二次創作小説(紙ほか)
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.83 )
- 日時: 2016/12/08 17:24
- 名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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「もう、いつもメリーは時間に遅れるんだから。3分15秒も遅刻したじゃないの。ふざけているわ」
蓮子は少し荒い口調で首から掛けているシルバーの時計の針の部分を指して、私に説法を説いている。
でもよく考えてみて。時間感覚が曖昧な人間に説教をするだなんて、意味が無いことだと思わない?私はそこまで正確主義でもないのよ。
「でも、たったの3分15秒の遅刻じゃない。惜しいわね…たかが3分の遅れじゃないの。」
カップラーメン一個分の時間の遅れだなんて、そんな大した物ではないわ。銀河の戦士がランプ切れで死んでしまう、と言われたら、確かに深刻な話のように捉えてしまうのだが…
「惜しいってそもそも何よ…、それで、今日は何をするの?」
我々は他愛も無い雑談と、卯東京の大学サブキャンパスと、酉京都のメインキャンパスを 往復する間に見つけた穴場で何かを掘り起こすくらいしか、面白みのある事をしていない。
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.84 )
- 日時: 2016/12/08 17:25
- 名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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だから景気付けに、この前一緒に赴いた冥界のような別の世界に飛び込んでみるのも、なかなか面白いかもと思って、ここ最近はどこか奇妙な所に飛び込めそうなポイントが無いかと、色んな所を一人で散策していたのだ。
「勿論サークル活動よ。サークルメンバーが全員揃ったんだから、するしかないわよねぇ?」
このサークルにはメリーと蓮子の二人しか居ない。それもその筈、旧校舎の端っこにある、小さな物置を非公認サークルが占領しているだなんて、誰が考えた事だろう。
それに、仮に誰かが入りたいと物申しても、蓮子はそれ相応の物(秘封倶楽部の秘宝)を持ってこないと、まず納得しないだろう。
「ま、まぁ私たち…って言っても、ふたりしか居ないけどね。ってまた何か『異世界の入り口』らしき所を見つけたの?」
市民は人でありながら崇高な存在であり、絶大な権力を握る者達を「現人神」と呼び、崇拝まで仕出す始末である。
そんな現人神様に見捨てられたスラム街は、気色の悪い世界で、接触するべきものではないと教育されている。市民はこの地を、皮肉と軽蔑の意味を込めて、死界と呼んでいるのだ。
卯京都の地下深くに存在する、蓮子とメリーがよくジャンク蒐集に訪れているこの死界の一角が、その幻想的な世界への入り口となっているという。
「勿論!別の世界の入り口だったら、今回向かう場所以外にも簡単に見つけられるわよ。媒介とする何かさえあればいいの。」
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.85 )
- 日時: 2016/12/08 17:25
- 名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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ほら、前回のように手掛かりだってあるんだからね。それも偶然じゃない。あの地に乗り込めたのも、共通のルーツがあったからよ。
ならば、あの冥界の楼閣も、弘川寺と何かの関係があるのかもしれない。
「…と言うことは、死後神格化された西行法師か高貴な歌人とその親類たちが肩を寄せ合って住む館なのかもってことね!」
冥界と繋がる弘川寺の墓所のように、一つの場所を通じて、別の世界を眺めることができるのなら、実際に訪れることも出来うるんじゃないかしら?
「なら、今回乗り込む場所も、そういった異世界の楼閣関連なの?」
異世界が、薄い結界の膜で隔絶された世界だとすれば、現世にも、薄い鉄の膜で隔離された場所が在る。
正規のルートで入り込めないのなら、それこそ裏のルートで入り込んでも文句は言われないわよね?
