない。
……本当に俺は勇者の癖に情けなかった。こんな世界なのに、仲間一人守ることさえできないのか。自分の無能さに呆れつつも、世界の終わりを確信する。やっぱり俺に世界は救えなかった。黙って見ることしかできないのか。
きっと、世界だけじゃなくて俺たちも助からない。ごめんな、ティナ。光ある世界を見せてやれなくて。最後まで守ってやれなくて。
暗闇の世界に飲まれていくのを目の当たりにして、固く目をつぶる。
ティナだけは守りたかった。俺どうなっても良いから、彼女だけは無事でいてほしい。
——だけど、その願いは誰にも届かない。世界もろとも俺たちは終わりを迎える。少しでも、光ある世界を見たかった。その気持ちは今も変わらない。
世界が終わらないように、彼女にゆっくりと口付けた。
——また世界が創られるその日まで、さようなら。