二次創作小説(紙ほか)

Re: ポケモン不思議のダンジョン〜光と闇の物語〜[リメイクver] ( No.16 )
日時: 2017/08/14 00:45
名前: サンセットドラム (ID: t5agwx1g)

第6話 夕日の沈む海岸で3


*


「ナツヤ」と名乗った少年は、笑顔でオレに右手を差し出した。好奇心に満ちたような、キラキラとした赤い両目がオレの顔をじっと覗き込む。さっき思い切り蹴り飛ばされたというのに、不思議なことに、その純粋な子供のような瞳からは全くと言っていいほど怒りを感じられなかった。本当に何とも思っていないのだろうか。だとしたら、変なヤツだ。

とりあえず握手をしようとしないのは失礼なので、心の中で首を傾げながらも右手を差し出した。しかし、もう少しでナツヤの手に触れそうだったオレの手は宙で動きを止めた。相手の顔に向けるはずだった目は、周りの景色に奪われる。今更だが、オレはある重要なことに気がついた。

「ここ・・・・・どこ・・・・・?」

オレは伸ばしていた右手を引っ込め、辺りをキョロキョロと見回した。
一面に広がる柔らかい砂浜に、打ち寄せる穏やかな波。夕日で橙色に染まった海と空。それに重なる無数の泡。
未知の場所に戸惑いを隠し切れないオレを見て、ナツヤは相変わらずの笑顔で口を開いた。

「ここはね、海岸って言うんだよ。」

「は!?い、いやいや!ここが海岸ってことくらい分かってるわ!!バカにしてんのかっ!!」

想定外の返答に、オレは思わず鋭いツッコミを入れる。

「ここってどこの海岸なんだろうって思っただけ!」

「あ〜!なるほどね!」

ナツヤは安定ののんびり口調でポンと手を打った。その様子を見て、オレは小さくため息をつく。
これはあれだ。頭の中が広大なお花畑すぎて、会話が成り立たないヤツだ。

「・・・にしても、こんなとこ見たことねぇな。ここって地図でいうとどこらへんの位置にあるんだ?」

オレの問いにナツヤは目をパチクリとさせると、顎に手を当てて唸りながら考え込み始めた。これは嫌な予感しかしない。オレの顔は引きつっている。

「・・・・・えっと、右・・・?」

そう言いながら、ナツヤは真っ直ぐと左を指差した。オレは引きつった顔のまま固まる。

「・・・あの、どちらでしょうか・・・。」

「あっ!左だ!左左!!」

ごめんごめんとナツヤは照れながら頭を掻いた。しかし、その直後には「あれ?右かな?」と首を傾げていた。

「う・・・もうどこでもいいや・・・。」

呆れて遠い目で水平線を眺め出したオレの背中を、ナツヤはバシバシと叩き始める。

「まあ、ここは島国だからね〜。海に囲まれちゃってて海岸いっぱいあるから、ボクよくわかんないや。あはははは!」

「うん、オレもよくわかんないなあー。あはははは。」

全く感情のこもっていない返事をするが、もちろんヤツは気がつかない。いや、そもそも聞いてないか・・・。

「いや〜、ボク昔から地理苦手でさ〜。なんか方角とかよくわかんないんだよね。」

「いやそれ以前の問題だわ!!方角は右左じゃなくて東西南北!!ってか、まずオマエ何者だよ!!!」

「え?ナツヤだよ。」

「そうだけど・・・・・。」

「さっきちゃんと自己紹介したじゃん。変なのー。」

(オマエに言われたくねーよ。)

なんなんだろうコイツのアホ具合は。なんというか、天然というものを超えている。とりあえず、ヤバイことには変わりないからもう関わらないことにしよう。
オレは愛想笑いを作ると、じわじわと少しずつ後ずさりを始めた。背後に小さな洞窟がある。少し異様な雰囲気がするが、そこに逃げてしまおう。
しかし、オレの足はナツヤの言葉によって止まってしまった。

「そういえば、キミの名前聞いてなかったね。なんていうの?」

またもや純粋な赤目がオレを見つめ、止まってしまった足を再び動かすことはできなかった。

オレはため息をつくと自分の名前を相手に告げた。

「オレの名前は・・・スバルだ。」