二次創作小説(紙ほか)

Re: 東方の小説 ( No.1 )
日時: 2017/07/23 12:46
名前: 無記名 (ID: .Gl5yjBY)




いつもと変わらぬ朝、一人の少女が目を覚ます。
小さな欠伸を一つ、大きな背伸びをしながら布団から気怠そうに起き上がる。
少女は寝間着を脱ぎ、胸にサラシを巻き付け、緑を中心とする服に着替えた。

障子を開けると柔らかく、冷たい風が少女の頬を撫でた。

いつもと変わらぬ一日が始まろうとした時、その視界の一角にイレギュラーな物が映った。
体をどっぺり血で濡らした巨体の白い狐が雪で埋もれかけているのである。

少女は目を見開いた。
その光景は、少女の眠気を吹き飛ばすには十分すぎる効果があった。
少女はその赤と白のコントラストが生み出す惨状を見て、思わず口を手で覆った。
慌てふためき右往左往する少女の背後から、桜色の髪の女性が現れた。
その女性は、ナイフのように鋭い眼光を瀕死の狐に向けていた。
しばらくの静寂の後、その女性は一つ呟いた。

「見ているんでしょう、紫。」

そういった刹那、少女と女性の間の空間が裂けた。
空間の裂け目から微笑みを浮かべながら、一人の女性が縁側に降り立った。
微笑みを浮かべていたのも束の間、紫と呼ばれた女性は突如として真剣な表情になる。
そして溜息交じりに一言、

「どうしましょうかね、この狐さん。」

手を口に当てながら対象を静かに睨む紫と呼ばれた女性。
その横の少女も事態が大事であると気づき、真剣な表情となった。
そして喉から絞り出したように呟いた。

「私はどんな命であっても見捨てる事はできません。」

すると桜色の髪の女性は柔和な表情となり、ポツリと呟いた

「私も見殺しは嫌いよ」

そう言うなり紫と呼ばれた女性は手をポンと叩き、血まみれの狐に手を伸ばしその狐の下の空間に穴を開けた。

すると刹那、狐が蟻地獄に落ちるが如くズブズブと穴に落ちて行っている。
完全に狐が穴に入ったところで、紫と呼ばれた女性は穴を閉じた。

Re: 東方の小説 ( No.2 )
日時: 2017/07/23 12:47
名前: 無記名 (ID: .Gl5yjBY)

後悔、無念、悔恨 、悵恨。
ありとあらゆる悔いの念が狐の脳内で怨嗟する。
何故無謀な戦いを挑んだのか、
何故勝てないと解っていて挑んだのか、
何故殺されると解っていて挑んだのか、

何故、何故、何故——

考える内に糸が切れた人形の如く思考がプッツリと切れてしまった。
幻の中で、己の愚かさを噛み締め、己の無謀さに腹を立てた。

刹那、覚めるはずの無い眠りが覚めた。

狐は、達磨が起きるかの如く物勢いで体を起こした。
そして、額を押さえた。

何かと衝突したのである。

涙ぐむ目を見開いてみると、眼前に、銀髪の少女が額を押さえて悶絶していた。
狐は目の前で起こっている現状を呑み込めずにいた。
見知らぬ部屋、見知らぬ少女、何故自分が生きているのか、
狐の思考回路を滅茶苦茶にするには十分過ぎる材料であった。
そして最大の謎は、自分が人の形をしているという事。
頭上にクエスチョンマークが浮かんでもいい程の混乱である。
その狐であった「男」は痛みで悶絶している少女に尋ねてみる事にした。

「小娘、聞きたい事が山ほどある。」

男は額を押さえながら少女に尋ねた。
刹那、男の隣の空間が、障子を破るかのように裂けた。
その裂けた空間から、金髪の美女が身を乗り出して微笑みながらこちらを見ている。
あまりにも予測がつかない事態であったため男は脱兎のごとく身構えた。
すると、美女が呆気にとられた顔になって男に言った。

