二次創作小説(紙ほか)

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.40 )
日時: 2016/12/08 16:16
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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段ボール製の箱の中にそこいらで拾い集めた、大きさも重さも疎らな、そんでもって色彩豊かな砂利を敷き詰めて、籠もりの要領で優しく揺らしてやると、この中を砂利が転がって、ザザァーッ、ザァー、と音を立てて、心地が良い。

水の漬けられた釜にありったけの米を雑に解き放ってやると、我こそが食卓の金星と成り得てやろうぞ、とでも言わんが如く、赫々が思い思いのペェスで、暴れ出す。


Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.41 )
日時: 2016/12/08 16:17
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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そこにいざ、両手を添えて掻き混ぜようと言うのなら、無数の米が、米を浸す水と拮抗し、小さな池の合間に、粗雑な波を織り成すことだろう。

物言わぬ米の一粒一粒の各各が、何を想い、何を願うかは、所詮人の私の知ったことではない。米、と人。相容れぬ二者の間に仕切られた「よくわからない」膜壁によって見事に隔てられた、素性の差とでも言おうか。物を言わぬのならば、何も考えていない。何も結果に出さない。それでいい。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.42 )
日時: 2016/12/08 16:17
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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漣の音も、身に纏った装束を濡らす水も、私を海の底へと誘わんかの如く、鈍く引いていく波も、全てがその場の衝動に駆られて動かされ、生きている事に過ぎないことだろう。かく云う私も、確かに衝動に駆られていた。衝動と理想は、万物の基本エネルギーだ。

そうでもしなければ、荒波に自ら身を投げるだなんざ、愚鈍な行いに出る筈もない。衝動に駆られて動けば、想定している範囲から身を投げ出すことになると言うのに。不覚であった。足を掬われたのだ。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.43 )
日時: 2016/12/08 16:18
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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私は、『『常に足の付く 』』つもりで行動していたというのに、一瞬の気の揺らぎが、私を深い深い、奈落の底へと飲み込ませてくれたのだ。足を撫でるような風の浪が、そしてパンク共の溢れ返る難民船を覆っている喧騒の膜が、この私を暗黒の世界へと投げ出した。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.44 )
日時: 2016/12/08 16:18
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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僅かばかりの光を湛えた水面。どこからともなく吹き込んでくる透き間風の音。旋風は、何の変化をも見せぬ石の大地を揺り動かし、石の鳴動は、天井から不恰好にも垂れ下がった幾多の神妙な岩片から、何の変哲も無い、単調な色彩を纏った水滴を滴らせる。

辺り一面に重々しい空気が漂っている中、水滴と水面の共同作業アンサンブルは、凍て付くような寒さを秘めた洞穴に投げ出されて、気が立ち、波打っていた私の感情の波長に深く作用した。世界はまだ私を見捨てては居ないのだ。あぁ、ありがとう。ありがとう。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.45 )
日時: 2016/12/08 16:19
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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絶え間なく岩礁に打ち付ける波が、轟々と、辺りの狭い石室一面に響き渡る。湿りに湿った土塊と、素人の職人が手掛けた、掘り掛けの仁王像のような奇妙な姿を保った不格好な岩と、今にも身を縛る岩の屋根からその身を解き放ってしまいそうな無数の鍾乳石が、わたしの瞳孔に嫌と言っても飛び入って来る。

船の其処ら中にサンドイッチの具の卵のように敷き詰められていたパンクどもに、この情景を見せつければ「洞穴」とでも形容しただろうか。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.46 )
日時: 2016/12/08 16:19
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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自らの策に溺れ、失敗に対する動揺と呆れに支配されていた私は、そんな『今どこに居るか』『今が何時か』なんざ、何の得にも為らない事を考えるのにも至らないくらい、釈然としない状況にあった。

今がいつだろうが、私がどういった状況にあろうが、今はこの休息を嗜んでいればいいと思う。僅かばかりの休息も、孰れ大きな展開へと直結してくれるだろうし。

ここが仮にどこだろうが、私が誰だろうが、今何をすべきかも、どうでもいい。学が足りなかろうが、浅はかな行いに動こうが、どこまで蒙昧であろうとも、私を裁くサイドの人間なんか、この薄暗い吹き溜まりにはいやしない。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.47 )
日時: 2016/12/08 16:20
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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私はこの忘れ去られた風穴に於いてはあくまで自由であり、絶対である。どんな法規も、どんな盟約も、私には反映されることがない。それでいい。

