二次創作小説(紙ほか)

Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.118 )
日時: 2018/03/08 20:21
名前: テール (ID: LAu9zylb)

テオドールの呼びかけに答えるように、
足音が騎士団の下に近寄り、明かりに照らされ、顔が見える。


「ふん、まだ生き残ってる奴がいたのか」

現れたのは、汚らしい服を着る数人の男だった。
男たちの身体にはべっとりと返り血が付着していて、
黒く変色していることから、しばらく時間が経っていることがよくわかる。
アルトは一目で山賊だとわかった。

「あなたたち、一体何者ですか?」

テオドールは一応聞いてみる。
男たちは予想通りの返事をした。

「俺たちは山賊だ、
 バールの野郎が騎士団に捕まっちまったもんで、
 この辺で旅人を殺して食い物を奪ってんだよ」

ラーマは、わずかだが眉を動かした。
しかし、動きが小さく、誰もそのことには気が付いていない。

「・・・・先ほど、生き残りがいる、とおっしゃいましたね。
 チルタリスの集落を襲ったのも、あなたがたですか?」

テオドールは、冷静に・・・とにかく冷静に尋ねた。
山賊たちはそれを聞くと腹を抱えて笑い出した。

「当然じゃねえか!あいつらこっちが優しくしてやってんのに抵抗してきやがったんだ
 だから力の差を思い知らせてやったんだぜ!」

ふと、笑っていた山賊がニナを見る。

「おう、お前生きてたのか。」
「・・・・な、なんです?」
「いや、てめえの父親と母親が一番に抵抗してきてな、
 お前を庇いながら俺たちに歯向かってきたんだぜ」

ニナはそれを聞くと、拳を握りしめ、額から冷や汗を流す。

「どっ・・・どういうことです?」

聞かずにはいられなかった。

「てめえみてえな綺麗なガキはアバルで高く売れるからよ、
 俺たちが「そいつをよこせ!」つったら断ったから、
 てめえの父親をこの斧で脳天からカチ割ってやったんだよ」
「なっ・・・!?」
「なんてことをっ!!」
「・・・・!!」

テオドールが驚き、ルーネは拳を握りしめて怒りを露わにする。
ラーマは腕を組んで話を聞いていたが、眉間にしわを寄せていた。

「てめえの母親を斬った時はおもしれえ反応をしてやがったなぁ
 お前を庇いながら叫び声を上げて・・・・」

ニナは、話を聞くたびに自身に起きたことがフラッシュバックした。




必死に抵抗した父は山賊に脳天を斬られ、血を流しながら倒れた。
母はニナを抱いて逃げようとしたが転んでしまい、山賊に追いつかれてしまった。
ニナを守ろうと必死で、ニナを痛みを感じるほどぎゅっと抱きしめていた。

だんだん冷たくなってくる母親の顔が、脳裏に蘇る。




「そろそろくせえ口を閉じろ」

そこへラーマが山賊に歩み寄った。

「あ?」
「聴こえなかったか、くせえ口閉じろつってんだ下衆が」

アルトとエルドゥは、ラーマが出す気迫に驚いた。

「ラーマ、落ち着いてください!」
「そうよ、ここは」
「うるせえ、黙れ」

ラーマは振り向かずに静かに答えた。
怒声交じりの声は、いつもの穏やかなものとはかけ離れていた。


「ラーマ」
「すみません、殿下・・・・止めないでください。」

テオドールがラーマに呼びかけるが、やはり振り向かずに答えた。


「な、なんだよこいつ!」
「俺たちとやるってのか!?」
「うるせえよ・・・・他人の命をなんだと思ってやがんだ!!」

山賊が口を開いたのを合図に、ラーマは武器を持って山賊に飛びかかった。
























山賊たちは全員、ラーマに討伐された。
騎士団たちは、静寂を保っていたが、
ラーマが治療を受け始めてしばらくすると、また少し賑やかになった。

リースは、あちこち怪我をしたラーマを治療しながら尋ねる。

「ラーマ、なぜあのような真似を・・・
 統率のとれてない山賊だったからどうにかなったものの・・・
 もし頭領が相手だったらこの程度ではすまなかったですよ」
「・・・・」

ラーマは黙って腕に包帯を巻かれている。
リースは続ける。

「あなたは、過去に何かあったのですか?」
「・・・・言う義理は」
「ありますよ」

ラーマはリースの答えにはっとして顔を見る。

「私たちは仲間じゃないですか。
 互いの過去を分かち合って、互いを知る。
 でなきゃ共に戦うなどできない。」

ラーマはため息交じりに返事した。

「・・・・実は、俺、戦争で故郷を失くしたんだ」

リースは黙ってラーマの話に耳を傾ける。



「俺は王国に召喚されて騎士になった。
 それがちょうど14年くらい前かな。
 だけど4年後、戦争は突如休戦して、俺は帰ることができた。
 ・・・・帰ったら家が村ごとなくなっちまってな・・・。」
「なるほど。
 それで集落を燃やした山賊を許せなくなったのですね。
 ところで、あなたはニナを見るたびに
 なんだか落ち着きがなくなっているように見受けられますが・・・」

