二次創作小説(紙ほか)

Re: 【終わりのセラフ】鮮血の吸血鬼 ( No.2 )
日時: 2017/05/29 19:11
名前: 結縁 ◆2EdfAALurA (ID: xEKpdEI2)

第零話

ずっと疑問にすら思わなかった。
一人、鎖に繋がれ幽閉されても。

それが私にとっての普通だった。

だからあの日も、兄であるフェリドの言うままに血を飲んだ。
生きるために、渇きを潤すために……それが誰の血かも知らずに口にしていた。



その日は兄の機嫌がやけに良くて、不思議に思っていた。
けど、鎖に繋がれた私に理由を知る術はなくて、気にはしてもどうすることも出来なかった。

静かで暗い一室で、ぼんやりと過ごしていると、不意に兄の声と悲鳴じみた声が聞こえた。
次いで鼻腔を擽る甘ったるい香りも。

どうしても香りが気になって、私は初めて鎖に手を掛けた。
そして、勢いよく床に叩きつける。叩きつけた腕は痛んだけど、想像よりもずっと簡単に鎖は外れた。

手足両方の自由を確認してから、香りの方へと近付いて——



見てしまった、沢山の人間が倒れているのを。
兄がその中心で笑ってるのを、そして、香りの持ち主は血だらけで倒れて——
やがて子供が一人、兄を銃で撃ち抜いた。そして叫びながら、扉へ向かって走っていく。

その後ろ姿を眺めていると、クルル様が現れた。
そして甘い香りのする子供の元に近付いて……その子を助けた。

その様子を見た瞬間、これまで感じたことのなかった、ズキズキとした痛みが胸を貫いて。

気が付いたら逃げ出していた。
ここじゃない場所、扉の向こうへと。



外へと出て、数時間が経った。
宛もなく歩いていたけど、空腹の体にはそれが堪えて、徐々に四肢が重くなってくる。

「う、あ……」

気を抜けば立ち止まってしまいそうな足を動かして、少しでも遠くへ行きたくて。
そんな最中だった。

「見つけた、お前が例の吸血鬼だな?」

現れたのは軍服を着た若い男だった。
吸血鬼ではない。……人間の男だった。
男を見て、喉が焼けるみたいに渇くのが分かった。

「うう、あ、やだ、飲みたくない」

そう思うのに、意思に反して空腹な体は、血を求める。
醜い吸血鬼の証だった。

「……お前、吸血鬼が憎いか?」

男がどういう意図からそう言ったのかは分からない。
だけど、思い浮かんだのは……フェリドの顔だった。

「いい顔だ。俺について来い、お前を強くしてやる」

この出会いが全ての始まりだった。