「戦う気はないのよ、寧ろ助けてあげたんだから感謝して欲しいわね。」

呆気に取られていたのは男にも言える事であった。
酷く混乱していると、部屋の隅に縮こまっていた少女が口を開いた。

「白玉楼の庭にあなたが血まみれで倒れていて、紫様がここに運びました。」

すると男は何かを思い出したかのように目を見開いた。

Re: 東方の小説 ( No.3 )
日時: 2017/07/23 17:24
名前: 無記名 (ID: .Gl5yjBY)

「何か思い出したかしら。」

と、問われるや否や男が狂ったように慟哭する。
男は狐の姿に戻り、外に飛び出そうとした。
しかし、全身から血が噴き出し地に落下した。
それでもぼろ雑巾のようになっても部屋から出ていこうとする狐。
それを見ていられない少女が狐のもとに駆け寄り、満身創痍の狐に抱き着いて止めようとした。
狐は少女を払いのけようとしたが、腕を動かす気力もなくその場に突っ伏した。
それを宥める様に紫と呼ばれた人物が言い聞かせた。

「貴方の気持ちも良く解るわ、でも貴方が死ぬ理由にはならないんじゃなくて?」

狐は咳交じりに叫んだ。

「煩い、死んでもやらなくてはならない事だ。私は——」

静寂がこの部屋に満ちる、狐が言おうとした言葉が途切れて。










「目覚めました?」

少女が目を半分開いた狐に問いかける。
そしてまた目を閉じる狐だった「男」
その様子を見て少女はムスッとした表情となり、再度男を目覚めさせようと男に言葉を投げかける。

「狸寝入りは駄目ですよ、体を起こして下さい」

やれやれといった雰囲気で男が布団から起き上がる。
男は体に一つ異常があることに気づいた。

(なぜ体の傷が癒えている)

そしてその疑問を少女にぶつけた。

「小娘、何故私の傷が癒えているんだ」

少女はきょとんとした表情で答えた。

「紫様ですよ、紫様が自然治癒の境界を曖昧にして治したんです。」

男は「紫」という名に心当たりがあった。実際には目にしたことがないが強大な妖怪だと耳にした事が在った。

「小娘、その「紫」という者は八雲という苗字ではなかったか?」

刹那、また男の隣で空間が障子の如く裂け、「紫」が現れた。
そして満面の笑みを浮かべ言った。

「御名答、私が八雲 紫よ」

男の顔が病人のように真っ青になり、凄まじい勢いで少女の後ろへと隠れた。
この二人の関係が掴めず、困惑する少女。

Re: 東方の小説 ( No.4 )
日時: 2017/07/23 17:59
名前: 無記名 (ID: .Gl5yjBY)

少女が、この二人の関係について尋ねた。

「お二人共何か縁があるのですか?」

紫は静かに頷いた。男は以前震えている。
半分笑いながら紫は言葉を紡ぐ。

「この狐さんは私と以前敵対関係でね、私が打ち負かせて以来全狐妖怪を配下に置いたのよ。」

大昔の話だけど、と紫は付け加えた。
なるほど、といったように頷く少女。
すると、紫は男に向かって言い放った。

「聞きなさい、稲荷の巴。貴方は今其処ら辺の雑魚妖怪共と同じ程度の妖力になっているわ。理由は簡単、貴方の妖力がこの幻想郷に飛び散った。」

嘘のようだが、紫が言うと絵空事も事実に聞こえる。
男は信じられないような眼をして問う。

「八雲よ、その話が誠であれば私の妖力を戻す条件を教えて欲しい」

紫は目を閉じながら理由は簡単よ、と説明する。

「貴方が無意識に幻想郷の結界を破り侵入した時に、貴方の妖力が何故かは私にも解らないけど個体となり幻想郷各地に飛散した。それを集めなおせばあなたの妖力は元に戻るはず」

置いてけぼりな少女を尻目に巴は腰を上げ、己の妖力を戻さんと外へ出ようとした。
だが紫はそれを制した。
何故止めるといわんばかりの目を送る巴。
紫は溜息交じりに呟いた。