リースがそう聞くとラーマはすかさず答える。

「あいつ、妹にそっくりでな。
 瓜二つじゃないかってくらい。」
「そういうことですか。」

リースは真剣な顔でラーマの答えに頷いた。













「ニナ、大丈夫ですか?」

コハクは山賊の話を聞いた直後からうつむいているニナに声をかける。

「・・・・だ、だいじょうぶ。」
「全然大丈夫じゃないですよニナ!何があったんですか?」

ニナは顔を見せずに答える。

「ニナ・・・何も悪いことはしてないのです。
 ママの言う事を聞いて嫌いなお野菜も食べたのです。
 パパの言う事を聞いて竪琴の練習もいっぱいしたのです。
 歌の練習もしたのです、ほめられるようにいっぱい頑張ったです。

 でも・・・でも・・・・」

ニナはコハクの顔を見た。
ニナは涙で顔を濡らして、くしゃくしゃであった。

「パパもママも死んじゃったのです・・・・
 ニナは・・・・ニナはこれから、どうすればいいのですか・・・?
 ニナ、ひとりぼっちです、パパも、ママも・・・・」

コハクはニナをそっと抱き寄せて、黙ってニナの頭をなでる。
ニナはコハクの胸で大声をあげて泣き出した。

Re: ポケタリアクロニクル-聖戦の伝承- ( No.119 )
日時: 2018/03/08 20:49
名前: テール (ID: LAu9zylb)


明くる朝、コハクがテオドールの前に現れる。

「殿下、ニナはどうされるんですか?」
「一旦、首都へ戻り、閣下に保護してもらおうと思う。」

そこへラーマが現れた。

「殿下、私に任せてはもらえないでしょうか?」
「ラーマに?」

ラーマの申し出にテオドールが驚いた。
ラーマは続ける。

「あの子、ニナは、私と同じ理不尽な形で全てを失ってしまいました。
 私はいい、手を差し伸べてくれる人がいたから・・・・
 しかしあの子は違う。もう、手を差し伸べてくれる人がいないんです。
 だからこそ、あの子が一人で生きていけるようになるまで、
 俺が・・・・あいや!私が!」
「・・・・僕からもお願いします、殿下。」

そこへアルトが現れた。

「仮に首都へニナを送っても、彼女のためになるといえるでしょうか?
 閣下は現在多忙の身・・・そんな中にニナを送っても、
 ニナが振り回されるだけだと僕は思います。」
「私もアルトに賛成です。」

そこへエルドゥもアルトに賛同する。
エルドゥに便乗して、騎士団の皆がアルトの意見に賛同し始めた。
テオドールは、ため息をついて力なく笑った。

「わかりました、皆さんのご意見に則って、ニナの保護及び、ニナを騎士団の一員として加えます。」
「あ、ありがとうございます、殿下!」














かくして、滅びたチルタリス族の集落の生き残り・・・ニナを騎士団に加え、
騎士団はフェティエ山脈へと一歩踏み出した。
ニナは戦うことはできないが、楽器と歌声を使い、騎士団を支援することができた。



「ニナ、あなたの歌声、聞いてみたいです。」

コハクがニナに願い出た。
ニナは顔を赤らめて聞き返した。

「ニナの歌ですか!?」
「ええ、チルタリス族の歌声って、透き通って綺麗だって
 文献に書いてありましたから!」

コハクがニナに詰め寄って目を輝かせる。
ニナは少したじろいだが、竪琴を取り出して、ピンっと音を出す。

「じゃ、ニナの十八番を聞かせてあげるのです。」



ニナは演奏を始め、歌声を披露した。







「ところでアルト、一つ気になっていたが」
「どうしたんですか、ラーマ?」

ラーマがアルトに尋ねる。

「なんでチルタリス族って名前が長いんだ?」
「うーん、チルタリス族の集落の初代村長である
 フォーアシュピール・アルトパルランテが」
「すでに長いな」
「いえ、そうなんですけどっ・・・・
 とりあえず、初代村長は、
 「面白いから生まれてくる子供は全員名前を長くすること」って言ったのが発端らしいです。」

アルトの説明にラーマは呆れ果てる。

「結構軽い人だったんだな・・・一体どんな人物だったんだか・・・・」