二次創作小説(紙ほか)

Re: ポケモン不思議のダンジョン〜光と闇の物語〜[リメイクver] ( No.17 )
日時: 2017/08/15 01:25
名前: サンセットドラム (ID: t5agwx1g)

第7話 夕日の沈む海岸で4

「へえー、スバルっていうの。」

オレの名前を聞いたナツヤは、ほうほうと言いながら腕を組んでうなづいていた。

「珍しいね。ここら辺じゃあまり聞かない名前だよ。」

「オレもナツヤって人初めてなんだけど。」

「ホント!?すごいね!同じだ〜!」

嬉しそうな顔をしたナツヤは「いえーい」と歓声をあげながら右手を挙げた。目を輝かせながら、無言で「ハイタッチ!ほら、ハイタッチ!」と訴えてくる。「ここがどこなのか」という質問の答えに、まだ納得のいっていないオレはナツヤのテンションについていけず、小さく「わーい」と言いながら仕方なく右手を挙げた。2人の手が重なるのと同時に、パチンッという軽い音が海岸に響き、じわじわとした痺れが右手を駆け巡る。オレの顔は多分死んでいる。

「じゃあ、これからボクのこと『ナツヤ』って呼んで!ボクはスバルのこと『スバル』って呼ぶから!」

「お、おう・・・・・・・・・・!」

コイツ・・・これからもオレについていく気か・・・!
この先もコイツと会話らしくない会話をしていかなくてはならないのかと思うと、申し訳ないが眩暈がする。
そんなオレの心の声など知ることもなく、目の前に立つ少年はオレの手を取り、ブンブンと握手をしている。

「いや〜、ここに来て人間の友達ができたのは初めてだよ〜♪」

ナツヤは心底嬉しそうだ。無駄に大きな握手も止めようとしない。オレの右手はさっきから激しい握手によって迷走している。

「あの、ナツヤ?そろそろ握手止め・・・・・






え・・・・・・・・・・?






「オマエ、今なんて・・・・・?」

「え?いや、ここで人間の友達ができたのは初めてだな〜って・・・。」

待て。どういうことだ。
オレはぽかんと口を開けて固まった。

「ここって・・・オマエの他には人間いないのか・・・?」

ナツヤはオレの目を真っ直ぐと見ながら大きくうなづいた。自分の口から、「ひっ」と小さな悲鳴が漏れた。

「ここ、ポケモンだらけだよ。」

「ポケモンって・・・!あのピカチュウとかそういう・・・!」

「そうそう。ポケモンポケモン。」

当たり前かのように答えるナツヤを見て、オレは寒気を感じた。
いったい何があってこんなことに・・・。

「あ、そうだ!」

ナツヤは手をポンと打つと、オレの足元を指差した。さされた場所を見ると、そこには何とも言えない微妙な大きさの岩が生えていた。

「キミ、ここで倒れていたんだよ。」

「は?」

倒れていた?オレが?
ナツヤの言葉が上手く飲み込めない。オレは小さく唸り声をあげながら腕を組んで考え込んだ。
倒れていたとはどういうことなのだろうか。不思議なことに、起き上がる前の記憶は綺麗さっぱりと消えていた。

「ど、どういうことだ?なんでオレは倒れてたんだ?」

「いや、ボクに聞かれても・・・ねぇ・・・。」

オレの質問に、さすがにナツヤも困った顔をした。
まあ、無理もないか。オレが知らないのだから、コイツが知らなくても仕方ない。

「うーん・・・でも、昨日の夜嵐だったからさ。それで流されてきちゃったんだと思うよ。」

「マジか!昨日嵐だったのかよ!」

「え?」

オレの受け答えに、ナツヤは眉をひそめた。予想外のナツヤの反応に、オレはきょとんとする。

「嵐だったの、知らないの?」

「あ、ああ。なんか起き上がる前の記憶がスッポリ抜けてて・・・。」

「記憶喪失?」

「・・・多分、そういうことだと・・・。」

それを聞いたナツヤの表情がどんどん険しくなっていく。何か気に障ることでもしただろうか。

「ねえ。」

訝しむような赤目が、オレの目をじっと見つめる。

「もしかして、キミ・・・・・ボクのこと、油断させて騙そうとしてる?」

「はいっ!?」

まさかの疑われていた感じ!?
かけられた疑いを晴らそうと、オレは慌てて両手を振った。

「ないないないない!!絶ッッ対ない!!騙そうだなんて考えてねーよ!」

しかし、なぜか急に牙を剥きはじめたナツヤは、目角を立てながらぐいっと詰め寄ってきた。それに合わせて、情けない声をあげながらオレが後ずさる。

「ボク、騙されないから!騙されないんだからね!!」

ナツヤのオーラに圧倒されたオレの口からは、うめき声でさえ消え去った。
しかし、こっちだって負けていられない。疑われてたまるもんか。
目を吊り上げて、ナツヤにぐいっと詰め寄る。

「だから!騙そうとしてねぇって言ってんだろアホ!!」

「絶対怪しいよ!記憶喪失とか!『スバル』って名前変だし!!」

「どこが!!オマエ今すぐ二次元含めて全国のスバルに謝れ!!」

「じゃ好きな料理言ってみなよ!」

「スペアリブ!!」

「へ。あ、そうなの。へぇ。」

思わぬナツヤの薄い反応に、オレは思わずずっこけた。
さっきのあの暑苦しい雰囲気はどこへ行ったのか、ヤツは「ふんふん。ほうほう。へえへえ。」と呟きながら、ほわほわと何かを考えている。

「あの〜・・・・・。」

「うん。キミ、どうやら怪しい人じゃなさそうだね。」

「へ?」

よくわからない。非常によくわからない。
オレは、ナツヤの出した答えに呆気にとられた。

「あの、そこはもうちょっとオレのこと疑おうぜ・・・?『なんで記憶喪失なのに名前覚えてるの?』とかさ・・・。しかもなんで好きな料理聞いただけで怪しくないって・・・。」

「え〜だって、スペアリブが好きな人に悪い人なんていないよ〜。」

あっけらかんと答えるナツヤを見て、オレは思わず苦笑いをこぼす。

「そういうもん・・・?」

「うん!」

「・・・・・・・・・・。」

「何?ホントはキミ、悪い人なの?」

「いや、違うけど・・・・・。」

「でしょ?」

「・・・・・はい。」

ダメだ。すっかりあの変人のペースに巻き込まれてしまった。
しかし、この短時間で色々あってこちらまで頭がおかしくなりそうだったが、どうやらオレへの疑いは晴れたようだ。『終わり良ければ全てよし』といったところだろうか。本当によくわからないが。

そして、オレの脳内の『納得のいかないことリスト』には、新たにスペアリブが加わったのだった。