「貴方は今妖力がゼロに等しい状態なの、そこら辺の妖怪に取って食われると私が迷惑なの」

静かに項垂れる巴、間髪入れずに少女が声を上げた。

「それなら私が随伴すれば宜しいのでは無いでしょうか」

紫様の知り合いみたいですし、と一言。
納得したように頷いた紫。
不本意そうだが巴はそれを受け入れた。

Re: 東方の小説 ( No.5 )
日時: 2017/07/23 21:21
名前: 無記名 (ID: .Gl5yjBY)

先ずはこの幻想郷を守る博麗の巫女のところに行って来なさい、と言われ少女と共に屋敷から出発した。
辺りは一面の銀世界。
その景色と同化するような色の髪を持つ少女の名をまだ聞いていなかった。

「小娘、名は?」

風船のように頬を膨らませ、不機嫌そうに少女は言い放った。

「魂魄 妖夢です、小娘と呼ばないで下さい。」

結構生きてますよと膨れっ面で付け足した。
そうこうやり取りをしている内に人里が見えた。
休憩していきますか、と妖夢が一言。
頷く巴。
 




銀髪の二人が茶屋で一服をしている。
その様子は天狐と半身半霊といった異色の組み合わせなのだが。
夢中で餡蜜を口にする妖夢、こう見ると年頃の少女なのだが聞くに其処らの老人より長く生きているらしい。
人は見かけによらず、とはこの事だなと巴はしみじみ思った。





空から小雪が舞い散り、いたずらのように辺りを白くしている。
神社が見えてきた頃、疑惑が頭の中に暗雲みたいに広がる。
博麗の巫女がどのような人物か想像が全くつかないからだ。
色々考えている内に神社へ着いてしまった。
造次顛沛とはこの事である。
妖夢が慣れた感じで境内を歩いて行く。
そして巴は目にした物は巴の常識を覆すものだった。
巫女を見ただけならまだ良い、巴が見たものはただの巫女ではなかった。
脇が開いている巫女装束に巴は驚愕したのだ。
巴は思わず言い放った。

「お前、痴女か?」

巫女は一瞬呆けた顔をしたが、火が出るような顔色になり、巴を殴った。
巴は水切りの石の如く飛んで行った。
あまりにも一瞬の出来事で呆然としている半身半霊。
拳を握りしめ怒る巫女。
境内に転がる天狐。
あまりにも混沌とした風景だった。

Re: 東方の小説 ( No.6 )
日時: 2017/07/24 22:42
名前: 無記名 (ID: .Gl5yjBY)

呆気に取られていた妖夢が我に返る。
そして阿修羅の如く怒る巫女を宥める

「霊夢さん、ストップです。この人も悪気があってあのような発言をした訳じゃないと思います」

どちらにしろ最低ですが、と付け足す。
まだ不機嫌な巫女が妖夢に尋ねた。

「何なのあの銀髪は、見たところ妖力は少ないし害も無さそうだけど。」

その発言の直後、地面に転がったまま巴は寛大に言い放った。

「我こそは御先稲荷を先導する者、妖怪共の最上位を担う一角にあたる存在、天狐だ。」

軽蔑する眼差しを絶えず送り続ける巫女と妖夢。
服に付着した土埃をはたきながら起き上がる巴。
疑惑の視線を浴びた巴は疑惑を払拭するべく元の体に変身しようとしたが、どうにも変身出来ない。
弱った顔で告げる。

「今は妖力が無に等しいから元の姿に戻れない、疑われても仕様がないな」

やれやれといった感じで首を振った。
巫女の方にどのような経緯でこの神社へ来たか、理由を全て話した。
大体理由は分かったわ、と一言。
すると巫女が自室から石のような物を持ってきた。