人は私をレイテンシーと呼ぶ。実の処、苗を宇佐見、名を蓮子と言うが、名前なんてどうでも良かった。相方と、共同で一冊の本の編纂に取り掛かっていた頃もあったか。結界を暴いて、世界中に点在する異世界との交点に飛び込んだ頃もあったか。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.48 )
日時: 2016/12/08 16:20
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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私はこの忘れ去られた風穴に於いてはあくまで自由であり、絶対である。どんな法規も、どんな盟約も、私には反映されることがない。それでいい。

人は私をレイテンシーと呼ぶ。実の処、苗を宇佐見、名を蓮子と言うが、名前なんてどうでも良かった。相方と、共同で一冊の本の編纂に取り掛かっていた頃もあったか。結界を暴いて、世界中に点在する異世界との交点に飛び込んだ頃もあったか。

私達の活動が明るみになったのもあの本のせいだし、かの忌まわしいバーにその身を投げ出したのも、元はと言えばかの本のせいでもある。贖罪の為、私は名を捨てた。

・・・・・・
どうでもいい、名前を冠していたその本は、私にとっては最早、どうでもいい所か、私の身を犇犇と縛り、苛み続ける有刺鉄線になってしまったのかもしれない。

葉の間から漏れる光を木漏れ日と呼ぶならば、岩々の間から漏れるこの光を、岩漏れ日なんかって呼んでやるといいのかもしれない。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.49 )
日時: 2016/12/08 16:21
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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僅かばかりの光も、力と希望と機会を求めてやまない岩穴の奥底の水にとっては、十分すぎる養分だ。朽ち果てた鉄塊と、骨片と、何かの残骸が散乱するこの岩の洞窟において、私が絶対であろうとも、何も意味はない。

いや、この罪を蓄えてなお、法を説き続け、狂い咲くこの世界に生きている事自体、何も意味は無いのかもしれない。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.50 )
日時: 2016/12/08 16:22
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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私、壮年を迎えて彼是数年の宇佐見蓮子ことドクター・レイテンシーは重要指名手配犯である。何かの手違いで指名手配になったなら、それでいい。世界は薄い毒ガスの膜で覆われていて、膜の内側は全てヘドロの塊だ。その、毒ガスの層に私達は生きていた。決して不自由な訳では無かった。

それでも開放感のある生活を求めて、藻掻けば藻掻く程、ヘドロの層に取り込まれていく。この時代に於いて、注目の的になろうとするなんざ、何の意味もない行為でしかなかった。

個性を尊重される訳でも無い。多分化した人の個性を弾圧する為に執った集団こそ、言論統制と働きアリの法則だ。この世界において、赤に染まらず白で居続れば、活動の阻害として生産ラインから蹴落とされる、上手いシステムが築き上げられている。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.51 )
日時: 2016/12/08 16:23
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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世界とは、経年劣化で鈍く回転率の悪くなった、何の価値も持ち合わせていないベルトコンベアである。
集団活動の上で、個性なんてものは緻密に設計された基盤上に萌芽した黴のバグであり、決して""華美""なものとしては認められない。

私は世間に支配されて生きる事を誉とせず、先祖代々引き継いできた、この「秘封倶楽部しんぴをあばくもの」を再び公の場に勃興させた。そうでもしなければ、手入れのされていない原生林に華やかな風を吹き注ぐ事など出来はしないのだから。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.52 )
日時: 2016/12/08 16:24
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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俗に言うところの結社、フリーメーソンや、イルミナティ程の巨大組織でもない。結社だからと言って旧時代に暗躍していた連中の形式を準えている訳でもない。

単なる個人、オカルトサークルとしてだ。私達の活動について、熟知している者なんざ居る筈がない。
まぁ、裏の世界で初代の功名もあって、名がそこそこ罷り通っているくらいで、表の形だけの美しい世界には、そう大して露見している訳でもない。

ここまで大体千年の間、大きなアクションに出た訳でもないからな。
そう、長い間信じ続けていた。でも、その浅はかな考えは私にとって、最大の過ちとなってしまった事に、違いは、無い。

Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.53 )
日時: 2016/12/08 16:25
名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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ああ。絶望に満ちた私の瞳に懐かしい光景が映る。

もうあれから早、15年前になるのかな。私が秘密裏に裏競売オークションでふと入手して、培養していた幻惑のキノコ(ネオプリズムタケ)の試験管を不意に落として割ってしまった日の事…だったかしら。

あのキノコは本物の幻想だと実感していたのに、今思うと本当に勿体ない話ね。

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