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二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【文スト】夢から醒める ( No.12 )
- 日時: 2017/05/12 05:40
- 名前: 哀歌 (ID: eH6OJcrU)
幼い頃の記憶なんて、正直いい事はなかった。
初めて会ったときに優しく包み込んでくれた太宰は、今はもう何処にもいない。
それでもあの日俺が太宰に抱いたこの気持ちは、今も変わらないのかもしれない。
いくら嫌いだと毒を吐いても、結局は太宰を目で追いかけてしまう。
ムカつくのに。嫌いなはずなのに。太宰は、俺を見てはくれないのに。
「この世界は、美しく、酷く醜いね」
いつの日か太宰が呟いていた言葉。
誰に言ったのかもわからず、ただその言葉は隣にいた俺にしか聞こえていなかったようで。
それに気づいた太宰がこちらを振り返って、あの日のような柔らかな笑みを浮かべて言った。
「美しく見えるのに、裏側は真っ黒焦げだ」
子供のように無邪気に笑う。
俺はそんな太宰が嫌いではなかった。
この時だけは、太宰は俺だけを見ていて、俺だけの空間なような気がして、心地がよかった。
「そうか」
俺は決まって一言そう言うだけだ。
ただそれだけで、俺たちの会話は終わって、いつもの様に嫌い合う相棒同士に戻る。
俺が太宰に抱いているこの気持ちはなんだろうか。
今もわからない。わかりたくない。
きっと知ってしまったら、この淡い幼い日の記憶は、壊れてしまう。
俺は失いたくない、あの日の記憶を。
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