「この石、空から降ってきたみたいなんだけど何か関係あるかしら」

巴の前にその石を出した刹那、石が崩れ、礫となって巴の体へ入っていった。
おっかなびっくりその様子をまじまじと見つめる少女二人。礫が巴の体内に入る様子は、何ともグロテスクで巴の方も若干痛みがあるのか顔を歪ませた。
石が完全に巴の体内へ吸収されると、巫女がすぐさま身構えた。
巴が狐の姿に変身したのである。雪のような毛を風に煽られながら己の手をジッと見つめた。

「戻った妖力は本来の一割といった所か、探すのもかなり骨が折れそうだ」

さて、といった面持ちで巴は巫女の方を向くと、巫女は地面を蹴り矢の如くこちらへ突進してきた。
巫女は札を巴へ投げつけ、早口で術か何かを唱えた。
閃光一閃。
巴の体の周りを光が覆った。直後、間髪入れずに迅雷の如き速さでリズミカルに蹴りを叩き込む。
止めと言わんばかりに先程とは比べ物に成らない位の夥しい数の札を巴の四方に展開した。
「夢想封印」と叫ばれた刹那、周りの木々が倒れ、境内の敷石が数枚吹き飛んだ。
巫女は肩で息をしているといわんばかりに消耗していた。
砂埃が視界を遮り、巴の姿を把握出来ない。
刹那、視界が一瞬にして晴れ、巫女は信じがたい光景を目撃した。
あれ程の連撃を浴びせたはずの標的が欠伸をしているのである。
呆然とする巫女に巴は言葉を投げかけた。

「中々悪くない蹴りだった、意識していなかったら少し効いたかもな」

そして丸太の如き手を呆然とする巫女へと向ける。
本能で悟ったのか巫女は勝てないと理解し、成すが儘にその場へとへたり込んだ。
恐怖と諦めの表情を浮かべながら只管に巴の方を見つめる。
巴が掌を巫女に向かって突き出すと、糸が切れたように巫女が地面へと倒れこんだ。

Re: 東方の小説 ( No.7 )
日時: 2017/07/25 22:47
名前: 無記名 (ID: .Gl5yjBY)

その始終を見ていた妖夢が慌てたように巫女の元へ駆け寄った。
そして巴へ問いかける。

「何をしたんですか?」

疑問の表情を浮かべながら、巫女の状態を確認する。
すると鳩が豆鉄砲を食ったように妖夢は驚いた。
この巫女は、ただ眠っているだけ。
安らかに寝息を立ててだらしない格好で寝ている。
何故か得意顔で巴が一言。

「安心しろ、我が神通力で眠らせただけだ。命に別状はなかろうて」

それに話が通じる状況では無かったからな、と付け加えた。
呆れ顔の妖夢が寝息を立てる巫女を神社へと運んだ。





暫くして、巫女が目を覚ます。
顔見知りの天井、嗅ぎなれた自室の匂い。
ただ一つ違うことは、銀髪二人が顔を覗かせている事である。
巫女が観念したかのように言い放った。

「完敗よ、私の負け」

布団から気怠そうに起き上がり、巴の方へと顔を向ける。
そして巴は巫女へと言葉を投げかけた。

「私は善狐の身、危害は加えん。」

カラカラと笑いながら告げる。
巫女は納得したように頷いた。
一件落着した所で巫女は巴に石が飛来した時刻、大雑把だが石が飛び散った方角、恐らくだが巴がこの世界に入った時に生じた「歪み」が幻想郷に悪影響を及ぼしていると告げられた。
礼と共に溜息をついて暗い声で呟いた。

「天狐が障害を齎すとは、示しがつかん」

と、かなりがっかりしている様子だ。
心配要らないわ、と巫女が一言。
どうやら巴がこの世界へと侵入した時に生じたズレは既に修正済みという事。
飛散した石は、強い妖力へと引き付けられていると告げられた。
確証は無いけどね、と付け加えられたが。

「この辺で言えば紅魔館って所が臭いわね、多分石もそこに落ちてるわ」

巴は短く礼を言うと告げられた方角へと飛び立った。背中に妖夢を乗せて。