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.86 )
- 日時: 2016/12/08 17:27
- 名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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「ううん。テラフォーミングプラント・トリフネ、って有ったでしょ?覚えてる?」
「トリフネ…? あぁ、あの妙な事故を起こした実験用の巨大スペースコロニーだっけ?」
衛星・トリフネは数年前に原因不明の計器トラブルを引き起こし、宇宙の藻屑へと成り果てた不遇の宇宙ステーションだ。政府の用人の陰謀論だとか、マザーコンピューターの叛逆説、果ては搭載されていた生物サンプルの突然変異によってシステムに不具合を来しただとか、その消滅の訳を巡って、研究と憶測が飛び交った。
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.87 )
- 日時: 2016/12/08 17:28
- 名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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滅び行く人類文明の未来を懸念してか、地球環境の再興を願ってか、一隻の巨大なノアの箱舟は不安と嘗て、この世界に住んだ、ありとあらゆる生き物のサンプルを搭載して宇宙へと羽ばたいていった。
巨大な情報格納庫に収められた期待と希望と、地上に生きた多くの者達の夢は、未来永劫に、穢れた地から隔離されたエデンの園で、何の苦労もなく、研究員の管理下で生き長らえる事を約束された・・筈だった。しかし、残酷にもエデンの庭を守っていたプロテクターは何か、支え棒のような、強く、恐ろしい力によって。鎖を捻じ曲げるように、いとも簡単に断ち切られてしまったのだ。
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.88 )
- 日時: 2016/12/08 17:29
- 名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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「あ、あぁー…そんなのもあったわねぇ。だけど、急に、あの税金を溝に捨てるようなどうしようもない密室計画の話をしてどうしたの?メリーらしくないわ。私的にあれはどうもダメ。科学を愚弄しているわ」
天の鳥船の名を冠したスクラップがどうしたって言うのよ。あんなの造った所で、狭い衛星内に百億人の人口を詰めし込む訳でもないじゃない。助かるのは富裕層のデブだけよ。
宇宙空間に放棄され、早数年が経過したある日、作業員数十名を残したまま、巨大な実験施設は、一瞬にして、巨大なデブリへと姿を変えた。何人かの研究員が、命からがら地球へと帰還したものの、数年間、死の衛星での絶望的な生活に晒され続けたせいか、はたまた政府にとって都合の悪い情報が吹聴される事を恐れてか、一切のメッセージをメディアで発することを禁止され、今は首都の地下深くに築かれた施設で厳重管理されているという。
「あの衛星、過酷な環境に適応出来るかどうかの実験で、色んな動植物を乗っけてたんだよね。実験の最中、とんでもない生き物が生み出されて、隔離されてるだとか、私達の生活に改良版が導入されただなんて噂を耳にしてたんだけど。」
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.89 )
- 日時: 2016/12/08 17:31
- 名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: fgYvAUM4)
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トリフネには、最適化された生態系が乗せられていた。
北欧の諾威、スヴァールヴァルの厚い氷土の底に佇む、植物を乗せる方舟の様に、何万、何百万を超える動植物の遺伝子データが、厳重に管理、保存されていたのだ。
樫の森が、小川が、草原が、そして都市エリアが、僅か長さ数キロメートルの方舟の中に、築かれていた。人の手を借りて擬似的に生み出された自然などでは無く、データ達が、人の手を借りる事無く、自由に生かされた結果生まれた、紛れも無い本物の自然である。
研究員たちは日夜、テラフォーミングを実現すべく、地球を離れて、高度な生体実験をリアクターで行い続けている。リングの中に収容された遺伝子サンプルを元手に、日夜ビーカーの中で、新たな生き物が生み出されては、人工の自然界に解き放たれる。
限られたエリアだけで完結する、生態系の実験の為、自然を取り戻す為。どう動くかも判らない、生態系を見届けるという役目が数十人の研究者達に課せられた。
彼らはエリート集団だったけど、もう少し遅かったら一般人も乗せられてたかもね。まぁ、これもこの間見た「あの」映像のせいかも。
火星や金星に秘密裏に建設されつつある巨大建造物の影を、海底深くに築かれた真紅の城塞のヴィジョンを、休むこともままならず、四六時中過酷な条件下で酷使される人々の姿を、確かに目の当たりにしたわ。